魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る 作:kadochika
地中に隠れていた悪魔を見つけた。
ホウセの報告を受けて、プルイナは分析する。
『こちらからはまだ姿が見えませんが、彼(?)が恐らく、予知能力者と思われます。
しかし予知できる先はそう長くはないのでしょう。
自分が発見される未来を見てしまい、急いで悪魔たちを防衛に回そうとしたと考えられます』
「へぇ。未来が分かるんだ……」
「ぐ……我が
悪魔フェゾムは、人間で言えば屈辱と呼べるであろう感情に震えていた。
あってはならない。
あってはならない!
――その時、彼の洞観に変化があった。
近い未来を直観し、見通す能力が、告げていた。
(いや、勝てる――!)
と。
途端、フェゾムの全身に、急激に力がみなぎった。
「舐めるなよ、人間めがぁッ!!」
フェゾムは変形して、丸鋸のような形状となった。
穴の底から飛び出し、その勢いで真紅の鎧を両断する。
「――!?」
しかし、実際には回避された。
(なぜだ……!? 我が洞観が、
いや、次こそは。
フェゾムは洞観の知らせに従い、円盤状の身体の縁に生えた刃を発射した。
真紅の鎧がそれを回避して、そこに出来た隙を、今度こそ両断――
「――!!?」
しようとしたが、それはまたも失敗した。かわされた。
それどころか、
「でぇいッ!!」
「ぐぉ!?」
フェゾムは円盤の腹部分を、真紅の鎧の拳で強烈に殴られて墜落する。
地面に激突したフェゾムは、再び変形した。
今度は、高速で疾走する四足獣だ。
(洞観によれば、この後は――)
彼を追って高度を下げてきた真紅の鎧を、隙を突いて反転・急襲、そして返り討ちにできるはずだった。
だが、真紅の鎧の行動は、またしても彼の予想に反した。
その両手首から鎖で繋がれた錨が猛烈な速度で伸びて、彼に追いつき、絡め取る。
洞観が、予測が――できない!
「ぅおおぉお!?」
フェゾムは思わず、悲鳴を上げていた。
***
悪魔の悲鳴が聞こえる。
「ぅおおぉお!?」
ホウセが射出した錨は悪魔を絡め取り、彼女に向かって猛烈な勢いで引き寄せた。
気づけばそれは偶然か、ホウセと悪魔は、悪魔の隠れていた穴の上空にいた。
錨で引き寄せられた悪魔を、ズダン、と踏みつけ、穴の底へと叩き落とす。
震える悪魔に向かって、ホウセは上空から尋ねた。
「あなた……覚えてる?」
「なぜだ……なぜ我が……洞観が……予知が……」
悪魔はうわ言のように言葉を発している。
ホウセは構わず、高度を下げながら続けた。
「十年くらい前、あなたがエリカレスっていう悪魔を捕まえようとしたのを、覚えてる?
多分彼は、その前から気づいてたんだろうね。あなたの能力と……この部屋に……!」
そこは、十二枚の窓が放射状に設置された、十二角形の角柱状の部屋だった。
ホウセは、黒髪の友人のことを念じて、窓の一枚を覗いてみた。
(ディゼムは――)
すると、彼が黒い鎧をまとって悪魔と戦っている彼の姿が、窓に写った。
赤毛の友人のことを念じて覗けば、白い鎧の戦いが窓から見える。
(アケウ――)
銀髪の王女のことを念じれば、魔術紋様の欠落部分を完成させたらしい彼女の様子が。
(ファリーハ――)
窓を見て、任意のものを思い浮かべれば、人であれ、物であれ、そこに焦点が合う。
探しているものを、一目で見つけることができる。
そうした性質の魔宝なのだ。
この遠見の窓と、悪魔フェゾムの洞観の魔術が組み合わされば――
何者であろうと監視から逃れられず、その未来の行動すら暴かれてしまうことになる。
「エリカレスは、予知で遠くから覗いてくる悪魔に対する対抗策を、あの布に描き込んでた……!」
「そんなことが……!」
フェゾムは己を縛る鎖をきしませ、うなった。
「あるものかぁぁッ!」
細長く変形し、鎖をすり抜ける悪魔。
悪魔はそこから再び、円盤に変形して空中へと逃げた。
ホウセがそれを追おうとした、その時、ファリーハから通信が入った。
「皆さん、完成しました! 転移の魔術紋様!!
