魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る 作:kadochika
ファリーハたちが旧世界から帰還したことで、インヘリト王国にはいくつもの情報がもたらされた。
まず、地上に生き残っていた人類の国が、インヘリトだけではなかったこと。
そして、細々とではあるが、それらを繋ぐ連絡が維持されているということ。
そうして得られた様々な情報は、議論も引き起こした。
生き残った人類同士のネットワークへ、インヘリト王国が加わるべきや否や?
そうした国々に対し、旧世界奪還計画への協力を求めることができるのか?
議論は、とても短期に決着しそうにはなかった。
また、魔王による再攻撃の懸念も、依然としてあった。
転移の紋様によって外国と行き来できるようにするということは、転移妨害の結界を解除するということでもある。
魔王やその軍が、転移の魔術で直接乗り込んでくる危険が高まるのだ。
ファリーハの帰還のために一時的に結界を解除したが、現在はまた展開している。
これを今後はどのようにするべきか?
旧世界奪還計画も、修正・縮小が検討された。
探査隊の壊滅によって、旧世界には予想以上に強力な悪魔が
軍事力を以て
だが、悪魔たちや旧世界の状況が不明なままでは、何を計画するにせよ見通しが立たない。
よって、新たな修正計画が提言されることとなった。
具体的には、二つ。
一つは、異世界からもう一度、別の救世主を召喚して戦力にするというもの。
もう一つは旧世界に、今度はより少数の使者を送り込むこと。
悪魔との直接対決をできるだけ避けつつ、情報を集めながら残存する人類のコミュニティと接触・交流を図る。
そして可能であれば魔術紋様による遠話、および鎧がもたらした超空間通信機によるネットワークを構築し、連絡を維持しようというものだ。
ファリーハは、いずれにも同意し、志願した。
召喚については、臨時の予算が承認されるということでもあるし、魔術省としても国益に貢献した実績が増えるのは喜ばしいことだ。
旧世界への再派遣については、大規模な軍を送る計画は先送りになったものの、少人数からなる使節の一員として、王女である彼女が適任者であることは間違いない。
彼女はアウソニアから帰還した翌日、官舎の会議室に人員を集めた。
黒い鎧とディゼム、白い鎧とアケウ、そしてホウセ。
その全員が集まると、彼女は自分以外を着席させ、説明した。
軍隊を送る計画は一度白紙になったこと。
それが再度の召喚の儀式の実施と、魔王の居場所を探りつつ、他の残存する国々と接触を図るという方針に代わったこと。
旧世界への先触れの一人として、自分が立候補したこと。
そこまで述べて、ファリーハは続けた。
「我々は、ホウセから重要な情報を手に入れました。
次の旧世界探査の目的は、そもそもを外交のための準備……つまりは使者の派遣とします。
そこに、当初からわたくしも代表として、隊の一員として参加したいと考えています。
本決まりではないのですが、根回しはしていますので。
つきましては、あなた方に引き続き、同行して欲しいのです」
「はい、是非」
「いいよ」
「給料出んならやります」
返答は、アケウ、ホウセ、ディゼムの順だった。
黒い鎧からプルイナ、白い鎧からエクレルが、それに続く。
『本機は特に異存ありません。妥当な方針だと考えます』
『当機も同意だ』
「感謝します。ディゼムの発言については、無論、給与に加えて魔術省から手当が出ます。
では……」
ファリーハは彼らの顔を見回すと、ホウセの席を向いて口にした。
「早速ですが、まずは連絡係として、経験豊富なホウセの意見が聞きたいと思います」
「うんうん」
「残っている人類のコミュニティについての詳細を教えてください。
複写したものを資料として関係部局に共有したいので、この地図に直接書いて欲しいのですが……」
ファリーハがホウセに鉛筆を渡し、更に彼女に向かって世界地図を広げる。
地図はかなり大きく、既知の旧世界の当時の地名などがそのまま書かれていた。
ホウセはそれを眺めて、うめく。
「…………ごめん、ちょっとこれだと……
