EP(エピローグ)です。
後半、少し3人称っぽい部分に1人称が混ざる箇所があります。
2026年「伝統的七夕(旧暦の七夕)」は8月19日ですが、作中2016年は8月9日なので日付を合わせてます。
そのせいで実際の投稿が少し遅れました(ちょこちょこ見直しはしてますが、8月4日頃に予約投稿済み)。すいません。
本来のタイトルは七夕『計画』ですが、なんかエピローグにそれは無粋に感じたので計画の2文字は外してます。ご了承ください。
予告通りの風呂敷を畳む七夕に因んだエンディング…になってるといいな。
無人島サバイバルから少し時間が飛んで、約1週間経過した8月9日の旧暦七夕。
客船のとある一室にて、僕は月城さんの計らいで『高円寺の父親』とテレビ電話をしていた。ちなみに去年の夏休みにも一度話してるので、これが二度目だ。
「君は非常に興味深い。あの息子が友と評するのもわかるよ」
「はぁ。息子さんにはいつもお世話になっておりますが……」
てか、息子とコンタクトを取ってるのか? 高円寺が僕を友と言ったことはたしかにあるけど、かなり限定的な状況でしか聞いてないから、高円寺の父親とはいえこの人が知ってるのはちょっと違和感。
いや。そもそもの話、僕自身はバスケの時以上に流れと状況、そしてきっかけ作りをしただけで大したこと(偉い人視点では)をしてないはずなのに、忙しいはずのこの人が月城さんを通してまで僕とコンタクト取ってきたのもおかしいわけだが。
余談だが、月城さんはこの僕と高円寺社長の会話が終わると清隆と話しに行ったので、最後までハードスケジュール本当にお疲れ様である。
「よければ、私個人がやっている慈善事業に興味がないかね? 君であれば、有益な結果をもたらせるはずだよ」
「慈善事業、ですか?」
「ああ。大学卒業までの生活・学費援助などを行い、高みへ到達できるはずがなんらかの状況によってできなくなる子供達を拾う活動を私はしている。もちろん返済不要で、適性に合った仕事や研究などを続けたいなら我が高円寺コンツェルンで引き続きバックアップを約束するし、長じて以降の進路を縛ることはないと断言しよう」
そして現在、僕は恩パレードを申し出られているのだが……破格だ。破格の待遇である。
青娥さんの恩パレードに匹敵するレベルの厚遇で、スカラシップの給付型奨学金をもっと太っ腹にしたものと思われる。これなら、この学校卒業後の不安要素大半を解消できる。
ま、非常にもったいないし心苦しいが、息子からの勧誘と同様に断るしかないわけだが。
「その、申し訳ない。失礼ですが、お断りさせてください」
「……ほう? 何故かね?」
「僕…私は、信条ゆえに返せないほどのモノを受け取るわけにはいかないんです。破格の申し出を断ること、本当に申し訳ありません」
「信条、ときたか。一応言っておくと、これはただの好意でしかなく裏もないがそれでも?」
「はい。誰に対しても、貸し借りはトントンにしておきたいって信条からすると、返せない大きさの『借り』は断るしかなくて、ですね……」
う、何故か怖い上に、凄く申し訳ない気持ちになる。
初対面の時、親切にも失敗する確率が高いと忠告してくれたのを破りまくって突き進んできた自分が想起される。あと裏がないなんて……と疑ってるわけじゃないが、逃げられなくなる選択はなるべくすべきじゃないとさっきから勘が囁いてくるのだ。
しかし、なるほどな。この親にしてこの子ありか。高円寺の父親だと深く納得した。
これは、おそらくホワイトルームやこの学校とは根本が近くも遠くもある人材確保の手段だろう。
僕のような家庭環境や経済事情に問題を抱えてる者を支援して取り込むのは理解できる。なんなら、自然災害、戦争人災、事故災厄。天才や秀才の光が見える者をこうした苦境から脱する手助けをしてやれば、高円寺コンツェルンにとってはローコストで有為かもしれない人材に恩を着せることが可能だ。
しかも一定水準以上の金持ちからするとローコストなだけにリターンがなくてもそこまで惜しくなく、敵対する可能性は激減させることもできるときた。要は、やり得でどこにも大きな損失が発生しない。
「そして瞬時に深くまで察する思考力や知性もある、と」
「いやまぁ、凡人はそれができないと時として詰みますから」
「ふっふっふ。それをした結果が、この大規模な『人員整理』に繋がったということかね? 先日から『左京社長』にやり方を示唆されて踊らされた愚か者どもが軒並み排除されているよ。勿論、高円寺コンツェルンでも、ね」
風見鶏系の奴にはリストラかそれに類する対処をしたって解釈でいいのだろうか。僕が深くまで関係しなくても、低レベルな馬鹿は情報ときっかけさえもたらせば、勝手にやると思ってた。
『俺』の頃を詳しく思い出すまでもなく、月城さんが理事長代理として目の前に現れた時から想起されていたからだ。
ほぼ同時期(といってもあっちはたしか2017年だったから、来年くらいに本格的になるはずだったかもだが)にモリカケの言いがかりを安○総理に絡めたヤツやってたし、鬼島総理に対しても近いことはやるだろうな、と。欲深い奴への餌にも派生する可能性が考えられるのは当然だろう。
僕は覚えてる。
どっちが嘘ついたとか、怒るべきとか怒らないべきとか、言い合いのレベルが低すぎて、お偉いさん達はなにか別の目的があってわざとやってるのかと思えるほどの醜さがあったのを。
あそこまで安○総理側に正当な部分を切り取るデハフをかけまくり、自分達にはメディアからのバフを盛りまくってようやく同じくらい低レベルに『見えるようになる』議員含む多数の無様さを。
だいぶ後に安○総理にはほとんど関与がなかった証明もされたが、案の定あまり周知されず、無駄な議論に費やされた時間も金も返ってこない。更に本当に重要な議論(コロナとか外国人問題とか)すら後々までしつこく妨害する。
