緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第三十六章・『九本尾の式』 我が勝利を主に (配点:九尾)~

 高尾表層に並ぶ民家の屋根を伝い、駆ける影があった。

 影は小柄な少女であり、彼女の腰からは二つに分かれた猫の尾が生えており頭部には猫の耳が帽子からその姿を覗かせている。

 そんな猫少女は背中に大きなリュックサックを背負い、鼻歌を歌いながら駆ける。

 現在、自分は主である紫様や藍様の命令で高尾に爆弾を仕掛ける事になっている。

 奇襲に混乱している高尾に潜り込むのは簡単で間もなく高尾の機関室に到着するだろう。

「ふっふーん、藍様褒めてくれるかなー」

 紫様がこの仕事を終えたら“藍から好きに報酬を貰いなさい”と言われていたので、何を貰おうか?

 やはり食事? いや、猫じゃらし一年分というのも良いかも知れない。

だが一番欲しいのは……。

「……やっぱり紫様と藍様が笑ってくれることかなー」

 此方に来てから紫様は幻想郷に居たときよりも笑わなくなった。

何時も何か思案しており、疲れた表情を見せている。

だからその式の藍様も主を気遣い、口数が減っている。

 私はそれが嫌だった。

 私は元々八雲家とは関係が薄い方だがやはりあの二人には笑っていて欲しい。

「うん、やっぱりお願いは笑ってもらう事にしよう。皆で食事したりしてさ」

 ついでに織田の連中を呼べばいい。

 柴田は怖くて五月蝿いが面倒見が良い。

 羽柴はとても優しい。

 丹波は明るくて面倒見が良い。

 佐々は弄ると楽しい。

 前田は話が面白い。

 彼らと宴会が出来たらどれだけ楽しいだろうか?

 そう思っていると高尾機関室の近くに到着する。

周囲を確認し、敵がいない事を確認すると屋根から近くの路地に飛び降りた。

 そして着地を行った瞬間、足の裏に妙な感触を得た。

 それはぐにゃあと言うかぐちゃあというかとにかく妙な感触で「おお!?」と男の驚愕の声と共に足下で何かが弾けた。

「……ぐちゃあ?」

 足元を見ればピンク色のゼリー状のものが飛び散っており、どうやら何か踏み潰したようだ。

「うわあ、気色悪いっ!!」

 足を振りゼリーを飛ばしていると陰が覆った。

「?」

 「何だ?」と見上げてみれば路地の空に肌色が広がっていた。

「!?」

 肌色は人の形をしており、男であり、なんか翼が生えており、つまりそれが意味をするのは……。

「変態だぁ━━━━━━!?」

「なに!? どこだい!?」

「あんただよ!!」

 指差すと全裸ハゲは笑みを浮かべた。

「はっはっは、僕の何処が変態だというのかね?」

 いや! 全部だろう!?

 一体どうなっているのだ武蔵は!?

 幻想郷も自由の世界だがここはちょっと自由すぎないか!?

「おっと、吾輩としたことがちょっと向こう岸が見えてしまったぞ」

 背後からの突然の声に驚き振り向けばなんと言うかRPGゲームで言うところの最初の雑魚敵みたいなのが居た。

「ネンジ君、気をつけなきゃ駄目だよ。君はHP3位しかないんだから」

 な、何だ? この状況!?

 前には全裸、後ろにはピンクスライム。

「あ、あんたたち誰よ!?」

「僕かい? 僕ははただの無害で淫靡なインキュバスの伊藤・健児!! さあ、友好の契りとして一緒にインキュバス体操しようか!!」

「無害で淫靡!? インキュバス体操ってなに!?」

「では吾輩はただのゲルマン人、ネンジだ!」

「こんなゲルマン人が居るか!? というかどう見てもスライムでしょうが!」

 ツッコミに息を切らしているとRPGのモンスター(二体)は笑みを浮かべて此方を見る。

「僕達の自己紹介は終わったし、じゃあ君の番だ! 名前と目的を教えてくれるかな?」

「……わたしは橙。紫様と藍様の命令で高尾に爆弾を…………あ」

 しまった!?

