魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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2.9.鎧の救命活動

 人工太陽が、巨大化――いや、元に戻り始めた。

 すでに周囲の畑では、高熱の輻射で作物や置いてあった台車などが炎上を始めている。

 

「熱っつ……!」

 

 魔術の装甲越しにも強烈な熱が伝わってきて、ホウセは思わず後ずさる。

 このままではまずい。

 通信機を通して、彼女は鎧たちに相談した。

 

「プルイナ、エクレル! 人工太陽が地表に落ちて、このままじゃ大火事になる!

 何か持ち上げる方法はない!?」

『持ち上げればよいのですか?』

「元あった位置まで押し上げれば、自動で固定の魔術が発動して元通りになるはず。

 あたしの魔術と鎧だと、熱くて無理……!」

 

 そこまで言うと、彼女が上がってきた階段から、黒い鎧も地表へと飛び出してきた。

 魔術をかけた悪魔が死んだためか、既に元の大きさに戻っている。

 

『ではやってみましょう、ディゼム』

「ああ!」

 

 次いで、巨大化を解除された白い鎧も到着する。

 射出した腕の装甲は、いつの間にか元の位置に戻っていた。

 

『人工太陽があった元の位置は記録済みだ。やれるな、アケウ』

「もちろん」

 

 黒い鎧と白い鎧が、それぞれのスラスターを噴かせて人工太陽へと急接近する。

 

『シールド・フルイド、行使』

 

 莫大な光と熱を、鎧たちは磁性気体を機体にまとわりつかせて緩和した。

 そのまま接近して、直径二十メートルほどの人工太陽に接触する。

 ディゼムは周囲を焼き払う高熱を遮断する鎧の装甲に、驚嘆した。

 

「すげえな、お前がいなきゃ消し炭なんてもんじゃ済まなさそうだ……!」

『耐熱機能の許容範囲内です。気合を入れて踏ん張ってください』

「く、おりゃああああっ……!」

 

 二領の鎧は全身のスラスターのうち、向けられるものを全て下方へと向け、噴射した。

 推進の反動で、周囲の土砂が爆発的に舞い上がる。

 その力を受けて人工太陽は数秒で空中に舞い上がり、再びアウソニアの表土を照らし始めた。

 ディゼムたちはそのまま高度を上げていき、鎧の記録していた位置へと到達する。

 すると、急激なブレーキがかかった。

 

「どわっ!」

 

 その弾みで、二領の鎧はスラスターの推力方向がずれて弾き飛ばされた。

 機体の姿勢を回復しながら、プルイナが状況を分析する。

 

『人工太陽、固定されたようです。魔術の類による、非原子的な手法で連結されていたようですね』

「……これでひとまず、盗まれた太陽は元に戻ったな」

「こっちは終わったね。こっちは、だけど」

 

 アケウが、下方を見下ろしてそう言った。

 

***

 

 所定の位置に戻されたためか、人工太陽は輝きを弱め、再び夜の状態に戻ろうとしているようだ。

 地表では作物などが炎上していたと思ったが、火の手は消えていた。

 ホウセやアウソニアの魔術師たちが消し止めてくれたようだ。

 黒と白の鎧が地表に降り立つと、そこはひどく暗く感じられた。

 それまで人工太陽が眩しかった分の反動なのだろう。

 目が慣れてくると、人が集まっているのが見える。

 その中から彼らに向かって歩いてくるのが、ファリーハだとも分かった。

 

「三人とも、ご苦労様でした。ただ……その……」

「どうなさいましたか、殿下?」

 

 言葉を濁す彼女にアケウが尋ねる。

 

「アウソニアの理事会の方々が……わたくしたちに言いたいことがある、と」

 

 巨大化した悪魔が暴れたため、地表付近はそこかしこが崩れ、破壊されていた。

 居住区での悪魔の追跡でも、住居や通路に大きな破損が生じた個所がある。

 また大火にまでは繋がらなかったといえど、人工太陽が地表付近で元の大きさに戻ってしまった。

 ファリーハの後ろには、寝間着とはいえ身なりのよさそうな老人たちが腕組みをしてたたずんでいる。

 その中には先ほど会っていた理事会長の姿もあった。

 ディゼムたちにも、彼らが何を言いたいのかは容易に察しがついた。

 だが、彼らを前にして、黒と白の鎧は着装者からばらばらと剥がれ落ち、地下街の方向へと飛んで行った。

 

「て、おい! どこ行くんだ!?」

 

 ディゼムが呼び止めると、プルイナが答えた。

 

『人命救助です。時間をください』

 

