品川が奇襲を喰らい、炎上するのを浅草の防衛隊は見た。
品川は右舷中央部を砕かれ、今も小さな爆発を生じさせている。
「くそ! 奇襲かよ!?」
誰かが叫んだ。
「あっちの部隊は!? 敵は何処だ!?」
「おいおい、あそこらへん俺の家だぞ!?」
驚愕は動揺へ、動揺は混乱へと変わって行き、皆青ざめた表情をしている。
「落ち着け!! 俺たちまで混乱したら助けれるもんも助けれなくなるぞ!!」
隊長格の男の一喝で部隊は静まり、混乱は収まって行く。
「直ぐに救助隊を編成する! 浅草魔女隊は上空警戒! 救護隊は陸戦部隊に護衛してもらいながら行け!! それから……」
そこまで言って男は違和感を感じた。
先ほどから空が少し歪んでいるというか、波打っているというか。
最初は先ほどの衝撃でまだ頭がふら付いているからかと思ったが違う。
歪みは確実に大きくなって行き、やがて浅草全体を飲み込んでゆく。
「おい! 艦首側!!」
誰かの声に皆一斉に艦首側を向くと隙間が出来ていた。
空間を真っ二つに割ったような隙間。
暗いその空間からは幾つもの眼球が浮かんでおり、それらが一斉に此方を見る。
「ひっ!?」
「なん……だ?」
直後、溢れ出した。
鬼、百足、動白骨、人魂、ぬりかべ。
百鬼夜行だ。
百鬼夜行は浅草艦首側に出来た隙間から溢れ出し、あっと言う間に艦中に広まった。
***
「こいつは、随分と派手にやりやがったな!!」
品川中層を抜けて直撃部に到達した泰造はそう舌打った。
装甲は完全に砕かれ、鉄骨や床が赤熱して融解している。
反対側まで貫通しなかったのは障壁で威力を軽減できたおかげだろう。
「泰造爺さん! どうする!!」
連れてきた機関部の男達十人が冷や汗を掻きながら訊いて来ると泰造は即座に指示を出す。
「まずは穴を塞ぐ!! それから重力制御エンジンの修復だ!!」
「それは困りますわねー」
「!!」
突如頭上から声を掛けられ見上げれば砕けた鉄柱の上に少女が立っていた。
赤い服を身に纏い白い帽子を被った金髪の少女は笑みを浮かべながら妙に曲がった鎌を取り出す。
「せっかく開けた穴を塞がれては困りますわ」
「……お前ら、下がってろ」
作業用の大型レンチを構え部下達を下げると相手を睨みつける。
「えーっと? 十人? まあ、手始めとしては良い……わね!!」
赤が迫った。
凄まじい速度で迫る鎌を大型レンチで受け止めると体が後ろへ大きくスライドする。
「爺さん!!」
「此処は任せろ!! 作戦変更、重力制御エンジンに向かえ!!」
男達は暫く躊躇うが直ぐに「Jud!!」と駆け出した。
「あら、逃がしませんよ?」
少女が駆け出す男達の方に向かおうとするが泰造はレンチを押し出し止める。
「……元気な御爺さんですこと! でも、無意味ですわ!!」
少女が微笑んだ瞬間、鎌の刃が曲がった。
━━なにっ!?
刃はレンチの上に回りこみ此方の右肩を裂いた。
「っぐぅ!!」
痛みで力が抜けた瞬間腹に蹴りを喰らい、吹き飛ぶ。
そこを敵は追撃した。
「さあ、まず一人目!!」
やられる!!
