魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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1.10.王女の救出

 官庁街を低空飛行しながら、二領の鎧は進む。

 途中に展開している海軍の兵士たちが、時折り彼らを見上げた。

 見上げながらも、撃つ、追いかけるといったことはしてこない。

 交戦の命令が出ていないのだろう。

 五つの区画を進んだ段階で、路上だけでも二百人ほどはいただろうか。

 それだけの海兵が、官庁街に展開して、官公庁の建物を制圧していた。

 ディゼムはそれを見て、顔をしかめた。

 

「しかし、陸軍も警察も何やってんだ……!」

『警察は火力に劣ります。陸軍は官庁街での本格的な戦闘は避けたいはずです。

 命令があればするでしょうが、それがないのでしょう』

「王様が命令してねえのか……まぁ躊躇すんのはわかるけど」

 

 プルイナの解説に、納得する。

 彼女はそのまま、解説を続けた。

 

『ここから観測できますが、王宮も既に制圧されたようです。大きな戦闘があった様子は見られません』

「……何かもう、完全に反乱成功しちゃってねえか……!?」

『それならば何らかの形で宣言があるはずです。我々に投降を促してきた兵士たちは、そうしたことは言っていませんでした』

「そりゃそうだけど」

 

 アケウが通信で、ディゼムに呼びかける。

 

「ディゼム、今はファリーハ殿下をお助けしないと。殿下の安全を確保して、それから王宮や、官庁街の海軍をどうするか考えよう」

「だな」

 

 プルイナとエクレルが、内部の二人に通告した。

 

『これより、熱電・色覚迷彩モードに移行します』

『平易に言えば、透明になれる状態だ。

 エネルギーの消耗がやや増えるが、視覚的にも、熱的・電磁気的にも見えなくなる。

 魔術師を相手にどこまで通用するか、試させてもらおう』

「今朝いってたやつか」

「わかった」

 

 飛行する鎧の姿がすいと薄まり、スラスターからの噴射で生じるわずかな陽炎以外は完全な透明になる。

 そのまま、二領の鎧は海軍会館の前に着地した。

 もっとも、自機から発生する音までは完全には消せない。

 小さな飛行音や着地音を聞き取った警邏の兵士が、周囲を見回す。

 

「…………?」

 

 兵士たちは、気のせいだと感じたか、見回すのを止めた。

 発見されずに済んだようだ。

 黒い鎧の中で、プルイナが効果を評した。

 

『問題なく作動しています。あとは、敵の魔術師の中にこうした迷彩を看破できるものがいないことを祈りましょう』

 

 ディゼムが問う。

 

「いたらどうすんだ」

『戦闘を行い、制圧します』

「……まー最初からドタバタやり合うよりは楽か」

 

 会館の入り口の歩哨をすり抜け、他の兵士の出入りに合わせて扉をくぐる。

 扉の閉じ方がやや不自然になったが、透明な侵入者がいると気づかせるまでには至らなかった。

 二人は兵士を避けつつ、各階をスキャンしながらファリーハを捜索した。

 

***

 

 海軍会館は、王宮から南に広がる官庁街の、やや外れの方に位置していた。

 各階には、海軍の関連組織である退役軍人協会や造船会社の組合などが設置されている。

 ファリーハは、その四階の一室に監禁されていた。

 入れられる直前に見えた部屋の名は、海軍史編纂(へんさん)部。

 文字通り、海軍の歴史を文書としてまとめる部局だ。

 150年前に遷都して以来、海軍の出番となる戦いはほとんどなかった。

 そのため、遷都前から存続してはいるものの、専属の要員のいない閑職となっていると聞く。

 その部屋には、小さな机と椅子が一つずつ。

 魔術はやはり、使えない状態だった。

 拘束された際に貼り付けられた、多数の魔術封じの札は、今はない。

 だが、今は手錠が魔術封じの仕様に替えられていた。

 外部と連絡できる遠話の魔術紋様を記載した手帳も、取り上げられていた。

 入り口には、常に二人組の海兵。

 所用に付き添えるよう、兵士は常に女だった。

 