 相手に流されつい、目的を喋ってしまった!?

「爆弾だと!? それは大変だ!! どこにあるのかね!! 直ぐに解除せねば!!」

「ああ、ここは民間人が多いからね!! そのリュックを背負った姿! 君は爆弾処理班だね!!」

「え? え!?」

「そう言うことなら共に行こう! 吾輩が護衛しよう!!」

「お兄さんも同行しよう!! じゃあ、イトケン行進始め! おいっち、にい、さんっし!!」

「いっち、にい、さんっし!! さあ、君もやりたまえ!!」

「えーーーー!?」

 インキュバスとスライムに押され橙は大通りへと消えて行く。

 そして後から「藍様助けてください!?」と言う少女の悲痛な叫びが木霊するのであった。

 

***

 

 小等部のグラウンドに妖怪達が倒れていた。

 百を超える妖怪達は皆、気絶しておりピクリとも動かない。

 その中心に一人の女性が立っていた。

 オリオトライ・真喜子だ。

 何時ものジャージを身に纏い、右手に長刀を持った彼女は余裕の笑みで「はい、一丁終わり!」と言うと長刀を背中にしまう。

「見事だな」

 背後から声を掛けられ振り返れば勾玉と剣を浮かせた上白沢慧音が歩いて来た。

 彼女に苦笑を送るとオリオトライは後頭部を掻く。

「実戦は久々だったけどねー。意外と覚えているもんだわ」

「久々の実戦でこれか?」

 慧音が周囲に倒れている妖怪達を指差すとオリオトライはどこかばつが悪そうにする。

「まあ、私はちょっと特殊だから……」

 首を傾げる慧音に「まあまあ」と言うと表示枠を開く。

「しっかし小等部まで雪崩れ込んでくるなんて、性質が悪いわね」

「敵は妖怪だからな。ただ暴れたいだけの奴も多く居るだろうからな」

 そのせいで今回の戦闘は被害の規模が今までよりも大きい。

 普段は戦場にならないような場所も戦場となり、非戦闘員への被害が出ている。

 ここ小等部には小等部の生徒の他に家族連れの難民も収容されており何としてでも防衛しなければいけない。

だが……。

「圧倒的に戦力不足よね」

 小等部防衛隊も度重なる襲撃に被害を増やし、ついに自分達教員までも戦闘に動員された。

 今も被害を出しながら敵を撤退させたがそろそろ危険だろう。

 そう判断していると上空から不死鳥が舞い降りた。

「空の連中は大体追い払ったわ」

 不死鳥の中から藤原妹紅が現れ、彼女は白い髪を手で掬い上げる。

「こっちも大変だったみたいね」

「ああ、空のほうもキツイか?」

「ええ、魔女隊の殆どが浅草防衛に向かったからね。対空戦闘可能な連中は総動員よ」

 そう「やれやれ」と肩を竦めると妹紅は周囲を見渡した。

「ところで義元さんは?」

「義元公なら“ちょっと若い連中の尻を叩いてくる”と言って、何処かに行ってしまったぞ」

「相変わらずねー」

 そう苦笑する妹紅に皆も苦笑すると怪我人を搬送し終えた小等部防衛隊が集まって来た。

彼らの中心に立つと手を叩き、注目を集める。

「はいはい! ちょっと状況厳しいけど、先生たちも協力するから頑張るのよー」

 皆、力強く頷く。

「よし! それじゃあ、みんなの根性、見せ付けるわよ!!」

「「Jud!!」」

 その掛け声と共に一斉に皆、動き始めた。

 

***

 

