緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第十五章・『湯煙の休憩者』 貧しいの 富めるの (配点:お風呂)~

 タオルを浴槽の端に置き、肩までお湯に浸かると口からなんとも言えない声が出る。

「寒い日はやっぱお風呂よねー」

 そう隣に居るミトツダイラに訊くと彼女は頷く。

 筒井城には大浴場があり、木製のタイルで覆われた浴場には白い湯気が充満している。

 この大浴場は輝夜たち永遠亭のメンバーが使う湯であるらしく、前に一度だけ使わせてもらった。

今日は明日からの戦いに向けてという事で輝夜に頼み、みんなで入る事にしたのだ。

「それにしても、こんな大浴場を作ってるなんてね」

「ふふ、羨ましいでしょう? これ作ったのてゐなのよ」

 反対側でお湯に浸かっている輝夜がそう自慢げに言うと彼女の横のてゐが親指を立てた。

「男子禁制の乙女の湯。普通は入れないんだから感謝しなさい?」

「へーへー、輝夜さんは、太っ腹っすねー」

「………なんだかこの湯にふさわしくない奴が居るようね」

 うつ伏せに湯に浸かっている妹紅を睨むとミトツダイラが慌てて間に入る。

「この湯、いい香りがしますわね」

「ただの湯じゃないのよ? 永琳が美容健康に良いように薬を混ぜているらしいわ」

 どうりで。

 前もこの湯を使った後、体の調子が良かったのだ。

今ここに居るのは輝夜とてゐ、妹紅とミトツダイラと自分とそして……。

「あれ、大丈夫なの?」

 指差す方には湯に浸かってご満悦状態のアマテラスがおり、時折鼻を鳴らしている。

「まあ……見た目は犬だけど、天照大神だし。ご利益有りそうだし……」

「入る前に私が洗いましたから汚くは無いはずですわ」

 まあ、それなら良いか。

 そう思い、浴槽の端に凭れる。

 それから湯面に浮かぶ自分の青い髪を指で弄りながら浴場の入り口を見た。

「衣玖たちはまだだっけ?」

「Jud.、 雑務が終わり次第来るそうですわ」

 「うい」とミトツダイラに返事をすると彼女を見る。

 ミトツダイラは銀の大ボリュームの髪を湯に浮かばせ、ほんのり頬を上気させている。

 髪から垂れた水滴が頬を伝わり、顎から落ちる。

━━うーん、私より少しあるかなぁ……。

 今度は妹紅を見る。

彼女も所謂“無い方”の人間だがやはり自分より大きいような気がする。

 それでてゐだが、彼女と競うのは何か負けな気がするのでパス。

 最後に輝夜だが……。

「意外と良い体つきしてるわねえ」

「天子、何か親父臭いですわよ………その言い方」

 輝夜は巨乳と言うわけではないが出るところは出ているし、何よりプロポーションが良い。

 何と言うか全体的にバランスが取れているのだ。

「ふふ、世の男共から求められた私の美貌を甘く見ないことね。どっかのもんぺとは違うのよ」

「あ?」

 妹紅が振り返り眉を逆立てる。

「嘘吐いてるんじゃないわよ。世の男共って、たった五人じゃん」

「あら、嫉妬? 貴女みたいな女じゃ一生縁は無いわよねー。焼き鳥じゃなくて鳥かわじゃないの?」

「ぁあん?」

 妹紅が立ち上がり、輝夜も立ち上がる。

 二人が互いに胸を張り合いにらみ合うとてゐが半目になった。

「喧嘩するなら余所でやってくださいよー。迷惑ですからー」

 そう言われると二人は「ふん」と目を逸らし、元の場所に戻る。

 その様子を見ていたミトツダイラが小声で此方に話しかけてきた。

「なんだか、凄いですわね。この二人……」

「まあ、しょっちゅう殺しあってる仲らしいから……」

 互いに苦笑すると浴場の入り口が開く。

そして永琳、衣玖、メアリ、そして鈴仙と“曳馬”が入って来た。

「遅れて御免なさい。仕事が中々片付かなくて……って、なに? その目……」

「いやあ……上には上が居るんだなあと思ったのよ」

 そう言うと永琳達は首を傾げるのであった。

 

***

 