(かなりがっちり固められてしまっている……)

 

 にもかかわらず、彼女は運が良かったといえる。

 私物を没収されても、髪に刺したピンは奪われなかった。

 更に運の良いことに、破り取った手帳の1ページが、たまたまジャケットの胸ポケットに入ってもいた。

 ビョーザ回廊の魔術紋様をできる限り書き写そうとした時に、書き損じたもの。

 それがたまたま、ボディチェックを免れたのだ。

 ピンの針部分で頭皮を傷つけて出血させ、それをペン代わりにした。

 監視の目を盗み、書き損じの裏に魔術紋様を描いてゆく。

 そして余白に救援を求める短文を書いて、窓から飛ばす。

 行き先は、ひとまず白い鎧に定めた。

 動くであろう対象を目がけて飛ばすのは難度が高かったが、王宮や魔術省は制圧されている可能性がある。

 あとは、無事に届くことを祈るだけだ。

 

(………………)

 

 逆にいえば、その後はやることがなかった。

 自由の聞かない手首にも、やや慣れつつあった。

 

(暇になってしまった……わたくしの力じゃ脱出は無理そうだし、紙の一枚や二枚、どこかに挟まってないかな……)

 

 紙さえあれば、また血で魔術紋様を描いて飛ばすこともできる。

 だがそうしたものは、彼女をここに監禁する際に撤去したのだろう。

 本棚などがあったであろう場所だけ、床の色が変わっているのが分かる。

 衣服の布は、血が染み込んで文様の形状が変わりやすいため、向いていない。

 時計もなかった。

 何時間経ったか分からない状態で、時間を知るのは太陽の傾きだけが頼りだった。

 窓の外を見ながら、思案する。

 

(わたくしを監禁する目的……何だろう。人質?

 今の所は特に拷問したりをする気はないみたいだから、わたくしを材料に王家を脅迫して何か要求する?

 それとも異世界の鎧に反乱を邪魔させないための……?)

 

 そうして考えていると、腹が鳴った。

 私邸の地下室で朝食を取ってから、それなりの時間が経っているのだろう。

 

(……お昼ごはんとか、差し入れてくれないのかな。

 もしかしたら今日はお風呂に入れないかも……ていうか、そろそろトイレに……)

 

 思考のとりとめが失われていくのを感じたその時、扉が爆音を立てた。

 

「!!?」

 

 あまりに突然だったため、思わず体が、椅子から跳ねる。

 数秒ののち、扉がこじ開けられて、白い鎧が姿を現した。

 

「殿下、ご無事ですか!!」

 

 扉には、見張りをしていた女兵士が一人、白い綿のようなもので貼り付けられていた。

 大きな音は、彼女が扉に激突した音か。

 

「…………!!」

 

 ファリーハが驚いて目を丸くしていると、白い鎧は兜を脱いで、アケウが素顔を見せた。

 特段の異常もなさそうな彼女の様子を見て、彼は声を落ち着けて訊ねる。

 

「失礼、驚かせてしまいました。お怪我などはありませんか……?」

「いえ、何ともないです。魔術紋様を描くために、少し髪の下を自分で傷つけましたが……もう血も止まっています」

「何よりでした。ディゼムが敵を防いでいます。脱出しましょう。失礼!」

 

 アケウが短く断りを入れると、白い鎧が彼女に近寄る。

 そして、手首の魔術封じの手錠を指で摘み、力を込めると――

 ばん、と音を立て、魔術を仕込まれた強固な金属のヒンジが弾けた。

 ファリーハの手首を傷つけることなく、手錠だけを破壊したのだ。

 

「!」

「殿下、それでは」

 

 移動を促すため、彼女の肩に優しく触れる白い鎧。

 気になって、尋ねる。

 

