緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第十九章・『昼下がりの会議者』 それぞれの道 思惑 (配点:岡崎会議)~

 

 午後二時。

 八雲紫は安土の甲板上にテーブルと椅子を置き、紅茶を飲みながら表示枠の操作を行っていた。

 眼下に広がる伊勢の町は完全に沈黙しており、各所で黒煙を上げそんな町を囲うように数多くの航空艦が滞空している。

 送られてきた最新の戦況報告に目を通すと紫は一息を吐きカップに入っていた紅茶を飲み干す。

「……ここまでは万事順調」

 北畠の当主達を捕らえられなかったが霧山御所は陥落し徳川の前線部隊は岡崎まで撤退。

 伊勢地方は完全に織田が掌握した。

 後は筒井城の徳川軍を潰し、岡崎城を押さえれば徳川を完全に無力化できるだろう。

『紫様。たった今第五艦隊が第三艦隊に合流しました』

 表示枠に映る藍からの報告に頷く。

 伊勢にいた徳川軍が岡崎に撤退したため、陽動として動いていた第五艦隊を第三艦隊に合流させた。

 これにより岡崎方面にP.A.Odaは十万近い兵力を集結させたことになる。

「ご苦労様。こっちは順調よ。筒井の徳川軍に降伏勧告を突きつけたけど……まあ跳ね除けるでしょうね」

『なぜ一気に潰さないのですか? 兵力も技術力も此方が勝っています』

「そうね。数値的には此方が上。でも戦においては数値には表せない不確定要素があるわ。それは何だと思う?」

 首を傾げる藍に微笑むとカップに再び紅茶を注ぐ。

「“思い”よ。人の思いは時に予測できない……驚異的な力を発揮するわ。徳川軍の士気は高く、現に岡崎では私たちを何度も押し返している。

決して慢心してはいけないわ」

 まして筒井城にはあの娘がいる。

 人々の思いを紡ぐあの剣を持つ少女が。

━━まさかあの娘が鍵とはね……。

 我々が知ったこの世界の秘密。

そこに最も近いところにいる人物が何も知らない少女だとはなんとも皮肉だ。

『そうでしょうか? 私には良く分かりません……』

「フフ、貴女ももっと人と接すれば分かるわ」

 そう“思い”の強さを知るからこそ容赦はしない。

真綿で首を絞めるようにじわじわと、かつ確実に敵を仕留める。

『そちらはどうする気ですか?』

「恐らく敵は諦めていない。だけど私たちに勝てないことも分かっている」

 だったら取る手は限られてくる。

『退却ですか……? ですがどこに?』

 北と東は我々が布陣し、西は三好。ならば……。

━━彼女ならやりかねないわね。

 敵にはあの八意永琳がいる。

 念には念を入れるべきだろう。

 そう判断すると表示枠を開き安土に待機している艦に繋ぐ。

『なんでしょうかー? いまから昼寝しようと……いや、休憩しようと思っていたのですが?』

 なんだかやる気の無い艦長に苦笑すると通神で即席の作戦を送る。

「貴方達にやってもらいたいのだけれど」

『んー、まあやれるんじゃないですかあ? 分かりませんけど』

 あいまいな返事をする艦長に礼を言うと表示枠を閉じる。

━━うちって割と人材不足なのかしら……?

 いや、ああ見えて優秀なのかもしれない。多分。

「ともかく……」

 カップを持ち立ち上がると表示枠に映る藍を横目で見る。

「そっちは任せたわ。慢心はしないように」

『分かりました。ではまた後ほど』

 表示枠が閉じられると紫は紅茶を一口飲む。

そして冷たい視線で町を見下ろす。

「悪いけど一切手は抜かないわ。例え同郷の者だとしてもね」

 そう言うとカップに入っていた紅茶を甲板から零すのであった。

 

***

 

 午後三時。

 岡崎城では最前線からの怪我人が次々と送られて来、城では収容が出来なくなった。

その為城の外にも臨時の野戦病院が建てられ近隣の村人や医療知識を持つ武蔵の生徒たちが慌しく駆け回っていた。

 そんな中、エステル達もけが人の搬送を手伝い怪我の度合いの軽い兵であれば導力魔法で治療を行っている。

「ふう……」

 腕を怪我した兵に回復魔法をかけ終わったエステルが一息つき、額の汗を拭うと周りを見渡す。

 今自分のいる地区は比較的軽症の人たちが運ばれてくる場所だが治療を行っている人々が慌しく動いておりここでこれだけ忙しいのなら重症の人々の地区は大変な事になっているのだろう。

