緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第三十二章・『三河一の忠義者』 我が道 我が忠義 (配点:鳥居元忠)~

 自分が今際に見た光景は伏見城を囲む大軍だ。

大一大万大吉を掲げた軍勢は伏見の城を隙間無く囲い、城門は炎に包まれている。

共に十三日間戦った千八百の兵は尽く斃れ、最早自分のみとなった。

 豊臣の軍勢は天守に殺到しており間もなくここに到達するだろう。

 遠く東の地、故郷を見る。

 夜の闇で故郷、三河の山々は見ることは出来ないが自分は笑みを浮かべた。

 知っているか? 日は東から昇るのだ。

 今此処でわしが斃れようとも必ずや東から日が昇り、西の軍勢を征するであろう。

 故に、我が死、決して無駄にあらず。

いざ行かん、先駆者たちのもとへ。

 戸が開かれた。自分の終わりを告げるために。

 一人の甲冑を身に纏った男が入ってくる。

彼は血に塗れた刀を握り締め、此方を見ると頭を下げた。

「鳥居元忠殿とお見受けする。見事な戦ぶり、忠義の心。故に降れとは言わぬ。お覚悟されよ!」

「我が最期の相手として不足無し! 参られよ!!」

 互いに踏み込み、そして最期の一騎打ちが始まった。

 

***

 

 次に目が覚めたときに感じたのは奇妙な違和感であった。

 はて、わしは誰であったか? 何故、畳の上で寝ておるのか?

 寝惚けは徐々に覚めて行き、自分が何者かであるかを思い出す。

 そうだ、わしは鳥居元忠。伏見において鈴木重朝と一騎打ちをし討ち死んだ筈だ。

ならば、ここは何処だ? 極楽浄土か? それとも地獄か?

そう思い天守から見れば伏見の城が広がっていた。

だが城には戦火の後は無く、まるであの戦が無かったかのようになっていた。

そして空には奇妙が広がっていた。

 歪んでいたのだ。

 青いはずの空は様々な色が混じりあい、歪んでいる。

 まるでこの世の終わりのような光景にやはり自分は地獄に落ちたかと思っていると空が割れた。

 硝子を割ったかのような音と共に空から大質量の鉄の塊が降ってきたのだ。

 それは黒い鉄の城砦で伏見の近くに着地すると凄まじい衝撃を発生させる。

 自分はその巨大さに神の国からの落し物であると思った。

 暫く呆然とすると、直ぐに冷静さを取り戻しあの巨大な物体に近づいてみる事にした。

どの道死んでいるなら怖いものは無い。

 アレが何なのか確かめてみよう。

 そう思い、無人となった伏見城を出た。

 

***

 

 遠くから見たときにもその巨大さに驚いたが、近づいてみればその驚きは更に強まる。

 巨大な城砦のように見えたそれは六隻の船の様な物を繋ぎ合わせたものであった。

さらにその船体は見たことも無い鋼で出来ており、やはりこの世の物とは思えない。

 もう少し近づいてみるかと思い林から出ると突然後ろから声を掛けられた。

「何者で御座りますか!」

 凛とした少女の声であった。

 槍のような物を背中に突き立てられ、手を上げると振り返る。

 そして驚愕した。

まず驚いたのは少女の姿だ。

 少女は体にぴったりと合わせた材質不明の服を着ており、このような服は見たことが無い。

伴天連の服かとも思ったが伴天連がこのような服を着ていたことは無かった。

そして次に驚いたのは彼女の鋭さだ。

 全身を槍にしたかのような気配の鋭さから彼女の実力が達人の域にあるという事が分かる。

「もう一度問う、何者で御座りますか!?」

「あ、ああ。済まん、わしは鳥居元忠だ」

 次に驚いたのは彼女のほうだ。

 彼女は「鳥居・元忠?」と眉を顰める。

「武蔵の襲名者で御座りますか?」

「襲名者? いや、わしは徳川の家臣だが……。お主の名は?」

 そう訊くと彼女は少し思案した後、槍を下げた。

「拙者、M.H.R.R.十本槍が一人、福島・正則で御座ります」

「……は?」

 彼女の名乗りに暫く唖然とすると噴出した。

「な、何を笑うで御座りますか!!」

「い、いや。済まぬ。随分と可愛らしい福島殿だと思ってな。わしの知る福島殿はもっとこう、無骨な男であるから」

「……確かに、襲名元。神代の時代の福島正則はそうかも知れぬで御座りますが」

 そこで気がつく。妙な会話のズレに。

 今なんと言った? “神代の時代”? “襲名元”?

