夕暮れに染まる奥多摩の道を姫海堂はたては歩いていた。
彼女の横には杖をついた老婆がおり、はたては時折彼女を支えながら歩く。
「ありがとうねえ、はたてちゃん」
「いえ、何時もお世話になってますから。団子屋さん」
この老婆は武蔵野の方で団子屋を経営しており、自分はその店の団子が気に入ってよく足を運んでいたのだ。
その為いつの間にか顔馴染みになり、今日はちょうどこの老婆が店を閉め家に帰る所で出会ったので送る事にしたのだ。
上空を一隻の輸送艦が通過した。
それ以外にも多くの飛空艇が武蔵から離陸しており、あれらの船は争いを恐れ武蔵から出る人々で埋まっている。
「団子屋さんは出て行かないの?」
「ああ、私かい? 私はほら、足が悪いからねえ。逃げるのに足手まといになる。
それに、ここは自分の故郷だ。どんな時でもここに居たいと思ってるんだよ」
“凄いな”とそう思った。
この老婆は怖くないのだろうか? 戦いに巻き込まれるかもしれない事が。
自分はやはり迷っている。
もともと武蔵ではなく真田側だし、戦う事が嫌だ。
だがこの数ヶ月でこの国が気に入った。だから心の奥底では守りたいとい気持ちがあるのだ。
「はたてちゃんは……ここの出身じゃないだろう?」
「え? あ、はい。真田の方です。なんで分かったんですか?」
そう訊くと老婆は足を止め空を見上げた。
「私もね。元々は武蔵に住んでたわけじゃないんだよ。私の本当の故郷は東北の方でね。そっちの歴史再現で国がなくなって、この武蔵に流れ着いたのさ。
最初は馴染めなくてね、でもほら、この国って色々な人が流れ着くから騒がしいだろう?
だんだんその騒がしさが好きになってねえ、気がついたら新しい故郷になってたのさ。
だからはたてちゃんもきっと此処が気に入るよ。
そしてもし、ここを第二の故郷だと思うなら自分の思うように行動しなさい。
後になってからああすればよかったなんて思わないようにね」
「団子屋さんは……」と言いかけて止める。
老婆は遠く懐かしむように空を見ているからだ。
その後、暫く無言で共に歩いていると老婆が立ち止まった。
「ああ、私の家ここだから。ありがとうねえ」
「あ、はい」
老婆は玄関まで行くと戸を開け、振り返った。
「また今度、店においで」
老婆が家に入るまで頭を下げ溜息を吐き、赤に染まる空を見上げる。
そして表示枠を開くと一つの通神文が現れた。
<<緊急指示。徳川潜入中の全捜査員は即刻帰還せよ>>
はたては暫くその文を見つめていると表示枠を操作し、文章を消去した。
「……後悔の無いように、ね」
そうだ。
自分は鴉天狗。風の住人。自由気ままに、己の思うままに行動をしよう。
そう頷くと翼を広げ、上空へ飛翔するのであった。
***
遊撃士協会武蔵支部を本多・正純とホライゾン、そして女装が尋ねていた。
三人は応接間に通され、西行寺幽々子達と向かい合っている。
「まずは感謝の言葉を。負傷者の手当て、民の誘導にご助力頂き誠にありがとう御座いました」
正純が頭を下げると幽々子は頷く。
「当然のことをしただけよ。遊撃士は民を守るのが仕事だからね」
幽々子の言葉に正純はもう一度頭を下げると幽々子の背後に立っていたエステルが不安げな顔で訊いて来る。
「あの、これからどうするんですか?」
「ああ、私たちは岡崎を放棄し駿府で立て直す。その後のことはまだ決まってないが、おそらく関東に向かうことになるだろう。
北条との約束もあるしな」
関東では概念核の主とやらが自分達を呼んでいる。
それが何を意味するのかは分からないが、直感だがそれを知ったとき自分達は織田や羽柴と対等になれる気がする。
「概念核。少なくとも織田は一つ以上手に入れてるでしょうね。それを何に使うつもりなのかは知らないけど……裏にいる連中が厄介だわ」
「<<身喰らう蛇>>ですね」
言葉を繋げたヨシュアに皆頷くと正純は顎に指を添えた。
