緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第二十一章・『決死の脱出行』 進む道は険しく (配点:十二月二十三日)~

 午前五時。

 静まり返った筒井城の周囲に徳川の航空艦隊が着陸し集結していた。

 艦隊の中央にいる曳馬の艦橋には比那名居天子と永江衣玖と鳥居元忠、ネイト・ミトツダイラとアマテラス、そして“曳馬”が集まっている。

「よし、じゃあ最終確認しましょうか?」

 そう天子が言うと輝夜が表示枠に映る。

『なんで貴女が仕切っているのかしら?』

「そりゃあんた、私が一番偉いから?」

「一番偉いのは秀忠公ですし、なんで語尾が疑問系ですの?」

 ネイトのツッコミに皆笑うと今度は秀忠が映る。

『まあ良いではないか。では天子、続きを頼む』

 「流石話が分かる!」と天子は親指を上げると一回咳を入れた。

「時間も無いし簡潔に纏めるわよ。

1、私たちは三十分後に全艦離陸し、それと同時にP.A.Odaへの返答を送る。

2、鈴木領侵入後、鈴木家艦隊と若干交戦しそのまま太平洋に出る。

3、伊勢湾到達後、艦隊を二つに分ける。一つは岡崎に、もう一つは大回りして浜松港へ。

はい、何か質問は?」

 腰に手を当て聞くとネイトが手を上げる。

「鈴木家との件はどうするんですの?」

『それについては私から話そう』

 表示枠に筒井順慶が映り、皆が彼に注目する。

『まず鈴木領侵入後彼らの艦隊が雑賀城上空に布陣する。

その後彼らの無人輸送艦隊が前進してくるのでそれを迎撃。だいたい三隻沈めたらそのまま鈴木家艦隊の横を抜ける』

「三隻以上沈めてもよろしいのでしょうか?」

 “曳馬”の質問に順慶はしばらく考えると「いいんじゃないか?」と答える。

「Jud.、 どうせですから全部沈めましょう」

・十ZO:『あれ? これって国際問題になるのでは御座らんか?』

・金マル:『大丈夫、大丈夫。いざとなったらセージュンが交渉するから』

・● 画:『それで鈴木家とも戦争するのね』

・副会長:『いや待てお前ら! 何を危険な事をしようとしてんるんだ!?』

・天人様:『あんたが交渉する事?』

・副会長:『そうだ……いや、違う! いいか! 変な事はするなよ! するなよ!?』

 これ、フリよね?

 どうやら皆同じ事を思っていたらしく神妙に頷いた。

「まあ、そう言うことだけど他に質問は?」

「では私から。伊勢湾で別れる際の編成は?」

 衣玖の言葉に頷くと“曳馬”に頼み、表示枠を開く。

「岡崎に向かう部隊は敵の目を引きつける囮。これはこの曳馬と護衛艦三隻。残りは輸送艦の護衛をしながら浜松へ。

秀忠公には浜松港に向かってもらうわ」

 敵の狙いは私と秀忠だが秀忠が捕まるほうがまずい。

「で、囮の方だけど今此処に入る連中と忍者と英国王女。これで行くわ。

少数精鋭ってのもあるし、浜松の方に護衛を多くしたいから」

「現在の敵の配置は?」

 元忠の言葉に頷くと伊勢湾の地図を表示枠に映す。

「安土は依然として伊勢に待機。P.A.Odaは伊勢湾を封鎖すべく第七艦隊を派遣しているわ。

私たち囮部隊はこの第七艦隊の注意を引きつけながら岡崎に向かうわ」

 織田軍第七艦隊は柴田・勝家が乗船する北ノ圧を旗艦とした艦隊だ。

 六天魔筆頭の柴田には出会いたくないが……。

━━ま、出会ったら出会ったで、臨機応変に動きましょう。

「さて、他に質問は?」

 質問は無い。

 皆決意を秘めた顔で此方を見、頷く。

「それじゃあ、秀忠さん。合図を」

『皆、厳しい行軍になるが我等なら出来る。誰一人欠く事無く岡崎に帰ろう』

「「Jud!!」」

「「了解!!」」

 表示枠が閉じられ、皆配置に着く。

それを確認すると“曳馬”が頷き、自分の周囲に表示枠を展開した。

「これより全艦、筒井を離脱します。皆様、第二種戦闘準備で待機をお願いします」

 僅かな揺れの後、曳馬が離陸した。

 それに続き周囲の艦も離陸を開始する。

 夜明けの筒井を二十一隻の航空艦が上昇を開始した。

 

