緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第四十章・『高嶺の舞手』 思い出すのは昔の誓い (配点:式神)~

 月明かりに照らされる広場で狂人と狐が相対していた。

 狐は狂人を警戒するように。

 狂人は余裕の笑みを浮かべたまま腕を組む。

 両者何も喋らず、視線を交し合っていると狂人の背後で狼が口を開いた。

「喜美、教導院の方に居たのでは?」

「ええ、最初はね。貧乳天人がセンチメンタル全面に押し出していたから、出来る女として一人にしてあげようと思って教導院を離れていたのよ」

「それで戻ろうとしたら結界で入れなくなったと?」

 「Jud.」と狂人は頷く。

「あら、これは大変。でもまあ愚弟が天人慰めて立て直したみたいだから私は自由に行動する事にしたのよ。それで……」

 狂人が流し目で狐を見ると狐は眉を顰める。

「良い女代表の私が駄目な女オーラを感じ取ってここに来たってわけ。どうやら正解だったようね」

 自分の不甲斐なさを叱られているようで少し項垂れる。

 そんな此方の様子に喜美は小さく笑うとこちらの肩を軽く叩く。

狐の方に向き返った。

「つまり次の私の相手は貴様か? 葵・喜美」

「あら? 私の事、知ってんの?」

「ああ、武蔵アリアダスト教導院総長兼生徒会長である葵・トーリの姉。狂人だとか淫乱だとか聞いていたが……ふん、本当のようだな」

 嫌味っぽく言う藍に対し、喜美は「褒め言葉ね」と笑みを浮かべた。

「でも、私はあんたと戦いに来たわけじゃないわ」

「なに?」

「え?」

 予想外の言葉に二名の声は重なった。

その様子に苦笑すると喜美は眉を下げる。

「私はあくまで駄目女を教育しに来たわけ。あんたが戦うのはそこの騎士。

今ちょっと愚弟の匂いが途絶えてやる気ダダ下がりしてるみたいだけど、本気のミトツダイラは凄いわよ?

嬉ション全開で戦うから」

「何言ってますの━━━━━━!?」

 此方の抗議に声に「まあまあ」と言うと喜美は自分の走狗であるウズィを呼び出すと術式の展開を始めた。

「まあ、だから? そこのミトツダイラが完全復帰するまでの間、ちょっとだけ相手してあげるわ」

 対する藍も攻撃術式を展開してゆく。

「舐められたものだ。その余裕、すぐに無くしてやろう」

 そして喜美が軽くタップするのと同時に戦いが始まった。

 

***

 

━━先手必勝だ!

 今相対しているこの女。ふざけているが身のこなしはかなりのものだ。

 葵・喜美。

 先ほど言ったとおり葵・トーリの姉であり、狂人の多い武蔵の中でも特に狂っていると言われている人物だ。

だが謎も多い。

 噂によれば潜在能力は本多・二代以上だとか、実は武蔵最強だとか言われているが表に出ることが少なく、彼女の詳しい情報を得ていない。

 つまり自分にとってこの女はまったくの未知だ。

 故に先手を打ち、敵の動きを封じる。

 放つのは先ほど銀狼に撃ち込もうとした対要塞攻撃用の攻撃術式だ。

 障壁を圧縮し、狙いを定める。

 “止めに来るか?”と警戒をすると絶句した。

 狂人は踊っていたのだ。

此方を止めに来るのわけでもなく、防御を行おうとするのではなく。

ただ舞い、此方に笑みを送っていた。

━━狂人め!!

 戦闘中にふざけているようにしか見えない敵に苛立つと障壁を発射した。

 圧縮された障壁は槍となり地面を砕きながら狂人に向かう。

そして直撃したと思った瞬間、信じられない光景を目の当たりにした。

 障壁の槍が砕けたのだ。

 敵の直前で砕け、粉々になり消失する。

 その光景に僅かに絶句すると思考した。

 今の一瞬で敵が防御術式を展開した様子は無い。

それに今の塞がれ方。

障壁で受け止められたと言うよりも消滅させれらたように感じる。

 ならば敵はキャンセル系の術式を展開したのか? だが何時?

この女はずっと踊っているだけで……。

「!!」

 気が付いた。

 そうか、そう言うことか。

それが貴様の技か!!

