緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第十八章・『黒き鋼の戦車隊』 大地を揺らして (配点:導力戦車)~

「ぎゃ、ぎゃああ!!」

 男が吹き飛び、近くの木に叩き付けれる。

 衝撃で木が折れ、男は白目を剥いて倒れると武器を持ち簡易的な鎧を着た三人の男達が一人の男を取り囲んだ。

 取り囲まれた男はオレンジ色の髪を持ち黒いスーツにサングラスを掛けていた。

 彼は一度吹き飛んだ男の方を見ると退屈そうに欠伸をする。

「て、てめえ! ふざけやがって!!」

 男の一人が刀をつき付け怒鳴る。

それに続いて他の男達も手に持っていた武器を構えた。

「この野郎!! 生きて帰れると思うな!!」

 男達が凄まじい剣幕で怒鳴るがスーツの男は小さく呟く。

「あぁん!? なんだ!! 何言ってやがる!!」

 男が眉を逆立て、顔を近づけるとスーツの男が睨みつけた。

「雑魚がウゼーんだよって言ってんだよ!!」

 直後両者の間に衝撃が生じ男の鎧が砕ける。

 衝撃のあまり周囲の地面が割れ、男が吹き飛びあっと言う間に姿が見えなくなった。

 それを見た二人の顔が青ざめる。

「……ひ、ひぃ!?」

 二人は慌てて距離を離し、逃げようとするがそれよりも早くスーツの男が回りこむ。

 彼は口元に笑みを浮かべると首を回した。

「おいおい、喧嘩売ったんだったら最後までやろう……ぜ!!」

 突風が起き、二人の男が遥か上空に吹き飛んだ。

 それを見上げ、二人がどこかに落下するのを見届けるとスーツの男が大きく溜息を吐く。

「何時までそこで見てる気だ?」

「フフ、やはり気がついていたかね」

 木の裏から仮面を着けた青髪の男性が現れ、彼は口元に笑みを浮かべると持っていたステッキを地面に突き刺した。

「当たり前だその距離で俺が気がつかないとでも思っていたのか<<怪盗紳士>>」

「まさか、愚かな者たちが破滅する美しさを見学しようと思っていたが……まあ、こんな結末もありだろう」

 そう言う彼に溜息を吐くと胸のポケットから煙草を取り出した。

そして火を点けると煙草を銜える。

「で、何のようだ?」

「君をスカウトしに来たのだよ。<<身喰らう蛇>>執行者No.8<<痩せ狼>>ヴァルター、君をね」

 ヴァルターは眉を顰めると煙草の灰を捨てる。

「例の招集の件か……。悪いが今の俺は結社から距離を離していてな、招集に応える気はねえ」

「ああ、その件なら私も君と同じでね。今日は別件だよ」

 「別件?」とヴァルターは視線だけをブルブランに送る。

 「そうだ」とブルブランは頷くと木にもたれ掛かった。

「今私は、ある人物の元で働いていてね。私のクライアントが君を呼んでいるんだよ」

「ほう? てめえを雇うとはどんな物好きだ?」

「フフ、訳あってその人物の名は明かせない。だがそうだね、しいて言うなら<<L>>なんてどうかな?」

「<<L>>だと……? まさか!!」

「ああ、君も知っている彼だよ」

 そう言うとブルブランは笑みを浮かべるのであった。

 

***

 

 午後十二時半。

 岡崎・清洲国境で徳川軍の本隊と織田軍の主力が戦を行っていた。

徳川軍は約二万の部隊を集結させており、それに対して織田軍は七万の軍勢を布陣させていた。

 徳川軍は織田軍に対して航空艦の数と兵力は圧倒的に劣っていたが、兵の士気は高く奮戦していた。

 特に中央の戦況は姉小路兵の活躍が目覚しく、圧倒的な兵力差の中敵軍を押し返している。

 その様子をアリス・マーガトロイドは中央後方からゴリアテの肩に乗り、見ていた。

 ゴリアテは対艦攻撃用の長砲を手に持ち、他の武神隊と共に遥か遠くに布陣している敵の航空艦隊に砲撃を行う。

「中央、なかなか良い感じさね!」

 ゴリアテの隣で此方と同じように長砲から砲撃を放っていた地摺朱雀の肩に乗る直政がそう言う。

「ええ、皆徳川に恩義を感じているからね。少しでも恩返しをしたいのよ」

 その思いは自分も同じだ。

恐らく前線で戦っている魔理沙もだ。

「だけど、少しずつ被害が増えてきたさね」

「やはり数の差が厳しいわね」

 どうも妙だ。

 敵は先ほどから数に物を言わせた力押しを繰り返しており、それに対して徳川軍は防御主体で敵の戦力を削る事に専念している。

 だがこんな物だろうか?

