アシュリー嬢は呪われてしまった!?   作:磨己途

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41:旅路

 国境近くの寺院跡に向かう一行は、思いのほか少人数だった。

 わたしの方の身内はリゼと、寺院の正確な場所を知っているヒーストン家お抱えの御者であるロブお爺さんの二人だけ。

 調べを受ける身なので、そこはある意味妥当な話だけど、容疑者であるわたしを護衛する騎士団も総勢で八名と、極めて少人数だった。

 目指す場所が場所であるだけに、下手に大勢で出向いてアダナスを刺激しないように配慮された結果らしい。

 旅程は往復で一週間。

 ひと月ほど前にわたしが個人的に出向いたときとほとんど同じ。

 本当に、行って帰って来るだけで現地の滞在時間はほとんどない。

 

「それよりも私は、あの御者の男がどうして(くだん)の寺院の場所を知っているのかが気になるのですが」

 

 今、リゼと共にヒーストン家の馬車に同乗しているのは副団長のエッガースさんだ。

 ミハイル様からの信が厚いのは、人当たりの良さだけでなく、こう見えて簡単に本心を見透かせない器量を買われてのことでもあるのだろう──。

 

 例のミハイル様失踪の件に関して、ノイン君は自分たちに内緒で行動するなんてと憤慨していたけど、実際は、ミハイル様はこのエッガースさんだけには、それとなく姿を消す意図を伝えてあったらしい。

 多少騒ぎになるだろうが成り行きに任せ、自分が行方不明であることが騎士団の外の者にも漏れ伝わるようにしろと。

 ミハイル様がメフィメレス家に疑いを持っていることは、向こうも承知しているはずなので、その自分が姿を暗ましたと知れば、慌てて胡乱(うろん)な動きを見せるかもしれない……、ミハイル様にはそんなお考えもあったらしい──。

 

 だから、エッガースさんは他の団員たちと同じく、何も知らない振りをしてミハイル様のことを捜していたのだ。

 なかなかの演技力。

 そんな必要もないのに、わたしは無駄に緊張しながら、振られた問いに答えを返す。

 

「最初からロブお爺さんが知っていらしたわけではないのです。詳しい場所をご存知の先達が別にいて」

「と言うと? ……あ、いえ、別に尋問をしようというわけではないので、そんな警戒をなさらずに」

 

「え、ええ、すみません。あのヴィタリスさんから紹介していただいた方をお乗せして、その方に案内をしてもらいながら向かったのです」

 

 エッガースさんが眉の間に皺を作るのが見えた。

 なんだろう? 身内をかばうために作り話をしたと思われたとか?

 

「そうですよね? リゼ」

「はい。同乗といっても、御者の隣です。お嬢様と同じ車中で過ごしたというわけではありませんので、邪推は無用でございます」

「あー、いえ、そういうことではなくてですね。その場所へ案内したのがメフィメレスの関係者であれば、それだけで立派に怪しいのでないかと思ったもので」

 

 ああ、そういうことか。

 不審を買った理由が分かり、やや安堵する。

 それにしたって、改めて説明することにあまり気乗りしない話だけど。

 

「丁度、あちらの方へ帰郷される予定のかたがいるということで、それならばと同行することになったのです。現地でお別れしましたから、証言者としてお呼びしようにも捜す手立てが……」

 

「確かめるまでもありませんが、その男はアダナスの出身で?」

「はい。今頃はあちらの地にいらっしゃるかと」

 

 わたしがそう言うとエッガースさんは両手で顔を覆い、深い溜息をついた。

 

「アダナスは長年の交戦相手でございますよ? 今も両軍がにらみ合いをしている国境を、ただの領民が容易く越えて行けるとお思いですか? それだけで不審なところが大ありです」

「申し訳ありません。ヴィタリスさん自身が元はアダナスのかたですし、両国の行き来はもっと気軽に行われているのかと」

 

 もう一度深い溜息。

 

「十中八九、その者は間者でしょう。おそらく付近に人目に付かぬ抜け道があるのです。本当にいいように使われたものですね」

 

 エッガースさん、優しいお顔に似合わず、意外に辛辣……。

 でも、それだけわたしのしでかしたことが愚かだということよね。

 ヴィタリスにハメられたことが分かって以来、そんな人並の常識すら知らなかった自分に対し自己嫌悪を繰り返していたけれど、こうやって直接指摘されるとやはり堪えるものがある。

 

 こんなことならマナーや言語の修得ばかりかまけずに、もっと身近な政治の話に関心を払っておくのだった。

 わたしは、男のかたのなさることという決め付けのせいで、その手の話題を勝手に自分から遠ざけていたのだ。

 

「しかし、妙だな……。証拠は残らないにしても、アシュリー嬢の証言を聞くだけでもメフィメレス家の行動は怪しすぎる。慎重さに欠けるというか……」

 

 エッガースさんは緩く三つ編みに結った赤い髪を、首の前に回してもてあそび始めた。

 わたしたちに対し、気を許し始めたということなのかもしれない。

 そうすることで、集中し、考えをまとめようとしているように見えた。

 

「すでにそれだけ王に取り入っているということではありませんか? 真実がどうであれ。それが国益に叶うことであれば、黒いものも白いと言わせられると」

「魔法士の力を大幅に引き上げるというメフィメレス家の秘術が、本当に国益に叶うのであればそうかもしれませんが……」

 

「違うのですか?」

「…………」

 

 一拍間を置いたあと、エッガースさんはそれまでよりも幾分声を落として話を再開した。

 わたしたち相手なら明かしても構わないかと、そう判断するための間だったのかもしれない。

 

 エッガースさんからお聞きした話は、伯爵令嬢を(おとし)めて婚約者の王子を奪い取ったり、暗殺を企てたりするのとは次元の異なる恐るべき陰謀だった。

 あの廃屋に残された証拠の山から拾い上げた、騎士団による調査の賜物。

 未だ推測の域は出ないものの、真相に限りなく肉薄したと思しき、メフィメレス家の秘薬が持つ恐ろしい副作用に関する秘密だった。

 

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