魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る 作:kadochika
上位の悪魔たちを討ち取られたためか、悪魔たちは後退しているようだった。
また攻め寄せてくる様子は、今のところはない。
今なら、魔術紋様を設置して安全に、インヘリトへと転移することができる。
だがその前に彼らは一度、別の場所へと集合していた。
悪魔フェゾムが潜んでいた、十二角柱型の地下室だ。
ホウセが魔術で上部を破壊したため、今は地下室ではなく、縦穴といった方がふさわしいか。
ディゼムとアケウは、それぞれの鎧をまとったまま、その穴の縁に立って警戒していた。
穴の中には、ファリーハとホウセが入り込み、内部を
十二面ある壁には、窓が埋め込まれていた。
ホウセによれば、窓枠を開くと、その向こうには土の地層ではなく、思い描いた相手の現状の姿が映るのだという。
悪魔フェゾムは己の魔術とこの
ファリーハはホウセの言う通り、身近な相手を思い浮かべながら窓の一つを開き、覗いていた。
まず、自分の母親――インヘリト王国の太子妃について。
彼女は夫――つまりファリーハの父親であるインヘリト王国の太子と共に、アールヴィルからの難民たちを慰問をしているようだった。
そして、母親が具体的にどこにいるのかという点についても、窓を通せば脳裏に直観が閃いた。
(ビョーザ回廊の近くの、避難民用の臨時キャンプ……?)
他にも乳母や祖父、魔術大臣、学生時代の友人など、思い浮かぶ限りを覗いてみたが、効果は本当らしいと思えるものだった。
姿が見える。どこにいて、何をしているのかまでが分かる。
中には用足しの途中の者までいたので、罪悪感もあったが。
「すごい……本当に何でも、見たいと思った相手の現状が見られるようですね」
ファリーハは、眼鏡の位置を直しながら驚嘆した。
そして、戦慄する。
「恐るべき魔具……ですが」
「まぁ、トイレの最中を見られる怖さは分かるけど」
ホウセが、そんなことをつぶやく。
ともあれ、これで一つ、可能性が浮上した。
「この遠見の窓ならば、魔王の居場所を……!」
ホウセでも、ファリーハでも効果を確認できた。
ならば、魔王――の影――を直接目撃し、至近距離でも戦闘をしているディゼムか、アケウがこの窓を、覗いたならば。
ファリーハは穴の上に向かって、手を振った。
「アケウー! すみませんが、試してみたいことがありますので、こちらに降りてきてくださーい!」
「分かりました、お気をつけて。失礼します!」
白い鎧が、スラスターを柔らかく噴かせ、十二角柱の穴の底へと着地する。
ファリーハは、窓の概要をアケウへと説明した。
「なので、兜を外して、あなたが出会った魔王のことを思い浮かべながら、いずれかの窓を覗いてみてください。
「はい、それでは」
アケウは兜を外し、手近にあった窓を覗いた。
そして、以前まみえた魔王の姿と、脅威を思い浮かべた。
窓に浮かび上がる、金色の美貌。
輝く髪に、きらめく飾り装束、光る尻尾。
彼はそれを見て、感嘆した。
「確かに……あの時の魔王だ……!」
『不思議な効果だな。お前が窓の向こうに見ているものが、当機にも観測できるぞ』
「ていうか……!」
そうだ。
その窓を見れば、思い浮かべた相手が今、何をしているのかが分かる。
そして、居場所も。
アケウは即座に兜を被り、通信を入れた。
通信は黒い鎧を通してディゼム、首元の通信機でファリーハとホウセに届く。
「みんな危ない! 魔王が
***
マフの上空で悪魔たちの動きを警戒していた、二機のドローン。
彼らは指揮官を失い生き残った悪魔たちの動きを注視していた。
悪魔たちは当初、マフから退いて南方へと向かうかのように見えた。
だが突然、それが変わった。
悪魔たちは次々と、再びマフに向かい、まとまって進む陣形を取りつつあった。
まるで、新たな指導者に率いられるかのように。
そう。
悪魔たちの上空に、星が輝いていた。
それは高度を落とし、地上へとやってくる。
下がり始めた太陽の輝きに劣らぬ金色の明星が、空中に輝いていた。
それが、魔王ワーウヤード――正確には、その影であった。
(鎧を討ち取って首でも持ち帰れば、ヌンハーも反省して、余を褒めざるを得まい……!)