青梅中部にある臨時バリケード。

そこは沈痛な雰囲気に包まれていた。

 ここを防衛するのは二年生を主体とした下級生部隊で大人や三年生の部隊は最前線で奇襲され音信不通となった。

 今はまだ敵に襲撃されていないがそう遠くない内にここにも敵が攻め寄せてくるだろう。

「敵、来たか?」

 道路に座り、長銃の点検をしていた少年が訊くと槍を持った少女がバリケードから顔を出した。

「まだ。このまま来なければいいのに……」

「そうは言ってられないだろう。先輩達はピンチかもしれないんだ。やっぱ俺たちで助けに行くべきじゃないのか?」

「どうやって? そりゃあ、俺達だって武蔵の生徒だ。戦う訓練は受けてるけど俺達だけで動くのは危険だ」

「じゃあどうすんだよ!?」

 不安は徐々に焦りに変わって行き、皆怯えていた。

 今の状態では戦いにならないだろう。

「……やっぱ織田と敵対したのは失敗だったんじゃないか?」

 一人の言葉に皆沈黙する。

「おい、やめろよ。そういう事言うのは」

「でも、そうだろう! 勝てっこないのにさ!!」

「あ!? なにか!? 織田に媚びへつらってりゃ良いってのかよ!?」

「そうじゃねえけどよ!!」

 喧嘩腰になる二人を慌てて周囲が止めると一人の女子生徒が手を上げた。

 彼女は仲間内でも口数が少なく、影の薄い存在だった。

そんな彼女の挙手に皆が注目した。

「あ、あのね。私、総長たちは間違ってないと思う……の」

「そりゃあ、俺も間違っちゃいないと思うけどよお」

「J、Jud.、 私ね、伊勢の時に皆と逸れて怖かったの。その時にふ、副長に助けてもらって“どうして私を助けたんですか?”って訊いたの」

 皆沈黙し、続きを促す。

「そうしたら、副長が“助けるのに理由が必要で御座るか? 武蔵は助けを求めるものを絶対に見捨てないで御座るよ?”って言ってそれが、その、嬉しかったの。

だから、えっと、そうやって私みたいに助かる人が多いならそれはきっと良い事で、武蔵にしかできないことなんじゃないかなって」

 女子生徒はそこまで言って慌てて顔を赤らめて俯く。

 その様子に苦笑したのは先ほど諦めを口にしていた男子生徒だ。

「あー、なんつーか、これじゃあ俺がワルモンみたいじゃん」

「あ、ご、ごめん」

「いや、いいって。お前の言ってる事のほうが正しいし、武蔵らしいんだろうしさ」

 そう言うと彼は立ち上がる。

「うし! いっちょ頑張るか!!」

 それに続き皆も立ち上がり始めた。

「ああ、やってやろうぜ!!」

「ええ、茶道部の力、見せてやるわ!!」

「よく言ったぞ! 小僧ども!!」

 突然の声に一斉に振り返ればそこにはいつの間にか今川義元が立っていた。

「よ、義元さん!! どうしてここに!?」

「ん? いや、なんか辛気臭い連中がいるから喝を入れようかと思ったが……その必要は無かったみたいだな」

 義元が笑い、皆も笑う。

「だが、お前らだけってのはちょっと不安だ。だから……」

 義元が皆の中央に入り不敵な笑みを浮かべる。

「この東海一の弓取り、今川義元様がお前ら小童共に戦の仕方、教えてやる!! いいな!!」

 その言葉に皆は一斉に頷き「Jud!!」と鬨の声を上げた。

 そして先ほどの男子生徒が口数の少ない女子生徒の横に立つと笑顔を浮かべる。

「頑張ろうぜ!」

「J、Jud!!」

 こうして青梅中部にて下級生部隊が士気を取り戻し、前線の部隊の救援に向かい始めるのであった。

 

***

 

 武蔵野の道路を銀の光が駆けていた。

それを追う様に駆けるのは金の光だ。

 金の光は屋根を伝い駆け続け、銀の光を追い立てる。

 銀が止まった。

 咄嗟に近くの看板を手に取り、追撃してくる金に投げつけたのだ。

 だがそれを金は跳躍で避けると手に持っていた御札を投げつけた。

 銀がそれを避けると御札が地面に貼り付けられ金が手で印を組む。

「爆!!」

 直後御札が爆発し、銀がその爆風で吹き飛び近くの路地に入った。

━━厄介ですわ!!

