魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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3.6.鋼鉄色の巨人

 大聖堂の正面。

 壮麗な装飾が施されたその壁と、紋様の描画のために設置された多数の足場。

 それらを一気に突き崩して、鋼鉄色の巨人が姿を現した。

 一つ目の巨人を思わせる頭部が発光し、周囲を睥睨(へいげい)しているかのようだ。

 巨人が大聖堂を出て、石畳に巨大な足跡を刻みながら大通りに出てくる。

 魔術省にある執務室のベランダから身を乗り出したファリーハはそれを見て、混乱した。

 

「……!?」

 

 何が起きているのか?

 誰に問い合わせるべきか?

 それがまず、不明だった。

 警備下にあった召喚の魔術紋様が侵入者によって起動されたなどとは、さすがに彼女の想定の外にあった。

 だがそれでも、頼れそうな相手はいる。

 ファリーハは通信機を取り出して首筋に当て、鎧たちに呼びかけた。

 

「エクレル、プルイナ!

 遅くにすみません、情報収集に協力を求めます!」

 

 現場の警備の小隊長から中隊長、大隊長、師団長、陸将、陸軍大臣、そして魔術大臣を経てファリーハに連絡が来たのは、その三十分以上も後のことだった。

 

***

 

 大聖堂に近い官庁街からやや離れた遷都(せんと)横丁(よこちょう)にも、その振動が伝わってきていた。

 ディゼムはそれを感じ取ると、周囲を見回した。

 他に同じ反応をしている客も、複数いる。

 アケウも気づいていたか、つぶやく。

 

「ディゼム、これって地震かな」

「地震にしちゃあ、何か規則正しく揺れてねぇか」

 

 断続的な振動。地震ではないと思えた。

 そこに、二人に対してそれぞれの相棒たる鎧から、通信が入った。

 

『ディゼム、異常事態が起きています。本機はファリーハの要請を受けてそちらに急行中です』

「え、何だ異常事態って」

『当機も向っている。二人とも、人通りのない所に向かって走れ。そこで着装する』

「わかった。ホウセ、先に官舎に帰ってて!」

「悪りぃが、気を付けろよ!」

 

 未だ人出の多い中、アケウが先んじてゆっくりと走り出し、ディゼムもそれに続く。

 くじ餅の最後の一欠片を飲み込みながら、ホウセがその後を追おうとする。

 

「待ってよ二人とも――」

 

 が。

 

「ん?」

 

 彼女の耳に、大通りの方面から大勢の足音が聞こえてきた。

 人の集団が走ってくる音だ。

 

「んーと……」

 

 ホウセは目についた路地に入り、人目に付きづらいように気を付けて魔術紋様を起動した。

 

(せき)(ほう)(へん)()!」

 

 呪文に応じてマフラーと腰布が、彼女を包み込む真紅の鎧と槍に変形する。

 そして人にぶつからないように横丁に戻ってみれば、大通りに面した横丁の入り口を、巨大な何かが通り過ぎて行くのが見えた。

 人々はあれから逃げていたのだ。

 首元の通信機を指でつついて起動しながら、ホウセは真紅の槍にまたがり、夜の空へと飛びあがった。

 

「もしもし、鎧たち? 何か、巨人が街を歩いてるんだけど」

 

***

 

 路地裏に入りつつ、ディゼムとアケウは鎧たちに呼びかけた。

 

「プルイナ! 頼む!」

「エクレル! 来てくれ!」

『相対位置、確認』

『ファリーハから言われて、既に発進している』

 

 官舎にいた異世界の鎧たちは、既にファリーハからの通信を受けて自律移動を開始していた。

 手で窓を開けて、ベランダから外へと発進し、彼女たちは遷都横丁に到達している。

 そしてディゼムたちの上空へと差し掛かると高度を下げ、

 

『二人とも、そのまま走っていてかまいません。着装可能です』

『舌を噛まないように、歯を食いしばっていろ!』

「何する気だ!?」

 

 ディゼムは文句を言いつつも、路地裏を走り抜けて裏通りへと出た。アケウもその後に続く。

 鎧たちは機体の結合を解除してバラバラになり、走る着装者たちに向かってパーツを殺到させた。

 走る二人の、手足、胴体、頭と、駆動系や装甲が着装されていく。

 ディゼムはそれを見て――走るのは止めずに――、驚愕した。

 

「器用だなお前ら……!?」

『それほどでもありません』

 

 裏通りを五秒ほども走ると、着装は完了していた。

 

『このまま飛びます』「あぁ!」

『行くぞ』「よろしく!」

 

 黒い鎧と白い鎧が、裏通りから離陸する。

 夜空へ舞い上がると、ガス灯の明かりの溢れるインヘリトの街並みを見下ろす形となった。

 その中に、ひときわ目立つ巨人の姿が見える。

 艶消しを施されたような色合いの、鋼鉄色の単眼の巨人。

 

「――何だありゃ!?」

『不明ですが……移動の形跡を見るに、大聖堂を破壊して出現したようです。

 ファリーハとホウセが既に視認しています』

 