「フフ、気が付いたよね。そうよ、私はエロとダンスの神を奉じている。

私の術式“高嶺舞”は踊りを奉納することによってありとあらゆる術式を遮断するのよ!!」

 舞いながら宣言する女にはじめて脅威を感じた。

 術式攻撃を主体とする自分とこの女は非常に相性が悪い。

だが……。

「紫様の式として、退く事は有り得ん。その舞、崩させてもらうぞ!!」

 狂人は目を細め手を差し伸べた。“かかって来なさい”と。

 それに答えるように駆け出し、敵に接近した。

 

***

 

 ミトツダイラは眼前で繰り広げられる戦いに僅かに息を呑んだ。

━━前よりも洗練されてますわ!!

 以前の喜美では先ほどのような対要塞級の攻撃術式を遮断する事は出来なかった。

だが先ほど彼女は敵の術式をいとも容易く遮断したのだ。

 普段はふざけているが裏では並々ならぬ努力をしているのが喜美だ。

━━私ももっと頑張りませんとね……。

 王と共に歩む騎士として先ほどのような失態は繰り返せない。

 そう頷くと自分の横で倒れている獅子の様子を見る。

 獅子の胴には大きな穴が開き、今も血が噴出している。

手持ちの回復術式を分け与えているが明らかに回復力が足りない。

 なんとかしなければ!!

 そう思っていると通りの方から点蔵とメアリが駆けて来た。

「第一特務! メアリ!!」

「無事で御座るか!!」

 喜美が敵と戦っている様子を見た点蔵は「喜美殿が来てたで御座るか」と呟く。

「そうだ! メアリ、この方に治療を!」

 獅子の容態を確認したメアリは頷くと獅子の隣りにしゃがみ、回復術式を掛けはじめた。

 それにより傷口が塞がっていくのが見え、安堵の溜息が出る。

「他の場所はどうなってますの?」

「ほぼ全艦で苦戦。ここ武蔵野も艦橋前まで押し込まれているで御座るよ」

 「だから自分達はそこに向かう途中だったのだ」と言う。

 王からの流体供給も無く、内燃排気が尽き敗走している部隊も多いと言う。

━━ここで何時までも足止めを食らっているわけにはいきませんわね。

 喜美が時間を稼いでいる間にあの敵に勝つ方法を考えなければ。

 敵は式神付きの獣人。

 自動人形級の高速思考が可能で身体能力も高い。

 何も策を持たずに敵に突撃すれば敵は此方の動きを容易く予測し、迎撃して来るだろう。

 そこを突けないだろうか?

 理詰めで動く故にある敵の弱点を。

 そう思うと表示枠を片手で開き、ハイディと繋げる。

「一隻だけ牽引している輸送艦がありますわよね?」

『え? Jud.、 筒井から逃げる途中で損害を受けた艦だから難民乗せずに物資積んで牽引してるけど……それがどうしたの?』

 首を傾げるハイディに対して笑みを浮かべた。

「一つ、策がありますわ」

 

***

 

 藍は交戦する中で敵に対する警戒度を最上級まで上げた。

━━この術、物理攻撃も遮断出来るのか!!

 術式による攻撃を遮断されるなら近接戦闘へ持ち込む。

しかしこの術式は物理的にも攻撃が遮断できるのだ。

 故に最初の一撃は弾かれ、脇腹に蹴りを喰らうという手痛い一撃を受けた。

「通りませ 通りませ」

 踊り子は謡う。

 己に触れれるものは無いと。自分は高嶺の花であると。

「……いいだろう、その花、摘み取ってくれる!」

 此方の声に踊り子は目を細めた。

「行かば 何処が細道なれば」

 攻撃術式を多重展開すると飽和攻撃を行った。

津波の様に襲い掛かる攻撃術式は全て弾かれていくが構わない。

敵は舞を奉納する事によって己の術式の効果を高めている。

ならば舞を乱してやればいい。

 舞である以上動きには必ず一定のパターンがある。

 そのパターンを読み取り、隙を突く。

 舞の一巡が終わり、二巡へ。

その間にも攻撃を加え続け敵の動きを覚える。

そして三巡目には覚えた。

 踊り子が舞う。

 腕を回し、ステップを踏み、そして僅かな跳躍。

━━ここだ!!

 左手に障壁を圧縮した剣を持ち突撃をする。

「天神元へと 至る細道」

 踊り子は宙に居る。

 ほんの僅かな跳躍だが着地の際には隙が出来る。

 剣を突き出し敵の術式と激突すると互いの術式が砕きあう。

「一瞬で構わん!!」

 一瞬でも穴を開け、そこに爆砕術式を叩き込む。

 敵は着地をする。

だが此方を迎撃できない。

何故なら……。

「舞は行動が決められている! ここで貴様が私を止めに動けばこの術式は解除され、貴様は負ける!」

 そうだ。

だから敵の次の動きは腰を捻った旋回。

そのはずだった。

 障壁の剣が砕け、僅かに敵の術式に亀裂が入るのを確認すると爆砕術式を打ち込もうとする。

その瞬間、肌色が迫った。

━━なんだと!?