***

 

 筒井を離れ鈴木領に入ると徳川艦隊は高度を低くし山々の間を抜ける。

 此方の離脱を察知した織田軍は直ぐに筒井城に向かったがこちらに追いつく事は不可能だろう。

 まず最初の作戦が成功し安堵した皆は鈴木家艦隊との接触まで自由に休憩することになった。

 鳥居元忠は曳馬内部の休憩室にある椅子に座り武具を磨いている。

 彼は自分の槍がしっかりと磨かれたのを確認すると頷き、刃に布を巻く。

そして休憩室の入り口の方を見れば衣玖が入って来た。

「元忠様、こちらにいらしたのですか」

「うむ。艦隊戦ならば必要は無いとは思うが、念のためな。ところでわしに何か用か?」

「はい、総領娘様が何処にいらっしゃるか知らないかと……」

 衣玖の言葉を遮り指差せば、そこには椅子にもたれ掛かり眠っている天子が居た。

 衣玖は「まあ」と小声で言うとこちらとテーブルを挟んで反対側に座り、向かい合う。

「昨日から徹夜で準備を手伝っていたからな。疲れているのだろう」

 自分が此処に来た時には彼女は既に寝ていた。

 自分の弱みを見せるのを嫌う彼女の事だ。

誰も居ないところで休憩しようと思っていたのだろう。

「総領娘様は変わりました。それも良い方向に」

 それは自分にも分かる。

初めて会った時よりも自然に笑うようになり、誰かを気遣うようになった。

━━わしの見込みは正しかったか。

 初めて彼女を見たとき危ういと思った。

 誰にも心を開かず聳え立つ塔のような彼女。

だがその足場は脆く、今にも倒れそうであった。

 だがこの七年で彼女は多くの人と知り合い、支えられた。

 その事を彼女も認める様になり、彼女の才能は確実に開花しつつある。

「衣玖殿、これからも彼女には支えが必要であろう。彼女の支えになってあげて欲しい」

「ええ、そのつもりです。でも総領娘様を支えるのは私だけではなく武蔵の皆様や、元忠様、あなたもです。

そうやって心を紡ぎ、結束させる事こそ未来への道だと思っています」

 未来への道……か。

 自分達の未来はどうなっているのだろうか?

 この先に待つのは希望か絶望か。

だがたとえどんな未来であっても自分達なら乗り越えられる気がする。

 そう思っていると寝ていた天子が目を覚ます。

「う……ん……?」

 彼女は暫く寝惚け眼で周囲を見ると、こちらと目が合う。

それから暫く固まっていると状況を理解したらしく顔を赤くし慌てて立ち上がった。

「な!! ちょ!! ぎゃ!!」

 立ち上がった際に足を机の角にぶつけたらしく蹲る。

暫く蹲っていると天子は涙目になりながら此方を睨む。

「み、見た!?」

「ええ、それはもうバッチリと。お口を大きく開けて寝ていましたね」

 衣玖が悪戯っぽく笑うと天子は「ぎゃー!!」と頭を抱える。

 それから暫く机に伏せていると顔を上げる。

「お、乙女の寝顔を見るなんて失礼だわ!!」

「うーむ? 乙女と言うより幼子の寝顔……おおっと!!」

 プラスチックのコップが投げつけられ慌てて避ける。

「まあまあ、誰にも言いませんから」

「く!! 屈辱だわ!! 疲れていたとはいえ、こんな所で寝るなんて!!」

 そう唸る彼女に苦笑すると衣玖と顔を見合わせ笑った。

 それから休憩室の壁に掛けられている時計を見ると自国は午前七時を指していた。

「そろそろか?」

 そう言った直後艦内放送が始まる。

『“曳馬”より皆様へ。間もなく雑賀城周辺に到着します。皆様、戦闘の準備をお願いします』

 さて作戦の第二段階だ。

 本番はこの次だが、もしもという事もありえる。

 天子と衣玖と顔を合わせると頷き、艦橋に向かうのであった。

 

