魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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2.呪詛、襲来
2.1.昇進の辞令


 その日は晴れていた。

 まだ昼にはやや早い時刻。

 魔術省の建物から、女が一人、護衛を伴って出てきた。

 まだ若い。

 眼鏡をかけ、後頭部で縛った銀髪を左右に振り、早足で歩いている。

 そこに、人の群れが殺到した。

 

「ファリーハ王女殿下、インヘリト通信です!」

「王都時報です。おうかがいしたいことが!」

「魔王の軍の侵攻が近いとの噂は――」

「異世界の鎧の装着者について――」

「海軍の今後の動向ですが――」

 

 護衛を隔てて記者に囲まれているのは、インヘリト王国の王女の一人だった。

 その上、弱冠十八歳にして王国の魔術政策を所掌する魔術省に主席官として所属し、実際に政策に携わっていた。

 そんな彼女が美貌の持ち主であり、食い下がる報道をさほど邪険にあしらわないとなれば、新聞社やラジオ局が殺到するのも無理はない。

 ファリーハは彼らを一瞥しつつ、足は止めずに告げる。

 

「今は時間がありません。進捗状況は夕方にまとめて各社にお送りしますので、それを記事にしてください」

「では、鎧の戦士の居場所だけでもお願いします!」

 

 海軍による蜂起が失敗に終わった翌日、王都は早くも平常を取り戻していた。

 インヘリト通信を始めとした新聞社は号外を刷り、ラジオ局では特別番組が編成された。

 騒動の中で目立った動きをしていた、黒い鎧と白い鎧、そしてその着装者についても、報道関係者が情報を求めていた。

 だが、魔術省とファリーハがそれを差し止めていた。

 

「だめです。延期になっていた旧世界探査を早急に進めますので、それまで彼らへの取材はお断りします」

「短時間でいいので、王女殿下の現状へのご意見を……」

「それもダメ! 今は忙しいのです!」

 

 語気を強めて馬車に乗り込むと、開拓省に向かわせた。

 普段なら相手にしているところだが、今は状況が違う。

 悪魔の跳梁(ちょうりょう)している可能性もある旧世界へと、転移の魔術紋様で飛び、少人数で探査を行う。

 そのための計画は鎧の召喚以前から詳細に詰めてはいたが、予定が狂っていた。

 最終的には報道関係者も連れて行く予定ではあったが、今はそのような余裕はない。

 ビョーザ回廊の爆破で、転移の魔術紋様は描き直しになった。

 探査隊に参加予定だった海軍の人員はクーデターの直後のため、念のため外した。

 そのため、代わりの要員を選出する必要も生じていた。

 具体的には、戦闘員三名、測量員三名だ。

 

(あと一日かそこらで目星をつけて、念のため思想背景も調べて、所属部署に出向を交渉して……)

 

 戦闘要員三名は陸軍から追加で出向させることが決まったが、測量員がやや難航した。

 いつ何時魔王がやってくるかもわからない、とはいえ、それで強引に連れて行くようなこともできない。

 結局、陸軍から一名、開拓省の測量局から一名、魔術省から測量の職歴のある者一名を洗い出し、何とか人員を揃えた。

 海軍の測量兵の方が戦闘訓練を受けている分望ましくはあったのだが、仕方ない。

 一方で、鎧と着装者二名については、待機させていた。

 ファリーハはふとそのことを思い出し、思案する。

 

(あとで様子見がてら、辞令を渡しておかないと……)

 

 開拓省で魔術省との合意書を取り交わしたあと、彼女は魔術省の官舎へと馬車を向けた。

 

***

 

 昼下がり、官庁街から少し離れた、官舎区域。

 各省庁の官舎が集中しており、賑やかな王都中心と比べるとずいぶんと静まり返っている。

 その中心に近い、魔術省の官舎の二階。

 ディゼムは個室のベッドに座って、考え込んでいた。

 陸軍の支給の制服を着た、黒髪の若者。

 彼はさきほど、ここへと移動したばかりだった。

 待機を命じられているので、勝手に出歩くわけにはいかない。

 ディゼムは、窓際に佇んでいる黒い全身鎧に、ちらと目をやった。

 鎧が眼下を光らせ、落ち着いた雰囲気の女性音声を発した。

 

『ディゼム。何か意見がありますか?』

「いや、ねぇけど」

 