“影”を操りながら、彼女はそんな事を考えていた。
遠く離れた地の、玉座の中で。
***
輝く魔王の姿は、空中に残っていたドローンも観測していた。
アケウが魔宝の窓からそれを見つけたのと、ほぼ同時のことだった。
『転移する、急げファリーハ!』
「は、はい!」
白い鎧が王女を抱え上げ、十二角柱の穴の底から飛び出す。
ホウセも同様に穴を出て、その傍に描画されていた転移の魔術紋様へと飛び乗った。
その彼女の目に、輝きが写る。
「……!」
太陽ではない。
ひと目見て、分かる。
天の星が、慈悲深くも地上へと降りてくるかのごとき煌めき。
だがその正体は、魔王。
150年前に地上から人類を一掃し、わずかな生き残りをここ、マフに集め、資源として飼育していた種族の王なのだ。
そしてその真下には、多数の悪魔たち。
ホウセもディゼムたちから、魔王の力については聞いていた。
だが、全てを知っているわけではない。当然のことながら。
そして、それは起こった。
「うぉ!?」
転移の魔術紋様が、突如燃え上がる。
地面に描かれていた紋様を形成する塗料が、火薬に火をつけたかのように炎上して、消失したのだ。
これでは、撤退できない。
アケウに庇われて後退したファリーハが訝る。
「これは……!?」
『原因不明です』
「まさか、魔王の魔術……!?」
ホウセの推測が当たっていたのかどうかは分からないが、魔術塗料は可燃物ではなく、また常温で自然発火するようなこともない。
ただ、魔王との距離はまだ遠い。
プルイナが、真紅の鎧に通信で呼びかける。
『ホウセ。我々は保護セルを回収してきます。
ファリーハの護衛を頼みます』
「わかった!」
ディゼムとアケウがそれぞれの鎧と共に、保護セルの回収に向かう。
彼らは手早く目標地点に到着し、長方のサイズ二メートルほどの大きなカプセルのようなそれを掘り出して、戻ってきた。
今回の保護セルは、シートに着座したファリーハ一人を収める程度の小さなものだ。
『ファリーハ、中へ』
「えぇ!」
彼女が一人用の座席に座ってシートベルトを付けると、保護セルは自動で搭乗口を閉鎖した。
それを両側から翼端を掴んで持ち上げる、黒い鎧と、白い鎧。
二領の鎧は速やかに離陸し、魔王とは反対側の方角に進路を取った。
ホウセもその後へと続き――そこに異変が起きる。
「――!?」
彼らは全員、空中にある不可視の壁へと衝突していた。
鎧たちは体勢を崩し、保護セルも傾く。
「やべっ!」
「殿下!」
二人は素早く姿勢を回復させて、保護セルを無事に着地させた。
保護セルが、降着脚を伸ばす。
空中を見上げ、ディゼムは苛立った。
「何なんだよ……!?」
『不明です。音響あり。組成不明の、不可視の障害物と推測します』
「っていうか魔王がそこまで来て――」
『もうそこにいます』
「――!?」
鎧たちがバイザーの内部で指し示した方向を見ると、そこには。
戦慄しつつも、二人は保護セルを庇い、地面へと降着させた。
ディゼムはプルイナに、文句を付ける。
「早く言えよ……!」
『紋様なしで転移の魔術らしき移動手段が使えるようです。早期警告は困難です』
金色の美女が、マフの地に足を付きながら笑う。
「くくく……知らなかったようだな。家畜を飼う場所に、家畜を逃さぬようにする仕組みがあるのは当然であろうが?」
『その家畜とやらは、既に転移で全員逃した後だがな』
エクレルが、通信で繋がっている者にだけ聞こえる音声で、そうつぶやいた。
危機的状況だった。
鎧の損傷は大きく、すぐに回復するようなものでもない。
黒い鎧に、ディゼムは訊く。
「プルイナ、あの見えない壁、転移の紋様で抜けられねえのか……!?」
『不明です。試す必要がありますが、先ほどのように、何らかの手段で紋様を破壊されてはそれも出来ません。
まず、目の前の魔王らしき何者かに対処する方が先でしょう』
「ていうか、あいつは本物の魔王なのか? それとも前にインヘリトに来た、“影”ってやつなのか」
『それも不明です』
ディゼムの疑問を余所に、迫りくる彼女は輝き、語り続ける。
「前回は世話になったな。余の“影”を不意打ちで消し飛ばしてくれよってからに……しかもマフから人間たちを残らず逃したな。
魔王は細いあごを振って、白い鎧を憎々しげに指し示す。
そして、跳躍。
「――その血を啜り尽くしてやろう!」
「っ!!」
光のごとき勢いで飛びかかってきた輝きを、真紅の鎧が槍で受け止めた。
「ホウセ!」
「二人とも限界でしょ! あたしがこいつの相手をする!
あなたたちはファリーハと、この障壁をどうにかする方法を探して!」
魔王とにらみ合いながら、ホウセ。
「わかった!」
「ほら、姫様! 足元、危ねえから」
言われた通り、白い鎧と黒い鎧は保護セルを持ち上げて、その場を離脱した。
それを見て、黄金の髪がざわざわとうごめく。
「反逆者が作ったとかいう赤い鎧が相手か。いいだろう。
その魔宝も解体し、お前もろとも、余の産まれる
「やれるもんなら、やってみろッ!!」
殺到する黄金の髪を、一息に槍で弾く。
真紅の鎧が、ホウセの胸中へと強烈なざわめきを伝えてきていた。
(こいつ、ヤバい……!)