 プルイナが視界を拡大すると、巨人から離れた位置に、正面が大きく破壊された大聖堂が見えた。

 

『大聖堂から出現したように見えます。推測ですが、召喚によって異世界からやってきたのでは?』

「嘘だろ、儀式は明日だぞ!?」

 

 通信を介して、エクレルがつぶやく。

 

『夜間ということは、予定の前倒しとは考えにくい。事故か、事件か。

 我々が異世界の鎧なら、奴はさしずめ、異世界の巨人といったところだな』

 

 巨人は官庁街を通って、南側の港の方向へ歩き続けていた。

 拡大した視界の中には、近くのビルの屋上から、真紅の鎧をまとったホウセが、魔術で先端を発光させた槍を振っているのも見える。

 彼女は首に巻いた通信機から、状況を説明してきた。

 

『あれ、今のところは暴れるつもりはないみたい!

 でも全然止まんなくて、まずいかも! 攻撃する!?』

 

 アケウが、うめく。

 

「こんな王都の中心で、あんな大きなのと戦うわけには……!」

 

 黒い鎧から、プルイナが申告した。

 

『観察によれば、あれは何らかのロボット――工業製品であることは明らかです。

 ディゼム、本機はあの機器と通信を試みます。あるいは、いるならば搭乗員と』

「通信……? 分かった」

 

 プルイナは滞空したままの黒い鎧から、鋼鉄色の巨人へと様々な周波数の電波・重力波を投げかけた。

 

『移動中の直立歩行機器に告げます。停止せよ。

 あなたは当世界の人類が有する資産、法規を侵害しています。

 人命を害する危険もあります。速やかに停止せよ』

 

 返信はない。彼女たちも、さほど期待はしていなかった。

 が、それにやや遅れて単眼の巨人が、官庁街の上に滞空する鎧たちにその単眼――視線を向ける。

 そして何と、ディゼムたちに逆に、通告した。

 

『飛行中の防護服、およびその着用者に告ぐ。

 貴機は当地の文明の水準を逸脱した宇宙飛行能力を有していると判断した。宇宙飛行能力を放棄せよ』

「おい、何か話してるぞ!?」

『ディゼム、今はプルイナに任せておけ』

 

 エクレルからたしなめられる、ディゼム。

 プルイナが、更に返信した。

 

『従うことはできません。そちらの要求の意図が不明です』

『宇宙飛行能力を持つ文明は抑制派による攻撃を受ける。

 文明の維持を臨むならば、速やかに宇宙飛行能力を放棄せよ』

『待ってください。この世界の人類は、別の種族の攻撃によって絶滅の危機に瀕しています。

 我々はこれを防ぐため、あなたの協力を要請します』

 

 鋼鉄色の巨人の要求に対し、プルイナは別の要求を行った。

 だが、

 

『拒否する。宇宙飛行能力が放棄されない限り、我の機能を提供することはできない』

 

 独自の用語が、鋼鉄色の巨人の語る内容を難解にしていた。

 実際には侵入者たちが施した翻訳の魔術が作用していたのだが、それでも両者の隔たりは大きかった。

 抑制派とやらはともかく、巨人の要求を受け入れるならば、プルイナもエクレルも、“宇宙飛行能力”を放棄しなければならない。

 それを具体化すると、例えばXTIAS-6のスラスターのほぼ全てを廃止し、着装者の生命維持機能を削除する必要がある。

 また、宇宙船の部品さえ製造可能な自己複製プリンターも使用不能になるだろう。

 悪魔との戦いを考えれば、それは到底受け入れられない。

 プルイナが、返答を送信する。

 

『本機の宇宙飛行能力は、この世界の人類の救済に必要な機能の一部です。放棄を拒否します』

『ならば、貴機を破壊する』

 

 巨人は通信を打ち切ると、右腕を掲げた。

 装甲が展開し、格納されていた砲身がディゼムたちに向く。

 

「うぉッ!?」

 

 破壊的なエネルギーが照射されるが、黒い鎧、白い鎧、共に急上昇してそれを回避した。

 プルイナが、それを分析する。

 

『今の攻撃は限局核レーザー砲(ガンマ・ガン)に近い原理の兵器です。あの巨人をここから移動させなければ、周囲の人々と建物が危険です』

「何て奴だ……アケウ!」

「あぁ!」

 

 ディゼムとアケウは巨人に対し、空中を突撃した。

 超高密度のガンマ線の照射を回避しつつ両サイドから、人間でいう脇腹の部位に取り付く。

 

「上・が・れぇぇぇぇ!!」

 

 スラスターの推力全開で、鎧たちは鋼鉄色の巨人を空中へと持ち上げた。

 先日、同じようにして持ち上げた人工太陽よりも重かったが、それでも何とかなりそうだった。

 腕を使ってディゼムたちを引き剥がそうとする、巨人。

 二人は巨人の装甲に必死にしがみつきながら、推力を維持した。

 