「世界各所の動乱などの裏にいる謎の組織、織田が概念核を所有しているなら彼らにも何らかの提供をしてるだろうな」
<<身喰らう蛇>>の全貌が全く分かっていないため、対処が取り辛い。
━━分からない事だらけだな。私たちは。
神州の時もそうだ。
公主に二境紋。創世計画に大罪武装。
こちらでは怪魔に概念核だ。
自分達にはあまりにも知らない事が多すぎる。
だがそれでもこの馬鹿が前に進む事を決め、自分達もそれに続いたのだ。
「分からない事を何時までも考えてもしょうがない。手探りで、少しずつ調べていこう」
その言葉に皆頷くと壁に掛けられている時計を見る。
針は五時半を指しており、そろそろ民を乗せた輸送艦の第一陣が出航する頃だろう。
「それじゃあ、私たちはこれで」
頭を下げ立ち上がると女装とホライゾンも続く。
そんな此方にエステルは声を掛けてきた。
「あ、これから浜松に降りる……ですか?」
「タメ口で構わないぞ? 年も同じくらいだろうし、私はそんなに偉くないからな」
「なあなあ、セージュン、俺総長じゃん、偉いじゃん。敬語!」
「五月蝿いぞ馬鹿」
「く、くそ、思いっきり蔑みの目で見てきやがった!!」
「フ、小者が何か言ってますね。言っておきますが武蔵では総長は人権度最下位です。ちなみにトップはホライゾンなのでよろしく」
馬鹿が「おかしくねえ!?」と騒いでいるが無視だ。
「で、たしかに今から浜松に向かうがどうかしたのか?」
「ああ、うん。さっき連絡があって筒井の方から私たちの知ってる子が来てるらしいのよ。
その迎えに行くから一緒にどうかなって」
「知り合い? 遊撃士協会の一員か?」
そう訊くとヨシュアが笑って首を横に振った。
「訳あって僕たちが預かっている子でね。どうやらこっちに友人と来ちゃったみたいなんだ」
「ほほぅ、その年で子持ちとはなかなかやりますな」
何故かドヤ顔で親指を上げるホライゾンに「こ、子持ち!?」とエステルはやや頬を赤めて目を丸くする。
「子持ちで思ったのですがホライゾン、そう言った事出来るのでしょうか?」
「ホ、ホライゾン。おめえ、つ、ついにそんな気持ちに…………」
高速で回転踵蹴りが女装の顔面に入り、女装が三回転しながら壁に激突した。
「ホライゾン、自動人形ですのでセックスの際にどうなるのかと。浅間様やミトツダイラ様はセックスでばっちり子孫残せますが」
***
・銀 狼:『剛速球で飛んできましたのよぉ━━━━━━━━!?』
・あさま:『と、というか何言ってるんですかぁ━━━━━━!?』
・金マル:『あー、でもナイちゃんそこら辺は気になるかなー? 今の時代だと同性愛でもほら、互いの子種取り出して作れるけど自動人形だとどうなるのかな?』
・● 画:『同人誌だと結構多いわよね。機械と人間の恋、その後の情事。でもその後の事を描いてる作品って意外と少ないのよ?』
・貧従士:『あ、そうなんですか?』
・● 画:『あまり想像がつかないからね。機械と人のハーフで生まれてくるってイメージも無いし』
・不退転:『生まれながらにして機械と人のハーフってそれ、つまりサイボーグよね』
・ホラ子:『成程、つまりホライゾンの子供が出来るならムキムキマッチョの大男ですね』
・あさま:『物凄く限定的なイメージですよね……それ』
・ホラ子:『まあ言っておいてなんですがホライゾン、まだその気は無いので今すぐに必要はありませんね。それにもしかしたらその内方法が分かるかもしれませんし』
・銀 狼:『その内分かるってどう言う事ですの?』
・賢 姉:『神様―――!! 神様――――!! “その内分かる”って期待して良いのよねぇーーーー!?』
***
通神での馬鹿なやりとりに正純は頭を抱えると遊撃士側が目を点にしている事に気がついた。
「……なんか、すまん」
「あ、あはは、うん。大丈夫。大分慣れたから」
いや、それ大分ヤバイ。
いかん、いかんぞ!? このままでは遊撃士協会にまで外道ウィルスが伝染する!
そうしたら国際問題じゃないか?
