【短編集】五年の軌跡   作:黒マメファナ

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初回投稿日:2019.12.13
話数:60話(全ルート+特別編)
オリ主:白崎(しらさき)千紘(ちひろ)
メインキャラ:白鷺千聖、松原花音、丸山彩、パレオ、氷川紗夜
本編リンク:https://syosetu.org/novel/232858/







#8:なんとしてでも、推しは推しとして推したい! けどパンツは見たい! 

 俺はどうしようもないドルオタだ。自覚もあれば自虐もする気持ち悪いオタクだ。しかも認知されることに命を懸ける厄介だし、地方の仕事があるならおっかけるし、マウントは取るし受験生だろうがなんだろうが推し──白鷺千聖ちゃんのためならなんでもやる。そんなキモオタである俺には心の中で常にオタクたちに取り続けてるマウントがあった。

 ──君たちは推しのパンツを、見たことはあるだろうか。

 待ってほしい決して犯罪行為を働いたわけではない。この上なく合法的にそして不可抗力の末のパンツだ。というかアイドルのパンチラならアンスコだろうが見せパンだろうがスパッツだろうが興奮し、切り抜きGIFにしオナネタにするのがオタクだろうそうだろう? 

 

「まさかこの期に及んで言い訳だなんて、本当に見下げた心がけね──あなた、死にたいならそう言いなさい」

「……すみません、興奮しました」

「それは、性的な意味で?」

「違います」

 

 そんなある意味ではキモオタの鑑とも言えなくもないし、そうでないかもしれないよくわからない俺は、とある女性の前で正座をしていた。その女性は椅子に座り腕と脚を組んでまるでいつでも俺を踏めるんですよとばかりにブラウンのストッキングに包まれた足先をこちらに向けてくる。その先はもちろん、スカートだった。

 

「──反省していないようね、白崎(しらさき)千紘(ちひろ)くん?」

「は、反省ならもちろん、海よりも高く、山よりも深くしております」

「してないじゃない」

「逆でした」

 

 肩を踏まれ、俺はちょっとしたご褒美をもらってしまった気分になったのを追い払う。ダメだ、これじゃあ俺がどんどん危ない方面の変態になってる。既にパンツについて猛烈な弁論をした今、手遅れだと言えなくもないけど。ともかく改めて頭を日和山くらい低くしながら、目の前の恋人へ反省の意を示した。彼女が怒るのも無理はないが、怒りの論点は非常にズレているとツッコミを入れたいが、恐らく後が恐ろしいことになるので断念している。

 

「まさか……私じゃなくて彩ちゃんのパンツに興奮するなんて、信じられないわ」

「千聖ちゃんだったらいいんですか」

「見る?」

「見たいです──けど今はお説教中なのでご遠慮させていただきます」

「彩ちゃんのパンツは切り抜いてSNSに上げといてよく言うわね」

「どうしろと」

 

 原因は、とある生放送でのことだった。パスパレのサブスク限定のオンライントークイベントにて、イヴちゃん、日菜ちゃんの三人が出演、リーダー丸山彩の意外すぎる特技について紹介された。それがなんと──ハイキック。彼女は元々はトーク力意外の全てが抜きん出ているというスペシャルなアイドルではあるけど、それを支えていたのが過去に空手をやっていたということだった。

 

「カラテ! アヤさんすごいです!」

「あたしもおねーちゃんがやってたからちょっぴり柔道とか空手とかやってたなぁ、ねぇねぇ、まだそのハイキックできるの?」

「え、うん! できると思うよ」

「やってみせてよ!」

 

 そこで察しのいいオタクのみなさまは理解しただろうけど、この時の彩ちゃんの私服、ふつーにスカートだったんだよね。それでスタッフが止めることもせず固定のカメラの前で美しいハイキックを見せた結果、彩ちゃんのふわふわピンクがチラ見せすることになってしまったのだった。

 

「あれは彩ちゃんの危機管理不足、それを止めなかったむの……スタッフの落ち度よ、千紘は悪くないわ」

「で、ですよね」

「私が怒っているのは、その先、あなたが折角復活させたSNSでやったことよ」

 

 俺はそれを切り抜き、いい感じの場所でSNSにアップした。更に最近できたオタ仲間がGIFを上げ、それが万バズしたのだった。

 ──そして見事推し兼恋人、我らが女王、白鷺千聖さんにバレてこうなりましたと。よくよく考えると俺、弁護の余地なし死刑でよくないか? 

