午後5時頃、駿府城から西に3kmの空に19隻の航空艦と1隻の巨大な航空都市艦が滞空していた。
その下では徳川の戦士団1万5千が既に展開しており武器の点検などの戦闘準備を行っていた。
一方駿府城は城を囲むように術式障壁を展開しており、障壁内には浜松の戦いで無事だった3隻のドラゴン級戦闘艦と2隻のクラーケン級戦艦、そして駿河と4隻のワイバーン級護衛艦が密集陣形を取っていた。
既に空は朱色に染まっておりその空の色を反射し赤色になっている武蔵を駿河艦橋から太原雪斎は見ていた。
『浜松で見たときも大きいと思ったが、空に飛んでいると更にその大きさに圧倒されるな』
と表示枠越しに今川義元が笑った。
義元は駿府城の第一層の天守におり、そこから戦場全体を見ている。
「まるで空を翔る龍のようですな」
『ならば我等で龍殺しをするか?』
義元は雪斎の言葉に笑った。前面の大型表示枠には戦場の詳細が描かれており駿府西部の徳川軍には1万5千と、駿府城には6千と描いてあった。
だいぶ減ったな。
浜松の敗戦後多くの逃散兵が出た。その事を踏まえても6千もの兵士が残ったのはせめてもの救いだ。
来るならば来い、と思う。聞けば徳川家康は天下を獲ると宣言したという。ならば今眼前に迫る軍は天下を獲らんとする軍だ。
「家康よ。天下を獲らんというならば、我等が意地、超えてみせよ」
***
武蔵中央前艦・武蔵野艦橋に向井・鈴はいた。鈴の背後には“武蔵野”が表示枠で作業しており艦橋内では多くの自動人形達が表示枠を開き作業を行っていた。
“武蔵野”が作業を止め、鈴の方を向く。
「鈴様、久しぶりですがお願いします━━以上」
「J、jud.、 これ、わたす、ね?」
そう言い鈴は“音鳴りさん”を“武蔵野”に渡す。“武蔵野”は渡されたそれを表示枠と接続し、艦橋中心に戦場の立体図が完成した。
「ネシンバラ様、戦場図を皆様に送信しました━━以上」
『Jud.、 有難う“武蔵野”君。じゃあみんな、作戦会議といこうか』
***
・未熟者:『じゃあ現在の状況整理からいこう。現在のこっちの戦力は敵の2.5倍。数ではこっちが有利だ。同じく航空艦もさっきの戦いで大きく数を減らせた、制空権もこちらの方が掴んでいると思ってもいいだろう』
・副会長:『じゃあこの戦いは包囲戦になるか?』
・十ZO:『いや、急いだほうがいいで御座るよ。伊賀忍者衆からの報告で今川家は北条に援軍を要請したで御座る。』
・未熟者:『Jud.、 だから迅速に駿府城を攻めなきゃいけない』
・貧従師:『空から一気に攻めるといのは駄目なんですか?』
・あさま:『駿府城にはかなり強固な障壁が張られています。それに多数の対空砲があるため輸送艦で強行着陸するのは危険ですね』
・武 蔵:『こちらのほうでも確認しました。駿府城第二層より障壁装置によって障壁が半球状に駿府城を覆っています━━以上』
・未熟者:『だから僕達がとれる行動は一つ、正門より突撃し第二層まで突破。そして第二層の装置を破壊後艦隊によって止めをさす』
・不退転:『簡単そうに聞こえるけどかなり危険ね。駿府城には多数の野戦砲が配備されていて、城の周辺は平地よ。突撃隊は一方的に撃たれる事になるわ』