 鎧たちはアウソニアの地下街を飛行しながら周囲を走査し、死者や負傷者の有無を調べた。

 重傷者らしき反応があればそこへ飛んでいき、重傷者に強制的に自身を着装させて、緊急医療措置を施した。

 辺縁(フロンティア)収奪(エクスプロイション)装甲(アーマー)を低レベルで作動させ、周囲の瓦礫から物質を吸収する。

 そして機体内部で薬剤を合成し、負傷者へと投与する。

 負傷者の体格はまちまちだったが、X(エックス)T(ティー)I(アイ)A(エー)S(エス)-6(シックス)には各部の寸法をある程度まで着装者にフィットさせる機能があった。

 大人に関してはこれで問題なく、子供には鎧の内部を医療用ジェルで満たすことで対応した。

 組織や切断された血管、神経を正しく縫合し、破砕された骨組織は可能な限り再建した。

 細胞の複製まではできないため、必要な重傷者には周囲の無事な人間から輸血を行った。

 これにより、全身打撲、出血多量で絶命寸前というレベルの負傷者も、安静にしていれば助かるという段階にまで数十秒で回復する。

 トリアージも同時に行ったが、重傷者を全て治療した鎧たちは、軽傷の者の処置に取り掛かり始めた。

 腕に怪我を負った者には腕の部分だけ、脚なら脚のパーツだけを飛ばせばよいため、この段階になると更に治療は早かった。

 異世界の鎧たちがそうしたことを行っていると分かり、理事会の長老たちはファリーハたちに、明日の昼に理事会へ来るよう通告して、その場を後にした。

 

「我々は復旧の指揮をとらねばならない。ここでは人手が足りん。君たちも瓦礫の撤去を手伝ってくれ」

 

 鎧たちが人命救助を行っている間、ディゼムとアケウは力仕事など、生身の体でやれることをした。

 ホウセは治療の魔術で、応急処置にとどまっていた重傷者たちの治療を補助した。

 ファリーハは応急処置など、細かい作業を手伝った。

 二時間もすると、ディゼムとアケウのもとに、黒と白の鎧たちが戻ってきた。

 

『221名、全ての負傷者の応急治療が終わりました。

 あとは魔術による治療というものに任せてもよさそうですね』

「すげえな、お前ら……」

 

 プルイナの報告に、ディゼムは驚嘆する。

 

『必要であれば我々も追加の治療を実施しよう。ただ……

 残念だが、12名の死者は蘇生不能だった。

 遺体の搬出はアウソニアの住民に任せようと思うが』

「そうか……お疲れさま、エクレル、プルイナ」

 

 汗を手でぬぐいながら、アケウが鎧たちを労った。

 

『ディゼム、着装してください。可能な人命は全て救助したのなら、XTIAS-6の機能で瓦礫を排除します』

「頼む」

 

 プルイナの要請を、ディゼムが受け入れる。

 二人はそれぞれの鎧を着装すると、解体しなければとても持ち出せそうにない、人の背丈ほどもある瓦礫を持ち上げた。

 作業を仕切っていたアウソニア人が、青ざめた顔で尋ねる。

 

「……! そ、そのまま……置き場まで持って行けるのか……?」

「あぁ、行ける」

 

 ディゼムが答えるが、彼は不安を隠せないようだった。

 

「慎重に頼むぞ……?」

「大丈夫です、ご心配なく」

 

 安心させようとするアケウだが、相手の表情は変わらない。

 落とす心配ではなく、鎧の力に対する畏怖というものか。

 

「行こう、ディゼム」

「おう」

 

 彼らは瓦礫の大きさを問わず、指示された場所へと運搬し始めた。

 

***

 

 地下に築かれた社会であるアウソニアで、最上位の意思決定を行うのが、理事会だった。

 七名の理事から構成される理事会は、今回ホウセが連れてきた外部からの来訪者の処遇についてを討議していた。

 だがその最中、悪魔が襲来し、人工太陽を奪おうとした。

 これを防いだのは、処遇を検討中だった外部からの来訪者たちだ。

 とはいえ、その過程でアウソニアに生じた被害は甚大だった。

 まず、巨大化した悪魔によって居住区が地下十階まで破損した。

 これに伴い、12名の死者が確認された。

 地上から資源を輸入することのできないアウソニアでは修復の資材が足りず、復旧の見通しが立たない。

 悪魔が縮小化して衣服の繊維に紛れ込んできた、という真相を知る者こそ誰もいなかったものの、悪魔の出現はファリーハたちのやってきた直後だ。

 彼女たちが意図的に悪魔を連れ込んだという疑惑が生じるのは、自然な流れといえるだろう。

 ただ、悪魔を倒した直後に来訪者たちによって行われた救助活動で、重軽傷者は全員が命に別条がない状態にまで回復し、また瓦礫の撤去作業への尽力で、彼らへの印象は大きく和らぎもしていた。

 総合的な判断が下されるまでの間、来訪者たちは別の区画で待機ということになった。

 移された先は、かなり深い区画の空き部屋だった。

 殺風景で、家具調度は一切ない。

 食料は、水と保存用の硬いパンだけが支給されていた。

 壁際に腰を落としたファリーハが、膝を抱えてうつむく。

 