 

「そうね、死になさい」

「辛辣すぎる」

「アイドルとして、オタクのこの行動が気持ち悪くて死ねばいいと思うし、恋人として他の女のパンツで興奮するあなたを殺したくて仕方ないわ」

「殺意の波動が強すぎる……」

「言い訳はそれだけかしら?」

「許してくれるんですか」

「間違えたわ──遺言はそれでいいかしら?」

 

 わぁ死刑だ! どうあがいても絶望だ! だけど千聖さんの怒りは非常に正当なので、俺は今度こそ平謝りをする。なんなら現状正座をしているため、土下座である。踏んで許してもらえるならそれでいいと言ったテンションだ。

 千聖さんは俺を見下ろしつつ、嘆息する。こういうところも女王様の風格なんだけど言ったらまた不機嫌になりそうだ。

 

「それに」

「それに、なんです?」

「彩ちゃんも怒ってたわよ」

「なんで俺のアカウント知ってるんだ?」

「あなた、まだ自分が私以外から認知されてないと思っていないかしら?」

「……え、えぇ」

 

 困惑してしまう。いやでも当然かもしれない。彩ちゃん、丸山彩は幼馴染さん、松原花音と同じファストフード店でアルバイトしていたことから顔を合わせる回数も多くてプライベートでは呼び捨てにする程度に気安い仲で、日菜ちゃんは元々記憶力がめちゃくちゃ良い方だけど、イヴちゃん麻弥ちゃんなんてお渡し会とかでもほとんど行かないけど、メンバーのプライベートの知り合いなんだし、当然といえばそうなのかも。

 

「で、でもSNSは」

「彩ちゃんの趣味、忘れたのかしら?」

「エゴサ……あっ」

「そして一発であなただってバレてたわよ」

 

 そんなバカな、俺ってもしかしてネットリテラシーダメなのか? 赤特能ついてる? 頭を抱えてうずくまると、ついにその頭に千聖さんのお御足が、妙に優しく置かれた。しかも足ではあるが頭を撫でられてるような気がする。なにこれなんか興奮してきた。俺の性癖が目覚める音がしてしまっている。

 

「反省したかしら? あなた、以前のようにオタ活なんてできるわけないのよ」

「……そんな」

「後悔している?」

「それは、全然してない」

 

 千聖さんの言葉に、私と付き合うことになってという意味が加えられている気がした俺は咄嗟に否定する。SNSに不用意に彩ちゃんのパンツを上げたのはすごく後悔しているけど、それで千聖さんが、千聖が俺を好きだって言ってくれたことまで否定するのは違うと思う。そういう気持ち悪いムーブはもうやめようって、ちゃんと決めてるから。

 

「はぁ……仕方ないわね、許してあげるわよ」

「ち、千聖さん」

「今日は久しぶりに千紘とゆっくりできる日なのだし、ね?」

 

 椅子から降りてきて、千聖さんは慈愛の微笑みを浮かべて俺のことを抱きしめてくれる。女王様が女神に変身した瞬間である。こういうことで男をコントロールしてしまえる千聖さんは本当に魔性を持っている気がするね。だけど、その魔性に関しては千聖さんはそんなことないわよと否定した。

 

「千紘に対して余裕ぶった演技してないといざという時に困るのよ。それに持っていたとしても、花音には負けるわ」

「あ、あーね」

「私は千紘が好きで好きで、どうしようもないだけよ。どうやったらあなたが私から離れずにいてくれるのか、不安なだけ」

「俺が、俺が千聖……から離れるなんて……ありえないから」

「どうかしら、千紘だもの」

 

 どういう意味なんだよと唇を尖らせて抗議するけど、それが千聖さんの唇のタッチ一つで鎮圧されてしまう。そして少女のような笑顔で千聖さんは蕩けるような声で俺の名前を呼んできた。女王様だったり、女神だったり、乙女だったりで千聖さんは忙しい。咄嗟に呼び捨てにしたことでより嬉しかったようで、すっかりご機嫌になっていた。