 敵は旋回ではなく、此方へ詰めて来たのだ。

 彼女の息遣いが分かるほどに顔が接近すると彼女は一瞬微笑んだ。

そして……。

「こぉおのっ!! へタレがぁーーー!!」

 右頬に強烈な平手打ちを喰らい、視界が回転した。

 

***

 

 地面に墜落した藍は理解が追いつかなかった。

 何故攻撃は失敗した? 何故敵はあのような行動が出来た? 何故術式が解除されない?

 思考を混乱させながら立ち上がると眼前に踊り子が立ち上がる。

「な……」

「何故かですって? いい、踊りは確かに行動は決まっている。でもね、アドリブが利くのも舞いなのよ?

舞いながら“あ、こここうしてみよう”とか“こっちの方がエロいわね”とか常に考えて進化するの」

 だから此方の攻撃は失敗したのだと。舞は成立するのだと。

「それに相手の動きばっかり気にして、相手の求めることだけしてあんた、それで満足なの?」

「それが式というものだ。良いも悪いも、満足も不満足も無い」

 その返答に、踊り子の目が据わった。

「あんた、ご主人様の事好き?」

「無論だ。色々問題は多いが誇れる主と思っている」

「だから尽くしたい?」

「ああ、我が主は今苦悩していらっしゃる。ならばその助けになりたいと思うのは当然であろう! たとえこの身が朽ちようとも……!!」

 そう言った瞬間、踊り子が此方の胸ぐらを掴み立たせる。

「尽くすだけがあんたの愛? ご主人様が喜ぶなら自分の身はどうでも良い? それで満足?

あんた━━━━LOVE舐めてんじゃないわよ!」

 今度は左頬に平手打ちを食らい体がよろめく。

 頬が痛みから熱くなる。

だがそれ以上に熱いものが胸に灯った。

「…………舐めている、だと? 私が?」

「ええ、だってそうでしょう? あんたはご主人様の良きパートナーを諦めて道具になろうとしてるんだもの」

 それの何がいけない!!

 紫様は誰よりも幻想郷を愛しておられた!

だから必死に戻ろうと、だがそれも叶わずそれどころか絶望を知った。

それでも彼女は先に進もうと……。

「貴様に、何が分かる!」

 彼女の苦悩を、絶望を。

それを支えようと思った私の覚悟を。

「フフ、良い眼ね。さっきよりも全然良い感じだわ貴女。だから……」

 踊り子は距離を離す。

「あんたのLOVEが本物だっていうなら、来なさい! 私が試してあげる!!」

 直後、狐が叫んだ。

 

***

 

 両者の激突は先ほどと打って変わって激しいものとなっていた。

 機械的に放たれていた攻撃は不規則に、感情を乗せて叩き込まれる。

対する舞もそのテンポを上げ、激しさを増して行く。

「ご意見ご無用 通れぬとても」

「ああ、私とてこの様な道を歩みたくは無かったさ!」

 右手に術式の斧を呼び出し、力いっぱい叩き込む。

だがその刃は容易く折れた。

「この子の十の 御祝いに」

「だがそれでも進まなければならない! 少しでも、あの方の気苦労を減らすために!!」

 思い出すのは過去の光景。

 妖怪軍団が解散し、織田に入り真実を知った後。

 彼女は酷く疲れた顔をしながらも此方に笑みを送った。

“貴女にも辛い道を歩かせるかも知れないわ。だから、式をやめてもいいのよ?”

 だが私は首を横に振った。

“私は貴女の式です。どこまでも貴女と共に。貴女が修羅道を行くなら共に参ります”

即座に別の術式の剣を召喚し、叩き込む。

「両のお札を納めに参ず」

「そう誓ったのだ……!!」

 再び刃は折れ、宙へ消える。

 だがそれだけだっただろうか?

 まだ何か、誓った覚えが……。

 踊り子が突如前に踏み込み、此方に頭突きを食らわした。

それにより後ろへ吹き飛ばされ地面を転がる。

━━何を誓ったんだったかな……。

 そうだ。その後、彼女は首を横に振ったのだ。

“それじゃ駄目よ。藍、貴女は私の半身になりなさい。私が道を違えた時は貴女が正して。貴女は添削とか得意でしょ?”

