己を徹底的に痛めつけるのが大好きな超絶ドMウマ娘は周りから世界一の努力家と勘違いされている   作:座敷猫いおり

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三話『ホワイトグリントとオグリキャップ(表)』

 結局の所、物事が想定通りに上手く運んで掴んだ成功よりも何かしら致命的失敗をやらかしたと落ち込んでいたら実は成功していましたというどんでん返しの方が感情の揺れ幅が大きい分、尚更嬉しいのだと思う。

 

 こんな地味なトレーニングで本当に(きもちよ)くなれるのか? と疑って試してみたら実ははめちゃくちゃ痛くて気持ちよかった的な。えっ例え話がよくわからない? そうかまだわからないかこの領域(レベル)の話は。

 

 まあとにかく、私が何を言いたいのかといえば――完全に落ちたと思っていた中央トレセン学園から届いた合格通知書によって私のテンションは今最高潮だということだ。

 

 いやっっったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!! おじいちゃん! オグリさん! お母さんお父さん唯一の友! 私はやったよ!

 

 夢ではないかと自分の頬を思いっきり引っ張ったら気持ちよかったから夢じゃない。ウイニングライブにそこまで興味のない私ですら思わず通知書を握り締めてうまぴょい伝説を踊ってしまう程の嬉しさだった。まあ無表情だっただろうからかなり不気味だったかも知れないが。

 

 完全に面接でやらかしたと思っていたからな……実技が評価されたのだろうか? 筆記は可もなく不可もなくだったし……それともやはりオグリさんの推薦のお力か? ともすれば私は一生涯オグリさんに足を向けて寝れないな。もともと足を向ける気もないけれど。

 

 それにつけてもオグリさん。そう、オグリキャップさんだ。

 

 オグリさん程の大スターがなんで私のような取るに足らないウマ娘をここまで気にかけてくれるんだろう。確かにオグリさんと初めて出会った()()()から、私の方は生まれて初めて背筋に電流が走ったかのような運命的な何かを感じ続けているのは事実だが……。

 

 早速オグリさんに合格の報告とお礼をスマホのチャットアプリに書き込みながら、私は思い出していた。

 

 そう、あれは景色も吐息も私の白毛(しろげ)毛色のような季節の訪れを伺わせる寒空の下――でハードトレーニングが祟って痛気持ちよくなりすぎ意識が朦朧としていた時のこと――。

 

 

 ■■■

 

 

 お父さんの匂いがする。

 

 薄れる意識の中で感じたのは私の体を支える誰かの暖かさ……そして、どこか懐かしいような父親の香りだった。

 

 私のお父さんは大きい商社で働いていて日本中はおろか世界を飛び回ってとても忙しく、今は年に数回会えれば多い方という有様だ。だけど私の誕生日だとかクリスマスだとか正月だとか、記念日には忙しい合間を縫って帰ってきてくれたりそれが叶わないなら必ずプレゼントや電話をくれたから十分愛されている実感はできたけどそれでも少し寂しいのが本音だった。

 

 そんなお父さんが、今そこにいるのだろうか? 疑問に思いながら重い瞼を開けると――。

 

「大丈夫か?」

 

 心配そうに、しかしとてもとても優しい目で私を見つめる、綺麗な芦毛のウマ娘がいた。

 

 突然だが、ウマ娘は総じて()()というものを信じる者が多いらしい。赤い糸だとか、前世からの繋がりだとか……ウマ娘がそういう壮大な因果的何かを感じるのは、未だ世界で目下研究中の“ウマソウル”に関係しているという学者もいる。

 

 私はどちらかと言えば運命なんて信じていなかった。理由は単純で運命を感じるような相手にも出来事にも出会ったことがなかったからだ。それに出会いも別れも運命で決まっているならつまらないじゃないかって――。

 

 私は心の中で目にも留まらぬ速さで手の平を返し運命論者のウマ娘達に頭を下げる。

 

 ごめんなさい。運命はありまぁす!

