アシュリー嬢は呪われてしまった!?   作:磨己途

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24:アシュリー嬢求愛作戦会議

 いっときの間の後、三人が一斉に笑い出した。

 わたしは黙って顔を伏せる。

 ちょっとみんな、上司である団長を前にして失礼なんじゃないの?

 最初はそう思ったけど、彼らが作り出す和やかな雰囲気は悪くない。

 粛々と進む宮廷のディナーと違い、このお店や騎士団の皆の、暖かでくだけた雰囲気が、わたしには居心地良く感じられた。

 

「乾杯しましょう」

「ああ」

「我らが団長の恋の成就を願って」

「「カンパーイ」」

 

 皆がテーブルの上で木製のジョッキをぶつけ合う。

 中身が大きく揺れてこぼれ、テーブルを少し汚したけど、誰もそんなことには気にも留めていなかった。

 

 あ、そう。騎士団ではお祈りの代わりに皆でこうやるのね。

 わたしも他の皆に倣ってグビリと喉に流す。

 夜道を早足で歩いたせいで喉も乾いてたのよねー。

 

「えっ。団長? お飲みになるんですか?」

「あ、本当だ」

 

 あれ?

 

「だ、駄目だった、か?」

 

 何か騎士団独自の作法でもあったのかと思って慌てて尋ねる。

 一番目上は皆が酔って羽目を外すことがないように監督する規則があるとか?

 

「いえいえ、全然。さあ飲みましょう。食べましょう」

 

 何か歯の奥に引っ掛かる感じがしたけど空腹には勝てない。

 わたしはジョッキを置いて、テーブルの上に広げられた料理の数々に手を付け始めた。

 

 うん、美味しい。

 濃い味付けが空腹の身体に染みわたるぅ。

 

 しばらくみんな言葉少なに飲み食いした後、ノイン君が口に物を入れながら皆の顔を見回して言った。

 

「それで、どうします? 作戦を練りましょうよ」

「その気になってるところ悪いが、お前の出る幕はないぞ」

 

 エッガースさんが長髪を結わえ直す仕草をしながらノイン君をたしなめる。

 横目に見ながら聞いているわたしには、突然何の話題が始まったのか分からなかった。

 

「そりゃあ俺は何もしないよ? やるのはミハイル団長だろうけど、俺らだってアイデアは出せるじゃん」

「アイデアってどんな?」

 

「アシュリー嬢に何を贈るかとかさ。俺はまずは綺麗な花がいいと思うな」

「ゴホッ、ゴホッ」

 

 むせた。

 ミハイル様が大きな花束を持って屋敷にやってくる姿を思い浮かべてしまった。

 わたしに、求愛をしに?

 ミハイル様が?

 

 昼間王宮でお会いしたリカルド様のお話を考えると、ミハイル様がわたしに好意を寄せていらっしゃるのは間違いないようだけど、明確なヴィジュアルで想像すると、やはり恐れ多いというか、恥ずかしい思いがする。

 

「見ろ。団長もむせてるじゃないか。全然的外れなんだよ」

「的外れぇ? 何が? 女性をどうやって口説くかって話だろ?」

「そんな心配はもっとずっと後にすることだ。彼女、今はそれどころじゃないだろ」

 

 ノイン君に比べて、エッガースさんとシュルツさんの二人は先ほどから何故か訳知り顔だった。

 それこそ当事者であるわたし以上に。

 正体を偽って盗み聞きするのはちょっと後ろめたいけど、気になるものは仕方ない。

 わたしは料理をモリモリと平らげながら耳をそばだてていた。

 

「放っておいたら彼女、処刑されてしまうかもしれないだろ?」

 

 もぐもぐ……もぐ……、処刑……。処刑!?

 

 わたしは口に物を頬張ったまま、シュルツさんの顔をまじまじと見つめる。

 

 何で処刑?

 そりゃあ、敵国と密通したっていう疑いは掛けられたけど、そんな事実もないのに処刑なんて、ないでしょ。

 え、あるの? 嘘!? それって、あんまりじゃない?