***

 

 午前七時半。

 雑賀の山を抜けると眼前に太平洋が広がった。

 僅かな平地には中規模の城があり、その上空には鈴木家の艦隊が集結していた。

「鈴木家艦隊を確認しました。艦数は二十八隻。前方に輸送艦を整列させています」

「予定通りね」

 “曳馬”の言葉に頷く。

「鈴木家へ通神、繋いで」

「Jud.」と“曳馬”が頷いた瞬間、警報が鳴り響く。

「どうしたの!?」

「当艦隊の後方に航空艦が出現。数は三隻、所属はP.A.Odaの鉄鋼船、長久手、小牧山、墨俣です」

「なんですって!?」

 馬鹿な!? 追っ手が追いついたのか?

 だがそれにしては速すぎる。

 相手は足の遅い鉄鋼船だ。とてもじゃないが追いつけるとは思えない。

ならば……。

「………八雲、紫!!」

 敵は此方の考えを読んでいたのだ!

「鈴木家艦隊が動き始めました。鈴木家艦隊、輸送艦を下げ前進してきます」

「総領娘様!!」

「ええ! 分かっているわ! 織田が来た以上、鈴木家は中途半端なことが出来なくなった。来るわよ!!」

「敵艦隊より砲撃、来ます」

 鈴木家艦隊から一斉に砲撃が来る。

 それに合わせ後方から織田艦隊の砲撃も来た。

 挟撃を受けた徳川艦隊は障壁で砲撃を弾き、被害こそ出なかったものの非常に不味い状況だ。

「薬師! 策は!!」

『今考えて……鈴木家艦隊に通神を送って!!』

「向こうが返答をするとは思えませんが?」

 『構わない』と永琳が頷くと“曳馬”が鈴木家艦隊に通神を送った。

 

***

 

 前後を挟まれた徳川艦隊は陣形を変えた。

 まず物資を運んでいた輸送艦を自動航行に変え搭乗員を他の船で回収した後、艦隊の一番外周に配備した。

 その内側に航空艦隊を、そして一番中心に秀忠の乗艦している航空艦と残りの輸送艦を配置する。

 鈴木家の艦隊は砲撃の手を止めないが徳川艦隊は止まらず前進の速度を速める。

 一発の流体砲撃が輸送艦を貫き、輸送艦が爆発しながら墜落する。

『ああ!! 俺の船がぁ!!』

 輸送艦の艦長が悲鳴を上げるが無視だ。

「三番艦を前に出して!」

「Jud.」

 陣形の穴が開いた場所に後方の輸送艦が入り、塞ぐ。

 その直後、後方から放たれた流体砲撃が曳馬の左舷を霞め、船体が大きく揺れる。

「“曳馬”!! まだなの!?」

「約三十秒で射程圏内です」

 左前方で爆発が生じる。

 別の輸送艦が破壊されたのだ。

 船体を砕かれた輸送艦はそのまま隣の輸送艦にぶつかり、爆発する。

━━一気に二隻も!!