……妨害なら、後の岸○総理の移民自由化とかにこそやれよ。旧民○党時代といい、なんで対処が必要な法案ばかり素通りさせるんだ。実に不快で不可解極まりない。
先の禍根になること確定なのが容易に想像できる法案って、かなりの割合がこの民○党政権と小○総理の時代にほぼ素通りしてるんだよな。安○首相時代には、やむを得ない事情(多数の議員が投票に参加しなかったため)でとある法案を素通りさせたら、鬼の首を取ったかのように批難しまくってたくせにだ。
実際の禍根となった素通り法案の具体例を出すなら、事業仕分けとかN○Kの解散要項削除とか。勿論、他にも多数。10年…20年以上後にも禍根になり続けていたのは自明だろう。
ちなみになんとかこの禍根の後始末などをしようとしていたマトモ…とまで言わずともマシな人材は、ほぼ例外なくメディアや官僚に嫌われているので足を引っ張られまくる。
当時は『俺』も子供でそれほど知らなかったし、誰とも何処とも言わないが、あの頃以前から難病を押して実績を積んで政治に取り組んでいた総理大臣を、ポンポン痛いから引っ込んだと笑って報道してた人非人どもを『俺』は忘れない。笑ってた奴に、後の総理大臣が2人混ざってたので尚更忘れられない。
そして今回の僕も、固有名詞だけが違う同様の出来事があったから完全に脳裏に焼き付いた。
地位や権力はあっても、きっとアイツらには人の心とかないんだろう。ついでに想像力や知識、道徳なんかも存在しないに違いないと確信したものだ。
だから今回も同じなら。政治や報道が何かも理解していない信用できない人種の坩堝なら。ちょっとした刺激で軽はずみに動くだろう、と。
なんせそういう奴らは大局で考える頭がないからな。椅子取りゲームや自分の利益にしか興味ないのは、今も前も外から見るだけで丸わかりだったし、松雄にリスクが及ばない程度の誘導で事足りる。
ついでに、そうしたらその愚かなお偉いさん達の片付けに、マトモな人達が動いてくれるとも……。
これで色んなゴミが減れば、少しだけ上の方は綺麗になるかもしれない。ま、権力者の大多数が『そう』なってる以上、そこまで期待してなかったけどね。
それでもキャットルーキー計画の裏面は、まずまずの着地を決めてくれたようである。
何故、僕がこんな計画をしたのかというなら、口には出さない内心で答えよう。
なんせ『俺』の頃の社会の流れを知ってると、この学校はある問題に重なる部分が学校の『外側』に多いからだ。
そう、先に述べたモリカケの『カケ』の方にな。ちなみに『モリ』はホワイト・ルームだ。勿論、内側にいる僕から見れば相違点も多いが、状況的に『俺』の頃のモリカケ両『学園』ポジションが、ある時を堺にこの学校とホワイト・ルームにしか見えなくなった。
まぁ綾小路篤臣氏や坂柳成守氏(理事長)は似てるか微妙なラインだったし、ホワイトルームは存在も名前も知らなかったものの、実は入学前からこの学校には近い印象を持っていたわけだが。主にいくつかの意味であからさまなブラック臭を感じていた部分に。
ゆえに、月城さんを通した今回のコレに至ったわけである。
しかしどうでもいいし、栄一郎や七瀬もそうだったけど、なんか桜プロダクションの社長を譲ってしばらく経つのに、いまだに僕を社長呼びする人が結構いるな。
失礼かもだが、訂正しといた方がいいか。正直、高円寺社長から対等に近く見られるのは居心地が悪い。
「あの、高円寺社長と違い、私はすでに社長では……」
「珍しくコンタクトを取ってきた息子経由とはいえ、当時社長だった君を認めて契約を結んだのは私だ。それなら、話を通す相手は社長である君以外にありえないよ。松雄氏を軽んじているわけではない」
ん? やっぱりコンタクト取って…いや、これは話の流れからすると去年の事だな。
それにしても、松雄父についてはわからなくもないが、なんでこんな高く評価されてるのか。僕は誠意には誠意、敵意には敵意を返し、単にできることをやって、できないことを人に投げてばかりだったのに。
「───誇りたまえ。数々の困難に対し、恐怖を克服しつつ目的を見失わずに乗り越えるのはなかなかできることではない。まして学生が成したと考慮するなら、なおさら見上げたものだ」
それでも、これは失望されたくないし、裏切れない。
僕が見たところ、高円寺の父親なのは差し引いても本物の天才でこそないが……おそらくこの人は数少ない『本物』だ。
「それはそれとして、1つ疑問が残っているのだがいいだろうか?」
「はい? なんでしょう」
高円寺社長が気にするようなことが、まだなんかあったっけ?
「君の具体的な真の目的は何なのかね? 息子を経由してまで政財界に一手打ち込むことからして、息子に近い考えは持っているのだろう? 例えば『自由』が欲しいなどかな?」
「ああ、それですか。たしかに六助君とは尊敬や共感できる点がいくつかありますが、考えが近いかはわかりません。私がわかるのは友人や同級生としてですね。だから六助君と私では考え方がだいぶ違うでしょう。私はただ自分が楽しい未来を望み、そこへ向かってるだけですよ」
失礼かもしれないが、思わず『嗤って』しまう。僕では高円寺や早苗みたいな真の天才は測りきれない。近い考えなんてあるかもおぼろげだ。
しかし、これは取り繕った態度のままだと高円寺社長に逆に失礼だな。少し緊張するけど、敬語は最低限だけ残して封印し、自分の言葉で自分の考えを素直に述べておこう。そっちの方が良い予感がする。
よし。では、こうしよう。
自己流の自己暗示術が火を吹くぜ!
雰囲気に流されず自分をしっかり持て!
僕は精神年齢だけなら目の前の人達と同世代以上の左京夢月だ!
