魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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3.11.深夜の作戦会議

 事情を聞かされた避難民たちの、当初の反応は様々だった。

 急な冬眠解除に当惑する、あるいは怒る、悲しむなど。

 だが元は、悪魔に故郷を追われ、アールヴたちの魔術によって冬眠させられることを選んだ人々だ。

 冬眠による保護ができなくなったとはいえ、インヘリト王国という避難先が提示されたことには肯定的な意見が多かった。

 これ以上の逃避は良しとせず、アールヴィルに残って悪魔と戦うと主張する者も一部にはいたが、それが聞き入れられることはなかった。

 悪魔が攻めてくる原因となる人間を冬眠保護しておけず、しかも事実上戦力にならないとなれば、やむを得ない。

 アールヴの魔術師が、人間たちに呼びかけた。

 

「では次の方、三人で入ってください!」

 

 転移の紋様が正確に作動することが確認されて、避難民たちは続々と魔術紋様によって転移させられていく。

 自己複製プリンターで製造された印章は、全部で五枚。

 三人組で五列に並んだ避難民は、乾燥が済んだ魔術紋様の上に、合図があり次第、進み出て乗っていった。

 そして、紋様に最後の一画が書き加えられると、作動した魔術紋様によって彼方へと転移する。

 一度転移を作動させた紋様はほとんどかすれて使用できなくなってしまうので、再印刷が行われる。

 印刷、乾燥、作動、再印刷。

 この工程で五分ほどかかるのだが、並んだ避難民たちは概ね大人しく、列を成して順番を待っていた。

 早ければおよそ六時間ほどで、全ての避難民がインヘリト王国へと転移することができるはずだった。

 

***

 

 避難民たちの転移の作業が進む中、ディゼムたちは、宮殿にある食堂にやってきていた。

 宮殿に務めるアールヴの役人などが利用する食堂らしいが、今は夜も更けつつあり、無人だった。

 鎧の通信機などを使う用事が終わり、彼らは打ち合わせを兼ねた、遅い食事に来たのだった。

 眠気が出てくる頃合いだが、悪魔の攻撃があるかもしれない状況だ。

 最低限の情報と、方針の共有はしておかなければならなかった。

 

「おし。じゃあ厨房、貸してもらうか」

 

 黒い鎧を着装したまま、ディゼムは持っていた食料の袋をテーブルに置いた。

 白い鎧を着たアケウが、水の入った樽を下ろす。

 アールヴたちが食料庫から分けてくれたものだ。

 

『では、我々は分離します』

「あぁ」

 

 黒い鎧と白い鎧が、それぞれの着装者から離れて再結合する。

 袋の中には、インヘリトやアウソニアでは見ない種類の野菜や、保存用ではあるが肉があった。

 それを取り出して皿に開けながら、アケウが言う。

 

「肉があるのはありがたいね。鳥の脚……だよね、これは」

「インヘリトのより、ちょっと脂があるかも」

 

 ホウセは答えつつ、調理台の下から発熱の魔術紋様の彫られた印章と筆、塗料とを取り出した。

 これを炉台に印字して、手書きの追加で()()()を調節するのだ。

 棚から調味料を物色しつつ、ディゼムが言う。

 

「いいじゃねえか。スープと……粥でいいよな?」 

「そうだね。じゃあアケウは水で麦を洗って、ディゼムは材料の切り分け。あたしはかまどの準備」

 

 三人はホウセの指示でてきぱきと役割を分担し、調理を進めていった。

 進めていったが、

 

「何だ、この干からびたキノコ」

「あ、それはスープの味付けに使うやつ。

 あんまり強火で煮たら香りが飛んじゃうから、気を付けて」

「お、おぅ……この野菜? このまま切って大丈夫か」

「中に固まってる種は固いから外して捨てる」

「この根っこみたいなのは……」

「アールヴの使う薬味。皮を剝いて摩り下ろして使うやつだから、食べる前に入れよう」

「クソ、料理は得意ってわけじゃなかったが……」

「まぁ知らない食材ばっかりならしょうがないか」

 

 ホウセがフォローを入れるが、ディゼムは不服そうに野菜を切っていく。

 そして切り終わった野菜を鍋に入れて、樽の栓を開けて水を注ぎながら、彼はホウセに尋ねた。

 

「水は……こんなもんでいいか?」

 

 それを見た彼女は、

 

「最初は材料がぎりぎり浸る程度にしといて。味が濃すぎたら水足せばいいけど、逆は時間かかるから」

「は、はい」

 

 鍋から樽に水を戻すディゼムに対して、プルイナが黒い鎧から告げる。

 

『ディゼム。この作戦が終わったら、調理講習のプログラムを受けますか?