 先日、異世界から召喚された二領の鎧の内の一つだ。

 極めて強靭な鎧であり、その内部に様々な兵器を持つ。

 そのうえ人格を持っており、名をプルイナといった。

 召喚の儀式の会場に現れた魔王の“影”の攻撃からディゼムを守ったのも、彼女だ。

 そして、彼はプルイナに選ばれた、黒い鎧の正式な着装者でもあった。

 元々は陸軍の一兵士だったディゼムだが、そうした因縁で、今や魔術省に出向中の特別要員だった。

 

(明日には旧世界か……)

 

 かつて地中から現れた悪魔によって、人類はこの孤島の王国を除いた世界の全土から滅ぼされた。

 それから150年、人口や資源の限界などから、滅ぼされた旧世界を悪魔から奪い返そうという動きが起こっていた。

 武力に勝るであろう悪魔に対抗するために、強力な味方――救世主を召喚しようとした結果が、この鎧だった。

 そして鎧に選ばれた彼は、半ば自動的にその旧世界への探査隊の一員として選ばれたのだ。

 その待遇として、部屋は個室を与えられている。

 それなりの広さがあり、風呂や調理場までついていた。

 昨日までのやや狭苦しかった地下室から一転、静かな官舎に一人。

 その静けさとは関係のないことだが、彼はいまだに自分の階級が二等兵のままだったことを思い出していた。

 

(このまま魔王を倒してもヒラ兵士だったりはしねえよな……?)

 

 その時、扉を叩く音がした。

 

「ディゼム、いるかい?」

「ああ」

「入るよ」

 

 短いやり取りの後、部屋に入って来たのは白い全身鎧だった。

 ディゼムは半眼で、中にいる相手の名を呼んだ。

 

「アケウ、何で着装してんだ」

 

 呼ばれた彼は、白い鎧の兜を脱ぎながら答える。

 

「君がどうしてるか気になってさ。

 だったら、プルイナもエクレルと一緒の方がいいかなって」

 

 アケウ・ハーン。

 ディゼムとは、学生時代からの友人だった。

 そして彼が着装しているのが、白い鎧、エクレル。

 黒い鎧と同時に、異世界から召喚されてきた鎧だった。

 白い鎧は鈴の鳴るような女性音声で、

 

『アケウ。当機には特にそういう感情はないぞ』

 

 意見を言うと、白い鎧は自分からばらばらと分解され、アケウの体から離れて人型に組みあがった。

 一方で黒い鎧は直立したまま、

 

『本機はアケウの気遣いに感謝します。実を言えば、我々には特にさびしいといった感覚はないので、孤独に関して気遣う必要はありませんが』

「え、そうなの?」

『そのように作られています』

「そういえば、君たちを作ったのって、どんな人?」

『一概にこうだとは言えませんが――』

 

 そこに、外からの声と、隣室の扉を叩く音が聞こえた。

 

「アケウ? いますか?」

「殿下だ」

 

 アケウはいそいそと扉を開けて、王女を出迎える。

 

「殿下、申し訳ありません。ディゼムの部屋におりました」

 

 彼に声をかけられて、ファリーハが部屋へと入ってきた。

 

「お待たせしました……二人とも揃っているのですね。朗報ですよ」

「殿下、お忙しい中どうも……朗報とは一体?」

 

 アケウが道を開けると、彼女は遠慮がちに部屋へと入ってくる。

 

「二人とも、昇進が決定しました。詳しくは、こちらの辞令を開いて確認してください」

 

 封筒を渡された二人は、それぞれ封を解いて中の紙を取り出した。

 一通り読んだアケウが、戸惑いつつ口にする。

 

「准尉……!?」

「俺もか……えーと、いくつ上……スか?」

 

 ディゼムの疑問に、ファリーハが答えた。

 

「七階級です」

「七階級!? そんな出世しちゃっていんスか!?」

 

 思わず声が大きくなるディゼムをなだめるように、王女は説明を始めた。

 

「辞令は陸軍から出ていますが……あくまで計画への参加に際して、二等兵では格好がつかないということで与えるものだそうです。

 なので、任務が終わって陸軍に戻っても、そのままの待遇かどうかはわかりませんよ?