「美学と矜持を貫き通した上で私…僕がそこにいれば僕が楽しい。不快なモノがそうじゃなくなれば更に楽しい。善悪や価値観の違いなんて人それぞれですしね。だから僕は、必要な事を必要な時に必要な分してるだけですよ」
「ふっ───ははははっ!! 面白い、改めて君を認めるほど面白かったよ左京夢月君。昔から私も自覚はあるつもりだったんだが、実は君こそが最も常識に囚われないエゴイストだったとはね……!」
「隠す気はありません。場合によっては人助けもするかもですし、悪行に類することも許容したり、危険性を感じた者に形振り構うように誘導したり……あるいは僕自身が悪辣な所業するのだって躊躇わない。
そんな僕は、たしかにエゴイストなんでしょう」
「ククッ、自分が楽しければそれでいいからかね?」
「はい。ゆえに、僕は誰にも囚われたくない。少なくとも、もうしばらくは」
あまりに正直にぶっちゃけたからか、高円寺社長の興味深げな眼差しが僅かに揺らぐ。
だが僕もここまで言って、見抜かれて、止まることなどできない。
高円寺社長は、きっとそういう真意や誠意を見抜ける人だ。
「だからこれまで多大なご助力頂いておいて申し訳ありませんが、僕はあなた『方』の真の協力者にはなれないと思います。なれるとしたら色々と落ち着いた後で、しかも六助君が言ってきた場合のみでしょう」
勿論、今のところ鬼龍院先輩のお爺様(何故か先輩に口利きしてもらえたのは祖父だった)と並ぶ最大級の大口協力者であること。そして僕が何を置いても借りを返したい相手には違いないけども。そう付け加えて。
ま、月城さんにも伏魔殿っぽい世界に勧誘されたことがあるものの、僕のような普通の高校生を本気で引きずり込もうとしてるかはわからない。案外、彼ら流のジョークだったのかもしれない。
ただ、これだけ僕という人間の内心を晒しておけば、高円寺社長や月城さん達本人はともかく、彼らの周囲に躊躇いが生まれるだろう。
この会話から大雑把に察した真意は、人員整理で空いたポストに“誰かしら”をねじ込むアイディアだろうから。そこへ僕が首を突っ込むのは筋違いだ。
とまぁ、3週間にも渡る特別試験旅行の最後の夜、門限・消灯時間の少し前まで僕は画面越しの高円寺社長と無言でそれを聞いていた月城さんを相手に、こんな風な特になんでもない話をして過ごした。いや、多少のなんでもはあったけど、最終的に断ったからなんでもなくした、ってのが正解か。
旅行が終わって数日経った頃、夏休みの天文部室(画像編集用の大きめのモニターが配備してあるし、学生寮の部屋より広いためもある)で断罪ごっこ直前の約束通りに来訪したみんなと桃鉄やってたら来た高円寺六助に失礼だったか聞いても「問題ないよ。筋を通したのなら、雑談として片付けておきたまえ」って軽く流してたしな。息子が言うなら間違いはないだろう。
ちなみに余談だが、この日…2016年8月12日に部員達が集まったのは、夜に極大を迎えるペルセウス座流星群を観測するためだ。
数日間で3週間の旅行で溜まりに溜まっていた性欲を発散してスッキリした僕と愛里は別にしても、天文部の部員や友達・関係者に声をかけておいたら結構な大所帯になり、気の早い者が何故か部室に集合する事態に発展。
また8月下旬にあったもう1つの天体観測イベントである木星と金星の接近時にも来てくれる人が多く、順調に天体の良さは布教できているようだ。天体観測の機会が来るたびに、地道に蘊蓄を語ってきた成果が出てきていた時期だったのかもしれない。そう思い上がって、つい1年生達に先輩風を吹かせつつ、プラネタリウムっぽい解説をしてしまった。
なんにしろ、意義がよくわからないクラス競争なんかより、天体好きが増えるのは良いことである。
さて、時間軸を無人島サバイバル直後に戻す。
まず特別試験の結果は、早苗が異常なほど頑張ってくれたおかげで最終順位は僕が上位1位を獲得してしまった。しかも試験前に手抜きしない目的で清隆から渡されていた『試練』カードを僕が所持していたため、獲得CP300のところを今なら、な、なんと! 450に! お得だね。
ギリギリで上位2位になっていた南雲も、学年に一枚しか配られない『試練』カードを所持しており300CP獲得らしい。流石に差し引き30得点差(高円寺は2位報酬60点+単独報酬10点で、南雲グループが3位報酬40点のみ)では巻き返しきれず上位3位になった高円寺には100CPだ。
ちなみに無人島サバイバルの最終得点は、上位1組の僕が469点。上位2組の南雲が450点。上位3位の高円寺が435点。
てことは逆算できる点数的に、もしも南雲が最後のクロスカントリーで2位以上だったら、おそらく僕も高円寺もギリギリで逆転負けを喫していたな。早苗と高円寺がワンツー・フィニッシュを決めたからこその現状というわけだ。
僕と高円寺、それに清隆の3組に負けないと驕ってた面はあったかもしれないが、凄まじい状況把握と実行能力、なにより執念である。
ともかく、これをプラスした2学年の各クラス結果は以下の通り。ちなみに括弧内は、現クラスリーダーと無人島前の数値だ。
A(一之瀬)クラス 1481CP(1031)
B(葛城)クラス 780CP
C(龍園)クラス 521CP
D(櫛田)クラス 408CP(308)
……うむ。想定以上に結果が良かったからか、筋肉痛を押して出席させられたクラス会議で、龍園か櫛田・清隆のクラスにほぼ僕が稼いだ(無人島最終盤の早苗も影響は大きいが、彼女は手柄を主張しなかったため)450CPに少し+αを付与して譲渡→Aクラス交代と同盟を提案したら、えらい騒ぎになったよね。
