魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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3.3.今後の予定

 翌日、ファリーハは鎧と着装者たち、そしてホウセを再び呼び集めた。

 

「顔合わせを兼ねた単なる申し送りなので、適当な席で楽に聞いてください」

 

 場所は官舎の会議室で、ディゼムたちは彼女の言う通り、思い思いの席に腰かけた――アケウだけは背筋を伸ばしているが。

 

『では方針は決まりか?』

 

 彼の席の後ろに佇む白い鎧から、エクレルがファリーハへと確認する。

 

「そうですね。今のところはアールヴたちの国を捜索し、可能であればアールヴたちと国交を樹立する。

 可能ならばアールヴィルを拠点として使わせてもらい、転移の魔術紋様も設置させてもらう。

 そしてこちらも可能ならば、ホウセに秘匿していたものが何なのか明かしてもらう。

 これらをした上で、アールヴィルを次の拠点として、更に次の人類の集団の所在地へと移動し、同時に魔王の居場所の探索を進めることとします」

「やはり次の国には、殿下も行かれるのですか……?」

 

 おずおずと尋ねるアケウに、ファリーハが答えて言う。

 

「国家として行くのですから、その場で外交判断の可能な責任者がいなければなりません。

 とはいえ危険がないわけではありませんから、ここはわたくしが適任となるわけです」

「御意志なのは分かっているつもりですが……殿下が危険に晒されていいわけではないと思います」

 

 その身を案じるアケウに、王女は微笑んで応じた。

 

「王位継承者はお父様ですし、議員たちは会期中です。

 異世界の鎧に選ばれたとはいえ、あなた方だけに危険な役目を負わせるのでは、王族として示しが付きませんので」

「ご家族とお話は……されたのですか?」

「既に済ませております。まぁ……呆れ半分といった所ではありますが」

 

 ディゼムは、やや離れて隣に座っていたアケウの肩に手を伸ばしてつつき、上半身を傾けて小声でつぶやいた。

 

(お前が姫様をガッチリ守ればいい話だろうがよ)

(茶化すなよ……!)

 

 黒い鎧からはプルイナがそれを聞いていたが、彼女は黒い鎧の眼窩を赤く点滅させながら関係のない内容を発信した。

 

『目的は了解しました。あとは人員の選抜と、日程の調整だけですね。我々はいつでも行けます』

「心強いですね」

 

 ファリーハは頷くと、一同を見渡して告げる。

 

「ホウセを案内人として、アケウとディゼムには改めて、それぞれの相棒と共に護衛として来てもらいます」

「お任せください」「了解ス」

『他の人員については決まっていますか?』

 

 黒い鎧からの質問に、ファリーハが答えた。

 

「できるだけ身軽にしたいので、今回はこの六人だけのつもりです」

「少なすぎるのでは……」

 

 目を細めるアケウに対して、背後から白い鎧が言う。

 

『悪い考えではない。前回探査隊がどうなったか忘れたわけじゃないだろう、アケウ』

「それは……そうだけど」

 

 更に黒い鎧から、プルイナも補足した。

 

『人数が増えればそれだけ動きが鈍ります。

 集団行動の訓練を受けた軍隊ならばある程度改善されますが、しかし今の我々では、複数の兵を確実に悪魔から守れるとは限りません。

 守る対象は少ない方が、より確実に防御できます』

『人手の必要な局面も、無論あるだろうがな。

 だが歩兵隊を随行させるなら、もう少し火力が欲しい。

 最も数の多い兵士と思われるあの半透明の悪魔を、少なくとも200メートル先から殺傷できるくらいの威力が』

「出発はいつ?」

 

 ホウセの質問を聞くと、ファリーハは少し間を置いて、

 

「そのことなのですが……先日のクーデター未遂などで異世界の鎧の性能が確認されたことで、議会全体がだいぶ活気づいておりまして……

 我々が不在の間に、異世界から追加の救世主を召喚して更に戦力を拡充するための補正予算が承認されたとのことです。

 併せて、次の召喚の儀式の準備が、もう始まっていると」

 

 それを聞き、ホウセとアケウが口にする。

 

「え、それってつまり……」

「エクレルたちみたいな鎧を、また召喚しようということですか?」

「目論見としてはそのようですね。

 魔術省としては、結果の保証はできないと念を押したようですが……」

 

 答える王女に、今度はプルイナが質問した。

 

『ファリーハ、我々の召喚にかかった費用を知っていますか?』

「六十億トゥーカです。今年魔術省に割り振られた予算の半分ほどになります」

『次回の召喚も同じ額がかかるのですか?』

「あなたたちを召喚することで高級な魔術塗料を大量に消費したので、材料費が高騰しています。

 紋様の設計は流用できるので工期は短縮できると思いますが、二、三割増し程度になる見通しですね」

 

 それを聞いて、鎧たちは高速で電子通信を行った。

 人間で言えば、内緒話に近い行為だ。

 通信は、エクレルが先行した。

 

『インヘリト王国の懐事情はともかく、まさか、またXTIAS-6が召喚されるのか?