「……国民である部下たちに続いて、今度は外国で、無関係の人々を巻き込み、死なせてしまいました。どう責任を取ったらよいのか……」

「しょうがないよ。そりゃあ、死んだ人たちはそうは思わないだろうけど、みんなよくがんばってくれたよ。

 あの救護がなかったら、もっと人が死んでたはずだし……そもそもあの悪魔、どうやって現れたのかも分からないんだから」

 

 声に涙の混じる彼女を、ホウセが慰める。

 

『恐らく、縮小の魔術を使用したのでしょう。

 自身を巨大化させ、他者を拡大・縮小できる。

 そんなことが可能なら、逆ができても不思議ではありません。

 例えば、自らを砂粒程度の大きさにまで縮小して、衣服や装甲などの表面にごみに紛れて付着したとするなら、我々でもすぐには検出できません』

「もしかしたら……わたくしの衣服に……!」

 

 たたずむ黒い鎧からプルイナが考察を述べると、ファリーハは両肩を抱え込んだ。

 その近くに座っていたアケウも、声をかける。

 

「殿下、あまりご自分をお責めにならないでください……」

『我々の判断ミスもあるな。このような事態になるなら、自己複製プリンターをもっと早い段階で起動して、兵器を生産するべきだった』

「あの段階でそりゃ無茶だろ……ていうか、いいのかよ勝手にガリガリ床削ってるアレは」

 

 白い鎧から意見を言うエクレルに対し、ディゼムが部屋の片隅を指さして尋ねる。

 そこでは、高さ二メートルほどに巨大化した自己複製プリンタが動作していた。

 直方体のフレームの中で、多数のアームをせわしなく動かし、何かを作っている。

 エクレルは疑問に答えた。

 

『先方から見れば、我々は悪魔を連れてきたかもしれない余所者だ。

 良くて追放、悪ければ処刑かもしれないな。

 まぁ、あのレベルの救命活動をしたのだから問答無用で処刑ということはないとも思うが……

 だがもし悪い方に転んだ場合、黙って殺されるのは嫌だろう?』

「嫌だけど、何かあれ、周りの床とか思いっきり削り取ってるじゃねえか……」

『利点を説明すればその程度のことは不問となるだろう。

 あの自己複製プリンターは、物質さえあれば生物以外は何でも作れる。

 食料だろうと武器だろうと、建材だろうとだ。

 アウソニアは地下世界……物資を調達したくとも地上に悪魔がいるのでは、気軽に外出して建材を切ってくるなどといったことさえ難しいだろうからな』

「ホウセは出入りしてるみたいだけど」

 

 名を挙げて、アケウが本人に話を振った。

 ホウセは肩をすくめて、

 

「あたしは一人でしか出入りしないから、見つからないようにすればいいだけだし、物資調達みたいなことを頼まれたこともないよ。みんな地下で賄ってる」

『そんな環境でだ、石でもあればそこからパンや銃を作れる道具があると教えてみろ。絶好の交渉材料になると思わないか』

 

 アウソニアに来た直後にエクレルが言っていたセリフを思い出し、ディゼムはぼやいた。

 

「自分たちは兵器だから便利な道具扱いするなって言ってたのはどこのどいつだよ」

『自己複製プリンターは付属品だから問題ない』

 

 ため息をついて、ファリーハが顔を上げた。

 

「何だか、罪を帳消しにしようとしているようで気が引けますが……そうするしかなさそうですね……」

『身も蓋もありませんが、そういうことです』

「……その上で事態を収めて、インヘリトに帰る手段を……魔術紋様の描画ができる術者の助力を求めなくては」

 

 王女はプルイナに同意して、今後の方針を口にした。

 そこで、自己複製プリンターの作業を眺めていたディゼムが、話題を変えた。

 

「どうでもいいかもしれんが、これ、具体的には何作ってんだ」

『時計です。ベルトを付けて、手首に巻けるような大きさのものですね』

 

 プルイナの答えに、ディゼムは質問を重ねた。

 

「手首につけるって邪魔じゃねえの?」

『嫌う人もいなくはありませんが……腕輪のようなものです。

 装飾にもなりますので、プリンターの性能アピールとしても、贈り物としても良いと考えました』

「そうか……まぁ普通に作ったらバカ高そうだもんな」

 

 ディゼムは価格を想像し、うなづいた。

 話題の切れ間と見たか、ホウセが提案する。

 

「……もう少し時間もありそうだし、今のうちに練習しておこう」

 

 ディゼムは彼女に視線を向けて、問う。

 

「何の」

「昨日いったでしょ、魔術」

 

 ホウセは両手を腰に当て、言い直した。

 

「あたしがあなたたちに、魔術の稽古をつけるの」

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