 これ以上敵の攻撃に耐えるのは無理だ。

そう冷や汗を掻いていると“曳馬”が前に出る。

「鈴木家艦隊。射程に入りました」

 そう言うと彼女の前方に流体照準が現れ彼女は狙いを合わせ始める。

『当てれますの!?』

「Jud.、 当たる確立は八割……いえ、必ず当てます」

「なるべく人のいない所狙ってよ!」

「それは……向こうしだいです」

 “曳馬”が仮想引金を引き、長距離流体砲から砲撃が放たれた。

 砲撃は一直線に鈴木家艦隊に向かい、その中央を狙う。

 そして掠めた。

 鈴木家艦隊の中心にいた旗艦雑賀。

その右舷を流体砲撃が霞め、装甲を溶かす。

そして暫くしてから雑賀は艦の外部に爆発を生じさせ黒煙を噴出しながら高度を下げ始めた。

 向こうに死人が出て無ければいいが、緊急時だ。しょうがない。

「全艦最大船速!! 敵艦隊の中央を抜ける!!」

 旗艦をやられた鈴木家艦隊は陣形を崩し、分散する。

 その隙を突いて徳川艦隊が突撃を仕掛けた。

 艦と艦と激突するぐらいの接近をし、警報が鳴るが進み続ける。

 そしてあっと言う間に鈴木家艦隊を抜けると太平洋に出た。

「被害状況は!?」

「全艦無事です。鈴木家艦隊陣形を建て直しました」

 後方の望遠映像には陣形を立て直した鈴木家艦隊の姿が映っており此方を追撃しようとしていた鉄鋼船の進路を塞いでいる。

 その様子に安堵の溜息を吐くと艦橋にある椅子に深く腰掛けた。

「鈴木家艦隊に通神文を、謝罪の言葉と感謝の言葉を」

「Jud.」

 “曳馬”が通神文を送り出すと表示枠が開き、永琳が映った。

『上手く行ったわね』

「ええ、いろいろギリギリだったけどね」

『鈴木家艦隊と話を合わせ、此方の砲撃をまぐれで旗艦に当てたように見せかける。

そして旗艦の航行不能に“動揺した”鈴木家艦隊が陣形を崩している内に徳川艦隊が間を抜け、その後“立て直した”鈴木家艦隊が織田艦隊の進路を塞ぐ。

向こうもなかなかの名演技ね』

 もう一度望遠映像を見れば事故で進路を塞がれた織田艦隊が追撃を諦め、後退を始めていた。

「鈴木家より返神です。向こうの被害は軽微で死傷者はいないとの事です」

「了解。流石ね、“曳馬”」

「Jud.、 将来の目標は浅間様越えですので」

・銀 狼:『それは大きな壁ですわね』

・貧従士:『ええ、途轍もなく大きいですね』

・天人様:『大きすぎて私には越えるのが無理そうだわ』

・あさま:『三人とも? あとでちょーっと話が』

 慌てて表示枠を割ると地図を見る。

 これで作戦の第二段階が終わった。

 これからのは作戦の第三段階。もっとも危険な段階だ。

 だが今はとりあえず乗り切った事を心から喜ぼう。

 そう思い、頷くのであった。

 

***

 

 点蔵はメアリと共に艦内を回り、点検を行っていた。

 先ほどの戦闘で外部に目立った損傷は無かったがもしかしたらという事もあるかも知れない。

 機関部の点検を終え、通路に出ると背筋を伸ばす。

「とりあえず大体の所は回ったで御座るかな?」

「Jud.、 特に問題は見当たりませんでしたね」

 そう言うメアリの顔に若干の疲労の色があることに気がついた。

 彼女も昨日から撤退作業の手助けをしており、あまり休めていない。

━━よく無いで御座るな。

 彼女に無理をさせている。

 本来ならもっと早く気がついていたはずだがどうやら自分もいつの間にか余裕が無くなっていたらしい。

「メアリ殿。自分はこれから残りの甲板の点検に向かうで御座るが、先に部屋で休憩するとよう御座るよ?」

「え、あの、点蔵様。私は大丈夫ですよ?」

「いやいや、メアリ殿疲れているで御座る。無理は良くないで御座るよ」

 そう言うとメアリは少し俯き、もじもじとする。

「…………?」

 どうしたのだろうか?

 もしかして体調が悪いのだろうか?

