「風は力となり、敵を巻き上げる!!」
突風が吹き、敵の軍団を巻き上げると後方の天邪鬼達が槍を投げつけて来る。
それを見たトゥーサン・ネシンバラは即座に表示枠に文字を打ち込む。
「前へ進め、力は勇気となり軍勢は槍の雨を抜ける!!」
自分の術式“幾重言葉”を使い敵を跳ね除け続けているが数が多い。
武蔵野艦橋へ向かおうとしている途中妖怪の群れに襲撃された。
完全な足止めだ。
敵は大軍を此方に向けることによって此方を封殺しようとしてくる。
━━こっちが干上がるまでやる気か!!
葵君が結界の中に囚われたため、現在彼からの流体供給は来ていない。
皆、手持ちの内燃排気で戦わされている。
盾を持った妖怪達が密集した。
それを見て一気に突破する事を決めると……。
「軍勢よ進め、我等が騎馬を前に敵は無し!!」
己を騎馬隊とし敵に突撃を仕掛けると妖怪の群れは一斉に割れた。
━━なに!?
そして長銃を構えた天狗たちが現われる。
━━しまった!! 織田の鉄砲隊!!
対して此方は騎馬隊。
これは“物語として非常に不利”だ。
なぜなら騎馬隊は鉄砲隊の三段討ちで壊滅するのだから。
突撃する体は止まらない。思い切って銃弾を喰らう事前提でこのまま切り込むか?
そう思っていると突如知った声が武蔵野の夜空に響いた。
そして流体の矢が降り注ぎ敵の鉄砲隊を壊滅させる。
「トマス・シェイクスピア!?」
背後を振り返れば劇場術式“宮内大臣一座”を展開させたシェイクスピアが立っており、彼女は「Tes.」と頷くと此方の横に立つ。
「相変わらず詰めが甘いね。トゥーサン、君は自分の物語だけを見過ぎだ。もっと幅広い視点で物語を見ないと」
「う、五月蝿いな!! これから華麗に反撃するところだったんだよ!!」
「へえ?」と半目を送ってくる彼女に言葉を詰まらせると気持ちを立て直すために敵軍団を見る。
「ともかく、僕はこれから武蔵野艦橋に行かなければ行けない」
「それじゃあ手伝ってあげるよ。君だけじゃ心配だからね」
そう言うと彼女は先に進み、それを慌てて追いかける。
「さあ、久しぶりの合同演劇だ。織田の諸君、心行くまでお楽しみを」
宣言と共にシェイクスピアの劇団が展開され、敵を一気に包囲するのであった。
***
柱の影に隠れていたノリキは右腕を紐で縛って止血をし、ゆっくりと息を吐く。
それから隣りに浮かぶ表示枠を見れば金髪の少女が映っていた。
『あいつを上へ引っ張り出してくれればこっちで何とかするわ』
「了解した」
表示枠を閉じると目を瞑り心を落ち着かせる。
右腕を負傷したため今の自分は“睦月”を使う事が出来ない。
この状態であのゴーレムを倒す事は出来ない。
故に……。
「!!」
目を開き咄嗟に柱の影から出ると巨大な拳が柱を叩き砕いた。
「ちょろちょろと虫の様に!!」
眼前に立つ残骸の巨人の肩に乗ったエリーはそう忌々しげに言うと巨人は叩き付けた拳を横に払ってくる。
それを近くの砕けた柱に乗り、更に跳躍することによって避けると敵の側面に回りこむ。
さて、どうする?
ここは品川右舷中層、敵の頭よりちょっと上に見える亀裂が表層への道だ。
敵を倒すにはこいつを表層まで誘導しなければいけない。
「この!!」
巨人は足を上げ此方を踏み潰そうとするが股下を抜け反対側へ避ける。
━━頭に血が上っているな。
ならばちょっとした挑発に掛かるかもしれない。
そう思うと敵の前に出る。
そして皮肉を込めた笑みを浮かべると「どうした? 意外と大したこと無いんだな」と言う。
「……そう、そんなに死にたいのね!!」
巨人が唸り、両拳を頭上で揃えると振り下ろしてくる。
それを後方への跳躍で避け、敵の拳が眼前に落ちると乗った。
そのまま一気に敵の左腕を駆け上がると左肩に乗ったエリーが驚愕の表情を浮かべ鎌を構える。
ここだ!!