エクレル、プルイナ、打ち合わせ通りに頼みます!」
『了解だ』
『ディゼム、身体を楽にしてください』
鎧たちは返信すると、着装者たちから鎧の制御権を奪い取った。
戦闘中にそれが起こったことで、着装者たちもさすがに狼狽する。
「ちょっと、エクレル!?」
『すまんな。時間がない』
「プルイナ、ちっとは説明しろ!?」
『ごめんなさい、あとでファリーハに訊いてください』
鎧たちは戦闘を中断して、マフの街を爆走し始めた。
ホウセは悪魔フェゾムを追って飛びつつ、鎧たちに告げる。
「悪魔たちは任せて、あなたたちは紋様を完成させて!」
『了解』
黒い鎧、白い鎧。
どちらも走りながら、指先から
成分は、エリカレスの第一工房で採取していたサンプルを元に、鎧の内部で合成したものだ
深い青色の塗料で、鎧たちはマフの街全体に魔術紋様を描いていく。
ただし、彼女たちが塗料を合成できるといっても、無限ではない。
原子変換が可能な鎧ではあったが、それでも不足する物質資源を補給する必要があった。
空気だけでは足りないため、彼女たちはマフの街路の土壌などを足裏から吸収していく。
よって、鎧が走った跡には、塗料の弾痕と、不自然に深い足跡が残されることとなった。
『紋様の完成度、現在、25パーセント。描画誤差、0.098パーセント』
ファリーハについていたドローンたちも、今は空中高く飛び上がっていた。
撃墜される心配はなかった。
ドローンを撃墜していた悪魔、魔弾のフライシュはホウセを追っていて、それどころではない。
プルイナたちは、上空のドローンからの観測データをフィードバックし、より正確に、巨大な魔術紋様を描く。
ディゼムが、プルイナたちに質問した。
「ていうか、俺らが脱出するのにこんなにでかいの描く必要あるのかよ……?」
『実をいえば、脱出するのは我々ではありません』
「え……!?」
「じゃあ、もしかして……!?」
考えが及んだらしいアケウが、まさか、といった様子で口にする。
黒い鎧を猛烈な速度で動かしながら、プルイナが答える。
『そうです。脱出させるのは、このマフの住民たち、
「マジで、できるのか!?」
『理論上可能です』
ディゼムが驚くも、プルイナは淡々としている。
彼はなおも質問を重ねた。
「悪魔はどうなるんだよ!」
『人間だけを転移させます。エリカレスがホウセを逃した際にも、同じ技術を使って彼女だけを転移させたそうです』
「インヘリト側で展開してるっつう、転移妨害の結界は?」
『既にファリーハが連絡して、解除済みです』
「そういうことはもっと早く言ってくれ!」
『激しい戦闘の最中に無理やり解説していたら、邪魔になっていたはずです。そこは理解してください』
「それでいつ完成するんだ、この紋様!」
『あと30秒です。ホウセ!』
プルイナが、真紅の鎧へと呼びかける。
「よせ、やめろ!!」
――悪魔フェゾムが叫んだが、その声は誰も聞いていなかった。
プルイナの通信に、ホウセが返答する。
「大丈夫! ファリーハは今回収したよ! もうすぐ紋様の外に――出た!」
『ドローンのカメラでも離脱を確認しました。紋様を起動します』
ペイント弾の連射によって最後の一画が描き入れられ、魔術が発動した。
マフの街をキャンバスにして描かれた、巨大な転移の魔術紋様だ。
街路に撃ち込まれた塗料から、激しい光が発せられる。
地上からその光景を見ていたディゼムたちは、息を呑んだ。
空中からその様子を見ていたファリーハとホウセも、光量に圧倒されていた。
大人、子供、老若男女
家にいる者、屋外にいる者。
全ての人間が、紋様によって発動した魔術の作用で、マフから消え去った。