「エステル、少し休憩をした方がいいよ」

 医療品が入った箱を運んでいたヨシュアに声を掛けられ頷く。

「うん。でもみんなを見てると私も何かをしなきゃって思っちゃって……」

「……そうだね。でも無理をしていざって時に動けなくなったら本末転倒だ」

 ヨシュアの言うとおりだろう。

 戦争の気に当てられ少し冷静さに欠けていたらしい。

「冷静さを失うとああなるから」

 ヨシュアの指差す先を見ればそこでは妖夢が箱の上に乗り刀を引き抜き天に掲げている。

「悪鬼信長! 討つべし! 討つべし!」

 「「おお!!」」と周りの兵たちも盛り上がり医療地区の一角に変な集団が出来ている。

「あ、あははは…………止めてくる」

 そう言い妖夢の元に向かおうとした瞬間、幽々子が現れた。

「エステルにヨシュア、話があるのだけれど……あの子何をやっているの?」

 そう微笑みながら妖夢を指差す幽々子に苦笑するとヨシュアと顔を見合わせるのであった。

 

***

 

「その……なんというか……さっき見たことは忘れてください」

 顔を真っ赤にし俯く妖夢に幽々子は慈愛の表情を送ると何度も頷いた。

「そうよね。妖夢も女の子だものね」

「いや!? なんですか!? その良く分からないリアクション!?」

 「まあまあ」と幽々子は妖夢を宥めると表情を改め皆を見渡す。

「本部から連絡があったわ。内容はこう“遊撃士協会武蔵支部は即刻徳川より退去せよ”」

「それって……」

 武蔵を見捨てろという事か!?

 何故そんな命令が来たのかは分かる。

 徳川の敗戦は濃厚でこのまま武蔵に残れば戦いに巻き込まれる可能性がある。

そして現状私たちは戦いに介入できないのだ。

「それでね、あなた達の意見を聞きたいのよ」

「意見……ですか?」

 ヨシュアの問いに頷くと幽々子は近くの木箱に腰掛ける。

「本部の指示は私たちの撤収だけどこの指示には続きがあってね、“ただし現場の遊撃士の意見を尊重する”とあるわ」

「つまり私たちに残る意思があるならば武蔵に残留できると?」

 幽々子は妖夢の言葉に頷く。

「これは本部が貴方達を信頼しているからこその命令よ。織田がここ岡崎まで来れば戦いに巻き込まれるだろうし、その際の本部からの援護は受けれられない。

だから一人一人、自分の意志で決めて」

 皆沈黙する。

 ここで残る事を宣言しもし織田軍と戦いになれば遊撃士協会その物の立場が危なくなるかもしれないのだ。

 自分達の行動一つ一つが遊撃士協会の未来を左右するといっても過言じゃない。

 だが……。

「私は残るわ。このまま徳川の人たちを見捨てる事は出来ない」

「そうですよね! ここで見捨てたら何のための遊撃士ですか!!」

「僕も二人と同意見です。それに本部の方でももう動きがあるんじゃないですか?」

 三人の返答に幽々子は嬉しそうに目を細めると頷く。

「今回の件、P.A.Odaはやり過ぎだわ。姉小路家を使った策謀、無防備な市民がいる伊勢の町への攻撃、そして<<結社>>と関係がある可能性がある事。

それらを踏まえて遊撃士協会によるP.A.Odaへの大規模介入の可能性が出てきたわ。

その一環として今から私は徳川家康公に会いに行くわ」

 織田への大規模介入。

この不変世界において「支える篭手」の紋章を掲げるのは初めての事だ。

それだけこの事態が深刻であるという事だろう。

「家康さんに会うって……どうして?」

「現状徳川単独では織田を止められないわ。だから遊撃士協会が仲介役となって織田包囲網を作ろうという事になったわ」

 「全く、大任よね」と幽々子は空を見上げ目を細めるのであった。

 