 そう銀色━━ネイト・ミトツダイラは自分の状況を判断した。

 敵は狐系の獣人。それも高位の存在だ。

 神道系の術式を得意としており御札による攻撃術式や結界術式に長けている。

 対して自分は狼の力を前面に出した近接戦闘系。

敵との間合いを詰めたいが……。

「それも難しいですわね!」

 危険を感じ、咄嗟に大通りに出ると先ほどまで自分が居たところに水柱が落ちた。

 頭上を見ればいつの間にか術式陣が展開されておりそれによって攻撃術式を放ったのだろう。

「貴様、狼ではなく鼠ではないのか?」

 背の高い家屋の屋根に立ち、此方を見下ろす八雲藍に笑みを送る。

「あら? 狼ほど危険察知能力が高い動物はいませんのよ?」

 藍の両横には陰陽玉の様な式が二体追随しており、彼女はそれによって常に守られていた。

故に安易に接近できないのだ。

「だが狼は少々安直だ。化かし合いで狐に勝てると思うなよ?」

「ええ、化かし合いなんてするつもりはありませんのよ!!」

 踏み込み一気に相手に肉薄する。

 それを迎撃するべく二体の式から流体弾が放たれるが肩から四本射出した銀鎖の内、二本の銀鎖をぶつける。

 銀鎖は流体弾と当たり、弾かれるがその隙に敵の懐に飛び込む。

 そして拳を相手の胸に突き出すが障壁が展開され、受け止められた。

「予想済みだ」

「でしたら!!」

 障壁を蹴り後ろへ跳躍すると事前に近くの柱を掴んでいた二本の銀鎖を呼び戻し、敵に叩き付けた。

 だが敵の二体の式が前に出、迫る銀鎖と接触すると自爆する。

━━式を自爆させた!?

 道路に着地し敵を睨みつければ敵は冷静な表情で先ほどと同じように此方を見下ろしている。

「これも予想済みでしたのかしら?」

「いや、予想はしていなかったが対応は可能だった」

 裾から二枚の御札を取り出すと投げ、御札が二つの陰陽玉となる。

「だがいきなり二体の式を失うとはな」

 そう僅かに笑みを浮かべると彼女は自身の前方に攻撃術式を展開する。

「焔!!」

 直後、術式から炎の龍が現われ此方に迫った。

 

***

 

 藍は燃え広がる炎の中から銀狼が飛び出し、此方から距離を離して行くのを視認した。

━━さて、次の手は……。

 攻撃が失敗したとは思わない。

 何故ならあの攻撃は当たらないと判断したからだ。

 式である自分は自動人形並の演算能力を所有している。

 故に全て、計算の上で動いているのだ。

 銀狼は確かに強い。

筋力、瞬発力、判断力、どれをとっても一級であり正面からの戦闘は危険だ。

だがこうして高所を取り続けている間は敵は行動を制限され、動きが読みやすくなる。

あの銀鎖も自在に動き厄介だが鎖である以上動きは計算して読める。

 そう敵の攻撃は対応可能なのだ。

 だが此方から攻撃を当てる場合は?

 これは意外と難しい。

 相手は機械ではなく生物。

 思考で動き、本能でも動く。

そんな奴の行動を把握するのは難しい。

ならば……。

━━罠を張ればいい。

 狩の常套手段だ。

 罠に掛かればどんなに獰猛な獣であったとしても容易く無力化できる。

 銀狼の行く先に攻撃術式を放ち、進路を誘導していくとちょっとした広場が見えてきた。

その事には敵も気が付いており、そこに向かうだろう。

 自分を敵と同じ高所に移動させられないなら敵を自分と同じ場所に引きずり込む。

そう思ってるはずだが……。

━━それこそ私の思惑通りだ。

 さあ、向かえ、罠の中へ。

 あそこに飛び込んだ時こそ自分の勝利だ。

 我が勝利は主の勝利。

 私は紫様の式、道具、この力は全て彼女に捧げる。

 そして銀狼が罠に飛び込んだ。

 

***

 

