曳馬右舷に着いた戦艦の甲板上で銀狼が駆けていた。
彼女は額に冷たい汗を掻きながら駆け、周囲を警戒している。
それを赤の雌豹が追いかけた。
雌豹は手に持つ銃剣を狼に向け銃撃を放った。
「っ!!」
狼が横へ跳躍し銃撃を避けると肩から二本の銀鎖を放ち、近くの資材箱を掴むと雌豹に投げつける。
敵はそれを後方への跳躍で回避すると口元に笑みを浮かべ、慎重に距離を離し始める。
━━厄介ですわ……!
そうミトツダイラは思った。
敵は狩を行っている。
此方を追い詰めじわじわと体力を奪い、仕留める。
狼も狩を行う動物だが、敵と自分の間にはとある差が生じていた。
それはこの脇腹から来る激痛だ。
視線を下げ、自分の脇腹を見れば赤く染まっていた。
敵のチェーンソーに気を取られた隙を突かれ、攻撃を受けた。
寸前の所で回避したため敵のチェーンソーに内臓をやられずに済んだが、出血が酷い。
━━いくら半人狼とはいえ、この出血はいけませんわ……。
敵もその事を理解しており、先ほどから自分を走らせている。
このままでは出血多量で気を失う。
「なら、短期決戦ですわね……」
素早い相手を捕まえるのは容易なことでは無いがやるしかない。
乱れた息を整え敵を見据える。
「流石、その傷でまだ動けるなんてね」
「この程度で武蔵の騎士は倒れませんわ!」
駆ける。
敵を覆うように四本の銀鎖を放つとシャーリィは跳躍した。
「だからさあ! 対策はしてるんだよね!!」
「では、これでどうですの!!」
シャーリィが銀鎖に着地すると同時に別の銀鎖が着地された銀鎖を殴りつけた。
「!!」
殴られた銀鎖は大きく揺れ、バランスを崩したシャーリィは直ぐに跳躍し地面に着地した。
そこへ突撃を仕掛ける。
拳を構え、彼女の胸を狙うと敵も後ろへ跳躍しながら迎撃の為の銃撃を放つ。
連射される銃弾の中を駆け抜け、途中数発が体を霞め、傷口から血が吹き出す。
━━構いませんわ!!
敵は銃撃では此方が止まらないと理解すると着地し、手に持つ銃剣の刃を回転させ逆に踏み込んできた。
それに対し今度後ろへ跳躍するのは自分の方だ。
両足で後ろへ飛び、敵が武器を空振るのを確認すると敵の背後に回りこませていた二本の銀鎖に指示を出す。
「敵を穿ちなさい!! 銀鎖!!」
二本の銀鎖が槍の様に放たれシャーリィは一本を避けるが二本目が左肩を掠り、その衝撃で甲板上を転がる。
「今ですわ!!」
転がった敵を狙って駆け出す。
敵は銃剣の銃口を此方に向けるが直ぐに自分の体に銀鎖を巻きつけ、銃弾を弾ける様にする。
「無駄ですわ!!」
「それは……どうかなあ!?」
シャーリィが銃身横のスイッチを押すと銃口下部の装甲が展開された。
「燃やせぇ!!」
装甲内から油が射出され、銃口下に点いた火種と触れると引火する。
眼前に迫る炎を横へ転がる事で避けると髪に着いた火を手で払って消化する。
「……火炎放射器。そんな機能までついているなんて」
此方が立ち上がると同時にシャーリィも立ち上がった。
彼女は愉快そうに顔を歪めると銃口を此方に向ける。
「さあ、仕切りなおしだ!!」
その言葉と共に銃剣より炎が射出され、甲板が炎上した。
***
点蔵は甲板端に追い込まれていた。
周囲は白色で溢れており、赤く輝く瞳が生ある者を自分達と同じ場所に引き摺り下ろそうとしている。
群れの中から一体の動白骨が現れた。
動白骨は錆びた槍を突き出し此方の首を狙うが、槍の柄を掴むとそのまま引き寄せる。
引き寄せられた動白骨は足を掛けられ転び、そのまま手すりを越えて甲板から転げ落ちて行く。
━━百四十二!!