 点蔵・クロスユナイトは筒井城の廊下を歩いていた。

向かうのは大浴場。

 メアリから大浴場を使って女子会をすると聞き、自分はその警備のために来たのだ。

━━違うで御座るよー。決して自分は覗こうなんて思ってないで御座るよー。

 そうだ。

自分にはメアリがいる。

 不届き者が彼女に近づかないようにする為に来たのだ。

「まあ、風呂を覗こうなんて不届き者がいるはず……」

 更衣室の入り口近く。

そこに居た。

 布巾で顔を隠し、古典的な格好をした男が。

「…………何をしているで御座るか、長安殿」

「う、うむ。これはだな……えーっと……そう! 美! 美学の追求だ!!」

「Jud、jud.、 帰るで御座るよー」

 長安の首根っこを掴もうとすると彼は慌てて距離を取る。

「待ちたまえ! 正直に白状しよう……私は! 風呂を! 覗きに来た!!

だがそれの何が悪い! 女の子同士のお風呂イベント! コレを覗かずして何が男か!!

貴様にも分かるだろう!! 数々のエロゲーをこなして来たお前になら!!」

 そ、それは!!

 確かにエロゲーイベントとして風呂覗きは定番だ。

だが覗きがバレるのも定番だ。

 エロゲーならヒロインに叩かれたりするだけで済むが、現実は違う。

あの外道共にバレたらどうなるのか……考えるだけでも背筋が凍る。

「お前の気持ちも分かる。確かに怖いよなあ、自動人形に後ろから狙撃されたり巫女にズドンされるのは……。

だがそれでも私は行く! 男のプライドを賭け、一歩も引くつもりは無い!!」

「……長安殿」

 なんと、なんと愚かなのだ。

だが、なんだ、この体の奥底から来る衝動は……!

男としてこの衝動を抑える事が出来ようか? 否、無理だ!

「分かり申した。この点蔵、長安殿について行くで御座るよ!」

「点蔵殿!! では共に逝かん! 楽園へ!!」

 互いに熱い握手を交わし、大浴場への潜入作戦が始まった。

 

***

 

「いい湯ですねー」

 浴槽の中で体を伸ばし、そう声が漏れる。

「………ところで、なんで皆さんそんな端に?」

 首を傾げ先に入っていた天子達の方を見れば彼女達は浴槽の端で団子状になっており、此方を見ていた。

「いや、何か近づいたら巨乳がうつりそうだし」

「なんですか……それ?」

「こっちの話。で、“曳馬”さんも来たんだ。いや、別に来るなって意味じゃないわよ?

ただ自動人形もお風呂に入るんだなーって」

 そう天子が言うと“曳馬”が頷く。

「外で活動すれば自動人形とて汚れ、劣化していきますので洗浄は重要です。

普段はシャワーだけですが」

「へえ、じゃあ今日はどういう心境の変化?」

「先ほど廊下でメアリ様に会いまして、“一緒にお風呂でもどうですか?”と訊かれ“私は結構です”と答えたのですがメアリ様と会話を行っているうちにいつの間にか此処に来てました。

これは一体どういう事でしょうか?」

 首を傾げる“曳馬”に苦笑する。

 メアリ様と話しているとついつい彼女のペースに合わされてしまうのだ。

これが彼女の人徳と言うか魅力と言うか……。

「それで、どうかしら? 初めてのお風呂は?」

 永琳に訊かれ“曳馬”は何度か小さく頷くと両手でお湯を掬った。

「Jud.、 自動人形の判断としてこのように長時間湯に浸かるのは非効率的と判断しますが……それと同時に私には理解不能なデータが発生しています」

「それはきっと楽しいという感情ですよ」

 メアリの言葉に“曳馬”は小さく何度も「楽しい?」と呟く。

 自動人形の感情。

 人工的に生み出された彼女達には感情はあるのだろうか?

「そういえばホライゾン様は感情を取り戻すための戦いをしているのですよね?