 

 そう一瞬で心変わりしてしまうほどに私は目の前の芦毛のウマ娘……否、日本一のアイドルウマ娘“オグリキャップ”に対して、運命レベルの何かを感じてしまったのだから。

 

「……大丈夫です。ありがとう、お父さん」

 

 ――ぁ。

 

 それは出会ったというよりは倒れそうになっている所を助けられた上に相手をお父さんと呼び間違えるという羞恥心(きもちよさ)で実に死にたくなるようなファーストコンタクトであった。

 

 

 

 しかしその出会いは実のところ運命でも偶然でもなんでもなくて、オグリさんの目的は最初から私に会うことだったらしい。

 

 六平さん、という昔オグリさんが中央に移籍してお世話になっていたトレーナーの方がどうも私のおじいちゃんの知り合いだったようで、私の様子を見に行って欲しいと頼まれた――とのこと。

 

 いやはや、今はトゥインクルシリーズから引退して多少は時間の余暇があるのかも知れないけれど、それにしたって元トレーナーに頼まれただけでよく私ごときに会う為に、観光名所も名産品も何もないような田舎へオグリさんのようなスーパーアイドルウマ娘が足を運んでくれたものだ。

 

 けれどオグリさんみたいな凄いウマ娘を担当するトレーナーさんが知り合いなんて、やっぱりおじいちゃんは凄いトレーナーだったのだろうなぁ。中央でトレーナーをやっていた時の話は聞いてもほとんど答えてくれなかったから、おじいちゃんが現役の頃の話はあまり知らないんだよね……いずれぜひその六平さんという人におじいちゃんの話を聞かせて貰いに行きたいものだ。

 

 ちなみにこうして私と出会ったことによってオグリさんの目的はレコードタイムで達成されたはずだったのだが、何故かオグリさんはその後私の練習をつきっきりで見てくれた。なぜに…?

 

 ただでさえ私のような者に会い来てくださったというお手数をかけているのにその上練習も見てもらうなんていくら私が無表情鉄仮面ドMウマ娘でも遠慮という言葉くらい知っている。けれどもだ、日本一のアイドルウマ娘との併せという甘美な役得にいったい誰が抗えようか――いや、もっともらしい理屈をつけて言い訳するのは止めよう。

 

 私はオグリさんともう少し一緒に居たかっただけだ。

 

 人付き合いもコミュニュケーションも苦手な私が、おじいちゃんや家族以外の相手にこんな気持ちになるなんて自分自身で驚いている。

 

 運命の出会いって、本当にあるんだな。そんなこんなで私とオグリさんは一緒にトレーニングをしていたのだが――。

 

 オグリさんの走りを見るのが嬉しかった。

 私の走りを見て貰えるのが楽しかった。 

 オグリさんと一緒に併せるの気持ち良すぎでしょ!

 

 心が――いや“魂”が満たされていくみたい。痛みによる気持ちよさと比べたってそりゃオグリさんと居る方が……いや……でもオグリさんと一緒に居るのが布団乾燥機でふかふかになったベッドで眠るような居心地の良さだとしたら、痛みという快楽で満たされるのは大好物の美味しい料理をお腹いっぱいに頬張る気持ちよさというか……ごにょごにょ……まあとにかく楽しかった!

 

 けれども、だ。オグリさんが本当に優しいウマ娘だからこそ相容れなかった出来事が1つ――。

 

 オグリさん、私の“生き甲斐(ハードトレーニング)”を止めようとしてくる……!

 

 普段どんなトレーニングをしているんだ? と聞かれたからある程度内容を話したら顔を真っ青にして「そんなことを毎日やってるのか!? ターフを走る前に身体が壊れてしまうぞ! まさかあの時倒れそうになってたのも……!」って。

 

 うーむ……これでもおじいちゃんと一緒にトレーニングしていた頃よりは()()()()()ようなトレーニングしてないんだけどなぁ……おじいちゃんが見ていてくれたからいくらでも安心して無茶できた時と違って今は一人でやってるから下手すると本当に死んじゃうし……。

 

 私はドMだが別に死にたくはない。死を迎える程の致命傷(きもちよさ)というものに興味がないわけじゃないのは事実だけれど。死んだらこれから先の人生で沢山出会えるはずの痛みと苦痛というご褒美に出会えないじゃない? それはあまりにももったいない。

 

 けれどもだ。オグリさんと同じくらい心配してくれているはずのお母さんでもお父さんでも唯一の友でもなく――オグリさんにだけは、出会ったばかりのはずのこの芦毛のウマ娘にだけは誤魔化し(・・・・)たくなかった。