今ので百四十二体目の転落者だ。
周囲にはまだ千を超える動白骨がおり、徐々に包囲を狭めてくる。
━━これは……まずいで御座るよ。
前田・利家の“加賀百万G”は使者と契約する事によって報酬が続く限り無尽蔵に亡者を召喚する術式だ。
その上、敵を不用意に倒すと砕かれた動白骨たちが再生、合体し元の固体よりも大きく、そして強くなる。
その為敵を倒すのではなく、場外へ放り投げることに専念していたのだが……。
「おやおや、そろそろ息が切れてきたみたいだねぇ? どうだい? そろそろ降伏するかい?」
「断る!」
動白骨の群れの後方に居る前田を睨みつけると彼は「やれやれ」と首を横に振った。
「君には打つ手が無いというのに強情だねえ」
そんな事は分かってるで御座るよ。
自分と共に来た部隊はこちらを救援しようとしているが織田の兵と一部の動白骨隊によって足止めを喰らっている。
どうにかしてこの亡者の群れを倒せないだろうか?
このままでは自分、カレー以下になるで御座るよ!?
それは嫌だ。せめて人並みでありたい。
あの時、何故亡者の群れはハッサンのカレーにやられた?
━━敵は亡者、神の力を使い浄化させたで御座るな。
そうなると今度はカレーって一体何なんだという疑問が浮かぶがまあ、それは置いておこう。
「……自分、神属性の技なんて持ってないで御座るよ?」
今此処にいるメンバーの中で神属性を持つ存在。
そんなのは居ただろうか?
いや……いた!
物凄くそれっぽくないが実は大物が一匹。
「あ、ちょっといいで御座るか?」
手を挙げ訊くと利家は「あ、うん。どうぞ」と頷いた。
相手の了承も得られたので腰のポーチを探り、信号弾を取り出すと空に打ち上げた。
「あ、もういいで御座るよ?」
「どうも……じゃなくて! なんだい! 今の信号弾は!!
あまりに普通に撃つもんだから最後まで見てしまったじゃないか!!」
そんなこと言われてもなーと思う。
「いや、救援を呼んだで御座るよ」
「救援? この状況でかい? 誰がこの動白骨の群れを突破して君の所に来るというんだい?」
「もう来たで御座るよ?」
指差す先を利家が「え?」と振り返ると白の光が亡者の群れを突き抜けていた。
光が通った場所に道が出来、動白骨達が宙に舞う。
そして此方の正面にいた動白骨が後ろから体当たりをされ、吹き飛ぶと目の前に白の毛むくじゃらが着地した。
「呼ばれて飛び出てって、やつだァ!!」
アマテラスの頭の上でイッスンが跳ねるとアマテラスは此方を庇うように敵に向かって唸る。
「は、はは! なんだいそれは! この間抜け面の犬が君の言う救援かい!!」
腹を抱えて笑う利家に頷くとアマテラスの頭を撫でた。
「救援感謝で御座る」
「おうおう! いいってもんだ! 正直言うとオイラ達のこと忘れてんじゃないかって少し不安だったんだぜ!!」
うん、正直忘れてた。
というかアマテラス殿、遠目から見たらただの犬で御座るしなー。
「というか、なんでェ!? この亡者の群れは!」
「前田・利家の“加賀百万G”で御座るよ。敵は亡者と契約して無尽蔵に動白骨を召喚してるで御座る。
自分では亡者に対して有効的な攻撃が出来ないから呼んだで御座るよ」
「なるほど! そう言うことならオイラ達に任せなァ! 行くぜェ、アマ公!!」
アマテラスがイッスンの応じるように一回吠えると前に出た。
「やれやれ、確かにさっきの動きただの犬じゃ無いみたいだけどそれだけじゃ僕の“加賀百万G”は……」
「一閃!!」
直後前列の動白骨が弾けた。
砕け散った動白骨たちは流体に分解されて行き、空から光の雨が降る。
「……は?」
突然の事に固まっていた動白骨が一斉にアマテラスに襲い掛かる。
それに対しアマテラスは後方へ跳躍すると背中に勾玉を召喚し、流体弾を連続発射する。
流体弾を喰らった動白骨達は傷口から分解されて行き、光となって崩れる。
「いやいやいや!? なんだいそれは!?」
「彼女はこう見えても天照大神。神道の頂点で御座るよ。
つまりその体は全て神気で出来ており、霊体系種族にとっては全身凶器のような物で御座るなあ」
此方の言葉に初めて亡者の群れが動揺した。
「さあ!! 行くぜェ!!」
アマテラスが行き、再び流体の光が咲いた。
亡者の群れはその隊列を崩し、大きく広がり始めたのであった。
***
眼前に迫った雷撃を成政は咄嗟にしゃがむ事で避けた。
周囲は術式によって召喚された仮想雲海で埋め尽くされており、黒雲を雷光が照らす。
その中を敵は舞っていた。
体を回し、羽衣を靡かせ踊るその姿はまさに竜宮に住まう天女だ。
━━こいつ、笑ってやがる!