 そう笑ったのだ。

 ああ。そうだった。

何故今まで忘れていたのか。彼女を支える事に必死になり何時しか“彼女と共に歩む”という事を忘れていた。

 なら私の愛とは……。

「主人と共に歩み……道を違えたのなら主人を正す!」

 膝に力を入れ、立ち上がる。

 踊り子は依然として悠然であった。

━━感謝するぞ、踊り子よ。

 忘れていた事を思い出させてくれて。

 ああ、勝とう。

勝って紫様の許に戻ろう。

今度は自分が違えないように。

「故に全力で行くぞ、我が敵よ」

 踊り子が頷く。

 そして駆けた。

策など無い、計算など無い。

ただ己の心を込めた攻撃。

それをただひたすらに繰り返す。

「おお!」

「行きはよいなぎ 帰りはこわき」

 攻撃術式が砕け続け、舞い散る花びらのようになる。

その中で狐は叫ぶ。

今まで忘れていたものを取り戻し、確かめるように。

「おおおお!!」

 ただひたすらに前に出る。

 対する踊り子も舞をヒートアップさせ遂に終局が見えて来た。

 それを知り、狐も最後の叫びを上げる。

「おおおおおおおおお!!」

「我が中こわきの 通しかな」

 直後、狐が遂に踊り子の術式を砕いた。

 

***

 

━━これ程までに圧倒されるか!!

 教導院の橋でそう徳川家康は眼前で行われる戦闘の光景に息を呑んだ。

 教導院に向かった自分は生徒たちを纏め橋の防衛に来た。

そこで比那名居天子と八雲紫の相対戦を目の当たりにしたが……。

 天子が駆ける。

 対する紫は不動。

 先ほどから紫は一歩も動かず、だが熾烈な攻撃を繰り出していた。

 空間が裂け中から矢や鉄砲が絶え間なく放たれ続け、槍が回り込み天子を貫こうとする。

 それらを避けるのに手一杯な天子は反撃に出れず徐々に追い込まれて行く。

 この状況、天子が弱いのではない。

いや、寧ろ彼女は武蔵においても上位の戦闘能力の所持者だ。

並大抵の相手に後れを取る事はない。

だが今回は相手が悪すぎる。

 敵には圧倒と言う言葉が似合っていた。

 一切の隙を見せず、物量と戦術によって敵を潰す。

 このような相手にどう勝てばよいというのか?

「おうおう、派手だなー。あのおばさん」

 いつの間にかに横に立っていたトーリがそう此方に笑みを送る。

「確かに。このままでは天子殿は負けるのでは?」

 彼女が負ければ次は自分達だ。

 だが今ここに居る者で彼女に立ち向かえる者は居ない。

「ん? そうかー? 俺はそう思わないけど?」

 能天気に。本心からの言葉に僅かに目を丸くする。

「トーリ殿、何故そう思うのだ?」

「そりゃああいつが自分を信じてくれって言ってるからだよ。あいつが俺たちに信じろって言うなら俺はあいつを信じる」

 ただそれだけだと。

━━相変わらず器の大きい人間よ。

 徳川にいる二人の王の内、武蔵の王が彼女を信じると言うならば。

「私も、信じよう。彼女の勝利を」

 

***

 

━━ほんっとうに性格悪い奴!!

 紫の猛攻を凌ぎながら天子はそう舌打った。

 このスキマ妖怪、先ほどから狙ったように自分の嫌なところに攻撃をしてくる。

進めばその進路に、下がればその退路に。

徐々に此方を追い詰めるように攻撃が放たれる。

 足元が歪んだ。

 即座に横へ跳躍すると先ほどまで立っていた場所から槍が突き出した。

 だが攻撃はそれだけでは終わらない。

 頭上が歪み、今度は後ろへの跳躍。

眼前に岩が落ち破砕する。

 跳躍からの着地をした瞬間、背後から金色の光が迫った。

「!!」

 突如現われたそれを体を捻り避けようとするが脇腹を浅く抉られる。

血が噴出し、体勢が崩れ横に転ぶ。

━━今のは!?

 今までに無い技だ。

それが何か確認すべく、紫の方を見ると光輝く何かが居た。

━━虫か!!