自動人形にもやはり感情があるのですか?」

 そうミトツダイラに問うと表示枠が開いた。。

『ホライゾンは少々特殊な生い立ちのため、他の自動人形とは違いますので参考にはならないかと。では皆様良いお風呂タイムを』

 表示枠が閉じられると皆暫く沈黙する。

それから少し経つと天子が慌てて立ち上がった。

「え? あれ!? 繋がってんの!? ここ!?」

『あ、はい。どうせなら皆でという事でこっちは鈴さんの銭湯に集まってますよー。ちなみに男子禁制のプロテクトが掛かっていてプロテクトの解除を行おうとするとコカーンに雷落ちるように設定されています』

『だから玄関前でトーリが蹲ってたんさね……』

 「うわあ」と天子が半目になり座ると輝夜が表示枠に映る浅間を見る。

「えっと、浅間・智だっけ?」

『あ、はい。始めまして浅間神社所属の巫女、浅間・智です。

通信関係、走狗関係のお悩み事があるのならいつでもどうぞ。

今ならお安くしますよー』

『あ、ちょっとアサマチ! なに商人差し置いて商売してんのよ! いいもん! こっちはこっちで賞味期限ギリギリの食料を高値で筒井に売って儲けるから! ざまーみろ!!』

 浅間が笑みを浮かべたままハイディに近づいて表示枠が閉じられた。

「……向こうも楽しそうね」

「………ええ」

 皆、苦笑すると天子がこの場の全員を見渡す。

「まあ、こう女子が集まったわけだし何か話しましょう」

「なんかって?」

 妹紅に訊かれ天子は頷く。

「それはもう、女子が集まって話す事といえば……」

『エロ話よお━━━━!!』

 表示枠に狂人が現れ、天子が直ぐに表示枠をチョップで割った。

「それで話とは何ですか? 総領娘様」

「ああ、うん。女子が集まってする話し、それはズバリ! 恋バナよ!!」

 そう天子は親指を立てた。

 

***

 

 狭い天井裏を点蔵と長安は這っていた。

 大浴場の周辺を調べたところ天井裏に入れる場所を発見し、潜入したのだ。

━━ふ、ふ、忍者をなめてもらっては困るで御座るよ。

 それにしても……。

「熱いで御座るな………」

 床から湯気が昇ってくるため非常に蒸し暑い。

「耐えろ、耐えるのだ。同志よ!」

 隣に居る長安に頷くと前方に光りが見えた。

「あれは……穴か!!」

 二人は顔を見合わせ這う速度を上げる。

そして光りのところには二つの穴が開いていた。

「おお! これぞ天の導き! このようなところにちょうど良い覗き穴があるとは!」

「……妙では御座らんか? あからさま過ぎるというか何と言うか」

「気にしすぎだ! 同志点蔵よ! く! 湯気が邪魔でよく見えん!」

 必死に穴を覗き込む長安を見て急に自分のしている事がただの馬鹿なんじゃないかと思え始めてきた。

 や、やっぱり帰ろうか?

 よくよく考えたら自分の命と引き換えに彼女達の裸を見る価値はあるのだろうか?

━━自分、メアリ殿一筋で御座るからなあー。

 そう思っていると長安が「む!」と声を上げた。

「どうしたで御座るか?」

「声が……聞えた!!」

 長安が耳を床につけ始めたのだ、自分もそれに倣う。

 すると少し篭った声が聞えてきた。

 

***

 