・未熟者:『Jud.、 この突撃隊だけど━━』
・天人様:『私がやるわ』
・未熟者:『……いいのかい? かなり危険だよ?』
・天人様:『上等。なんだか楽しそうじゃない?』
・● 画:『このドMめ』
・銀 狼:『だったら私も行きますわ』
・魚雷娘:『総領娘様が行くのであれば』
・未熟者:『じゃあ比那名居君、ミトツダイラ君、そして永江君。頼んだよ』
***
「そういうことですけど、いいですか?」
と浜松艦橋にいたネシンバラは隣の家康に声をかける。家康は頷き。
「ならば突撃隊が突入後、直政の部隊を突入させよう。よいか、直政」
『応ともよっ!』
と紅い鎧を着た井伊直政が応えた。
・不退転:『じゃあ私達は何をすればいいのかしら?』
・未熟者:『君とキヨナリ君、槍本多君には駿府北部にある軍港を制圧して欲しい。情報によると軍港では急ピッチで航空艦の修理をしているようだから、彼等の修理が終わる前に制圧して欲しい。できれば航空艦を無傷で手に入れてくれれば今後助かる』
・蜻蛉切:『なるほどつまり軍港にいる敵を全て倒せばいいと、そういうことで御座るな』
・ウキー:『拙僧あまり活躍してないからな。ここら辺でカッコいいところ見せてやろう』
・未熟者:『あー、とりあえず程々に頼むよ』
***
徳川軍の最前列に比那名居天子を中心とした突撃部隊が集まっていた。天子は表示枠を見ており、衣玖は部隊の点検をしていた。部隊の中からネイトが天子に近づく。
「それで、なにか作戦があるんですの?」
「一応こんな感じね」
と天子は表示枠をネイトに渡した。表示枠には部隊が一列に並べられており、先頭に比奈名居天子、永江衣玖、ネイト・ミトツダイラと書かれており、その後方に戦士団が配置されていた。
「両側に少し傾けた術式盾を配置して野戦砲を受け流すわ、そして盾を持った部隊に守られながら城門を爆破する部隊と近接戦闘系の部隊を配置する」
「正面からの砲撃はどうするんですの?」
部隊の点検を終えた衣玖が会話に参加する。
「側面なら受け流す事によって防げますが。正面からとなると盾では少々不安ですね」
そうねぇ。と天子が部隊の方を見ると丸い機動殻がいた。
機動殻は辺りをキョロキョロとしていると近くで武器の点検をしていた兵士に話しかける。
『あのー、康政さんの部隊って何処ですか? え? ここ突撃部隊? 榊原さんの部隊は右翼? あれ? 私右から来たんですけど……』
機動殻が兵士に何度も頭を下げている。そんな様子を見て
「ねえ? ミトツダイラ、あれはどう?」
「アレって?」
と言うので機動殻を指差すとミトツダイラが「ああ。なるほど」と頷いた。
***
ネシンバラは天子から送られてきた作戦を見て頷いた。
「じゃあ、頼むよ。比奈名居君」
『まぁ、あんな城。簡単に陥としてやるわ』
そう言うと天子からの表示枠が消えた。
さて。とネシンバラは戦場の概略図を見る。すでに部隊の配置は終わっておりあとは号令をかけるだけであった。
「それじゃあ、家康様。お願いします」
うむ。と家康が艦橋の中央に立った。
「みな、この戦より徳川は天下に王道を敷く! 共に戦い、共に勝とう!
