緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第二十三章・『後ろ見守りの従者』 我が儘でしょうか? (配点:竜宮の使い)~

 浜松へ向かう徳川艦隊の中列を航行する輸送艦に本居小鈴たちが居た。

 船の貨物搬入地区に急造された仮設居住区では筒井から逃れた民達で溢れており、皆不安そうな表情を浮かべている。

 そんな中で小鈴は自分のベッドの上に本を並べ、読みかけの小説を読んでいた。

「随分と落ち着いてるわねー」

 本を読むのを止め、顔を上げれば通路を挟んで反対側のベッドに座っているレンを見る。

「今さら慌ててもどうしようもないし、だったら本でも読んでようかなーって」

「その度胸をそこでカタツムリになってる人に分けてあげたいわ」

 レンが指差す先に白いカタツムリがいた。

 いや、カタツムリではなく盛り上がった布団なんだが時折振るえ、篭った声が聞える。

「う、五月蝿いぞ。小娘共、これは怯えているわけではない!! えーっと、そうだ!

精神統一の修行中だ!!」

 布団が上下に動いたりしながら何か喚くが二人は無視する。

「レンちゃんはこれからどうするの?」

「私はとりあえず武蔵に向かうわ。そこにエステル達が居るはずだから」

 そうか、彼女の目的地は武蔵だった。

 自分は関東に向かうため彼女とは浜松でお別れになる。

その事に寂しさを感じているとレンが眉を下げる。

「関東までエスコートしましょうか?」

「え? でも……」

「“でも”じゃ無い。そんな顔している女の子を一人で行かせられないわ。

まあ一度一緒に遊撃士協会の支部に寄ってもらうけど」

 予想外の申し出に嬉しくなり、思わずレンの手を握る。

「ありがとう!! レンちゃん!!」

「フフ、これから先も宜しくね」

 互いに顔を見合わせ笑うと輸送艦が揺れた。

 それに周りの人々が動揺の声を上げ、カタツムリ布団が跳ねた。

「……そう言えば、艦隊を二つに分けたらしいけど囮の人達、大丈夫かしら?」

「え、そうなの?」

 そんなこと説明されていない。

一体何処からの情報なのかレンに聞くと彼女は表示枠を開き悪戯っぽく舌を出した。

「ちょーっと、ハッキングをね」

「ハ、ハッキングって……大丈夫なの?」

「痕跡は残してないから大丈夫よ。慌ててたせいでセキュリティも低かったし」

 セキュリティが低いって……。

 仮にも軍所属の輸送艦だ。

素人にハッキングされるはずが無いが……。

━━レンちゃんって何者なんだろう?

 自分と同い年かそれより幼そうなのに言動は大人びていて落ち着いている。

それにとても強かった。

「レンちゃんって妖怪?」

「そう言う風に言われたのは始めてだわ……」

「う、うん。そうだよね。人間だよ……ね?」

「私は純粋な人間……いや、そうとも言えないかもね……」

 言葉を濁し苦笑する彼女を見て今の質問が失敗だった事に気がつく。

人は皆、知られたくない事の一つや二つある。

それを他者が訊くのはよくない。

「……あ、その、さっきの話しだけど囮ってどういう事?」

「徳川は私たち民間人と徳川秀忠を逃がすために囮艦隊を編成して織田の勢力圏に突入、敵の目を引きつけているらしいわ。

それで囮の方だけど、あまり状況は芳しくないらしいわ」

「……芳しくないって?」

「囮艦隊の旗艦だった曳馬と連絡が途絶えたらしいわ。

向こうで何かあったと見るべきね」

 その言葉に不安を感じる。

 向こう大丈夫なのだろうか?

 そう思いながら輸送艦の天井を見上げるのであった。

 

***

 

