魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る 作:kadochika
悪魔の右手は、アケウの狙撃で破壊されたままだ。
悪魔は左腕だけで、ディゼムと黒い鎧の首を締め上げている。
その上、笑っていた。
「はははは、ヒトめ、甘く見ていた! 互いにな……!」
黒い鎧を通してディゼムの首筋にかかっているのは、途方も無い握力だ。
この力ならば、無垢の鉄柱であっても難なく捻じ切れるはずだ。
装甲の向こうから伝わってくる圧迫に、ディゼムはうめいた。
「ぐ……!」
『大気圏内とはいえ、軌道戦闘級のガンマ線レーザーに耐えるとは……!』
プルイナの声に、焦りが滲んでいるようにも聞こえる。
黒い鎧は、全力で抵抗した。
スラスターの勢いを載せて手足を振り回し、可能な限りの打撃を加える。
あるいは
しかし火器も、この至近距離でなお効果が薄い。
狙撃体勢にあるアケウは、ディゼムと悪魔が射線上に重なって、すぐには撃てない。
しかし、彼が射点を移すより、ホウセが悪魔の背後に回り込むより、ディゼムの動きが速かった。
「……ッ!!」
力が、集中する。
首を絞められたまま、下から振り上げたディゼムの、左右の拳。
その破れかぶれの一撃が、悪魔の手首を粉砕した。
「ぬ……!?」
たじろぐ、悪魔。
黒い鎧はスラスターを噴かせて後退し、即座に反転、突撃する。
『最大加速』
そのまま悪魔へと、ディゼムは無心で拳を繰り出した。
そこには、何かが宿っていた。
それだけではなかった。
――魔力!
彼の拳には、プルイナの知らない、未知の力による強化が加わっていた。
魔力が宿り、強度を更に増した鉄拳が、ペレグの
胴体が砕け、繋がりを失った頭部と手足が飛散する。
「――――!!」
その勢いのまま、黒い鎧は悪魔の身体を突き抜けて、激しく転がっていった。
『ディゼム!』
「…………」
ディゼムは意識を失っていた。
彼を保護するため、プルイナは黒い鎧を制御し、スラスターを噴かせる。
糸の切れた人形のように転がりつづけていた鎧は、機体の各部からバシバシとスラスターの噴射光を明滅させ、勢いを減殺する。
そして無理なく、膝と手のひらを地面についた体勢へと移行させた。
失意にうなだれている姿にも見えるが、着装者は気絶したままだ。
「ちょっと、大丈夫……!?」
動かなくなった黒い鎧に近づき、気遣うホウセ。
射点を取るために移動を始めていたアケウは、望遠でそれらを見ていた。
長大なレール・ライフルの照準を下ろして、つぶやく。
「……今度こそやったみたいだね」
『あぁ。ディゼムも命に別条ない。集まってきている他の悪魔を牽制しよう』
白い鎧はそのまま斜面に座り、再びレール・スナイパー・ライフルを構えて遠方の悪魔たちに照準を合わせ始めた。
エクレルがアナウンスする。
『プルイナ、ホウセ。ディゼムを連れてこちらに合流してくれ。
厄介なやつは片付いたようだから、警戒しつつ、当初の予定通り誘引を続行する』
追ってくる悪魔たちをひきつけながら、彼らは北上した。
アウソニアへの入口のある地域から、十分と思われる距離としてプルイナたちが推定したのが、およそ250キロメートル。
そこまで悪魔たちを引き離すのに、十日を要した。
***
鎧たちが姿を消してから、二日後。
アウソニアから北に100キロメートルほど離れた、街道の村の跡地。
150年ほど前に人間たちが放棄した――あるいは皆殺しにされた――村の一つだ。
その一角に、悪魔たちが集まっていた。
先日、半島の南端に集まっていた二万とは比べるべくもない、ごく少数。
多くの働き悪魔たちは、死体集めに使役されていた。
廃港に現れた人間たちによって殺害された、魔の戦士たちの死体だ。
そこに新たに、呪いの達人、ペレグの死体の破片が加わる。
村の広場だった場所に積み上げられた、悪魔だったものの欠片。
それを前にして、幾重ものローブに覆われた謎めいた悪魔が、何事かをつぶやく。
「~~――~~」
呪文だ。
呪文によって、魔術が発動する。
するとそれぞれの死体から、煙か粉末のような、きらきらと輝く気体めいたものが放出される。
それは流れとなって、呪文を唱えた悪魔へと集まり、ローブの奥へと吸い込まれていった。
記憶。
死体から、記憶をたどる魔術。
金色の流体を通してローブの悪魔へと、死んだ悪魔たちの記憶が取り込まれているのだ。
「……!」
ローブの悪魔は、ペレグたちの
人間が生き残っており、彼らの目の前に現れたこと。
彼らに戦いを挑み、殺したこと。
そして何より、人間たちが使っていた鎧だ。
噂となっている赤い鎧だけではない。
「黒と、白……?」
これは、何をおいても報告しなければならないことだった。
ローブの悪魔は、懐から人皮紙でできた冊子を取り出し、遠話の魔術紋様のページを開いた。
そこに一画を書き足し、魔術紋様を起動する。
報告の相手が魔王ではなく、最側近を気取っているヌンハーであることだけが、やや惜しまれた。
***
廃港から残りの悪魔たちを北へ引き離すのに、十日を要した。
250キロメートルの行程なので、一日あたり25キロメートル。
これは健康な成人が徒歩で八時間歩いた距離よりも短いが、あまり早く後退すると悪魔たちを引き離してしまう。
適度な休息を挟みつつ、彼らは交代で悪魔たちに攻撃を仕掛け続けた。
また、武器弾薬・食料などを製造し、電源を兼ねられるほどに大型化した自己複製プリンターがあった。