ぶっちゃけ、こんなにCPというか収入って不要だと思うのだが、色んな奴から真面目にやれと怒られた。特になんか会議にいた担任の怒りと困惑?が凄まじく、Dクラスには“絶対”それをしちゃ駄目とのこと。
しかも、じゃあ龍園のCクラスや譲渡分が最も少なくなる葛城のBクラスならいいかというとそうでもなく。こっちはこっちでクラスメイトの反発が凄かった。
でも1人に月々約15万だぞ? 10万でも多いのに、腐らせるくらいなら他へ投資した方が有益だと棄却された今でも思ってる。
まぁ、今は八神討伐の2000万を消費したばかりなので、少し言い出すタイミングが悪かったのかもしれない。クラス貯金の積み立てをこれまでの1人3万から10万くらいにして、いったん金を集め直した後に再度提案してみよう。
苦笑しつつ事態の推移、というか僕を眺めてた四方や早苗…何故か一之瀬を見て、そう考え直した。
なぜなら、この会議後すぐに生徒会主宰の宝探しゲームに引き摺られたため、一之瀬の説教をほとんど動けない状態(筋肉痛のため)で聞かされ続ける事になったからだ。
何がどうとは上手く言えないが、無人島を去る前に月城さんと…僕のスリーショット写真を撮ってからどこかおかしい一之瀬を変に刺激するのは止めることにしたともいう。
ああ、そうそう。この時も他も重要な撮影はほとんど愛里が担当してくれて、過不足なく月城さんへ僕の意図は伝わったはずだ。後に高円寺社長と会話する時も普通に繋げてくれたしな。
大したことじゃないけど、良いように使って恩返しになってくれたら嬉しい。
ちなみに僕は愛里の撮影補助に徹し、ギシギシいう身体のせいで鈍い動きは最初は一之瀬に引き摺り回され……そしてそれを真横で見ていた愛里が早苗に何か囁いてからは、愛里というか早苗と四方、櫛田がフォローしてくれた。愛里は基本的にカメラマン役だったからな。
一之瀬や…途中から宝泉・宇都宮なども付いてきてたけども。おかげで月城さんとだけじゃなく、櫛田や一之瀬のファンや彼女達を好いてる奴らとの撮影が激増した。
それと、気になる(ならない?)退学者だが……無人島サバイバルでは3学年で『退学者0』という結果となった。
下位5組のうち3組は事前の『無効』カードを使った期末試験最下位の者の不参加で対応。勿論、退学にはならない。
1組は3年生の3人グループが不運にも参加前に体調不良でリタイア。ただ、こちらは四方や坂柳さんと同じく本当に裏のない体調不良なので、補習的な罰則は課されるらしいが退学や多大なペナルティにはならないようだ。
あと残った退学枠である最後の下位5組だが、やはり南雲や坂柳さんは独自に保険を用意していたようで、それぞれに『半減』カードと退学回避費用100万円ずつを持たせた能力や自信が少なめのメンバーで『2グループ』ずつ作っていたらしい。ああ、『半減』カードは無人島サバイバルの退学回避費用が半分になる効果だ。
つまり合わせて4グループまでなら、僕が言い出した『無効』カード利用がなくても退学者なしにするつもりだったのだろう。お互いの保険を考慮した上、残りの1枠を南雲や坂柳さんが誰と想定していたかなど言うまでもない。
その保険グループのうち3年生がペナルティを支払って恙無く特別試験は退学者なしで幕を閉じた。
自分が不利益を被ってでも他者に損害を与えることをスポイト行動という。僕が『特別試験用の』対抗策を用意しておいたのは、突き詰めるとこれだけだ。尤も、清隆や南雲、坂柳さんにも完全理解されたか怪しいレベルで崩しまくったわけだが。
とはいえ、南雲にとっても悪くない話だったのだ。
橋本や桐山達3年生のように使われたと思われる奴の不満? 恨み辛み?
最初から手駒にそこまでの期待をかけてるようには見えなかったし、いざとなれば使い潰すつもりなら気にかける必要もない。僕にそういうやり方はできないものの、働かない奴や逆らう奴は排除すればいい。
学生らしくない恐ろしく冷酷な話だが、清隆や南雲、坂柳さんの性質を考慮すれば余程酷いやり方さえしなければ問題あるまい。僕からは匂わせの警告だけで、本気で潰す真似もしてないしな。
尤も、そこまでは良かったのだが、なんか愛里達以上に異様に心配してた一之瀬の懸念を解消しようと、清隆に頼んで一緒に大丈夫と太鼓判押してみたり、船に乗船するまでの時間で撮影会を仕切って貰えないか頼んでみたら───緊張の糸が切れたかのように一之瀬が泣き崩れてしまった。しかも僕の腕を掴んで一時は離れなくなった。愛里が頼んでくれたと思われる四方や早苗、櫛田が助けてくれるまでだ。
「でも、なんか優しさを感じるよね、今日の星之宮先生。やっぱり大幅得点で一気に他を突き放せたからかな」
「みんな、騙されるな。これはDV彼女が不意に見せた優しさのようなものだ。油断しない方がいい」
「みんな酷すぎない!? 主に左京君!」
「うん? 何処かから、カレーの匂いがするような」
「脈絡ない話題で白々しく話を逸らそうとしても、吐いた唾は呑めないからね左……」
「なに言ってるの夢月君! 星之宮先生に対して加齢臭とか失礼にもほどがあるよ!」
「一之瀬ちゃん!!? むしろ私は一之瀬ちゃんに裏切られた気分だよ!!」
クラス会議で言われた一部を抜粋するとこんな感じだ。……じゃなかった。無駄に担任へのダメージが高かった部分と記憶の引き出しを間違えた。
「なんっ、“なんでも”するから! 私とずっと一緒にいて!」
「え、なんです? これは一之瀬さんの変化球なプロポーズですか? 夢月さん、浮気するんですか?」
「いや、地獄へのプロローグだ。僕にとってはな。それに愛里がいるのに浮気なんかするわけがない。スケジュール管理が面倒だし、調子に乗って愛里に振られたらどうするんだよ。わかってるのに遊ぶな」
