魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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2.8.追撃の地下通路

 アウソニアにも軍隊はあるが、自警団と呼ぶ方が適切な規模と装備だった。

 同国は産出する窒素資源のほとんどを肥料に使っているため、火薬を使った銃器などは数えるほどしか維持できない

 そんな彼らに対し、地上であれば雲にも届くような大きさの悪魔に立ち向かえというのは酷だろう。

 ホウセは真紅の槍を構えて、悪魔の目の前と呼べる高度まで上昇した。

 

「悪魔! あたしが相手だ!」

 

 とんがり帽子のような頭部の真横についた巨大な眼が、ぎろりと彼女へ視線を向ける。

 悪魔は無言で、ホウセに向かって腕を振り上げた。

 彼女は叫ぶ。

 

「鋭く……広がれっ!!」

 

 そのまま振り下ろせば、ちくりと刺さるだけで終わっただろう。

 だが真紅の槍の穂先は、ホウセの魔術に応じて変形、巨大化した。

 巨大化した槍が、ハサミ状の悪魔の手の、先端部分を切り落とす。

 悪魔がうなった。

 

「む!」

 

 そして別の腕を前方に突き出し、魔術を使う。

 

「ヒトよ、縮ま――」

「効くかぁッ!!」

 

 ホウセは悪魔に向かって突撃し、先端を巨大化させたままの真紅の槍を振り抜いた。

 ハサミの先端が、先ほどよりも、やや深く切り落とされる。

 空中にとどまる真紅の鎧の中から、ホウセが宣言した。

 

「このまま、みじん切りにしてやる!!」

「――!」

 

 悪魔の使った縮小の魔術は、効果を顕さなかった。

 彼女の魔術耐性が高いと見たか、悪魔は天を向いた口から再び煙を吐き出し始めた。

 そして、呪文を唱える。

 

「我が身よ、縮まれ!」

 

 悪魔の巨体が、急速に小さくなっていく。

 

(逃げるつもり……!?)

 

 ホウセはそう判断し、呪文を唱えた。

 

「強く、吹き飛べ!」

 

 地下であるアウソニアに強い風が巻き起こり、悪魔の発生させた煙を吹き払っていく。

 そこに消えようとしていた影を狙って、ホウセは真紅の槍を握って投げた。

 

「逃げんなぁッ!」

 

 真紅の鎧を構成する魔術紋様が彼女の膂力(りょりょく)を増幅し、槍へと伝える。

 槍は弾丸より速く飛び、煙で見えなくなりつつあった悪魔に迫る。

 悪魔の大きさは、二千メートルに迫る巨躯から縮まって、既に人間と同等程度にまで小さくなっていた。

 ホウセの放った真紅の槍が、その体を貫く。

 だがそこに、異変が起こった。

 悪魔は四本の腕で自分の腰の部分を掴むと、そのまま腕を伸ばした。

 すると、何と悪魔の両腕と首、そしてそれらを繋ぐ肩だけが、胴体から分離して動き出した。

 

「はい!?」

 

 思わず声に出してしまう、ホウセ。

 悪魔の腕と首は、四本の腕でそのままぴょんぴょんと跳ね、残った煙の中へと消えてしまった。

 追いかけようとして、陥没していない地表に降り立つホウセ。

 槍を引き抜くと、残された悪魔の身体が青く脆い石となって崩れ落ちる。

 そこに、黒い鎧が飛来した。

 

「倒したのか、ホウセ!」

「あなた、まだ小さいまま……」

 

 黒い鎧は、ホウセの膝から下程度の高さに縮んでいた。

 ディゼムは現状を認めて、ホウセに尋ねた。

 

「この状態、悪魔を倒せば治るってわけじゃねえのか?」

「倒せば治るはずだよ。自分を大きくしたり小さくしたりしたのと同じ術を、あなたたちにも掛けただけだろうから」

「じゃあ倒してねえのかよ!?」

「頭と腕だけ取り外して逃げたの! ソッコー小さくされたくせして偉そうに!」

 

 ホウセの非難にも負けず、ディゼムが抗弁した。

 

「いや、倒さなきゃやべえんだよ!」

 

 彼は暗闇となったアウソニアの空を指さし、

 

「あいつ、あそこにあった人工太陽を飲み込んじまったんだぞ!?」

「……マジで……!?」

『事実です』

 

 ディゼムの指さす先の暗闇を見て驚くホウセに対し、プルイナがそう補足する。

 そこに同じく、小さくされたままの白い鎧が飛来した。

 通信越しに話を聞いていたらしいアケウが、呼びかける。

 

「なら追わないと!」

『あの体積をどう収納しているのかは知らないが、奴を殺し、人工太陽を吐かせなければな』

 

 白い鎧は立ち止まらずに、スラスターを吹かせて煙の向こうへと消えた。

 

「俺たちも!」

 

 そこに、プルイナが制止をかけた。

 