敵は舞いながら笑みを浮かべる。
手が差し伸べられた。
誘われているのだ。「共に踊るか?」と。
「は! 面白え!!」
拳を構え駆ける。
そして舞う敵を正面から殴りつけた。
殴りつけたはずだった。
拳は狙いを外し、虚空を切る。
そこへ雷撃が来た。
「!!」
左腕で雷撃を防ぐと後ろへ跳躍する。
しかしそれよりも早く敵が眼前に来た。
「無粋な方。それでは女性に嫌われますよ?」
天女が回り、周囲の黒雲から雷撃が放たれる。
その全てを避けれないと判断すると逆に踏み込み、敵の顔面を狙う。
だがまた外れた。
拳は空振り、体制が崩れた此方の腹部に天女の蹴りが入る。
後ろへ吹き飛びながら咄嗟に甲板を殴りつけると反動で跳躍し、此方を狙った雷撃を全て避けた。
そして一回転の後、着地すると敵との距離を少し離した。
━━こりゃあ一体……。
***
「あー……これは佐々には少しきついわ」
安土の食堂で伊勢の戦況を見ていた不破・光治はそう言った。
「あの、どういう意味ですか?」
自分の正面でテーブルに体を凭れ掛けていたチン……いや、触手が訊いて来る。
「佐々、不器用だから女の子の扱い下手なんだよねー。だからさっきから反撃食らってる」
「どういうことですか?」と触手━━森・長可が体を曲げるのを見て苦笑する。
「今さ、佐々は舞に誘われてるんだよ。“一緒に踊りませんか?”って、なのにあの男は正面から強引に向かってるわけ。
これ、つまり強姦だよ? 女の都合考えないで男の都合だけを押し付けようとする。
そうやってる限りは永遠に拒絶されちゃうわけ」
相手は舞の中で変幻自在に動く。
舞を無視したり、ついてこれなかった敵に対しては強烈なカウンターが入るという術式だろう。
武蔵には防御特化の踊り子が居た筈だ。
ならば彼女はカウンター特化の踊り子と言うことだろう。
相手の心を知り、共に舞わなければ弾かれる。
佐々にとっては一番やりづらいタイプの相手だろう。
「ま、いいんじゃない? 一度女心に揉まれてくれば?」
そう笑うとガラスコップに入っていた水を飲むのであった。
***
━━いい感じです。
そう永江衣玖は思った。
体が軽い。
今までの中で一番良い舞が出来ていると思う。
竜宮の使いは竜神に仕えるものであり竜神に奉納する踊りを皆習っている。
また、特別な思いや感情を伝える際にも竜宮の使いは舞う。
私は正直言って舞が下手だった。
奉納の舞は仕事のためきっちりと行っていたがそれ以外の舞はどうにも行う気になれず練習をあまりしていなかった。
その為、昔同僚に「それじゃあ、婚期逃すわよ」とか言われたが男性の前で踊るなど恥ずかしすぎて自分には出来そうに無いと思った。
だが今、自分は敵ではあるが男の前で舞っている。
それも今まで一番上手く。
━━皆さんに感謝ですね。
今舞えているのは総領娘様と徳川の皆のおかげだ。
仲間に信じられ、信じ返す事で恥ずかしさなど何処かへ飛んで行く。
誰かの為に舞うのがこんなに楽しく、気持ちの良い事だったとは。
敵が来る。
敵は再び正面から、強烈な敵意を乗せながら拳を放ってくる。
「無粋な方」
舞の要領で、つま先で立ち、回る。
敵の拳は此方の胸先を通り、空振る。
その間に回りながら敵の背後に回りこみ右手の人差し指と中指を合わせ、そこから雷撃を放った。
それに対し敵は強引に体を捻り左拳で弾く。
そしてその体勢で回し蹴りを放ってくるが腰を捻り羽衣を回し蹴りを受け止める。
その足に羽衣を巻きつけようとした瞬間、敵は軸足で無理やり体を後ろに引き避けた。
敵を逃した羽衣は一瞬宙を彷徨うが直ぐに元の位置に戻り、共に舞い始める。
此方を睨む敵を見ながら衣玖は彼を“不器用な人”だと感じた。
真っ直ぐで自分を表現するのが苦手な人。
だがそれ故に周りから信頼されている。
そんな彼が自分の知っている彼女と何処か被って見えた。
━━さて、上げていきましょうか。
先ほどからの舞で疲労はあるがそれ以上に気分が向上している。
今なら最高の舞を踊れるだろう。
「テンポ、上げていきますよ? ちゃんとついてきてくださいな」
そう微笑み手を差し伸べると成政が一気に距離を詰めてきた。
***
━━面倒くせぇ……。
敵の雷撃を避けながらそう舌打った。
敵の手の内はだんだん読めてきた。
敵は舞いながら指先と足で黒雲を動かし、常に此方を狙う。
雲の動きは変幻自在でその全てを避ける事はほぼ不可能だ。
いや、一つだけ手段がある。
それは敵の舞いに自分も乗ることだ。
敵が手を動かすならそれにあわせ、自分も動き敵の狙いから逃れる。
彼女の言う“共に舞う”というのはそういう事だろう。
だが……。
━━面倒くせぇ!!