━━これより駿府城攻略戦を始める!」
徳川全軍が喊声を上げた。
***
号令と同じに突撃部隊が動いた。部隊は縦列に動き、その両翼に術式盾を展開していた。その突撃部隊を迎撃するために駿府城が砲撃を始める。
発射された砲弾は軽い弧を描き、突撃部隊の周辺に落ちる。砲弾が大地と接触し爆風と土砂を巻き上げるがそれを盾で防ぎ突撃部隊は止まらない。
先頭を走る天子が叫ぶ。
「絶対に止まるんじゃないわよ! 止まったらあの野戦砲にやられるわ!」
「総領娘様! 正面来ます!」
突撃部隊の正面を一台の野戦砲が捉えていた。野戦砲から砲弾が放たれ、一直線に飛来する。
「ミトツダイラ! 頼んだわよ!」
天子がそう言うと二人の後ろを走っていたネイトが前に出る。ネイトは銀鎖で先ほどの機動殻を運んでおり、加速をつけると体を捻りながら機動殻を巻いた銀鎖を正面に放った。
「行きますのよ!」
『アデーレハンマー、いっきま━━あいたぁ!!』
砲弾は機動殻と激突し破砕する。破砕の衝撃で機動殻も衝撃を受けるが、着弾直前に鎖を引き衝撃を逃したため直ぐに復帰した。
天子は走りながらそれを見届けガッツポーズをとる。
「どうよ、私の作戦! これなら無傷でいけるわ!」
『いやいやいや! 私全然無事じゃ━━』
「二発目、来ます!」
再び放たれた。
『あいたぁっ!!』
二発目の砲弾も防ぎ、突撃隊は城まで1kmのところまで差し迫っていた。砲撃に続けて銃撃も加わり始めたが依然として突撃隊の速度は変わらない。
「これなら、なんとかなりそうですわね!」
とネイトが言った瞬間表示枠が開き、“武蔵野”が映った。
『興国寺方面より高速で接近する物体5。照合したところ北条・印度連合所属の機鳳“金雀四十六式”です!━━以上』
***
「北条の援軍だね」
と浜松艦橋でネシンバラは言う。それに対し家康は頷いた。
「陸上戦力が間に合わぬため、機鳳を先行させたか。あまり時間はかけられぬな……」
***
駿府城西部。すでに夕闇が深くなっている空に5機の機鳳が飛んでいた。機鳳の主翼には北条・印度のエンブレムが刻まれており、対艦攻撃用の武装を装備していた。
先頭を飛ぶ機体が上昇すると残りの部隊も上昇を開始した。機鳳隊は雲の中に入り、徳川艦隊の上空にでると急降下を開始する。徳川艦隊と魔女隊が迎撃のために射撃を開始するが機鳳は機体を僅かに傾けながら避け、艦隊右翼の航空艦に対して光臨弾を照射した。
光臨弾を受けた航空艦は甲板と主砲を溶かされ破砕する。
残りの艦が砲撃をするが機鳳隊は艦隊の間を抜き、浜松に迫った。右二番目を飛行する機鳳が加速し、浜松に攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、浜松右舷後方から射撃が来た。
『━━━!?』
攻撃を避けるため機体を大きく傾けようとするが間に合わず右翼を砕かれる。機鳳が墜落しながら浜松を見ると右舷から二人の魔女が飛翔してきた。
『武蔵の特務かっ!』
そう叫ぶより早く、機鳳は地面と衝突し砕けた。
***
まず一機!!
マルゴットはそう心の中で叫び、残りの機鳳を見る。すでに機鳳隊は急上昇終えており、旋回に入るところだった。
「マルゴット! 追うわよ!」
「Jud!!」
マルゴットとナルゼは機動殻を加速させ、旋回中の機鳳隊を追撃する。機鳳隊は双嬢が接近すると散開した。一機は駿府方面へ、2機が急降下、そして最後尾の一機が先頭側を上空に傾かせながら急減速に入った。
急減速のため機鳳の表層に大気の層が出来、それを身に纏った状態で後を追う魔女に対して体当たりを行う。それに対し魔女は左右に別れ回避を行う。
機鳳の両翼を抜けると双嬢は正面で合流し、再加速する。減速を終えた機鳳は追撃のために双嬢を追い、光臨弾を発射する。
「あの光、当たるとヤバイよ!」
「光に照らされると溶かされるわけね!」
双嬢と機鳳は艦隊の間を抜けると先ほどの攻撃で高度を落としている航空艦が現れた。
***
艦の後方に出た機鳳は眼前の魔女を確認する。
━━ここで落す!
魔女達が航空艦を抜けるために降下し始めたタイミングでこちらも加速を行う。加速した機鳳は魔女を追うのではなく艦の上方に出る道を選んだ。
航空艦の艦橋を飛び越え、船首に近づくと機体を急旋回させた。急旋回によって主翼と装甲から悲鳴が上がるが構わない。
旋回を終えると再び艦首側に加速し、船底側を狙った。
━━このタイミングなら魔女どもの上方を狙える!