鎌が横に薙がれ、鋼の一閃が来るとそれを潜る。
そして潜った体勢で敵の横を素通りすると跳躍し、亀裂に入った。
「……馬鹿にして!!」
巨人が振り返り跳躍する。
ほぼ頭突きに近い体当たりに浅草の表面装甲が盛り上がり砕けると、破片と共に体が吹き飛ばされた。
そして表層に飛び出し、背中から地面に叩き付けられると息が詰まる。
そんな此方を飛び越えるように巨人が跳躍した。
巨人は建物を踏み潰し、地面を砕き立つと月明かりを背に叫ぶ。
「ふふ、今度こそチェックメイトよ!!」
勝利を確信し、エリーが巨人に此方を踏み潰すよう命令した瞬間、金の巨影が巨人を横から叩き飛ばす。
「なに!?」
瓦礫の巨人と相対するように美しい巨大人形が両手に持つ剣を構え立つ。
「人形!? ということは……!!」
「アリス・マーガトロイド!! 姉小路の家臣として、徳川の仲間として戦わせてもらうわ!!」
人形の肩の上で、アリス・マーガトロイドはそう宣言した。
***
━━キャラじゃないわよね。
そうゴリアテの肩の上でアリスは思った。
本来自分は本気を出さないし、何事にも冷静に、熱くならないようにしているのだがどうも織田と相対すると感情が昂る。
姉小路での生活はそれなりに楽しかった。
やかましい白黒やちょっと頼りない当主が居るが姉小路の家は温かく、居心地が良かったのだ。
だがそんな生活は怪魔によって砕かれた。
多くの者が死に、国は無くなった。
そして織田は傷つき疲れていた私たちを利用しようとした。
昔、母が行っていた事を思い出す。
『いい? アリスちゃん。やられたらやり返す、それがウチの家訓よ?』
ええ、そうね。お母様。この余裕満面で人を見下している奴等を叩きのめすわ。本気出さない程度に。
「誰かと思えば……魔界の御嬢さんじゃないの?」
巨人の体勢を立て直し、相対する少女が皮肉を込めた笑みを浮かべる。
「そういう貴女は……誰だったかしら?」
「ふふ、挑発にしてはちょっと幼稚ね」
「いや、本当に誰だったか思い出せないんだけど……」
「…………」
少女の眉が逆立つ。
えーっと、誰だったかしら? なんか見覚えが……。
十五、十六年前くらい? いや、そんなに昔だったっけ? まあいいや。
「どっかの中ボス?」
「違うわよ!! ちゃんとボスよ!! って、なに!? この会話!?」
五月蝿い女ね。
そう思っていると背後のノリキの方を向く。
「後は私が片付けるから、別のところの救援に向かってちょうだい」
「Jud.」と彼は頷き撤収するのを見届けると振り返った。
すると眼前に鋼の拳が迫ってきていた。
「ふざけてんじゃないわよ!!」
***
迫る拳をゴリアテは咄嗟に体を逸らし避ける。
そしてその逸らした勢いを利用し右手の長剣を巨人の脇腹に叩き込んだ。
脇腹に攻撃を喰らった巨人はうめき声を上げ、装甲を砕かれながら横に転がる。
「不意打ちとは卑怯じゃない」
「戦場でよそ見している方が悪いのよ!」
確かに。
どうやら彼女は理屈で動くタイプらしい。
実に好ましい。自分の周りはちょっと本能的な奴が多すぎる。
━━でも理屈っぽすぎるとどっかの紫もやしみたいになるのよね。
まあ、あれはあれで結構好ましいが。
体勢を立て直した巨人は砕かれた脇腹を修復するため周囲の残骸を巻き上げた。
厄介ね。
即座に修復されては埒が明かない。
とは言ってもあの修復能力も無限という事はあるまい。
敵は此方と違って重力制御で巨人を操っている。
敵の内燃排気が尽きれば巨人も無力化できるだろう。
そう判断すると二対の長剣を構え、突撃する。
敵は拳を構え、カウンターを狙ってくるが此方は敵の目前まで来ると跳躍した。
そして背後に着地すると振り返り、二連撃を叩き込む。
巨人の背中にX字の傷が出来上がり、巨人は振り返る。
その間に横を通りぬけ、前に出た。
「蹴りなさい! ゴリアテ!!」
腹に蹴りを喰らい巨人は後ろへスライドする。
「く!! なんでそんなに速いのよ!!」
「貴女のみたいに無駄に重くないからね」
瓦礫の集まりと芸術品を一緒にして欲しくない。
この子は私が大事に作った人形なのだから。
後ろへ下がった敵を追撃する。
右手の剣を振り下ろせば敵は左腕でそれを受け止めた。
次に左手の剣を切り上げれば敵は右脇で挟む。
互いに両腕は塞がった。ならば。
「頭突きね」
ゴリアテが頷き、強烈な頭突きを喰らわす。
頭突きを喰らった敵は仰け反り、体勢を崩したためそこへ再び蹴りを入れる。
月夜に巨体が舞った。
巨人は緩い弧を描き、墜落する。
「石頭め、ちょっとお凸の塗装が剥げちゃったじゃない」
鋼鉄の頭に頭突きをしたのはちょっと失敗だったか?
