己を徹底的に痛めつけるのが大好きな超絶ドMウマ娘は周りから世界一の努力家と勘違いされている 作:座敷猫いおり
どうにも私が他の皆と違うのは
それほど昔の記憶だから、諸々がおぼろげになってしまっているけれど――あの時の
当時住んでいた場所の地元のウマ娘達と一緒にかけっこか何かをして遊んでいたのだけれど、そこで私は張り切りすぎて全力疾走のまま盛大に電柱にぶつかってしまったのだ。
傷が残るような大怪我ではないのが残念だったが、鼻から勢いよく血が垂れ流れていたから多分折れていたのだろう。そんな私に気づいた地元のウマ娘達は顔面を真っ青にしながら私の身を案じてくれた。
『グリントちゃんだいじょうぶ!?』
『わたし、おとなのひとよんでくる!』
『ああ……ちがこんなに』
『いたそうだよぉ……かわいそう……』
そんな風に彼女達が何を心配してくれていたのかが自然と理解できるようになったのは、一般常識というものを覚えた後のこと。
当時の私には、それが特定個人だけの異質な感覚だなんてわからなかった。
『……みんな、なんでそんなにあわててるの?』
『え?』
『わたしいま、とっても
だって皆も、怪我をしたら嬉しいでしょう?
痛みって――こんなにも
そう言って、鼻血まみれで
遅ればせながら自己紹介をしよう。
私の名前は『ホワイトグリント』。
肉体的苦痛が快楽にしか感じないという摩訶不思議な
◆◆◆
私は寡黙がすぎる上に喋ったところで言葉が足りない、と地元で唯一の友――友? 友達なのかなぁ、友達だといいなぁ……と勝手に思っているウマ娘によく忠告されているが別に話すのが嫌いなわけじゃない。
上記で語ったように私は自覚あれども自分でもどうしようもない程の
それは多少なりともあの日の出来事がトラウマに近いものになっているのだろう。肉体的苦痛が大好物でも精神的苦痛はそこまで好きなわけでもないし……まあ嫌いとも言えないのがつくづく
そんなこんなで幼少の頃からできるだけ他人と会話も触れ合いも避けてひたすら
表情は
相手の気持ちを
『こんな暑い日は水分を断って熱中症寸前になるまでマラソンしたいよね』なんて言ったらきっと多分引かれるでしょう? それもドン引きで。急募・私とマゾトークで盛り上がれるウマ娘or一般的な会話術を教えてくれるウマ娘(時給1000マニー)。
しかしながらウマ生というものは、いやおそらく人であったとしてもそうなのだろうけど一切のコミュニケーションを取らずに生きていくことは不可能だ。
ウマも人も皆が支え合って暮らしているのが社会というものだ。この国に住まう一市民として最低限の社会性を持つことは義務である。苦手だろうが嫌いだろうがやらなければいけない時はやるしかない。
――だって、こんなダメダメの私にも2つの
一つは中央トレセン学園に入って、昔はトレーナー業をやっていたという子供の頃私を鍛えてくれた大好きな
もう一つはウマ娘に必要な物すべてが揃っているという日本最大級の施設を利用して、
それを叶えるためにはまず、眼前に並び立つ並々ならぬ面接官に示さなければならない。私、ホワイトグリントは中央トレセン学園に入学するに相応しいウマ娘であるということを!
