緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第十六章・『黒鋼竜の御者』 天魔を統べる者 (配点:十二月二十二日)~

 日が昇ったばかりでまだほの暗い寝室で徳川家康は待っていた。

 彼の周辺には表示枠が幾つも浮いており、それらは各武将からの返答であった。

 何れも織田との対決に賛同するものであり、家康は一つ一つ目を通して行く。

━━あと一通。

 まだ伊勢の北畠家からの返答が無い。

 織田の使者との会談までまだ時間はあるが落ち着かない。

━━北畠家の協力は得れんか……。

 伊勢防衛のためには北畠家の協力は必要だ。

 ゆっくりと溜息を吐き、目蓋を閉じると着信を知らせる音が鳴る。

目蓋を開け、見れば一通の通信文が届いていた。

 その送信元は北畠家からであり、通信文を開く。

そして目を通すともう一度大きく溜息を吐き、立ち上がった。

「誰かおるか!」

「は!」

 襖が開き、小姓が現れる。

「我が具足を持てい! 皆にも戦の準備を伝えよ!!」

「……いよいよ」

「うむ、北畠家から返答はあった。

家中一致、我等は織田と決別する道を選ぶ!」

 そう宣言すると小姓が頭を下げ、慌てて退出した。

その様子を見届けると自分の胸に手を当てる。

 これで良かったのだろうか?

此処からの道は遠く険しい。

一体どれだけの血を流す事になるのか……。

「いや、流させん。その為にわしが居るのだ」

 胸に当てた拳を強く握り、小窓から見える日の光りを睨みつけた。

 

***

 

 午前八時。

 岡崎城の評定の間に再び織田と徳川の人間が集まっていた。

 徳川の家臣達は皆甲冑を着ており、その中心でエリーは「やれやれ」と言った表情を浮かべていた。

 皆が集まると上座にやはり甲冑を着た家康が現れ、座る。

「どうやらどうするか決まったようですね? まあ、答えは皆さんを見れば分かりますが」

 エリーの挑発気味な言い方に家康は頷く。

「我等徳川家、まことに残念あるが織田家の要求を呑むことは出来ん。

もし力ずくで我等を従わせようとするならば織田は多大なる出血を強いられるだろう。

そう信長殿に伝えよ」

 そう言い家康が刀を床に立てると家臣たちも一斉に刀を床に立てた。

 エリーはその様子を見ると大きく溜息を吐く。

そして立ち上がると冷たい視線を家康に送った。

「愚かな選択をしましたね。ええ、全く、愚かな……」

 そう呟きながらエリーは表示枠を開いた。

「交渉は決裂です」

『Shaja.、 それじゃあ始めようか』

 「なんだ」と家康が言おうとした瞬間、表示枠が開いた。

『敵襲!! 伊勢国境沿いに織田の軍勢が突如出現!! 織田軍が伊勢方面に侵攻を始めました!! ス、ステルス障壁です!!奴等、姿を隠して国境に布陣してました!! このままでは……至急援軍を!!』

「既に部隊を控えておったか!!」

 家康の言葉にエリーは口元に笑みを浮かべ、重心を僅かに前に移す。

 その様子を見た正純が慌てて立ち上がった。

「家康公!!」

 直後、エリーが踏みこんだ。

一気に家康との距離を詰め二律空間から奇妙な鎌を取り出すと振り下ろしてくる。

 家康とエリーの間に火花が散った。

「……忠勝。助かったぞ」

「殿、ここは拙者にお任せあれ」

 家康とエリーの間に本多忠勝が入り、彼は蜻蛉切でエリーの鎌を受け止めていた。

「あら、惜しかったですわ……ね!」

 鎌と槍が弾かれあい、その隙にエリーが後方へ跳躍する。

そして一度家康の方を見ると、出口へ駆け出した。

 それを忠勝が追い始めると酒井忠次が慌てて立ち上がる。

「全ての門を封鎖しろ! 奴を逃がすな!!

