魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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4.4.彼女の名前

 ホウセは頭頂部を押さえて、悲鳴を上げた。

 

()ったーい!?」

「やかましい! 何が『ひっかかった……!』だ!

 本気で悪魔の罠かと思ったんだぞ俺は!?」

 

 その隣にはディゼムが、拳を握ったままたたずんでいた。

 怒っている。

 ホウセは痛む頭頂をさすりながら、蛮行に抗議した。

 

「ていうかグーでぶった! グーで!!」

「当たり前だバカ! 下手したらお前、誤認で発砲してたかも知れねえだろうが!?」

 

 場所は、ホウセの隠れ家。

 彼女が地上の各地に生き残った人類のコミュニティを巡回する際、途中休憩をする拠点として使っている場所だ。

 魔術の仕組みで出入りをするようになっており、入る際は真紅の槍を鍵として、巨大な(あぎと)を模した扉が、入場者を地下深くへと収容する。

 扉には歯を模した飾りもついているため、捕食されるようにしか見えない。

 悪趣味と言われれば、全く否定できないのだが。

 ホウセはなおも、弁明した。

 

「いやその、ちょっと遊び心っていうか、からかってみたくなったっていうか!」

「冗談じゃねえわ! 陽動した悪魔の大群をやり過ごそうって作戦の、まだ途中なんだぞ!

 遊び心だかなんだか知らんが、いらんもん出すんじゃねえ!!」

「まぁまぁ、ディゼム……その辺で」

 

 アケウが、二人を仲裁する。

 

「フン」

 

 ディゼムは鼻を鳴らして、そっぽを向いた。

 そこには、一行の全員が揃っていた。

 ディゼムとアケウ、ホウセに、ファリーハ。

 ディゼムたちのそれぞれの鎧とその増加装備、そしてファリーハが収容されていた保護セル。

 ホウセが一行を導いた“隠れ家”は、これら全ての人員と装備を――翼を備えた保護セルすらも強引にだ――収容可能な広さがあった。

 内装は、何らかの工房といったところか。

 中央には、柱の役目を果たしていると思しき巨岩。

 木材で補強された、むき出しの土の内壁。

 床だけは整然と、石畳が敷き詰められていた。

 複数の古びた作業机と、その上に転がる調合器具。

 寝具や調理台、そして魔術紋様のキャンバスと思しき石版などもあった。

 椅子に腰掛けて言い合いを見守っていたファリーハが、つぶやく。

 

「あとは、悪魔たちが私たちを見失って、解散してくれることを祈るしかありませんね」

「エクレル、悪魔たちの様子はどう?」

 

 尋ねるアケウに、エクレルが白い鎧から答えた。

 

『少数残った飛べる悪魔を先行させて、我々の後を追っているな。

 全力で引き離したから、遅れているが……あの大群全体がアールヴィルから離れているのは間違いない』

「誘導は成功かな」

『今のところはな。アウソニアでの悪魔たちの挙動を見るに、この付近までは追ってくるだろう。

 もしアールヴィルに引き返しそうな動きがあれば、ここから出撃して再び目を引きつけることもできる』

 

 続いて、黒い鎧からプルイナが報告する。

 

『ドローンの稼働限界が近づきました。四機中二機を帰還させます。

 ホウセ、ドローンがここに接近したら知らせますので、回収してください』

「わかった」

 

 ホウセが気軽に請け負う。

 工房の作業机に並んでいる調合器具を眺めていたディゼムが、彼女に尋ねた。

 

「ていうかよ……ここ、一体何なんだ?

 魔術の仕掛けもあるし、何かの工房みてえだし。

 口ぶりからすると、お前が作ったわけじゃないんだよな?」

「あたしを殴るような男に教えたくなーい」

 

 半眼でそう言い放つ彼女に、ディゼムは頭を下げる。

 

「……殴ってごめんなさい」

「えっそんなすぐ謝る……?

 そんなにあたしのこと知りたい……!?」

 

 わざとらしく口元を抑える彼女に、今度はディゼムが半眼になった。

 

「大事なことだと思って訊いてんだ。いい加減茶化さないでくれよ」

「……ごめん」

 

 真剣なディゼムを見て、ホウセも謝る。

 その場の全員から目を背け、彼女はつぶやいた。

 

「そうだね……そろそろ全部、話してもいいかも。でもさ」

 

 作業机に手を付きつつ、仲間たちに視線を向けるホウセ。

 

「それで引いたり、今までの態度を変えたりしないって、約束してくれる?」

 

 最初に口を開いたのは、アケウだった。

 

「……話しにくいことなんだよね。

 あまり気安く請け負いたくはないけど……

 今まで何度も助けてくれた君のことだ。僕は約束する」

 

 次に、椅子から立ち上がって、ファリーハ。

 

「生き残った人類同士の連絡を維持してくれていたのはあなたです。

 それを信じて、わたくしも約束します」

 

