緋想戦記   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第四十一章・『天の子の心』 何時しか彼らは私の最も大切な宝になっていた (配点:天人)~

 天子は駆け続けた。

 敵に対し円運動を取り続け、隙を窺う。

━━来る!!

 右横から飛光虫が飛来し突撃を仕掛けてくる。

それを避けると二匹が挟み撃ちにしてくる。

 上方には残りの飛光虫。

 下手に逃れようとすればやられる。

ならば!!

「は!」

 息を吐き出し腕を伸ばし前方から迫る飛光虫を横から叩き払い、それと共に片足立ちに。

右足で立ち、体を旋回させながら後ろから迫る飛光虫の頭を蹴った。

 挟撃に失敗した残り六体の飛光虫が上空から襲い掛かるが今度は体の前面を上方に向け、背中から倒れる体勢で前方に大型の気質弾を放つ。

 緋色の光が空中で爆ぜ、爆発を逃れるべく飛光虫が四散する。

━━今だ!!

 背中から倒れ、直ぐに起き上がると紫に向かって駆ける。

 厄介な飛光虫は今は居ない。

 攻勢に転じるなら今だ。

そう思い突撃するが紫は口元に薄い笑みを浮かべた。

「!!」

 咄嗟に危険を感じ取り後ろへ跳躍すると先ほど自分が居た所、首の辺りの高さを刃の閃光が走った。

 閃光の正体は開かれたスキマから現われた一本の刀だ。

 刀は獲物を逃したと知るとスキマの中に消え、その姿を隠す。

━━一体どれだけの術を同時に使用してんのよ!!

 敵は戦いが始まってから攻撃の手を止めていない。

 これだけの攻撃術式を放ち続けていて何故内燃排気が尽きないのか不思議ではあるが……。

 隊列を組みなおした飛光虫が紫を守るように現われる。

 それに舌打ち直ぐに距離を離そうとした瞬間、躓いた。

「しまっ……」

 橋に出来た僅かな穴。

 普段ならそんな物に引っかかりはしないが、体力が限界に来ており注意力が散漫になっていた。

 飛光虫の群れが来る。

 対して自分は転んでいる。

 このままでは串刺しだ。

「浅間! 爆砕術式、送って!!」

『J、Jud!!』

 通神で爆砕術式が送られ眼前に展開される。

 そして敵が激突する瞬間、術式を発動した。

 眼前で爆発が生じ、先頭を飛行していた飛光虫が爆発に飲み込まれ砕け散る。

 自分も咄嗟に腕をクロスし体を守るが、強烈な衝撃を受け後方へ吹き飛んだ。

 地面に叩き付けられ、転がり、手すりに激突すると体は止まる。

「……っ」

 爆発を食らう直前に“無念無想の境地”を発動しておいて良かった。

 自分の両腕は酷い裂傷を負っており痛覚があればショック死していた可能性もある。

 ゆっくりと立ち上がり敵を睨み付ける。

 これだけやって虫一匹倒すのがやっと。

勝ち目がまったく見えてこない。

 なにか、なにか自分にこの強敵を倒す手段はないか?

 体術も駄目、術式も駄目、なら後は……。

 右手に持つ緋想の剣に視線を下ろす。

 そうだ、この剣なら。あの八意永琳も退けれたこの剣なら。

━━だけど、本当に私に使えるの?

 筒井の時以降、一度もこの剣は私に応えてくれていない。

 この土壇場であの力をもう一度使えるのか?

 背後を振り返る。

 後ろには自分を信じている人たちが。

 家康さんも正純もホライゾンも、そしてトーリも。

みな此方を見、力強く頷く。

「そうね……やるしかない、いえ、やってみせるわ」

 大きく息を吸う。

 一歩ずつ前へ、確かな覚悟を持って。

 そんな此方の様子に警戒したのか紫は笑みを止め、目を細める。

「行くわよ、緋想の剣。やるわよ、緋想の剣」

 剣を天に掲げる。

「あの敵を倒すために、守りたい人たちを守るために、そして私たちが前に進むために!!」

 だから、力を貸しなさい!

 あんたが私に何をさせたいのかは知らないけどここで終わりたくはないでしょう?