 ミトツダイラは急に危険を感じた。

 その理由は天子の言葉だ。

彼女は今、恋バナと言った。

 なんだろう、そのもの凄く不吉な響きは。

きっと武蔵では今頃喜美が物凄く楽しそうな表情をしているだろう。

「ど、どうして急に?」

 そう訊くと天子は浴槽の中でうつ伏せになる。

「最近思うんだけど武蔵ってカップル率多いじゃん? そこらへんどうなのかなあ、って」

「ま、まあ確かに気がついたら増えてますわね……カップル」

 “曳馬”の横に居るメアリがそうだ。

他には第二特務とか書記とか西国無双とか、あと我が王も。

「そう言う貴女はどうなのかしら? 好きな人とかいないの?」

 永琳の言葉に慌てて自分も頷く。

すると天子は「うーん」と眉を顰めた。

「いないかなー。しいて言うなら………衣玖とか?」

「わ、私ですか?」

『来たか!!』

『ガっちゃん気持ちは分かるけど鼻血拭こう? お湯が汚れるから』

 現れた表示枠を消す。

「あのぉ……念のため訊きますが、天子って、その、そ、そっちなんですの?」

「そっち?」

「ウチの第三特務と第四特務みたいな」

『あ? 何よミトツダイラ、私に何か文句あんの? ネタにするわよ』

『そう言いながら物凄い勢いで手を動かしてるねガッちゃん!』

 もう一度表示枠を消す。

それから天子を見ると意味を理解したらしく彼女は頬を赤らめ慌てて首を横に振る。

「いや、そっちの意味じゃなくて! 衣玖がいると楽だし、その、頼りにしてるし……」

 最後の方は聞き取れないくらい声が小さくなっておりそのまま沈んで行った。

その様子に衣玖は苦笑し天子の横に座る。

「私も天子様の事好きですよ? 頼りにしてますよ」

 そう微笑む彼女とそっぽを向く天子に皆微笑むと天子が妹紅の方を見る。

「あ、あんたは?」

「んー? 私? 私はパス。そっちの自称世界中の男を手玉に取ったビッチ姫に聞いて」

「あ?」

 眉を逆立たせる輝夜を鈴仙が宥めると輝夜が鈴仙を見る。

「貴女は? 良く人里に行くけど、そういう話はないの?」

「わ、私ですか? そういった話は特に……」

「あの忍者とかどうよ?」

 てゐがそう悪戯っぽく笑うと鈴仙が呆れた顔で首を横に振る。

「あー……そこの英国王女には悪いけど、あれは無いわ。まじない」

「まあ、点蔵様は素敵な方ですよ?」

「えー? 例えば?」

 そう鈴仙に訊かれ、メアリは「そうですね」と目蓋を閉じる。

「私、寝るときは裸なんです。それでたまに寝ぼけて点蔵様の布団に入ってしまって、さらに抱きついてしまって……」

「「ほほう」」

『『ほほう』』

「それで私が完全に寝付いたら点蔵様が元の布団に戻してくれるんです」

 そう嬉しそうに言うメアリに対して皆は少し困惑の表情を浮かべた。

「え? それだけ?」

「? Jud.、 それだけですよ?」

 

***

 

・魚雷娘:『はい、断罪タイムです。皆さんどう思いますか? 私的にはギルティです』

・薬 師:『紳士的とも言えるけど……』

・てるよ:『へタレね!』

・月 兎:『その状況で手を出されないって、女として割とショックですよね』

 

***

 

 大浴場の天井裏で点蔵は汗を掻いていた。

 これは暑さからの汗ではない。

下の会話を聞き、出てきた冷や汗だ。

「……点蔵君」

「な、なんで御座るか!? その目は!?」

 

***

 

「まああの忍者がへタレなのは前から分かってたし……」

 そう頷くと皆も頷く。

それからミトツダイラが此方を見た。

「そういえば天子。前はこういった話しに疎かったのに、随分と詳しくなりましたわね?」

「ええ、伊勢以降衣玖に性教育受けたから」

・● 画:『また来たかあ!!』

・金マル:『今日は絶好調だね! ガッちゃん!!』

 衣玖が高速で表示枠を割るのを横目で見ながら少し頬を染める。

「私、あの時凄いこと聞いてたのね……」

「凄い事?」と輝夜が首を傾げると表示枠に二代が映る。

『伊勢の時に天子殿が聞いていたこと……ああ、セックスの事で御座るな!』

 その瞬間、輝夜が湯に突っ伏し鈴仙が顔を赤くし、永琳が白目を剥いた。

「わー! わー! この脳筋女!!」

『何を動揺しているで御座るか? セックスは良い事で御座るよ?

拙者も今朝、浅間神社の境内で宗茂殿とそれはもうとても充実したセックスを……どうしたで御座るか? 誾殿、そんな何も無いところで転んで……』

 二代の表示枠が閉じられ、後には顔を真っ赤にして息を切らした天子が残った。

「姫様、武蔵の性文化は進んでいるようで……」

「ええ、なんだか武蔵のイメージが魔境になってきたわ」

 そのイメージは割りと正しいので否定しない。

「で、そっちの薬師はどうなのかしら? 私たちの中では最年長でしょう?」

「あの薬の配合、どうしようかしら……」

 目が泳いでいるのでどうやらこの女もそう言うことには疎いらしい。

 あと残ったのはてゐと“曳馬”だが……。

「“曳馬”さんは?」

「恋という感覚を私は理解できませんが、よく私の記憶媒介に残っている男性ならいます」

「「おお!?」」

 皆が身を乗り出すと“曳馬”が頷く。

「その方は始めて会った時から人間的好感度が最下位でしたが。最近好感度が下限を突破するという不可解な事態が発生しました。

その為、どのようにすれば効率よく、また犯罪にならないように抹消できるか思考する毎日です」

「…………あの、なんとなーく誰か分かった気がしますが、一応お名前は?」

「大久保長安様ですが?」

 

