魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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7.11.決戦の火蓋

「……俺が魔石になりゃあ、少しはお前の力になれそうか?」

『却下します』

 

 ディゼムの提案を、プルイナは棄却した。

 

『着装者を消費する行為は戦闘規範から大きく逸脱する行為です。

 撤退を推奨します』

 

 が、彼は食い下がる。

 

「いや待てって、それも難しかろうが!」

 

 魔王の攻撃は続いている。

 ディゼムたちの魔力で動いている状態の鎧は性能が低下しており、致命傷を避けるのがやっと、辛うじてという状態だ。

 

「お前が魔王の魔術を妨害して、腕だけ魔石になった所で止めるとか、そういうのができるんじゃねぇかってこと!」

『魔石化の魔術を受けた際に魔力の輻射を解析しましたが、魔石化を局限することはできません。

 なる時は0.1秒以下で、全身です』

「じゃあこう、魔石になる直前に寸止めみたいな感じで行けねぇか?

 魔石になると、人間だった時よりデカい魔力を出すんだろ!」

『…………』

「魔王がインヘリトに着くまで、あと何分だ? 時間がねぇだろう!

 この状況が俺の命ひとつで開けんなら、それを試すのはそんなに無価値か!?」

 

 ディゼムの訴えに、プルイナは判断を躊躇っていた。

 アルファ級汎用人工知能は、人間を超越した知識や処理能力を持ちつつ、人間と同様の価値判断が可能な存在だ。

 特にプルイナとエクレルが属する“ゼノフォン”は、情報を獲得する過程で価値観を育み、人間的な情緒を持つこともできる。

 だがそれは、選択を迫られた際、理論や確率といった枠組みに基づいた即時の判断を下せなくなる、という欠点を孕むことも意味した。

 ディゼムたちには知る由もないが、木星開発機構の技術部がそれでもゼノフォンにそうした性能を持たせたのは、人間が人工知能を信頼できるようにするためだった。

 それは人工知能が限りなく人に近い価値観や情緒を持ち、いわゆる「苦渋の決断」を下せるようになれば、人間もそれを信じられるようになるはずだ、という期待に基づく。

 XTIAS-6ディグニティは戦闘用の装置であり、そこに搭載されるゼノフォンも戦闘補助のために開発されている。

 木星開発機構はそこに、木星とその衛星軌道に広がる広大な戦場における“戦友”を求めたのだ。

 とはいえプルイナは、自分を犠牲にして戦うという戦友(ディゼム)の提案を受け入れるべきか否か、迷っていた。

 汎用人工知能の規範に照らせば、否定(ネガティヴ)だ。

 ゼノフォンには、着装者の生命を守る義務がある。

 しかし、今の彼女たちの背後にはインヘリト王国があった。

 それを救うことを優先するならば、ディゼムの魔石化と、その遺言に基づいた戦闘続行は肯定(アファーマティヴ)となる。

 迷う鎧の心を知るべくもなく、魔王の攻撃は続く。

 

「いたぶるのも――そろそろ飽きた!」

 

 黄金の鎧をまとった魔王が右腕を前方に掲げると、その先の虚空に巨大な魔術紋様が生成される。

 直径にして数百メートル、そしてそこから、魔石化の魔術が放たれた。

 

「今度こそ、我が糧としてくれる!」

 

 魔術紋様から虹色の光が放たれ、ダメージで更に運動力の低下した鎧たちを襲う。逃げ切れない。

 魔術の波動がディゼムとアケウを襲い、彼らの時空連続体を圧縮、死ぬまでに産生される魔術を現在の時間に凝集する。

 異世界の鎧たちは推力を失い、落下を始めた。

 

「他愛もない……!」

 

 それを追って降下する、魔王。

 黄金の鎧の推力は、自由落下程度の速度には即座に追い付くことができる。

 鎧を捉え、中から出てきた魔石を食らう――

 ――だがそれは、果たされなかった。

 