ともかく、そろそろ止めを刺そう。
そう思い構えると、敵が右腕を構えていた。
「え!?」
巨人の右腕は先ほどまでの人の形をしていなかった。
腕の装甲は分解され、筒状に変形して行く。
そして長大な大砲に変形すると左手で支え、此方を狙う。
「既製品には出来ない行動よね!! これは!!」
そうエリーが叫ぶと同時に大砲から圧縮された瓦礫の弾丸が放たれ、反応に遅れたゴリアテの頭を穿った。
***
本多・二代は状況を良く理解できていなかった。
先ほどから自分は“翔翼”を展開し、敵の背後を取ろうと駆け続けている。
だと言うのに敵の背後が取れないのだ。
敵は不動。
だが常に体の前面は此方を向いていた。
━━うーむ……これは……。
「勇儀殿、裏表同じで御座るか?」
「私はその結論に至ったあんたに尊敬するよ……」
おお! 褒められたで御座る!
さて、こうやって相手を中心に回り続けても埒が明かない。
ならそろそろ……。
「行くで御座るよ!!」
家屋の壁を蹴り、突撃する。
敵をそのまま蜻蛉スペアで貫く……ように見せかけて敵の横を抜ける。
そして振り返ると同時に槍を放った。
「!!」
「ほう、良い速度だ」
蜻蛉スペアは敵の眼前で止まっていた。
否、止められたのだ。
敵は人差し指と中指の二本で蜻蛉スペアの刃を掴み、受け止める。
腕を引いても押しても槍はビクともしない。
「凄まじい怪力で御座るな」
「ああ、これでも“力の勇儀”って名乗ってんだ。力勝負で負ける気はしないねえ」
なるほど。
確かに力勝負では相手にならない。
ならば。
「結べ! 蜻蛉スペア!!」
刃に敵を映し割断をしようとした瞬間、敵が消えた。
空振った刃はそのまま下へ落下し、体勢が崩れる。
「今のは……」
敵が立っていた場所を見る。
地面は抉れ、砕けた痕跡があり、それはつまり……。
「咄嗟の跳躍、それも筋力を用いた高速移動で御座るな」
「ああ、その通り。パワータイプは遅いなんて、時代遅れな事は言わないでくれよ?」
そう言えばP.A.Odaの柴田・勝家や六護式仏蘭西の人狼女王もパワータイプでありながらスピードも達人級だった。
つまり、この敵は……。
━━柴田・勝家や人狼女王と同じ領域に居る存在!!
自分が目指すべき場所に居る存在だ。
それを理解し、心が躍るのが実感できる。
そんな此方の様子を見ると勇儀は嬉しそうに目を細める。
「いいねえ、若人。上を見たことがある人間の目だ。上を知っていて、それでもなお心折れずその領域に挑もうとする奴の目だ」
そう言うと彼女は持っていた杯に口を付けようとして「おっと危ない」と苦笑した。
「本多・二代、あんたに一つ質問がある。あんたは上を目指して何を成したい?」
静かな、此方の全てを測るような目だ。
その目をしっかりと見つめ返し、口をゆっくりと開く。
「拙者、本多・忠勝を襲名するつもりで御座るよ」
「ほうほう、それで?」
「それだけで御座るよ?」
「は? 天下に己の武を知らしめるとかそういった野望は無いのかい?」
野望で御座るかー。
姫や王の力になること? いや、それは野望ではなく責務。
襲名も野望ではなく己の道の延長線である。
ならば自分の野望は……。
「拙者、特に欲とかは御座らんから取り合えず上に向かって進み続けるで御座る。昇り切れたら、まあ、その時の事はその時に考えるで御座るよ」
そう頷くと勇儀は暫く唖然とした顔をし、やがて大笑いした。
「ふむ? 何か変な事を言ったで御座るか?」
「ああ、いいんだよ、いいんだ。それで。いやあ、いいねえ、あんた。その道、進み続けな。道の先にある物を見つけてみなよ」
そう言うと笑みを浮かべたまま眉を上げた。
「無駄話もここまでだ。それじゃあ……行くよ!!」
敵が消え、直後眼前に拳が現われた。
***
本多忠勝は武蔵野艦首側への通りを駆けていた。
書記からの指示で武蔵野艦首で相対している二代と交代し、彼女の代わりに敵を食い止める。
そして彼女は教導院まで急行し蜻蛉スペアの割断で教導院を覆う結界を強引に破る手はずなのだが……。
「派手にやっているようだ」
前方で幾度も破砕と衝撃が起こっている。
おそらくあの中心に二代は居るのだろう。
━━まったく、戦いに夢中で通神に気が付いておらんな?