あたし道順を地形とかで覚えてるから、この大きさの地図でどこにあるかは分かんない」
「む、ではこちらの冊子版でどうでしょう?」
「…………」
より縮尺の小さな拡大図が分割して描かれた本を受け取って読むが、彼女は顔を顰めて言った。
「…………これもちょっと……
大雑把な位置関係を書くから、それじゃダメ?」
「構いません。では、こちらの白紙に」
準備の良いことに、ファリーハは会議机の上に置いてあった、長辺が大人の腕の長さほどもある紙をホウセの前に広げた。
「自室で書いても構いません。その場合は、出来次第わたくしに教えて欲しいのですが」
「あ、じゃあちょっと待ってて。すぐ書くから」
「助かります」
ホウセはかりかりと音を立てながら、大きな紙に地図を書いて行った。
ディゼムは彼女の邪魔にならないように注意しつつそれを覗き込んでいたが、絵心があるのか、ホウセの筆は迷うことなく一つの世界を描き出していく。
そして二十分と掛からず、手製の簡単な地図が完成した。
「できた」
そこには、先日訪れたアウソニアを含めた地名が六つ、書かれている。
正確にはその中に、書いた後に書き潰したものが一か所あるが。
地名と地名の間は矢印で結ばれ、矢印の側には所要時間が書かれていた。
ファリーハは書き潰された箇所に何らかの事情を感じつつも、ホウセに尋ねた。
「この書き潰した地名は何ですか?」
「……書き間違えただけ」
「そうですか……では、預かります」
問い詰めるメリットは薄い。そう判断して、ファリーハはメモを要求した。
地図を彼女に手渡しつつ、ホウセが言う。
「アウソニアからは一番近いから、次に行くならアールヴィルがいいかなって思うけど」
「ありがとうございます、ホウセ。
あなたは重要な案内人ですから、その意見を尊重して検討したいと思います」
「へっへっへ……そう言われて悪い気はしないねぇ」
そこに、プルイナが黒い鎧から声を発した。
『一ついいでしょうか、ファリーハ』
「どうしました?」
『先日の作戦で、本機とエクレルはアウソニア周辺の地形情報を取得しています。
インヘリト王国の保有する旧時代の地図と比較対照することで、その位置を地図上に表すことが可能になると思います』
「なるほど……それはもしや、今すぐにでも可能ですか?」
それに応えて、白い鎧からエクレルが言う。
『可能だ、さっさと済ませてしまおう。
その大地図と、地図帳を貸してくれ。追記するが、良いな?』
「是非」
ファリーハが、鎧たちにそれらを渡す。
すると、黒い鎧のプルイナと、白い鎧のエクレル。
二人は電子通信で情報を共有ながら、大地図と地図帳、ホウセの覚え書き、そして先日の戦闘などで取得したアウソニア周辺の地形情報を接ぎ合わせていった。
鎧の掌の多目的射出孔からインクが噴射され、大地図と地図帳の上に地名や日付を書き込んでいく。
ファリーハたちが見守る中、10分ほどで作業は終了した。
黒い鎧が大地図を、白い鎧が地図帳を、ファリーハに見せながら言う。
『記入した通り、アウソニアはこの半島の中ほどにあると思われます。
縮尺の小さい地図帳の方には、先日の我々の移動経路を日付付きで記入してあります』
『残る四か所の残存人類のコミュニティも、ホウセのメモや文献データに残る記載から推定される候補位置を書いてみた。
あとはホウセと共に実地を訪れて、内容を補正していくだけだ』
「ありがとうございます、二人とも」
「何かあたし踏み台にされてない……?」
俯くホウセに、プルイナが声をかける。
『あなたが候補地を絞っていなければ、ここまで早くは終わりませんでした。
あなたのメモがあってこそですよ、ホウセ』
『まぁ、無くても問題なかったがな』
「あんたはすぐそういうこと言う!!」
軽口を言う白い鎧に食って掛かるホウセを、ディゼムとアケウが止める。
「まぁまぁ落ち着け」「ごめんホウセ! エクレル、そういうのはよせって言ってるだろ!」
「ともあれ、です」
ファリーハが、受け取った地図を丸めながら言う。
「今、旧世界史に詳しい議員や有識者と共に外務省の再建中なのですが、ホウセの意見はそこで協議します。
そこで、なのですが……」
