己を徹底的に痛めつけるのが大好きな超絶ドMウマ娘は周りから世界一の努力家と勘違いされている 作:座敷猫いおり
永遠の生徒会長七冠ウマ娘シンボリルドルフは、先ほどまでの歓天喜地*1、幸福な記憶を生徒会室でにこやかな表情で噛み締めていた。
全てのウマ娘達の幸福を切に願う公明正大なシンボリルドルフ、しかし彼女は機械でもなければロボットでもない。上に立つ者として生徒会長として、平等であろう公正でいよう――そう己に厳しく努めていてもやはり好意を抱く相手に特別目をかけてしまうのは人として仕方がない。それが
『ボクね! この前の学年速力テストでまた一番だったんだー!』
『本当!? やっぱりテイオーちゃんは凄いなぁ……!』
『ボクは無敵のテイオー様だからね!』
突然ボク達カイチョーとお茶会がしたい! という今年入学して来たトウカイテイオーとその一つ上の生徒であるツルマルツヨシに「ダメ~?」「駄目でしょうか……」と上目遣いでおねだりをされれば彼女達にすこぶる甘いルドルフである。公正と公平を重んじつつ「仕方ないな、今回だけだぞ?」と9月現在今年4日ぶり38回目の念を押して、生徒会室で食後のお茶会を開いていた。
生徒会の両翼たる副会長の二名は気を利かせてくれたのであろうか別の用事がある、と生徒会室を後にしていたので今やルドルフ達だけの貸し切りだ。ナリタブライアン辺りはただサボりたかっただけなのかも知れないが。
『うぅ……同期の皆がどんどんメイクデビューを始めてるのに、私は全然目処も経ってない体たらくで……駄目駄目だぁ……』
『他人と自分を過度に比べる必要はないさ。焦る気持ちは無論分かるが、虚心坦懐*2――まずはしっかりと身体を作り実力を付けるのが肝心だ』
『うんうん! カイチョーの言う通り! ボクにはボクの! カイチョーにはカイチョーの! ツルちゃんにはツルちゃんの道ってのがあるもんね! それに、ツルちゃんは全然駄目じゃない! ボクはツルちゃんを凄いって思ってるんだ!』
『えっ?』
『ツルちゃんは通院もしなくちゃ駄目だから、他の子より勉強も練習も時間が少なくなっちゃうしトレーニング制限も掛かっちゃうのにさ、ツルちゃんはそれで仕方ないとかハンデがあるからとか、そういう言い訳を一言だってしないじゃん! いっつも真剣に頑張ってる! ボクはね、そういうカイチョーの次くらいにカッコいいツルちゃんが大好きなんだ! だからさ、自信持って!』
『テイオーちゃん……! ありがとう! 私も会長の次くらいに誰よりもピカピカ輝いてる格好いいテイオーちゃんが大好き!』
えへへーやっぱり一番格好いいのは会長だよねー! と笑い合うテイオーとツヨシを見て、仏のようなアルカイックスマイルを浮かべるルドルフはしかし内心あまりの尊さにあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙という言葉にならない歓喜の雄叫びをあげるくらい限界寸前である。ルドルフが七冠ウマ娘だから耐えられた。六冠ウマ娘だったらとても耐えられなかった。
愛らしい2人が仲睦まじくしている姿を眺めているだけでも大慶至極*3という言葉そのものが具現化されたかの様な、あるいは人々がなぜこの世に生まれ落ち生きていかなければならないのかその理由の真理であり真髄の一端を垣間見た気持ちなのに、シンボリルドルフが一番格好いい、などと言われた日には永寿嘉福*4をひたすらに願い君子万年*5って本当なんだな今まで頑張って来てよかったと人生が報われるようだ。
あと3年、いやせめてこの子達が中央レースを引退するその日まで生徒会長として見守り続けようと誓いながら思わずルドルフは両腕でテイオーとツヨシの頭を優しく撫でると、2人は顔を赤らめつつもとても幸せそうな素敵な笑顔を浮かべるのでルドルフは無事尊死し今はまだ私にしか効果はないがその内全ウマ娘の繋靭帯炎に効くようになると確信した。