彼女の悪い癖だ。
戦いが始まるとそれだけに集中してしまう。
その集中力の高さこそ彼女の武器でもあるのだが、それは同時に大局を見失い易い。
━━武人としては一流、なれど武将としてはまだまだという事か。
などと偉そうな事を思うが自分とてまだまだ未熟。
知略では榊原が勝り、軍略では井伊が勝る、そして統率では酒井が。
━━う、うむ。某はやはり武門担当か。
そう思っていると一際大きい衝撃が起こり、向こう側から見知った顔が転がってきた。
長い髪を後ろで結った彼女は道路を転がり、此方の眼前で止まると「おや?」と立ち上がる。
「忠勝殿では御座らぬか。こんな所でどうしたので御座るか?」
「二代よ、通神を見ろ」
首を傾げ表示枠を開くと彼女は「おお」と頷く。
「拙者とした事が通神に気が付かなかったで御座るよ。この指示よれば拙者は今から忠勝殿と代わり教導院に向かうそうで御座るが、生憎いまちょっといそが……」
言葉は途切れ、二代の姿が突如消える。
いや、消えたのではない。
横から蹴りを喰らい、吹き飛んだのだ。
空中で受身を取りちゃんと着地したのを見届けると「うむ、見事な受身よ」と褒める。
すると眼前に金色が靡いた。
金の長い髪を持つ一本角の鬼が現われ、彼女は此方を見る。
「ちょいと、そこのあんた。そんな所にいると危ないよ」
━━この鬼、今何歩で此処まで来た?
衝撃が起きたのは二百メートル程前方、その間に感じた着地の振動は一度のみ。
つまりこの鬼は一歩で百メートル詰めた事になる。
「ふむ、二代よ。この鬼がお前の相手か?」
「Jud.、 凄い方で御座るよ。勇儀殿は」
であろうな。
なるほどだから二代は夢中であったか。だから書記殿は某をここに送ったか。
「この鬼の相手、某に任せよ」
「は?」と目を丸くしたのは勇儀と言う名の鬼だ。
彼女は首を横に振ると半目になる。
「一騎打ちに水を差すんじゃないよ」
「たしかに、一騎打ちの邪魔する事、申し訳なく思う。だがこれも我等がこの状況を切り抜ける為。失礼を承知でお願いしたい」
頭を下げると勇儀は暫く沈黙し、やがて肩を竦めた。
「じゃあ、一つ私を驚かしてみな。驚かせれたらあんたを相手にしてやるよ」
「忝い」と言うと鬼と距離を離し、二代の前に立つ。
「二代よ、しかと見ておけ。我が技法、見せてやろう」
二代が首を傾げた瞬間、蜻蛉切を構え敵に迫った。
***
「!?」
突然眼前に迫った刃を顔を逸らし避けるとそのまま後ろへ逃れた。
━━今のは……。
油断していたとはいえ一瞬だけ完全に敵の姿を見失った。
あれだけの気配を発していた男の気配を感じ取れ無かったのだ。
「…………は!? 忠勝殿、もう一度、もう一度で御座る!!」
「うむ。ではもう一度」
男は下がり再び此方と距離を取ると槍を構えた。
そして、消えた。
━━見切った!!
突如現われた刃を右手で弾くと互いににらみ合う。
「なるほど、闘気を内に溜め込むのかい」
「然様。外へ放つのみが闘気に非ず。押さえ込み、極限まで闘気を溜め込む」
それによって一瞬だけ気配を隠し攻撃と共に闘気を一気に放出することによって一気に迫られたように錯覚する。
そういった仕掛けだ。
しかし、そんな事が簡単に出来るはずがない。
この男、何者だ?
「忠勝って言ったかい? それはつまり……」
「我が名は本多平八郎忠勝。徳川が臣として御身と相対しよう」
東国無双!
