魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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2.11.役割の分担

 たちこめる、古い紙と糊の匂い。

 アウソニアの文書館は、小さな区画にあった。

 ほぼ全てが地下にあるアウソニアでは、建物という概念が薄い。

 “屋外”という感覚は薄く、壁と床・天井で仕切られた“区画”、あるいは“部屋”か“通路”かしかないのだ。

 文書館の中には、背の高い本棚が最低限の広さの通路を挟みつつ、窮屈そうに並んでいる。

 そんな本棚と本棚の間を、黒い鎧と白い鎧が歩き回っていた。

 人間より肩幅が広い分、本や本棚を傷つけないよう慎重に動いているようだった。

 鎧は、時おり背表紙にタイトルの書かれていない本を見つけると、取り出してぱらぱらと中身を確認していく。

 10分と経たず、作業は完了したらしい。

 ファリーハの前までくると、プルイナが黒い鎧から報告した。

 

『目録に誤記が一箇所存在しましたが、おおむね間違いありません。魔術紋様を主題とした書籍は534冊、それを除き魔術に関連した書籍は295冊です』

 

 黒い鎧は、書見台に広げられた白紙に手のひらを置き、ざらざらと滑らせた。

 鎧の手の平や指先に設置された多目的射出孔からインク粒子が噴射され、印字されているのだ。

 そして十数枚に渡る印刷物が、黒い鎧からファリーハの手に渡った。

 

『関連書籍の目録と、出発時に描画されていた魔術文様です。図は縮小比1:50で再現しました』

「ありがとう。それでは、わたくしたちは文書を集めて魔術紋様の習得に取り掛かります」

『我々も出発します』

「ご武運を」

『ありがとうございます』

 

 そういうと、黒と白の鎧は足並みを揃え、文書館を後にした。

 今の文書館にいるのは、ファリーハ、アウソニアの魔術師三名、文書館の司書一名のみだ。

 

「では、手分けして転移の魔術紋様に関係する記述を洗い出しましょう。

 そのまま転用できそうなものが見つかればよいのですが……よろしくお願いします」

「はい」

 

 アウソニアの魔術師たちは、それぞれ本の山を抱えて別々の机へ移っていった。

 ファリーハも、二十冊ほどを抱えて空いた机に向かう。

 地味な作業だが、転移の魔術紋様を正確に描画し、インヘリトに帰れるようになるには、これしかない。

 ファリーハは一冊を手に取り、タイトルを見た。

 

“光熱魔術・呪文と紋様の理論”

 

 目的のジャンルとは違うので、ひとまず脇においた。

 

“魔術紋様概論 距離の圧縮”

 

 次の本は転移に関係しそうな技術論だった。

 ページをめくり、内容を(あらた)める。

 いずれにせよ、保存状態は良い。

 糊の新しさ、付け方で、劣化しても丁寧に修繕が行われていることがわかる。

 ただ、文体の古めかしさは否めなかった。

 

(……古い記法も多い……読むには少し慣れが必要そうだけど)

 

 彼女たちの戦いは、始まっていた。

 静まり返った室内で、魔術師たちがページをめくる音だけがよく聞こえてくる。

 

***

 

 戦闘を有利に進めるに当たって、重要な要素。

 その一つが、距離だ。

 相手の武器が届かない距離から、一方的に相手を攻撃する。

 そうすれば、自分や味方は攻撃を受けず、無傷――あるいは少ない被害で敵を倒すことができる。

 長射程の兵器が、それを実現する。

 今のアケウは、白い鎧を着たままで、森の中に居た。

 土の地面に寝そべって、前後の差し渡しが三メートルはあろうかという巨大な銃を構えている。

 鎧たちが、自己複製プリンターで製造した武器の一つだ。

 

『ERR-15、クーロン・レール・スナイパー・ライフルだ。

 全長125ミリメートルの飛翔体を、秒速7500メートルで射出する』

「エクレル、何いってるのか全然わからないんだけど……」

『まぁ、名前はどうでもいい。重要なのは、敵を遠くから射殺することだ。一方的にな』

 

 標高はやや高く、300メートルほど。

 悪魔たちの集まっている廃港までは、直線で5キロメートルほどの距離があった。

 まずアウソニアを出て、ここまで飛んだ。

 ホウセの案内のおかげで、迷彩を使わずとも悪魔に見つかることはなかった。

 そして到着してからの半日を、自己複製プリンターによる武器の製造に費やした。

 自己複製プリンターは、自己複製と合体を繰り返して大きくすることができる。

 大きくすればするほど、内部でより大きなものを製造できるようになる。

 その分時間がかかるのだが、プリンターは、今では高さ2メートル、幅0.8メートル、長さ4メートルとかなり大型化していた。

 八本の脚で自力の移動が可能な、小さな防壁といった様子だ。

 移動能力は最低限、装甲などもないため、今のところは100メートルほど後方に下がらせていた。

 その内部では、土砂などを材料に予備の弾丸を製造させ続けている。

 エクレルが、説明を続けた。

 