そう現在の私は入学テストの実技・筆記を共に終えて最後の関門である面接の渦中であった。
実技と筆記は問題なくやれたと自己採点で花丸を押せるのだけれど、こと苦手なジャンルである面接となると、いやはや体は牝ゴリラ、中身はズブウマと唯一の友に断言される私でも中々緊張するものである。
なにせ目の前には日本ウマ娘界の伝説――『
いやーさすがの中央トレセン学園となると面接一つ取ってみてもこれほど本腰を入れるものなのか、と感嘆するばかりだ。いくら生徒会長とはいえ生徒であるはずのシンボリルドルフまで入学試験を担当しているのは些か妙な話ではあると思うのだが多分そういうものなのだろう、きっと。
数々の瞳から刺すような視線でじっと見つめているこの状況、普段ならまともに呂律が回らなくなって気持ちよくなってもおかしくない程の威圧感だが、実をいうと無礼さえなければ実はあっさり面接はクリアできるに違いない、という魂胆が私にはあったのでなんとか平常心を保てている。
なぜなら私は推薦を受けて入学試験に挑んでいるからだ。
それも誰に入学を推薦されたかというと知名度でいえばシンボリルドルフを超えると言われた日本屈指のアイドルウマ娘“
なぜ私がオグリキャップさんに入学を推薦される程の面識があるのはまた別の機会に語るとするが、とにかくあのオグリキャップさんの推薦であるからには面接のハードルが跨いで通れるくらいには下がっているのが道理のはずだよね。
トレーナーや生徒といった立場の個人推薦というのは下手をすれば学園の縁故採用の温床になりかねないので実はそれほど効力のあるものではないんじゃないか? と唯一の友にも言われたが、いやでもあのオグリキャップさんだよ? 日本一のアイドルウマ娘だよ? 学園だって考慮せざるを得ないはず……おそらく。
そんな理由もあって私は比較的すらすらと面接官達の質疑応答に答えることができていたのだが――。
「一つ、いいだろうか。君は……
というルドルフさんの質問で少し、固まる。
どうにも私の普段のトレーニングというのは誰がどうみても明らかに
基本的に私は自分を鍛えたいから激しいトレーニングをしているわけではなく――いや、勿論レースには勝ちたいのでハードに鍛えているのも間違ってはいないのだけれど、正直本命は
トレーニングという体であればどれだけ自分を痛めつけても他人からは
その辛さは――気持ちよくない。
一人で居ることは気にならないが独りになることは避けたい。元来ウマ娘というのは群れの中で生きる性質を持った生き物だと授業で学んだ。私だって特殊な性癖を持っていてもただの一人のウマ娘なのだ。
であれば、ここは前もって考えていた
「
「――ほう?」
「決して
とても優しくて格好いい大好きな私のおじいちゃん。必要なこと以外はあまり語ろうとしない物静かな人だったけど、一度だけその優しい目で私を見ながらおじいちゃんはこう呟いた。『俺はな、トレセンに居た頃トリプルティアラを制覇するウマ娘を育てるのが夢だったんだ』って。
だから、おじいちゃんの夢であるトリプルティアラを私は勝ちたい。その為に強くて早いウマ娘になりたいという思いが勿論あるので決して嘘ではない。
そして何よりおじいちゃんの教育は、私にとってまるで夢心地のように安らげる一時だったのだけれど周りから見れば些か
おじいちゃんの現在の行方すら、私は教えられていない。
酷い話だと思わないだろうか? おじいちゃんは私が憎かったわけじゃない。純粋に私の将来を思って強くしたいからこそ厳しく指導してくれていただけなのに!
だから私は勝って証明するのだ。おじいちゃんのやり方は少なくとも私にとって
……のだが、あれれ? どうにも反応がよろしくないぞ?
祖父の為に頑張るなんてなんておじいちゃん思いの良い子なんだ! 入学許可! と想定していたのだが…ルドルフさんなんて眉間に皺を寄せて目を閉じているし、理事長なんてなんか可哀想なものを見るような目で涙目になっている気がするし、悲痛な面持ちで沈んでいる面接官もちらほら。
……これは、やってしまったか!? なんか変なこと言ったか私!? 言ってなくない!? 私何か間違えたかなぁ!?
――その後、なんとか失言を挽回しようと努力をしたけれど、なんだが重苦しい雰囲気のまま面接は終わってしまった。
面接室をでてからすかさず頭を抱える。嘘でしょ……ごめんなさいオグリさん……せっかく推薦してくれたのにまさかの面接で落ちたかも……。
実技と筆記はかなり手応えがあったのだが、そこでカバーできていない限り駄目なような気がする!
私の前途は実に多難である。
その多難すらどうにも
次回、面接試験の