魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る 作:kadochika
ドローンが進む。
時に飛行し、時に昆虫のような脚を広げて着地・歩行。
回転翼に吊り下げられた棒状の偵察機械はそれを繰り返し、宮殿へと進んでいった。
幸い、建物には屋上と呼べるような箇所は少なく、上空への監視はさほど行き届いていない。
また宮殿も、面積はともかく高さは最大で三階建てという、比較的低い構造だった。
屋根を伝い、街路樹に紛れ、ドローン四機は王宮の敷地への侵入に成功した。
そこで一度ドローンを植樹に停まらせ、エクレルが王女に訊ねる。
『ファリーハ、国王や他の王族の囚われている場所に見当はつくか?』
「広さを考えると、一階の謁見の間か、一階二階それぞれの大広間でしょう。
城郭の中央に近い部分を探してみてください」
『了解した』
『以前入城した際に作成したマップもあります。それとドローンを同期させて、宮殿の構造図を作成します』
プルイナたちが作成した宮殿の立体構造が、立体地図に反映される。
立体地図の宮殿、その中央の主だった建築だけが切り離されて宙に浮き、巨大化した。
(見やすくなったな……)
ディゼムは少し驚いたが、さすがにそろそろ、慣れてきたこともあって意図が理解できた。
そしてその一階部分に、広間と思われる構造が作成される。
「まずはここが、大広間ですね。今その後ろに出てきたのが謁見の間。
この間、あなた方をお披露目した場所です」
『ここに十六人、集められています。銃で武装した警備の兵士が四人』
外務省の事務室の壁に、ドローンの視野が拡大して表示される。
十六人の人質が、椅子に腰掛けた状態で集められているようだった。
『人質の顔は分かりますか?』
「全員知っている顔です。わたくしの両親……王太子夫妻もその中に。
そこにいない王族は……殺されたという感じではなさそうですね」
『走査できた範囲に血痕などはありません。血液に由来する揮発物も検出できないので、恐らくは怪我人もいないはずです。
国王はいませんか?』
「おじいさまは……そこにはおられません。廊下を隔てた北側に執務室があります。そちらは?」
『非武装の人物二人。武装した兵士が部屋の外に二人。拡大した映像を出します』
今度は別のドローンの視野が映し出される。
広々として絨毯の敷かれた部屋に、人影が二つ。
一人は中程度の大きさの木造りの机に向かい、椅子に腰掛けて腕組みをしている。
ベランダの方を向いているので、カメラに顔がはっきりと写った。
ディゼムやアケウにも、見覚えのある顔。
ファリーハが、それを見て苦々しげにうめく。
「国王陛下です」
『先日の謁見の際のデータとも一致します。もう一人は背中を向けていますが、分かりますか?』
「背中だけでは、ちょっと自信がありませんが……」
『国王の瞳に反射した像を拡大して補正します』
プルイナが、国王――ファリーハの祖父の顔の画像を拡大し、更に瞳の部分を大きくクローズアップする。
そこに反射した像を反転させ、曲率を補正し、新たな肖像が映し出された。
『強く補正をかけていますので完全ではありませんが、おおよそこのような容貌です』
やや丸顔の、あごひげを蓄えた屈強そうな男だ。
ファリーハはうめいた。
「マストリヒト・クレイリーク海将閣下です……おじいさまの年の離れた弟で、わたくしの大叔父さまに当たります。
彼が首謀者……?」
プルイナが、青ざめた王女に問いかける。
『救出作戦を立案しますか?』
「お願いします。それと今、おじいさまの目の前、机においてある石板のようなものの文面を……海将の顔を拡大したように写せますか?」
机には、黒い石でできた板のような物が置かれている。
その脇に、白い筆記具らしき物品が添えてあった。
今度はエクレルが、その希望に答えた。
『今、表示する』
エクレルが補正を加え、黒い石板の文面を壁に写した。
それを見た王女は、内容を読み上げた。
「魔術による契約と宣誓――署名者は、このインヘリト王国を人類最後の聖域と定める。
また、外の世界に踏み込む行為の一切を、これより歴史上、放棄する……以上の内容を、以下の署名者、及び国民は従い、遵守する。
これを魔術の名において誓約する……!?」
そこまで読むと、彼女はうろたえ、悲鳴をあげた。
「これ、約束の石板――魔術を使った契約書です!