「……相変わらず、夢月の言葉選びは秀逸だな。言ってる事は酷いが、なんとなく語呂が良い」
うん。こっちだ、こっち。
からかい混じりに早苗が指摘したようにも受け取れるが、僕には心の底から面倒事の始まりにしか感じない。一之瀬は同じクラス所属の状況的に接触こそ多くなりがちでも、だいたい常に浮気以前の問題だ。
あと四方も遠回りに批難してるものの、こういう時ははっきり主張しておいた方がいい。下手に曖昧な態度を見せると、本気にする奴が出現するかもしれないからな。
お互いその気はないのにそんなことになったら不幸にしかならないだろう。
それにしても、前に「なんでもする」って女子が言うなとあれほど忠告したのに、まるで学習していない。僕がこの言質を悪用して「なら、エロいことヤらせろよ。ゲースゲスゲス!」とか要求したらどうするつもりだ、この天然エロサキュバス&ゲス男誘発装置が。
そりゃ安西先生だって、お前は素材だ。環境次第で(ヤリまくったら部分的に)白くも黒くもなるとか言うよ。凄く下品なアレンジだけどな。意味がわからない方は、そのままのあなたでいて欲しい。……僕は何を考えているんだ。
ともかく、試験結果が出た時に近くにいた一之瀬に、いつかみたく『大嘘憑き(オールフィクション)。一之瀬が遭遇した(月城さんとの)トラブルはなかったことにした』って嘯いたのが悪かったのだろうか。人前だったので、固有名詞は出せなかったが。
しかも白波や柴田など一之瀬シンパどもからは、当然のように睨まれた。一之瀬が目から流したのが嬉し涙っぽかったから、かろうじて実力行使されなかっただけである。
なんにしろ、意味がわからない。ついでに体温が高いせいでくっつかれると今の時期は凄く暑いし、涙がジャージに染みて気持ち悪く、オマケで外聞悪すぎ。更にこの時は愛里の視線が痛かったのに、疲労で動けなかったから地獄のようだったじゃないか。
安心感を求めてすがるんなら狙った男にやれよ。あのドスケベボディと容姿、自覚の有無に関わらないエロい雰囲気があれば狙った獲物を逃がすこともないだろうに。
もう彼女がわからなすぎて怖い。一之瀬の精神構造はいったいどうなってるんだ。高校生活も半分が経過したというのに、付き合いのある女子の中でも特に彼女はいまだ謎だらけだ。
僕や清隆のような彼女持ちの陰の者やマイナス側じゃなければ普通に応援するから、早急に意中の人を落としてくっついて欲しい。ソイツに全てをぶん投げてやるから。
それでも試験結果の発表や撮影会をして無人島にいるうちはまだよかった。
僕が体力の限界に達しててほぼ動けなかったし、そんな奴を追い詰める真似を“優しい”一之瀬はしない。以前に四方と一緒に明るい存在自体にダメージを受けるのは釘を刺してたからな。
一之瀬から過保護な振る舞いをされる事の何が問題なのかと言えば、乗船して一晩休んだ後とはいえ僕が疲労改め筋肉痛に苦しんでた時だからだ。無理すれば動ける程度に回復した僕を、早苗と共に部屋に来て連れ出そうとしてきやがった。ほとんど動けなかったのにだ。
ちなみに愛里も筋肉痛?に苦しんでるのに、早苗に背負われ、長谷部に付き添われて来てて遠い目で一緒に諦める同士となった。
「さ、夢月さん。ちゃっちゃと治して、今度は本格的に綾なんとかの討伐に繰り出しましょう! そうしましょう、さあさあっ!」
「コイツ、ホントにぶれないな」
「清隆君、本当に早苗さんになにしたんだろう? あんまり人に関心を向けない早苗さんが、ずっと前からここまで敵意を向け続けてるなんて……」
「……何気に墓穴を掘る名人よね、きよぽんって」
こっちはこっちで……ね。どうすりゃ早苗がここまで敵意剥き出しになるんだ。もはや一周して逆に興味が湧いてきたわ。
ただ、それでも早苗は平常運転だからまぁいい。女子連中やルームメイト達の前で服を脱がされるという羞恥プレイされたとはいえ、無人島で作ってたと思われる筋肉痛に効く軟膏で僕を治療してくれたし。いや、充分に辱しめだわ、これ。
「キャー早苗さんのエッチ(棒)」
「なにバカ言ってるんですか夢月さん。早く痛いところを見せてください。むぅ、ここは……サ○エでございまぁす! だから恥ずかしがらなくていいですよー」
「ふ、ふははっ…お、お前。唐突にそこを伏せ字にしてぶっ込んでくるのは反則だろ! 一字違いとはいえ、海鮮一家ネタをこすってんじゃねぇよ」
「夢月さんがドラ○もんなら、私はこちらで対抗しますよ」
突然だが、浮気する人間には種類がある。二股かける奴と、三股以上をかける奴。相手が一人の場合は恋人や夫婦、あるいはヒモ等と言われる。3人以上と付き合う奴はハーレム野郎とかジゴロ等と言われる。しかし2人と付き合う奴には、そういった名称は付かない。なぜなら、刺されるか刑務所に行くからだ。ちなみに真のハーレム野郎やジゴロは基本的に管理が上手いから、刺されるまでは滅多に行かない。と、宣う某ヒモを思い出す。
早苗はまだしも、この会話中にサラリと僕の身体を拭こうとする一之瀬になんとなく重なるモノがあったからだ。
だって、例えるなら「捕まえた♡ 貴様のエネルギーを吸い尽くすまでは離さないぞ♡」みたいなハートマークが付加されるだけで意味まで変わりそうな雰囲気なのだ。
これの元ネタは某人造人間19号の台詞だが、一之瀬が言ったら普通にサキュバスだろ、これ。そんな意味深な感情が挟まる余地はないと思ってるのに、別の意味を強く感じる。
……くっ! そのため一見ではハーレムみたいな状況なのに、場所と面子のせいで全くそう思えない。
愛里に甲斐甲斐しく世話されるならともかく、メインが早苗の治療で、一之瀬がなんか身体を吹いてきたり、水分補給なのか飲料を渡してきたりなど補助的役割が拍車をかける。つまり愛里が手を出す隙がないのである。