 木星式になりますが』

「余計なお世話だ!」

 

 アールヴたちの使う香辛料や調味料を使っているので、味付けをインヘリトのそれに近づけるのはやや難しかった。

 その辺りは異国情緒を楽しむということで、完成したのは鳥肉と野菜の香辛料スープ、そしてディゼムの言った通りの麦粥だった。

 皿に盛りつけた料理をそれぞれのトレイに載せながら、ホウセが言う。

 

「じゃ、作戦会議にしようか」

 

 ディゼムたちはテーブルに付き、食事を取りつつ戦いの詳細について検討を始めた。

 

「いただきます」

 

 最初に黒い鎧から、プルイナが発言する。

 

『まず方針としては、前回同様、我々がアールヴィルから離れて敵を引き付けることを試みます。

 敵を十分引き離したら、熱電・色覚迷彩で姿を消してアールヴィルに戻る』

「悪魔が釣られなかったら?」

 

 麦粥を口に含みつつ問うホウセに、プルイナが答える。

 

『殲滅に切り替えるほかありませんね。武装の生産は全速で行っています』

「その陽動はあたしたち三人でやるってことでいいの?」

『アールヴと面識のあるホウセには、アールヴィルの防衛に残ってもらおうと考えています』

「悪魔は赤い鎧も探してたよ? あたしも陽動に参加しないとダメじゃない?」

『プロジェクション・マッピングで真紅の鎧を再現します。

 また先日同様に適切な強度の攻撃を加えることで、敵はこちらを追わざるを得ない見込みです。

 その時、悪魔が部隊を分けてアールヴィルを攻撃してきたら、あなたに先鋒を頼みたいのです』

「まぁ、そういうことなら」

 

 スープを口に運びつつホウセが頷くと、白い鎧からエクレルがため息を模した音声を発した。

 

『しかしなんだ、この中にまともに作戦立案のできる人員がいないのは痛いな』

「元々下っ端の兵隊なんだから仕方ねえだろ!」

「あたしただの連絡係だもん」

 

 口々に抗議する、ディゼムとホウセ。

 抗議を受けたエクレルが、白い鎧の兜の眼窩を明滅させて応じる。

 

『あーわかったわかった。まぁ、そのための我々だからな』

 

 噛み砕いた肉を飲み込んだアケウが、傍にたたずむ白い鎧に尋ねる。

 

「じゃあ、僕たちはアウソニアでやったみたいに、遠くから狙撃しながらおびき寄せる感じかな」

『そうなるな。保護セルに積んできた武装に加えて、作成中の追加装備は破壊力を重視している。

 まぁ、後者は敵が攻めてくるのに間に合わないかも知れないが』

「なら、アールヴたちに伝えて、早速出発しよう。早い方がいい」

『そう逸るな。

 既にドローンを偵察に送り込んでいるが、悪魔たちは東に五キロメートルほど離れた平原に、群れで待機している』

 

 彼女は白い鎧の肩から光を発し、食堂の壁に映像を投影した。

 暗闇の中、青白く光る悪魔たちの影が確認できる。

 ホウセが尋ねた。

 

「これ、実際にぼんやり光ってるの?」

『暗闇だが、データを加工して見やすくしている。

 食事や睡眠を取っている様子がないのは、先日アウソニア北で交戦した集団と同じだ。

 やはりホウセが言っていたとおり、あれは強行軍ではなく、そうした生態だったということだな。

 夜間はやや活動が低下するようだが、誤差に近い。まぁとにかく、眠らないわけだ』

 

 言い伝えとしても、悪魔は水を飲むが物を食べない、眠らない、人間を宝石に変えて食らうだけ、とあった。

 エクレルが、説明を続ける。

 

『そして、これがより強力な個体と推定される悪魔たちの姿だ』

 