 それは光り輝く虫のような生物であった。

 頭部は槍の様に鋭く尖っており、足は鎌の様になっている。

そして四枚の羽根を羽ばたかせながら主の周りを旋回している。

「飛光虫。貴女も見覚えがあるのではなくて?」

「ええ、そうね。はっきりと見たのは初めてだから」

 この飛光虫は紫の使役する式の一種だ。

 弾幕勝負のときは高速の弾幕として射出しているだけであったが、こういう使い方もあるとは。

 額に浮かぶ汗が橋に落ちるのを見ながら立ち上がると緋想の剣を構え直す。

「貴女、そんなに根性あるキャラだったかしら?」

「人ってのはね、成長するもんなのよ」

 「そう」と紫は目を細めると彼女の背後の空間が歪み、残りの七体の飛光虫が現われる。

先ほどのの合わせて計八体。

 高速で飛行する八体の虫と紫を相手に自分は大地を操る能力を使えず“無所有処”もまだ使えない。

だが……。

━━下がるな、私。

 背後には自分を信じてくれてる奴らが居るのだから。

 あらためて相手を睨む。

「さあ、来なさいよ!」

「いいでしょう。反抗的な方が躾けがいがあるといものですわ」

 紫が振り上げた腕を下ろすのと同時に八体の飛光虫と射撃が放たれた。

 

***

 

 教導院を覆う結界の外で浅間・智は表示枠を開き結界の解除を続けていた。

 彼女の傍には走狗のハナミがおり、結界解除に使っている術式の負荷を禊で軽減している。

 状況としてはもう間もなく映像通神を繋げれるようになるところだ。

「……凄いですね」

 自分も結界に関しては知識が多いほうだが八意永琳といい、八雲紫といい天才はいるのだと実感させられる。

━━トーリ君たち、大丈夫でしょうか?

 先ほどから結界内から尋常ではない破砕と爆発の音が聞えてくる。

この結界の向こうで一体どれほどの戦いが行われているのか……。

 だが八重に展開された結界のうち、自分が破壊できたのはまだ一枚。

その事に歯がゆさを感じていると反対側の通りから遊撃士のメンバーが駆けて来た。

「智、いまどういう状況!?」

 エステルは肩で息をしながら此方の隣りに立つと棍を地面に立て、体重を掛ける。

「結界の解除は難航してます。もう間もなく二代たちが来るので彼女の蜻蛉スペアで一気に結界を破壊します」

 そこまで言ってエステルたちが皆傷だらけなことに気が付く。

「その怪我……」

「あ、これ? うん、ちょっとここに来るときにね」

「…………まさか敵中強行突破させられるとは思いませんでした」

 皆の背後で座り込んでいる妖夢に幽々子がくすりと笑った。

「もっと鍛えなきゃ駄目よー」

「半分以上幽々子様のせいですよね!? 知らない間にどんどん進んで気がついたら敵のど真ん中で!!」

 「まあまあ」とヨシュアが妖夢を宥めると此方を向く。

「結界の中の様子は?」

「映像も遮断されているため詳細は分かりません。ただ……」

 教導院の方を向くと爆発の音と振動が連続した。

「かなりの激戦みたいです」

 二つ目の結界解除まであと僅かだ。

 解除でき次第全艦に繋げよう。

 そう思っていると今度は自分の後方から衣玖が駆けて来た。

彼女の背後には武装した兵士達もおり、あの旗印は確か……。

「永江衣玖、及び鳥居元忠隊、参りました! 総領娘様は!!」

「間もなく……、あ、いま映像繋がりました! 映します!」

 眼前に大型表示枠が開き、映像が映る。

 だがその映像に誰もが息を呑んだ。

「総領娘様!?」

 血まみれの天子が教導院の橋の手すりに背凭れていたのだ。

 

***

 