おじいさまが署名してしまったら、旧世界奪還計画が……永久に放棄させられてしまう!」
『そんな事が本当に可能なのですか?』
プルイナの質問に、ファリーハは慌てながらも説明した。
「本来は外国との終戦条約の締結の時などに使うものです……!
歴史上のことですが、使用例はいくつもあるので……恐らく本当に作用して、おじいさまだけでなく、閣僚や議員にも影響があるはず……!
ど、どうしよう……!?」
『我々としても、このままこの島の中で飼い殺されるのは困る。
元の世界に戻るのが何年先延ばしになるか分からん以上、クーデターの阻止には協力せねばな』
ファリーハをなだめているようにも見えるエクレルだが、声の調子は軽い。
そこで、ドローンが音声を拾った。
距離があるので、かなり小さい。
映像でも、兵士――いや、服装を見るに将校か――が1人、入室したのが見えた。
「海将閣下、お耳に入れたいことが」
「分かった」
将校を伴い、海将が部屋を出る。
映像でそれを見たエクレルが、提案した。
『ドローンをもう少し接近させよう。彼らの密談を聞いておきたい』
「わたくしとおじいさまとが話をすることはできますか?
わたくしの無事を伝えれば、おじいさまも署名などなさらないはず」
『では、準備ができたら合図する。その時、白い鎧に話しかければ声が届くようにしよう』
「お願いします!」
執務室に接近するドローン。
警衛の兵士たちの視線を検出して、その視界に入らないよう蛇行して進む。
ドローンの集音装置が、声を潜めての会話を聞き取り始めた。
「白と黒の鎧が海軍会館を襲撃し、ファリーハ殿下を拉致しました。
現場の証言では、どうやら鎧は魔術か何かで透明になれるらしく……その後の消息は不明です」
「……分かった。引き続き探せ」
「かしこまりました!」
音声はそこで、一旦途切れる。
プルイナが、見解を告げた。
『ファリーハ。状況から判断するに、海将はあなたを人質に、国王に署名を迫るつもりだったのでしょう』
「おじいさまに、わたくしの無事を知らせて下さい! もっと近づいて!」
だが、ドローンが更に執務室に接近するその前に、海将が戻ってきた。
ドローンはその直前、執務室のベランダの下に隠れている。
エクレルが陳謝する。
『すまんファリーハ。さすがにこの距離では丸聞こえになってしまうから、国王とは話せなくなった』
「惜しい……!」
だが引き続き、ベランダの下のドローンは音声を拾い続けていた。
「些事でございました、兄上。それよりお考え直してはいただけましたか。計画の破棄を」
「ああ、仕方がない我が弟よ。決めた」
「では……」
映像と音声が合わさることで、盗み見をしているようではあった。
だが、ファリーハはすでに固唾を飲んで、祖父と大叔父のやり取りの顛末を凝視していた。
国王が、言葉を発する。
「署名は、絶対にしない。君の宣言したとおり、私ごと、この執務室に撃ち込ませるがいい。我が国の誇る海防砲を」
「脅しで申したのではありませんぞ、兄上!」
海将は、やや声を荒らげる。
懐から取り出した手帳を開き、口を近づけ――魔術紋様を用いた遠隔通話だ――、相手に命じた。
「私だ。やれ」
すると、宮殿の北から小さな爆音がなり、数秒後、極めて大きな爆音がドローンに届いた。
その後、再び同様の爆音が、空気を伝わって遠鳴りとなり、外務省にいるファリーハたちの耳にも聞こえてきた。
ファリーハはその音に、ただ驚愕した。
「
本当に、宮殿に向けて撃つなんて!?」
執務室の海将の音声が再び、ドローン越しに聞こえてきた。
「次は当てます。砲兵たちには厳命してありますゆえ、私もろともあなたを、この執務室と共に吹き飛ばします」
国王が、答えて告げる。
「君も知っていよう。我ら王家が滅びようと、もはや旧世界へ戻らなければ、インヘリトは立ち行かん状態になってきている」
それに対し、海将は更に声を強めて説いた。
「旧世界への道は、絶対に開けてはなりません!
