アシュリー嬢は呪われてしまった!?   作:磨己途

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31:反芻、思わぬ報せ

 ミハイル様がお帰りになった後、わたしはリゼから、わたしになっていたミハイル様とどのように過ごし、どのような話をしたのかを詳しく、根掘り葉掘り聞き出した。

 

 リゼによると、昨晩遅くに門を叩いたノイン君たち騎士団の面々が屋敷の中に通されたことも、その後、お父様がミハイル様とお会いになる判断をなされたことも、全てミハイル様とリゼが相談し、裏で機転を利かせた結果であるらしかった。

 確かに、屋敷の中に協力者がいなければ、あれほどすんなりアポイントを取り付けることはできなかっただろうと思う。

 

 わたしがミハイル様のお姿でアシュリーへの好意を打ち明けた場面も、しっかり立ち聞きされていたことが分かった。

 あのときドアを叩いた大きな音。

 あれは、わたしの姿のミハイル様が思わず額を打ち付けた音だったらしい。

 

 その話を聞き、わたしの中で再びあのときの()()()()が反芻され羞恥心が蘇る。

 

 そういえば、あのこと(婚約の件)についてミハイル様は何も触れずに帰ってしまわれた。

 ミハイル様なりにわたしに気を遣っていただいたのだろうか。

 

「何をおっしゃられるのです? あれだけしっかり旦那様に念押しされていたではありませんか」

「……何をです?」

 

「やっぱり。心ここに在らずだとは思っておりましたが」

「……お父様がお発ちになる前のことかしら?」

 

 あのときのわたしは、元の身体に戻れたことですっかり安心してしまい、眠気がとめどなく込み上げ、朦朧としていたのだった。

 

「そうですよ。あの後、ミハイル様はお二人の前でもう一度お嬢様に求婚されたのです。正式な婚約は、お嬢様に掛けられた嫌疑が無事晴れたあとに、とのお話でしたが──」

 

 え……。

 

「──旦那様はもうすっかりその気でございますよ? ヒーストン家の行く末はミハイル様のお力に掛かっているのだと」

 

 ええっ!? 嘘、嘘でしょ?

 本気なのですか、ミハイル様?

 てっきり、……てっきりわたしはとっくに幻滅されているものかと。

 勝手にお身体を拝借し、あれほどご迷惑をお掛けしたというのに。

 わたしは勝手に他人の口で婚約話を切り出すような慎みのない女なのよ?

 

 でも……。

 でも、ミハイル様が始めからその気であったなら……。

 わたし自身もそのことを了承しているのだと信じて疑わなかったのだとしたら……。

 あの後、わたしに向かって掛けられた皮肉まじりの言葉や、ただのからかいだと思っていた言葉が別の意味合いに思えてくる。

 

 そ、それにお父様もその気だなんて。

 まるでもう決まったことみたいに。

 みんな、先走り過ぎよ。

 わたしは、つい先日リカルド殿下から婚約破棄を言い渡されたばかりの身の上だというのに。

 

 ……なんて、常識ぶって憤ってみたわたしだったけど、批判されるべきは、そもそも最初にその話を切り出したわたしの方なのだったと自虐する羽目になる。

 まったく、自分の命やお家の一大事だというのに、わたしという女は、自分の色恋にかまけて本当にしょうがない女だわ。

 

  *

 

 騎士団の人がわたしを訪ねてきたのは、それから五日後のことだった。

 騎士団の人──そう、ミハイル騎士団長ではない別の人。

 訪ねて来られたのは、あの晩、宿屋の食堂で一緒に食事をしたお二人。

 赤い長髪を優雅に束ねたエッガースさんと、薄い金髪を短く刈り揃えたシュルツさんだった。

 五日前にミハイル様が残して行かれた言伝によれば、自分がメフィメレス家の陰謀を調査している件は、当面騎士団の人間にも秘密にしておく、とのことだったので、お父様もお二人の訪問には随分慎重にご対応なされているようだった。

 ミハイル様と同じ騎士団のかたとはいえ、少し間違えばお家のお取り潰しもあり得る状況のヒーストン家としては、どんなに用心しても用心し過ぎるということはない。

 

 先にお二人とお父様が話されていた部屋にあとから通されたわたしは、来客の顔ぶれを見て、ノイン君はこういう用事ではお声が掛からないのか……、まあそうだろうな、などと少し失礼なことを思う。

 

「お初にお目にかかります。王国騎士団副長のエッガースと申します。こちらは同じく騎士団所属のシュルツです」

「初めまして。アシュリーでございます」

 

 そうか、エッガースさんは副団長だったのか。

 あの三人の中にいても特に偉ぶった感じのない雰囲気だったから意外だ。

 

 緊張した面持ちの二人に比べ、あの晩餐を共にしていたわたしは、部屋に入った瞬間から、なんだか家族といるような落ち着いた暖かな気持ちになっていた。

 こちらの方が少し相手のことを知っているという、ちょっとした優越感もある。

 本当は、はじめましてではないのよ、と余裕を持って向かい合う。

 

 だけど違った。

 彼らが緊張した面持ちなのには理由があったのだ。

 

「すでにお父君のラング様には事情を説明させていただいておりますので、失礼ですが単刀直入に申し上げます。我が騎士団の団長ミハイルが三日前から行方知れずなのです。行く先にお心当たりはございませんでしょうか?」

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