 未来を、道を切り拓くために。

「全てを紡げ! 緋想の剣」

 直後、剣が光り輝いた。

 光の柱が立ち、夜の闇を照らして行く。

 そして声が聞えた。凛とした女性の声。

筒井で聞いたあの声だ。

 

 

 

・━━全ては/世界は/剣に収束する。

 

 

 

光が収束し全身を緋色の光が覆った。

 

***

 

「これは!!」

 天に伸びる光の柱を見上げ西行寺幽々子は驚愕の声を上げた。

━━これが筒井で現われた光の柱!!

 紫と天人の相対中に何かが起きたのか!?

「そんな、し、信じられません! 今上に伸びて行った流体、安土の竜脈炉並みのエネルギーですよ!?」

 浅間神社の巫女の言葉に皆、息を呑む。

「エステル、これじゃまるで……」

「うん、“至宝”みたいじゃない!」

 やはりあの剣とあの天人が全ての鍵か!

この光が剣の覚醒を意味するなら紫や<<結社>>の目的は……。

「浅間・智、本多・二代の到着予定時間は?」

「え? あ、後五分程度ですが……」

「急がせたほうがいいわ。もしかしたら取り返しの付かないことになるかもしれないわ」

 そう言うと柱が収束されていくのを見るのであった。

 

***

 

━━今のが……!!

 彼女から話しは聞いていたがこれ程までの力を秘めているとは。

 これで二段階目の開放と言うならば本当の力は一体どれほどなのか……。

 敵が前に出る。

 緋色の光を纏った彼女は表情が抜け落ちたような顔で此方を見る。

「?」

 「なんだ?」と思った瞬間、敵が消えた。

「!!」

 即座に後ろへ跳躍すると眼前を刃が空振り服の胸辺りが少し裂ける。

━━速い!?

 今までに無い速さ。

 その事に驚愕していると敵は即座に詰めて来た。

 剣が振られる。

 一瞬にして九回放たれる攻撃を結界で全て弾くが最後の一撃を受けた際に結界が砕かれた。

 敵は更に来る。

 危険だと判断した。

 今の彼女は何かがおかしい。先ほどまでと同じように対応していたらやられるかもしれない。

 飛光虫を呼び戻し七体を放つ。そして一体はスキマに仕舞うと彼女を覆うようにスキマを開き槍を射出する。

 だが敵は止まらない。

 無数に放たれる槍を全て避け、迫る飛光虫を全て払って行く。

 彼女は人形のような表情で此方に迫り剣を振るが……。

━━甘い!!

 彼女の背後にスキマを開き、先ほど隠した飛光虫を射出する。

 敵は背後から迫る飛光虫に気が付いていない。

このまま串刺しにされるだろう。

そう思った瞬間、敵は動いた。

 後ろを確認せず、まるで来る事が分かっていたかのように振り返り斬撃を放つ。

 突然の反撃に飛光虫は反応できず胴を両断され墜落した。

━━今のは予測されいた!?

 だがどうやって。

 天人は墜落した飛光虫の残骸を踏み潰すと此方に歩いてくる。

 この少女、本当に先ほどまでと同一人物か!?

 身に纏う気配も力も何もかもが違う。

「貴女は……誰……!!」

 少女が笑った。

 冷たい笑みを浮かべ、構える。

 形勢が一気に逆転した事を感じた。

このままでは不味い。何とかして立て直さなければ。

どうする? そもそもこの天人があそこまで根性を見せることが予想外だった。

 此方の想定外の事態になった原因、それは……。

━━あの少年ね!!

 あの少年は危険だ。

 あの少年と関わった者は全て変わってしまう。

 私たちにとって最大の敵だ。

━━ここで退場してもらうわ!!

 そう決断すると飛光虫たちを一斉に天人に向けた。

 

***

 

 線が見えた。

 緋色の軌跡だ。

 敵が行く先。攻撃の来る道が全て浮かんで見える。

 だから避けるのも反撃するのも簡単だ。

 六つの光が来る。

 六つの線は此方を覆うように現われ、それを煩わしいと感じた。

━━切っちゃえ。

 取り合えず線を一本切った。

 すると線と共に何かも切り。

その何かは断末魔の声を上げながら墜落した。

 ああ、そうか。ここを通ろうとしていたんだ。

だったら、全て切っちゃおう。

 剣を振るう。踊るように。楽しむように。

 刃が軌跡を描くたびに虫の絶命の声が響く。

━━そういえば、わたし、なにしてたんだっけ?