悪魔どもがそこを
そのような道を自ら開いてしまえばこの国は……人類最後の灯火は、今度こそ潰えてしまうでしょう!」
「君たちの海軍ですら、魔王とやらの襲来を防げなかったのだぞ。次ならば防ぐというのか」
「転移の妨害だけでなく、防壁としても作用する魔術の結界が計画中です……!」
「私の考えは変わらんよマストリヒト。誰に似たのか知らないが、ファリーハの意思も同じだ」
「ファリーハも……こちらへ連れてきております」
「構わん!」
そこで初めて、老王が声を荒らげた。
立ち上がって、叱責するような強い語気だ。
「必要なことと思うならば、迷わずやれ!
誰が身内だろうと、撃ってみせろ!
そのようにぐずぐずとしていて、悪魔に勝てると思うな!」
遠隔でその発言を聞いたファリーハは、感極まっていた。
「おじいさま……! よくぞおっしゃって下さいました……!」
ディゼムの方は、引いていた。
(この姫様、肝座りすぎだろ……実際にあんたが王宮に居たとしても構わず撃て、っつってんだぞ王様は)
執務室の海将は言葉を失ったようだった。
だがその直後、国王のつぶやいた小さな一言を、ドローンは聞き逃さなかった。
「本当に連れてきているならば、顔の一つも見せて欲しいのだがな……」
立体映像を投射したまま、黒い鎧からプルイナが提案する。
『ディゼム、国王の救出作戦です。二手に分かれましょう。
我々は本当に射撃される前に、砲の設置された場所に急行します』
「あぁ。アケウとエクレルはどうすんだ」
『この場合、我々はファリーハを国王の執務室まで連れて行こう。
王弟とはいえ、ついでに海将を直接拘束できたほうが、話も早そうだしな』
「わかった。そうしよう」
アケウはエクレルの提案にうなづいて、王女に尋ねた。
「殿下、それでよろしいでしょうか?」
「頼みます。みんなで、大叔父さまを止めましょう! 急いで!」
ファリーハはそそくさと扉を開けて、外へと向かった。
二領の鎧とその着装者たちも、後を追う。
そして、彼らは飛翔した。
ディゼムとプルイナの黒い鎧は、海防砲のあるという北の小島、
アケウとエクレルの白い鎧は、ファリーハを抱え挙げ、宮殿に向かって。
それぞれ甲高く鋭い爆音を轟かせて、離陸していった。
王都南東の、やや古びた住宅街の上空。
そこに、二つの星が輝いていた。
***
外務省の事務所前から海防島の南岸まで、直線距離にして約13.5km。
軌道はおおよそ、弾道。
人間がボールをできる限り遠方に投げた時に生じるような、あの軌跡だ。
黒い鎧はそんな軌道を、スラスターの推進力で強引に飛んだ。
速度は秒速500m前後、最高到達高度はおよそ3700mにも及ぶ。
今まで飛行する際に出していた速度は、建物が近くにあったこともあり加減されていた。
だが今は、黒い鎧は音速を突破して飛んでいる。
抱き上げているファリーハに配慮する必要がある白い鎧と違い、こちらは内部のディゼムの状態にだけ注意すれば良いこともあった。
結果として、眼下をゆっくりと通り過ぎる(ように見える)王都と、海と小さな島々。
それが徐々に速度を上げて、ディゼムを目がけて落ちてくる――ような気がした。
「死ぬ……マジで死ぬ……!」
『死にません。本機が保護しています』
「いやこれ無理――高すぎじゃん……」
あくまで感覚の問題ではあったが、彼は今、高所に怯えていた。
何を思ったか、プルイナはディゼムを叱咤する。
『あとたったの15秒です。男の子なら我慢しなさい』
「いきなり婆ちゃんみたいなこと言うんじゃねえよ!」
わずかに冷静さを取り戻したディゼムは、王都の北東に浮かぶ小さな島を見た。
彼はそこに、鎧にそそのかされて頭から墜落しようとしている!