 

「さて、ちゃんと千紘も反省したみたいだし、ご褒美をあげようかしら、ふふ」

「楽しそうだね」

「楽しみなのは、千紘のリアクションよ」

 

 そんな千聖さんが付き合う原因、原因でいいのかな、それは今回の冒頭の事件のようなもので、パンツをうっかり見ちゃったというものだった。それから始まった俺と千聖さんの関係の中で付き合う以前からやけに千聖さんは俺にパンツを見せてくる。再び椅子に座り、そして俺が見えない角度でもぞもぞと何かを脱いでる。もしや、このパターンは。

 

「見たいのなら……脱がせてちょうだい、千紘?」

「よ、よくそんな恥ずかしいことできるよね……千聖って」

「あら私だってドキドキしているけど、女優だもの。後でゆっくり触って確かめさせてあげるわ」

 

 女優ってすごいんだなーと間抜けヅラをしてしまった。千聖さんの妖艶な仕草に俺は圧倒されっぱなしで、自分の欲求に素直になって千聖さんの半脱ぎになっていたストッキングに触れる。滑らかな肌に指が触れるのが、すごく、なんというかいけないことのようで、俺はおそらく目ガン開きの血走っていることだろう。膝辺りにまで到達した時、不意に千聖さんは両足を持ち上げその間からチラリとうすピンクのかわいらしいデザインのショーツと目が合った。

 

「……い、意識してる?」

「もちろん、私の嫉妬と怒りの色よ」

「随分かわいらしい色だったけど」

「あなたとの時間を過ごしていたら許せてしまうのだもの、かわいいものでしょう?」

「そ、それはそうかもしれないね」

「まだ感想を訊いてもいいわよね?」

「そりゃもちろん……どんなシチュエーションだろうが、最高以外の言葉はないけど」

 

 個人的にはアディショナルタイム終わり間際に勝ち越しのゴールネット揺らしてピッチ走り回って滑りながらガッツポーズをしてもいいくらいの最高の気分だよ。むしろ千聖さんのパンツ見て、推しのパンツ見て優勝できないやつのことを俺は嫌悪するね。オタクなんだからもっと気持ち悪くなろうぜ、自分の股間に正直になろうぜ。

 

「千紘」

「はい、いいよ」

「ふふ、わかってきてるわね、さすがよ♪」

 

 名前を呼ばれ、俺はあぐらをかいて千聖さんを呼び返す。嬉しそうに足の間に座って俺の身体に背を預ける推しであり恋人の千聖さんはすごくかわいいんだよね。オーラがでかすぎて気づかないけど、小柄でなんならパスパレの中で一番背の小さな千聖さんは、俺の腕の中にすっぽりと収まってしまいそうなくらいだ。こんな風に推しとイチャイチャできるなんて一年前の俺が知ったらなんて思うだろうか。なにしてんだ死ねカスくらいで済むか無言でぶち殺されるかの二択かな。

 

「そう、そういえばデート、なんとか行けそうよ」

「どうやって? 変装しても千聖の溢れるオーラと気品と美人すぎる微笑みと美声は隠せないよ」

「はいはい、自分のカノジョ自慢はウザがられるわよ」

「俺はウザいし自慢のカノジョなんです〜」

「もう、そうじゃなくて……今度ね、遊園地を貸し切りでロケをすることになったの」

「遊園地を?」

「そう、もちろんPVのお仕事だから全部遊べるわけじゃないけれど」

「それ、俺が一緒でいいの?」

「あらパレオちゃんは即答だったわよ」

 

 あのクソオタク……! オタの分際で誘われて二つ返事とはなんてやつだ。オタクの風上にもおけないな。どうやら招待枠ということで友人誘って遊んでもいいよ、ということに千聖さんと日菜ちゃんでさせたらしい。どうやってと考えていたら日菜ちゃんの招待枠におねーちゃんであるクールビューティーな強火の日菜担、氷川紗夜さんの他に弦巻こころさんがいらっしゃるらしい。出たな弦巻家。

 

「彩ちゃんは花音を連れてくるみたいだけど」

「……花音か」

「あら、今でも仲良しなのでしょう?」

「怖い怖いって、花音になんか言われた?」

「ええ、大学でもよく一緒にいるよ、ってね?」

 