そう思っていると幽々子は難しい顔をしていた。
「?」
「何だ?」と首を傾げると幽々子は此方を見る。
「……命はどうやって生まれているのかしら?」
「え、そりゃあ、あれだろ幽々子さん。ほら、男と女がこやーって、いやーんって」
女装の頭頂部にホライゾンが高速の肘打ちを入れる。
「そうね。新しい命を誕生させるなら生物は性行為する必要が有るわ。普通ならね。でも……」
幽々子は応接間の窓から日の沈み始め、灯りが灯り始めた奥多摩の町並みを眺める。
「私たちは“どうやって生まれた”の?。そして“今も生まれている”のかしら?」
その言葉に誰も応えられなかった。
考えてはいけない。そんな感覚にとらわれ。得体の知れない不安を感じるのであった。
***
夕日が沈みすっかり暗くなった浜松港。
つい先日までは夜になっても街灯や商店から漏れる光で照らされていたが、今では殆どの店は閉じられ、静まり返っている。
そんな港にある天麩羅屋“大権化大往生!!”の店前にレンと小鈴は居た。
二人は手に揚げたての天麩羅を持ち、小口に食べている。
浜松港に着いた二人は小腹が空いたため浜松の店で食事を取ろうとしたのだが、安土が襲来し港は混乱。
その後、徳川の三河からの撤退が決まったため殆どの店が閉じられた。
そんな中、この天麩羅屋の主人は「退去ぎりぎりまで店開いて、みんなに美味いもん食わせてやりたいからねえ」と退去作業を行う徳川の兵士達や民に天麩羅を配っていた。
「……これからどうなるんだろうね?」
「そうねえ、徳川さんは駿府で再起を図るつもりでしょうけどP.A.Odaは色々と嫌がらせしてくるでしょうね」
三河退去後織田とは停戦になるが、国への攻撃は何も戦だけではないのだ。
浜松を失えば徳川はその経済力を大きく落とし、そこに彼らは付け込んで来るだろう。
遠方、岡崎の方角から輸送艦を含めた航空艦隊が此方に向かってくる。
「岡崎の退去作業は終わったようね」
あれらは徳川の主力だ。
速めに駿府に移し、戦力を温存しようというのだろう。
民の退去作業も進んではいるが何分数が多いため今、港地区は人で溢れかえっている。
「その点、私たちは運が良いのかしら? エステルたちのおかげで武蔵の方に優先して乗れるし」
武蔵。
浜松港に入る前に上空から一度だけ見たが、噂どおり途轍もなく巨大な船だった。
ある意味では事の始点であり中心である武蔵に乗ることは自分にとってどういう意味を持つのだろうか?
こんな緊迫した状況でなければ大いに心躍ったというのに。
「……エステルさんたちは何時頃来るの?」
「そろそろだと思うけど……」
レンがそう言った瞬間、荷物が落ちる音が聞えた。
何だと正面を見れば極東の制服を着た小太りの男が此方を見て、目を輝かせている。
━━な、なに?
「こ、こ、これはぁ!? これはぁ!? 小生が追い求めていた理想!?」
男は小走りに駆け寄ってくると少し息を荒くし、此方を見る。
「だ、だれ?」
「小鈴、私の後ろに。退去の混乱に乗じて変態が表に出てきたのね」
「ああ! いいですよ! その蔑んだ目! 小生、M(そっち)の気は無いつもりでしたが新しい属性に目覚めそう!!」
な、何を言っているんだ?
レンも呆れた様に半目になると少しずつ構え始める。
あ、いけない。ちょっとマジになってる。
レンならあっと言う間に変質者を倒してしまいそうだがあまり場を騒がしくしないほうが良いのではないだろうか?