襲名者予定も相当なものならこの男もかなりのもの。
一夜で二人も強者と出会え心が浮き立つ。
「いいねえ、実にいい」
そう笑みを浮かべると忠勝の背後の二代を見る。
「行きな。あんたとの決着はまた今度だ」
「いいので御座るか?」
「ああ、いいさ。さっきも言ったが心情的にはあんた達を応援している。教導院に行って頭でっかちを叩いて来るといいさ」
二代は忠勝に目配せをし、互いに頷くと此方に一礼した。
「それでは、また何処かで」
そう言うと彼女は“翔翼”を展開し加速を行うと教導院に向かって行く。
その背中を見届けると「さて」と言い、忠勝と相対する。
「殺り合う前にちょっとしたルールを説明しておくよ」
「ルール?」
「ああ、そうさ。私は右腕だけで戦う。あんたは私が左手に持つ杯から一滴でも酒を零せたら勝ちさ」
「一滴で良いのか?」
「構わないよ。何故なら━━━━━━そうでもしないとあんたら人間は私に勝てないからねぇ!!」
笑みを浮かべ、敵に対して大きく踏み込んだ。
***
武蔵野艦首側を本多忠勝と星熊勇儀は駆けていた。
二人が駆けた後は破砕と激突の音が鳴り響き、両者は並び走りながら攻撃の応酬を繰り返す。
忠勝が蜻蛉切を突き出せば勇儀はそれを避け、右腕を突き出してくる。
今度は忠勝がそれを避け、突き出した蜻蛉切をそのまま横へ薙ぐと勇儀は後方へ一気に跳躍する。
━━見事な瞬発力!!
敵は武器を持たず己の拳のみで戦っている。
対して此方は槍。
獲物の長さの差を使い、敵と距離を離して戦いたいが……。
━━それこそ危険!!
敵の腕力は確かに危険だ。
だが本当に危険なのは拳ではなく足の筋肉を用いた瞬発力。
敵が踏み込んだ。
そう認識した瞬間には敵の拳が迫る。
「!!」
来る事は分かっていた為、前もって回避動作を行い体を逸らすと敵の拳が此方の鎧を掠め、胸に傷が出来る。
事前に回避動作を行っていてもこれだ。
あの突撃を完全に避ける事は不可能。
このままでは何れ直撃を喰らうだろう。
ならばこの敵に対してするべき事は……。
「あえて踏み込む!!」
攻撃を外し下がろうとする敵に肉薄する。
蜻蛉切の上部と下部を持ち、短くすると顎下を狙って突き出す。
鬼はそれを回避し、一歩さがるがそれにあわせ此方も一歩出た。
「良い判断だねえ! 肉薄する事で此方の突撃を封じる……でも!!」
敵は右足を上げ蹴りを放つとそれを咄嗟に側面に回りこむ事で回避する。
「肉薄すれば肉薄するだけ直撃を喰らい易くなる。それにこっちは跳躍で一気に距離を離せるけど、どうする気だい!?」
「某、避ける事には定評がある!! それに跳躍だが、お主の跳躍には踏み込みが必要で、更に両足が地に着いている必要が有る!!」
「そこまで見抜いているとは大したもんだ!!」
敵が腕を横に回し薙ぎ払いを行ってくるとそれを屈み避け、再び槍を突き出す……ように見せかけて槍を押し出した。
此方の突きを避けようとした敵は突然の押し出しに対応が送れ、脇腹に蜻蛉切の柄を喰らう。
━━やはりビクともせぬか!!
人であれば今ので一瞬だけよろける。
だがこの鬼は不動のままそれを受けた。
そのため杯の酒は一滴も零れない。
「…………驚いたねえ。人の身でここまでやるなんて」
勇儀は静かに、だが心底愉快そうに言うと口元に笑みを浮かべる。
そして片足を上げ、大きく踏み下ろした。
凄まじい衝撃が起き、砕けた破片を避けるべく距離を離すと即座に突撃の姿勢を取った。
だが……。
「……!」
構えていたのだ。
鬼は腰を落とし、重心を下げ、右肘を腰元で引いた構えを見せる。
初めて見せた敵の構えに危険を感じ、額に汗が浮かぶ。
「本当なら、この技使うつもりは無かったんだけどね……あんた、いい男だからさ」
「だから」と彼女は一歩踏み出す。
その瞬間、気が収束した。
「ちょっとだけ本気出すから、死ぬんじゃないよ?」
二歩目。
彼女の中で収束した気が凄まじい勢いで圧縮されて行く。
危険だ!!
そう思うと同時に駆け出した。
“あれを止めなければ負ける”と。
「四天王奥義『三歩必殺』!!」
三歩目。
拳が突き出された。
直後、彼女の前方の全てが殴り、砕かれた。