━━あ、折れたかな、これ。

 全身に傷を負い、天子はそう思った。

 体はまだ動く。戦闘は続行可能だ。

だがその原動力を折られた。圧倒的な力を前に心を折られたのだ。

 最早立ち上がる気力も無くただ呆然と敵を見る。

 敵は目を細め、最初に立っていた場所から此方を見下ろす。

「……私の勝ちね」

 声色に喜びの感情は無い。ただ当然だと。

 その事が更に自分を絶望させる。

 ああ、自分はどうやってもこの女に勝てないのだと。

だから諦めてしまった方が楽だと。

 そうよね。私、頑張ったものね。不利な戦いを覆すのは好きだが負ける事が確定しているなら戦う必要が無い。

そこまで自分は馬鹿じゃない。馬鹿じゃない筈だが……。

━━悔しいなあ……。

 自分の力の無さが、自分を信じるといっている馬鹿の期待に応えれないことが、そして元忠さんの意思を継げない事が。

 緋想の剣の柄を強く握る。

 立ちたい、立ち上がりたい。だが心は……。

「無理をする必要はないわ。比那名居天子、貴女は私たちと共に来るべきよ」

 紫が手を差し出し思わずそれに応えそうになる。

だがその前に馬鹿が遮った。

「おいおい、おばさん。俺の前で俺の大切な仲間の引き抜きはやめてくんねーかな」

 馬鹿は此方に笑みを送ると敵の方を向きなおし、腰に手を当てる。

「それによ、まだあんた勝ってねーぜ?」

「あら? どうしてそう思うのかしら? そこの天人は最早心折れたようにしか見えないけど」

「ん? そうなのか? 俺にはそう見えないけどなー。だってこいつ、かなり根性あるぜ?

今だってほら、ちゃんと剣握っているし、前を見てやがる」

「え?」

 自分でも驚く。

 確かに自分は倒れながらもずっと敵の方を見ていた。

決して項垂れず、ただ前を。

「それにこいつには武蔵でまだ大きな仕事が残ってるんだ。元忠のおっさんの意思、継ぐんだろ?」

 それは……。

 だが自分に出来るのだろうか? こんな弱い自分に。情けない自分に。

 そんな自分に皆はついて来てくれるのだろうか?

「それなら大丈夫だと思うぜ。だって……」

 彼が大きく笑みを浮かべると同時に表示枠が開いた。

『えー、聞えますでしょうかー、こちら、鳥居元忠隊一同でーす!!』

 衣玖と男達が映った。

『これより我等が新たなる大将比那名居天子殿にエールを送りたいと思いまーす!!』

 男達は顔を見合わせ笑みを浮かべると声を上げた。

『ふれー!! ふれー!! て・ん・し!! ほら! 衣玖殿も!!』

『え! あ! はい!』

『『ふれー!! ふれー!! て・ん・し!! がんばれ! がんばれ! て・ん・し!!

おむねがなくてもがんばれ! て・ん・し!!』』

「おい! 最後!!」

 思わずツッコミ立ち上がると男達は笑った。

そして男達の中で最年長と思われる男が一歩前に出る。

『天子殿、一つ勘違いしているようだから言っておきますぜ。俺たち、別に元忠様の命令だからあんたの下につくわけじゃない。

伊勢で、筒井で、そんで今日の撤退戦であんたの事を見ていてついて行きたいと思ったから俺たちはここに残ったんだ』

『そうですよ! 俺たち実は天子様のファンなんですから!!』

 『『そうだ!』』と矢継ぎ早に男達は頷く。

『だからそんなに気負んないでくださいよ。あんたは一人じゃない。

家康様が居るし、トーリ様も居る。総長連合や衣玖様も居る。俺たちだって居ますぜ』

『総領娘様、だから勝ちましょう。勝って皆と共に前に進んで、それこそが鳥居元忠様の後継として、私たちがするべき事です』

 衣玖の言葉に誰もが頷く。

 その様子を見て自然と笑みがこぼれた。

━━どいつもこいつも前ばっかり見て……これじゃあ、私も前を見るしかないじゃない!!

 一度ゆっくりと目を閉じ、心を落ち着かせる。

 そうだ、自分は一人じゃない。

何でもかんでもネガティブに考えてしまう悪い癖がまた発動していた。

 自分は変わったのだ。

 変わろうとしていくのだ。

 この何処までも馬鹿で、何処までも明るい究極の前向き集団と共に行くと。

 緋想の剣の柄を強く握る。

 今度は悔しさからではない。勝つ覚悟を決めるためだ。

「お? 調子戻ったか?」

「ええ、おかげさまで」

 馬鹿の横を通り前に出る。

 そして振り返った。

「ねえ、あんた王様なんでしょ?」

「おう、そうだぜ」

「じゃあ私はあんたの家臣?」

「あー、一応? でも、強制ってわけでもないし?」

 「曖昧ねえ」と笑う。

「じゃあ、さ、ここはビシッと決めてよ。王様」

「ビシッと?」

「そう」

 トーリは頷き、頭を掻くと両手を腰に当てた。

「うし! じゃあ天子! ひとんちに勝手に入ってきた奴を追い返してやれ!!」

「Judgment!!」

 笑みを浮かべ髪を靡かせ、敵と再び相対した。

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