そして船底から影が飛び出して来た。
『━━墜ちろ!』
機鳳から光臨が放たれ影に直撃する。影は形を溶かされ、木製の骨組みを露にする。
『!?』
魔女ではない! 光臨弾によって溶かされたものは航空艦の底部装甲であった。そして穴の開いた艦艇から黒と白の魔女が現れる。魔女は既に砲を構えており。
「Herrlich!!」
弾丸が放たれ両翼を砕かれた。
***
ナルゼは墜落していく二機目の機鳳が墜落するのを見届けると先ほどの航空艦の甲板に手を振った。艦の甲板から兵士が手を振り返す。
先ほどの戦闘は機鳳が上空に移動したため、その機鳳の不意を突く為に破損した船底を貫かせて貰い、その破片を囮にしたのである。
「残りの機鳳は駿府の方に行っちゃったね」
とマルゴットが近づいてくる。
「直ぐに戻ってくるはずよ。それまでにこっちも態勢を立て直さないと」
と言った直後、航空艦の右舷が破砕され炎上した。先ほどの機鳳の襲撃で船体に損害を受けていた艦は轟音を立て、崩れていく。
「なに!?」
「ガッちゃん、上! あの不死鳥だよ!」
上方を見れば浜松港で交戦した不死鳥が急降下を行っていた。不死鳥の狙いは艦隊ではなく、
私達ってわけ!
不死鳥は翼より炎弾を放ち、双嬢に襲い掛かる。ナルゼとマルゴットは墜落する航空艦の下方を飛び、艦後方に抜けた。
「追っては来れないわよ!」
急降下による加速を行っていた不死鳥は止まる事が出来ず炎上する航空艦に突っ込んだ。
マルゴットが確認のため上方に出ると、炎の中から不死鳥が現れた。それも先程よりも一回り大きくなってだ。
「船の炎を吸収したの!?」
マルゴットはそう叫ぶとそうだと言わんばかりに不死鳥は翼を広げ、その灼熱の壁でマルゴットを包もうとする。
「!」
マルゴットは黒嬢の先端を下方側に垂直に立て、一気に加速する。翼の端が帽子に当たり燃えたため、帽子を放り捨てた。
ナルゼはマルゴットの援護のために射撃を行うが弾丸は全て炎の体に遮られていた。
不死鳥が獲物を逃したことによる鳴き声を放つと、ナルゼの方を向き羽ばたこうとしていた。
「やば!」
と言い、身を翻して退避しようとすると表示枠が開いた。
『対不死系種族用射撃、行きます!』
***
藤原妹紅は武蔵方面からの飛来物を知覚した。飛来物は術式加工された矢であり、高速でこちらに飛んでくる。
浅間神社の術式矢ね!
そう思うと同時に翼を大きく羽ばたかせ上方に加速する。すると矢はこちらを追尾してきた。
追尾弾!?
矢から逃れるため方向変換を繰り返し逃れようとするが矢は此方を正確に追い、迫ってくる。
妹紅はそんな矢に舌打ちする。自分のような不死族は通常の攻撃ならば直ぐに治療できるが巫女の放つ術式はその限りではない。直撃すれば再生に時間がかかる上、何らかの術によって此方の行動を制限してくるだろう。
だったら!
妹紅は身に纏っていた炎を翼以外を外し、後方に壁状に射出した。矢は炎の壁と当たり、その追尾能力を失う。妹紅は近くの航空艦の装甲を掴み、それを支点に方向を変えて再び飛翔する。数秒遅れで矢が航空艦に突き刺さった。
矢が飛来した方向━━武蔵の浅草を見ると巫女が弓を構えていた。
浅間神社は木花咲耶姫と密接な神社だと聞いている。
木花咲耶姫━━自分にとっては因縁深い相手だ。異なる世界の巫女とはいえあの女神の巫女だと言うならば少々挨拶をすべきか。
そう思い、妹紅は武蔵に向かって加速した。
***
・あさま:『うわ! こっちに思いっきり突っ込んできましたよ!』
・金マル:『そりゃあ、思いっきり横から撃たれたらねぇ……』
・あさま:『いや、だって。二人を援護しようとして、あと相手基本神道の敵なんで……』
・賢姉様:『そうよねぇ! あいて不死族だから撃ちたい放題よぉ! ほらもう目の前に来てる!』
・あさま:『撃ちたい放題なんて……会いましたぁ!』
***
突撃部隊は駿府城第四層の外壁まで500mのところまで差し迫っていた。
あと450m!