「ん、何?」
王女の視線を向けられて、ホウセが問う。
「後日、委員会であなたにも証言をお願いしたいと思っています。
二十人からなる政治家たちに、あなたを引き合わせることになるのですが……
どうですか?」
「……怒られたりしない?」
「間違ってもそうしたことが無いよう、計らいます」
「じゃあいいよ、明日? 明後日?」
「委員会との日程の調整が終わり次第連絡します。
それまでは五人とも、このスケジュールの通りに待機していてください」
彼女は会議机の上に置いていた紙を、ディゼムたちに渡した。
書面を見たホウセが、口にする。
「あ、それであたしの予定だけ未定なのね……」
「できるだけ早く確定させますので」
「明日すぐとかはないよね?」
「少なくとも、明後日までは休んでいてください。
目立たない範囲でなら外出しても構いません」
「わかった。じゃあ観光案内でもしてもらおうかな、インヘリトの」
それを聞いて、ディゼムはうめいた。
「まさかとは思うが、俺にやらす気じゃねぇだろうな」
「あたしが迷子になったらファリーハに迷惑がかかるよ?」
「んじゃ大人しくしてろ!」
「やだ」
「何かあれば連絡しますので……それでは、解散としましょう」
告げる王女に、アケウが名乗り出る。
「殿下、お出かけでしたらお送りします」
「あ、裏手に馬車が待っているので不要です。ありがとうアケウ」
「は、はい……」
(かわいそ……)
ディゼムが王女のエスコートを断られるアケウを憐れんでいると、ホウセが提案してくる。
「じゃあ二人とも、今日はもう休みってことだから、あたしと一緒に魔術の練習しよう!」
「それもそうだね。折角だから習っておこう、ディゼム」
気を取り直して同調するアケウに、彼は抗議した。
「休みなんだから休ませてくれよ!」
***
五日後、旧世界探査委員会の意見交換会が開かれ、委員会に所属する議員たちが集まった。
また、有識者としてホウセ。また白い鎧をまとったままのアケウも参加している。
議長を務める議員が開会を宣言すると、ファリーハは起立して言った。
「では早速ですが、予告していた通り、旧世界に実在した悪魔の記録についてお見せします。
異世界の鎧たちが、これを動く像として記録し、映し出すことが出来ます。
少々物々しいので、気構えてご覧ください。
カーテンを閉めてください!」
配置されていた官吏たちがカーテンを閉めると、会議室が暗くなる。
そして、広く確保されていた会議室の前方に、白い鎧が進み出てきた。
議員たちはそれぞれなりに、始まるという演出に対して身構える。
「旧世界の悪魔ねぇ」「興味が無いわけではありませんがね」
「それでは、プログラムを始めてください」
ファリーハの合図と共に、白い鎧の両肩部分から映像が投影されると、会議室の空気は一変した。
「――!!!」
会議室前方に映し出された、一人称視点のホログラム映像。
黒い鎧や白い鎧が取得したデータを、映像化したものだ。
鎧の火器と鉄拳が悪魔を粉砕し、旧世界探査隊の脱出を助けているところが再生されている。
映像を再生する白い鎧からは、爆発などの音も再現して発せられていた。
会議室前方に、突如戦場の一角が出現したかのようだ。
騒然となる議員たちだが、さすがに彼らも見識が深く、度を失うようなことはない。
五分程度に編集された映像は、黒い鎧が魔力の拳で敵将を撃破したところで終了する。
先日の海軍のクーデター未遂の際、鎧たちが立体映像を投影できることを知ったファリーハによる発案だった。
「…………!」
インヘリト王国にある視覚情報技術は、着色したガラス板に照明を当てて拡大する、幻灯機のようなものがせいぜいだ。
魔術もあるが、多数の人間に視認できる高精細な映像を見せるほどではない。
そこに立体映像がやってきたのだから、会議の参加者たちの瞠目は推して知るべきところであろう。
ファリーハが、語る。
「わたくしは、実際に目の当たりにしました。
異世界の鎧の力と、彼女たちのもたらしてくれる英知の武器を。
それらは悪魔たちに対して有効なものです」
彼女の意図は、魔術省の主導権を強めること。
先日、彼女たちは不意の妨害によって準備不足のまま旧世界に転移してしまった。
