魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る 作:kadochika
異世界から来た黒い鎧が、ディゼムに強制的に
それを見た魔王――ワーウヤードの女神のごとき美貌が、わずかに歪む。
一方で、ディゼムは一瞬で黒い鎧の中に飲み込まれて、戸惑っていた。
「…………!」
状況が、飲み込めない。
一瞬だけ暗くなったものの、彼の視界は明瞭だった。
耳には声が聞こえてきている。
『本機は、人命保護を実施しています。
アリスタルコス条約に基づき、市民財産保護規約を有効化して、事態に適用しました』
落ち着き払った、やや低い女の声。
だが、語る内容はよく理解できなかった。
『身体を楽にして、衝撃に備えてください』
「な、何でだ……!?」
それとは別に、彼の目の前にいる魔王が、小さく呟く声も聞こえる。
「……そうか、それが話に聞く予言の戦士とやらか?」
言うと、彼女は祭壇の上から、更に髪を繰り出した。
ディゼムを守る黒い鎧は、体制を変えず、なおも動かない。
鋭い音を立てて、金色の槍と化した髪の連続攻撃が、黒い鎧を襲い続ける。
とはいえ衝撃で倒れそうになると、鎧は足を動かしてバランスを取った。
内部のディゼムは、外部から手足を強制的に動かされ、更に動揺していた。
「んな、何だ……!? もしかして……!?」
彼にしてみれば、自分だけでその洞察に至ったのは奇跡的だったかもしれない。
(こいつ、あの黒い鎧なのか……!? 俺を中に入れて、動かしてる……!?)
ただ、彼にとってはもはや、それどころではなくなってしまった。
祭壇の上の魔王は自らの髪を操り、彼に対して無数の刺突を放ってくる。
金色の髪は、なおも彼に向かって、猛烈な勢いで伸縮を続けていた。
そんな状態で身体の自由が効かないというのは、もどかしさの極みだった。
(クソ、身体を楽に、なんて言われたってな……!!)
手足を勝手に動かされる状態で、攻撃にさらされる。
恐ろしい状態だったが、しかし実際には、彼は無傷のままだった。
全身を黒い装甲で完全に保護され、目の部分は赤く透明な素材で覆われている。
黒い鎧は、ディゼムを完全に守っていた。
状況をはたから見れば、神々しくさえ見える金色の女が、兵士を攻撃した。
そして、黒い鎧がそれを守っている――
ということになるだろう。
礼拝の広間の様子を見に戻ってきた警備の兵士たちが、それに気づく。
「あれは……女神、なのか……!?」「異世界の黒い戦士が……!」
女神とまで呼ばれたそれは、そこで髪束による攻撃を中断した。
次いで、やや不機嫌そうに語気を強める。
「ヒトよ。お前たちにそのような具足が作れるとは思えぬ。
やはり余を殺すために、どこからか
この堂の、そこかしこにある
その声は鎧の中のディゼムにも、はっきりと聞こえた。
声さえも幻想のように美しい、金色の女。
魔王と名乗っていたが、つまり、
(悪魔の……女王ってことか!?)
ディゼムは、鎧の中でただ、それを反芻することしかできない。
一方、彼女――魔王はそこまで告げると、黄金の篭手をまとった右手を掲げる。
再び黒い鎧から、落ち着き払った女の声が、彼の耳に入ってきた。
『1点の重大な脅威を検出しました』
やはり、意味は分からない。
だが、目の前で魔王の掲げた右腕が、輝きを強めていく。
鎧から聞こえる女の声も、それと何か関係があるような気がした。
(警告、してんのか……!?)
