魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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3.16.魔眼の目醒め

 プルイナが、ディゼムに通達する。

 

『ディゼム、原因は不明ですが、いま武装が完成しました。コンテナが来ます。空中装備を実行します!』

「よく分からんが、任せる!」

 

 プルイナは黒い鎧を操り、アールヴィルから飛来する武装コンテナに相対速度を合わせた。

 コンテナ側も、黒い鎧の発する信号に合わせてスラスターで軌道を変える。

 速度を合わせて飛行する、二つの飛翔体。

 

『接続!』

 

 コンテナ側からドッキングアームが伸びて、黒い鎧の背部コネクターへと接続する。

 そして、コンテナが内部に折りたたまれていた構造を展開した。

 両肩の増設シールド、大腿部に小型連装ミサイル、膝から下を覆う増加スラスター。

 コンテナ内部のアームが、それらを黒い鎧へと装着していく。

 

(ぼう)(じゅん)AGM(ミサイル)、増加スラスター、接続・固定完了』

 

 コンテナとの接続部からは電力と資源物質も供給され、黒い鎧の活動限界に余裕が戻った。

 最後に両手で、二挺のレール・バトル・ライフルのグリップを掴み、装備する。

 

ERR(電磁加速銃)、接続・固定完了。全て問題なし』

 

 全ての物資を黒い鎧へと供給したコンテナは接続を解除し、後方へと吹き飛んでいった。

 飛行を維持したまま、プルイナが宣言する。

 

『ディゼム、これが新装備です。名付けて、ディグニティ・重兵装(ヘヴィリーアームド)モード!』

「なんか知らんが、今の勝率はどうだ?」

『100%です』

「極端だな……!?」

 

 ディゼムは疑問を挟みつつも、黒い鎧で悪魔たちを追った。

 プルイナが戦闘の悪魔たちに照準を固定し、告げる。

 

AGM(ミサイル)、照準完了。アールヴィルに近い敵から攻撃します』

「巻き添えは出すなよ!?」

『あり得ません。発射』

 

 彼女がそう言い放つと、黒い鎧の大腿部脇に装着された小型の誘導ミサイルが全弾発射された。

 超音速で悪魔へと接近する飛翔体。

 一秒と待たず、十二発全てが目標に直撃し、大爆発を起こした。

 轟音と爆炎が、こちらまで伝わってくるようだ。

 弾頭に使用されている、超小型の純粋水爆の威力だった。

 ディゼムにとってはもはや、驚愕するしかない。

 

「……お前またとんでもないもんを……」

『アールヴィルに被害はありません。窓ガラスが割れたりしたかも知れませんが』

「まぁその程度なら……残ってるやつを叩くぞ!」

 

 悪魔たちは、それが黒い鎧による攻撃だと気づいたようだった。

 空を飛ぶ悪魔たちは、速度を上げて逃げきろうとする。

 しかし、黒い鎧はあっさりとそれを追い抜いた。

 脚部に設置された増加スラスターの効果だ。

 

「速いな……!」

『背部の主スラスターと同程度の推力があります』

 

 先回りをされた空飛ぶ悪魔たちは、剣を振りかざして襲いかかってきた。

 魔術で強化されたその攻撃は、直撃すれば危険だっただろう。

 

「――!」

 

 だが、レール・バトル・ライフルが火を噴いた。

 強烈なローレンツ力によってマッハ20まで加速された弾頭が、魔術で強化された悪魔の皮膚を貫き、衝撃波で体全体を飛散させる。

 間近で目の当たりにする、強烈すぎる威力。

 

『残弾159。残った悪魔を全て駆逐可能です』

「……!」

 

 プルイナのアナウンスに、肌が粟立つ。

 だが、やらなければならない。

 ディゼムは意を決して、ライフルを構えた。

 兜の内部で照準を合わせ、引き金を引く。

 

***

 

 白い鎧の蹴り足が、透明な悪魔に直撃する。

 それに追い打ちをかけるように、真紅の槍が悪魔へと刺さった。

 

「ぐっ!?」

 

 アケウの復帰によって、彼とホウセは、悪魔ヒュメノを追い詰めつつあった。

 悪魔は復帰したアケウと白い鎧を見て、激怒しているらしかった。

 透明なままなので、表情は電波や音による探査で類推するしかないが。

 ヒュメノは更なる追撃を回避しつつ、うなった。

 

「またも騙したか……!」

『気をつけろアケウ。奴のエネルギー輻射が、見た目の上では減少している』

 

 エクレルの警告に、アケウは疑問符を浮かべる。

 