 そりゃ、あれだよ友達として、幼馴染としてね? 色々とあったけど、俺は千聖さん一筋だし、信じてもらえないだろうけど、ちゃんと俺は花音との関係は割り切ってるから、少なくとも俺はね。

 でもちょっと安心したんだけど、一般人枠、知り合いばっかりだったから居心地悪いことにはならなさそうだ。

 

「私としては、女の子ばかりで嫉妬のあまり笑顔を保てるか心配だけれど」

「千聖がそんな雑な仕事するなんて思ってないから」

「……あなたは私のこと好きすぎよ」

「だって、あのライブの時の千聖ちゃんに俺は恋をしたんだから」

「嘘つき、推せるって思っただけでしょう?」

「まぁね」

 

 推しへの想いと恋は別物だ。それが別物だからこそ俺は千聖さんのことを好きになっていくことに悩んだし、推しを推しとして推したいあまりにその推しの気持ちすらも無視し続けてしまった。

 でもそれを乗り越えたからこそ、俺と千聖さんは今一緒にいるし、恋人としての甘い時間もオタクとアイドルとしての楽しい時間もどっちも過ごせてるんだと思う。

 

「千聖のショッピングに振り回されたりしてみたいな」

「いいわねそれ。たくさん荷物を持たせてあげるわね♪」

「それで千聖が楽しいなら」

「ふふ、嫌よ。あなたを後ろに歩かせるなんて野暮なことはしたくないわ」

 

 甘えん坊の千聖のことだから、きっと手を繋いでいないと嫌だって言うんだろう。振り回すんじゃなくて二人で並んで歩くのが楽しいって言うんだろう。アイドルの時の笑顔、女優としての表情、そして恋人としての素顔、その時々に全て違うのが白鷺千聖で、そんな嘘つきなのが芸能人だ。だけど、俺はその全てを好きになった。俺を愛してるという言葉が真実だって信じさせてくれるくらいの、とびきりの行動を以て。

 

「千紘、まだパンツ、じっくり見てないわよね? 」

「そうだね、でもこのアングルだと」

「ならこういうのはどうかしら?」

「……実は千聖って天才的にパンツ見せるシチュエーション考えつくよね」

「誰かさんが熱烈に見てくれるから、かしら?」

 

 スマホとコンパクトミラーを駆使して後ろから抱きしめるかっこうのまま余すところなくパンツを見せてくれる千聖さん。こんな恥ずかしくて、アイドルがやるようなことじゃない。だからこそきっと、その行動が真実だって思ってくれるんだと千聖さんは考えてるんじゃないかって最近はよく思うようになった。

 つまりはパンツ見せてって言って見せてくれることこそ真実の愛だった……? 

 

「それは、違うと思うけれど」

「違うんだ」

「少なくとも、私はそうよ?」

「じゃあ、俺はいつだって千聖のパンツが見たいよ」

「……ふふ、ありがとう、私も愛しているわ、千紘」

 

 パンツを見てしまったところから始まったこの奇妙で、でも幸せな関係は、きっとこれからも困難の連続だろう。まず間違いなくスキャンダルで一度や二度は荒れることになるだろう。アイドルでなくなった後だろうが、それは関係なしに白鷺千聖が一般人男性の家にお泊りデートしていることは、恐らくいつかは週刊誌にすっぱ抜かれることになる。

 ──そうだったとしても、千聖は俺にパンツを見たいかって訊ねて、俺は見たいって全力で答えるんだろう。だって俺は、白鷺千聖を心の底から愛しているから。

 

 

 

 

 

 




 作品史上最長のタイトルを持つ「推しパン」はそのノリとは裏腹に「レッテル」という割に暗めのテーマが隠されていました。いやそんなレッテルを全力で遊んでるから暗いとは思わないでしょうけど。オタク、アイドル、幼馴染、推し、そんな記号とそれとは違う素顔というテーマを持っていた上にドルオタとしての過去を持つ自分の経験を活かせる作品だったので楽しくお気に入りの作品でもあります。

 次回は「恋人未満な九歳差」です、お楽しみに!
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