***

 

 午後三時。

 遊撃士協会支部長から連絡を受けた家康は葵・トーリとホライゾン・アリアダストを連れ岡崎城に戻った。

 これから織田包囲網の話し合いをするから本多・正純も誘おうと思ったのだが何故か周りから一斉に反対され彼女は呼ばなかった。

ちなみに「まあ正純様に話し合いをさせたら話しの内容がいつの間にか織田包囲網から徳川包囲網になるでしょう」と言ったのはホライゾンだった。

 家康たちは岡崎城の天守に集まると表示枠の群れと向かいあう。

表示枠には聖連盟主インノケンティウスをはじめとし、甲斐連合当主武田信玄、浅井家当主浅井長政、朝倉家当主朝倉義景、そして最後には足利将軍家から将軍足利義輝が参加している。

 こちらと彼らの間に入るように西行寺幽々子が座り目を伏せている。

『さて、こうやって一同が顔を合わせるのは久しぶりだ。そうは思わないか?』

 最初に口を開いた教皇総長の言葉に皆頷く。

「一度は織田についた身でありながら話し合いの場を設けていただき、感謝いたします」

 家康が頭を下げると浅井長政が頷いた。

『なんの、家康殿の事情は知っております。共に義兄上、いや、信長の悪行を止めましょうぞ!』

『ふん、どうだか。実は今も信長と通じておるのではないか?』

『そうであれば一番最初に織田に食われるのは浅井・朝倉、貴国等であろうよ』

 場はあっと言う間に険悪になり互いに牽制しあう。

 包囲網に参加するといっても皆思いはバラバラであり特に大国武田は何を考えているのかが分からない。

━━さて、どうしたものかな?

 どう切り出そうか? そう悩んでいると珍しく服を着ているトーリが手を上げた。

「なあおっさん達。喧嘩してねーでさっさと話し合い始めようぜ?」

『な、なんだこの無礼な餓鬼は!?』

 義景がそう眉を顰めるとトーリは口元に笑みを浮かべる。

「俺か? 俺は葵・トーリ、世界征服をする男だぜ!」

 親指を上げウィンクする彼に皆絶句すると教皇総長はやれやれと溜息を吐いた。

『相変わらずだな小僧』

「おう、おっさんも元気そうじゃねーか」

『教皇総長だ、教皇総長!』とツッコミを入れるとインノケンティウスは表情を改める。

『だがそこの馬鹿の言うとおりだ。そろそろ本題に入ろうじゃないか。

ここに集まった我等は皆共通の敵を持つ。それは言うまでも無く織田信長、そして彼が従えるP.A.Odaだ。

遺憾ながらやつ等の勢いは凄まじく我々が単独で動いていたら各個撃破されるだろう』

『故に我等は手を組み全方位から織田を牽制する。現に織田は徳川と戦い始め西側への攻撃の手を緩めている』

 先ほどまで黙っていた義輝の言葉に皆頷く。

『いかに広大な領土、大軍を所有していても一国でその全てを守る事は出来ない』

 そう言ったのは武田信玄だ。

彼の言うとおり織田は現在尾張・美濃・畿内の三国を制圧し広大な領土を得ているがその分守る場所が増えたという事になる。

『だが嘗て我等は信長に包囲網を敷いたが敗れた。今回もそうでは無いのか?』

『それはどうでしょうか? 昔はこのように通神という連絡手段が無く各国が連携できなかったためその隙を突かれ我等は敗北しました』

 『わしも死んじゃったしなー』とおどける信玄に皆苦笑すると長政は続ける。

『ですが今は違います。各国は互いの状況を即座に連絡でき連携し易い。そして前回との最大の違いは家康殿、貴殿が織田信長の敵となっている事です』

「確かに、嘗ての包囲網において織田は背後を常に守られた状況であった。だが今回は我等徳川家が敵の背後を脅かしている」

 安全な場所があるのと無いとでは心理的に大きく違うだろう。

特に背後に敵がいるということは敵と向かい合うよりも脅威がある。

『Tes.、 ではこの同盟の大切さが分かったところで徳川には条件をつけようではないか。なあ、おい?』

 