そう思った瞬間、鎌の刃が横から殴りつけられ反れた。
「!!」
少女は驚愕の表情を浮かべると後方へ跳躍する。
それと共に此方を庇うように一人の男子生徒が現れた。
「あら? 誰かと思えば武蔵の三発君じゃない」
「ノリキだ」
ノリキはゆっくりと構えると相手を睨む。
「これ以上お前たちの好きにはさせん」
対して少女も武器を構える。
「夢幻館門番、エリー。手始めに貴方の首を我が主に捧げますわ!!」
品川損傷地点にて鎌と拳が激突を開始した。
***
「っと」
浅草の艦首、コンテナ地区に着地するとシグムント・オルランドは体の調子を確認するように全身を動かした。
奴の術でここまで飛ばされたがどうにも気分が良くない。
あの空間に居たのは一瞬だが人間にとってあまり居心地の良い空間とは言えなかった。
「だが、驚異的な力だ」
こんなもの連発されれば戦など成り立たない。
常に奇襲が可能な軍隊など止めようが無い。
実際、既に武蔵は手酷くやられているらしくほぼ全艦が炎上していた。
「さて、俺の獲物は……お前か?」
正面に降り立つ姿があった。
赤い制服を身に纏った男は此方を見るとゆっくりと構える。
━━ほう? 隙が無いな。
この男、かなりの手練れだ。
「偵察の為に来てみましたが……大物が来ていたみたいですね」
「お前も相当やれるみたいだが?」
両手に持つ戦斧を構える。
「名前は?」
「武蔵アリアダスト教導院副長補佐、立花・宗茂」
あの西国無双か。
奴め、中々粋な事をしてくれる。
彼が此処に来る事を予想して俺をここに移動させたのだろう。
「<<赤い星座>>副団長、シグムント・オルランドだ」
名乗ると彼は僅かに目を見開き小さく笑みを浮かべた。
「<<赤の戦鬼>>。お噂はかねがね伺っています。最強の猟兵との事ですが成程、噂通りのようですね」
「フン、お前も噂通りのようだな、西国無双」
「では、お手合わせをお願いします」
「いいだろう、来い! <<赤の戦鬼>>の恐ろしさ、思い知らせてやろう!!」
浅草のコンテナ地区で赤の影が交差を始めた。
***
武蔵野艦首側で本多・二代は飛翔していた。
それを追うのは三体の大天狗たちだ。
人間よりも一回り大きい大天狗たちは太刀を抜刀し二代に追いつくと二体は彼女の上方へ、一体は背後を取るように着地した。
二代は逃げ切れぬと察し、蜻蛉スペアを構えると警戒する。
━━中々の手練れで御座るな。
他の妖怪達よりも闘気は研ぎ澄まされており連携に隙が無い。
こういった事に手馴れている連中だ。
「一つ、質問を。何故拙者を狙うで御座るか?」
こいつ等は真っ直ぐにこちらに向かってきた。
あらかじめ獲物を定めていたのだろう。
大天狗たちは答えない。
太刀を構え、殺気を強める。
「そう殺気立っていると羽根が抜けるで御座るよ?」
直後、上空の二体が動いた。
一体が懐からクナイを取り出し投げつけて来る。
それを避けるともう一体が急降下しながら太刀を振り下ろしてくるので横へ跳躍した。
そこへ地上にいた大天狗が来る。
敵は太刀を突き出し、此方を貫こうとするが蜻蛉スペアで地面を叩き柄を伸ばすと相手の頭上を抜ける。
即座にクナイを投げてきた大天狗が襲い掛かるが空中にいる体勢で蜻蛉スペアを傾け刃に大天狗を映す。
「結べ! 蜻蛉スペア!!」
翼を断たれた大天狗は苦悶の声をあげ大地に転がる。
━━まず一体!
残りの二体は既に体勢を整えており、此方を挟み撃ちにする。
そして此方が着地すると同時に突撃を仕掛けてきた。
「ちょっと、痛いで御座るよ」
『御意』
蜻蛉スペアを正面の大天狗に投げつけると敵は慌ててそれを切り払った。
その隙に腰に提げた刀を抜刀し、振り向きながら背後から来る天狗の胸を裂く。
「ぐ!!」
篭った声をあげ倒れる天狗を横目に“翔翼”を展開すると最後の一体に突撃する。
敵はこちらの攻撃から逃れようとするがそれよりも速く間合いを詰め、敵の右腕を肩から断った。
大天狗が三体とも倒れると二代は一息を吐き、刀についた血を払うと納刀した。
それから蜻蛉スペアを回収しようとすると突然頭上から拍手が鳴り響く。
「!!」
直ぐに蜻蛉スペアを取り構え振り返ると家屋の上、月明かりを背に一角の鬼が座っていた。
「いやあ、お見事、お見事!」
鬼は額から一本の赤い角を生やし長い金の髪を持つ。
服装は白の体操着のような物を着ており、スカートは半透明状である。
「何者で御座るか!?」
「ああ、悪い悪い。私の名は星熊勇儀、M.H.R.R.の客将をしてるもんさ」
「拙者は━━」
「ああ、いいよ。本多・二代だろう?」