***

 

「…………長安殿、体が震えているで御座るよ」

「ふ、ふ! コレは武者震いと言う奴だ。

だが、うん、ここに居るのは何か危険な気がするので撤収するとしよう」

 

***

 

━━いやあ、皆青春しているねえ。

 湯に浸かりながらそう因幡てゐは思う。

 意外とみんな青い。

姫様もそうだが師匠も結構初心な様だ。

━━自分はどうだったかなあー。

 昔は恋とかもしたような気がするがこう歳をとると興味が薄れる。

 今は今で充実しているし、それ以上を高望みする必要は無いだろう。

 そう一人で頷いていると、天井が僅かに軋んだような気がした。

「ん?」

 よく目を凝らすと僅かにだが天井の板が揺れている。

━━ほっほーう。

 これは面白い事になりそうだ。

「あー、そういえばさあ、此処作るときにちょっとした仕掛けをしたんだよねー」

「仕掛け?」と訊いてくる鈴仙に頷く。

「覗き魔逮捕用にさあ、わざと天井裏に入れるようにして覗き穴も用意したんだよねー。

そんで、その穴を覗きに来た間抜けな覗き魔が穴のある天井に乗るとどうなると思う」

「どうなるんですの?」

「こうなるの」

 そう笑みを浮かべ上を指差した瞬間、何かが浴槽の中心に落ちて来た。

 

***

 

 突然床が抜け風呂に叩きつけられた。

 突然の事に驚き湯の中でもがく。

それから浴槽の底に手を着くと立ち上がった。

「ふ、ふう。危なかった。危うく風呂で溺れ死ぬ事に…………」

 そこまで言って気がつく。

現在の自分の状況に。

 自分は浴槽の中心に落ちており周りには裸の美少女達が。

━━なんというラッキースケベイベント!!

 目の前にいた天子が「ふう」とゆっくりと息を吐くとタオルを取り、体に巻きつける。

それから此方の眼前で仁王立ちした。

「前も似たような事があった気がするのよねぇ」

「ええ、私も同じ事を思っていましたわ」

 ミトツダイラが笑みを浮かべながら立ち上がる。

それに続いて周りの皆が立ち上がった。

 皆一様に笑みを浮かべている。

だがその笑みには全く温かいものは無く……。

「皆様、長安様を袋叩きにする前に一応言い分を聞きましょう」

 「ではどうぞ」と“曳馬”に言われ頷くと、濡れた髪をかき上げた。

「おや、諸君風呂かい? 奇遇だね私もちょうど風呂に入ってて……ぶへぇえ!?」

 天子の回し蹴りが側頭部に入り、吹っ飛んだ。

 

***

 

 点蔵は天井裏から人が空中で何コンボ喰らう事が出来るのかを再び確認した。

 まず天子が長安に回し蹴りを入れた。

次に吹き飛んだ長安をミトツダイラがアッパーで打ち上げ、空中で衣玖の放った雷撃を喰らい妹紅の炎弾を喰らう。

そして鈴仙と輝夜が桶を彼の顔面と股間に投げつけ、落ちて来たところを永琳がアイアンクロー、最後に“曳馬”が二律空間から取り出した長銃で彼の股間を集中射撃し、ついでに彼の股間に雷が落ちた。

 コンボを喰らった後の彼はさながら海面に浮かぶ水死体のようであり、事の凄惨さが分かる。

━━危なかったで御座る……。

 咄嗟に逃げたのが正解だった。

 一秒でも遅れていたら自分も今頃ああなっていただろう。

 もう一度長安を見、彼に黙祷を捧げると天井裏から脱出した。

そしてもう二度と安易な覗きはすまいと心に誓うのであった。


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