「……何だと……?」

 

 黒い鎧と白い鎧、それぞれの眼窩が、鋭く光る。

 同時、鎧たちは脚部のスラスターを噴かせ、接近していた魔王へと蹴りを放った。

 

「ぐぁ!?」

 

 不意打ちを受けて吹き飛ぶ魔王。

 彼女は動揺していた。

 鎧の中のヒトは、今度こそ、物言わぬ魔石に変わったはずだ。

 鎧が動くはずがない。

 だがしかし現に、鎧は動き、彼女への抵抗を再開したではないか。

 

「なぜだッ……!?」

 

 魔石化の魔術が失敗したのか? いや、手応えはあった。

 何かがあったのだ――

 だがその判断もまた、状況を正しく掴めてはいなかった。

 白い鎧が、左手に構えた盾から魔術の砲撃を放つ。

 

「む!?」 

 

 回避したもののその威力は強烈で、人間の魔術とは思えないほどだ。

 更にそこへ、黒い鎧が恐るべき速度で襲い掛かる。

 

「この――!」

 

 黄金の籠手でその拳を防御するが、魔術障壁を合わせても威力を殺しきれず、魔王は後ろへと吹き飛ばされた。

 彼女は毒づいて、言う。

 

「何だ……何だというのだ、ここに来て!」

 

 鎧たちは魔石化していないだけでなく、尋常ならざる量の魔力に溢れていた。

 そしてその内部に、制御人格たちの声が響く。

 

『魔石化制御、成功しました』

『時空連続体、凝集寸前で停止』

「すごい量の魔力だ……!」

「もう泣いても笑っても、これで行くしかねぇ!」

 

 それぞれの着装者たちは、魔石になってはいなかった。

 時空連続体の圧縮に伴って未来からやって来る大量の魔力をその身に帯びて、人間の限界を超えていた。

 

「圧倒する、力よッ!」

 

 黒い鎧の投射した魔術は、無数の光条となって魔王に殺到する。

 

「く!」

 

 回避する魔王、追尾する多数の光。

 最初の一撃が彼女の黄金の装甲に食らいつくと、そこに連続して後続が着弾し、魔王を吹き飛ばしながら爆光の数珠を描いた。

 

「ぐぁあああっ!!」

 

 それを追う鎧とその着装者たち。

 今度は白い鎧の投げつけた盾が三つに分裂し、猛烈な速度と不規則な軌道でワーウヤードを打ちのめす。

 

「く、この……!」

 

 魔王は空中で転移を繰り返し、出現するたびに大量の魔術弾を投射した。

 一つ一つに強大な威力が込められており、当たれば新たな異世界の鎧といえど破壊は免れない。

 しかし、鎧たちが魔力を込めた腕を振り回すと、そこから放たれた光が魔術弾の軌道を逸らしてしまう。

 

「……!」

 

 戸惑いつつも魔王は、全身を覆う黄金の鎧から魔術の光を放った。

 魔術の障壁でそれを防ぎながら、白い鎧が魔力に声を乗せ、告げる。

 

「もうやめるんだ、ワーウヤード!

 このまま君を殺したくない!」

「黙れヒトが! ヌンハーと兄弟たちの仇を取るまでは止めんッ!!」

 

 高速で高度二万メートルを飛行しながら、魔王が意地を表明した。

 だがディゼムも、負けじと黒い鎧の中から言い返した。

 

「俺らも、同じ理由で戦ってんだよッ!」

「獣が恩讐を語るなッ!」

「だったらこのまま、獣に負けるんだなッ!!」

「黙れェえええッ!!!」

 