 

 痛いことが好き(ほんとうのわたし)を……伝えるべきだと、思ってしまったから。

 

 あるいは本当に運命というもので私とオグリさんが繋がっているのなら、きっと納得してくれる。

 

 だから私は――。

 

「痛くないと、意味が無いんです」

 

 おじいちゃんにしか話してない私の秘密を。

 

「苦しくないと、意味が無いんです」

 

 私はオグリさんの綺麗な青い瞳をしかと見据えて……打ち明けることにした。

 

「だって私は……そうじゃなきゃ、満たされないから――!」

 

 ――ああ、言ってしまった。オグリさんだって出会って少し一緒にトレーニングしただけの相手にそんな性癖(セクシャリティ)暴露されても困るだけろうに。

 

 私のそんな告白にオグリさんは目を白黒させて、しばらく考え込んだあと悲しい目をしながら私に問う。

 

「……それは、自分を()()()()()()気がすまないということ、か」

 

 こくり、と私は頷く。私を見透かしたかのようなその言葉はさすがはオグリさんだ……自分を罰するように鞭打つようなトレーニングじゃなきゃ……気持ちよくなんてなれないから。

 

「だが……それは()()()()()んじゃ……」

 

 がつん、と心にハンマーを叩き込まれたような気分になった。必死に零れそうになる涙とオグリさんに気味悪がられているという事実に恐怖と悲しみとちょっとの気持ちよさが渦巻きそうになる心中を落ち着けて、震えそうな声を必死に絞り出す。

 

「……そうやって生きていくことしか私はできないんです」

 

 自分だってわかってる。あるいはこの体質がたとえ生まれついてのものであったとしても……親から貰った大事な身体なのに、それを己の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が。

 

「許せない」 

 

 脳を焼き焦がすようなドラッグの依存から抜け出せないジャンキーのようだ。情けないと思う。やるせないと思う。だけど……変えられない、それが私という(・・・・)ドMウマ娘だから。

 

 だから、私は――。

 

 

 ふと、私はオグリさんに抱きしめられていた。ぽたりぽたりと私の肩に溢れ落ちるものはオグリさんの涙だと理解するのにしばらくかかった。

 

「……たとえ、君が自分を許せなくても……私は……私が……君を許すよ」

 

 許された。

 

 許されてしまった。

 

 ――私は、あるいはおぎゃあとこの世に少し(・・)間違えて生まれてしまったその日から初めて――思いっきり、泣いた。

 

 

 ■■■

 

 

 うん、思い出しただけで顔が真っ赤になりそうだ。出会ってからオグリさんには恥ずかしい部分しか見せていない気がする。

 

 そんなこんなでその日以来、私とオグリさんの間に繋がりができて今に至るわけだ、まる。オグリさんは本当に律儀な方で、迷惑しかかけてない私に毎日のようにアプリや電話で連絡をくれるし、推薦のことだって、中央に来るんだろう? 中央に来るんだ中央以外許さないルドルフに推薦出しとくからな……といった具合である。

 

 オグリさんは優しさの化身か? おじいちゃんは真に強いウマ娘は皆総じて優しいものだ、と言っていたがオグリさん程の強いウマ娘であれば優しさも世界レベルだということなのかも知れないな……いやいっそ優しさの神とすらいえよう優しさと芦毛を司るオグリキャップ神である――あっ、返信が返ってきた。

 

『おめでとう。学園で君が来るのを心待ちにしてる』

 

 にへら、とその短いながらもシンプルで温かい返信にめったに動かないはずの顔がだらしなくなった気がする。おじいちゃん以外で初めて本当の私を知ってくれて、なぜかお父さんみたいな匂いがして、誰よりも優しくて、そして私を肯定してくれたウマ娘――オグリキャップ。

 

 ああ明日すらがまだかまだかと愛おしい。はやくトレセン学園に入りたい。

 

 オグリさんの返事をもう一度だけ眺めて、心からの感謝を心の中で告げる。

 

 オグリさんのおかげで……まだ他の人には言う勇気はでないけど……胸を張って、特殊(ドM)な自分を肯定できそうです。

 

 本当にありがとう、オグリさん。




 ウマソウルが親子関係の子達がとても尊敬し合ってたり仲良くしてるのが本当に尊くて好き。
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