 織田がこのような安直な戦いをするだろうか?

 たしかに徳川軍の被害は増えているが織田軍はそれ以上に被害を受けている。

この織田軍の動き……まるで此方を試し、何かを待っているかのような……。

 そう思案しながら前線を見れば奇妙な事が起きていた。

 織田軍の前線部隊が一斉に後退を始めたのだ。

「敵が……引いた?」

 何故だ?

 敵にはまだ十分に余力がある。

このタイミングで引いたとなると何か裏がありそうだ。

「書記!」

『ああ、分かっている。前線部隊はそのまま、此方は武蔵を前進させる』

 後方に待機していた武蔵が前進し、此方の上空を通過する。

 それに対して織田艦隊から砲撃が来るが重力障壁よって弾かれ、上空で幾つもの爆発が生じる。

 その際の衝撃波で髪が乱れ、ゴリアテの肩に掴る。

━━武蔵が前進すれば敵に対して大きな牽制になる筈だけど……。

 違和感を感じた。

 正面上空。

織田艦隊の正面、先ほどまであった雲がなくなっており歪んでいた。

 歪みは徐々に大きくなり、漆黒が広がり始めた。

 漆黒は徐々にその輪郭を現し始め、やがて一隻の長大な船が現れた。

 漆黒の装甲を持つ航空艦は長方形に近い形をしており、その側面には百を超える内蔵式の砲台を持つ。

 また艦底部には大型の三連装流体砲が十五門装備されており、徳川艦隊を狙っている。

「なんて……大きさなの」

「ありゃあ、戦列艦さね。P.A.Odaめ、こっちに来てからあんな物を作っていたとはね」

 敵の戦列艦の出現により徳川の魔女隊が急遽撤退し、両者はにらみ合う形となった。

 

***

 

 徳川艦隊後方で待機していた浜松から家康は敵の新型艦が現れたのを見た。

「敵艦の全長はおよそ五キロメートル。ジズ級の戦列艦です!」

「康政、あれがどれ程の力を持っているか分かるか?」

 そう表示枠に映る榊原康政に訊くと彼は冷や汗を書きながら顎に指を添えた。

『見たところ装甲は鉄甲船と同様の物を使用。その上であの砲数。あれ一隻で一艦隊分の戦力がありそうですなあ』

 あのような物を持っていたとは……。

 安土が伊勢に布陣したため清洲にいるのは通常の航空艦のみであると判断していた。

 だが敵はあのような切り札を持っていたのだ。

「敵艦より通神です!!」

「繋げろ」

 通神兵に指示を出し、正面の大型表示枠に魔人族の男が映った。

『お初にお目にかかる。P.A.Oda所属第三艦隊艦隊指揮官、九鬼・嘉隆で御座います。徳川家康殿で御座いますな?』

「いかにも、徳川家当主徳川家康だ。お会いできて光栄だ。異界の水軍長よ」

 『Shaja.』と嘉隆が頷くと表情を改める。

『即刻、降伏なされよ。伊勢を落とされ筒井の軍と分断された今、其方に勝ち目は無い。

無駄な血を流さず降伏すれば家臣と民の命は保証します』

「気遣い感謝する。しかしこれは我等一同、心を一つにして決めた事。降伏などありえぬ」

 此方の返答を聞き嘉隆は残念そうに目を伏せる。

『残念です。では、此方ももう容赦は致しますまい』

 表示枠が閉じられると同時に立ち上がり、指示を出す。

「来るぞ!! 全艦防御体勢!!」

 直後、前方から砲撃の嵐が来た。

 百を超える実体弾と四十五を超える流体砲激が放たれ、徳川艦隊に襲い掛かる。

 その砲撃を防ぐため武蔵が障壁を展開するが受け止められたのは半分程度で、残りの半分は障壁を通過し、後方の艦隊に襲い掛かる。

 強烈な衝撃を受け手すりにつかまり何とか堪えるが、右舷側に居た航空艦が船体の中央を流体砲撃に穿たれ、爆発した。

「被害状況は!!」

「二番、三番、六番撃沈!! 残りの艦も損傷甚大です!!」

━━たった一度の砲撃でこうも容易く崩されるか!!

