己を徹底的に痛めつけるのが大好きな超絶ドMウマ娘は周りから世界一の努力家と勘違いされている   作:座敷猫いおり

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一話『ホワイトグリントの入学面接(表)』

 どうにも私が他の皆と違うのは毛色(しろげ)だけじゃないらしい、と気づいたのはまだ物心もつかないような幼い頃だった。

 

 それほど昔の記憶だから、諸々がおぼろげになってしまっているけれど――あの時の()()()()を見るように私を見る皆の目だけは、今でもはっきりと覚えている。

 

 当時住んでいた場所の地元のウマ娘達と一緒にかけっこか何かをして遊んでいたのだけれど、そこで私は張り切りすぎて全力疾走のまま盛大に電柱にぶつかってしまったのだ。

 

 傷が残るような大怪我ではないのが残念だったが、鼻から勢いよく血が垂れ流れていたから多分折れていたのだろう。そんな私に気づいた地元のウマ娘達は顔面を真っ青にしながら私の身を案じてくれた。

 

『グリントちゃんだいじょうぶ!?』

 

『わたし、おとなのひとよんでくる!』

 

『ああ……ちがこんなに』

 

『いたそうだよぉ……かわいそう……』

 

 そんな風に彼女達が何を心配してくれていたのかが自然と理解できるようになったのは、一般常識というものを覚えた後のこと。

 当時の私には、それが特定個人だけの異質な感覚だなんてわからなかった。

 

『……みんな、なんでそんなにあわててるの?』

 

『え?』

 

『わたしいま、とっても()()()()()のに』

 

 だって皆も、怪我をしたら嬉しいでしょう?

 痛みって――こんなにも痛気持ち(ここち)良いんだから。

 

 そう言って、鼻血まみれで()()()()()()()()()()()()()()()()()、彼女達の目にはさぞや不気味な存在(いきもの)に映ったことだろう。あれ以来彼女達から遊びに一切誘って貰えなかったどころか完全に避けられたのも残念ながらさもありなん。

 

 

 

 遅ればせながら自己紹介をしよう。

 

 私の名前は『ホワイトグリント』。

 

 肉体的苦痛が快楽にしか感じないという摩訶不思議な(さが)を持ってこの世に生まれてしまった、奇妙な白毛のウマ娘だ。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 私は寡黙がすぎる上に喋ったところで言葉が足りない、と地元で唯一の友――友? 友達なのかなぁ、友達だといいなぁ……と勝手に思っているウマ娘によく忠告されているが別に話すのが嫌いなわけじゃない。

 

 上記で語ったように私は自覚あれども自分でもどうしようもない程の()()なウマ娘であるがゆえに、変なことを口にして周りから白い目で見られたくないのだ。1人でいるのはむしろ気楽だけれど、孤独(ひとり)になるのが怖い。

 

 それは多少なりともあの日の出来事がトラウマに近いものになっているのだろう。肉体的苦痛が大好物でも精神的苦痛はそこまで好きなわけでもないし……まあ嫌いとも言えないのがつくづく(マゾ)なのだが。

 

 そんなこんなで幼少の頃からできるだけ他人と会話も触れ合いも避けてひたすらハードトレーニング(気持ちいいこと)に明け暮れてきたものだから、私はすこぶるコミュニケーションが下手だし苦手。家族以外とまともな会話をしたのが、なぜか向こうから構ってくれる唯一の友以外ここ数年まるっと思い出せないほどである。

 

 表情は(きもちよ)さを感じる時だけ思わず笑顔になってしまうオート機能だけがかろうじて生き残ったぽんこつと化しているレベルで動かない。私事(わたくしごと)ながらよくそんなコミュ力で全寮制のトレセン学園に入ろうとしたものだ……穴があったら埋め戻してまた掘って埋め戻すを無駄に繰り返したい。体が悲鳴を上げるまで無限に。

 