 魔王が絶叫と共に、黄金の剣を手の中に出現させる。

 そして斬りかかると、黒い鎧は右手の巨大な鉤爪を展開し、それを受け止めた。

 ディゼムは魔王を魔力を込めて押し返すが、しかし彼女は気迫とは裏腹に、転移して位置を変えた。

 再び白い鎧の背後を取る魔王、だが今度は、白い鎧が弾け飛んだ。

 損傷した純白の装甲のパーツが複数ヒットし、魔王は吹き飛ぶ。

 一時的に着装を解除したアケウの首元の超空間通信機から、エクレルが言った。

 

『魔力低下……アケウ、我々はここまでだ。

 これ以上は滞空すら維持できなくなる』

「ごめん、これで最後にする!」

 

 アケウは落下しながら再着装を終えて、魔王に向かってアダマント・シールドを飛ばす。

 

「小賢しいわ!」

 

 盾を蹴りではじき返す彼女だが、しかしその影に隠れていた黒い鎧の接近を許した。

 

「オラァッ!!」

「忌々しい――」

 

 ディゼムは漆黒の鉤爪、アダマント・タロンズを拳のように握り固めた、強化魔拳を繰り出す。

 これを真っ向から打ち砕こうとしてか、魔王は転移することなく、黄金の炎をその拳にまとわりつかせて対抗した。

 ぶつかり合う、拳と拳。

 彼女は口の端を吊り上げ、魔力を高めて言う。

 

「不遜にも余に抗いおって!

 全ては無駄なことだったと思い知るがいい!」

 

 その自信に満ちた黄金の炎が、漆黒の強化魔拳にひびを入れていく。

 だが、ディゼムも負けてはいない。

 強化魔拳が黄金の炎に耐えきれずに爆散するが、残った黒い鎧の素の拳に魔力を込めて、彼はなおも拳を放つ。

 

「無駄だァッ!!」

 

 魔王はそれすらも粉砕するが、ディゼムは怯まず、

 

「凝集ッ!!」

 

 灰色の鎧を部分着装して、第三の魔拳を繰り出した。

 その一撃は全開にした背部のスラスターの推力を乗せ――

 

「馬鹿な……!」

 

 黄金の炎を突き抜けて、魔王の右腕を粉砕した。

 ディゼムの右拳も無事ではないが、しかし彼は止まらなかった。

 

「これで、最後だ……!」

『ガンマ・ガン、照射準備』

 

 黒い鎧の左腕の装甲が、限局核レーザー砲に変形させる。

 ディゼムは怯んだ魔王の腹部へと砲口を押し当て、そして引き金を引いた。

 ガンマ線束が、魔王の核を破壊する。

 同時、そこに集積されていた大量の魔力が爆発した。

 高度二万メートルに巨大な魔力の花が閃き、そして、消えた。

 

***

 

 魔王とパワードスーツたちの戦いから離れ、インヘリトに向かっていた保護セル。

 窓は前方と側面に向かって設置されているため、そこに乗っているファリーハたちが魔王の爆発を観測することはできなかった。

 その代わり、アケウとエクレルからの通信が入る。

 

「殿下、ディゼムとプルイナが、魔王を倒しました!」

「え、何? 魔王倒したの!?」

 

 真っ先に返事をしたのは、ホウセだった。

 アケウは慌てることなく、それを肯定する。

 

「あぁ、多分ね。殿下、そちらは何か異常はありませんか?」

「特に異常なし、全員無事です。それより、あなたは無事なのですか? ディゼムも?」

「はい、僕は、多少痛みますが問題ありません。

 それよりディゼムが……最後の爆発に巻き込まれたのか、黒い鎧の姿がどこにも見えません」

「……魔王の脅威が消えたのが確かであれば、保護セルをそちらに戻しましょう。

 エスコドゥスの手も借りて、ディゼムを召喚の魔術で呼び出すこともできるかも知れません」

「召喚……この機内でやるのはちと骨が折れそうだが、やってみるしかないのう」

 

 エスコドゥスも同意しているようだ。

 ファリーハがマイレたち三人に断りを入れると、保護セルはエクレルからの信号を受けて回頭した。

 

***

 