敵の攻撃はその密度を上げ、部隊を攻撃する。突撃部隊の損害は増え始め、銃弾を受け倒れる者が続出する。
あと300m!
砲撃と銃撃だけではなく弓による射撃も始まる。
あと150m!
砲弾が部隊の最後尾に直撃し20名ほどの徳川兵が吹き飛ぶ。
あと100m!
壁が差し迫り、敵は砲撃の射程圏外になった為砲撃を行っていた兵士も長銃による射撃を行う。
あと50m!
城門上に今川兵が集まり投石や砲弾を投げ始める。
そして
「着いたぞっ!!」
誰かが叫んだ。突撃部隊は城門に到達すると円陣を組み、射撃部隊が近くの城壁や城門上の兵士に応戦する。
天子は緋想の剣を地に刺し、周辺の岩を浮遊させると城門上の兵士にそれを射出した。岩は一直線にぶつかり、射撃を行っていた兵士がその衝撃で落下する。
その様子を見た衣玖が叫んだ。
「爆破部隊! 作業を開始してください!」
円陣の中から爆薬を詰め込んだ箱を背負った12名の兵士が城門に向けて駆け出す。
その様子を見た今川兵が爆破部隊に銃撃を行おうとすると上空から岩が降って来た。岩によって櫓の一つが押しつぶされ周辺の兵士も逃散する。兵士の一人が窓から城門前を見ると先ほどまで機動殻を運んでいた人狼が鎖で岩を掴んでいる。
「行きますのよー!」
ネイトは二つ目の岩をスイングしながら投げ飛ばした。岩は弧を描き、城壁裏で破砕する。その間に爆破部隊が設置作業を完了させ、部隊が撤退すると城門前に爆発が生じた。
***
やった!
と爆発による煙の中、天子はそう思った。煙が薄くなり始め、城門が見えて来ると
「壊れてませんのよっ!」
ネイトの叫びと同時に城門がその姿を現す。鉄で作られた城門はその中央に皹が入り、歪んでいたがその形を依然として残していた。
此方の爆弾は全て使い切り、更に先ほどまでの突撃で部隊は疲労していた。城壁側を見れば爆発から逃れるため後退していた今川軍の守備隊が再び集結を始めていた。
━━どうする!?
天子は背中に嫌な汗を掻くのを感じた。守備隊からの射撃が始まる前に部隊に守備陣系を取るように叫ぼうとした瞬間、自分の背後から衣玖が飛び出した。
衣玖は駆けながら右手を掲げ、身に纏う羽衣をその手に巻きつけた。羽衣は螺旋状に巻かれ、先端は細く尖らせる。巻きつかせる動作を終了させると螺旋状になった右腕に電流が走り、回転を始める。
およそ羽衣とは思えないようなその姿はまるで━━。
***
・賢姉様:『ドリルよぉ━━! 世の男の子達のロマン! その太くて硬くて逞しい物で今川家の禁断の門をこじ開けようって言うのね! イッツご開帳―うっ!』
・ホラ子:『永江様、この武蔵には珍しい清純系キャラだと思っていたらまさか人様の秘門に無理やりぶっ刺すような方だったとは……』
・天人様:『あれ? アンタ達衣玖が戦うところ見るの初めて?』
・俺 :『いやー、雷撃飛ばしたりしてんのは見たことあったけどこれは予想外っていうか予想できなくね?』
・未熟者:『雷にドリル……ありだね!』
・天人様:『でもドリルなんて非効率的よねー。デカくて邪魔だし。デカくて』
・貧従師:『そうですよね! 大きくても邪魔なだけですよね!』
・銀 狼:『そうですわ! 物には適度な大きさというものがありまして……』
・魚雷娘:『どうでもいいですけど援護して下さい! あとお三方は微弱電気椅子コースで!』
***
後方からの援護射撃が入ると衣玖は身を低くして飛び込んだ。狙うは城門中心部の亀裂が入った部分。右腕を自分の体に対して垂直に構え回転速度を限界まで上げる。
いけますっ!