 戦場は静止していた。

 誰もが甲板中央に注目していた。

 曳馬甲板中央では鬼と天人が正対している。

 鬼は余裕満面の雰囲気でそれに対する天人は冷や汗を掻き、慎重に武器を構えている。

「お、おい? どうなってんだ?」

 誰かが言った。

「し、知るかよ! でもこれってヤバイんじゃないか?」

「なんでウチの貧乳様動かないんだ?」

「動かないんじゃねえ、動けねえんだ」

 中年の男の言葉に皆が彼に注目した。

「強者同士の戦いってのは刃を交える前から始まっている。そこで分かっちまったんだ、うちの貧乳様は。

圧倒的な力の差を……」

「そんな……」

 皆が動揺する。

そんな中「だが」と中年の男が続けた。

「うちの貧乳様がそれで折れる奴じゃないってのは皆知ってるだろ?」

「……ああ」

「心と体の硬さはスゲーもんな!!」

「ばっか、それがいいんじゃねーか! あの硬さが!!」

 動揺していた皆が落ち着き、逆に意気が上がって行く。

「おい、徳川の!! 何盛り上がってやがる!!」

 反対側、術式盾を展開していたP.A.Odaの兵士達が此方を指差す。

「最強なのは柴田先輩だ! 勝つのは俺らだ!!」

「そうだ!! 貧乳信者はすっこんでろー!!」

「うるせー、あの平原っぷりが良いんだよ!!」

「おい! 動くぞ!!」

 どちらの声なのかは分からない。

だが皆同時に二人の方を向いた。

 青が動いた。

 それに対するのは黒の鬼だ。

 天子の緋想の剣が柴田の“瓶割”に受け止められたのと同時に戦場が再び動いた。

「よし、やるぞ!! 三河魂見せてやれ!!」

「「Jud!!」」

「こっちも行くぞ!! 天下布武の力、見せてやれ!!」

「「Shaja!!」」

 両者の掛け声と共に両軍が激突した。

 

***

 

 初撃は弾かれた。

 それは良い。

問題はどのように弾かれたのかが分からない事だ。

 敵は攻撃の直前まで構えておらず、此方を見てもいなかった。

 それなのに弾かれた。

 刃が敵の頭を切り裂いたと思った瞬間、柴田の頭と此方の刃の間に“瓶割”の刃があった。

━━どういう反応してんのよ!!

 初撃を外した以上、このまま接近しているのは危険だ。

 後方に跳躍し、敵の反撃を警戒するが柴田は動かなかった。

 彼は先ほどと全く同じ余裕の笑みを浮かべており、武器を構えない。

「馬鹿にしてんのかしら……?」

 柴田は答えない。

その代わりとでも言うように彼は首を横に振り此方を見る。

「三分だ。三分やるから自由に攻撃してみろ」

 その言葉に思わず頭に血が上る。

 馬鹿にして!!

 私は馬鹿にされるのが嫌いだ。

嘗てのことを思い出す。

天界で、他の天人たちから送られたあの蔑みの視線を。

「総領娘様!!」

「…………!!」

 衣玖の言葉に冷静さを取り戻し、頭を振る。

そうよね。頭に血が上って、そんな馬鹿な事で負けるわけにはいかないのだ。

「ほう? なんだ、良い目が出来るじゃねーか」

 冷静に息吐き、緋想の剣を構え直す。

相手との実力差は嫌と言うほど分かる。

だがなんとしてでも喰らいついてみせる!

 身を低くし駆ける。

 敵は鬼族。

強靭な体躯を持ち、並大抵の攻撃では傷一つ付けることは出来ない。

大地を使う能力が使えない今、自分が取れる戦法は限られて来る。

狙うのは目、首、各関節だ。

━━やってやるわ!!

 駆けながら左手を構え、気質弾を発射する。

 狙うのは柴田本人ではなく彼の前方の甲板だ。

 気質弾が甲板に当たると爆発が生じ、周囲が緋色の閃光で包まれる。

その中に飛び込むと柴田の左側に回りこんだ。

 つま先で低空跳躍を行い一気に距離を詰めると敵の首を目指し緋想の剣を叩き込む。

「!!」

 鈍い音が鳴り響いた。

 いつの間にかに首の前に置かれた“瓶割”の刃と緋想の剣の刃が当たり、弾かれたのだ。

━━やっぱり見えない!?

 動揺を隠し着地と同時に敵の背後に回りこむ。

 そして敵の左足関節を裏から狙うが鬼の顔が眼前に現れる。

「あと二分だ」

「っ!!」

 思わず距離を離し、冷や汗を拭う。

 今自分は確かに敵の背後に回りこんだはずだ。

だが敵はいつの間にか此方を向いていた。

 どうやって!?