大聖堂を一撃で吹き飛ばす威力の魔術の力が、解き放たれようとした時。
ディゼムを閉じ込めていた黒い鎧が、爆発的に前方へと飛び出した。
「へぐぉ!?」
中の彼にはたまったものではない。
そして鎧は、魔王に向かって左腕を突き出し、
『エクスプローシヴ・バレット、行使』
「うぉ!?」
落ち着いた女の声と同時、指先から小さな弾丸が高速で飛び、魔力の集中していた魔王の篭手に当たった。
爆発が、魔力をかき乱してエネルギーを散らす。
「……!?」
そこまでの行動は予想外だったのか、美しい魔王の表情に小さな動揺らしきものが混じる。
黒い鎧は速度を落とさず――ディゼムを守ったまま――追撃。
拳骨の位置から二本の短い棘を伸ばし、突き刺す構えを見せる。
『ヴァリアブル・パラライザー、行使』
祭壇を駆け下りて、鎧はその拳を突き出す。
魔王が一歩後ろに下がり、紙一重で届かない。
「!?」
いや、拳が伸び切った瞬間に棘が射出されていた。
魔王はそれを、首をひねって回避――しきれなかった。
彼女の頬に、小さな傷が生じた。
そこから、金色の煙が流れ出す。
(血じゃねえ、何だ……? やっぱ人間じゃねえ……!?)
一方で、動揺からか、魔王の動きがわずかに止まる。
だが、黒い鎧は動きを止めず、鉄拳を連打した。
頭、胸、腹。
三連続の衝撃に、魔王はひらひらとした衣や黄金の髪、長い尻尾をたなびかせつつ吹き飛んだ。
だが、彼女はそのまま大聖堂の床を転がることなく、空中で姿勢を回復させる。
「はぁッ!!」
ワーウヤードは虚空に3つの火球を生み出し、黒い鎧に向かって投げつけた。
『クロスレンジ・レーザー、行使』
黒い鎧がそちらに顔を向けると、火球が撃墜される。
空中で爆炎の花が咲き、大聖堂の大広間に爆風が吹き荒れた。
黒い鎧はそのまま突撃、前蹴りを見舞い――これは魔王に左腕で防がれる。
逆に魔王が黒い鎧の左足を蹴り払い、一瞬滞空した鎧に拳を放った。
今度は黒い鎧が吹き飛ぶ。
「うぉ!?」
内部のディゼムは目まぐるしい動きに戸惑うも、何とか視線を動かし、外の状況を把握しようとした。
黒い鎧は吹き飛ばされながらも、全身のスラスターからの噴射で姿勢を制御し、何事もなかったかのように着地する。
その時。
『あなた、あなた。聞こえていますか』
「!?」
ディゼムは自分に対する呼びかけらしきものに、身構えた。
先程から聞こえていた、落ち着き払った女の声。
今までは一方的に、よくわからない内容を話していた声が、自分を呼んでいる。
彼には知る由もないが、翻訳の魔術の効果だった。
召喚の直後に王女が鎧へと施した魔術が、まだ効いているのだ。
もっとも、翻訳がされていても、難しい用語が理解できるようになるわけではないが。
『手短に済ませます。本機はプルイナ。あなたが着ている、この鎧です。あなたの名は?』
「……ディゼム」
戸惑いつつ、名乗る。
プルイナと名乗った声は、淡々と説明した。
『ディゼム。このままでは、我々は負けます。あの、魔王に対して』
「負ける……!?」
『具体的には、死にます』
「死ぬ……!?」
そこまで言葉を交わすと、魔王ワーウヤードが攻撃を再開した。
「堕ちよ」
ドームの穴を抜けて天から落ちてきた強烈な電撃が、
「うぅ……!?」
鎧は回避こそ間に合わなかったが、圧倒的な電圧・電流に耐え抜き、内部のディゼムも保護した。
とはいえ、無防備に何度も受けて問題がない、というわけではない。
次撃に備えて後退し、プルイナは続けた。
『あなたが、承認してください。この鎧が――本機が、あなたのものであると。
今、本機はあなたのものではありません。勝手に保護をしているだけで、動きに限界があります。
あなたが自ら認めて着装者となることで、本機はより大きな力を発揮できます』
「鎧に……お前に選ばれるってことか……?」
『そのような解釈も可能ですが、この場を生き残るにはそれしかありません』
魔王の超音速の飛び蹴りが、黒い鎧に狙いを付けていた。
黒い鎧はなおも動き、ディゼムを中に入れたまま、ワーウヤードの黄金の足首を掴んで止める。
反動で、床の石材が大きく削れた。
足を受け止められたままの魔王の髪が、無数の触手のようにうごめき、黒い鎧の装甲を突き刺す。
貫通はされていない。
しかし黄金の針の嵐は、なおも装甲を蝕もうとする。
宝石の土砂降りのような音が、装甲の内部まで聞こえてきた。
「クソ、とにかくお前が動き回るんで体中限界だ……!