衣玖は最後の一歩を強く踏み込み、体を捻らせながら右腕の先端を亀裂に一気に叩き込んだ。
羽衣は亀裂の隙間に入り門を砕いて行くが、門内部の防御術式がこれを弾く。術式によって弾かれ、反れる先端を元の位置に戻すために右腕を左腕で支え大きく踏み込む。
門の亀裂は徐々に広がり、ついに門全体に達したところで衣玖は叫んだ。
「最後の一撃! お願いします!」
その声の直後背後から飛来する物体があった。
機動殻だ。
鎖に巻かれた機動殻は衝撃を逃すため体を丸めていた。
『ふたたび、アデーレハンマー行きまーす!』
機動殻が城門に激突し城門は衝突部分を中心に砕かれ、崩れていった。
城門が崩れ切ると同時に天子は城門内に駆け出し、叫んだ。
「駿府城正門、突破したわよ!」
駿府城に突撃隊がなだれ込んだ。
***
駿府城正門を突破した様子は浜松艦橋からも見えていた。既に榊原康政、井伊直政の部隊が突撃を開始しており先行した突撃部隊と合流しようとしていた。
その様子を満足そうに見ていたネシンバラは表示枠を開いた。
「軍港に向かった部隊、聞こえているかい? そちらの状況を教えてくれ」
その応答のために半竜が映った。
『こちら軍港制圧隊だ。どうにも妙なことになっている』
妙なこと? とネシンバラは眉を顰める。半竜はその様子に頷きながら
『軍港はもぬけの殻、航空艦も放置されたままだ』
***
『本当に誰もいないのかい?』
「ああ、拙僧も上空から偵察したが誰もいなかったぞ」
表示枠の向こうで顎を指で押さえながら思考しているネシンバラを見つつ、ウルキアガは軍港を見た。
今自分達がいるのは航空艦ドッグの近くで、ドッグには修理中の航空艦が放置されていた。
既に空には月が上がり、周囲を月光で照らしていた。
「此方にも誰もいなかったで御座る」
と貨物庫方面から本多・二代がやって来る。それに少し遅れて監視塔方面から“不転百足”に乗った伊達・成実が飛翔してくる。
『こっちも駄目ね』
ふむ、とウルキアガは唸った。軍港という重要施設を今川軍が放置するとは考えられない、かと言って何者かに襲撃されたなら戦闘痕跡が残る筈だが……。
もう一度偵察のため飛翔しようと一歩出たと同時に二代が叫ぶ。
「避けるで御座る!」
何の事だと横を向いた瞬間、正面から突風と強烈な衝撃が来た。
***
二代は自分の前にいた半竜が吹き飛ぶのを見た。
半竜は何かに正面から高速で激突され航空艦ドッグに落ちていく。
━━何処からの攻撃で御座るか!?
蜻蛉スペアを構え直し、次の攻撃に身構えると上空から空気の震えが来た。危険を察知し上を見ず、後ろへ大きく翔けた。
その約1秒後、先ほどまで立っていた場所に巨大な物体が突き刺さった。物体は連続して降り注ぎ、そのうちの2つは伊達の副長の頭上に飛来する。
後退中に横目で成実を見れば、彼女もまた右へ大きく跳躍していた。
二代は後方に着地すると蜻蛉スペアを構え、飛来物を確認する。それは巨大な六角形の鉄柱でその上方には注連縄が締められていた。
━━御柱!?
「何者で御座るか!」
すると上空から二人の人物が飛来し、御柱の上に着地した。
一人は紅い服に巨大な円形の注連縄を背負った女性で、もう一人は縦に高い麦藁帽子を被った少女であった。
背の高い紅い服の女性が鋭い目で此方を見る。
「信濃・真田家。八坂神奈子!」
麦藁帽の少女が不敵な笑みを浮かべながら
「甲斐・武田家。洩矢諏訪子だよ」