 現状では敵艦隊に勝ち目は無い。

これ以上此処で戦うのは無理だろう。

「全軍に伝えろ! 第二防衛線まで後退! そこで体勢を……!!」

「敵軍後方から何かが!?」

 望遠映像が映され、織田の陸上戦士団が映る。

 彼らは軍を二つに分け、間から何かが現れた。

「…………なんだ、あれは?」

 織田軍の間から現れたそれは陸を走り、鋼の装甲を持つ車であった。

 十二両の黒色の装甲車は横一列に整列すると一斉に全身を始めた。

一列に並び、大地を砕きながら進むそれはまるで鋼の津波のようである。

「まさか……導力戦車か!?」

 「そうだ」と肯定するかのように導力戦車隊が一斉に砲撃を行い、徳川の前線部隊が吹き飛んだ。

 

***

 

 本多・二代は徳川軍の中列で休憩していた。

 彼女は本多忠勝の部隊に所属し、先ほどまで前線で戦っていたのだが流石の忠勝隊も連戦に次ぐ連戦で消耗し、一旦交代する事となった。

 その為現在はこうやって組み立て式の椅子に座り後方の補給物資箱に入っていた大きなおにぎりを食べていたのだ。

「二代よ。しっかり休んでいるか?」

 横を向けば忠勝が立っており、兜を脱いでいた。

「Jud.、 拙者としてはまだまだいけるで御座るが忠勝殿の言いつけを守っているで御座るよ。忠勝殿はいつも正しいで御座るからなあ」

 そう言うと忠勝は笑い、此方の横で胡坐を組んだ。

「別に某はいつも正しい事をしているわけでは無い。ただ己のできる最善を尽くしているだけだ」

 うむ。流石は忠勝殿。しっかりしてるで御座る。

 父も忠勝の名を襲名し色々と凄まじい人間であったが人格面ではこの本物の忠勝殿のほうがしっかりしているのではないだろうか?

 父上はよく鹿角殿に怒られていたで御座るからなあー。

 それもわりと日常生活で。

 そう思い一人で頷いていると忠勝が訊いて来た。

「ところでその握り飯、どこにあったのだ?」

「これで御座るか? これなら後方の補給箱に入っていたで御座るよ」

・立花嫁:『………は? ちょっと待ってください? それ青い箱でしたか?』

・蜻蛉切:『Jud.、 青い箱で御座ったが、それがどうしたで御座るか?』

・立花嫁:『それは私が宗茂様の為に作ったおにぎりです!! ちゃんと紙に名前が書いてあったでしょう!? どうして食べるんですか!!』

・蜻蛉切:『あー、それで御座ったら包みを開けたときに風で飛んでしまった出御座る。いや、これは悪い事をした。半分齧って食べかけで御座るが今から宗茂殿に渡してくるで御座る』

・立花嫁:『やめて下さい! 宗茂様にそんな汚物を渡さないで下さい!! もういいですから、それあげます!』

・蜻蛉切:『流石は誾殿! 優しいで御座るなあ』

・立花嫁:『こ、この女……!!』

 何故誾殿は怒っているのだろうか? もしかしてお腹が空いているので御座ろうか?