 一方で、ディゼムは生きていた。右手に解放骨折が生じていたが、既にプルイナによって応急処置をされている。

 彼は自身の置かれた状況にやや混乱しつつ、黒い鎧の中で超空間通信を起動し、呼びかけた。

 

「アケウ、聞こえるか?」

「ディゼム!? ザザ――今どこ!? 無事なの!?」

「……怪我はしてっけど、まぁプルイナが治してくれてる。

 ただ何つうかな……場所は何か山の中で、やたら花が咲いてるんだが……

 すげぇ禍々しい雰囲気の城が建っててよ……」

 

 木々の間から見えるその城は、何らかの前衛的な芸術作品に見えなくもなかった。

 高さが推定で、数百メートルにも及ぶのでなければ。

 彼は声のボリュームを落として、報告を結んだ。

 

「しかも悪魔がいるんだわ」

 

***

 

 現在の黒い鎧と白い鎧は、着装者の魔力を動力源に動いている状態だった。

 しかし、魔王の魔石化の魔術を逆手に取って着装者の魔力だけを未来から引き寄せ、そのほとんどを消費してしまった。

 鎧たちの、完全な限界が近い。

 そのため、ディゼムと共にある黒い鎧は明瞭な画像データを送ることができないでいた。

 それでもディゼムからの報告で、ファリーハはある程度その建造物と思しき存在に見当をつけていた。

 

「それはもしや、魔王の住処でしょうか……

 本来ならばあの玉座とやらの中にいたのでしょうから、それを安置する巣のような場所が必要だったはず。

 あなたは何らかの理由で、そこへと転移してしまった……」

 

 彼女の思考はそこで止まらず、演繹と帰納を繰り返して進んでいった。

 ファリーハは推測を続け、口にする。

 

「いや、もしや魔王が、とどめを刺されながらも住処へと転移したのでは?

 それに巻き込まれたのだとすれば、あなたが未知の土地にいる理由も、アケウがあなたを見失った理由も説明が付きそうに思えます」

「なるほどねぇ……て、それじゃ魔王が生きてるってことスか? 瀕死で?」

「残念ですが、あなたが転移した理由としては妥当かと」

「そのままほっとけばくたばったりしねぇかな……」

 

 嘆くディゼムに、プルイナが黒い鎧の中で提案する。

 

『ディゼム、本機はここで逃げ延びたであろう魔王を捜索し、完全にとどめを刺すべきだと考えます』

「マジで言ってんのかよ……少し休ませてくれよ」

 

 しかし、そこに無慈悲にエクレルが告げる。

 

『敵の本拠地の可能性が高い。魔王がもし息を吹き返し、回復に励んでいたらどうなる?

 人間の住処でないことが明らかなら、ここで潰しておくべきだ。

 そう思うだろう、アケウ』

 

 相棒に話を振られて、彼が答える。

 

「……もう、ウィッシェルみたいな犠牲を出すべきじゃない。それは確かだ」

「それは……その通りだな」

 

 ディゼムは納得し、花咲く山に聳える魔王の城――らしきものを一瞥した。

 

***

 

 魔王は生きていた?

 いや、そう表現しては語弊がある。

 正確には、彼女の肉体は死んだが、魔力の塊が意識を宿し、魔術を使って長距離を転移したとするべきところだった。

 霊魂じみた姿となって城に帰還し、彼女は母――(さきの)魔王(まおう)の部屋へと辿り着いた。

 先魔王はその肉塊のような姿で、魔の働き手たちをもぞもぞと、緩慢に産み落とし続けている。

 彼女はその様子を見て、安堵しつつも失望に似た感情を覚えた。

 

(母上……見るも無残な母上……)

 

 かつては彼女も、艶やかな髪と瑞々しく強靭な五体を備えていたことだろう。

 しかし今や二人の子供を産み落とし、その体は完全に、次世代の労働個体を産み出すだけの装置になり果てている。

 ワーウヤードや行方の知れないその姉を産み、戦士たちを産み出し尽くした今、もはや出涸らしのようなものだった。

 だがそれでも、敬愛すべき母には違いない。

 いや、今やそれだけではない。

 

(母上……御体、預かりまする……!)