「このまま、街から放り出そう!」

「分かった!」

 

 アケウに同意して、ディゼムも鎧の推力を強めた。

 市街地が遠ざかり、無人の山林地帯が見えてくる。

 巨人はそれに対抗するためか、自らの推進機を起動し、対抗する動きを見せた。

 

「こいつ!?」

「いや、行ける――このまま落とせば!」

 

 ディゼムたちが離れると、巨人は森へと着地した。

 木々の高さは、巨人の腰に届く程度だった。やはり大きい。

 森の木々をなぎ倒しながら、巨人は二人へと強烈なレーザー光を照射した。

 火線はレーザーなので目に見えなかったが、プルイナたちがセンサーを用いて可視化してくれていた。

 夜空に向かって降り注ぐ恐るべき死の雨を、二領の鎧はかろうじて回避する。

 回避しつつ、ディゼムは狼狽した。

 

「こ、これ全部が!? あのガン何とかなのかよ!?」

『出力では本機を大きく上回ります。当たれば消し飛びます。我々に協力してくれないのが惜しまれる戦力です』

「ンなこと言ってる場合じゃねえだろ! 全然近寄れねえ!」

 

 既に熱電・色覚迷彩を作動させているにも関わらず、避けるので精一杯だ。

 これは巨人を作り出した文明の技術が、26世紀の太陽系を上回っていることを意味した。

 

『センサーの感度も高い。ここまでの技術は太陽系にはなかった。

 やはりどこか、別の宇宙から召喚されたものか』

「こっちの武器も効かないなんて……」

 

 破砕(エクスプローシヴ)(バレット)を撃ちつつ、アケウが焦りを口にする。

 効くとすれば限局核レーザー砲(ガンマ・ガン)だが、人口密集地が近傍にある状況で、誤射の危険を考えれば迂闊には使えない。

 苛立つ彼らの視界が、その時、真っ赤に染まった。

 

「大きく、包め!」

 

 気づくと、巨大な真紅の幕が、夜空に大きく広がっている。

 幕は巨人の火力で穴だらけになりつつも、その巨体を包み込み、視界を奪った。

 

「あたしのこと忘れてたでしょ!」

 

 そう言って通信に割り込んできたのは、ホウセだった。

 真紅の鎧に身を包んだ彼女は、いつの間にか鋼鉄色の巨人の足元の森にいた。

 

「どりゃあぁあ!!」

 

 真紅の鎧が、腕の装甲をまるで筋肉のように膨張させ、すさまじい起重力を発揮した。

 鋼鉄色の巨人は脚部を強烈に蹴り飛ばされて、バランスを崩しかける。

 巨大な赤い幕に覆われたまま、巨人は推進機で体勢を保とうとした。

 その隙を見逃さず、黒い鎧が突撃する。

 

『今です、ディゼム!』

「おう!」

 

 真紅の幕は、ホウセの持っていた真紅の槍が変形したもののようだった。

 それが覆いかぶさってできた死角から、黒い鎧は巨人へと接触した。

 そして、巨人の右肩の装甲に魔術紋様を描く。

 昨日魔術省で実証したばかりの、“劣化の紋様”だ。

 プルイナが告げた。

 

『ディゼム、この中心にあれを!』

「うおぉおぉ!!」

 

 魔力を込めた鉄拳が、肘のスラスターの勢いで加速され、鋼鉄色の巨人の右肩を砕く。

 その慣性が加わり、巨人は更に姿勢を崩した。

 木々が更になぎ倒され、土砂が飛び散り、盛大な土煙が上がる。

 ついに、巨人が転倒した。

 ホウセはその左腕に飛び乗ると、大幕と化していた槍を元に戻す。

 

「長く、鋭く――貫けぇッ!!」

 

 呪文と共に槍が伸びて、巨人の腕を大地に縫い止めた。

 そこに、追い打ちがかかる。

 

「エクレル! 胴体の装甲にっ!」

『分かっているとも!』

 

 接近した白い鎧が、巨人の胸部装甲に魔術紋様を描いた。

 先ほどプルイナが描画したものと同様、描画箇所の強度を低下させる“劣化の紋様”。

 データは共有済みだった。

 流れるような手捌きで、一秒と経たずに大きな紋様が完成する。

 間髪をいれず、アケウが叫ぶ。

 

「ディゼム!」

「よっしゃあぁ!」

 

 呼応した黒い鎧は空中から急加速して、再び魔力の拳を放った。

 レール・ライフルを凌駕する威力の一撃が、強度の下がった巨人の正面装甲を打ち貫く。

 黒い鎧はその勢いのまま、陥没した装甲の中へと突入、動力の中枢さえも破壊した。

 状況を見たプルイナが、通信機を介してアケウとホウセに警告する。

 

『危険です、離れ――』

 

 大破した鋼鉄色の巨人は、森の中で大爆発を起こした。

 衝撃波が市街地に達し、多数の窓ガラスを破壊する。

 爆炎は遙か上空まで輝き、海防島からも見えるほどだった。

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