そう思い、止めようとした瞬間男の肩を誰かが叩いた。
「ん? 何ですか? 小生、今物凄く盛り上がってる所で……」
「そうなの? じゃあ説法の方も盛り上げましょうか?」
直後、男が桃色の髪の女性に叩かれ、地面に叩きつけられた。
「さて、この幼児性愛者! 根性叩き直してあげるわ!!」
***
正純達が天麩羅屋の前に来たときには妙な事になっていた。
まず御広敷が何故か半殺しの状態で正座をさせられており、その前に腕を組んだ茨木華扇が立っている。その背後には二人の少女が居て、これはつまり……。
「よし番屋呼ぶか」
「ちょーーぉ!? 本多君! もうちょっと、聞きましょうよ! 何が起きたのか!!」
えー……、だって明らか変態が捕まった様にしか見えないし。
「じゃあ、茨木さん。状況を教えてくれるか?」
「華扇でいいわ。そこの男、あの二人に言い寄っていたのよ」
華扇が背後の二人の方を見、その様子に頷くと御広敷を見た。
「やっぱり番屋だな」
「ま! 待って下さい! これは一方的です!! ちゃんと小生にも事実確認をして無罪を知っていただきたい!!」
「あー、面倒くさいからもう有罪で良くないか」
「良くないですよ!?」と抗議する御広敷を無視すると女装が此方の肩を叩いてきた。
「なあセージュン、万が一という事もあるかもしれねーから一応聞いたら?」
「さ、流石、葵君! それに比べてババアは、これだから小等部越えてる奴は嫌なんですよ」
華扇の平手打ちが御広敷の頬にクリーンヒットする。
「な、殴りましたね!? このばばあ!!」
華扇に睨まれ御広敷は慌てて姿勢を正す。
「いいですか、小生以前から理想の少女像とは何か考えていたのですよ」
「うわ、いきなり語り始めたぞ!?」と周囲が動揺するのを無視しながらロリコンの語りは続く。
「そこで最近気がついたのです。体は少女でありながら心はどこか大人びている。そんなクールロリの素晴らしさに!! 小生、そこの少女を見てこう、 ビビっと来ました!!
これだ! これこそが小生の求めていた少女像だと!!」
「番屋ぁ━━━━━━!!」
「成程、では御広敷様はその少女を見つけた後どうするつもりだったのですか?」
「それはもう、お近づきにと……」
「番屋ぁ━━━━━━━━っ!!」
番屋が飛んでくると御広敷を拘束し、連行して行く。
番屋に連れて行かれる学友の背中を見送るとエステルの方を見た。
「遊撃士協会の方に変質者の討伐依頼をしたんだが?」
「正純様、残念ながらその依頼をした場合梅組は半壊するのでは無いでしょうか?」
そうだよなー。
全く反論できないのがなんとも情けない。というかその変質者筆頭が此処に居るわけだし。
そう思い女装の方を見ると何を勘違いしたのか彼は「うふん」とセクシーポーズを取った。
やっぱり依頼したほうが良いかも知れない。
「私、武蔵の行く末が心配になってきたわ」
「……僕もだよ、エステル」
遊撃士の二人は顔を見合わせ苦笑するとエステルが紫髪の少女の方に向かう。
「もう! 来ちゃ駄目だって言ったじゃない」
「あら? 全く帰ってこないエステル達が悪いのよ。おかげで物凄く暇だったわ」
「もうこの子は」と苦笑するエステルに「その子が例の?」と訊くと彼女は頷く。
紫髪の少女は此方を向くとスカートの端を摘み、丁寧な礼をした。
「私はレンよ。宜しくね、お姉さん」
「あ、本居小鈴です!」
二人の自己紹介に此方も頭を下げると自分から名乗ることにした。
「私は本多・正純だ。先ほどはうちの馬鹿が済まない」
「ホライゾン・アリアダストです。趣味はツッコミで特技は料理です」
女装が何故か女声で「つっこまないからな! ぜってーつっこまないからな」と喚いた。
それから彼は二人の前に出ると優しい少女の笑みを浮かべた。
「生子です。武蔵アリアダスト教導院の総長兼生徒会長をやってますわ」
うわ! こいつ変声術式まで使ってる!!
ある意味完璧な笑みを浮かべる女装に小鈴は「わあ、綺麗な人」と驚きの声を上げるが、対するレンは小さく悪戯っぽく笑った。
「ふふ、お兄さん女装が上手ね」
「え!? 女装!?」
「お? 分かっちまうか?」
女装の言葉に頷くとレンはヨシュアの方を見る。
「女装が似合う人、もう一人知っているから」
その言葉にヨシュアは苦笑いをし、どこか遠くを見る。
━━あー、たしかに似合いそうだな。
女装させたらうちの馬鹿と結構張り合えるんじゃないか?