***

 

 やはり来たか。

 そう家康は思った。

 どんな所にも駆け引きは必ずあり、弱者は強者に搾取される。

この場合弱者は我々徳川家だ。

 徳川家は聖連を脱退しておりついこの前まで彼らと敵対していたのだ。

「……条件とは?」

『まずは駿河北部を武田家に割譲。次に徳川は聖連所属国に対して謝礼金として毎月収益の五割を上納しろ』

 嫌な汗が頬を伝わる。

 教皇総長の言っている事は実にシンプルだ。

 助けて欲しければ土地と金をよこせ。

土地の方は武田を動かすための条件だろう。

 織田包囲網に所属しなければ我等は負ける。

しかし所属してもその先は苦しい未来が待っている。

 さてどう切り返したものかと悩んでいるとトーリが口元に笑みを浮かべる。

「相変わらずねちっこいなー、おっさん」

『だから教皇総長と呼べと……まあいい。

ねっちこいとは失礼だな徳川は先日まで織田の同盟国、我等の敵であったのだ。

条件をつけるのは当然であろう』

 その言葉に「確かに」と頷いたのはホライゾンだ。

彼女はいつの間にか取り出していた湯飲みに入った茶を啜ると教皇総長の方を見る。

「流石は人に無実の罪を被せた挙句、監禁して人の体を透視して処刑しようとするだけは有りますね。ナイスな傲慢っぷりだと判断します」

『誤解されるような言い方をするなぁーーー!!』

 ホライゾンは「まあまあ」と教皇総長を宥めると湯飲みを畳みの上に置く。

「ホライゾン寛容なので過去の事は水に流すとして、ホライゾンは不当な条件を突きつけられる事を拒絶します」

『不当だと!? 貴様らが織田と同盟を組んでいたのは事実だろうが!!』

 怒鳴る義景にホライゾンは頷く。

「Jud.、 確かに徳川家は織田の同盟国でしたがだからこそ今、皆様が無事であるとも言えるのでは?」

『ほう……どういう意味だ?』

 義輝は興味深そうにホライゾンを見る。

「我々が織田と同盟しウチの貧乳天人共が伊勢や筒井でヒャッハーしたおかげで織田の侵攻を大きく遅らせることが出来たのでは?」

『成程。同盟国の徳川が織田に蓋をするように勢力を伸ばしたため織田は思った以上に勢力を伸ばせなかったということですね』

 「ナイスですイケメン大名」とホライゾンが親指を上げると長政は苦笑する。

『そんなもの結果論だろうが』

「結果は結果。現在皆様とこう会議が出来るのはその結果があったからだと判断しますが?」

 ホライゾンに言葉を返され教皇総長は『フン』と鼻を鳴らす。

『それで? 自分達の正当性を主張し何を要求したい?』

 ホライゾンの返しのおかげで交渉の余地が出来た。

このチャンスを逃すわけにはいかない。

「まず領地の件、これは了承しましょう。ですがその前に武田が必ず織田の岩村城を攻撃する事が条件です」

『ほう? 我等が動かぬと言いたいのか?』

「その可能性はあるでしょう。現状織田の脅威が最も少ないのは貴国だ。

包囲網に参加し、諸国を現せ弱らせたところを一気に持って行く。

私の知っている信玄公ならその位やりますが? 違いますかな?」

 信玄は何も言わず目を細める。

そして愉快そうに笑うと頷いた。

『やはり御事を家臣に出来なかった事は我が最大の失態よ。よかろう、岩村城、必ず落としてみせよう』

 「感謝いたす」と頭を下げると今度は教皇総長を見る。

「謝礼金についてですが伊勢を失った我等が収益の五割を上納するのは不可能。

そこで収益の二割を上納。その上で聖連所属国との貿易の関税を撤廃しましょう」

 徳川は西側と東側の貿易を繋ぐ重要地だ。

 そこで関税なしに貿易できるのは聖連にとっては非常に魅力的だろう。

・○べ屋:『はいはーい!! はんたーい! めちゃ反対!!』

・副会長:『確かに浜松の商人にとっては苦しいだろうがここは国全体の事を考えて……』

・○べ屋:『いや、関税の事はいいのよ? どうせ私たち関税無視して貿易してるから。それよりも!! そんな事したら私たち以外も儲けちゃうじゃない!!』

・貧従士:『うわ! 堂々と犯罪宣言しましたよ!?』

・あさま:『あ、ハイディ? いまそっちに番屋が向かったので動かないで下さいね? ちなみにもう狙っているので逃げたら撃ちますよ?』

・○べ屋:『く、くそ!! 嵌められた!? 嵌められたわ!? 汚いわよアサマチ!! そうやってライバル業者減らして浜松の利益を独占するつもりね!!