――という出来事があって、お茶会が終わってテイオー達が戻っていった後もルドルフは生徒会室に居る。自然とニヤついてしまう顔が戻らないから、迂闊に外にも出れない。トレセン学園生徒の模範になるべき存在がこれでは示しがつかないだろう――というのもあったし単純に至福の余韻に浸りたかったのだ。
だが、その余韻は――突如現れた“
「ど、どうしたオグリ!? 泣いているのか!?」
あの気丈な――というよりは天然なだけだろうが、あのオグリキャップが泣いている。シンボリルドルフとオグリキャップはもはやお互い相手の為なら首を刎ねられたって構わない
「ルドルフ……グリントが、グリントが……!」
「っ!? 彼女の身に何かあったのか!? まさかメイクデビューの傷が!? それとも……!」
「好きな人ができたってぇ!!!」
「――っ!!! …………???????」
■■■
「タマモクロスには緑茶を」
「いやぁ助かるわぁルドルフ。うちは紅茶は飲み慣れへんでなぁ」
「紅茶も良いものだぞ? 今度君には、紅茶の入門に丁度良い銘柄を御馳走したいな。それはそれとして……オグリはどうしたんだ……?」
メソメソと泣き続けるオグリキャップを訝しげに見つめるルドルフに、タマモクロスは「はぁ~」っとため息をついて理由を語り始める。
「さっきオグリが言った通りや。グリントに好きな子ができたらしいんねん。それを聞いて以来この有り様や」
「……いや、それは……良いことなんじゃないか……?」
「せやろ? あの子もあの子で他人とのコミュニケーションとか、そういうのを拒否したり疎かにしてるわけでもないんやけど、基本トレーニングトレーニングそしてトレーニングの毎日やん、立派やけどな? うちは安心したんや、感情表現が苦手なあの子にもちゃーんと誰かを好きになったり、それで照れたり恥ずかしがったりするって事があるのがわかったんやから――青春ってええもんやなぁ」
「そうだな……彼女は――ここに来るまで
ホワイトグリントはかつて祖父に虐待され過度なハードトレーニングを行う様になった――と勘違いしているルドルフは、トレセン学園での生活によってまともな人間性を取り戻しつつあるのだろうホワイトグリントの様子に心から安堵する。
「君もやるべきは泣くことではなく笑顔で祝福する事だと思うがオグリ?」
「そんなことはわかっている! 私だってグリントに好きな人が増えるのは喜ばしい! いずれ好きな人と一緒になって幸せな家庭を作って欲しいとさえ願ってる! でも、でも……! やっぱり嫌だ! グリントに私以外の好きな人ができるなんて……! できればあと5年は! いや……せめて10年くらいグリントの一番を独占したい! 一緒に居たいいいいいぃ……!!!」
「……」
いや、グリントに他に一番好きな人が出来ても別に一緒にいれるやろ……しかも多分あの子がオグリの事を大好きなのは間違いはないけどそういう家族的なカテゴリやと一番は
「ふぅー……以前にも言ったが君はいくらなんでもグリントに入れ込みすぎだぞオグリ?」
「ルドルフだって気持ちはわかると言ったじゃないか!」
「わかると言ったのは目をかける後輩を可愛がりたくなる気持ちだ。私は君ほど独占欲は強くはないし可視化できる物でもなければ数値化できる物でもない好意的な意味の一番に拘ってもいない」
「かー! さすがトレセン学園が誇るうちらの偉大な生徒会長や! 常識があるってこんなにもありがたい事なんやな……もっと言うたってくれ」
「ホワイトグリントが大事だからこそ、一足下がって視野を広げ、節度ある関係性の構築をだな――」