 敵が此方を追うならあの巨体だ。

かなりの動作が必要になる。

なのに敵は一瞬で振り向いたのだ。

━━まさか……。

 時間も無い。試してみるべきだろう。

 そう思い今度は正面から行く。

 敵の正面に来ると緋想の剣を両手で持ち右上から左下に薙ぐ。

 弾かれた。

だが構わない。

 今度は左上から右下へ。

 弾かれる。

 高速で九連続の斬撃を放つが刃はどれも敵の眼前で弾かれる。

━━やっぱり!!

 敵の動きが分かってきた。

 敵は鬼族の身体能力を活かし高速の瞬発力にて体を動かしているのだ。

 急加速と急静止。

 それを繰り返しまるで止まっているかのように見せかける。

 無茶苦茶だ。

 視認出来ない勢いで腕や体を動かしているならそれを止めるときに掛かる負荷は計り知れない。

だがこの男は己の筋肉を固定し動きを止めているのだ。

「一分」

「だったら……!!」

緋想の剣で敵の脇腹を穿つ。

それと同時に踏み込み、敵と密着する。

そして左掌をほぼ零距離で柴田の顔に向けた。

いくら敵が高速で動くとはいっても密着されては避けれない。

「喰らいなさいよ!!」

 気質弾が零距離で放たれ両者の間に爆発が生じる。

 その衝撃で体が大きく後ろへ吹き飛ばされ左腕に酷い裂傷が生じた。

「……っ!!」

 血が吹き出す左腕を押さえながら立ち上がり敵の様子を確認すれば、鬼が立っていた。

 気質弾を受けたはずの顔には傷一つ無い、柴田は冷めた目で此方を見ている。

━━そんな!? 無傷なんて!!

「はあ……期待外れか? あと二十秒」

 「危険だ」と全身の細胞が警鐘を鳴らした。

 あの男は危険だ。

 これまであってきたどの敵よりも。

 そう思うと同時に敵と距離を離すため後方へ跳躍した。

それと同時に柴田がタイムリミットを告げる。

「行くぞ?」

 直後、視界が一転した。

 空が回り、次の瞬間には甲板が見えた。

そして全身に強烈な衝撃を受け、視界が一瞬途切れる。

━━…………ぁ、え?

 何が起きたのだ?

 自分は敵との距離を離すため跳躍していた筈だ。

 だが今眼前に広がるのはタイル状の曳馬の甲板。

 麻痺していた感覚が戻り、強烈な痛みと口の中に広がる血の味を感じながらようやく自分の状況が理解できた。

 今、自分は甲板に叩き付けれているのだ。

 右足を鬼の腕に掴まれており、鬼が此方を見下している。

━━いつの間に!?

 理解できなかった。

 視認できなかった。

 敵はいつこちらとの距離を詰めたのだ?

 全てが理解できず、混乱する。

「……次、行くぞ?」

 声が聞えた頃には今度は中を舞っていた。

 上空に放り投げられ甲板に背中から叩きつけられる。

「ッァ!!」

 詰まった息を吐き出し、揺れる視界の中で何とか立ち上がる。

 次の瞬間見えたのは放たれる“瓶割”の刃であった。

 銀の一閃は高速で此方に伸び、そして左肩を貫いた。

 

***

 

「総領娘様!!」

 衣玖は眼前で起きた事の半分も理解できなかった。

 分かった事は天子がいつの間にか柴田に足を掴まれ、叩きつけられ、その後放り投げられた後刺された事だ。

 天子の左肩から“瓶割”が引き抜かれ、赤い鮮血が吹き出す。

「総領娘様!!」

 いけない。

あの男はいけない。

今の彼女、いや私たちでは対抗できない。

 天子を救うべく駆け出そうとするが色黒が遮った。

「……退いて下さい」

「悪いが、それはできねーな」

「ならば退いていただきます!!」

 羽衣を右腕に撒き、佐々に向けて連続で雷撃を放つ。

敵は筋力強化した拳で雷撃を弾くがその隙に今度は彼の周囲に球状の雷撃を放った。

 雷球は敵の周囲でバウンドすると彼を狙い全方位から襲い掛かる。

「っち!! 咲け、百合花ァ!!」

 佐々が右足を強化し踏み込むと周囲の甲板がめくり上がり、雷球を防いだ。

 まだです!!

 指を空に挙げ仮想黒雲を召喚すると敵の頭上に雷を落とす。

 それを佐々はめくれ上がった甲板を蹴り上げ、迎撃した。

 空中で閃光と火花が生じ、蹴り上げられた甲板が砕ける。

 その破片を潜り抜けて敵は来た。

━━いけません!!