 何で自分は戦っているのだ?

 どうもぼーっとして頭がハッキリしない。

 確かあの金髪女を倒そうと思って……。

━━まあいっか、ころしちゃえばいいんだし。

 そうだ。それが私の目的だ。

 あれ? 何か別の目的があった気がするが……。

 空間が開くのがスローモーションで見え、中から槍が射出される。

 それらも全て軌跡が見えるため避けるのは容易い。

 線を避け、歩きながら敵に迫る。

 そう、敵だ。名前は……忘れたが敵だ。

私はこいつを倒す。倒した後は? まあいっか。

━━あれ? わたしはだれ?

 思わず立ち止まる。

 敵はそこを狙って頭上に岩を召喚するが取り合えず片手で払い砕いた。

 そんなことよりもわたしはだれかがじゅうようだ。

 名前があった気がする。だが何だったかが思い出せない。

 あ、そうだ。おもいだした。

なまえじゃないけどもくてき。しろとくろをたおしておわらせる。

 そうだだから私はこの剣を造ったのだ。そしてそれを……。

 敵が再び槍を射出しようとする。

 だが向きが違った。

軌跡は此方に延びず、線の向かう先は……。

━━あ。

 少年の胸であった。

 背後で他の人間たちと此方を見ている少年の胸に線が延びていた。

 そんなところにいるとしんじゃうよ?

 でも、いっか。しらないひ……と……。

 本当にそうか? 彼は本当に知らない人か?

何かもっと、私にとって大事な……。

 槍が射出される。

 世界はスローモーションになる。

 少年達は気が付いていない。それもそうだ。

この攻撃は彼らの死角から放たれている。

このままでは彼は串刺しにされるだろう。

 だがわたしにはかんけい…………。

「だめ!!」

 気が付いたら体が動いていた。

 駆け出し放たれた槍を追いかける。

 何故動いた? どうして敵を倒さない?

 ああ、そうか。この少女は……。

 体を覆う緋色の光が消える。

 全身の力が抜ける。

だがそれでも全力で駆け。

「トーリ!!」

 彼に飛び掛り、胸を槍で貫かれた。

 

***

 