無人島の禁欲期間がいまだ続いてるから、場合によっては一之瀬もエロく見えなくないが、僕に対して直接的なのは元から手を出す気がない一之瀬だけだからな。愛里と落ち着いた場所で2人きりになれない限り、この微妙な我慢状態は続く、と。
はぁ、ここはハッキリもの申すしかないか。
「チェンジ」
「なっ、なんてこというの夢月君!」
「う、うわぁ。星之宮先生にならわかるけど、一之瀬相手に正面からコレを言えるのコイツだけだろ」
「しかし、左京は前からこうだったと思うが」
「「たしかに」」
「いいから夢月さんは処置が終わるまで大人しくしててください」
「……はい」
だから、あわよくば愛里と替わってくれないかなと思って、つい一之瀬に端的な本音を溢してしまった。愛里もまだ疲労の色が濃いから大変そうだけども。
ただ、このおかげでルームメイトの柴田や神崎の羨ましさを含んだ視線から呆れが強くなったのでよしとしよう。特に柴田は一之瀬信者でもあるから、目の前で変に刺激したくない。僕だって愛里が僕以外の誰かを介抱してたらモヤッとするからな。お互いその気はないはずの僕と一之瀬なら尚更だ。
てか、愛里や早苗が来るのはわからないでもないけど、そもそも一之瀬はなんで試験が終わったのに僕達のところに来たんだ? 疲労は抜けきってないだろうし、昨日やった宝探しゲームみたいな生徒会のなにやらだってあるかもしれない。基本的に忙しい奴なのだ。
もしかして、これは彼女にとってなんらかのメリットがある行動だったりするのか? あるいは担任や南雲あたりの差し金とか?
……今度、どっちかに遭遇したら追及してやることをここで決定した。またなんかしてたら、無駄に煽ってやろう。今は現状打破の一択だが。
「人間には2種類ある。諦めない者とくじけない者だ」
「また夢月君が変なこと言い出した!」
「……ん? それ、1種類なんじゃ?」
「あっ……に、人間には1種類、ある……?」
「疑問形になっちゃった……」
とにかくなんでもいいから、それっぽい誘導をかけてみる。ちなみに、僕も実は内心で混乱してたのか本当に間違えたのは余談である。
「もう駄目。(スベったネタを)拾って?」
「骨で良ければ」
「それ、死亡確認済みだな」
「ふむ……一之瀬の…『脂肪』確認、か」
いまだ目の前で存在感を誇る部分を、わざとじっと見つめて言ってみる。
「脂肪違いだし、失礼にも程がある! 私、ふとっ、太ってないから!」
「そうだな、おっぱい以外だが。胸で足元がお留守になってますよ、一之瀬」
「隙あらばセクハラするのやめてくれないかなぁ!」
ふっ。あえて以前に学習した女子への禁止ワードである『太ってる?』を婉曲に表現することで話の流れを変える我が策、成れり。ここまで来れば、再び変な雰囲気には持ち込めまい。
ま、一之瀬と共通点の多めな愛里(主に推定では一之瀬より大きな胸が)への流れ弾でいらんことに触れてしまったわけだが。そして一之瀬大好きな柴田の嫉妬心を無駄に煽ってしまったわけだが。
「お前、もう黙れよ」
「まだだ、まだ黙らんよ。僕の逃走本能に火がついた」
「それはただの逃げ癖でしょう」
「愛里相手なら妄想と煩悩にも火がつくかもな」
「左京の口はなによりもタチが悪いな」
他の面子にはやらないけど、愛里には後でフォローしておこう。本来の性癖じゃないが、清隆や南雲に布教された大きいおっぱいは男のロマンらしいしな。ダイエットとかを思い立って実行→小さくなってはコトだ。
……うん。無人島サバイバルで2週間もの間、使い倒してヨレヨレになってしまった誕生日プレゼントの麦わら帽子と、ずっと僕に貸し出されていた白蛇のミシャグジ様。この借りは愛里と早苗、それと地味に四方(無人島生活の半ばで港に滞在してた時に聞いたが、麦わら帽子を勧めたのは四方らしい)にも真面目に返さないと不義理だからな。
それに、流石のお人好しマスター・一之瀬だろうと、いい加減僕の好感度は日常的にセクハラや面倒をかけてること(自覚あり)で底辺付近まで落ちているはず。
こういうイベント直後だけは、一之瀬本人曰く「いざという時に頼りになる」って法則が当てはまるので好感度100満点中40~50点くらいになってる感じだが、日常生活において『いざという時』などそうそう発生しないのだ。普段は下手すると一桁台まで落ちてることだろう。
つまり一之瀬がいないと難しい事を実行するなら今ということだ。コイツには恩を売ってるわけでもないし、そうじゃないと僕は一之瀬を動かせない。
なら、まだ身体のあちこちは筋肉痛で動きにくいけど、少し早回しで今やってしまうか。
想定外だった八神断罪ごっこ中に思い付いた修正案は、船に戻ってすぐ松雄『社長』に送ってあるし、僕はこちらを担当しておこう。
くっくっく。短くなると思うが、最後の我が世の春を楽しむといい。
そして詰んだ後で心の底から後悔…しなくても別にいいな。する頭もないかもだし、掃除してもゴミは際限なく産み出されるモノだ。キリがない。
なにより僕が不快にならないなら、あんな奴らはどうでもいい。
ただ───消えてしまえ、救いようがなく不愉快極まるブラックで醜い者共。とは考えているが。
キャットルーキー計画の裏で進行されたゴミども撲滅誘導計画は、こうして誰にも僕の仕業と気づかれないまま密やかに王手を迎えるのだ。
……まぁ、この数日後、月城さんが繋いできた高円寺社長とした話からすると、人によっては僕の仕掛けなのがバレバレだったようだけども。
というわけで───誰も望んでないだろうけど、獲ってしまうか。
左京夢月、動きます! いや、むしろもう動き終わってます!