俺を助けてくれるんなら何だっていい!
お前に選ばれたんなら、受け入れる――プルイナっつったな!」
魔王の髪は装甲を破壊こそしなかったが、黒い鎧は体勢を崩した。
彼女が足を振り上げると、掴んでいた足首を支点に、鎧は逆に空中へと蹴り上げられてしまう。
ディゼムは悲鳴じみた声で、救いを求めた。
「――俺を助けてくれ!」
『救助要請を受諾しました。あなたを着装者として認証します』
滞空した彼らを目がけて、魔王の拳が爆音を立てる。
だが、恐るべき威力を放ったワーウヤードの籠手を、黒い鎧は空中で掴み、止めた。
魔王が短く、うめく。
「何――?」
拳を引き戻そうとする魔王。
その拳を掴んで離さず、スラスター制御で空中に留まる黒い鎧。
プルイナが、宣言した。
『あらためて、全身を楽にしてください。
本機はこれより、第二段階の格闘戦を実施します』
「――!?」
肩のスラスターを上方に噴射させて、勢いよく着地。
黒い鎧はその反動を利用して、背負い投げに近い要領で、魔王を空中に放り投げた。
すかさず足裏からの噴射で空中に舞い上がり、魔王に追いついて
「くぁ……!?」
背部スラスターからの強烈な推進力も加わり、後ろから蹴られた魔王。
彼女はそのまま大聖堂の床に衝突し、石材を爆散させる。
そして黒い鎧は魔王の黄金の髪をひっつかみ、遠心力に任せて周囲の床へと何度も叩きつけた。
化粧の大理石やその下に敷かれた石材までが破壊される轟音が、礼拝の広間にこだまする。
されど、彼女も黙ってはいない。
「
その右手から突如、巨大な光熱の球体が膨れ上がり、発射された。
『対熱防御』
回避が間に合わず、鎧がその威力に吹き飛ぶ。
プルイナが着装者の視界を保護したため、ディゼムの目には眩しさは届かなかった。
だが、装甲を通して衝撃の凄まじさは伝わってきた――気がする。
背部と脚のスラスターからの推力で姿勢を立て直し、プルイナがアナウンスした。
『損傷なし。ハード・カッター、装備』
黒い鎧が、手首の装甲の内側からせり上がってきた突起を掴む。
引き抜くと、それは短剣だとわかる。
その短剣で――爆炎の向こうから、剣を構えて高速で飛びかかってきた魔王を迎撃する。
黒い刃が、魔王の剣の、黄金の刃を受け止めた。
どこに剣など携えていたのか、あるいは悪魔の魔術で生成できるものなのか。
金色の、神々しささえ感じる剣だ。
魔王本人も、あれほどの爆発でも傷が増えていないように見えるのは、やはり尋常ではない。
傷といえば、先ほど黒い鎧が拳から出した棘で付けた、頬のものだけではないか。
ディゼムは、黒い鎧のプルイナに話しかけるつもりで指摘する。
「おい、何か……あいつの傷、もう治りかけてねえか……!?」
相手の剣に対して短剣で切り結んだまま、プルイナが答える。
『損傷が確実に減少しています。治癒していると考えられます』
「このままでも俺たち、負けるんじゃねえか……?」
『負けません。必要とあらば、この建造物を破壊する規模の兵装を使用してでも、あなたを守ります』
「それはやめろ! 王様とか偉い坊さんとか、周囲に大量にいるんだぞ!?」
『すでに避難は進行しつつあるようです。このままでは敵の攻撃の余波によって、同じことが起きます』
彼らは魔王と戦いながら、鎧の中で問答していた。
そこに、魔王の後方から飛び込んでくる質量があった。
「何っ!?」
それは黒い鎧に衝突し、のけぞらせた。
衝突してきたのは、もう一方の白い鎧だった。