 静寂が訪れる。

 先ほどまでの戦いの音は消え、夜風が吹く音のみが聞える。

 息遣いを感じた。

 熱を感じ、自分の息と彼の息の音が重なる。

 馬鹿の顔が目の前にあった。

━━綺麗な顔をしてるわよね。

 女装が似合うだけある。

 馬鹿は何時もの笑みではなく少し眉を顰めた、困ったような笑みを浮かべ此方を見上げる。

「笑いなさいよ」

「お?」

 気の抜けるような声に此方がくすりと笑う。

「私の胸が硬くて良かったわね、お蔭であんたに突き刺さらないですんだ」

 彼に覆いかぶさりながら大量の汗を掻き苦笑する。

 汗は彼の顔に落ち、そして胸には赤い水滴が落ちた。

 背中から胸を貫かれ、刃は彼の胸の直前で止まっている。

 槍の柄を伝い、流れ零れて行くのは己の命だ。

 徐々に、だが確実に温もりが抜け落ちて行く。

「い、いまのギャグよ? 本当はもうちょっと柔らかいから」

 ああ、もう、何やってんだか……。

 相変わらず私は口下手だ。

 胸に突き刺さっていた槍が消えてゆくと血が零れだす量も増える。

「……まあ……とにかく……あんたが無事で、よかった」

 そう笑うと体を支えていた腕から力が抜け、横に転がる。

「天子!!」

「天子様!!」

「天子殿!!」

 残り三人が慌てて駆け寄りホライゾンが此方を抱き上げ膝の上に寝かせると正純の方を向く。

「正純様、応急治療を!!」

「Jud!!」

 正純が回復術式を此方に使用し、傷口が少しずつ塞がって行く。

「まったくうちの馬鹿がボーっとしてて申し訳ありません。ほら、トーリ様、切腹です。介錯役は家康様で」

「お、おおお、落ち着けホライゾン!! つーか、家康さんもノリよくね!? 何か刀抜いてるし!! よーし、こい、バッチ来い!! あ、やっぱり今の無しで」

 ええい、やかましい。

 こっちは死に掛けてるってのに。

「大丈夫だ、肺も心臓も外れてる」

 治療していた正純の言葉に皆安堵の溜息を出した。

「そうね……私が死ななかった事で、馬鹿も死なずに済んだのかしら?」

 「Jud.」と頷いたのは膝枕をしているホライゾンだ。

「天子様はトーリ様を一度に二度救ったことになりますね。これはトーリ様、もう天子様に足を向けて寝れないかと」

「あー……わりぃ。なんか俺のせいで怪我させちまったみたいで」

 困ったように頭を掻く馬鹿に苦笑する。

「今回はあんたは悪くないわ。あれ完全に死角からの攻撃だったもの」

 本当に間に合って良かった。

 先ほどの力が何なのか分からなかったがあのまま戦い続けていたら私は私で無くなっていたような気がする。

 だが今の状況は不味い。

 自分は完全に戦闘不能になった。

それが意味するのは……。

「ここまでね」

 凛とした女性の声が響く。

 敵が、八雲紫が真剣な表情で一歩ずつ前に来る。

 そう、敵はまだ健在なのだ。

「そろそろ幕引きにしましょうか」

 

***

 

━━いかん!!

 徳川家康は咄嗟に前に出た。

 天子が戦闘不能になり残る三人に戦う力は無い。

 絶体絶命だ。

 だがここで諦めるつもりも無い。

 敵は歩みを止め、此方を見る。

「あら、徳川の狸さんじゃない」

「うむ、我こそ徳川家康なり」

 刀を引き抜き、構える。

後方の生徒たちが慌てて前に出ようとするがそれを片手で制した。

「残念ながらあなたには用が無いの? どいてくださらない?」

「そう言うわけにはいかんな。彼らはわしの大事な仲間、家族だからな」

「家族? 家臣ではなくて?」

「どちらもわしには変わらんよ。わしは徳川と言う家の長。一家の大黒柱として家族を守るのが責務よ」

 紫は「ほう」と声を出すと此方を計るように見る。

「計略策略を得意とするあの徳川家康の言葉とは思えないけど?」

「確かに、わしは小賢しい男だ。だがそれも家族を守る為。その為に多くの者の命を奪ってきた」

 「だが」と続ける。

「だが、その後悔があればこそ今のわしがある。今度こそ誰一人見捨てず、後悔をさせぬ!」

 互いに沈黙する。

 一瞬だけ彼女が瞳に映したのは憧れ、懐かしみ、そして絶望だった。

「そう、それで? あなた一人でどう私を止めるつもりかしら?」

「それは……」

 冷や汗を掻く。

 そんなもの無い!

ほぼ本能的に前に出てしまった。

だがなんとしてでも時間を稼がなければ……。

「わ、わしには策があるぞ!!」

「……それは?」

「それは……」

 息を吸う。

 天を仰ぐ。

 ああ、なるようになれだ!!

「それ以上近づくと、わしは、わしはぁ!! 脱糞するぞぉ━━━━━━━━!!」

 

***

 

・曳 馬:『ウワーナイワーマジヒクワー』

・能筆家:『ああ!? あまりのショックに“曳馬”さんのJK言語回路が!?』

・彦 猫:『つーかよー、脱糞てよー、もうちょっとよー』

・さかい:『い、胃が……、誰か胃薬を!!』

 

***

 

 家康は冷や汗を掻いた。

 先ほどまでの緊張の冷や汗ではない。

もっと嫌な。なんか色々と大切なものを失っていく冷や汗だ。

 は、恥がどうした!?

 我が恥でこの場を凌げるのなら……。

「もう一度言うぞ! それ以上近づいたら、わし、脱糞しちゃうぞぉ━━━━━━!?」

 あ、目の前が霞んで来た。

 しょっぱい。この涙は誰の涙だ?