それから織田との国境沿いの部隊に報告だ!! 奴等は直ぐに来るぞ!!」

「康政、北畠具房殿に連絡を」

「御意!」

 忠次と康政が慌てて退出する。

「正純殿、武蔵を至急発進させてくれ」

「Jud.、 既に連絡済です。二十分後には岡崎上空に着陣できます」

 皆に指示を伝え終えると立ち上がる。

「わしは浜松に乗艦する! 全航空艦は発進準備をせよ!!」

「「は!」」

 家康の号令とともに皆が一斉に動き始めた。

 

***

 

 本多忠勝は評定所の入り口に繋がる廊下を駆け、逃げるエリーを追撃していた。

 前を走る赤服の少女は首を傾け、此方を見ると笑みを浮かべる。

そして入り口を塞いでいた兵たちを鎌で薙ぎ倒すと外に飛び出した。

 それを追いかけ外に出た瞬間、眼前に木の柱が迫っていた。

「!!」

 体の姿勢を低くし、飛来してくる木の柱の下を抜けると構える。

 敵は攻撃が外れたのを確認すると左手で遠くの櫓を掴むように動かした。

すると櫓が地面から引き抜かれ始め、櫓の上に居た見張りの兵士達が慌てて逃げ始める。

「これは……」

 櫓は空中に浮くとバラバラにされて行き、幾つもの木の柱となる。

「重力制御か!!」

「ええ! 伊達に夢幻館の門番をやっているわけではないのよ!!」

 エリーが手を振り下げると同時に柱の雨が降り注ぐ。

 それに対して駆け出した。

降り注ぐ柱の影を見、避けながら進む。

だが敵まで後一歩という所で避けられない一撃が来た。

 敵は柱を一本だけ水平に発射し、此方を狙ってくる。

━━避けれぬか!! ならば!!

 足を止め、蜻蛉切を構えた。

「我が道を切り拓け!! 蜻蛉切!!」

 柱と蜻蛉切の刃が激突する。

 衝撃に地面を踏み込んだからだが後ろへ下がるが、歯を食い縛り、耐える。

「……冗談でしょう!?」

 刃が進んだ。

 徐々に、だが確実に柱を蜻蛉切の刃が裂いて行く。

そしてついに乾いた音と共に柱が両断された。

 息を呑むエリーに対して忠勝は静かに息を吐く。

 そして忠勝が踏み込んだ。

 蜻蛉切を突き出し、エリーの胸を狙う。

それに対しエリーも鎌を振るい、両者の間に火花が散った。

 

***

 

━━この男! 本当に人間なのかしら!!

 忠勝が放つ高速の突きを避けながらエリーは内心舌打つ。

 ともかく動きの切れが尋常ではない。

 攻撃を弾いたと思えば次の攻撃が既に行われており、回避の際にも必ずカウンターを入れてくる。

━━流石は東国無双!

「だけど、これはどうかしら!?」

 手に持つ曲がった鎌を重力操作で力を送る。

曲がった鎌は柄の形を変え、忠勝を包むように変形した。

「これは!!」

 忠勝は咄嗟に石突で背後から迫ってくる鎌の刃を弾くとこちらと距離を離す。

敵を逃した鎌は再び形を変え、垂直にその身を伸ばした。

「……その鎌、妙だとは思ったが」

「ええ、この鎌は私の重力操作によって変幻自在に形を変えます。その重力操作を応用すれば……こういう事も出来ますよ!!」

 鎌を円形に変化させると投げつける。

 鎌は重力操作によって加速させ、高速で忠勝目掛けて襲い掛かる。

 忠勝はそれを避けるため、先ほど落ちて来た柱の間に入る。

 鎌が柱を両断して行き、次々と崩れて行く。

土埃が舞い、敵の姿が見えなくなると鎌を呼び戻し手に取ると様子を見る。

 ゆっくりと慎重に後ろへ下がると土埃の中から木の柱が飛来してきた。

「!!」

 慌てて重力操作で受け止める。

その瞬間、忠勝が現れた。

 彼は柱の下を潜りながら此方へ突撃を仕掛けてくる。

━━なんなの! この男!!

 蜻蛉切が突き出され、それを体を逸らして避けると木の柱を横に薙ぐ。

忠勝は跳躍を行うと木の柱の上に着地し、駆ける。

 直ぐに木の柱を射出し敵を吹き飛ばそうとするがそれよりも早く敵が飛んだ。

太陽を背に蜻蛉切が振り下ろされる。

 それを鎌で受け止めるが後ろへ大きく吹き飛ばされた。

 地面を踏み込み、吹き飛ぶ体にブレーキを掛け止めると額に浮かんだ汗を拭う。

━━思ったよりピンチじゃないかしら?