『待ってください、ディゼム』

「何だよ!?」

 

 プルイナは黒い鎧の首元の装甲を展開し、小さな機械を取り出した。

 

『ホウセ、これを持っていてください』

 

 彼女がそれを、受け取る。

 指の幅ほどの長さもない、小さな棒に見える。

 黒い鎧と同様に、縮小されてしまっているようだ。

 

『通信機です。何かを我々に知らせたいときは、それに向かって話してください。白い鎧にも中継します。

 あなたの位置を知らせてもくれますので、必要に応じて我々が、その通信機からあなたに行く先を指示します。白い鎧と、三手に分かれて追いましょう』

「縮小は治さなくていいの? ちょっと時間はかかるけど、できるよ」

『急いだ方がいいでしょう。機能の低下も、致命的ではありません。我々はこのままの方が小回りが利くようですので、治療は後回しにします』

「マジかよ……」

 

 ディゼムがうめく。

 

「わかった」

 

 ホウセが了解すると、黒い鎧と真紅の鎧は、逃走した悪魔を追って二手に分かれた。

 縮小された黒い鎧、同じ状態の白い鎧、そして大きさはそのままの真紅の鎧は、それぞれに消えた悪魔を追う。

 最も早く肉薄したのは、最初に追いかけたアケウたちだった。

 エクレルが通信を用いて情報を共有する。

 

『こちら白い鎧、悪魔を発見した』

 

 ただし、アウソニアの地下居住区の詳細なマップはないため、黒い鎧と共同でスキャンをしながら構築していくことになる。

 損傷のない居住区を逃げる悪魔の影を追跡しながら、エクレルが分析した。

 

『あの悪魔、もう他に欺瞞(ぎまん)の手段を持たないようだな。あるとしたら、この状況で使ってこないのはおかしい』

 

 煙を吐き出して撹乱する手段は、鎧が赤外線やマイクロ波を用いた探査を行うので無効化されていた。

 悪魔の側も、煙に惑わされずに追いかけてくる白い鎧に使用を断念したようだった。

 やはり、種切れか。

 四本の腕を使って疾走を続けるその姿を追いつつ、アケウが推測する。

 

「今なら人間より小さいくらいだ……破砕(エクスプローシブ)(・バレット)でも倒せるんじゃないか?」

『待て。推測に過ぎんが、奴が飲み込んだという人工太陽、あれはあの体内でどうなっていると思う?』

「そうか、逃げるときに、縮小の魔術で自分ごと小さくしている……ってことは、あいつを殺したら、魔術の効果が切れる……?」

『今やれば、この場で人工太陽が元の大きさに戻ってしまうかもしれん。あれは直径二十メートルほどもあったな』

「人工太陽がこの場で元の大きさに戻ったら……とんでもない光と熱で、この一帯が焼き尽くされる……!?」

 

 実際には、人工太陽の状態は不明だった。

 健在のまま光熱を発し続けているか、不活化した夜の状態に戻っているか――あるいは破損して機能を停止しているか。

 後二者の場合でも、人工太陽が地下居住区で巨大化し、通路を破壊・閉塞させる事態は避けねばなるまい。

 

『ならば、何とかして奴を地表まで追い出す必要がある。だが……』

「近づけば、また魔術で小さくされるかも知れない……?」

『逆に巨大化させられても困るな。この地下居住区でそうされたら、身動きが取れなくなる。そうなるという確証もないが、警戒しておくに越したことはあるまい』

「捕まえたりするのは、魔術に対抗できるホウセに任せるしかないか」

 

 そこで、通信機からホウセの悲鳴が聞こえた。

 

「任されるのはいいけど、あなたたち今どこにいるわけ!?」

『ホウセ。あなたはそのまま直進、三つ目の角を右折してください』

 

 この場に居ない黒い鎧から、プルイナが彼女を誘導した。

 

「……信じるからね」

『感謝します、ホウセ』

 

 真紅の鎧は、ホウセが所持している純粋な魔術の産物だ。

 プルイナとエクレルとの間で交わしているような電子通信による情報共有ができないので、通信機を介して音声で、どちらかから誘導されるしかない。

 角を曲がり、階段を降り、アケウと白い鎧は四本腕と頭だけになった悪魔を追い続けた。

 だが、交差点に差し掛かった時、それは起きた。

 

「我が身よ、分かて!」

 

 魔術を使った悪魔が、三体に分裂したのだ。

 

『!?』

 

 エクレルが一瞬、困惑する。

 増えた二体がいずれも、幻影などではないように見えたためだ。

 レーザー光、赤外線、マイクロ波、音波。

 全てを反射する、質量があるとしか思えない分身。

 区別が付かなかった。

 アケウも、動揺する。

 

「エクレル……!?」

 

 その隙を、突かれた。

 反転して飛びかかってきた一体を、白い鎧は後退で回避しようとして――

 