 

 ワーウヤードはその残った意識と魔力とで、母親の肉体へと入り込んだ。

 そしてその肉塊のごとき有機物の塊を占有し、自らの感覚で支配する。

 彼女は肉体を取り戻し、魔力によって作り替えていった。

 彩度の低い肉の色をしていたその肢体には血の気が通い始め、びくびくと脈打ち始める。

 退縮した臓器や骨が肥大を始め、激しい運動も可能な肉体へと作り替えられていく。

 それだけではない。

 再建された母親の口と喉で、魔王は声を出す。

 

「も……ど……れ……魔の……者たちよ……!」

 

 すると、半透明の肉体を持った魔の働き手たちが、その指令を受けて先魔王の部屋へと殺到した。

 

「魔王陛下のためにィッ!!」

 

 彼らは一様に同じ姿を持ち、魔王と交配する能力を持たない労働階級だ。

 だが魔軍への忠誠心は強く、その命と魔力を次々と魔王に捧げ、母胎だったものへと回帰していく。

 それだけでなく、飛べないがために城に残っていた魔の戦士たちも同様だった。

 

「良いぞ……無いよりははるかに良い……!」

 

 これでも足しにはなる。

 少しでも力を取り戻し、異世界の鎧たちに報復を果たすのだ。

 もはや、次の世代のことを考える意味などない。

 そして母の生み出した兄弟たちを全て吸収し、新たな肉体を得て。

 そこに、錆の色をした頭だけの悪魔、アリフバが転がり出てきて言った。

 

「おかえりなさいませ、魔王陛下」

 

 彼女はそれを見下ろして、特に感じる所もなく口にする。

 

「アリフバか。もはや余は世継ぎを生み出すことはしない。

 さぞ失望したであろう」

 

 彼は転がりながら、ただ嘆いた。

 

「勝つも負けるも世の習いにございますれば……

 お差支えなければ、このアリフバめの力も、微力ながらお役立てください」

「すまんな」

 

 魔王は髪束をアリフバの頭部に突き刺して、吸収する。

 そして彼女は、先魔王の居室を出た。

 そして城の外へと出て空高く飛翔し、地平線を見渡す。

 

(悪しき異世界の鎧……!

 この手で探し出し、今度こそ食らってやろう……!)

 

 敵はかなり消耗していたはずだ。

 今の彼女なら、先ほどまでの力はないにせよ、とどめを刺すことができる。

 彼女が転移しようと、鎧の戦士たちの気配を探っていた、その時。

 

「――!!」

 

 すぐ近くに、感があった。

 

「そこか!」

 

 魔術の火球を放つと、森の一角が爆発、炎上する。

 そこから逃げるように飛び出したのは、黒い鎧だった。

 

「見つけたぞ、黒い方ッ!!」

 

 高度二万メートルと異なり、ここには濃密な大気がある。

 魔王は空気抵抗を煩わしく感じながらも高度を落とし、更に魔術を放った。

 大気の急激な膨張で爆轟が多発し、黒い鎧を追いかける。

 

「――!」

 

 反撃が来ない――やはり消耗しているのだ、と魔王は判断した。

 

(余の転移に巻き込んでしまったか――だが好都合よ!

 ここで少なくとも確実に、片一方を葬ってくれる!)