 ミトツダイラは広場に出ると一気に中央に向かい、振り返った。

 此処ならば周囲に家屋は無く、敵は降りてこざるおえない。

 そしてその予想は当たった。

 九尾は屋根から飛び降りると広場に着地し、此方と相対する。

「成程、開けた場所なら狼の身体能力を存分に振るえる。そう言うことだな」

「Jud.、 追いかけっこにはもう厭きましたわ」

 「ですので」と腰を落とし構え、突撃の姿勢をとると敵は笑みを浮かべた。

「愚か者め。言ったはずだ、化かし合い、知略戦で狐に勝てると思うなと」

 「どういう……」と言いかけた瞬間、広場の地面から一斉に何かが飛び出した。

 それは八面の物体であり、一つ一つの面は網目状の膜で覆われている。

「狼は耳が良いからな」

 直後、大音響が放たれた。

 此方を囲むように凄まじい音と衝撃が放たれ、空気を振動させ広場周囲の家屋の窓が一斉に割れた。

「……ぁ」

 あまりの大音響に目の裏で火花が散り、平衡感覚が失われる。

 脱力し膝から崩れると無音が広がった。

 否、音が無くなったのではない。

自分の耳が音を認知できなくなったのだ。

━━罠……でしたのね!?

 声は出ない。

 いや、出てはいるが聞えないだけなのかもしれない。

 衝撃に風景が揺れ続け、相手の位置が、自分の位置が分からない。

 何とか体勢を立て直そうとした瞬間、顔面に蹴りが入れられた。

 

***

 

 銀狼が顔面に此方の蹴りを喰らい、吹き飛ぶのを見ると藍は自分に展開していた防音術式を解除した。

 あの衝撃で気絶しなかったのは見事だ。

だがそこまでだ。

 蹴りを喰らった敵は何とか立とうとするが体の自由が利かず、何度も転倒している。

「では、終わりにするとしよう」

 敵を倒した達成感などない。

 なぜならこれは当然の決着だから。

 自分はあくまで主の道具であるから。

「紫様の心労となる武蔵。貴様らは此処で潰えろ」

 攻撃術式を展開する。

 今までに使った中でも最も規模の大きい、本来であれば対要塞用の術式だ。

 障壁が多重展開され、それが凝縮して行く。

 あれが完全に凝縮され、放たれた時が敵の最期だ。

敵はこの場所ごと跡形も無く消え去るだろう。

「さあ、終われ! 主の敵!!」

 そう手を振り上げた。

 

***

 

 武蔵野の通りを一匹の獅子型魔獣が駆けていた。

 鋼の装甲を身に纏った魔獣は数ヶ月ぶりとなる武蔵野の道を駆け抜ける。

 嘗ては武蔵野艦橋前で自分は敗れ撤退した。

今回はそのリベンジと言う事で武蔵野艦橋の強襲の命令を受けている。

 しかし今自分が向かっているのは武蔵野艦橋ではない。

 風に乗っている懐かしい匂いを追いながら道路を進み続ける。

 途中武蔵の兵たちのバリケードに到達した。

彼らは長銃で此方を迎撃するが、それを装甲で弾くとバリケードを飛び越え無視する。

 匂いが強くなってきた。

 知っている匂いと知らない匂いだ。

 知らない匂いが知っている匂いを追っているのが分かった。

 直後、前方から凄まじい音と衝撃が来る。

あまりの音に思わず全身の毛が逆立つほどだ。

 彼女に危険が迫っている。

 そう思うと駆ける速度を上げ、道を曲がり、大通りに出、途中邪魔しようとした武蔵の兵は死なない程度に吹き飛ばした。

 そして広場に出ると彼女が居た。

 銀の美しい髪を持つ彼女は両膝を付き、その前には狐が立っている。

 狐は手を振り上げ上空に浮かぶ危険なものを彼女に向かって射出しようとしているらしく、それを見て自分は……。

「俺の嫁(予定(未定))に何してんじゃああああああああ!!」

 渾身の前足蹴りを横から狐に喰らわした。

 

***

 

 ミトツダイラは突如獅子が現われ藍を横から吹き飛ばしたのを見た。

━━え?