 相手の気持ちを(おもんばか)ることがうまく出来ないし自分の気持を他人に伝えることだって上手くいかない私がどれだけコミュニケーション下手かというと『おはよう、今日は暑いね』という風に挨拶をされたとして『おはよう』と返せてもそこから続けられるグッドな返答が思いつかない程である。

 

 『こんな暑い日は水分を断って熱中症寸前になるまでマラソンしたいよね』なんて言ったらきっと多分引かれるでしょう? それもドン引きで。急募・私とマゾトークで盛り上がれるウマ娘or一般的な会話術を教えてくれるウマ娘(時給1000マニー)。

 

 しかしながらウマ生というものは、いやおそらく人であったとしてもそうなのだろうけど一切のコミュニケーションを取らずに生きていくことは不可能だ。

 

 ウマも人も皆が支え合って暮らしているのが社会というものだ。この国に住まう一市民として最低限の社会性を持つことは義務である。苦手だろうが嫌いだろうがやらなければいけない時はやるしかない。

 

 ――だって、こんなダメダメの私にも2つの目標(ゆめ)があるのだから。

 

 一つは中央トレセン学園に入って、昔はトレーナー業をやっていたという子供の頃私を鍛えてくれた大好きな()()()()()()の為に三冠ウマ娘(トリプルティアラ)になる事。

 

 もう一つはウマ娘に必要な物すべてが揃っているという日本最大級の施設を利用して、本気(ガチ)で死ぬくらいのトレーニング(気持ちいいこと)を思いっきり堪能する事!

 

 それを叶えるためにはまず、眼前に並び立つ並々ならぬ面接官に示さなければならない。私、ホワイトグリントは中央トレセン学園に入学するに相応しいウマ娘であるということを!

 

 

 そう現在の私は入学テストの実技・筆記を共に終えて最後の関門である面接の渦中であった。

 

 

 実技と筆記は問題なくやれたと自己採点で花丸を押せるのだけれど、こと苦手なジャンルである面接となると、いやはや体は牝ゴリラ、中身はズブウマと唯一の友に断言される私でも中々緊張するものである。

 

 なにせ目の前には日本ウマ娘界の伝説――『Eclipse first, the rest nowhere.(唯一抜きん出て並ぶものなし)』に最も近いと称される七冠ウマ娘“皇帝”シンボリルドルフを筆頭に、幼い見た目とは裏腹に数々の優れた手腕で学園と競バ界を牽引する理事長秋川やよいなどトレセン学園の著名人達がずらりと並んでいるのだから。

 

 いやーさすがの中央トレセン学園となると面接一つ取ってみてもこれほど本腰を入れるものなのか、と感嘆するばかりだ。いくら生徒会長とはいえ生徒であるはずのシンボリルドルフまで入学試験を担当しているのは些か妙な話ではあると思うのだが多分そういうものなのだろう、きっと。

 

 数々の瞳から刺すような視線でじっと見つめているこの状況、普段ならまともに呂律が回らなくなって気持ちよくなってもおかしくない程の威圧感だが、実をいうと無礼さえなければ実はあっさり面接はクリアできるに違いない、という魂胆が私にはあったのでなんとか平常心を保てている。

 

 なぜなら私は推薦を受けて入学試験に挑んでいるからだ。

 

 それも誰に入学を推薦されたかというと知名度でいえばシンボリルドルフを超えると言われた日本屈指のアイドルウマ娘“芦毛の怪物(シンデレラグレイ)オグリキャップ”さんである!

 

 なぜ私がオグリキャップさんに入学を推薦される程の面識があるのはまた別の機会に語るとするが、とにかくあのオグリキャップさんの推薦であるからには面接のハードルが跨いで通れるくらいには下がっているのが道理のはずだよね。

 

 トレーナーや生徒といった立場の個人推薦というのは下手をすれば学園の縁故採用の温床になりかねないので実はそれほど効力のあるものではないんじゃないか? と唯一の友にも言われたが、いやでもあのオグリキャップさんだよ? 日本一のアイドルウマ娘だよ? 学園だって考慮せざるを得ないはず……おそらく。

 