 ドローンの視界が別機のものに切り替わると、そこには閃光のように輝く焚火――画像処理の影響だ――を囲んでいる悪魔たちの姿があった。

 半透明な多くの悪魔たちと違い、それらは先日アウソニアやその周辺で出会った、より強力な悪魔たちを思わせる特異な形態をしていた。

 同じ形態のものは一体としていない。

 

『アウソニアで戦ったペレグという悪魔は、“魔の戦士”を自称していました。

 また、先ほど女王の間に現れた悪魔も、同様の語を使っています。

 本機とエクレルは、“魔の戦士”とは、より強力な個体で形成される階級のようなものなのではないかと推定しています』

「それが、えーと……何体いるのかわかる?」

 

 アケウの質問に、プルイナが答える。

 

『映像解析では、十一個体以上と推定できます』

「あのペレグとか、アウソニアの中で馬鹿でかくなったようなやつみたいなのが十一人もいるわけ……?」

 

 ディゼムが顔をしかめると、エクレルが告げた。

 

『そう考えておくべきだろうな。今回は屋外だからガンマ・ガンが使えるが、大気圏内なので危害範囲はさほど広くない。

 そして、ここが重要な点だが……』

 

 彼女は少し間を置いて、続ける。

 

『あの悪魔、ヒュメノは我々のセンサーすら欺くステルスの魔術を使用していたようだ。

 よって、そうした魔術を用いた、ドローンでも感知できない悪魔、もしくはその複数で構成された部隊が、アールヴィル近傍にいる恐れがある。

 だとすれば、通過や奇襲も思いのままだ。

 先にも話したように迎撃にはホウセを残すが、何かあれば我々もアールヴィルに急行できるよう、追加装備を調整している。

 基本方針については以上だが、質問はあるか?』

 

 アケウが手を挙げ、問う。

 

「もし、僕らでは勝てない強力な敵が来るようなことがあったら?」

『あなたたちの安全を優先します。転移の紋様を破壊して、アールヴィルと避難民を放棄し撤退します』

「いやお前、それは……」

 

 プルイナの回答に、ディゼムが難色を示す。

 だが彼女は声の平静さを変えないまま、続けた。

 

『アールヴは人間を保護してくれた友好的な種族であり、生き残った避難民を見捨てることも、可能な限り避けたい。

 しかしまた、我々の敗北によって、悪魔たちがインヘリト王国に押し寄せる事態も避けなくてはなりません』

『まだこの場にいないファリーハの同意は得ていないが、我々は、もし彼女が反対してもこれを実行する』

「…………」

 

 鎧たちの声明に、ディゼムは反論が思い浮かばなかった。

 囮になって問題なく引き離せた前回と違い、今度はアールヴィルは明確に敵に捕捉されている。

 首尾よく引き離せるとは限るまい。

 その時アケウが、短い沈黙を破った。

 

「……最低限、殿下を保護してくれるなら、僕はそれでいい」

「あたしのせいみたいなとこもあるから、あたしは残って戦う。

 あなたたちを責めたりはしないけど」

 

 そう言って、ホウセが皿に残ったスープを飲み干す。

 それ以上続けるべきではないと判断したのか、プルイナが話向きを変える。

 

『我々がするべきなのは、そのような状況にならないよう全力を尽くそうという話です。

 覚悟は必要かもしれませんが』

 

 エクレルがその後を継いで、話題を変えた。

 

『では次に、具体的な我々の装備の話だ。相手は悪魔、どんな戦術を取ってくるのか、まだ読めないところがある。

 アウソニアで戦った呪いの魔術は脅威だったが……今アールヴィルの東に陣取っている連中が、同じ手で来るのかどうか?