 獅子は此方の前に立つと心配そうに此方を見る。

「あなた……伊勢の時の!」

 獅子はそうだと頷く。

 まだ体の自由は利かないが聴覚は大分戻ってきた。

 その事を実感しながら疑問を口にした。

「どうして私を助けたんですの?」

 

***

 

・○べ屋:『えー、どうしてって……ねえ?』

・金マル:『あー、うん。そりゃあ、ねえ?』

・銀 狼:『え? え? 皆、分かりますの?』

・あさま:『ほら! ミト! 思い出してください! 伊勢の時、アニマルカーニバルやった後のこと!』

・銀 狼:『え、え、え━━━━━━っ!?』

・魚雷娘:『一途な方だったんですね』

・十ZO:『何と言うか、ミトツダイラ殿も難儀で御座るなあ……』

・現役娘:『ネイト! ネイト! 今、浅間神社経由で知らされたのですけれど貴女、獣姦に走ったって本当ですの!?』

・銀 狼:『変なところと繋がってますのよぉ━━━━!?』

 

***

 

「えっと、その、いいですの? 伊勢の時も言いましたが私には仕える王が居て、だから、その、好意は嬉しいのですが、その御免なさい!」

 

***

 

・● 画:『何と言うか、シュールな画よね……』

・貧従士:『あ、獅子のほう少し震えてますよ? 結構効いたみたいですねー』

 

***

 

 獅子は暫く寂しそうな表情を浮かべるとやがて頷き、吠えた。

「え? それはその、構いませんが……」

 

***

 

・傷有り:『今なんと仰ったのですか? ミトツダイラ様』

・銀 狼:『“それでも構わない。貴女が王に仕える騎士ならば、私は貴女に使える騎士になろう”と……』

・煙草女:『なんさね……、この精神イケメン獅子は』

 

***

 

 「我が王もこのくらい気の利いた事を言ってくだされば良いのですけれどねー」と思っていると獅子の背後で動いている影に気が付いた。

「……!! 危ない!!」

 直後影から流体の槍が放たれ、獅子の胴を貫く。

「!!」

 獅子が苦悶の声をあげ、振り返れば右腕に裂傷を負った藍が立っていた。

 彼女は額に汗を掻き、怒りの表情を浮かべている。

「言葉も発せぬ下等な魔獣如きが!! 調子に乗るな!!」

 攻撃術式を多重展開し二十を超える流体の槍が現われる。

━━いけませんわ!!

 自分はまだ自由に動けない。

それに先ほどの一撃で獅子も胴に穴が開き、血が噴出している。

明らかに重傷だ。

 だが獅子は此方に一瞥すると前に出た。

「何をする気ですの!?」

 獅子は此方の此方を庇うように仁王立ちすると敵に唸る。

━━まさか、私を庇う気ですの!?

 いけない。

 アレを喰らったらいくら頑強な獅子とは言え、命を落とす。

 自分を庇って死ぬ。

その事に一気に心が冷えると慌てて立とうとする。

 だが立てても膝は震え、前に歩く事が出来ない。

「貴様ら、両方とも消えろ!!」

 そう藍が叫んだ瞬間、此方の後方、道路の方角から石が藍に向けて投げつけられた。

 それを回避すると藍は怒鳴る。

「何者だ!!」

「ふふ、良い女よ」

「え?」

 此方の横を通り、獅子の前に立つ姿があった。

 肌を大胆に露出した彼女は不敵な笑みを浮かべると仁王立ちする。

「喜美!?」

「ええ、私よ? 駄目な女のオーラを追ってきてみれば成程……」

 喜美は藍ぞつま先から頭まで測るように見る。

「かなり駄目な女と当たったみたいね? ミトツダイラ?」

「貴様……」

 眉を逆立てる藍に笑みを送ると踊り子が一歩、前に出た。

「いいわ。今日は私もいろいろ思うことが有った日だから、

━━━━ちょっと本気で教育してあげるわ!」

 そう腰に手を当て、宣言した。

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