 そう首を傾げていると地面が揺れている事に気がついた。

「地震で御座るか?」

 揺れは徐々に大きくなってゆき、低い何かの駆動音のようなものが聞えてき始める。

「いや、違う……これは!!」

 忠勝が兜を被り、立ち上がる。

 それと共に立ち上がった瞬間、周囲に爆発が生じた。

 轟音と共に大地が砕け、土埃が舞い太陽を遮る。

 前線の兵たちが陣形を崩し、後退し中列の部隊と入り混じる。

その人の波の合間から黒い鋼の車が見えた。

「……導力戦車か。実物を見るのは初めてだ」

「Jud、 拙者たちの世界にもあんな物は無かったで御座るよ」

 忠勝と目を合わせ、頷く。

 そして二人はほぼ同時に敵に向かって駆け出した。

 

***

 

 忠勝は撤退する味方の間を抜けると正面から迫ってくる導力戦車を見る。

 戦車は此方をひき潰そうと速度を速め、土埃を舞い上げていた。

━━なんという迫力よ!

 武神とはまた違う鉄の壁が迫って来る迫力。

 なるほど、これは陸戦において強力な兵器となろう。

「二代! 正面の戦車の足を割断せよ!」

「Jud!!」

 二代が“翔翼”を展開させ戦車隊の前に飛び出し構える。

 蜻蛉スペアの刃に映すのは戦車の車体では無く履帯だ。

「結べ! 蜻蛉スペア!!」

 履帯を割断された戦車はバランスを失い地面の上を滑り始める。

そして隣の戦車に激突すると互いに黒煙を上げ、停止した。

 その様子に他の戦車が気を取られている隙に駆け出した。

 確かに敵は鋼の装甲を持ち、強力な砲を持つが近接戦闘用の武器を所持していないという弱点がある。

━━肉薄すれば此方のもの!!

 正面の戦車が此方に気がつき主砲をこちらに向ける。

『馬鹿め!! 正面から来るとは!!』

 戦車は動きを止め、此方を正確に狙う。

 向けられる砲。

その鋼の筒を注視しながら駆ける。

━━来るか!!

 そう思った瞬間に横へ跳躍した。

 それに僅かに遅れて砲弾が自分の横を通過し、後方で地面に当たり弾けた。

『そ、そんな馬鹿な!? 見てから避けやがった!?』

 戦車は慌てて後退しようとするが遅い。

 敵の後退よりも早く跳躍し飛び乗ると主砲に掴る。

「さて、どうしたものか?」

 戦車に飛び乗ったもののこの鉄の塊をどう無力化しようか?

 そう悩んでいると上空から魔理沙がやって来た。

「おい、おっさん! そんな所で何やってんだ!?」

「おお、魔理沙殿か。この戦車をどうやって仕留めるか考えていたのだ。某の蜻蛉切は二代のように敵を割断できぬからな」

 「神格武装、某も欲しいな……」と思っていると魔理沙が懐から金属の筒を取り出し、此方に投げ渡してくる。

「それ、私特製のマジックボムだ。威力は保証するぜ!」

 そう言うと彼女はウィンクをし離脱して行く。

「ふむ?」

 手に持つ金属の筒を見、戦車の上部のハッチを見る。

 そして頷くと重い鉄のハッチを開き、中に筒を落とした。

『あ? ちょ? これぇ!?』

 直ぐに戦車から飛び降り距離を離すと鋼の車が中から爆発し、炎上した。

「おお、見事だな」

 そう感心すると上空に閃光弾が上がった。

 赤色の閃光弾は撤退を知らせる合図であり……。

━━これ以上はもたぬか。

「二代! 下がるぞ!!」

「Jud!!」

 別の戦車を相手にしていた二代と共に撤退を始める。

 それを戦車隊が狙うが上空から魔女隊の攻撃を受け、敵も後退を始めた。

 こうして清洲国境での戦いは徳川の後退と言う形で幕を下ろしたが織田軍も被害を受け、両者は一旦態勢を整えるのであった。

 

***

 