そう笑うと彼女は家屋から飛び降りた。
彼女は杯を片手に着地すると長い金の髪を靡かせる。
それから大天狗たちの近くに立つと一人を立ち上がらせる。
「派手にやられたもんじゃないかい」
「も、申し訳無い」
「いやいや、良くやったよ。あんた達は下がって治療しな」
大天狗たちは頭を下げると互いを庇い合いながら下がって行く。
それを見送ると彼女は此方を向いた。
「さて、私はあんたを倒すように命令受けてんだけどね。どうする? やるかい?」
「ふむ? 戦わないと言えば見逃してくれるので御座るか?」
「あっはっはっは、私的にはそれでもいいんだけどね。でもまあ、羽柴にはちょっとした恩があってね」
「なら仕方ないで御座るな」と言いながら警戒を強める。
この女性、先ほどから隙だらけだが踏み込めないのだ。
安易に踏み込めば死ぬ。
そういったプレッシャーが全身に掛かってくる。
それに先ほど彼女が着地したとき、杯の酒が一滴も零れなかったのだ。
杯には酒が並々と入れられており少しでも動けば溢れそうな程だ。
だというのに先ほどから大きく動いているにも関わらず杯の酒は波打ちもしない。
そのような事を並みの者が出来るはずが無い。
突如多摩の方角で爆発が生じた。
勇儀は爆発の方を見ると目を笑みを浮かべ、目を細めた。
「おうおう、萃香も張り切っているみたいで」
先ほどの爆発、ただ事ではない。恐らくだが彼女と同格の存在が多摩で暴れているのだろう。
「正直言うとね、心情的にはあんた達に味方してるのさ。鬼は友情やら結束やらそういうのに弱いからね。だからハンデをやるよ」
「ハンデ?」
「ああ、そうだ。私の持っている杯に入っている酒を一滴でも零せたらあんたの勝ちだ。
どうだい? やるかい?」
黙って頷くと勇儀は左手で杯を持ち、右手を構えた。
敵の実力はおそらく達人級。出し惜しみをして勝てる相手ではない。
ならば……。
━━先手必勝に御座る!!
そう判断し突撃するよりも速く、敵の拳が迫った。
「!?」
咄嗟に顔を逸らし、避けるが間髪入れず蹴りが放たれ凄まじい衝撃と共に視界が加速した。
そして近くの家屋の壁を突きぬけ、そのまま二戸分吹き飛んだ。
***
多摩の住宅街を白い半竜が飛翔していた。
半竜は全速で住宅街を抜けるが、それを追いかけるように破砕が続いた。
半竜の通った先、家屋を砕き、地面を砕きながら追って来るのは角を生やした小柄の鬼だ。
彼女は暢気な笑みを浮かべながら半竜の速度に追いつき瓢箪を半竜の背に叩きつけようとする。
「ぬう!!」
半竜は咄嗟に横に回避すると瓢箪は地面を穿ち、穿たれた地点を中心に破砕が起きる。
「おっしい!!」
なんという破壊力!!
今のを喰らっていたら流石に拙僧でも危険だっただろう。
あの細い肢体の何処にこんな力があるんだか……。
敵が攻撃を外した隙に一気に加速し、距離を離そうとするが鬼は再び間合いを詰めてくる。
「ええい! またスーパー幼女か!!」
駿府の時といい、今回といい、何故拙僧はこう化け物じみた幼女の絡まれるのだろうか?
こういった事は御広敷の担当だろう。
突如、鬼が止まった。
そして右腕を掲げると掌に凄まじい熱が集まって行き、巨大な火球が出来上がった。
「これは……避けれるかなぁ!!」
アレは不味い!!
そう思った瞬間、前方へ噴射を行い今度は一気に後ろへ加速する。
飛来する火球とすれ違うと鬼の背後に回り竜砲をその背に撃ち込んだ。
火球が爆発する衝撃と竜砲の衝撃が合わさり、爆発は周囲の建物を全て砕いていった。
あの状況で此方の攻撃を避けれないはずだが……。
「油断は出来んか」
前回の事もある。
駿府の時も油断をし、追い込まれたのだ。
その予想は当たり煙の中から無傷の鬼が現れた。
「いやあ、危なかった危なかった」
彼女は余裕そうな表情を浮かべながら瓢箪に入っている酒を飲むと一回しゃっくりをする。
・ウキー:『成実よ、飲酒して調子に乗ってるロリがいたらお前ならどうする?』
・不退転:『そうね……とりあえず潰すかしら?』
・ウキー:『その躊躇無さ、流石だな』
そうだ。
ただでさえ鬼であって不届き者だというのにロリの癖に飲酒とは最早救い難し。
「貴様、一つ質問がある」
「ん? なーにー?」
「貴様に姉は居るか? 拙僧には既に成実という嫁がいるが別に姉キャラに興味が無くなった訳じゃない。故にもう一度訊く、貴様、姉は居るか?」
「えー、いないよ? そんなの」
その返答に大きく溜息を吐き、鬼を指差す。
「貴様、本当に救いようが無いな!」
「何か理不尽だ!?」
この敵に正面から挑むのは無謀。ならば!