 26世紀末の段階で、まだ量産試作の我々しか存在しないはずだな。

 それより前のプロトタイプや旧型を呼ぶつもりか、それとも未来から生産型を召喚できるのか』

『多元宇宙論については不明瞭なことが多すぎますが、我々が今ここにいるように、他にも宇宙があるのでしょう。

 そうした所から戦力になりうる存在を召喚するということなら、むしろ可能性は低いはずです。

 魔術による召喚という行為自体が、我々に計測できない未知の現象ですから、ここは状況を見守るべきでしょう』

『状況次第では妨害もするということだな』

『この世界の人類と、召喚されるものの間に共益が成立すればよいのですが』

 

 そして、彼女たちは通信を終えた。

 プルイナが、ファリーハに音声で問う。

 

『ファリーハ。新たな予算はやはり、増税で賄われるのですか?』

「そうなりますね。税収の上振れを充てることもできますが、そちらはそこまで大きくはならないはずなので」

 

 次いで、エクレルの音声が鳴った。

 

『お前たちの政権の支持率についてはコメントしないとして、召喚が成功したらどうなる?

 戦力が無事に追加されるとして、その被召喚者も次の目的地に連れていくのか?』

「何もかも未定ですが、問題なく協力してくれる力のある相手であれば、本土防衛に置かれるでしょう。

 あまりにも好適であれば、我々に同行することも考えられるでしょうが」

『召喚の儀式にはあなたも参加するのですか?』

「そうなります。我々が留守にしている間にだいぶ話が進んでいましたが、召喚の儀式にはわたくしも参加したいので、アールヴィル行きは召喚が終わってからとなります」

 

 それを聞いて、ディゼムが問う。

 

「んじゃ、しばらく暇ってことスか?」

「当日は念のため、あなた方にも出席してもらいますが……儀式は十日後の予定です。

 三人とも、申し訳ありませんが予定は空けておいてください。

 また魔王が襲来しないとも限りませんからね。

 儀式の日程は決まり次第伝えますので、それまでは休養ということで。

 この機会に二人は、実家に顔を出してきた方がいいでしょう」

「え、いいスよ……」

 

 難色を示すディゼムを、アケウが説得する。

 

「だめだよディゼム。お祖父さんもお祖母さんも心配してるよ絶対に」

「いいんだよ! 兵隊になってからは年に二回くらいしか顔だしてねぇんだから……」

 

 抵抗するが、そこにファリーハが加わった。

 

「いえ、この際ですから、強く推奨します。鎧が召喚されてからというもの、一ヶ月も拘束してしまいましたしね。

 嫌な言い方になりますが、生きて帰れる保証のある旅ではないと、先日も言いましたよね?

 鎧の加護があり、あなたがたも魔術の心得を知ったとはいえ、それでもです。あとで改めて、遺言状を書いてもらいますが」

「ゆ、遺言……」

「わたくしも書きます」

 

 困惑するディゼムに、彼女は言い切った。

 しかし確かに、前回は腫瘍まみれになったり魚にされかけたりと、死ぬような思いをした。

 次こそ本当に死ぬかもしれない、というのは妥当な懸念だった。

 そこに、プルイナが畳み掛ける。

 

『本機とエクレルはバックアップを作成できますが、倫理上、我々がこの世界の人間のバックアップを勝手に作ることは出来ませんので……命は大事にするべきです』

「よくわからんが、なんか怖いことを言ってねえか」

『あなたを心配しているのです』

「そりゃあ……ありがとう」

「……他に何か意見はありますか?」

 

 ファリーハが尋ねると、アケウが手を挙げた。

 

「何か、僕にお手伝いできることはないでしょうか?」

 

 王女は微笑んで、

 

「備えることも仕事のうちですよ。儀式の日までは、別命あるまで休養です」

「はい……」

 

 わずかに肩を落とすアケウをよそに、黒い鎧が眼窩を点滅させる。

 

『本機からも意見があります、ファリーハ』

「どうぞ」

『我々は魔術の調査と、可能ならば習得を試みたいと思っています。

 魔術省の協力を得ることは出来ませんか?』

 

 それを聞いて王女は、小さく首を傾げた。

 

「ディゼムの魔術教練ということですか?」

『ディゼムには悪いですが、それは恐らく時間がかかりすぎます』

「やかましい」

 