「う、うわぁ…………」

 だが作戦は成功した。

敵は足を止め、それどころか後ろへ後ずさり始めた。

 振り返る。

 背後には平常なトーリとホライゾン、引きつった正純と天子、あと何故かさっきより遠くに居る生徒たち。

「グッジョブです。ナイスだとホライゾン、判断します。これはホライゾンもモリモリと頑張る必要がありますね」

「ホライゾン、傷口広げるのやめね!? やめね!?」

 あー、聞えない、わし何も聞えない。

 後ろでなにやら騒いでいると初めて紫が不愉快そうに表情を歪めた。

「どこまでも愚かな! 真実を知らぬと言えどうしてそう能天気なのかしら!」

 全員沈黙する。

「貴方だって全てを知れば私と同じように絶望して……」

「しねーよ」

 彼女の言葉を遮り、トーリが皆の前に出る。

「あのよぉ、俺もそうだし、周りもそうだけど、どうして皆自己完結しちまうかなー。俺たちはどんな事あっても絶対絶望なんかしねーよ」

「それは貴方達が真実を知らないからでしょう?」

 トーリは首を横に振る。

「しない。俺たちはそう誓ったからな。皆で笑って前に歩こうって、どんなに辛い事があっても進み続けようって、だから聞けよ? お前ら」

 

***

 

『これから先、もっと辛い事があるかも知れねえ。紫さんが言うように絶望の真実とやらがあるのかも知れねえ。

でも俺たちはそれでも前に進む。神州の三河で、英国で、マクデブルクで、上越露西亜で、俺たちは前に進む事にした!

ホライゾンのとーちゃんが、松永のおっさんが、里見・義頼が、そしてこっちじゃあ元忠のおっさんが俺たちに道を開いてくれた!!』

 艦橋防衛隊の詰め所で誰もが上空に表示される大型表示枠を見ていた。

『俺たちはそういった奴らの為にも進まなきゃいけねえ!

今もこの世界のどこかで助けを求めている奴等の所に行かなきゃいけねえ!

でも、一人じゃ辛いかもしれない。人間、一人じゃあやれることに限界があるし辛くなって押し潰されちまうかも知れねえ!

だからそう言う時は誰かを頼ろうぜ? 家族・友達・先生・先輩・恋人・敵・味方!

そいつらと話して頼って支えて、それでも不可能なら俺に全部預けちまえ!!

俺には何にもできねえ。だけどお前らの絶望や不可能を全部受け止めてやる!!』

 王は叫ぶ。

 笑みを浮かべ、前を見て。

『俺、葵・トーリはここに居るぜ!! おめえらと一緒に、どこまでも! この道の先を!境界線の先へ!! だから行こうぜ!! 皆!!』

 表示枠に映る王を見上げ男が苦笑した。

「おうおう、うちの王様がまた大きく出たぜ」

 男の刀は既に折れており、内燃排気も尽きている。

だが彼は立ち上がった。

 近くの太い木の棒を持つと肩に棒を担ぎ上げ笑みを浮かべた。

「そうね。このまま負けっぱなしは嫌だものね」

 女が立ち上がり残りの内燃排気を術式盾に回す。

「だよなー、ここまで来たらとことん行きたいよなー」

 他の面子も次々に立ち上がって行く。

 皆、弾薬も、武器も、術式も無い。

だが……。

「俺たちは武蔵だからな! 見てろよ織田! 見てろよ羽柴! 世界を簡単に動かせると思うなよ!!」

 

***

 

 妖怪達は進軍を続けていた。

 敵は敗走を続け、士気も尽きただろう。

ならば今こそ勝負を決する時!