魔王がその尻尾を伸ばして、祭壇の上に直立したままだった白い鎧の足首を掴み、投げ飛ばしてきたのだ。
「ほう、思ったより上手くいったな」
その時にはすでに、魔王は黒い鎧のすぐそばまで接近していた。
鎧の全身が、黄金の髪によって空中へと縛り上げられる。
「う……!?」
内部のディゼムにも、黄金の髪からすさまじい圧力がかかってきているのが理解できた。
「ぐ……潰される、のか……!?」
『防御しています。身体を楽にしてください』
「いや何か圧迫感すごいんだけどな!?」
魔王が微笑む。
弱みを見つけてやった――というような。
そんな表情でさえ、美しかった。
「くく、そうか。つつかれるより、締め上げられる方が効くか?」
『クロスレンジ・レーザー、行使』
黒い鎧は頭部からレーザーを照射するが、黄金の髪には傷一つつかない。
魔王本体に照射するも、もはや物ともしないようだ。
『対象の耐久性の上昇を確認』
「クソ、動けねぇのか、プルイナ!?」
『現在の本機の駆動性能を上回っています』
締め上げる力はますます上昇し、黒い鎧の
頬の小さな傷口も消え去り、魔王は拍子抜けしたように口にする。
「これは“影”に過ぎぬ。本物の余が、遠く離れた地で見ている夢のようなもの。
それで殺せるとあらば、予言の戦士、恐るるに足らずか」
(んなこと俺に言われてもな……!?)
ディゼムは魔王の発言に当惑しつつ、戦慄した。
鎧の装甲がきしみ、彼の体にも徐々に圧力が伝わってきている。
そこへ――パン、と何かが弾ける音が響く。
「その人を離せ!」
銃声と共に、突撃してくる者がいた。
鉄兜の下から赤毛の覗く、若い兵士。
(アケウ……!?)
要人たちの避難は終わったのか、戻ってきたのだ。
魔王に向かって拳銃を発砲しながら、粉塵の漂う礼拝の広間を駆けてくる。
距離が離れていることもあり、魔王に当たる弾丸は一つもないが、それでも彼女の気を引くことには成功していた。
「うん?」
魔王ワーウヤードは、その黄金の髪の全てを、ディゼムと黒い鎧を縛るのに使っていた。
その一部を伸ばし、すぐ近くに転がっていた白い鎧を掴み上げる。
そしてアケウに対して、白い鎧を弾丸のように投げ飛ばした。
赤毛の兵士は、飛来した白い鎧に衝突し、即死する――ことなく。
今度は、白い鎧が
「う……!?」
そのまま鎧の破片はアケウに対して襲い掛かり、元の形状を復元しつつ彼を飲み込む。
鉄兜や拳銃、警棒などは、やはり排除された。
鎧に包まれた彼の耳に、言葉が聴こえてくる。
『緊急処置として強制着装を行った。当機はエクレルという。よろしくアケウ』
鈴の鳴るような女の声で自己紹介をされ、アケウはたじろいだ。
「何だ……!? なぜ僕の名を……!?」
『さっき、そこの黒い鎧の中の者がお前の名を呼んでいたからな』
「えっ……じゃあ、あの鎧の中には、ディゼムが……!?」
鎧に守られた戦士が、2人に増えた。
黄金の髪束を引き戻し、不機嫌そうにうめく、魔王。
「やはり予言の戦士か、こちらも!」
一方、アケウと白い鎧は違った。
「僕はこいつを追い払いたい。君が異世界から呼ばれた戦士だっていうなら、力を貸してくれないか、エクレル!」
『いいだろう。身体を楽にしていろ。下手に動くと、手足が折れるぞ』
黒い鎧の中では、プルイナがディゼムに状況を説明していた。
『あちらの着装者も、鎧を承認したようです。行きましょう、ディゼム。これならば、今度こそ負けはありません』
「お前が全部動かしてんだろ! もう体中痛えから、早くやっちまってくれ!!」
『要請を受諾しました』