 このままこの男と戦うのは危険だ。

 早く迎えが来ないかと焦り始めると表示枠が開いた。

『エリー、お疲れ様。もう直ぐそっちに迎えが行くわ』

 表示枠に映る主、風見幽香に頷く。

「何方が来るので?」

『ふふ、“彼”よ。安土でじっとしていられなかったみたいね』

「……まさか!?」

 そういった瞬間、影が覆った。

 上空を見上げる。

 そこには一匹の黒き鋼の竜が落下を行っていた。

 

***

 

「護衛艦一番、二番、離陸完了! 当艦も離陸します!」

 護衛艦の艦橋で報告を受けた酒井忠次は頷く。

 艦橋に浮かぶ表示枠には忠勝と織田の使者の戦いが映されており忠勝が押しているのが分かる。

━━向こうは大丈夫そうか?

 忠勝を相手に逃げ切れるはずが無い。

だがもしかしたらという事もある。

 念のため上空からも包囲を行っておくべきだろう。

 そう思い、指示をしようとすると警報が鳴った。

「何事だ!?」

「清須方面より高速で接近する物体を確認! 望遠映像を出します!!」

 映像が映し出されるとそこには一機の黒い機体が映っていた。

それは六枚の翼を持つ鋼鉄の物体で、此方に目掛け真っ直ぐ突撃してくる。

━━織田の機鳳か?

 だがあんな形の機鳳は見た事が無い。

それに巨大だ。

 一般的な機鳳より遥かに大きく、その巨大さは重武神に匹敵、いやそれ以上かもしれない。

━━正体は分からないが……。

「攻撃可能な艦は迎撃を行え!! このタイミングでの襲来、間違いなく織田の新型機だろう!!」

「J、Jud!!」

 先に離陸した一番艦と二番艦が前進し、流体砲を未確認機に向ける。

そして二度の警告の後、流体砲撃を行った。

 それに対して未確認機は回避行動を取らず……。

「正面から来る気か!?」

 流体砲撃と未確認機が衝突する。

両者の間に閃光が走り、流体砲撃が切り裂かれ、そして砕けた。

━━なんだ!?

 敵は無傷だ。

 障壁を出した形跡も無いのに敵は此方の流体砲撃を受け止め、切り裂いた。

その光景に冷や汗を掻くのを感じ、直ぐに指示を出す。

「一番艦と二番艦を後退させろ!」

「て、敵が!!」

 部下の声に敵の方を見れば、敵は変形していた。

機体の両サイドが分離し巨大な腕となり、後部が展開され巨大な足となった。

体の各部を展開し、更にその姿を巨大化させて行くそれはまるで……。

━━竜!!

「機竜か!?」

 直後、機竜から閃光が放たれた。

閃光は一番艦と二番艦を水平に切り裂き砕く。

 二つの爆発が生じ、二隻の護衛艦が火達磨になりながら墜落して行く。

 その様子を見届けると機竜は再び加速した。

 六枚の翼型飛翔器を展開し、岡崎城から放たれる対空砲撃を容易く避けて行く。

そして漆黒の機竜は天守前の広場に落下した。

 

***

 

 突然の爆圧に大地が割れ、櫓や壁が吹き飛ぶ。

 土埃と爆風を受けながら蜻蛉切を杖にし片膝を着くと忠勝は落下してきた何かを見上げた。

「…………これは!」

 それは竜であった。

 漆黒の装甲を身に纏った鋼の竜は肩に二対の巨大な腕を、胴から二対の武神の腕を、計四本の腕を持ち、背には左右三基ずつの翼型飛翔器を持つ。

 そして竜の頭を模した頭部には六つの赤い瞳が輝いている。

━━鋼の竜……機竜という奴か!

 直ぐに後ろへ跳躍し、蜻蛉切を構えると天守から家康が現れる。

「殿! お下がりを!!」

 そう振り返ると家康はこちらを手で制す。

 彼はそのまま機竜の前に来ると六つの瞳と目を合わせた。

「…………お久しぶりですな。信長殿」

━━なんと!

 今信長と言ったか?

 この竜には織田信長が乗っているのか?

そう驚いていると機竜の中から篭った声が鳴り響いた。

『ほう……分かるか?』

「ええ、この様なことをするのは信長殿しかおりますまい」

 家康がそう言うと機竜━━信長は嬉しそうに喉を鳴らす。

『分かっていてなお、我が前に立つか?』

「道を退く必要が有りませんからな」

『クク……相変わらず豪胆な男よ』

「いえいえ、これでも震える足を抑えるので精一杯ですよ」

 家康が口元に笑みを浮かべ、機竜も僅かに笑みを浮かべたように見えた。

『我と共に歩むつもりはないか?』

「残念ながら。わしの道と信長殿の道は違いすぎますゆえ」

 そう伝えると家康が一歩下がる。

それと共に自分も下がり、家康の前に立った。

『ならば是非も無し! 我が道を阻むというならば竹千代。貴様とて容赦せん。小石の如く蹴り飛ばしてくれよう!!』

 機竜が吼えた。

 空気を揺らし、岡崎城全体が振動する。

━━なんという気迫!