 ディゼムも頭をかきつつ、ホウセの目を見て告げた。

 

「……二人の言う通りだ。

 俺も、ガラじゃねえかも知れねえけど……それでいいなら約束する」

「…………!」

 

 彼女は真顔で口元を抑え、すん、と鼻を鳴らす。

 

「ありがと……それなら、話すよ……」

 

 そこに、隠れ家の隅から、黒い鎧と白い鎧が加わった。

 

『何となく話に割り込めずに遅れてしまいましたが、本機も加わって大丈夫ですか?』

『当機の約束でいいならするが』

「ごめん、忘れてた。ありがとう!」

 

 彼女は隠れ家の広間を支える巨岩のそばまで歩き、そこで一同を見回す。

 

「その代わり、まずあなたたちの過去も順番に話してもらうから」

 

 ホウセは目元を指でこすりながら、そう言って笑った。

 

「それを聞いたら、その後であたしの番。ってことで」

 

***

 

 魔術紋様での転移を終えると、そこは別の部屋だった。

 エリカレスが、説明する。

 

「ここが、俺のもう一つの工房だ」

 

 少女の周囲には、複数の作業机と文献の棚が置かれていた。

 作業机には調合器具や様々な道具。

 部屋の隅には、魔術紋様のキャンバスになるであろう大きな石版があった。

 よく分からない、というのが正直な所感だった。

 エリカレスは彼女の目を見て、説明を続ける。

 

「俺はここで、人間を材料にしない魔宝と、魔術紋様の研究をしている」

「人間を使わない?」

「あぁ。悪魔は、人間を“石”にして喰らうことで力を増す。

 人間を材料にすることで、強力な魔宝を作る。

 だが、その欲で、地上から人間を狩り尽くした……。

 慌てて作ったのが、あのマフだ。人間についてろくに知りもせず、自分たちが家畜として管理できると思って――いや、すまない。本題はそうじゃなかった」

 

 彼は作業台の上にある赤い篭手を手に取り、掲げた。

 

「この篭手をよく見ているんだ」

 

 それを彼女に見せるように腰を落とし、エリカレスは唱える。

 

「明かして、広がれ」

 

 すると、赤い篭手が、一瞬にして大きな布を思わせるものに変化した。

 軽やかな布のように広がったそれは、ふわりと少女にかかる。

 エリカレスは、彼女に告げた。

 

「それをよく見てみろ」

 

 少女が軽く目を凝らすと、不思議なものが見えた。

 それは布ではなく、細かな図形や文字の集合体だったのだ。

 

「小さな絵や文字が描かれているだろう。魔術紋様だ。

 さらに、高密度・高情報量の魔術紋様を道具の形にしたのが、魔宝だ。

 この字を書くためのインクの材料に、悪魔は人間を使っている」

 

 少女が、青ざめる。

 

「じゃあ、これも……!?」

「さっき言っただろう、人間を使わない、と。

 図形の構成を洗練させて、より緻密に描くことで、人間を使わない塗料でも十分な効果を得ることができる。

 この篭手はその、試作品だ」

 

 エリカレスはそう言うと、再び呪文を唱えた。

 

「秘めて、閉ざせ」

 

 赤い布は、篭手の形に戻った。

 それを見た少女が、小さく息を吐く。

 

「じゃあ、あたしを連れてきたあの悪魔には……」

「人間を使っていない、純粋な顔料から作った魔宝を渡した。

 自信作だ。あいつも満足しているそうだよ。

 騙しているのは、悪いがな」

 

 皮肉げに笑う、エリカレス。

 背の高い彼の顔を見上げる少女の名を、呼ぼうとする。

 

「フレ――」

 

 だが、考え直す。

 不自然に感じたか、彼女が尋ねる。

 

「何?」

「いや、やはり(フレシュ)は、ちょっとな。

 この前は断られたが……いい名を考えてあるんだ。いいか?」

「聞くだけなら」

 

 視線を逸らして、そう答える少女。

 エリカレスは改まって、提案した。

 

「ホウセ――でどうだ。かつて悪魔に抗って戦ったという、強い人間の魔術師の名だ」

「ホウセ……ホウセ」

 

 彼女は、何度か噛みしめるようにその名をつぶやく。

 顔を上げて、少女が返答した。

 

「うん、いいかも」

「なら決まりだな」

 

 強く――あるいは、()くあることを願って、名を命ずる。

 名付けとは、そうした行為であって欲しい。

 エリカレスは胸中で安堵しながら、彼女の名を呼んだ。

 

「ホウセ」

 

 そして再び、提案する。

 

「君にはこれから、俺の知る魔術の全てと――どんな悪魔も知らない秘密を教えたい。

 広い、外の世界のことだ。興味はあるか?」

 

 ホウセはエリカレスの目を見て、うなづいた。

 

「うん、見たい」

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