 ただ、計画が順調なら恐らく年単位で魔術省に出向になるでしょうし、状況次第では移籍の話も出るかもしれませんね。

 魔術省に移籍となったら、軍隊をやめて魔術参事ということになりますが」

「官僚かぁ……」

 

 そうつぶやくと、ファリーハが補足した。

 

「わたくしの部下ともなります。

 ただそれも、このまま旧世界奪還計画に参加を続けるなら、という前提ですよディゼム。

 ちょうど二人に聞いておきたかったのですが……」

 

 彼らの顔を見て、ファリーハが切り出した。

 

「エクレルとプルイナは、既に旧世界奪還計画へ参加する意志を確認しています。

 ですが、その着装者であるあなたがた二人は、このまま悪魔との戦いに参加する意志がありますか?」

「僕はあります」

 

 即答したのはアケウだ。

 

「えぇ、まあ……俺も」

 

 ディゼムも曖昧ながら、首肯した。

 ファリーハは更に尋ねてくる。

 

「動機としては、どのようなものですか?」

「え……それはアレ、国のためとか、人類のためとか、そういう……?」

「……僕は」

 

 ディゼムの言葉が途切れたところに、アケウが続けた。

 

「僕が兵士に志願した理由は、家の生計を助けるためです。

 両親と兄弟がいる家があって……その家があるのはこのインヘリトで、ならば、僕は兵士としても、家族の一員としても、それを守らなくてはなりません。

 エクレルも手を貸してくれます。それなら僕は、着装者として、攻めて来る悪魔に対して、命がけで戦わなくてはならないと思っています。

 それが理由です」

 

 ディゼムは少しの間、黙っていた。

 彼の場合は、ただ単に語彙がないだけだったが。

 

「……俺もまぁ、アケウと似たような感じで。

 ちょっとこいつほど上手くは言えねえけど……得体の知れん奴らが人間を滅ぼそうってんなら、それはさせちゃいけねえとは……思います」

「参加すれば、死ぬことが有り得ます」

「……!」

 

 ファリーハが、やや語気を強め、言葉を区切って言う。

 気圧されるディゼムに代わって、アケウが答えた。

 

「僕は変わりません。もしも討ち死にどころか、情けない死に様を晒したとしても……

 それは僕がエクレルに選ばれた以上、受け入れなければならないことです」

『別にお前にそういう死に方をしてほしくて助けたわけじゃないんだが』

「そういう気持ちだってことだよ」

 

 エクレルが口を挟むが、アケウはそれに、真剣な眼差しで答える。

 

「ディゼムはどうですか。

 旧世界で本当に死ぬとしても、戦ってくれましょうか?」

 

 王女が、再度問う。

 彼は横にいるアケウの視線を気にしながら、言葉を絞り出した。

 

「何かの縁っていうか……こいつが戦いに行くのに、同じように鎧に選ばれておいて、俺だけ引き下がることはできねぇな……ってとこです」

 

 ファリーハは交互に、男たちの目を見た。

 真剣な視線に射抜かれて、戸惑う。

 一方で王女は、気が済んだようだった。

 

「……そうですね。そんなところでいいでしょう。

 辞令の通達がてら、あなたがたの意気込みを聞きたかったのですが……

 このまま鎧とともに、戦ってくれるということですね?」

「はい」

「そうっス」

 

 アケウ、ディゼムが答える。

 ファリーハは小さく息をつくと、言った。

 

「ありがとうございます。二人とも、よく決心してくれました。

 明日はいよいよ、ビョーザ回廊の跡地から旧世界――具体的にはアウソニアと呼ばれていた国の跡地に向かって転移します。

 時刻は正午。辞令に添えた書類にも書いてはありますが」

 

 そこで言葉を切ってから、彼女は付け加えた。

 

「それまでは、準備を整えつつ、休んでください。

 わたくしの用事は以上です。では、失礼」

「殿下も、ごゆっくりなさってください」

 

 アケウがそう声をかけると、ファリーハは微笑む。

 

「がんばりましょうね」

 

 そして退室し、ゆっくりと扉を閉じた。

 少しの間、部屋に静けさが戻る。

 

「………………」

 

 それを破って、ディゼムが言う。

 

「お前、姫様のこと好きだろ」

「やめてくれディゼム、不敬だぞ」

 

 珍しく不快感をあらわにするアケウを、ディゼムは更にからかった。

 

「否定しねぇんだ」

「恋とかじゃない、敬愛だ! やめろって!」

「わーったわーった、そういうことにしとく」

「ディゼム!」

 

 鎧たちは特に口を挟むでもなく、その光景を眺めていた。

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