幸運にもホウセの助けを得てアウソニアに接触することが出来たが、そうでなければ全滅していただろう。
転んでも、ただでは起きない。
道中の労苦を材料に、少しでも旧世界の奪還を早め、またその事業において主導権を握る。
それがファリーハの心胆だった。
ただ、悪魔の魔術によって着装者を攻撃されて窮地に陥った際の映像は、彼女の要望でカットされていた。
映像が終了し、議員たちが息を漏らす中、ファリーハは官吏たちに指示した。
「終了です。カーテンを開けてください」
会議室に日差しが差し込み、自然と参席者たちの意識も切り替わる。
「悪魔に対して有効な打撃を与える力が異世界の鎧に備わっていることは、ご覧頂けたかと思います。
議長、皆さま、ご視聴ありがとうございました」
ファリーハが礼を述べると、議長が頷き、議員たちに呼びかける。
「それでは、意見交換を開始したいと思います」
そこには有識者としてホウセも席に着いており、彼女はファリーハに庇われつつも、議員たちから質問を浴びせられた。
「――ではホウセさん。君は悪魔の溢れる旧世界を、生き残った人類の共同体を渡り歩いて連絡を取っていたというが……
道中、悪魔にはどのように対処しているのかね?」
「……大勢いるけど見せちゃって大丈夫?」
「構いません。今は説得力が大事です」
「わかった」
ホウセは席を立って会議室の前方に進み出ると、首と腰に巻いたマフラーを翻し、唱えた。
「
二本のマフラーが変形し、あっという間に真紅の鎧と槍に変わる。
インヘリトには伝わっていない魔術を見て、議員たちが小さくどよめく。
「それが、ファリーハ殿下をお救いしたという……!」「まさか、それも救世主の鎧のような……!?」
「魔術紋様によって動作する、魔術の槍と鎧です」
議員たちに答えて言う、ホウセ。
黒と白の鎧の威力の一端を映像で見た直後だけに、その姿はファリーハの期待した通りの効果を発揮していた。
ファリーハの見立てでは、彼女と真紅の武具は、白と黒の鎧ほどの攻撃力・防御力はないようだが、魔術に関しては上回っている。
総合的には五分といったところだろう。
議員たちは議長の許可を得て、続々とホウセに質問していった。
「その装備で、悪魔と戦っていると……」
「あ、普通にこそこそ隠れてます。さすがに悪魔全体を一人で相手にするのは無理かな……」
「では、悪魔の一匹や二匹なら――」
「バギャツ先生、彼女の赤い鎧の力は興味深いが、そちらはファリーハ殿下と魔術省さんに別途まとめてもらいましょう。
今は彼女から旧世界のことを教わるのが優先ということで」
「申し訳ありませんが、そういうことでお願いいたします」
「む、畏まりました……」
別の議員の援護を受けつつファリーハがそういうと、議員は声を静めた。
そしてまた別の議員が、話題を元に戻す。
「この配布された覚え書きでは、ファリーハ殿下が飛ばされたアウソニアを含め、残存する人類の共同体は五ヶ所ということですな」
「そうなります」
すると印刷された配布物を読んだ議員たちからは、質問が百出した。
ファリーハが、一つ一つに答えていく。
「アウソニアはそもそも規模が小さい。この人口規模では、兵力として五百人揃えられればよい所でしょうか……
これは本邦では、辛うじて一個連隊が組めるかどうかといった人数です。
食料確保にも苦労しているという有様で、戦力として数えていいものか……」
「正面戦力となってもらう必要は必ずしもありません。
避難経路やバックアップの拠点となってもらうだけでも十分です」
「アールヴィル。アールヴ種族の国だそうですが、そもそもアールヴとは本当に実在するのでしょうか?
美しく魔術に優れるとは聞きますが、人間を惑わすという伝承もあります。
実在が確認できたとして、そうした伝説が事実でないという確証が得られなければ、協約に反発する国民も出るかも知れません」
「まずは実在の確認から行っていきたいと考えております。
ホウセが立ち寄れているならば、国家としてはそれ以上の取引ができる可能性があります」
「このトラルタという国、人口はともかく異空間の中にあるという話ですが?