「え、じゃあ勝ってるってこと?」

『いや、減り方が不自然だ。恐らく奴の魔術が強まっている。

 今までは可視光線しか透過できていなかったステルスの魔術が、X線や音波まで透過しつつあるようだ』

「それって――」

『当機にも奴を捉えられなくなってきているということだ』

「……!!」

 

 アケウの視界、エクレルがバイザーに投影している処理済みの映像から、悪魔のシルエットが消えていく。

 ホウセからも、通信があった。

 

「アケウ! 悪魔の気配が薄れ始めた……! そっちで何かわからない!?」

「僕には何とも……エクレルは?」

『奴の透明化が、強まり始めている。憶測だが、感情が高ぶって代謝が亢進(こうしん)することで、奴の飲み込んだ“赤い海”の吸収が進んでいるんじゃないのか?

 つまり、怒りと共に強くなる状態にある』

「分からないけど、そうかも……早く仕留めないと!」

 

 悪魔は鋭角の移動を繰り返し、彼らの死角を取ろうとしているようだった。

 速さまでもが増していた。

 白い鎧のセンサーでも、真紅の鎧の魔術的探知でも、その姿は捉えられなくなっていく。

 

「く、このままじゃまた――!?」

 

 その時、エクレルが状況の変化を告げた。

 

『アケウ、追加武装だ! コンテナが来る!』

「え……早すぎない!?」

『いいから接続だ!』

 

 武装コンテナが飛来し、アールヴィルの街路へと着地する。

 コンテナはそのまま強引に展開しつつ、白い鎧に向かって滑走してきた。

 だが、コンテナは彼らの目の前でひしゃげて、直角に吹き飛ぶ。

 悪魔ヒュメノの妨害だろう。

 

『ホウセ、そこだ!』

「ぅおりゃあッ!!」

 

 飛び込んできたホウセが、悪魔のいるであろう位置めがけ、真紅の槍を思い切り振り回した。

 が――

 

「ぐぇ!?」

 

 逆に真紅の鎧が、背中から打撃を受けて吹き飛ばされた。

 

『今だ!』

 

 白い鎧は、即座に飛び出した。

 ホウセが吹き飛んだ軌道と、彼女の重心の移動距離。

 そして、迷彩が強化される前に取得した悪魔の身体サイズと、質量の推計値。

 それを計算すれば、悪魔がホウセをどのような体勢で攻撃したか、そして現在位置までが予想できる。

 そこを、叩く!

 

「――!?」

 

 しかし、スラスター全開の体当たりはまたも、回避された。

 建物への激突を回避するため、白い鎧は急制動をかける。

 そこに虚空から聞こえる、悪魔の声。

 

「無駄だ」

 

 ヒュメノの打撃が、白い鎧の装甲に振り下ろされる。

 アケウは鎧ごと、街路の石畳へ叩きのめされた。

 伝わってくる運動エネルギーの方向から推定するに、悪魔はエクレルの予想した通りの位置にいたはずだった。

 

『おかしい、矛盾している……!』

 

 攻撃は、確かに敵を捉えていた。

 そうでなければ、辻褄が合わなかった。

 

「今の私の隠形は、物質すら透過する域に達した。

 攻撃は我が身をすり抜け、しかし我が身は意のままに敵に触れることができる……!」

(何だそれ……そんなの、ありなのか……!?)

 

 悪魔はそう言うと、白い鎧の首を掴み、空中へと吊り上げる。

 

「く、このッ!」

 

 アケウは暴れ、空中で手足を振り回した。

 いくら透明になろうと、彼の首を掴んで持ち上げているならば、首元には実体が無ければおかしい。

 だが、白い鎧の首元には、それすらなかった。

 白い鎧の手は敵をすり抜けて、自機の装甲に触れるだけに終わる。

 

「こんなの……!?」

 

 あり得ない。そう叫びたかった。

 

「鎧よ、(ほど)けよ」

 

 悪魔の呪文と共に、再び白い鎧の装甲の結合が解除された。

 重力に従い、白い鎧の装甲がバラバラと剥がれ落ちていく。

 

『またか……!』

 

 残ったのは、兜だけだ。

 それも、見えない悪魔の手によって取り外され、投げ捨てられる。

 エクレルは再びアケウの身体を包み込もうとパーツを動かすが、いくらパーツを彼の身体にまとわりつかせても、パーツ同士のロックが作動しない。

 それどころか彼の肌や衣服に付着することも出来ず、滑り落ちていくかのようだ。

 透明化と同様に、結合解除の魔術の力も強まっているというのか。

 悪魔ヒュメノは、生身をさらけ出したアケウを石畳に叩きつけようとしていた。

 

(死ぬのか……! 殺される……のか……!)