このまま一気に艦橋に攻め上がり武蔵を陥落させる。

 正面から敵が来た。

 無駄な足掻きを。

 既に武器も無く、内燃排気も無く、心折れているというだろうに。

「押シ潰セ!!」

 先頭を駆ける小鬼が叫んだ瞬間、彼の顔面に木製の柱が激突した。

 鈍い音を立て、小鬼が倒れると軍団は止まる。

「ナ、ナンダ?」

 ここに来て漸く異常を感じた。

 正面から来る軍団は今までと違った。

 皆傷つき疲れ切っていると思われるのに誰一人突撃を止めない。

 武蔵の軍団が声を上げた。

「いくぞぉ!! お前ら!!」

「「Judgment!!」」

 兵たちは声を上げる。高らかに、胸を張り。

「「ああ、――我ら既に聖罰を受ける身なり!」」

 動きは止まらない。

内燃排気が尽きれば武器で戦う。

武器が折れれば敵に投げつけ、素手で戦う。

「「我ら王の可能性と姫の感情を持ちていく者なり!」」

 前を向き、ただひたすらに。

「「されど我ら、王と姫に哀しみを与えぬ者なり!!」」

 声は重なる。

 武蔵野全土から、武蔵全艦から。

 反撃の鬨を上げ、侵略者を追い返すために。

「武蔵なめんな!!」

 妖怪が動揺し後退を始める。

「終末が何だ!!」

「“破界計画”が何だ!!」

「絶望が何だ!!」

 そんなもの知った事かと。

 そんなものに屈しないと。

「だから行くぞ! お前ら!! 馬鹿な王様を助けてやんねえとなっ!!」

「「Jud!!」」

 武蔵の兵が妖怪を追撃する。

 たった一瞬にして、戦局は覆された。

 

***

 

 戦場が動き始めたのがここからでも分かった。

 手に握る緋想の剣から人々の思いが伝わって来る。

「……大した奴よね」

 そう呟くと膝枕をしているホライゾンが頷く。

「あの男、普段は馬鹿やってますがこういうところは小癪ですよね」

 「褒めてないわよ、それ」と苦笑すると紫が忌々しげにトーリを睨んだ。

「やはり、最大の敵は貴方でしたか」

「そりゃあ、おめえ。俺は王様だからな」

 トーリは笑うと此方を見る。

「で、どうするよ? さっきも言ったとおり俺たちは助けを求められれば何処にだって駆けつける。

だけど決めるのはおめえだ。おめえの、自分の意志で後悔無く選んでくれ」

 ある意味では突き放しだ。

 あくまで選ぶのは自分。

親切でも偽善で助けるのでもなく自分の意志で選ばせてそれを武蔵は助ける。

それこそが後悔無き道。

 自分は、選べるだろうか?

 私は変わることを決めた。

 昔から私は孤独だ。

 友人などおらず、他者の助けなど要らない。それで満足であった。

だがここに来て、おせっかいのように見えてそうじゃなくて、それでいて前向きな馬鹿共と出会って。

 自分の心は弱くなった。

 ちょっとした事で心は揺れ動くようになり、孤独がたまらなく嫌になった。

 でもそれ以上の者を得れたと確信している。

 対してこの敵は不変だ。

 この八雲紫という女は変わらない。

常に冷静で大局を見て、幻想郷を愛している。

その事は悪くない。いや、もしかしたら彼女の方が正しいのかもしれない。

 変わって行く自分の方が異物なのかもしれない。

それでも……。

━━私は進むと決めた! この果てしない道の先を見るために!

 だからこの言葉は宣誓だ。

 自分が変わるために、これからも徳川と武蔵と一緒に歩むための。

昔の自分なら決して口にしなかった禁忌の言葉。

 息を吸う。

 顔には笑みを瞳には強い意志を。

 皆を見て、敵を見て。

そして大声を上げた。

「誰か!! 助けてちょうだい!!」

「「Judgment!!」」

 結界が割れた。

 八重の膜は硝子のように砕け散り、流体の光が雪の様に降り注ぐ。

 そして眼前に飛び降りる影があった。

 一つは黒く長い髪を後ろで結った少女。

「武蔵アリアダスト教導院副長、本多・二代!」

 一人は赤い制服を見に纏った青年。

「同じく副長補佐、立花・宗茂!!」

 一人は明るい茶色のツインテールを元気良く振る少女。

「遊撃士協会武蔵支部所属、エステル・ブライト!」

 最後は黒く美しい髪を持つ青年だ。

「同じく正遊撃士、ヨシュア・ブライト!」

 四人が戦場に立ち、高らかに叫ぶ・

「「我等友の願いの為、力を奮わん!!」」

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