そう思っていると女装がヨシュアを指差す。
「ま、負けませんのよ!?」
「いや! 僕は女装しないからね!?」
「あのお、私、邪魔かしら?」
華扇の言葉に皆彼女に注目する。
「いや、済まない。お前も自己紹介を頼む」
「ええ。私は茨木華扇。旅の仙人で縁あって今は武蔵の居候をしてるわ」
その言葉に疑問の声を上げたのはレンだ。
「……仙人?」
「ええ、そうだけど?」
「ふーん? もっと違うものを感じたけど? もっと荒っぽいのを」
その瞬間、二人の間に緊張が走る。
「どういうことだ?」と訊こうとした瞬間、警報が鳴り響いた。
「なに!?」
「皆! 向こうだ!」
ヨシュアが指差す先、織田艦隊の方角から五隻の輸送艦が近づいてきていた。
『ヅカ本多君! ちょっと不味い事になった!』
表示枠のネシンバラに眉を顰め「どうした?」と訊くと彼は慎重に頷く。
『織田が伊勢の民を此方に降ろすつもりらしい』
その言葉に思わず息を呑むのであった。
***
・副会長:『よし、とりあえず状況整理をしよう。書記』
・未熟者:『現在、織田は伊勢の民を浜松に連れてきて降ろし始めた。伊勢の民の総数は三千以上。
これらは全て徳川につきたいといった民達だ。なので当たり前だが僕達は彼らを救わなければいけない。
で、ここからが問題なんだが、僕達には時間が圧倒的に足りない』
・○べ屋:『今私たちは輸送艦をフルに使って民の輸送を行っているんだけど現状でもかなり手一杯なんだよね。
完全に民を運ぶのに掛かる時間は二時間。いろいろ効率化してその二時間でやれるようにしてたんだけど、三千も民が増えたら時間が足りないし輸送艦も足りなくなっちゃうわけ』
・あさま:『武蔵に収容するのはどうですか?』
・武 蔵:『可能と判断します。ですが浜松港から武蔵用の陸港まで民を移動させ、収容するとなると最短でも四時間以上掛かります』
・貧従士:『それじゃあ間に合わないってことですか……?』
・未熟者:『現状ではね。全く織田もやってくれたものだよ。僕達が民を見捨てれないのを承知で難民を連れてくるんだからね。
織田は徳川は見逃しても“僕達”を見逃す気は無いらしい』
・副会長:『民を武蔵に収容する事に関してだが私から案がある。まず民を動かすんじゃなくて武蔵を浜松港の上空に移動させるんだ。それで直政、貨物搬入用のリフトで一度に何人運べる?』
・煙草女:『そうさね、品川と浅草のを同時に使うとなると安全性を考えて一度に運べるのは二百人ってところさね』
・曳 馬:『当艦もお使いください。貨物区の物資を全て破棄すれば百人程度は輸送可能です』
・副会長:『よし、“武蔵”。これならどのくらいで終わる?』
・武 蔵:『━━━━━━二時間五十分と判断します』
・十ZO:『刻限ギリギリで御座るな。それだと途中で織田艦隊に追いつかれるで御座るよ』
***
━━どうしたものか……。
そう正純は眉を顰めた。
何度も計算し直しても武蔵が安全に浜松から離れられるだけの時間を作れない。
どうやっても駿府に到着する前に織田艦隊に追いつかれるのだ。
民を乗せた武蔵を逃がすには一つしか方法が無い。
だがその方法は……。
「考えるんだ……その方法は駄目だ」
誰かの犠牲の上での撤退なんて考えられない。
だがどうすればよい?
焦りから貧乏ゆすりをしていると表示枠が開き、鳥居元忠が映った。
『正純殿。敵を食い止める任、わしがやろう』
「おいおい、おっさん。犠牲になって俺らを守るってのはなしだぜ?」
彼は女装の言葉に苦笑し、首を横に振る。
『すまんがもう決めた事だ。大殿も承知しておる。わしはもうお前たちについていく事が出来ないからな』
な、に……?
それはどういう意味だ?
『元忠殿……』
『感謝する、点蔵殿。黙っててくれて』
「おい、クロスユナイト……それはどういう……」
そこまで言って察する。
鳥居元忠の覚悟。それがどこから来るのか。
『そうだ。わしはもう━━━━』
夜闇に沈んだ浜松の港で誰もが息を呑むのであった。