「
赤鬼が泣いているかのような表情のオグリキャップはルドルフの言葉を遮りキッと睨みつけた。
「いつか……君が可愛がる後輩達が、君より大切な人だと、誰かを連れて来る日の事を。それで君は本当に何も感じないんだな? 辛くなったりしないんだな?」
「ふむ?」
「あんなオグリ……普通、そんな想像でショック受けたりダメージ受けたりするわけないやろ……」
タマモクロスの言葉にそれはそうだと頷いて同意するルドルフ。そもそも仮に恋人だとか大切な人だと紹介されたって寧ろ、ああ私はそういう人達を紹介して貰えるくらい彼女達の心の中で大切なポジションに置いて貰えているんだなと嬉しくなるだけだろう。そう、例えばそれがトウカイテイオーとツルマルツヨシであったところで――。
『カイチョー! 紹介するね! この人はボクが会長よりも大好きで格好いいって思う大切な人なんだ! 今まで目をかけてくれてありがとう! これからはカイチョーと一緒に居られる時間も減っちゃうけど、幸せになるから!』
『ルドルフ会長! 私……会長よりも大好きで格好いい恋人が出来たんです! 今まで貴重な時間を私に使ってくれてありがとうございました! もう会長に頼らなくても大丈夫! ツヨシ、幸せになります!』
「オ゛ェ゛ッ゛」
「嘘やろルドルフ!? 吐くほどか!? お前らの情緒どうなっとんねん!? お前らどういうポジションから後輩を見守っとったらそうなるんや!? なぁ!?」
■■■
「あれだな。中等部で色恋でどうこうなるのは、確かに早すぎるんじゃないかなと――なあオグリ」
「そうだなルドルフ。勿論駄目だというつもりもないし、妨害とか酷い事をする気もないが、健全な付き合いをして欲しい」
「そもそもいつから付き合うとか付き合わないって話になったんや……発想が飛躍しすぎやろ……」
もはやツッコミ疲れてぐでっと生徒会室のソファーにもたれかかるタマモクロスがボヤくが、“魂”に意識が引っ張られ意気投合しつつある2人には文字通りバ耳東風である。
「ちなみにそのグリントの好きな人は誰なんだ? 聞いているのか?」
「いや、恥ずかしいからと、名前までは教えてくれなかった」
「ふふっ、初々しくて可愛らしいじゃないか」
「まあグリントは初々しくなくても可愛いんだがな……ついにそういう年頃になったのかと思うと、寂しくもある……」
「わかる」
「わかんな。もう会話が女子学生のそれやないやろこれ。世帯持ったおっちゃんの寄り合いとかやん」
「ただ一つだけヒントをくれたんだ。相手は黒鹿毛のウマ娘らしい」
「異性ではなく
ルドルフは異性や同性関係なくモテるしなぁ、まあそれはオグリもやけど、とタマモクロスは独り言ちて、発言を続けた。
「しかし、グリントの友好関係の狭さやともう黒鹿毛ってだけでほぼ答えやんな」
他者との付き合いに奥手であるホワイトグリントの友好関係は決して広くはない。食事中などにそれなりに会話していると、グリントが話題に出すウマ娘などほとんど片手で数えられてしまうような人数しかいないのだ。
「そうだな――そういえば、彼女とはあまり話した事がなかった……ルドルフのお陰で落ち着けたし、いい機会だし親睦を深めてみようと思う」
「えぇ……大丈夫なんかオグリ……? うち付いてこか?」
「大丈夫だ問題ない。タマはグリントを見てやっていてくれ」
不安しかない、とタマモクロスは何だか無性に嫌な予感がした。
「もう目星はついているという事か」
「ああ」
ホワイトグリントと友好があって、その中で好意を感じていて、かつ黒鹿毛とくれば――。
「行ってくる。エルコンドルパサーの元へ」
この世界における運命的なウマソウルを持つウマ娘の親バカ率は実に100%を超えている。
あけましておめでとうございます。