 現状ではそれすら不明だ。本当にあいつらは、なぜあそこまで形態がバラバラなんだろうな……全く傾向が掴めん』

 

 後半は、愚痴に聞こえた。

 ディゼムの側にたたずむ黒い鎧から、交代してプルイナが続ける。

 

『取り敢えず、ではありますが、接近された時の呪いへの対策として、装甲の表面に、魔術紋様を描画します』

 

 黒い鎧の肩から壁に投影されたのは、全身にびっしりと魔術紋様を書きこまれた黒い鎧の絵だ。

 

「うぉ……何か禍々しげだな……」

 

 麦粥を飲み込みながら、ディゼムがうめく。

 プルイナは続けて、説明した。

 

『これらはある程度までの強度の状態変化の魔術を防ぐものです。

 前回の戦闘でホウセが呪いの飽和攻撃を受けたことを、戦訓として反映します。

 ただ、関節部分や装甲の分割をまたいで魔術紋様を描画すると、動いた時に形状が崩れて正しい効果を発揮しません。

 面積の小さな紋様では効果も小さいのですが、数を増やすことでこのようになりました。

 また、機体の肩部分に(ぼう)(じゅん)を設置し、そこにも描画します』

 

 プルイナは更に、鎧のイラストの肩部分に盾を書き加えた。

 両肩の装甲に追加された盾は決して小さくはなく、左右の視界を遮りそうなサイズだった。

 これを見て、ディゼムが再び意見を言う。

 

「これ、横を見る時に邪魔にならねえか……」

『防楯の下部に別のセンサーを設置しますので、心配は無用です。実際に着装してみればわかります。

 これで、魔術書の記述に従えば、人間による平均的な状態変化の魔術を30回前後防げる計算になります。

 悪魔のそれを、どの程度防げるかは未知数ですが』

「まぁ、無いよかマシか」

 

 すると、絵を見たホウセが、

 

「いいなぁこれ。あたしの鎧は表面に描いても着装解いたら消えちゃうんだよね」

『では、鎧の上から装着する追加装甲を作成し、そこに描画しましょう。

 後回しになってしまいますが、完成したらそれを使ってください』

「わかった。ありがと」

 

 ホウセの表情が明るくなる。

 

「新しい武装の完成までにどのくらいかかる?」

 

 今度はアケウが質問し、エクレルが回答する。

 

『二人分で、あと十二時間ほどだな。明日の昼前には完成する』

 

 既に新たな自己複製プリンターが大型化しており、宮殿の中庭で武器を製造していた。

 土や岩石といった物資の使用許可は、既に女王ムアから得ている。

 ホウセが鎧たちに尋ねる。

 

「それまでに悪魔が攻めてきたら?」

『不十分な装備で応じるしかない。

 保護セルにはレール・スナイパー・ライフルも載せてきているから、それらは使えるがな』

 

 答えるエクレル。

 ディゼムはそれに対して、頭の後ろで指を組んで言う。

 

「まぁ、そんなに心配しなくてもいいんじゃねえか?」

「何でよ」

 

 不審がるホウセから、ディゼムは少々恥ずかしそうに、目をそらして答えた。

 

「ほら……俺、それなりにすごい技が使えるだろ?」

「すごい技、って……いや実際すごかったけども」

 

 やや引いたように、アケウ。

 確かにディゼムは先日、魔力を込めた拳で、敵の中で最も手強いと思しい悪魔を撃破していた。

 インヘリトでは異世界からやってきた鋼鉄色の巨人機械、フンババすら仕留めたのだから、彼にしてみれば殊勲だったことだろう。

 しかし、その様子を見ていたホウセは半眼でぽつりと、しかしはっきりと呟く。

 

「お調子者」

「いやこれは……別に調子こいてるとかそういうのじゃなくて。ほら戦いへの意気込みとかそういう……」

『ホウセの言う通りですよディゼム。至近距離では呪いの攻撃を受ける恐れがあります。

 これから行う誘引作戦は、前回の戦訓を踏まえてより射程に余裕を持たせます。

 加えて、先程来訪したヒュメノのような悪魔は、恐らくですが高度な電磁気的・視覚的・熱力学的なステルス性を持っています。

 彼の出現を予期できなかったということは、本機のセンサーも欺かれたということでしょう。

 彼を仮想敵とするなら、あなたのあの拳は何の役にも立たないと断言します』

「断言て」

 

 うめくディゼムを無視して、今度はエクレルが言う。

 

『そういうことだから、お前たちは食べ終わったらすぐに仮眠を取れ。

 その後、悪魔たちの釣り出しに向かう』

『ファリーハと女王ムアには、我々から作戦内容を伝達しておきます』

 

 方針は決まった。

 ディゼムたちは宮殿の宿舎に寝床を借りて、そこで仮眠を取った。

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