だが。
『姿勢制御。反動に注意して下さい』
プルイナが機体を制御し、黒い鎧はすさまじい気流の中でスラスターを作動させた。
頭から島に激突しそうだった姿勢が、180度反転する。
黒い鎧は足の裏を島へと向け、残り10秒。
島がさらに大きく迫る。
よく見ると海岸に、棒のようなものが生えていた。
大砲だった。
プルイナが、ディゼムに対して再びアナウンスする。
『減速します。振動に備えてください』
「こっちは動けないのに備えろっておかしいだろ!」
『心構えの話です』
背部の四基、両脚部の四基、両前腕部の二基、両肩部の二基。
合計十二箇所のスラスターから光が噴き出し、機体がさらに減速する。
そして、ディゼムとプルイナは発進から40秒ほどで、目的地に到達した。
海防島の南岸に、小さく砂塵が巻き上がる。
警備をしていた海軍の砲兵たちからすると、その出来事はわずかな間の出来事だった。
南の空にちらりと小さな星が光って、一分足らずで黒い鎧になって現れたのだ。
彼らの動揺は、当然といえる。
「な、何だ……!?」
「甲冑……!?」
海兵たちは
だが、プルイナの攻撃目標は彼らではない。
黒い鎧の両腕を、ディゼムの肩より上に広げて、左右に照準をつける。
狙うは、周囲の全砲台。
『エクスプローシヴ・バレット、連続行使』
右手の十一基、左手の十一基。
合計二十二箇所の多目的射出孔から、流体燃料が高速で射出された。
液体燃料は発射の衝撃で固体化し、円錐形をした極小の破砕弾となって飛翔する。
そして全ての砲に着弾し、がごご、と盛大な金属の爆音を海岸に響かせた。
「何だ!?」
「砲が……!!」
大砲は砲身の後方が大きく陥没、あるいは破断しており、発射どころか装填すらできなくなっていた。
『ディゼム、海防島の砲台は全て無力化しました。
エクレルとドローン各機からも、砲台全基の破壊が観測されています』
「え、えらく一瞬で終わったな……」
海兵たちは状況を理解しきれずにいたようだが、彼らの一人が、声を発した。
「そいつは異世界の鎧だ! 敵だぞッ!」
「こいつが……!」「撃ち方始め!」
ディゼムは攻撃を受けた――が、鉛の弾丸は鎧の装甲を破れない。
「……バインド・なんとか!」
海岸に残されたのは、破壊された多数の砲台と、粘着繊維で手足を拘束された兵士たち。
「く……だ、誰か……信号を上げろ……!」「動けません……」
離れた位置に居たのか、遅れてやってきた魔術兵が、黒い鎧を攻撃しようと構えた。
「そこの黒い鎧! 止まれ!」
しかし黒い鎧はそれを無視して、今度は王宮に向けて飛び立つ。
『アケウとエクレルはファリーハを抱えているので、まだ王宮に着いていません。
それまで我々は、宮殿前の広場で暴れます。
できるだけ多くの兵士の目を引きつけて、ファリーハが執務室に突入するのを援護して下さい』
「引き立て役か、しょうがねえ! やってやる!」
『その意気です』
再びスラスターを全開にして、黒い鎧は王宮への弾道軌道を描いた。