元々自分は人の心にあわせるとかそういう事が苦手だ。
俺は俺だけでいいし、他人の事なんか知ったこっちゃねえ。
そう思っている。
思っているはずだ。
「くそが、どうしてこう俺の知ってる女は全員面倒くせぇんだ?」
突如放たれた羽衣を咄嗟に体を逸らし避けると舌打ちする。
女心だと?
そんなもん俺に分かるわけねーだろうが。
恐らく安土では不破の奴が愉快気にこの戦いの様子を見ているだろう。
それがまたなんだか腹立つ。
━━ああ、そうさ。俺は不器用なんでな……!
拳を構え、ゆっくりと息を吐く。
敵の顔には疲労の色が見て取れ、このまま逃げ切れば相手は自滅するだろう。
だが……。
「あえて正面から、俺らしく行かせてもらうぞ?」
そう言うと天女と目が合い、彼女は優しく微笑む。
“来い”と言ってるのだろう。
ならば正面から行くまでだ。
敵は体を常に動かしているため攻撃を確実に当てるならほぼ密着状態になる必要がある。
問題はどのように接近するかなのだが。
・百合花:『不破、見てろよ? 正面から無理やり行ってやる』
・ふわあ:『うわ、堂々と強姦宣言したよこの男』
・モリー:『そうですよ! 女性には常に紳士的に! 例えば憧れのあの人にだったらまず遊園地デートして、どこかいい感じの店で食事して、そ、それからぁ、それからあ!!
落ち着けーぇ!? 落ち着くんだー!?』
・ふわあ:『うわあ、佐々のせいで食堂でチンコがビッタンビッタンはじめたわー。最低だわー』
・百合花:『てめえら何の話してやがる!!』
表示枠を叩き割ると自然と口元に笑みが浮かんでいた。
「ご友人ですか?」
「ま、そんな所だな」
そう答えると天女は微笑み頷く。
拳を構え、体を低くすると“百合花”を展開する。
「行くぞ」
直後、甲板を砕き、一気に踏み込んだ。
***
永江衣玖は敵が正面から来るのを視認した。
━━まあ、舞に乗ってくださらないんですね?
それが佐々・成政という人間なのだろう。
そちらがそう来るならば、こちらも舞に乗ってくれるまで舞うだけだ。
━━天女の貞淑さ、甘く見てもらっては困りますよ?