 今戦えば勝ち目は薄いかもしれない。

━━だとしても、拙者は戦うのみ!!

 覚悟を決め、一歩踏み込むと機竜が此方を見下ろす。

互いに睨みあい、どちらとも無く動こうとした瞬間全裸が現れた。

 彼はこちらと機竜の間に入ると周囲を見渡し、そして親指を立てた。

 

***

 

━━なんであそこにいるんだーぁ!? あの馬鹿はぁ!?

 本多・正純はそう冷や汗を掻きながら心の中で叫んだ。

 織田の使者との戦いが始まったためホライゾン達と合流しようとしたのだがいつの間にかに馬鹿がいなくなっていた。

 それで探していたらあんなところにいた。

 馬鹿は暫く機竜を見上げていると腕をつつき始めた。

それから何故かドヤ顔をし、此方を見る。

━━なんだーーーその顔はーーーー!?

 そう拳を握り締め、隣のホライゾンの方を見るとそこに彼女は居なかった?

「…………は?」

 慌てて全裸の方を見るといつの間にかホライゾンも馬鹿の隣に立ち、機竜の体を触っていた。

 そして振り返るとこちらに向けて馬鹿と一緒に親指を立てる。

 その様子を見て思わず頭を抱えてしまった。

 

***

 

━━ほう?

 足元にいる全裸と自動人形の少女を見る。

 この二人の事は知っている。

 武蔵の総長と姫。

 元の世界ではたった一人の少女のため、世界征服を宣言した少年と大罪の担い手の少女。

 以前から興味はあったが……。

「なあなあ、おっさん」

 全裸が声を掛けてき、後ろの男装の少女が絶句している。

「今日のところは帰ってくれねーかな。家康さんに会いに来たんだろ?」

『…………虚けか貴様? なぜ我が竹千代に会いに来たと思った?』

「ん? ちげーのか? そっちはいつでもやれんのにやらないからてっきりそうだと思ったんだけどなあ」

━━クク、良く見ておる。

 ただの虚けでは無いという事か。

いや、ただの虚けでは武蔵を率いる事は出来ないだろう。

『それで? 何のようだ小僧?』

「あー、ちょっと聞きたい事があってなー」

 そう笑うと武蔵の総長は腰に手を当てた。

「なあ、おっさん。あんたの道は何だよ?」

『無論、天下布武。武による統治こそこの世の真理』

「そっか、俺の理想は皆が笑って暮らせる世界を創ることなんだ」

『知っておる。その夢、否定はすまい。だが貴様の夢は我が覇道の邪魔だ』

 武蔵の総長が鼻の下を擦ると姫と共に此方を見上げる。

「じゃあしかたねえ。やるか? お互い譲れねーもんがあるんだったら仕方ねえよな」

 そう笑う武蔵の総長に対して内心、笑みを送る。

へらへらと軽薄そうな男であるがその言葉には彼の覚悟が感じられる。

『面白い男と共に居るな竹千代』

「ええ、面白すぎて大変なぐらいですがな」

 『ふ』と笑うと一歩下がった。

『竹千代よ! 武蔵の総長よ! 抗え! 生き延びてみせよ!!

その先で我等は待っているぞ!!』

 道の先。

 我等が見つけた答えと違うものを彼らは見つけるかもしれない。

願わくばその答えを見つけるまで生き延びてもらいたいが……。

━━此処で潰えるならばそれも良し!

 この戦を乗り越えられないようではこの先の戦いにはついて行けまい。

 飛翔器を展開させ、離陸準備を行う。

 エリーが跳躍し、肩に乗るのを確認すると徐々に浮遊を始めた。

『では徳川の者どもよ。天の頂にて会える事、期待しているぞ!』

 エリーも肩の上でスカートの裾を摘み、頭を下げた。

「では皆様、御機嫌よう。近い内に再び会う事になると思いますわ………もっともそれまであなた方が生きていればの話しですが」

 爆圧と共に上昇を開始する。

 徳川の兵士達が慌てて追撃を開始しようとし、家康に止めれる様子が見えた。

 家康は此方を見上げ、此方も彼と視線を合わせる。

━━登り詰めてみせよ。我等の場所まで。絶望の地まで。

 腕と足を合一化し、体を水平にする。

エリーが重力制御で体を固定するのを確認すると飛翔器を大きく広げ、一気に加速した。

 轟音と共に青い空に一筋の飛行機雲が出来上がった。

 