いったいどういう意味だ?

「福島様!!」

 黒の艦から金髪の女性が走ってくる。

 福島と名乗る少女と同じ服を着た彼女は此方を見るとやや驚いたような表情をする。

「おお、キヨ殿! 拙者、第一村人、いや、第一襲名者に遭遇したで御座りますよ!」

「え、あ、はい。始めまして、M.H.R.R.十本槍の一人、加藤・清正です」

「加藤清正……? お主が?」

「え? Tes.、 そうですが……」

「この御仁、さっきから少し変なので御座るよ。鳥居元忠の襲名者らしいので御座るが……」

 正則の言葉に清正は「鳥居・元忠?」と眉を顰める。

「変ですね。鳥居元忠の襲名者はまだ居なかった筈ですが。それにこの方の格好、まるで本当の戦国武将のような……」

「何を言っているかは分からんが、わしは鳥居元忠本人だぞ? いや、ついこの前伏見にて討ち死んだから元・鳥居元忠と言うべきか?」

 そう答えると二人は再び驚愕の表情を浮かべるのであった。

 

***

 

 それから先、驚かされ続けたのは此方の方だった。

 彼女たちの話しによれば、彼女たちは我々が生きていた時代より数万年未来の時代の人間であり遥か彼方、宇宙まで行った彼らの祖先は大きな挫折をしこの星に戻ってきた。

しかし星は彼らを歓迎しなかった。

 環境神群によって異常再生されたこの星に人は住むことが出来なくなっていたのだ。

 ただ唯一、ここ日本、神州を除いて。

 神州に帰還した人間たちはやがて争いを始め致命的な損耗をする。

 そこで生まれたのが“非衰退調律進行”であり、歴史再現だ。

 彼女たちの時代ではまさに戦国時代の真っ只中であり襲名者として戦国武将や欧州の人物の名を継ぎ、争っているのだという。

 正直、信じられなかった。

 だが信じざるおえない。彼女たちが嘘を言っているようには見えなかったし、何よりもあの巨大な物体、安土は我々の常識を遥かに超える物だ。

 彼女たちの話を聞いた自分は今度は自分の話をした。

 自分は彼女たちでいう所の襲名元の戦国武将、鳥居元忠であり自分は今際の事を覚えている。

そして何故か先ほどこの世界に目覚めたと。

 二人は此方の話しに思案顔になると正則が「では、とりあえず拙者たちの所に来ないで御座りませんか?」と訊いて来た。

「そうですね。状況が分からない以上、共に行動すべきでは無いでしょうか?」

 清正も頷き、此方を見るが自分は首を横に振った。

「済まぬがわしには行くところが出来た」

 もし、もし蘇ったのが自分だけでは無かったとしたら?

 殿や、他の仲間たちも蘇っていたら?

 そう思うと一刻も早く、殿の下に駆けつけたくなった。

 二人は少し心配そうな表情をするとやがて頷く。

「分かりました。ですがお気をつけて。この世界が何なのかまだ分からないので」

「Tes.、 危険だと判断したら直ぐに戻ってくると良いで御座りましょう。拙者たち、暫くはここに居るので」

 二人の襲名者に礼を言うと踵を返す。

 向かうは岡崎城。

何故かそこに皆が居るとそう思えたのであった。

 

***

 