恐らく、ディゼムたちから聞いてた魔王の“影”よりも、相当に強い。
槍を構え直して、彼女は敵を迎え撃った。
***
魔王――あるいはその“影”――から逃走中の、黒い鎧と白い鎧。
彼らは魔王の“影”から離れ、マフの東部外縁へと移動していた。
ディゼムが、黒い鎧に尋ねる。
「で、具体的にはどうするんだ、障壁を解く方法って」
『魔術紋様で転移が可能であれば、そうします』
黒い鎧が、足元の地面に魔術紋様を描く。
ディゼムには判らなかったが、短距離転移の紋様だ。
最後の一画を結ぶと、魔術紋様が輝いた。
「…………」
だが、その真上にいる黒い鎧はどこにも動いていない。
紋様の力自体は発動したようで、塗料がかすれかけていた。
プルイナが、見解を述べる。
『紋様の描画に間違いはありません。
恐らくこの見えない障壁には、インヘリト王国の外縁に設置されているという、転移妨害の紋様に近い効果があるのでしょう』
「なら、壊すとか」
『それを試みます。エクスプローシヴ・バレット、行使』
黒い鎧の指先から、破砕弾が発射され、空中で弾けた。
着弾箇所が一瞬、虹のような色の閃光を発するのが見えた。
『更に、連続行使』
黒い鎧はなおも破砕弾を連射するが、全て見えない障壁に当たって爆発する。
『貫通、認められず。ガンマ・ガンは損傷で使用不能です。
本機の命名した
「お前が命名したって下り、そんなに大事か?」
『あなたの視界には、障壁の位置を見やすく表示します』
プルイナがそう言うと、ディゼムの視界に壁が出現した。
グリッドパターンで構成された、仮の状態だ。
それに当たるように、拳を放てということらしい。
「そんなら――おりゃあッ!」
右の拳に意識を集中し、スラスターの推力を併せて打ち放つ。
だが渾身の魔拳は、爆発的に弾かれた。
「げ、嘘だろ……!?」
ディゼムは愕然としつつもスラスターで姿勢を立て直し、着地する。
プルイナが、見解を述べた。
『衝突時に発生する閃光の位置からの推測ですが、自らある程度変形して、衝撃を吸収する機能もあるようですね』
「……次はどうする?」
『地面に穴を掘ります』
そう言うとプルイナは、再び黒い鎧から破砕弾を連射した。
ただし標的は見えない壁ではなく、その下の地面だ。
連射しながら、彼女は解説する。
『障壁が及ぶ範囲が地上部分だけだと仮定すると、地面より下を掘削することで、障壁が及んでいない範囲をくぐることができるかも知れません』
舞い上がった土煙がそよ風に流されていく。
鋭利な刃物ですっぱりと切り出したようだ。
もちろん、破砕弾でそのような破壊痕になるはずがない。
黒い鎧がそこに追加を撃ち込むと、弾は見えない障壁に弾かれる。
『やはり地中にも障壁が連続しているようです。これ以上の掘削は現実的ではありません』
「じゃあどうすんだ……?」
『二手に分かれます』
プルイナが黒い鎧のスラスターを噴かせ、北へと転進させる。
一方で白い鎧から、エクレルが音声を発した。
『我々は南に行くが、ファリーハ、もう少しその中で我慢してくれ』
「はい!」
王女がうなづく声を耳元に聞きながら、アケウは鎧に尋ねた。
「で、この次は……」
『壁が見えないなら、着色してやればいい』
白い鎧が左手を空中へと向けて、そこからペイント弾を連射した。
射出された弾は空中で見えない壁とぶつかり、破裂する。
蛍光色の粉が、花を咲かせていった。
ペイント弾を撃ち続けながら走る鎧、空中で弾けるインク。
インクは空中に残り続けることこそ無かったが、明らかに障壁を可視化していた。
ドローンたちも着弾位置を正確に記録し、鎧たちに送信し続けていた。
逆方向で同じことをしていた、プルイナが通信を発する。
『ペイント弾の破裂した位置から、やはり障壁は半球状の空間を覆う、ドームのような形状と推測できます』
そこにエクレルが、結論を付け加える。
『ならば、その半球の中心部に、魔術の源か、障壁を発生させる機材などがあってもおかしくはない』
「それを壊せばいいってことだよね?」
『選択肢の一つではある』
問いに答えるエクレルに、アケウは再度尋ねた。
「今なら街は無人だ。ガンマ・ガンでここから撃っても」
『当機も、左右ともに穴だらけでしばらく使用不能だ』
「上手く行かないな……!」
『そうとも限らん。バリアの中心の位置はおおよその検討がついたぞ。そこに向かえ』
「よし……!」
『とはいえ、魔王の引き連れてきた悪魔がうようよしている。注意しろ』
「殿下、しっかりおつかまりください!」
「ええ!」
白い鎧が単独で保護セルを持ち上げ、離陸する。
損傷だらけの鎧は見えない障壁に注意しつつ、高度を抑えて飛行を始めた。