敵が動いた瞬間を狙って竜砲を放つ。
「当たらないよ!!」
「当てるつもりは無い!!」
竜砲は鬼の前方の地面に直撃し土埃を巻き上げる。
即座に対妖怪用の投擲拘束具を投げつける。
そして翼を前方に展開し突撃を仕掛けた。
「こんなもんで!!」
鬼は拘束具を避けるが構わない。というかはじめから最初で当てるつもりは無い。
敵は此方を正面から迎撃しようと拳を構えるが、外れた拘束具がUターンをし戻ってきた。
「!?」
両足を拘束され体勢が崩れている所を狙う。
「一撃必殺! 悪鬼退散!!」
当たった。
そう思った瞬間に鬼が弾けた。
━━なに!?
視界いっぱいに広がる白の色。
それを視認して驚愕の声があがる。
「これは……霧か……!?」
直後、全身に圧打が来た。
装甲が砕かれ、翼が折れる。
そして半竜は地面に叩きつけられた。
***
武蔵野の道をミトツダイラは走っていた。
彼女の横には表示枠が浮いておりネシンバラが映っている。
「やられましたわね!!」
『ああ、尽く織田に先読みされているね。恐らくだけど輸送艦を浜松に持ってきた時点で、この事を想定していたんだと思う。
徳川が浜松に部隊を残さなければ追撃、そうじゃなくてもこの奇襲。
敵の目的は最初から武蔵の孤立化だったんだ』
武蔵は最後まで浜松港に残っていたため護衛の艦をつけていなかった。
その為、現状救援は無い。
『でも妙だ……』
「妙?」と書記の言葉に足を止める。
「何が妙ですの?」
『敵の布陣がどうもしっくり来ないんだ。敵は空間移動によって部隊を自由に展開できる。
それなのにどうして敵は武蔵に均等に部隊を展開しているんだ?
武蔵撃沈を狙うなら武蔵野に一点集中すれば良い。でも敵はそれをしなかった。
それに敵は主力級をこっちの主力にぶつけて、まるで引きつけているかのようだ』
言われてみれば確かに。
現状でも武蔵は苦戦しているが武蔵野一点集中の強襲ならあっと言う間に勝負がついただろう。
なのに敵はそれをせず、各部隊の連携を断つように動いている。
まるで何かから目を逸らさせるように……。
「まさか!!」
『ああ!! 僕も今気付いた!! ミトツダイラ君! 教導院に向かってくれるかい!?』
「Jud!! 敵の目的は武蔵の撃沈ではなく武蔵の主要、そして天子の確保ですわね!!」
危険だ。
奥多摩には我が王とホライゾン、正純に家康、そして天子に衣玖しかいない。
此方は各部隊の連携が断たれており、直ぐに救援に向かう事が出来ない。
「……我が王!!」
急がなければ!
敵は教導院に最も強力な敵を派遣するはずだ。
つまりそれは今回の事を計画した“彼女”が来る可能性が高い。
『僕も今から教導院に向かう!』
書記に頷くと表示枠を閉じ、駆け出す。
武蔵野から奥多摩の教導院まで距離がある。
だが人狼である自分の脚力なら……!