「行くあてはあるのですか?」

「陸軍の宿舎か、住宅地にある僕やディゼムの家を考えていましたが……殿下にお心当たりは?」

「あります。わたくしが案内します」

 

 そこで、アケウが脇に抱えた兜の眼窩(がんか)が光り、エクレルが声を発した。

 

『王都にある場所ならば、住所を教えてくれれば直線距離で直行しよう。王都の地図は図書館で確認している』

「ではそこへ。ディゼムとプルイナも来てください」

 

 ファリーハがそう答えると、アケウは再び兜を着装した。

 白い鎧が、彼女を文字通り、姫君をそう扱うように抱き上げる。

 

「このまま空を飛びます。しっかりお掴まりください」

「ええ、頼みます」

『では、飛ぶぞ』

 

 窓の幅は狭かった。

 ファリーハの体が窓枠に当たらないよう慎重に乗り出して、白い鎧が窓から飛び降りる。

 そして空中でスラスターを噴射し、官庁街のどの建物よりも高く飛び上がった。

 

「目的地はノヴァン・インヘリト特別市、イスル・グルント、17の16!」

『了解した』

 

 西に向かって飛ぶ白い鎧の後に遅れて、黒い鎧が窓から飛び出した。

 

「おい、待てっつの!?」

『問題ありません、行き先はエクレルと共有済みです』

 

 二条の光が、再び王都の上空を飛んでいく。

 

***

 

 王女が指示した建物は、こぢんまりとした二階建ての建物だった。

 門構えこそあるが、さほど広いわけでもない。

 場所も既に官庁街ではなく、そこから少々外れた住宅街だった。

 周囲にある民家よりは手間がかかった作りではあるが、見たところ、それなりに古い。

 その門の郵便受けをがさごそと漁る王女に、アケウが声をかけた。

 

「殿下……一体何をされて……?」

「えーと……ありました」

 

 彼女が郵便受けの中から取り出したのは、小さな鍵束だった。

 細い指でそれをつまんで見せながら、ファリーハが宣言する。

 

「ひとまず、この建物を拠点にします」

「ていうか、何スか、この民家。これを拠点に?」

「言葉に気をつけなさい、外務省です! 表にちゃんと書いてあります!」

 

 ディゼムが尋ねると、ファリーハは門柱に掲げられた看板を指して抗議した。

 確かに、そうは書いてある。

 彼はしかし、なおも質問した。

 

「がいむしょうって、何スか?」

「殿下、それは一体……?」

「う、そ、そこから……!」

 

 アケウにまで訊かれた王女が閉口していると、プルイナが助け舟を出す。

 

『名称から推測するに、外国との連絡や交渉を行う部署と見ましたが』

「え、外国……?」

「現代では極めて存在感が小さい、ということは認めます」

 

 ディゼムとアケウが疑問を持つのも、もっともなことではあった。

 この世界の人類は、150年前からこの国を除いて滅んでいるのだから、外国など存在しない。

 外国が存在しないなら、渉外を行う部門など、必要だろうか?

 王女は小さな鍵を鍵穴に差し込んで回しながら、小さな門扉を開いた。

 

「かつて人類は世界中に広がり、様々な国家を形成していました。我がインヘリト王国も、その一つ」

 

 門扉の次は、三歩で届く玄関扉に別の鍵を差し込む。

 

「でも150年ほど前、悪魔の軍勢に人類は敗北し、ついにはこの島を除く全土から駆逐されてしまった。

 二人には、いまさら言うまでもなく……エクレルとプルイナにも、話しましたね」

『あぁ』

『記憶しています』

「ですが、王家は旧世界に人間が生き残っているという希望を忘れなかったのです。

 旧世界で生き残った人々がいたならば、渉外部署は絶対に必要になると!