どうにも胡散臭い秘境伝説を
書記官長なる人物が実質的な指導者だというが、選挙制度のない国と正常な交流ができるのかどうか」
「そうした点を確認する意味でも、行かねばなりません。
敵なのだとしたら、やはり情報収集は必要でしょう」
「メイエなる地域ですが、住民が巨大な魔術で一つの湖と化して悪魔の手を免れたというのは何とも……身の毛がよだちますな。
保障はあるのですか? そんな人間であることすらやめてしまった者が、我々の味方となる保証が?」
「敵にならなければ、それも収穫です。
液化を解く方法を研究し、当地の人々を元の姿に戻して保護することまで視野に入れておくべきかと」
「このウィッシェルなど、大地もろとも空中に浮き上がって生きる技術を持っているそうではありませんか。
そんな力がありながら悪魔の蔓延る地上を放置して、他の地域を見下しろくな交流を持とうとしない連中ですぞ。
我々を同等の対手と認めるでしょうか?」
「試してみなければ始まりません。
最低でも、敵に回らないかどうかだけでも確認しなければ」
結局のところは、それまでホウセが緩やかに連絡を繋いでいた国々にとって、インヘリトは突然現れた大国だ。
その先触れとして接触していくことになるならば、相手国の反発も考えられるだろう。
彼女の情報があるとはいえ、基本的には未知ならば、恐れていても始まらない。
議員たちも、積極的に反対する者はいないようだ。
意見の応酬が一段落する様子を見て、ファリーハは呼びかけた。
「皆さまの仰る通り、課題が多いのは確かです。
一度は魔王なる悪魔が攻め込んで来た以上、あまり多く時間を掛けたくはありませんが……
しかし急ぎすぎても事を仕損じる恐れがあると考えております」
議員たちの反応は、概ねが同意や、致し方なしといった様子だ。
「アウソニアと彼女の案内を足掛かりに、着実に連帯を強めていく、という方針で良いのでしょうか?」
「国民はどう反応するでしょうな」
「そこは広報に力を入れるしかないでしょう」
「武力を背景に協力を要請する手も考えておくべきですな。
こちらには異世界の鎧がある」
「出来る限り避けたいことですが、丸腰では侮られてしまいかねませんからね」
議員たちの中には、強硬論に傾きそうな者もいる。
無理もない話だ。
先日の海軍のクーデター未遂においては、正面からではなかったとはいえ、異世界の鎧が海軍を手玉に取り、クーデターを未遂に終わらせて見せた。
そこから転じて、「悪魔にどれだけ通用するか分からない軍隊に金をかけるより、召喚事業に力を入れるべきではないか?」といった論が、強まっているのだ。
元海軍の退役軍人である議員が、あまり愉快ではなさそうに目を細めているのが見える。
その後も議論は続いたが、会議の結論としては、以下のようになった。
・派兵によって旧世界に橋頭保を築く作戦は、一時中止する。
・ホウセを案内人として、旧世界の国々に使者を出す。
・使者として、王族が一名以上同行する。
・可能であれば段階的に国交を樹立し、頻繁な情報交換が可能な体制を整える。
・更に状況が許せば、対悪魔の同盟を結ぶ。
・情報交換の方法については、小規模な遠話の魔術紋様では出力が足りないため、広い施設を整備する。
・それでも足りない場合は、鎧のもたらす超空間通信機を使用する。
手段としては、転移の魔術紋様で移動可能になったアウソニアを足掛かりにすることになる。
そしてアールヴという種族の存在がやや不確実視されるが、まずは地理的に最も近いアールヴィルを目指すという方針で、委員会は一致した。
ただ、途中で、次のような一幕もあった。
「ホウセさん。そもそも君の所属は?
どちらの出身なのかね?」
「あ……それは……もう滅びてるんで」
気後れした様子のホウセに対し、議員が陳謝する。
「……申し訳ないことを聞いた。
そこに重ねてすまないのだが、君の故郷は本当に滅びたのだろうか?
生き残りは君だけなのかな?」
「…………」
「パフォーリ議員、申し訳ありませんが、そこはまた別の機会にお願いいたします」
ファリーハが止めると、議員は素直に引き下がった。
「そうですね。失礼いたしました殿下、ホウセさん」
「…………」
だがファリーハには、思い当たりがあった。
議員たちに配った地図の原本は鎧たちが清書したもので、五ヶ所の地名が記されている。
だが、ホウセの書いたメモには、塗り潰された第六の地名があった。
それは書き損じなどではなく、ホウセの出身地なのではないか?
(比較的近年に滅びている? 彼女はそこの生き残り……?)
憶測にすぎないことだが、ファリーハは手帳の隅にそれを書き記しておいた。