黒と白、二領の鎧が疾駆して、突進してきた黄金の魔王を迎撃する。
魔王は魔力を背後から、鎧たちは推進力を背部のスラスターから。
両者は互いに強烈なエネルギーを放射して、真っ向からぶつかり合った。
左右それぞれの腕で、黒と白の鎧を押し留める魔王――いや、正確には“影”と自称していたか。
彼女は再び、咆哮する。
「ヒトの戦士ども、今ここで鎧を引き裂き、中の肉を削いでやる!」
大聖堂と周辺一帯が、衝突の衝撃で生じた爆風でびりびりと揺れる。
彼らは衝突の勢いのまま、魔王が開けたドーム天井の穴へと上昇して行った。
大聖堂の上空に飛び出した彼らを、正午の太陽が照らす。
そこでワーウヤードは、あることに気づいた。
自分と組みあっているのは、黒い鎧だけだ。
いつの間に消えたのか、白い鎧が、いない。
『ディゼム、魔王から離れます!』
「え!?」
黒い鎧が黄金の魔王を蹴り飛ばし、空中で距離を取った。
そこに――
『
「――――――!!!」
横合いから発射された超高密度のガンマ線が、魔王を直撃する。
金色の美の化身は、跡形も無く蒸発した。
「何だ、今の……!?」
ディゼムが空中で周囲を見回すと、白い鎧――エクレルが大聖堂の屋根の上で、片膝をついて構えていた。
何やら形状の変化した左腕を、前方へと突き出して構えている。
構えを解くと、腕の装甲はがしゃがしゃと元の形状に戻っていった。
ディゼムの疑問に、プルイナが答える。
『ガンマ・ガンです。
核レーザー砲に変形した腕部装甲の内部で小規模な核爆発を引き起こし、そのエネルギーを一つの方向へと偏向する。
即ち、本来ならば全方位へと拡散する核爆発の威力の、ほぼ全てを標的に向けてぶつける兵器です』
説明を聞き、ディゼムは滞空したままの黒い鎧の中でつぶやいた。
「……よく分からんが、何か、あっけなく終わったな」
『危険な役目を引き受けてくれて感謝します、ディゼム。
もし魔王とあのまま掴みあっていたら、我々も同じように消滅していたでしょう』
「なんつう恐ろしいことしやがんだよ!?」
ディゼムの抗議を聞きつつ、黒い鎧は全身の噴射口からの噴射の反動で、ゆっくりと降下した。
そのまま大聖堂の入り口を出て、やや離れた屋外の広場へと降り立つ。
アケウと白い鎧もそれに続くようだった。
小さく、ずしり、ずしりと音を立て、2領の全身鎧が着地する。
『現在近傍に脅威なし。強制保護、解除』
そして二人の着装者からばらりと崩れ落ちるように剥がれて、白い鎧と黒い鎧は彼らの隣に再び元通りに組み上がった。
召喚時と同様の、直立不動の状態だ。
着装者たち――ディゼムとアケウ――は、特にディゼムが強烈な運動をさせられたためか、ぐったりと姿勢を落とし、倒れ込む。
「ディゼム!?」
石畳に頭を打つ直前に、黒い鎧とアケウが、彼の体を抱きとめた。
礼を言いたいところだったが、それより先に、素直な心情が口に出てしまう。
「し、死ぬ……」
一人では立つことも難しい有様だったが、そんなディゼムを力づけるように、アケウが言う。
「まだ早いよ、ほら」
彼の視線の先を追うと、何やら歓呼のような声が聞こえてくる。
一人や二人ではない。
大聖堂の外に避難していた要人や魔術師、兵士たちの声だ。
「やった……!」「異世界の鎧が!」「私たちを守ってくれた……!」
多くの人々が安堵し、喜んでいた。
それはやや、複雑な気分ではあった。
(俺は何もしてねぇんだけど……)
疲労の限界がやってきて、そのあたりで一度、ディゼムの意識は途絶えた。