問答無用で――ではあるが、悪魔に飼われる人間の養殖場から、転移した。
今頃はもう、インヘリトへと到着していることだろう。
一方で期待した効果の通り、悪魔たちは全て、残ったままだった。
プルイナが、宣言する。
『成功です。紋様の外にいた我々を除き、マフにいた全ての人間を転移させることができたようです』
『即席にしてはうまく行ったな。作戦成功だ』
エクレルの音声も、何やら得意げに聞こえてくるようだ。
プルイナが、再びアナウンスする。
『あとは――悪魔から逃げるだけです』
「この状態じゃ、戦闘はちょっとな」
自機の手足を観察して、ディゼム。
黒い鎧も白い鎧も、損傷まみれだった。
各種機能の低下こそ見た目ほどではないものの、防御力の低下だけは深刻といえる。
『ちょうどファリーハを入れる簡易保護セルも出来上がったところだ。悪魔は放置して、我々も撤収しよう』
エクレルが言うと、ディゼムの視界の端に記されたマップに、黄色い点が表示される。
保護セルが地中で完成したのだろう。あとは掘り出して組み立て、ファリーハを乗せて全力で撤退するだけだ。
だが、悪魔たちには、彼らを逃がす気はないようだった。
ディゼムたちの位置に向かって、悪魔たちが再び群がり始める。
『ディゼム!』
「おう!」
プルイナの警告とともに、黒い鎧が駆け出す。
左腕の装甲に魔力が集中し、魔弾をはじく。
生き残った悪魔、魔弾のフライシュの攻撃だ。
更にそこへ、
「逃がすかよぉ!!」
電撃のように疾走してくる影――雷獣のチミスタ。
『アケウ!』
「分かってる!」
アケウは鎧の予測を元に、振り降ろされる魔宝の剣をかわす。
剣を持つ悪魔の腕を右手で掴み取り、左の抜き手を口へと差し込み――
「エクスプローシヴ・バレット!」
頭蓋内部で、固化した液体燃料が炸裂する。
雷獣のチミスタはそれで即死し、剣を取り落とした。
白い鎧は即座にその剣を掴み、パワーアシスト最大で、投げる。
剣は回転しながら亜音速で飛び、魔宝の弓を構えて次を狙っていた魔弾のフライシュを、縦に断ち割った。
予知によるサポートがないためか、悪魔たちの戦闘力は大きく低下していた。
鎧の望遠でそれを見届けたアケウは、特に感慨もなく、通信で呼びかけた。
「ホウセ! 今のうちに殿下を保護セルに!」
「ごめん、ちょっと用事があるから、そっちでよろしくね!」
すぐそこまで来ていた真紅の鎧が、白い鎧にファリーハを預けて飛び去っていく。
「どこへ――?」
その理由は、すぐに分かった。
「逃がすかァァ!!」
彼女を追って、円盤状に変形した悪魔フェゾムが飛来していた。
怒りに燃えて、唸り声を上げている。
「我が洞観は、全てを見抜く! 見通す! お前とて――」
その魔術で先を読み、予見する、洞観のフェゾム。
先を行く鎧の魔術師の軌道を見切り、先回りし、圧倒できる。
はずだった。
「それが、なぜ――!?」
ホウセは、フェゾムの予見に従わなかった。
悪魔フェゾムの脳裏に、悪寒が走る。
あの真紅の鎧によって、万物を見通す彼の洞観が――本当に、欺かれている?
「そんな――」
ホウセは悪魔の突撃をかわし、飛んでくる刃をかわし、魔術をかわす。
予見、予知、予言。
新たな真紅の鎧には、そうした未来視に対して、「嘘をつく」機能があったのだ。
未来視はそれに騙され、
悪魔は、絶望に悲鳴を上げた。
「そんなぁぁぁ!?」
真紅の鎧の左の篭手から、真紅の槍が飛び出す。
ホウセはそれを握って、悪魔フェゾムを両断した。
「これがホントの、真っ赤な嘘――ってね!」
悪魔は爆ぜて、マフの市街へと散っていく。
きらきらと光るそれを見ながら、彼女は胸中で、祈った。
――仇は取ったよ、エリカレス。