腰を回し、腕を広げると体全身を大きく回した。
それによって成政の周囲の黒雲が竜巻状になり彼に迫った。
敵はそれを確認すると自分の正面の甲板を穿ち、隆起させそこを後ろから蹴る。
一直線に吹き飛ばされた甲板は竜巻と衝突し、その衝撃で竜巻が千切れる。
強引だ。
今度はつま先でタップを刻み、その都度落雷が彼を狙う。
それをどれも敵は寸前のところで避けるとどんどん間合いを詰めてくる。
強引だ。だが悪くない。
羽衣の両端を掴むと上半身を大きく回し扇情的に踊る。
それにより羽衣から無数の雷球が放たれ雷球の一部は正面から敵へ、残りは甲板上で跳ね、足元から彼を狙う。
だがそれにも敵は止まらなかった。
正面から来た雷球は全て弾き、足元から来る奴は避けれる者だけを避け、あとは喰らいながらも突き進んでくる。
好ましいです。
そう衣玖は思った。
どうやら自分は少し強引でも手を引いてくれる男性が好みのようだ。
だが、だからと言ってこの間々相手の手を取ってあげるつもりも無い。
恋愛とは難易度が高い方が盛り上がるのだ。
敵は既に眼前まで迫っており、拳には百合の紋様が展開されている。
もはや後ろへ逃れるという事も出来ないだろう。
ならば……。
「最後の舞です」
体を揺らし、羽衣を振り、それで巨大な龍を形作ると自分の後方に巨大な雷の龍が現れた。
「龍神降ろし」
青き雷の龍が咆哮を上げる。
そしてその口から大出力の雷撃を放つと成政を飲み込んだ。
周囲は閃光に包まれ、全てが一瞬青白となる。
その光りの中から黒が現れた。
「!!」
成政は全身に裂傷を負い、体の各所に火傷を負いながらも拳を放つ。
━━お見事です!!
そう心の中で賞賛の言葉を送り、右手に羽衣を巻き、ドリルにすると放つ。
「咲け! 百合花ァ!!」
拳とドリルの先端が激突し、衝撃が生じた。
***
「決着が着きましたね」
武蔵野艦橋の屋上で茶を飲みながら椅子に座っていたホライゾンがそう言った。
眼前の大型表示枠には先ほどまでの相対戦の様子が映されており、皆が注目している。
「フフ、良いものを見せてもらったわ。彼女の舞、なかなか素敵よ」
そう言ったのは女装に後ろから抱きついていた喜美だ。
それに隣の浅間が頷く。
「でも、衣玖って舞が出来たんですね」
「あら? 気がつかなかった? あの子の動きを良く見ればあの子が舞を嗜んでいるのが分かるわ」
「そうなんですか?」と訊いたのは米菓子を食べていたアデーレだ。
「舞をする人間はね、何時も体でリズムを取っているのよ。普段歩くときの歩調、人と喋るときの音程、そういった所に普段からの習慣が現れるわ。
ただあの子、舞があまり好きではなかったようだけど変わったようね」
「比那名居の成長に合わせて、永江も成長しているという事か?」
正純の言葉に喜美は「Jud.」と頷くと嬉しそうに目を細める。
「あの子、これからどんどん伸びていくわよ?」
「そりゃあ、頼もしいなあ」
女装がそう笑い、皆も頷く。
『総長、ナイちゃん達準備できてるけど救援に向かう?』
表示枠に魔女服のマルゴットが映り女装が首を横に振った。
「あー、大丈夫大丈夫。いまネシンバラの奴が手をうったから」
「ナイト、そっちは浜松と合流してくれ」
正純の言葉にマルゴットが頷くと表示枠が閉じられ、後方から黒と白の影が飛び立っていった。
その様子を見届けるとホライゾンは茶を啜り正面の大型表示枠を見る。
「こちらも色々有りますが取りあえず、この相対戦。衣玖様の負けと言うことですね」
***
穴だらけになった曳馬甲板上で佐々・成政は立っていた。
体中から血を流し、髪の一部は焦げて炭化している。
そんな姿になりながらも彼は仏頂面で目の前で尻餅を着いている衣玖を見下ろしていた。
肩で息をし、大粒の汗を掻いている衣玖と目が合う。
「俺の勝ちだ」
「はい、貴方の勝ちです」
最後の一撃、直前に雷撃を喰らったこともあって完全ではなかった。
だがそれでも敵のドリルを砕き、彼女は恐らく右腕を脱臼した。
それにもう体力も限界だろう。
対する自分も予想以上に傷を負ってしまった。
これ以上の戦闘は無理だろう。
そう判断し、踵を返すと後ろから呼び止められた。
「なんだ?」と振り返ると衣玖が頭を下げている。
「有難う御座いました」
「…………」
一瞥し歩き始めると表示枠に不破が映る。
『強姦魔』
取りあえず消す。
それからポケットに入れていた櫛で髪を梳かそうと思い、取り出すとぼろぼろになった櫛が出てきた。
「…………はぁ」
━━新しいのを買わねえとな……。
今度はもう少し頑丈なの買うか。
そう思いぼろぼろの櫛で髪を梳かすと青い空を見上げる。
冬の風は熱くなった体を冷やし、心地よく感じるのであった。