 手に巻いていた羽衣をドリル状にして突き出し、迎撃するが佐々は突然止まった。

 “しまった”と思う頃には遅かった。

 敵は足を止め、体を捻るとドリルを避け此方の右側面に回りこんできた。

 佐々から此方の脇腹を狙った拳が放たれる。

 咄嗟に衝撃吸収の加護を受けた術式符を多重展開するが拳は鳥居型の障壁を砕きながら脇腹を穿った。

 衝撃と激痛。

 それを脇腹に受け、横に吹き飛びながら蹲る。

 あまりの衝撃に思考が止まるが何とか震える膝を支え立ち上がると構える。

 今のは危なかった。

術式符の展開が僅かにでも遅ければ自分はあの拳に穿たれ内蔵を完全にやられていただろう。

「文系には……厳しい……ですね……」

 思えば自分は今まであまり本気を出して戦っていなかった。

 戦うのは天子の役目で自分はその補佐だ。

それで万事上手く行くと思っていた。

 だが先月の八意永琳との戦いで自分の力不足を知る。

そして今回のこれだ。

「まったく、皆さん凄すぎです……」

 天子も武蔵の皆もこの中でやって来たのだ。

 笑い、ふざけ合いながらも強大な敵との命の削ぎ合い。

よくも平気でいられるものだ。

 果たして自分は皆についていけるのだろうか?

 皆、先に進み続けて、自分は取り残されるのでは無いだろうか?

━━そんなの、嫌です!

 最近何だか少し我がままになった気がする。

昔は周囲から一歩下がり、他の人々を見るのが好きだった。

だが今は共に歩みたいと思っている。

 これって我が儘ですよね?

 人々を見ながらも彼らと共に在りたい。

そんな我が儘が許されるのだろうか?

『衣玖、あんた酷い顔してるわよ?』

 開かれた表示枠に天子が映り、彼女の方を見ればいつの間にか彼女と柴田の間に“曳馬”が立っていた。

「最近、私は我が儘になったのではないかと思いまして……」

『あんた、戦闘中に何考えてんのよ……。まあ、でも、いいんじゃない?』

 「良い?」と聞き返すと天子は頷く。

『我が儘で良いじゃない。私も貴女も生きているの。生きているんだから失敗の一つや二つ有るわ。

もし今、失敗して意気消沈してるならこう思いなさい。

これは“失敗してやったんだ”って。それから立ち上がって、立ち向かう。

今私も失敗したわ。だからちょっと回復してから再起する。

だから貴女も再起しなさい。私は貴女が勝つって信じているから』

 不器用に笑う天子を見ると体に力が沸いてくる。

 そうだ、自分は勝つのだ。

 こんなところで躓けない。

 ようやく取り戻した自然な彼女の笑みを奪わせるわけにはいかない!!

「浅間様!! 例の術式の契約を!!」

『Jud.、ぶっつけ本番ですが大丈夫ですか?』

「はい! 信じられましたから!」

 表示枠に映る浅間が微笑み頷く。

『浅間神社の権限を持って永江衣玖の略式術式契約を承認します!!』

『拍手!!』

 彼女の走狗であるハナミが手を閉じると同時に自分の周囲に多数の表示枠が現れては消えた。

 そして最後に現れた表示枠に浮かんだ“是”と“非”のうち、“是”を押すと文面が流れた。

『契約執行』

 全てが終わり目を閉じ、息を整えると敵と正対する。

「……どうやらそれが切り札みたいだな」

「ええ、これで勝たせていただきます」

「は! 随分と強気だな!」

「信じられましたので」

 自分の周囲に多数の術式符が浮いた。

それらは天に散り、周囲が黒雲で包まれて行く。

「これは……」

 周囲はあっと言う間に黒雲で包まれ雷が鳴り低い音が鳴り響く。

「創作術式“竜宮舞”。共に歩むことを決意した者の意地と力、お教えいたしましょう!!」

 そう笑みを浮かべると同時に佐々が突撃してきた。

 

***

 

 柴田・勝家は敵の動きに若干感心をした。

 先ほどの刺突。

相手の心臓を狙ったものだ。

 だが後僅かで刃が届くという所で敵は咄嗟に動いた。

 本能的な、自分でも認知していない回避だろう。

それでもその動作によって彼女は致命的な一撃を受けるのを避けた。

━━こりゃあ、割と……。

 初めは大した事ないと思っていたがこの小娘、今後大きく化けるかもしれない。

・スキマ:『あの? 柴田さん? その子、殺さないようにお願いしたいんですけど?』

・大先輩:『あ? 俺が目的忘れてたと思ってんだな? そうだな?