 短くプルイナを罵るディゼム。

 彼女は彼を無視して、

 

『ですので、本機が魔術塗料を調合できないかと考えています。

 塗料の調合が可能なら、あとは紋様の理論を理解すれば、魔術紋様が描画できますね。

 それならば魔力を持たない本機やエクレルにも、間接的に魔術が扱えるようになるのではないかと推測しているのです。

 本機が習得すれば、データ共有によってエクレルも同じことが可能になります』

「なるほど……それは是非とも試してみたいところですね。

 少し時間をください、急いで手配しますので」

『ありがとう、ファリーハ』

 

 王女はプルイナの提案に刺激を受けたのか、そわそわした様子だった。

 

「あ、そうでした。ホウセ、手配した部屋の住み心地はどうですか?」

「文句なしだね」

「それなら良かった。

 他に何か、意見などは?」

 

 それ以上はないらしいことを確認すると、王女は腰を上げ、全員に告げる。

 

「では、ここは引き払いましょう。

 何かあればこの通信機で、いつでも連絡してください」

 

 会合が解散して、会議室の鍵を管理室に返却すると、アケウがディゼムに呼びかけた。

 

「それじゃディゼム、面倒かも知れないけど、お互い実家に顔を出してこよう」

「いや、その前に思い出したことがある」

 

 ディゼムはそれを、指摘した。

 

「俺らが魔術省に出向して昇進してから、もう半月以上経ってるよな……?」

「……給料日か!」

 

 二人は鎧たちを自室に戻すと、陸軍局へと行ってしまった。

 残されたホウセが、小さく手を振ってそれを見送る。

 

「……いってらっしゃーい」

 

 彼女は官舎の入り口に佇んで、ぽつりと口にした。

 

「…………暇になっちゃった」

 

***

 

 ディゼムたちは、王都西の基地にある経理部へと向かった。

 魔術省に出向してはいても、給与の受け取りは陸軍からという扱いなのだ。

 給与は現金の直接支給で、本人が不在の際は経理部が管理することになっている。

 無事に受け取りを済ませ、二人は中身を確認した。

 そしてやや不確かな足取りで、それぞれの実家のある住宅地へと向かうのだった。

 

「まさか十倍以上になってるとはな……」

「実家に入れても驚かれそうだよね……

 どうしよう、いつもの額と同じにしておいたほうがいいのかな」

 

 鎧の助けやホウセの手ほどきがあったとはいえ、金額に見合う働きはしていたことだろう。

 だが本来、彼らの階級では定年まで勤めていても届かないであろう額面だった。

 アケウの言う通り、実家の家族に渡す額は考えたほうがいいだろう。

 彼らが異世界の鎧に選ばれたということは秘密である以上、不自然に増えた給与のことも隠す方が賢明だ。

 ディゼムはそう考えて、次の難題に行き当たった。

 

(……これから旧世界に行くことが増えるんなら、使い道を考えねえとな……)

 

 旧世界での活動が増えるとなれば、インヘリトの通貨など現地では通用するまい。

 使うとしたら、インヘリトの中でしかないのだ。

 だが極端な例として、明日にでも魔王とその軍がインヘリトを蹂躙したなら、トゥーカ紙幣は紙くずに変わるものでもあった。

 貯めておくだけというのも、それはそれでリスクがある。

 しかし、他に使途といって思い浮かぶのが、酒、賭博、女など。

 他はともかく賭博は弱いのでやらないことにしていたが、彼の思考はそこで引っかかった。

 

(いやいや。あぶく銭じゃねえんだ、もっと身になることに……)

 

 それ以外となると、思い浮かべるのも難しいのがディゼムという男だった。

 彼は迷って、アケウに尋ねた。

 

「お前は何に使う?」

「思いつきだけど、旧世界奪還が成功したらいい学校にでも通うか……退役後の商売の元手になりそうなら、そうしてみようかなって」

「お前はなんつうか、考え方がいちいちちゃんと未来を向いてんだよな……」

「まぁでも、今日は家族に何か買ってくよ。

 ディゼムも何か、果物でも買っていったらいいんじゃないかな。

 ほら、都合よく遷都横丁(せんとよこちょう)も見えてきたし」

 

 アケウが右手を小さく振って、前方を指し示す。

 遷都直後の混乱期に勃興(ぼっこう)した、古い市場だという。

 遠くからその賑わいを見て、ディゼムはひとまず、あまり難しく考え込むのはやめることにした。

 

「んー、干し芋でも買ってくかな……」

 

 ディゼムとアケウは、行き交う人をかわしながら市場へと入っていった。

 鎧がない状態でそのように親友同士で連れ歩くのは、久しぶりのことだった。




※2026.03.16.改訂によりサブタイトルを変更しました。
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