 岡崎に向かう途中この世界を観察して回った。

 どうやらこの世界に来たのは自分だけでは無く、かなりの人数が来ていたようだ。

 人々は皆動揺し、恐れていた。

 武士であった者達は直ぐに混乱している民を集め、集団を作り始める。

だがその事がかえって混乱を広めていた。

 皆、何を信じれば良いのか分からず疑心暗鬼に駆られ小競り合いも頻発していた。

 それに巻き込まれぬように岡崎に向かい続けて約一月、漸く岡崎の地に入った。

 期待と不安を混じり入らせ岡崎城に近づくと門兵たちが此方を止める。

「何者だ! ここは徳川家康様がおられる岡崎城! 怪しき者は通せぬ!!」

 門兵の言葉に狂喜した。

やはり殿も此方に来ていたのだと。

故に、背筋を伸ばし堂々と名乗った。

家臣が帰還したと。

「鳥居元忠である! 伏見より今戻った! 殿にそう伝えられよ!!」

 その言葉に門兵は慌てて城内と連絡し岡崎城に迎え入れられるのであった。

 

***

 

 岡崎城に帰還して殿や仲間たちと再会してから暫くして武蔵が関東から岡崎の地に逃げ込んできた。

 徳川は武蔵を迎え入れる代わりに彼らの技術を手に入れ急速にその力を伸ばして行く。

 我々武士も異世界の者達と会い、彼らの知識、技術、戦術を学び続けた。

 そしてこちらの世界に来てから一年後、一色家が出雲・クロスベルに進行をしたことによって西日本で大乱が起きた。

 徳川はこの戦には参加せず防備を固める事にしたのだが、懸念があった。

それはこの国を囲む三つの勢力だ。

 一つは織田信長率いる織田家。一つは甲斐・信濃をあっと言う間に支配した武田家。

そして最後は徳川にとって因縁深い今川家だ。

 特に嘗ての勢力を取り戻したい今川家は度々三河に進行を行い、小合戦を繰り返していた。

 そんなある日、家康に呼ばれた。

「何用で御座いますか?」

「うむ、お主に少し頼みたい事があってな」

 「頼み」と首を傾げると家康は頷く。

「教育をな、頼みたいのだよ」

「教育で御座りますか? 一体誰の?」

「天子殿のだ。最近彼女が戦に自分を出せとせがむようになってな。だが彼女は戦などしたことが無い。故にお主に教育を頼みたいのだよ」

 比那名居天子。

 武蔵と共に徳川に来た少女で、武蔵の連中とはまた違う世界から来たらしい。

 彼女とはほぼ話したことが無いが、第一印象は強烈であった。

彼女は最初の自己紹介で自分がいかに優れているかを語り始め、最後には自分を敬えとか言い始めたのだ。

 あまりに傍若無人な言い様に徳川の家臣たちは怒ったがトーリ殿が彼女のスカートを大衆の面前で捲くり大乱闘になった事でその場は事なきをえた。

「……はあ、何故某なのでしょうか?」

「お主は若手を育てるのが上手だからな。それに、あの娘を見て最初にどう思った?」

 最初にどう思ったか?

 色々思った。可憐。傲慢。強気。小柄。

だが一番に思ったことは……。

「……危うい、そう思いました」

「ほう?」

「何かこう、無理をしているように感じました。あの傍若無人っぷりも何かを隠すためなのではと」

 そう言うと家康は笑った。

「はは、やはりお主に任せるというわしの判断は正解だったようだ。わしも、同じ事を思っておった。あの娘、あのままでは何時か折れよう。

だがあの娘からは可能性を感じる。是非とも開花させたい」

 そう言うと彼は立ち上がり、天守の窓を開いた。

「振り出しに戻ったな」

「ええ」

「だが悪い気はしない。振り出しに戻ったという事は、再び皆と共に歩めるという事だ。元忠」

 彼は振り返り此方を見る。

「これからまた頼むぞ」

「はっ!!」

 家康に頭を下げ。決意した。

どんな事があろうとも彼を支えようと。

 

***

 