『望遠で敵の悪魔の姿を拡大するから、グリップを微調整して、敵影を照準の中心に来るようにして、引き金を引け。それで悪魔は死ぬ』

「分かった。ディゼム、そっちはどう?」

「配置完了。こっちもいつでも撃てる」

 

 通信越しに尋ねると、返事が来る。

 隣りにいるかのように明瞭なディゼムの声は、表情まで想像できるようだった。

 

「拳銃も大して撃ったことねえのに、こんな長竿を使うことになるなんてな」

『そのために我々がサポートするのです。ERR-15は本機、およびアケウとエクレルのチームともリンクしていますので、我々だけで撃つより精度も上がります』

「そこらへんはさほど心配しちゃいねえけど」

 

 ディゼムの心境を読み取ったか、プルイナが尋ねる。

 

『……前衛のホウセが気になりますか?』

「そりゃお前……未だに俺が魔術抵抗をまともに出来てねえから、それで前を任せちまってるんだろ」

 

 真紅の鎧をまとった彼女は、悪魔たちの前に姿を晒して直接引きつける役目を引き受けていた。

 彼女自身の提案ではあったが、小柄な娘にそうした役回りをさせていることに、不本意がないわけではない。

 鎧を着ているのであまり意味はなかったが、ディゼムは視線をそらし、

 

「悪い気はしてる」

「気にすることないよ。あたしの鎧は、五つまでなら呪いを弾いてくれる。こっちもいつでも行けるよ」

 

 彼女の首元に巻いた通信機を介して、ホウセが返事をした。

 五キロメートルほど離れたところにいる彼女にも、会話は聞こえているのだ。

 

『では、射撃開始』

「……!」

 

 ディゼムとアケウが、引き金を引いた。

 鎧から、双方のレール・スナイパー・ライフルの銃身内部へと強大な電流が走り、ローレンツ力で弾丸を押し出す。

 先端の尖った弾丸がレールを抜けて、秒速7500メートルで飛翔した。

 一秒にも満たない時間ののち、弾丸は直撃し、部隊長らしき悪魔の頭部を粉砕した。

 

「うわ……ホントに届くんだ」

 

 偶然それを遠目に見たホウセが、つぶやく。

 死んだ悪魔たちの周囲にいた下級の悪魔たちは、動揺しているようだ。

 彼女も茂みから飛び出し、悪魔たちに打って出た。

 後方で、プルイナがディゼムに指示する。

 

『次、500メートルほど左に振ってください』

「よし……」

 

 照準が移動する。

 この距離で500メートル程度であれば、身動きの必要はなかった。

 レール・スナイパー・ライフルの銃身自体がバイポッドを動かして、照準を補正するためだ。

 ディゼムは物陰に隠れているらしい、五本足の悪魔を発見した。

 だが悪魔は、上空から打ち下ろされるように伸びてきた真紅の槍に貫かれて絶命する。

 ホウセとはデータリンクができないため、標的の選定は慎重に行わなければならなかった。

 

『取られてしまいましたね』

「危ねえな……次のやつを探すぞ」

『一ブロック先に標的。建物で隠れていますが、輪郭線を表示しますので、それを撃ってください』

「当たるのか……?」

『建物を七棟貫通しますが、そのまま射殺可能です』

「分かった」

 

 再び引き金を引く。

 着弾、殺害。

 それが可能なのは、廃港のはるか上空に、自己複製プリンターで再製造されたドローンが滞空しているためだ。

 ドローンたちは悪魔たちの配置を撮影し、鎧へとデータを送ってくる。

 プルイナが、それを元にホウセに指示した。

 

『ホウセ、周囲に悪魔たちが集まってきています。北西が手薄です。そちらに移動してください』

「了解!」

 

 指示を送ると、通信機の座標が北西へと移動を始める。

 ホウセがプルイナの指示通りに移動を始めたのだ。

 彼女は手近な悪魔たちを攻撃しては、離れるということを繰り返していた。

 手筈の通り、敵の集団は徐々に、北へと誘引され始めた。

 ディゼムとアケウは移動中の敵を、レール・スナイパー・ライフルによって魔術の射程外から攻撃する。

 こうして遠近の両方から敵の部隊を攻撃し、敵を引き付ける。

 電力供給のできないホウセの魔術の鎧ではレール・スナイパー・ライフルは扱えず、またホウセ自身も、それに匹敵する射程の魔術を持たないためだ。

 ちなみに、5000メートルという距離には確固たる根拠はない。

 これまでに遭遇した悪魔が使用した呪いの魔術の態様から、その射程限界を十~百倍ほどに見積もって算出した数値だ。

 だが、それなりに意味はあるようだった。

 今のところ、呪いの魔術などによる反撃は、ディゼムたちには一切来ていない。

 

『あまりやりすぎるなよ。退かれては意味がない』

「分かってる」

 

 エクレルの警告に対し、アケウは次弾を装填しながら、うなづいた。

 敵にはあくまで、「近づいて反撃すれば勝てる」と思わせなくてはならない。

 アケウとディゼムは、鎧の中から狙撃を続け、ホウセの後退を待つ。

 ホウセがあるていど後退してきたら、彼らはそれに合わせた距離を的確に後退しなければならない。

 連携が重要だった。

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