「ヒトよ、拡がれ!」

 

 悪魔の魔術が直撃した。

 通路のど真ん中で、白い鎧と、その中にいるアケウの身体が変化し始める。

 縮小前の元の大きさに達し、そして今度は巨大化へ。

 周囲の被害を避けなければならない。

 エクレルはスラスターを噴かせて、白い鎧を更に後退させた。

 

『緊急離脱する!』

「間に合わない……!」

 

 そのまま、相対的に小さくなった通路にはめ込まれるようにして、白い鎧は動けなくなった。

 巨大化し、仰向けになったままの白い鎧の足裏側から、悪魔の声が聞こえた。

 

「そのまま朽ちて死ね」

『……捨て台詞を吐く程度の知能はあるらしいな』

 

 エクレルは逃げ去る悪魔に対して毒づくと、黒い鎧とホウセに連絡した。

 

『聞こえたか。すまないが、こちらは行動不能だ。プルイナにデータを送信したが、敵は実体のある分身を使って不意打ちをする。注意しろ』

『了解。ディゼム、敵悪魔に接近しています。警戒を』

「ホウセと合流したほうがいいんじゃねえのか?」

『マップを持っていない彼女が追いつくのを待っていては、敵を見失ってしまいます。

 敵は恐らく、アウソニアの外に出るつもりでしょう。

 アウソニアの場所を、他の悪魔たちに知られるのだけは避けなくては』

「俺らが先行して追いついても、アケウたちの二の舞になりゃしねえか」

『考えがあります』

 

 プルイナはスラスターの推力を高め、加速した。

 エクレルと共有した情報を元に、更に音響などからマップを作成する。

 近傍の通路や配管すらも使用して、悪魔に近づいてゆく。

 巨大化して通路に挟まった白い鎧を避けて、そして悪魔に先回りする形で、黒い鎧は天井の通気口から飛び出した。

 

「おい待て、真正面じゃ――」

『シルエット・プロジェクション、行使』

 

 ディゼムが抗議を終える前に、黒い鎧の数が増えた。

 本体と合わせて、三十体。

 

「!?」

 

 今度は、悪魔が狼狽する番だった。

 黒い鎧の群れは、縮小された姿のまま高速で悪魔の周囲を旋回し、本体の居場所を欺く。

 

「…………!」

 

 悪魔は、魔術の狙いを絞りきれずに、意図せず動きを止めた。

 それを見逃すプルイナではない。

 

『今です、エクレル!』

『発射する』

 

 合図とともに、通路で巨大化したまま動けずにいた白い鎧の、右肘から先だけが、スラスターの働きで発射された。

 人間がまるごと入れるほどの大きさがあるそれは、肘や指先から巧みに推力を噴射して、通路を飛び抜ける。

 それは階段を一階上がり、曲がり角を二回曲がり、悪魔とプルイナのいる通路へと到達した。

 白い篭手が、猛烈な速度で飛来する!

 

『回避!』

 

 魔術で縮小されていたプルイナは、スラスターのわずかな噴射だけでそれを避けることができた。

 だが、悪魔はそうはいかなかった。

 

「ぐぉあッ!?」

 

 悲鳴を上げて、わしづかみにされる悪魔。

 白い鎧の腕は、それまでと同様の猛烈な速度で通路を通り抜けた。

 障害物はギリギリで回避し、様子を見に来たアウソニアの住民に当たらないよう回り道をして、悪魔に再び魔術を使われる前に、地表へと飛び出す。

 黒い鎧から真紅の鎧のホウセへ、プルイナが指示した。

 

『ホウセ、次の階段を上がって地上へ!』

「分かった!」

 

 ホウセが鎧の推力を上げて、階段から地表へと飛び出す。

 その彼女の視界のちょうど中央に、狙いすましたかのように、悪魔が飛び出してきた。

 巨大化した白い鎧の腕に、人形のように握りしめられている、頭と腕だけの悪魔。

 それに向かって、

 

「鋭く、刺されッ!!」

 

 ホウセは真紅の槍を、渾身の力を込めて投擲した。

 ズガ、と鈍い音を立てて、槍が悪魔の頭部を貫通する。

 それを握りしめていた白い鎧の腕は、戦闘で荒れ果てた農地へと墜落した。

 すると、悪魔が死亡したということか、白い鎧の腕は縮小を始めた。

 だが同時に、悪魔が飲み込んでいた人工太陽が、元の大きさへと戻り始めたようだった。

 悪魔の死体の喉の部分が膨張し、弾ける。

 

「うわ!?」

 

 無数の触手状の突起を生やした、強烈に光り輝く巨大な球体。

 すなわち人工太陽が、アウソニアの地表に出現した。

 ずしりと畑に転げ落ちて、悪魔の残骸を押しつぶす。

 そこから生じる膨大な光と熱が、周囲を焼き尽くそうとしていた。

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