「は? なんであんたに教わんなきゃいけないの? 馬鹿じゃないの? 死ぬの?」

 取り付く島も無いと言うのはまさにこういう事なのだろうと思った。

 天子の元に向かい、戦の教練をすると言った途端、彼女は小馬鹿にした態度で此方をあしらう。

「いやいや、なんの教練も無しに戦場に出れば死ぬぞ?」

「はあ? 私が雑魚に負けるとでも? あんなの束になったって私の足元にも及ばないわ」

「そうじゃなくてな、部隊を率いて戦場に赴きたいのだろう? 今のままじゃ何も出来ず、部下を死なせるだけだぞ?」

 そう言うと彼女は露骨に嫌そうな表情をする。

「下っ端がどうなろうと私の知ったことじゃ無いわ」

━━やれやれ……。

 こりゃあ、確かに他の連中には任せられん。

こんな態度をしていれば直政なら喧嘩になるだろうし忠次なら血管切れる。

だがこう言った跳ねっ返りはコツさえ掴めば意外と御し易いのだ。

「なら、わしと模擬演習せんか?」

「は? 私が何でそんな事しなきゃいけないのよ?」

「ほほぉう? 逃げるのかなあ?」

 天子の眉が徐々に逆立っていく。

「見え透いた挑発ね。私が乗るとでも」

「天人様は口だけいっちょまえで実は臆病者らしいなあー。胸も貧相だし」

「……ちょっと! 胸は関係ないでしょう!?」

 詰め寄ってくる彼女に得意げの笑みを送ると彼女は歯軋りをする。

「いいわ……そこまで言うならやってやろうじゃない!! でも、そうね。ただの勝負じゃつまらないから勝った方が負けた方に一つ命令できるってのはどう?」

 別に構わないので頷いた。というよりもこの娘、全力で墓穴を掘りに行っているような気がする。

━━ちょろいのうー。

 最近覚えた言葉でそう内心笑うと天子が腰に手を当てて強気な笑みを浮かべる。

「さあ、勝負よ!!」

 

***

 

 まあ、結果は予想通りであった。

 熟練の指揮官と戦をしたことが無い少女では戦いになる筈も無く、物の数分で天子の部隊は壊滅した。

 勝負後彼女は納得行かないとなにやら喚いていたが、およそ人に見せれるものでは無かったので割愛する。

 色々と恥を掻いた彼女は顔を真っ赤にしながら不機嫌そうな顔をした。

 勝負を無かった事にしようとしないあたり、少し潔い。

「…………それで? 罰ゲームは?」

「うむ。お前さんの罰ゲームは今後、わしの下で学ぶ事だ」

「え?」と目を丸くした彼女に笑うと頷いた。

「天人様には人間から教わるのはさぞ屈辱だろう。それとも別の罰ゲームの方が良かったか?」

 彼女は物凄い勢いで首を横に振ると強気な笑みを浮かべた。

「いいわよ! やってやろうじゃない!! 見てなさいよ! あっと言う間にあんたを追い抜いてやるから!!」

 そう得意気になっている彼女を見ながらもう一度“ちょろいなー”と思うのであった。

 

***

 

 得意気になるだけあって彼女の成長スピードは速かった。

 一度教えた事は直ぐに覚え、次々と軍略、戦略を学んで行く。

ただ部隊との連携能力は本人の性格のせいもあって中々伸びなかったが、ある時を境に改善されて行く。

後から知った事だが武蔵で総長である葵・トーリと揉めたらしく、その時に心情が変わり始めたらしい。

 自分も出来の良い生徒に出会え率先して彼女と教練をするようになった。

 二年も経てば彼女は指揮官としての知識と技術を学び現場指揮官として小合戦に参加するようになった。

 そこからの成長は目を瞠る物がありその才能を開花させて行く。

そして今川家との戦いや伊勢での戦いを経て、彼女は遂に自分を追い抜いて方面軍指揮官になった。

 その事に僅かな嫉妬と驚愕があったが彼女が自分を部隊に招きいれてくれたため、彼女を支えようと、そう思ったのであった。

 

***

 

 夢から醒める。

 どうやら気を失っていたらしく浜松港の管制塔の椅子に腰掛けていた。

 酷く寒い。

 冬の寒さとはまた違う、体の芯から来る寒さ。

 以前にも一度味わった寒さだ。

「おおっと……いかん……寝ておったか……」

 何時気を失ったのだろうか?