 そんな理由もあって私は比較的すらすらと面接官達の質疑応答に答えることができていたのだが――。

 

「一つ、いいだろうか。君は……()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 というルドルフさんの質問で少し、固まる。

 どうにも私の普段のトレーニングというのは誰がどうみても明らかにオーバーワーク(異様)に映るらしく、まぁ()()()()のに結構苦労するんだよね。多分、前の学校からの履歴書とかにもその旨が書かれているのだろう。

 

 基本的に私は自分を鍛えたいから激しいトレーニングをしているわけではなく――いや、勿論レースには勝ちたいのでハードに鍛えているのも間違ってはいないのだけれど、正直本命は痛気持(ここち)良いから自分を徹底的に痛めつけるようにしているだけなのだ。

 

 トレーニングという体であればどれだけ自分を痛めつけても他人からは()()()()()()()()()合法的行為なのだから。これを正直に暴露したらまたあの日のように異質なものを見るような目で見られて、疎外されてしまうだろう。

 

 その辛さは――気持ちよくない

 

 一人で居ることは気にならないが独りになることは避けたい。元来ウマ娘というのは群れの中で生きる性質を持った生き物だと授業で学んだ。私だって特殊な性癖を持っていてもただの一人のウマ娘なのだ。

 

 であれば、ここは前もって考えていたテンプレート(誤魔化し方)で行くのがベストの選択だろう。

 

三冠(トリプルティアラ)を勝ち取って、証明する為に」

 

「――ほう?」

 

「決して()()()()()()()()()()()()()()()()()という、証を立てます」

 

 とても優しくて格好いい大好きな私のおじいちゃん。必要なこと以外はあまり語ろうとしない物静かな人だったけど、一度だけその優しい目で私を見ながらおじいちゃんはこう呟いた。『俺はな、トレセンに居た頃トリプルティアラを制覇するウマ娘を育てるのが夢だったんだ』って。

 

 だから、おじいちゃんの夢であるトリプルティアラを私は勝ちたい。その為に強くて早いウマ娘になりたいという思いが勿論あるので決して嘘ではない。

 

 そして何よりおじいちゃんの教育は、私にとってまるで夢心地のように安らげる一時だったのだけれど周りから見れば些か()()()()()らしく、ある日を境に私達は離れ離れにされてしまったのだ。

 

 おじいちゃんの現在の行方すら、私は教えられていない。

 

 酷い話だと思わないだろうか? おじいちゃんは私が憎かったわけじゃない。純粋に私の将来を思って強くしたいからこそ厳しく指導してくれていただけなのに!

 

 だから私は勝って証明するのだ。おじいちゃんのやり方は少なくとも私にとって正しかった(ごほうび)と。私が三冠ウマ娘になれば不当に貶められたおじいちゃんの名誉を回復させることができるだろう。

 

 ……のだが、あれれ? どうにも反応がよろしくないぞ?

 

 祖父の為に頑張るなんてなんておじいちゃん思いの良い子なんだ! 入学許可! と想定していたのだが…ルドルフさんなんて眉間に皺を寄せて目を閉じているし、理事長なんてなんか可哀想なものを見るような目で涙目になっている気がするし、悲痛な面持ちで沈んでいる面接官もちらほら。

 

 ……これは、やってしまったか!? なんか変なこと言ったか私!? 言ってなくない!? 私何か間違えたかなぁ!?

 

 ――その後、なんとか失言を挽回しようと努力をしたけれど、なんだが重苦しい雰囲気のまま面接は終わってしまった。

 

 面接室をでてからすかさず頭を抱える。嘘でしょ……ごめんなさいオグリさん……せっかく推薦してくれたのにまさかの面接で落ちたかも……。

 

 実技と筆記はかなり手応えがあったのだが、そこでカバーできていない限り駄目なような気がする!

 

 私の前途は実に多難である。

 

 その多難すらどうにも()()()()()感じてしまっているのだから、私はもうウマ娘というより実に救いがたいただのマゾ娘であった。




次回、面接試験の舞台裏(勘違いパート)
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