 そのためにも王家は、それ要らないんじゃないの? と言われつつも、外務省を存続させていたのです!!」

 

 王女は力説していた。

 だがそれとは別に、ディゼムは気になった点を述べた。

 

「その割にはこの建物……小さい上にすげぇ古そうなんスけど」

「まぁ……その外国が見つからない限り人員は不要ということで幽霊省庁みたいになってる上に、おじいさまの若い頃に一度、縮小移転させられてこうなったらしいんですけどね……

 おかげで海軍の目も届いていないというわけです。と、その話は終わり。入りますよ」

 

 彼らは外務省の建物へと入っていった。

 そしてそこを拠点に、四機のドローンがインヘリト王国の官庁街へと飛んだ。

 鎧の左右の脇腹の装甲内部に一機ずつ搭載されている、偵察用の装置だ。

 二重回転翼の下に垂直に棒をぶら下げたような外観の機械が、高空から情報を収集する。

 ディゼムたちは埃の積もっていた事務室で、机に広がる地図を見ていた。

 正確には、その上に鎧の肩から出た光が描いた、立体映像だ。

 それを鎧の中から眺めつつ、ディゼムは思う。

 

(ホント魔術みたいな真似をするんだよな、こいつら……)

 

 映像の元になる情報は、ドローンたちの収集したものだ。

 プルイナたちはそれを立体映像に変換して、紙の地図の上に重ねて表示していた。

 

『現在の官庁街の状況を、ほぼリアルタイムで映しています』

 

 よく見れば、地図上には縮小された兵士までもが、動く姿で映し出されていた。

 腕のいい職人が作った模型でも、そこまでは再現できまい。

 ただ、ディゼムとアケウは王都の地理にそこまで明るいわけでもないため、あまり要領を得なかったが。

 一方、王女は映像を見て顔をしかめていた。

 

「官庁街は完全に占拠されてるみたいですね。警察も落ちたかぁ……」

『あちらのインヘリト通信の建物も、海軍の部隊が占拠しています』

「新聞社も……あーもう、陸軍は何してるんですか陸軍は!」

「いや俺らに言われても……」

 

 彼らも陸軍の兵士だったが、既に鎧と付きっきりになって半月以上が過ぎていた。

 そのため、今の陸軍が何をしているかといったことは、推測するしかない。

 王女は官庁街の他にも捜索範囲を広げさせたが、観察する限り、今のところ陸軍は官庁街に打って出るようなことはせず、情報収集に徹しているようだった。

 

「陸軍は主に陸軍練兵場と、陸軍会館に集結しているようですね……

 とはいえ王都市街で内戦なんて起きたら、それはそれで困ってしまうわけですが……」

 

 ドローンで見る限り、まだ戦闘は起きていないようだ。

 しかし官庁街に近い他の施設は、全て海軍に押さえられていた。

 

「遷都記念公園……大聖堂……まさか海軍全軍が参加しているとは思いたくありませんが、規模としてはだいぶ大きそう。

 ずいぶん周到に準備しましたねこれは……保安警察は何をやっていたのですか、もう!」

 

 保安警察は、警察の中でも特に国家の安全にかかわる捜査を取り扱う部門だ。

 海軍にクーデターの兆候があったなら、本来は彼らが情報を掴み、王室や内閣に知らせるべきなのだが。

 彼女は立体地図を睨みつつ、その中央の、面積の広い平たい建物の一群を指した。

 

「やはり宮殿ですね。エクレル、プルイナ。

 ドローンというもの、ここに忍び込ませることはできますか?」

『可能だが、警備の密度によっては困難な場合がある。ドローンは透明化できない』

『まずは徐々に接近し、様子を見てはどうでしょう』

「それで構いません」

 

 王女はプルイナの提案を肯定する。

 

「宮殿を押さえた部隊も、図書館や魔術省への襲撃と同時に動いたはずです。

 ならば、普段あそこに勤務しているほとんどの王族は(とりこ)になっているでしょう。

 まずはその安否を確認させてください」

『了解です』

『こちらのドローンも合流するか?』

「頼みます」

 

 そして、四機のドローンが王都の東西南北から、中央の宮殿に接近を始めた。

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