 たしか、浜松が炎上し、部下達が斃れて行ったはずだ。

そして管制塔に立てこもり……。

 管制塔の窓の外が紅く輝いているのが見えた。

 港は炎の海に呑まれ、さながら地獄のようである。

 その炎に照らされるように安土が浮かんでいた。

━━今思えば、あれがわしの始まりだったのだな。

 そしてあの鋼の城が我が生涯に終わりを告げようとしているのである。

「……因縁、だな」

 あの二人は元気にしているだろうか?

 結局二人の襲名者と再会することは出来なかった。

「さて……」

 最早感覚の無い体を立ち上がらせると管制室に掛けてあった徳川の旗を持つ。

「最期の一仕事だ」

 

***

 

 管制塔の屋上に出ると元忠は屋上の中央に立った。

 既に管制塔も炎上し始め間もなく火は此処まで達するであろう。

 織田の艦隊は遠巻きに此方を囲み、静観している。

あの黒の艦隊と共にいる者達は今、何を思っているのか?

 辛うじてまだ映っている表示枠の時計を見れば午後八時半と記されている。

三十分。

十分に稼げた。

どうだ、織田? わしら凄いだろう?

だがな、武蔵にはわしらよりもっと凄いやつ等がいるんだぞ?

絶望したか? なら、満足だ。

「さあ……!」

 旗を掲げた。

 炎の赤に照らされ三つ葉葵の紋様が浜松の空に靡く。

「見たか! 織田! わしらの誇り、意地、結束、そして夢を!!」

 叫ぶ。

 命を燃やし尽くすように。

「我こそは鳥居元忠! 貴様らの滅びの序章となる者だ!! 覚えておくが良い!!」

 安土に流体の光が収束し始める。

 あの光こそ、我が最期であろう。

 突如表示枠が開き、通神文が送られてくる。

そこには短く、こう書かれていた。

・第六天:『見事』

 閃光が放たれた。

 安土より放たれた流体光は大地を砕き、港を破壊し、炎の海を割る。

そして視界全てが白になる。

「それでは、皆! おさらばに御座る!!」

 笑った。

 満面の笑みを浮かべ、満足し、後に託す。

 光の中、一瞬だけ徳川の仲間たちの姿が見えた。

━━行けよ、未来を切り開く者達。わしは何時までもお前たちと共にある。

 そして全てが飲み込まれた。

 閃光が去った後、全ては消失し静寂のみが残った。

 

 

 

 

 十二月二十三日、午後八時半。浜松港にて鳥居元忠率いる決死隊二百名。尽く討ち死にし三河は織田の手に堕ちた。

 

***

 

 同刻、武蔵は駿府城へ向けて航行を行っていた。

 都市はどこか陰鬱とした雰囲気で静まり返っている。

そんな武蔵の中央後艦・奥多摩にあるアリアダスト教導院の長階段の一番上に比那名居天子は頬杖をつきながら座っていた。

 彼女の腕には日記が大事そうに抱かれており、彼女は一人、後悔通りを眺めていた。

「よ、大丈夫か?」

 背後から声を掛けられ振り返れば服を着た馬鹿がいた。

「別に、いつも通りよ」

馬鹿は「そっか」と苦笑すると此方の横に座る。

「さっき通神で、おっさん、死んだってよ」

 一瞬硬直する。

 暫く言葉を失うと震える声を抑え、顔を覗かれないように頷いた。

「そう……」

 互いに沈黙する。

「…………」

「…………」

「………あの、さ」

「うん?」

「大丈夫なの?」

「さっきと逆だな」

 そう馬鹿は苦笑すると頷いた。

「おっさんが満足してくれたんなら俺はそれで良い。それによ、おっさんは俺達が前に進む事を望んでいたんだぜ?