そうだよ! 忘れてたぞ! ばぁ━━━━━━か!!』

・スキマ:『このクソ鬼……! 境界の狭間であれこれしてやろうかしら!?』

・さるこ:『あの、紫さん。落ち着いて、落ち着いて』

・スキマ:『ええ、私とした事がつい熱くなってしまいましたわ』

・大先輩:『熱いのはテメエの化粧だろうが!! BBA!!』

・スキマ:『“安土”さん? ここからあの馬鹿の艦隊吹き飛ばせないかしら?』

・安 土:『私の能力なら可能です。流石は私と判断します━━以上』

・三立甲:『おーい、味方、味方と争ってんなよー?』

 まったく細かい奴だ。

 そう伊勢に布陣している安土に居るであろう八雲紫の様子を思い浮かべる。

どうにもあいつには余裕が感じられない。

 表面的には落ち着いているように見えるがその本心は焦りきっているのだろう。

━━ま、アレを知っちまったら落ち着いてられねーか。

 特別である俺は平気だが普通の奴なら動揺するだろう。

それでも平静を保ち、アレを知った上で行動しているのだから大したものだ。

「さて」

 捕獲対象を見る。

 彼女は肩から吹き出す血を押さえ、額に大粒の汗を浮かべながら鋭い視線で此方を睨みつけていた。

━━いい目だ。

 不屈の闘志を持った目だ。

こういった輩は少々厄介だ。

なぜなら決して諦めないからだ。

いくら叩きのめそうと立ち上がり、立ち向かってくる。

 その上で先ほど感じた“芽”。

 この小娘の“芽”を摘むのは少し勿体無いように感じるが……。

━━計画の邪魔になるといけねえしな。

 ならやる事は一つだ。

 ここでこの小娘を完膚なきまでに叩き潰し、安土まで連れて行く。

 その後の事は此方の世界の親方様とあの連中に任せるとしよう。

 小娘が此方の動きを察知したのか、僅かに後ろへ下がり右手に持つ緋想の剣の柄を握り締めた。

 この小娘は終わりを認めていない。

だが自分がこの敵に終わりを認めさせるのだ。

 “瓶割”を構え、彼女の足を穂先で狙う。

 敵に対して構えたのは彼女に対して多少は敬意を払うつもりだからだ。

「……終わりな!」

 両足に力を込め、飛び込もうとした瞬間眼前に銃弾が迫った。

 それを顔を僅かに逸らし、避けると続いて二連続で銃声音が鳴り響く。

 放たれた二発の銃弾は甲板に辺り兆弾となる。

 一発は此方の右膝を、もう一発は此方の左脇を。

━━良い狙いじゃねえか!!

 迫る二発の銃弾に対して体を動かす。

 足は大股開きにし、左腕は大きく上げる。

 銃弾はそれぞれ狙いを外し、空高く飛んで行き見えなくなった。

「おや? 外しましたか?」

 言葉の先、此方と小娘を挟むように自動人形が立っていた。

 侍女服を着、三丁の長銃を周囲に浮かばせた彼女は黒く長い髪を体の前で結い、切りそろえられた前髪の下には鋭く、澄んだ茶色の瞳を輝かせている。

「あ、あんた!?」

「Jud.、 中央の戦況はどうなっているのか確認したところ、天子様が盛大にフルボッコされていたのでこれはいけないと救援に来ました」

「フ、フルボッコって……」

「おや、違いましたか? あまりに見事なやられっぷりに思わず録画しましたが?」

「それ消せーーーーー!!」

 後ろで喚く天子を無視すると彼女は此方を見た。

「柴田・勝家様で御座いますね? 特務艦曳馬艦長、“曳馬”と申します。

以後、お見知りおきを」

「覚えるかどうかはお前次第だ。雑魚の名前は覚えないつもりでな」

 「成程」と曳馬は頷くと鋭い視線を此方に送る。

「ならば覚えていただきます。貴方方が何を敵に回したのか。それを知っていただくために。

三河自動人形の矜持、身を持って知っていただきましょう!!」

 その声と共に三丁の長銃から銃撃が放たれた。


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