 午後一時。

 筒井城の評定所では緊急の作戦会議が開かれており、皆難しい顔をしていた。

「さて、もう一度現状を確認しよう。

現在筒井には北と東から敵軍が迫ってきており、両軍合わせて八万の軍勢だ。

一方此方の戦力は総動員して二万。航空艦は六隻に輸送艦が十五隻」

 徳川秀忠の言葉に筒井順慶が頷く。

「輸送艦は十隻を民及び兵の撤収用に回しており、残りの五隻は物資輸送用だ。

撤収作業は八割完了。あと一時間で終わるだろう」

「ですが退路が断たれ、私たちの撤退は絶望的です」

 永琳の言葉に皆沈痛な表情になる。

「他の戦況は?」

 そう天子が訊くと永琳は頷き、表示枠を開き地図を出す。

「伊勢は陥落しましたが伊勢の前線部隊は無事撤収。

霧山御所にいた北畠具教達は脱出した様ですが消息は不明です。

一方、岡崎の戦況ですがこの兵力差の中良く持ち堪えています。

現在は第二防衛線まで後退し織田軍を食い止めています」

「どちらにせよ救援は望めないわね」

 どこも守るので手一杯で安土の居る伊勢の奪還など不可能だろう。

「敵もそれを分かってコレを送ってきたのだろうな」

 コレとは先ほど織田から通神で送られてきた降伏勧告だ。

そこには徳川秀忠と比那名居天子の身柄を引き渡せば命の保証をすると書かれており。

猶予は一日だ。

「ところで何で私も引渡し対象なのかしら?」

「確かに、秀忠公に比べて貴女の価値は低いわよね」

「おい」

 半目で永琳を睨むと彼女は苦笑する。

それから表情を改めると此方を見た。

「まあ、大体の予想はつくわ。敵が貴女を欲している理由、それはその緋想の剣よ」

「……やっぱりそうよね」

 腰に差している緋想の剣を見る。

 敵にとって欲しいのはこの剣と剣の担い手である自分であろう。

━━まったく、一体何なのよ? あんたは?

 そう心の中で訊くがこの相棒が答えてくれる筈も無く、溜息を吐く。

「秀忠さんはどうするの? 私は降伏なんて御免だけど」

「私も同じだ。だが、現状打開策が無いのがな……」

 このまま篭城し死を待つのか、それとも降伏か。

「あれは? 例の城を隠すやつは出来ないの?」

「先月貴方達が思いっきり暴れてくれたおかげで無理よ」

 さていよいよ打つ手がなくなって来た。

 どうしたものかと皆思案顔になっていると永琳が何かを思いついたように小さく頷く。

そして暫く目を伏せていると手を上げた。

「一つ。案があるわ」

 皆が注目すると彼女は先ほどの地図を拡大し、紀伊半島を映す。

「敵は北と東から来ます。西は我々と敵対している三好家。南は鈴木家ですが鈴木家とは先日停戦協定を結びました」

「まさか、鈴木家に救援を求めるのか?」

 順慶の言葉に永琳は首を横に振る。

「いいえ、救援を求めたとしても鈴木家はそれを断るでしょう」

「だったらどうするのよ?」

「……鈴木領を強引に抜けて撤退します」

 その言葉に皆顔を見合わせる。

 鈴木家の領地を強引に抜けるなどまたとんでもない案だ。

 撤退路は伊勢を経由するのよりも長く、さらに鈴木家が通してくれるとは限らない。

「ええ、確かに鈴木家はただでは通さないでしょうが本気で私たちとやりあいたくも無いでしょう。

そこで事前に鈴木家に連絡し打ち合わせ、鈴木家領内で短時間交戦します。

そして敵に“徳川を止めた”と言う事実を与えたらそのまま一気に太平洋に出ます。

その後は南回りで伊勢湾を抜け、浜松に撤退する。

これが私の作戦です」

 たしかにこれならば比較的安全に撤退は出来るが……。

「鈴木家が乗るかしら?」

「そこは交渉次第だけれども鈴木家も私たちと本気でやりあえばただでは済まないことを理解していると思うわ。織田ともね。

だから打ち合わせ通りに交戦し、織田に対する言い訳を与えて通してもらう」

「どの道戦いはあるって事ね」

 やれやれと肩を竦めるが大分希望が見えてきた。

「では、鈴木家との交渉は私がやろう。先方とは面識があるからな」

 そう順慶が頷くと秀忠も頷く。

「私は父と連絡を取ろう」

「じゃあ私は撤収作業の指揮を執るわ。三好を牽制しに行ったミトツダイラにも連絡しなきゃね」

 そう言うと皆顔を見合わせ頷く。

「撤退開始は明日の夜明けから。夜闇み紛れて筒井を離れましょう」

 その言葉に皆もう一度大きく頷くのであった。


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