そう思った瞬間、上空から流体の槍が降り注いだ。
「!!」
咄嗟に後方へ跳躍すると上空を睨み付ける。
「何者ですの!!」
九尾が立っていた。
月明かりを背に、街路樹の先端に九本の狐の尾を生やした女性が立っていた。
「P.A.Oda東方軍参謀、八雲藍。悪いが貴様はここで足止めさせてもらう」
そう名乗り終えると同時に再び流体の槍が降り注ぐのであった。
***
教導院前で天子は表示枠から送られてくる情報を見、眉を顰めていた。
「やられたわね。完全に各部隊が孤立している」
敵の兵数はこちらとほぼ同数。
だが奇襲によって連携を崩され、圧倒的な不利な状況だ。
その上敵は妖怪を主力にしている。
妖怪は一部を除いて統制があまりとれないという弱点があるがその個々の戦闘能力が高いことから包囲戦、殲滅戦では非常に強力だ。
ここ奥多摩にも敵が現われ各所で戦闘が行われている。
このままでは直に敵が教導院までやってくるだろう。
「正純、教導院にいる戦力は?」
「二百名ほどの一般生徒が居る。後は避難民ばかりだ」
教導院は避難民用に開放していたためそれを守る僅かな戦力しか置いていなかった。
「一般生徒って何年が主体?」
「……一年と二年だ」
不味いな……。
まだ実戦経験の薄い下級生では敵の部隊から避難民を守りきれない。
「衣玖、元忠さんの━━いえ、私の部隊は何処に居るの?」
「奥多摩左舷側です。現在は奥多摩守備隊の補助に回っているようです」
「馬鹿に家康さん、私がちょっとこの場の指揮を執るけどいい?」
馬鹿と家康が頷くの確認すると表示枠を開いた。
「まず衣玖は奥多摩左舷側にいる私たちの部隊と合流。半数を連れてここに戻ってきて。
次に家康さん、貴方は教導院駐在の一般生徒の指示を。彼らは実戦経験が薄いから家康さんの指揮で動かして。
それで正純は武蔵野艦橋と連絡、戦場の全体図を手に入れて。
それで馬鹿とホライゾンだけど……、まあ、教導院に居て」
全部言い終えると一息を吐き、全員を見渡す。
「何か質問は?」
無いようなので頷く。
「よし、それじゃあ行くわよ!!」
「「Jud!!」」
「おう!!」
「はい!!」
衣玖は左舷側へ、家康は教導院へ駆け出した。
教導院前の端には表示枠を操作している正純と何故か何処からとも無く取り出した座布団の上に座り茶を啜る馬鹿と姫、そして自分が残る。
「……って! あんたたちなんでここにいるのよ!!」
寛いでいる二人を指差すと馬鹿が笑う。
「えー? だってよお、この際何処に居ても変わらなくねー?」
「Jud.、 敵が来たらこの馬鹿を敵に投げつけてその間に教導院まで逃げるので」
あ、それいい案かも。
一瞬そう思うが頭を横に振り、苦笑した。
「どうなっても知らないわよ?」
正面を向き、思案する。
部隊をここに連れてきても何の解決にもならない。
せいぜい教導院陥落までの時間稼ぎが出来る程度だ。
この状況を打破するにはもっと別の手が必要だ。
敵は妖怪軍団。
個々の戦闘能力は高いが烏合の衆だ。
ならば奴等の頭を潰せばよい。
━━問題は頭が何処にいるかよね?
恐らく頭は奴だ。
奴ならどう動く?
「……まさか」
振り返り馬鹿を見れば馬鹿が「ほーれ絶壁」と自分の胸の辺りでジェスチャーしてたので蹴った。
教導院側に転がって行く彼を見届けるとホライゾンを見る。
「ホライゾン! やっぱり教導院に下がって! ここはヤバイ……」
その瞬間、背後の風景が歪んだ。
「!!」
直ぐに振り返り緋想の剣を取り出すと冷や汗を掻く。
「やっぱりね……直接来たか」
「おい、天子。どういう事だ?」と正純が聞いた瞬間、空間が裂けた。
そして黒く深い隙間から一人の人物が現われてくる。
金が靡いた。
美しい金の髪を靡かせ、紫色の服を着た彼女は優雅に着地すると怪しい笑みを浮かべる。
「おお!? おおい!? 隙間がくぱあって割れて美人が出てきたぞ、くぱあって! くぱあって!!」
ホライゾンが裏拳を復帰した馬鹿の鳩尾に入れる。
その様子に金髪の女性は小さく笑うと目を細めた。
「ふふ、噂通り愉快な子達のようですわね」
それから彼女は隙間から日傘を取り出すと夜であるのにも関わらず差した。
「少し見ない間に随分と変わったようね。不良天人」
「あんたはちっとも変わってないわね。腐れ妖怪」
さて、状況は最悪だ。
こいつを相手に馬鹿たちを庇いながら戦える自信は無い。
というかタイマンであってもかなり厳しい相手だ。
「……おい、天子。まさか、こいつは……」
正純の言葉に頷く。
「ええ、あんたの想像通りよ。幻想郷の大賢者にして唯一無二の大妖怪。八雲紫!
私にとっても因縁深い相手よっ!!」
紫は笑みを浮かべるのであった。
それまでに浮かべていた笑みよりも深い、背筋の凍るような笑みを。