 

「待てよ。俺はあの話、でっち上げだって聞いたぜ?」

 

 そうそう。そうよ、ノイン君。言ってあげてよ。

 嘘の証言で処刑なんてあり得ないって。

 

「一方的に嫌疑を掛けておいて違ってましたって言うんじゃ、訴えた方もそれを受理した方も体面が保てないだろ?

 事実はどうあれ、あれだけ大勢の前で訴えられた以上、アシュリー嬢が有罪とされるのは避けられないのさ。何もしなければな」

 

 シュルツさんの落ち着いた声音で説明されると全部もっともらしく聞こえてしまう。

 

 そんな……。じゃあ、メフィメレス家からの暗殺を逃れても、どのみちわたしが殺されちゃうのは避けられなかったってこと?

 何だか急に眩暈がしてきた気がする。

 

「……じゃあ、どうするんだよ? 団長が求婚してもその彼女が処刑されちゃうんじゃあ意味ないじゃないか」

「だからやるべきは求婚じゃなくて、まずは彼女を救う道筋を立てることなんだよ。多分、さっき団長があの場所にいたのも、きっとその策の一環なのだろう。そうですよね、団長?」

「どうしたノイン? 急に顔を青くして」

 

「そんな……。それじゃあ俺、さっきはそれを邪魔して……?」

「そうだぞ。アシュリー嬢が処刑されたら責任感じろよ?」

 

「しょっ、処刑なろ、さぜないっ!」

 

 テーブルが大きな音を立てて揺れた。

 何!? 突然何が起きたの?

 ていうか、今の声、今の声って……。

 あ、ああ、わたしだった。びっくりしたー。

 

 処刑なんてさせてたまるもんですかと頭に血が上って、思わず口に出していたんだ。

 それに、そんなに力を入れたつもりはなかったのに、思いのほか強い力でテーブルを叩いてしまったらしい。

 他の三人が驚いてわたしの方を見ていた。

 

「団長? 酔ってらっしゃいます?」

「……ほとんど空だ。おい、ノイン。奥に行って水もらって来てくれよ」

 

 シュルツさんがわたしの手からジョッキを取り上げ、ノイン君に手渡すのが見えた。

 水ぐらい自分で……、と立ち上がりかけたところをエッガースさんに肩を押さえられ、椅子に座らされる。

 

「大丈夫ですか団長? お酒弱いのにこんなに急いで飲むなんて。さっきのノインの話じゃないですけど、お困りなら俺たちが協力しますよ?」

「そうですよ。ヒーストン家の者と接触するなら俺たちの誰かが代わりに」

「駄目! 駄目よ! わらしが行かないと。直接ぅ、直接会わないと駄目なのぉっ!」

 

 二人が困ったように顔を見合わせる。

 わたしも困っていた。

 なんだか息苦しいし、うまく呂律が回らない。

 

「会うってどなたとですか? まさかアシュリー嬢本人と?」

「そぅっ」

「直接会うと言っても、相手は謹慎中の身ですからねぇ。団長が直接尋ねて行っても会っていただけるかどうか……」

 

 ああ、エッガースさんもやっぱりそう思う?

 わたしも正直厳しいと思ってた。

 そんなことないって、自分に言い聞かせて。平気な振りしてたけど……。

 でも……、やっぱりもうおうちに帰れないんだ。

 わたしの部屋に……、わたしのからだに、もどれないんだぁ……。

 

「た、助け、へぇ。おねっ、がひっ……ぐ。なんとかしてよー……おぇっ」

 

 どうにもならない。

 泣きそうになる。

 悲しい気持ちがあふれて止まらなかった。

 

「あー、だ、団長、落ち着いてくださいよ」

「おい、オヤジ。ここの二階は確か宿だったよな? あ、ノイン。水はいいから肩貸せ肩」

 

「団長って泣き上戸だったか? 前は即、寝落ちしてた記憶なんだけど」

「ああ。もう、じきだ。目がトロンとしてる。脚が動くうちに運ぶぞ?」

 

 猛烈な眠気の中、誰かに身体を支えられ、狭く粗末な階段を上っていったことは覚えている。

 ああ、そりゃあ、こんな大柄なミハイル様が眠ってしまった後で、二階に運ぶなんて難儀でしょうねぇ。

 まるで他人事のように納得しながら、わたしは促されるままに階段を上った。

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