ところ変わって客船の小会議室。
奇しくも1年前、夢月達が干支試験の牛グループとして集まった部屋に南雲含む3年生数名が集められていた。珍しく2年生の生徒会役員である一之瀬から招集の提案があったからだ。
勿論、本来の一之瀬にそんな権限はない。あくまで提案の体をなしている。それでも主だった者達が応じたのは都合が良かった。それに尽きるだろう。
「……なんとか南雲のグループは上位2組に滑り込めたが、他はほとんど壊滅といっていい状況だ。これからどうするつもりだ南雲」
「まず壊滅じゃない。完敗と言うべきだろうな」
「どちらでも同じだろう。あの2年どもにしてやられた事に変わりはない」
「ふっ。ども、か。実はほとんど『ただ1人』に作り出された流れに巻き込まれたってのが正解だ。特に『外側』に関してはアイツ以外にできる奴がいねぇ」
「なんのことを言っている? 退学者のことか?」
「ああ。そういえば退学者も皆無にされたんだったな。だが、それとは関係ない。まぁ、桐山がわからないならそれでいいさ」
わからない事自体が幸せみたいなもんだ。と、南雲は聞こえないように口の中だけで呟く。
桐山だけではない。他の面子もだ。
本気の敵対をしなければ。最低でも『その場』を目撃しなければ。おそらくある程度以上を読み切って対抗するには、自分と同等近くの頭のキレを要すると南雲にはなんとなくわかっていた。いつものように言って聞かせても理解には到達しないだろう。
あの男に、生徒で一時的でも敵と見られた者は限られる。南雲自身や八神を含めた少数だ。そしてその場を一度でも、一部でも。目撃した者さえいまだそれほど多くない。
これは南雲なりに左京夢月という後輩を観察・接触し続けたからこそ、なんとなく察する事ができたのだ。逆に言うと、それを可能とする者は南雲以上にあの男と付き合いがあるか……頭脳や洞察力に秀でているか。
最終的に上位1位をかっ浚っていったが、夢月は試験で勝つつもりはなかった。隠すつもりがない本人の本音も、試験途中や終わってから聞いている。南雲の見るところ、嘘の色はたしかになかった。
しかし、直に話した時の夢月の目には、目的へ向かう強い意思はあった。
ならば、試験ではないなんらかの企みがあるはずだ。そう思って無人島サバイバルが終わってからいくつか心当たりを調べ、数日経過した今日───おおよその予想は固まった。
「……雅。多分、悪い話じゃないと思うけどね。乗るなら、相当な覚悟がいるはずだよ」
「だろうな。だからこそ面白い。次はなにやってくれるか。常に想像を超えてきやがる。この俺の想像をだぜ?」
「実力だけなら、東風谷さんや高円寺君……あと綾小路君や1年生の一部あたりの方が圧倒的に感じるんだけどなぁ。将の将になる器ってヤツなのかもしれないよ、あの子」
朝比奈と南雲は、あえて他を置き去りに会話を続ける。
「ははは。そんなこと言うなんて、なずなも歴史に興味が湧いてきたか? 褒めてるのか警戒してるのかわからない評価をするのは初めて見たぞ」
「そりゃあ、ね。あの時の当てこすりや最後の東風谷さんと高円寺君の正面突破は、ちょっと考えさせられたから。だから、ぶっちゃけ両方かな」
「やっぱりなずなは気づくよな。アレを無意識でやってんだから、洒落になってねぇよ」
「無意識か……ホントなんなの、あの子」
「うちの学校のバグみてぇだよな、アイツ」
そして、件の本人を一之瀬が連れてくるまで、その雑談というか愚痴というかなモノは止めどなく溢れてくるのだった。
「やあ、こんにちは南雲と3年生の皆さん。そして知らない人は初めまして。2年B…じゃなくてAクラスの左京夢月です。今日は時間もらっちゃってありがとう」
「夢月君……まださっきのありえない提案を諦めてないの?」
「当たり前だろ。僕は記号や数字なんかより面倒事回避を選ぶ男だ」
アウェーでありながら、どこまでも肩の力が抜けた飄々とした自然体で現れた夢月に一之瀬がツッコむ。そのまま漫才染みた彼らのやり取りが続きそうになったが、無人島での事を考えればあまりの軽さに一瞬呆気に取られた南雲もふと引っ掛かりを覚えて掘り下げる。
「ありえない提案? また左京がバカ言ったのか?」
「バカとはなんだ、バカとは。ちょっと予定外にCPを多めに得ちゃったから、余分を他のクラスにあげて僕はBクラスになりたいなって提案しただけだ」
「マジで勝つ気がなかったのも納得のとんでもねぇ大馬鹿野郎じゃねぇか」
「ほら、南雲先輩にも呆れられてる……。普通はこんな案は出てこないんだって」
「うむ、気のせいだ。いち意見程度ならきっと本来ならあり得るはずなんだよ。あとAクラスのままでいたら、なんか維持するのに無駄な労力を使いそうだしさ」
「無駄じゃないから! Aクラス特典は目指す価値があるからね!?」
夢月の右手側には四方や愛里、早苗、鬼龍院、石上、宝泉などの高円寺を除く天文部員達+椎名、清隆と天沢。左手側には一之瀬達クラスメイト数人。
統率者や人の威を借るとは少し違うが、えもいわれぬ一種異様な雰囲気が中心にいる夢月にはあった。
「う、うぅ~ん。Aクラスになる方法や維持じゃなく、ポイントを譲渡してAクラスから自ら降りる提案、ねぇ。これは特大の問題児」
「失敬な。僕のどこが問題なんです?」
「「「どこ…というか全部?」」」
「なに口揃えて言ってんですか! 僕は品行方正で優秀な生徒でしょうに」
「「「なに言ってるの、この人」」」
事実、そこそこ我の強い者が揃っているというのに、小さく笑う程度で誰も邪魔しない。桐山や他の3年生も夢月が現れてから、口を挟もうとしてはつぐむことを繰り返している。内容は聞いての通り、こんな馬鹿話なのにである。