━━やはり休憩したほうが……。

「メアリ殿、やはり……」

「あの!」

「J、Jud!!」

 メアリは頬を少し赤くし上目遣いで此方を見る。

「その、こんな事を言うと不謹慎と怒られるかも知れませんが……楽しかったんです」

「? 何がで御座るか?」

「点蔵様と、一緒に歩いて船を点検する事が。なんだか一緒に協力し合って行動するのが嬉しくて……」

 一瞬頭が真っ白になる。

 それから強制的に意識を取り戻し頬が熱くなる。

 えーっと? つまりメアリ殿は二人で一緒に仕事をするのが楽しくて、でもそれが恥ずかしくて言えなくて……。

━━な、なんといじらしいので御座るか!!

「メアリ殿!!」

「J、Jud!!」

 思わずメアリの肩を掴み、見詰め合う。

「い、一緒に甲板の点検を! それから何か食事を一緒にするで御座るよ!!」

「Jud!!」

 メアリが満面の笑みになり周囲に睡蓮の花が咲く。

 ああ、外道共がいないというのは素晴らしい事で御座る!!

 そう思っていると通路の角から何かが此方を見ていた。

「…………」

 それは恨みがまし気に此方を見、ベタにもハンカチを銜えている。

本来なら無視すべきなのだろうが此方を見ている人間が問題だ。

「……何をしているで御座るか? 長安殿」

「う、裏切り物め!! 一人抜け駆けでそのような金髪美女と!!

見損なったぞ!! 同志点蔵!!」

「いやいや、見損なったもなにも自分達が付き合っているのは周知の事実では?」

 「付き合っている」という言葉にメアリが頬を赤く染め、両手で頬を押さえる。

「ぐ! そうだが! なんか納得いかん!! もげろこの忍者!!」

 色々酷い事言われてるが今の自分にはそんな言葉は聞かない。

というよりも……。

「長安殿、なんでこっちにいるで御座るか?」

 確か彼は浜松に向かうほうに乗船したはずだが?

「いや、何。愛しの“曳馬”くんを守るのが私の務め」

 「ふ」とキザっぽく髪を掻き揚げた瞬間、“曳馬”が表示枠に映る。

『点蔵様。即刻その人間害物を取り押さえて艦橋まで連れてきてください。艦外に投棄しますので』

 表示枠が閉じられ固まった長安の顔は青ざめているのであった。

 

***

 

「それで? 言い訳をどうぞ」

「い、いや、実は乗る船を間違えて……ぶへぇ!!」

 “曳馬”から高速の平手打ちが放たれ長安が引っくり返る。

 艦橋に連行された長安は縄で拘束されてさながら囚人のように“曳馬”の前に正座させられた。

「ひ、酷いよ!? “曳馬”くん!! そういうプレイなら事前に話を……ぁ!!」

 今度は蹴りが股間に入り様子を見ていた元忠と点蔵が股間を押さえる。

「……正直申しますと今すぐこの汚物を艦外に投棄したいのですが、どうしますか? 天子様?」

「え? わ、私に聞くの?」

 椅子に座り突然話を振られた天子が驚くと“曳馬”が頷く。

「Jud.、 この艦において最も強い権限を持っているのは天子様です。それでどうしますか? 捨てますか?」

「うーん、捨てるのは流石に可哀想だし。かといっていまさら他の艦に移せないし。

とりあえず放置で」

 そう言うと長安が目を輝かせ此方を見てきたので何となく殴る。

「“曳馬”様。間もなく作戦地点に到着します」

 艦の制御を行っていた自動人形の言葉に“曳馬”は頷くと表示枠が展開される。

 ここから艦隊を二つに分け岡崎と浜松に向かうのだ。

「秀忠さん。そっちの指揮頼んだわよ」

『うむ。そちらも武運を』

 表示枠が閉じられると二隻の航空艦と輸送艦たちが此方から離れて行く。

その様子を確認すると“曳馬”の方を見た。

「さあ、こっちも始めましょう」

「Jud.、 全艦速度上げ。これよりP.A.Oda第七艦隊の勢力圏を突破し岡崎に向かいます」

 重力エンジンの音が大きくなり船が加速を始める。

 それを体で感じながら天子は頷くのであった。

「さあ、勝負所よ」

 