 

 魔王は魔術を乱れ撃って、黒い鎧を追い込んでいく。

 もはや飛行もままならないのか、あるいは少しでも地の利を得るためか、黒い鎧は森から出ようとしない。

 

「ならば、喰らってみるか大玉ッ!!」

 

 直径五十メートルほどの火球を頭上に掲げ、魔王は撃ち放った。

 城の景観は多少崩れるだろうが、もはや些事だ。

 しかし、そこに。

 

「鋭く、穿てっ!」

 

 声が響き、彼女の頭上で火球が炸裂した。

 

「ぬぉわっ!?」

 

 転移で回避したが、魔王は火球を破壊した威力の来た方向を睨む。

 飛来したそれに、彼女は見覚えがあった。

 

「まさか……!」

 

 影は、二つ。

 いや、一方は一つのヒト型が、もう一つのヒト型を抱え上げているような格好だ。

 

「まさか……!?」

 

 それは真紅の鎧、白い鎧――そして黒い鎧だった。

 

***

 

 ディゼムは魔王に発見され、攻撃を受けた。

 黒い鎧は元々の動力源を使い切っており、更にはディゼムの魔力も、未来から前借りした分すら使い切りつつある状況だった。

 攻撃どころか、運動や防御、通信にも支障が出始めている。

 一方の魔王は見たところ回復しており、やや精彩を欠くものの依然として脅威だ。

 もはや、後がない。

 にもかかわらず、プルイナは落ち着き払った女の声で言う。

 

『いえ、希望はあります』

「通信も切れそうなこんな状況でかよ……!

 まぁ諦めたかねぇがな!」

『不平を言いつつも諦めない、あなたの良い所です』

「普段からもっとそのくらい褒めろよ!」

 

 魔王の攻撃魔術を辛うじて回避しながら、ディゼムは焦っていた。

 このままでは、孤立したまま一矢報いることも出来ずに死ぬ。

 焦りが判断を狂わせ、動作を鈍らせる。

 

「ならば、喰らってみるか大玉ッ!!」

 

 魔王が巨大な火球を頭上に掲げて放とうとしたその時、

 

「鋭く、穿てっ!」

 

 呪文と共に、その火球は大爆発を起こした。

 ディゼムが驚きつつも更に距離を取ると、そこに通信が届いた。

 

「ディゼム! ザザ――に来たよ!」

「あたしも――ザザ――るからね!」

 

 劣化した通信を通して聞こえてきたが、アケウとホウセの声に間違いない。

 望遠で見れば、それは白い鎧と、真紅の鎧だった。

 白い鎧は黒い鎧を、肩を貸すような態勢で運んできており、どちらもウィッシェルに置いてきてしまったはずの前の型だ。

 

『ディゼム、着装転換を行います!

 あなたの最後の魔力、本機に下さい!』

「よし、やるぞ!」

 

 黒い鎧は空中へと飛翔し、全てのパーツを脱装して内部のディゼムを放り出す。

 そこに、古い黒い鎧のパーツがまとわりついて、着装転換が完了する。

 プルイナの人格は量子バースト通信で完全移行しており、こちらも問題なく完了した。

 こちらにメイエが与えていた魔力は充分に残っていて、戦闘にも支障はない。

 ディゼムは思わず叫んだ。

 

「しゃあッ! 行くぞ、プルイナ!」

『ええ、これを最後の戦いにしましょう』

 

 プルイナが応じると、彼は背部のスラスターを全開にして魔王へと突進した。

 アケウの白い鎧、ホウセの真紅の鎧も続くが、しかしそこで、迎え撃つ魔王に変化が生じる。

 

「余を数で押せると思うな!」

 

 すると、魔王の黄金の髪束が千切れ、切断されたその断面から金色の塊が膨れ上がって形を取った。

 それはウィッシェルで見た銀色の悪魔と、見たことのない、角の生えた頭部だけの悪魔の姿を象っているように思える。

 更に魔王自身は黄金の装甲で後頭部以外の全身を覆い、ディゼムたちの鎧に似た姿となっていた。

 プルイナが黒い鎧の中で警告する。

 

『敵、分裂しました』

「頼むぞアケウ、ホウセ!」

「分かってる!」「任せて!」

 

 三人は分裂した魔王を相手取り、それぞれが戦闘へと突入した。

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