しかし、流石に南雲は流されなかった。冷静さを取り戻すと、単刀直入に話を切り出す。
「で、普段避けている俺にまで話を通そうとする左京の本題はなんだ? 無人島サバイバルのことじゃないんだろ? 一之瀬から預かった懸賞金2000万の分配に不満があるのか?」
「ああ、それな。もちろん違う。結果が出揃って終わったことを蒸し返す趣味はない」
相手に敬意を払い、社会人としての常識的な会話を行う。『俺』の感覚からすれば、ビジネスの場においてできて当たり前の最低限のマナーでしかない。だが、ここは何処だと考えるならそれを可能とする奴は非常に珍しい。
高校生なのは差っ引いても、ここは高度育成高等学校。
常識から逸脱したルールや法則、特別試験が飛び交い、時に暴力さえサラリと割り込んでくる異常な場所である。
曲がりなりにもそのマナーを理解し、話の通じる南雲が有益な交渉相手なのは間違いないだろう。
ちなみに分配とは、八神の断罪ごっこの報酬のことだ。
南雲・宝泉・龍園に500万ずつ。残りの500万もすでにそれぞれの協力者に振り分けられている。
余談だが、八神本人は船旅が終わると停学期間に移行するため、現在は船の一室で反省文を書かされる罰則中らしい。だからここには来ていないが……。
「じゃあ、なんだよ。八神よろしく、俺を入れて反省会でもやろうってか」
「うん、それに近い与太話としてでも聞いて欲しいんだが───」
それに対し、夢月は一足飛びに用件だけを返す。
「───外側の下準備がだいたい終わった。なので、月城理事長代理が正式に去ったら、この学校を本当の実力者を大事にする場所へ変えないか? って提案だ」
あるいはそれはコイツなら理解できるという信頼なのかもしれない。
「……は、ははっ。お互いに利用価値が発生したって落ちか? それかお前が発生させるよう仕向けたか」
「うむ、ご明察。学が旅立つ時に頼まれてたことを僕なりに応用してみた。ああ、人脈や金については心配いらない。これから整う…いや、勝手に整う予定だ。駄目でも二の矢、三の矢は考えてある。そのためにこの流れにしたんだしな」
忘れられがちな存在を夢月が思い出してギリギリでこの場に誘われていた清隆が、会話の先を察して小さく笑う。
仲間達は当然として、勘や察しの良い者も僅かに遅れて気づく。二の矢三の矢が単なる室町時代の射法訓「初矢は運、二の矢は技、三の矢は心」というだけではなく、四方『二三矢』を鍵にしたナニかだということに。
まぁ、室町の射法訓なんて知ってる者自体が相当少ないわけだが、幸か不幸か京都にある四方の実家や早苗の信仰対象は歴史が長い。詳しく知っている存在もいなくはない。
それでなくとも、なんとなく意味は通じるものである。
そしてそれが理解できれば、行動力と発想、そして応用力を用いる事においては絶大といって過言ではない実績を叩き出してきた夢月の発言だ。
やらかすことに大まかな想像ができると、何故か段々ワクワクしてくる奇矯な変わり者が彼の周囲には集まっていた。愛里も含めて。
「南雲もこのまま月城理事長代理が退任したら、お前の望む改革が中途半端になりかねないのは察してるだろ? だから、そういう未来に辿り着く前にさ。ゲームをしよう、南雲雅。『僕達全員にとって』特大の利益になる簡単なゲームだ」
「ゲーム、だと? 遊び半分の賭け事はあまり好きじゃないんだが……何をするつもりだ?」
一方、探るような南雲の言葉選びに対して、夢月は交渉時にはいつも通りのニヤリとした笑みを浮かべて一刀両断に告げる。
「そう───最後に自分が勝ってればいいってヤツ。南雲が乗るんなら、その布石が比較的容易なんだ」
「最後に……勝っていれば、いい? ふ…ふはっ。お前、それはっ」
うんまぁ、これで引き気味になる愛里や四方はいいよ。そこそこ普通の感覚だ。後でフォローと解説は必須だけども。
でも僕から言っといてなんだけど、この発破で何故か今日イチの笑顔を見せる奴らが怖ぇよ。特に南雲はともかく、清隆と早苗。
……やはりコイツら、似た者同士だから嫌い合ってる面もあるのでは? って考えてる場合じゃないか。
毒を食らわば皿まで。何人かへの恩と仇の両方を過不足なく返すなら、徹底的にやってやろう。
僕はエゴイストではあるが、美学と矜持に深く関わる義理人情も大切にする男だ。
「───僕と契約して悪巧みしようぜ! 今なら上手く事を運べばほとんどの改革を達成できる道筋を創り出せるじゃないか!」
この後のことを語るまでもないだろう。
夢月がここから何をするのか。彼の友達が如何なる動きをするのか。南雲がどう答えるのか。学校がこれからどうなるのか。
あるいは全く別の物語というべきモノになるのか。
そんなことは暇な時にでも、じっくり考察すればいいだけなのだから───。
『ようキャ』は、このEP(エピローグ)をもって完全に完結です。
ここまでお読みくださった方はお疲れ様でした。そしてありがとうございます。
あとエピローグ同様にそこそこ長めになるかもしれませんが、伏線回収がわかりにくい気もするので活動報告にちょっとした解説的なモノを載せるつもりです。まぁ長めとはいえ活動報告ですし、エピローグの本文が約18000字に対して、だいたい5~6分の1…2000~4000字くらいになると思われますが。
作中で1年半近く一貫していた夢月の計画や表裏、冒頭の人物の登場理由、一之瀬を含む人物への対応など細かい事が気にならない方はこの活動報告をスルーしても問題ありません。