己を徹底的に痛めつけるのが大好きな超絶ドMウマ娘は周りから世界一の努力家と勘違いされている   作:座敷猫いおり

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一章 登場!白い毛色のウマ娘
プロローグ


 ――それはとあるゲーム会社のスタッフと、とある馬主の会話の記録。決して表に出ることもないような些細な打ち合わせの1ページ。

 

「繁殖牝馬も引退した今だから言えるんですけどね……あの子、実は苦しいことだとか痛いことが大好きだったんですよ」

 

「えっ! そうなんですか!? 確かに現役中の彼女のトレーニングは凄まじいものがあったと聞いていましたけど……そういう性格だったから耐えられた、と? それはどういう風に……」

 

「そうですねぇ、例えば坂路ですよね……普通馬って、基本的に坂路は嫌がるんですよ。生き物ですからね、勾配ついた坂を何度も走らされるんですからそりゃしんどい。でもあの子は違いました。もうね……登る。とにかく登るんですよ、それも楽しそうに。どれだけ息が上がろうとくたくたになろうと騎手や調教師(せんせい)達が無理にでも止めないと、絶対にやめない」

 

「おぉ、そうやってあのミホノブルボンを彷彿とさせるような体躯が造られたわけですね」

 

「そりゃ牝馬のブルボンだとか、ゴリラとか言われますよねあのバキバキのトモ……ははは。いや調教の度にほぼオーバーワークになってしまっていたわけですから笑い事ではなかったんですけどね。他にも色々と困ったものでしたが、とにかく何をやらせてもそんな調子なもので体のあちこちが鬱血してしまって笹針治療を増やさざるを得なかった。麻酔はかけますけども、笹針だって馬によっては本当に嫌がるし、痛がる。けどあの子はもう笹針の先生を見つけた瞬間猛スピードで詰め寄って早く針を打ってくれ! って有様でしたからね。というか何度か自分で麻酔針破壊して、麻酔なしで打たせようとしたこともありまして」

 

「嘘でしょ……」

 

「動画ありますよ。これなんですけどね……気持ちよさそうでしょう」

 

「ち、血まみれでかなり痛そうですけど……完全に弛緩して、リラックスしてますねこれ」

 

「先生も言ってましたからね。これほど笹針のやりがいがある馬はこの世に居ないって」

 

「いやぁ、これは本当に……失礼な言い方になっちゃうと恐縮なんですが……」

 

「いえいえ、こちらも思ってることですからはっきり言っちゃっていいですよ、はは」

 

「マゾ――って奴なんですかね?」

 

「はい。間違いなくあの子は他に類を見ない程のマゾヒズムを持った競走馬でした。ですので――『ウマ娘』としてあの子をキャラクターデザインするときは世間の華々しい三冠牝馬というイメージ……黄金世代の白雪姫ではなく、私達をほとほと困らせて……そして愛させたありのままのデザインでお願いしたいのです」

 

 

 

■■■

 

 

 

 初めて彼女と出会ったのは、日本一を目指して田舎からトレセン学園にやってきて間もない頃でした。

 

 見るものすべてが新鮮で、華やかで、素敵でしたけど――それでも、そのすべてが彼女を更に際立たせる為の前振りだったと思わざるを得ないほど、彼女はスズカさんと同じくらい美しかった(・・・・・)んです。

 

 北海道の初雪を思わせるような白い、どこまでも白くて綺麗な髪色と柔肌を持った彼女が、まるで絵本から飛び出してきたお姫様のような彼女が大きな坂路を走っているだけなのに……その表情があまりにも楽しそうで、そして心地よさそうなものだから――。

 

 どうして私は彼女を見て息を飲んでいるんでしょうか。

 どうして私は初めて見たはずの彼女を見て懐かしさを覚えてしまうんでしょうか。

 どうして私は――どうして私の心は、私の『魂』は。

 

 彼女を求めているのでしょうか。

 

 私はそうして、しばらくぼーっと彼女に見惚れてしまっていました。

 何度も坂を全力で駆け上がっては、また全力で下っての繰り返し。

 

 何セットも何セットも繰り返した末に、滝のように流れる汗を拭う姿と、小刻みに震えてしまっている脚を見れば彼女が限界だということは誰でもわかることでした。

 

 それでも、彼女の笑顔が崩れることはなくて――ああ、そうか。

 彼女が美しいのは白い彫刻細工のような造形だけじゃなくて、走ることは楽しいのだと、走れるのが嬉しいのだと――そういった走ることへの素晴らしさを全身で体現してるからなんだ。

 

 限界なんてないんだって。

 限界なんて超えられるんだって。

 そこに道がある限り、いつまでも走り続けられるのだと。

 

 走ることが大好きな私が…私達(ウマ娘)が羨ましくなるほどの走りへの情熱。

 それが彼女にはきっとあって……だからこそ私は――。

 

 

 

 今思えば、その感情は一言で言い表せるようなシンプルなことだったんです。

 

 私、スペシャルウィークは……このトレセン学園で誰もが満場一致で認める、学園で一番――否、世界で一番努力家のウマ娘に一目惚れしてしまったんですね。

 

 同性のウマ娘同士でおかしな話だとは思うんですけど……好きになってしまったものは、好きなんですよ。

 

 『ホワイトグリント』。

 

 それが私の好きな世にも珍しい白毛を持った彼女の名前。

 

 これは後に日本総大将と黄金世代の白雪姫と呼ばれるようになる、私達の物語です。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 98年、秋華賞。

 

 その馬は2つの伝説を蘇らせ、新たな伝説をターフに刻んだ。

 

 三冠牝馬の再誕。オグリキャップ伝説の再興。そして――白毛という誰もが未知の景色と記録。

 

 “黄金世代の白雪姫”その馬の名は……




 以下ネタバレ
 黄金世代とかしらないけどたぶん全員抱かれた(名牝)

 初投稿です拙い文章と遅い更新頻度になるとは思いますがよろしくお願いします。
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