だったらこの国の王様として俺は笑ってやんなきゃな」

 やっぱ強いな。

そう思った。

自分はまだ己の気持ちに整理がつけれず戸惑っているというのに。

「だからよ、頼ってくれてもいいんだぜ? 俺は何も出来ないし頼りないだろうけど、相談や愚痴を聞くぐらいなら出来る。

辛い事は全部俺に押し付けてくれよ」

 全く。

全くこの馬鹿は。

そういった事に一番弱いくせに、格好つけちゃって。

 そうか、だからみんなついて行くんだ。

 こんな彼だからこそ支え、力になりたいと。

「有難うね。でも、大丈夫。いえ、まだ大丈夫。自分の気持ちが整理できたら、あんたを、その、頼るかも……」

 素直に頼れない自分に歯がゆさを感じていると馬鹿が笑った。

「おう、そん時は任せな」

 馬鹿が立ち上がり、此方もそれに続くと教導院の方からホライゾンと衣玖、そして正純と家康がやってくる。

「とりあえず駿府で再起ね。必ず、岡崎に戻るわよ?」

 そう言いトーリが頷いた瞬間右舷側、太平洋側から閃光が生じた。

「え?」

『右舷より対艦砲撃クラスの流体反応を確認!! 障壁の展開……間に合いません━━以上!!』

 直後、右舷側遠方から極大の流体砲撃が放たれ、障壁が緊急展開されるが貫通した。

 流体砲撃は品川の右舷装甲を砕き、破砕と爆発が生じ他艦にも強烈な衝撃が伝わった。

 

***

 

「あら?」

 白の巨大艦に向けた傘を下げ風見幽香は感嘆の声を上げる。

 今の一撃は自分が放てる最大級の攻撃だ。

品川を一撃で撃沈できる攻撃だったのだが艦長が咄嗟に障壁を展開して威力を減退させたようだ。

━━良い反応ね。

 だが損害はかなり受けたらしく品川は徐々に高度を落とし、武蔵全体の速度も落ちている。

「さあ、始めましょうか。楽しい、狩を!!」

 背中に生やした翼を一気に広げ、加速した。

 妖魔は飛翔する。獲物を求めて。

 

***

 

━━く!? 攻撃!? 奇襲か!!

 片膝をつきながら本多・正純は冷や汗を掻いた。

「“武蔵”! 状況は!!」

『右舷側より敵が飛来! 現在品川で交戦開始しました━━以上!!』

『こちら“品川”! 先ほどの一撃で重力制御エンジンに異常が発生しました。現在機関部が修復作業に向かっております━━以上!』

 その報告に正純は内心舌打つ。

 何か手を打ってくると思っていたが、待ち伏せとは。

「正純、いったい何が起きたの!?」

 天子と馬鹿が駆け寄って来る。

「織田の奇襲だ。どうやら対艦戦闘可能な敵が来ているらしい」

 だが妙だ。

 これだけか?

 現在確認されている敵は一人のみ。

手痛い一撃を喰らったが十分に迎撃できるレベルだ。

手緩過ぎる。

他に何か策があるのでは?

 そう思った瞬間、表示枠が開いた。

『副会長! 敵襲だ! 品川はさっきの一撃でかなり損害を受けた!!至急救援を求める!!』

「Jud.、 そっちに援軍を……」

『副会長! 此方浅草守備隊!! 敵襲だ!』

「ああ、分かってる。そっちから品川に……」

『敵襲!! 多摩に敵が!!』

『此方村山守備隊!! 敵襲です!!』

『お、青梅に敵が出現!! そこら中に居るぞ!!』

「なんだと……?」

 待て、一体どういうことだ?

 何が起きている!?

そう言おうとした瞬間、表示枠に再び“武蔵”が現れた。

『“武蔵”より皆様へ!! 現在武蔵全艦に敵が出現!! 敵の兵力は約二万!! 至急迎撃をお願いします━━以上!!』

 その報告に皆、息を呑むのであった。

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