自己複製プリンターは自分で歩行する能力を持ってはいるが、飛行などはできないため、速度は徒歩よりも多少早いといった程度だ。
そうした条件が重なって、前述の速度となった。
結果、彼らはアウソニアの近傍地域に集結していた悪魔たちの集団を、北へと誘導した。
彼らが姿を隠した後も、悪魔たちはそのまま北上し、アウソニアから離れていった。
目的は達成されたとみてよい。
三人の人間たちと二領の全身鎧は、アウソニアへと帰投した。
帰り道については、空を飛んだため一時間とかからなかった。
自己複製プリンタは大きいため、一部を分離して持ち帰り、残りは自壊させた。
――彼らがアウソニアに戻って最初にしたのは、そうした内容の報告だった。
理事会室でホウセが、集まった長老たちに説明し、締めくくる。
「なので、アウソニアはもう安全と見ていいかなと。以上です」
理事会長は軽く息を吐き、彼女に告げた。
「ありがとう、ホウセとインヘリトの戦士たち。礼を言う」
「どうも」
「我々にとっても必要なことでしたので」
理事会長の言葉に対し、ディゼムは曖昧に、アケウは謙遜するように応える。
隣席していたファリーハが、書類をまとめたファイルを手に、立ち上がって言った。
「では、わたくしからも報告を」
『ファリーハ。申し訳ありませんが、少し待ってください』
「えー……」
黒い鎧からプルイナが、彼女をさえぎった。
今はどちらの鎧も、内部に着装者を抱えたまま臨席している。
『理事会の皆さんと、ホウセに。疑問があります』
プルイナは理事会室に集まった臨席者を見渡し、続けた。
『ホウセ。まず、あなた自身の人格などを疑っているわけではないことは、断っておきます。
しかし、本機はあなたがこのアウソニアにとって、どういった存在なのかについて知りたい。
今回の作戦は成功しましたが、部外者である我々が参加した戦いの成否について、あなたが報告しただけで、理事会の皆さんは受け入れた。
あなたがどういった経緯で、そこまでの信頼を得たのか?
あなたは大事な秘密だと言っていましたが……本機はまさに、それが知りたいのです』
「異世界の戦士よ、その話はまた別の機会に――」
「理事会長」
話題を変えようとする理事会長を、ホウセが止める。
彼女は長老たちの表情を見渡し、
「あたしは、話してもいいと思います。
彼らは悪魔を引き離すために十日間、粘り強く戦ってくれました。
あたし一人じゃ無理だったろうし……共有してもいいかなって」
理事会長は少しだけ黙った後、口にした。
「……君が構わないというなら、いいだろう。
了解を取り付けて回るわけにもいかないしな」
「それじゃあ」
ホウセは立ち上がり、ディゼムたちの側を向いて告げる。
「薄々思い至ってたとは思うけど、生き残った人類の国っていうのは、ここだけじゃないの。
インヘリトやアウソニア以外に、そういう国がいくつかあって……
あたしはそこを行き来して、お互いの近況なんかを書簡で交換する役目をやってる。
もうそれなりに長いことやってるから、それで信頼してもらえてる……のかな?」
ややきまり悪そうな彼女の説明を、長老たちが補足した。
「彼女は我々が、悪魔の
いや、今は君たちという存在がいるのだから、“だった”としなくてはならないかな」
「我々はこの150年で貨幣経済というものを失ってしまったが……報酬も、できる限りのものを提供しているよ」
ディゼムにもアケウにも、鎧たちにも、うっすらと、思うところはあった。
人間が生き残っている地域はインヘリトだけではなく、アウソニアがあった。
ならば、他にも?
そう考えるのは不自然なことではない。
多少の驚きこそあったものの、全く信じがたい話というわけでもなかった。
だが、
「やってるのは連絡と、まぁあとは細々した配達くらいなんだけど――」
「その集団というもの! 数と、それぞれの規模は……!? 教えてください!!」
説明を続けようとするホウセに、飛びかかるようにファリーハが席を立ち、にじり寄る。
ホウセは慌てて、彼女を静止しようとするが、
「えーと、今は待って、落ち着いて……」
「落ち着いてはいられません! というか、ホウセ……あなた……」
ファリーハは語気を徐々に弱め、ホウセの肩からゆっくりと手を放した。
「十日間も外出していたせいですか……?
ちょっと、臭いが……」
「だから待ってって言ったじゃん!?」
抗議するホウセから微妙に距離を取りつつ、ファリーハは陳謝した。
「すみません……話はあとで聞かせてもらうということで、今は風呂に入ってきましょう。アケウもディゼムも、入りたいでしょうし」
『XTIAS-6には自動で着装者の体を洗浄する機能もあるので、二人は衛生上問題ありません。精神的には別ですが』
『というか、ホウセにも鎧を貸して洗浄機能を使わせようとしたのだが、本人が嫌がってな』
補足するプルイナとエクレルに、ホウセが口を尖らせた。
「何度も言って悪いけど、得体の知れないもので体を洗いたくないの」
『これだからな……誰か早く、この薄汚れた子猫を洗ってやってくれ』
「だれが薄汚れた子猫だって!?」
「エクレル!」
エクレルに対して憤るホウセ、咎めるアケウ。
黒い鎧を着たままディゼムは、ホウセの肩を後ろから押した。
「ほれ、行くぞ。確かお前の家、風呂あったよな」
「すみません殿下、僕たちは先に、ホウセの家に戻っていますので」
「うがぁーーっ」
二人は暴れるホウセの腕を両脇から拘束して、理事会室から退出していった。