***

 

 燃えていた。

 山の山頂に存在する城が炎に包まれていた。

 城の周辺には白と青の軍勢がおり、燃え盛る城を包囲している。

 その場所からやや離れた、山の麓に六護式仏蘭西軍の本陣が存在した。

 その陣の中心で小早川隆景が双眼鏡を覗き、崩れ行く尼子家の本城━━月山富田城の様子を見る。

「やれやれ、思いのほか時間がかかりましたね。兄上?」

 そう隣で表示枠の操作をしている吉川元春に声を掛ける。

「色々と始めてであったらな。だが、今回の戦の経験で、次の戦からより効率よく導力戦車の運用が出来るだろう」

 導力戦車を使ってみて分かった事だが、あの鉄の車は平地では比類なき力を発揮するが荒地や山岳部では機動性を大きく削がれ、能力を大きく落とす。

さらに上空からの攻撃に非常に弱いため、機鳳や飛空挺による対地攻撃が弱点だ。

「思うようには行きませんでしたが、此方の損害はほぼ無し。圧勝と言ってもいいのでは……おや?」

 表示枠に送られてきた通神文を読み、声を上げると元春が「どうした?」と聞いてきた。

「どうやら終わったようですよ。尼子家が降伏したそうです」

 そう言うと周りの兵士達が浮き立つ。

それを元春が手で制すると頷いた。

「戦いは最後まで気を抜くな。思わぬ痛手を受けるやもしれぬからな」

「ふ、相変わらず真面目だね。元春は」

 陣幕の中から太陽全裸が現れた。

 彼は黄金の髪を靡かせ、腰に手を当てると元春の横に並ぶ。

「……性分ですゆえ」

「Tes.、 だから朕も元就も君を信頼している」

「おや? 私はどうですかな?」

「隆景、勿論君もだ」

 「有難う御座います」と笑うと太陽全裸も頷く。

 この太陽王は尼子家との戦いが始まって以来常に最前線に居た。

 その為、前線の兵の士気は常に高くこの大戦果も彼の威光ゆえだろうか?

━━思慮深い父と派手な太陽王。気が合うのでしょうかねー?

 そう思っていると新しい通神文が届く。

何かと読んでみれば……。

「…………これは」

「どうした?」

「いえ、東で面白い動きが」

 「動き?」と元春が首を傾げる。

「先ほど東側に放っていた密偵から連絡がありました。

その内容ですが━━━━P.A.Odaが徳川領に侵入。両国の間で戦が始まりました」

 場が静まり返った。

皆動揺し、困惑する。

 そして徐々に騒がしくなって行く。

「……それは確かなのか?」

「ええ、既に伊勢にて戦端が開かれたそうです」

 「ふむ」と元春は顎に手を添え思案顔になる。

「だが妙だね?」

「妙とは? どういうことでしょうか太陽王」

「現在、織田にとっての最大の障害は徳川だ。彼らは急速に力を伸ばしている。

それを快く思わず、先手を打ったと考えるのが自然だ。だが、何故このタイミングで? という疑問がある」

 なるほど。

「現在織田は周り全てを敵に回していますからね。その状況で同盟国を放棄する理由が分からないと?」

「Tes.、 徳川を潰すならもっとスマートな方法があった筈だ。他国と戦わせ、消耗させるとかね。

だが彼らは今動いた。

━━もしかしたら何か大きな事が起きるのかもしれない」

 そう太陽王が言うと皆沈黙する。

「元春、朕たちも東進を早めよう」

「と、なると出雲・クロスベルが厄介ですな」

「Tes.、 彼らにもそろそろ決断してもらうとしよう。

朕はまず輝元を送り、飴を与えた。それで駄目ならば今度は鞭の番だ。

というわけで頼んだよ?」

 そう太陽王が言葉を送った先、表示枠には金の大ボリュームが映っていた。

 表示枠に映っている女性は目を弓にする。

『少しだけ突いて脅かしてみますわ。それから出雲・クロスベルのお店でお食事と行きたいですわね』

 そう言うと女性━━人狼女王(レーネ・デ・ガルウ)テュレンヌは微笑んだ。


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