天空山の一画に、古めかしい門で閉鎖された禁足地がある。
山の麓にあるシナト村の竜人たちによって厳重に封印された、その場所こそがゴア・マガラの故郷――すなわち、シャガルマガラへの脱皮を果たすために彼らが目指す場所だそうだ。
どうしてもそこを訪れたかった僕とミノトさんはシナト村に赴き、交渉の末特別に立ち入りを許可してもらった。
「綺麗……」
一足先に禁じられた門をくぐったミノトさんが呟くのが聞こえた。
彼女を追って門を通るとそこは、金色のススキが一面に生い茂った広場だった。
「すごいですね。まるで――」
天国みたいだ、と言いそうになったけれど、途中で言葉が途切れてしまった。
人並みな表現で言い表すのがためらわれるくらいに現実離れした景色だった。
かつて、一人のハンターがこの場所でシャガルマガラと死闘を繰り広げたことがあるらしい。
広場の中央には巨大な岩が真っ二つになって転がっているけど、そのときの名残なのだろうか。
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『立ち入りを許可するのは、あなた方で二組目だよ』
ここに来る前、シナト村の大僧正にそう言われた。
肩書からイメージしていた人柄とはまるで違う、フランクなお兄さんといった感じの人だった。
『すみません、無理をお願いして……』
『なに、天廻龍に関わることなら他人事ではないからね。……しかし、ギルドからの指令に堂々と逆らった挙句なんのお咎めも無しとは……キミの師匠、よほど権謀術数に長けた人らしいね』
そう、僕が傷の治療で寝込んでいる間に、ギルドとのいざこざは全てウツシ教官が片づけてしまったのだった。
なんでも、退去命令を無視して村人総出で古龍を撃退した村の例を出したり、お偉いさんの弱みをちらつかせてなんだかんだで丸め込んでしまったとか――。
……あまり深く考えるのはよそう。
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――
「ハンター様?」
「あ、はい。なんですか?」
「先ほどから申し上げているではありませんか。あのあたりが良いと思います」
そう言ってミノトさんが指さしたのは禁足地の端の一画、ススキの群生が途切れて地面がむき出しになっている場所だった。
「すいません、ちょっと考え事してて……」
「……ふふっ」
「え?なんかおかしいこと言いました?」
「いえ、つい先日も同じようなやりとりをしたのを思い出しまして……あの時は立場が逆でしたが」
「あ、なるほど」
口元を押さえて微笑む彼女の体はもう、すっかり元通りになっていた。
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――
僕がクナイで地面を掘る間、ミノトさんが飛竜の卵くらいある岩を探して持ってきてくれた。
「これなど、いかがでしょうか」
「ちょうどいいんじゃないですか。……相変わらずすごい力ですね」
「まあ、これでも里守ですので」
そういえば、百竜夜行のときも負傷した村人を担いで運んでくれていたっけな――なんてことを考えつつ、僕はポーチから小さな木箱を取り出した。
中にはゴア・マガラの鱗……黒と金色が混じりあった異形の逆鱗が納められている。
里の加工屋であつらえてもらった特注の棺だ。
穴の中にそれを置き、土を戻した上に岩を乗せて――簡素な墓ができた。
「すみません、クナイを貸していただけませんか」
「なにに使うんです?」
「墓碑銘を……今、思い浮かんだ言葉ですが」
ミノトさんが慣れた手つきで岩に文字を彫り、破片が風に攫われていく。
冷たく、それでいて心地の良い風だ。
ふと、ゴア・マガラの姿が脳裏に浮かんだ。
全身で風を浴びて、六本の脚で嬉しそうにこの場所を駆け回る姿――。
けっきょく、そうはならなかったのだけれど。
不治の病に侵され、目に光を宿すことなく斃れた竜。
ヒトにとっては災厄でしかないし、今回の件もただの災害として語り継がれていくことになるんだろう。
それは仕方がないことだ。
だから、せめて僕だけでも、アイツの本当の姿を覚えていようと思う。
故郷に恋焦がれ、天に向けて哭き叫ぶ声を。
逃れられない死に体を蝕まれながらも、最後の瞬間まで生きようとした意思を。
ミノトさんが墓標に刻んだ、この言葉と共に。
共鳴現象、面白い設定のわりにはヒノエもミノトもそこまで重症にはなっていなくて、「もっとヤバイ奴と繋がったらどうなるんだろう」という妄想を膨らませたのが今作です。
執筆にあたってゴア・マガラの設定を読み返しましたが、読めば読むほどその恐ろしくも悲しい生態に惹かれ、ガンガン筆を進めることができました。
カプコンさんひとつだけ言いたいことがあるんです……アンタらはドSだ。
近年の作品では4出身のモンスターたちが冷遇気味ですが、これから少しでも改善されていって欲しいなと思います。魅力的な子たちが揃ってますので。
リアルになったダラ・アマデュラの上を駆け回ったりしてみたいですね。