***

 

 午前九時。

 敵の勢力圏に侵入してから十分が経ったが敵の姿は全く見えず、何事も無く四隻の航空艦は進んでいた。

「妙だわ」

「はい、敵は此方を既に察知している筈です。なのに敵艦隊に動きがないのは変です」

 衣玖に頷くと表示枠を開く。

 P.A.Oda第七艦隊は伊勢湾北部から全く動かず此方に偵察部隊を出す事もしない。

 最初は伊勢方面の艦隊にも注意したが此方も動く気配が無くなんとも不気味である。

『見逃してくれるつもり……というのはありえませんわよね』

「ええ、雑賀であんな手を打ってでも追撃してきたのよ? 簡単に逃してくれるはずが無いわ」

 敵はどう出てくる?

 やはり例の空間移動か?

 だが今空間移動で敵艦が出てきても振り切り岡崎に向かう事は可能だ。

━━薬師をあっちに置いたのは失敗だったか?

 彼女なら紫の動きを察知できただろうか?

 いや、いまさら愚痴を言ってもどうしようもない。

「とにかく慎重に様子を見ながら……」

 直後船体が大きく揺れた。

 船が急停止をし、その力が艦内に掛かる。

 衝撃に船体が軋み、警報がなり、体が思わず前に吹き飛びそうになるが衣玖が慌てて此方の体を羽衣で掴んだ。

 その際に羽衣が体に食い込み息が詰まる。

「だ、大丈夫ですか!!」

「え、ええ。朝食べたものがリバースしそうになったけど大丈夫よ。それよりも……」

 周りを様子を見れば衝撃で倒れた自動人形たちが立ち上がり始めていた。

「皆無事!?」

『J、Jud.、 少し頭をぶつけましたけど大丈夫ですわ』

『自分とメアリ殿も無事で御座る』

『わしも大丈夫だが長安が……』

「長安さんが?」

『衝撃でふっとんで気絶しおった。ちなみにアマテラス殿達も無事だ』

 約一名を除き無事なようなのでほっと胸を撫で下ろす。

「一体何が起きたの?」

「船体を不可視の力で止められました。原因は恐らくアレです」

 望遠映像が映され、そこには無数の金属の何かが空中に浮いていた。

「恐らく空中機雷の一種と思われます。機雷から電磁網を展開し、此方を捕縛する。

西側で使われている兵器の改良型と判断します」

 なら自分達は網に掛かった魚と言うことか。

「て、ちょっと待ってよ! これが罠なら!!」

「罠を張った狩人が来ます!!」

 衣玖が叫んだ瞬間、空が歪み流体砲撃が放たれた。

 流体砲撃は曳馬の左右で同じく網に掛かった船の胴体を貫き、二隻の航空艦が砕け落ちる。

「前方よりステルス障壁を解き、敵艦四隻来ます! うち一隻は第七艦隊旗艦ヨルムンガンド級戦艦北ノ圧です!!」

 正面に現れる漆黒の艦影に皆息を呑む。

「━━最、高!」

 思わず皮肉が出るほど状況は最悪だ。

「敵艦後方より飛空艇、来ます!」

 北ノ圧後方より真紅の飛空艇が一隻現れる。

『あれは<<赤い星座>>の!!』

 最近噂を聞かなくなっていたが織田と合流していたのか!!

 飛空艇は曳馬の上方に待機すると飛空挺から影が振ってきた。

 影は曳馬の甲板に着地すると立ち上がり乱れた髪を櫛で後ろへ梳かす。

 そして櫛を服に戻すと浅黒い肌にサングラスを掛けた男は首を一回回した。

「P.A.Oda所属六天魔五大頂、佐々・成政」

 男の腕に百合の紋様が映り広がって行く。

そして大きく息を吸うと駆け出した。

 拳を振り上げ狙うのは曳馬甲板に搭載された長距離用流体砲。

 それを正面から殴りつけた。

「咲け!! 百合花ァ!!」

 直後流体砲に亀裂が入り、砕け散った。

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