 

 アケウは、悪魔のいるであろう位置を見ていた。

 いよいよこれから、自分を殺すであろう相手が、存在するはずの虚空。

 

「!?」

 

 だが、なぜかその視線に、悪魔が怯んだ。

 いや、正確には、怯んだのが“見えた”――気がした。

 悪魔の手が、アケウの首から離れる。

 彼がそのまま石畳に落ちる、その前に。

 

『間に合え!』

 

 装甲を平たく展開した白い鎧が、アケウと石畳の間へと滑り込む。

 エクレルは鎧の内部の緩衝層を彼に向けて全開にし、着装者を落下から守った。

 

「うっ――」

 

 一方アケウは驚きつつも、目で追っていた。

 見えないはずの、悪魔の姿を。

 

「――!?」

 

 なぜか、見えた。

 そこにいるのが、見て取れた。

 彼の視線から逃れようとする、大きな白い、虫のような悪魔の影が。

 

(なぜ……どうして見えるんだ……?

 ムア陛下か誰かが……何か、したのか?)

 

 少なくとも、白い鎧の作用ではない。

 アケウは白い鎧を剥がされて、生身のままだ。

 だが、悪魔は彼の視線から逃げ惑っているようにすら見える。

 アケウの眼球の動きをセンサーで検出したエクレルは、外部スピーカーで彼に問いかけた。

 

『アケウ、見えるのか……?』

「あぁ……多分」

『ならば……!』

 

 エクレルは鎧のパーツを操作し、篭手をアケウの両手に着装させた。

 小型スラスターの作用で、篭手はばしりと彼の前腕を飲み込む。

 

『よし』

 

 敵の魔術の作用が、弱まっているようだ。

 パーツ同士の結合が妨害されているだけで、部分的な着装には問題ない。

 

『アケウ! コンテナの残骸から――』

 

 彼はエクレルの指示に素早く反応し、飛び起きた。

 両手の篭手だけを着装した状態で、破壊された武装コンテナへと走る。

 

『――ライフルを取れ!』

 

 さして離れてはいなかったコンテナへとたどり着き、突き出ていたレール・バトル・ライフルの銃把(じゅうは)を握る。

 白い鎧の篭手からライフルへと、残されていた電力が全て供給される。

 アケウは両手で、それを構えた。

 振り向き、視界に悪魔を捉える。

 彼の視線に射すくめられた悪魔が、訴えた。

 

「やめろ――! 私を……見破るな――」

 

 アケウは、トリガーを引いた。

 飛翔体が射出され、それはまっすぐにヒュメノの頭部を射抜く。

 ライフルの反動で、アケウは大きく石畳の街路に転倒しかけた。

 

『おっと』

 

 そこに、白い鎧が素早くまとわりついて、再着装を終える。

 アケウは再び、白い鎧に包まれて立っていた。

 

『奴が死んで、魔術が解けたようだな。機体の再結合が可能になったぞ』

「あ、うん」

 

 戸惑いながら、すっかり慣れた鎧の内部からの視界で、周囲を見渡す。

 彼のすぐ近くに、悪魔ヒュメノの死体の破片が散乱していた。

 それはもはや、透明でも何でも無かった。

 疑問に思い、尋ねる。

 

「エクレル……僕は?」

『大きな問題はない。眼球各部の細胞に微細な変異が見られるが。あとは首筋の圧迫などだな』

 

 彼女は事もなげだ。

 また、瓦礫の影から、槍を杖のように突いたホウセが姿を見せた。

 

「だぁぁ……死ぬかと思った……!」

『アケウ、エクレル。そちらは大丈夫ですか?』

「こっちは片付いたぞ……!」

 

 通信の向こうからは、プルイナとディゼムの声も届く。

 レーダーの示す方向を見ると、重装化した黒い鎧が飛来するところだった。

 

「……終わったようだな。よくやってくれた、異国の戦士たち。もう付近に、悪魔の気配はないようだ」

 

 疲労困憊といった様子だったが、女王ムアまでもが部下に付き添われてやってきていた。

 

「アケウ! みんな!」

 

 そして、ファリーハが駆けてくる。

 彼女は心底から安堵し、彼の無事を喜んでくれているようだった。

 

(いや……それは僕の願望かな)

 

 アケウは自戒し、深呼吸をした。

 戦いが、終わったのだ。

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