あ! やば! 番屋来た!?』

━━“○べ屋”さまが退出しました━━

 後で色々と康政に調べておいて貰おう。

なんかいろいろと知らないところで悪が蔓延っている気がする。

 そう思っていると教皇総長が『ふむ』と指を顎に当てた。

『まあ良いだろう。ではこの包囲網全員参加で良いな?』

 彼の言葉に皆頷く。

 それからトーリが手を上げた。

「でよお? どうすんだ俺達? 結構やばいんだろ?」

『それに関してはわしに案がある』

 トーリが「あん」と色っぽく鳴いたらホライゾンが彼の顔面に裏拳を入れた。

それから信玄に続きを促す。

『先ほどの家康殿の言うとおり我等は岩村城を攻める。それと共に浅井・朝倉、そして将軍家は観音寺国境に侵入、敵を引きつける。

後は御事たちが織田と停戦すれば良い』

「成程、敵の戦力を分散させ全方位から攻撃すれば織田は我等に注力できなくなる。そこで我等が織田の攻勢を跳ね除ければ状況は一転。織田に不利なものになると」

 敵の攻勢を止めるにはやはり分断されていては不味い。

 なんとかして筒井の兵を無傷で救わなければ……。

『この策、全ては徳川に掛かっている。分かっておるな?』

「ええ、既に筒井の方では策をうっている模様。必ず敵の攻勢を食い止めてみせましょう」

 そう頷くと皆も頷いた。

そして幽々子がゆっくりと皆を見渡すと頭を下げ、会議の終了を告げた。

 

***

 

 躑躅ヶ崎館の評定所にて武田信玄は一人上座に座っていた。

 彼は先ほどまで他の大名達が映っていた表示枠を閉じると目を伏せる。

「…………良いように言いくるめられたのではないのか?」

 そう愉快そうな声の方を向けば回廊に一人の少女が腰掛けていた。

 彼女は頭に大きな中華風シュシュを着けており、瓢箪に入った酒を飲んでいる。

「言い包められてやったのだよ。織田は我等にとっても目の上の瘤だからな」

 その返答に少女は「くく」と喉を鳴らす。

そして振り返ると胡坐をかき、ほんのり上気した顔に笑みを浮かべた。

「腹の内では別のことを考えている癖に、よく言うわ。

いや、それでこそ我が襲名元と言うべきか?」

「ふ、それで? 何のようかな? 源・義経?」

 義経と言われた少女は目を細める。

「岩村城、落とすのじゃろう?」

「それが契約だからな。それがどうかしたか?」

「……岩村攻めの指揮、わしに任せてみんか?」

 義経の提案に横目で彼女を見る。

今まで政治にも軍事にも口を出さなかった彼女が始めて自分に意見した。

その事に興味を持つと訊いてみる。

「ほう? どうしてかね?」

「P.A.Odaにはわしも色々借りがあってな。その意趣返しと言う奴だ」

 そう言うと彼女は笑みを浮かべ、立ち上がる。

「ふむ、いいだろう。信房と昌豊を連れて行け、あと誰か必要か?」

「佐藤兄弟もだ。ふ、襲名元もおるし一度は死んだとされる身、第一線を引いた身だがわしも意外と執念深いらしい」

 そして彼女は此方一瞥し、そのまま退出した。

その後姿を見届けるとゆっくりと息を吐く。

━━やれやれ、相変わらず何を考えているのか分かりづらいねえ。

 これでも人の心の機微には聡い筈だがやはり年の功というやつか。

「さて、これからどうなるか……。まあ、覚悟はしておくか」

 そう呟き、もう一度義経が出て行った方を見るのであった。

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