魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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4.13.悪魔の生態

 白い鎧が、空中から敵を強襲する。

 

『アケウ、そのまま蹴散らせ』

「クロスレンジ・レーザー!」

 

 白い鎧が頭部から近距離用レーザーを照射し、警備の悪魔たちをバラバラに溶断する。

 下級悪魔だったものが散らばり、転がった。

 

『次が来る!』

「はッ!!」

 

 エクレルの支援で次に襲い来る敵を捉え、徒手空拳で仕留める。

 

魔術(まじゅつ)警報(けいほう)!』

「エクス・バレット!」

 

 攻撃を受ける前に、破砕弾の連射が物陰の悪魔を殺傷した。

 魔術を撃とうとしていた中級の悪魔からの、熱放射を検出したのだ。

 完全ではないが、鎧たちは炎や爆轟といった現象を起こして攻撃する魔術については、熱などの高まりを検出して統計的に警報を出せるようになっていた。

 石炭の塊のような頭をした悪魔が倒れて、白い鎧は周囲を再スキャンした。

 エクレルが、アナウンスする。

 

『敵、制圧した。ステルスも無し』

「分かった。殿下! もう安全ですので、おいでください!」

「はい……!」

 

 家屋の側に置かれた保護セルの陰から推移を見守っていたファリーハが姿を現し、駆け寄ってくる。

 白い鎧から、エクレルが彼女に説明した。

 

『ここがバリアの中心だ。露骨に怪しい建物だな』

 

 そこには、均整だが簡素な、小さい城のようなものが建っていた。

 一枚岩を削り出したかのような佇まいは、周囲の建築からは大きく浮いている。

 マフにあるほとんどの建物は人間自身に作らせたもののように見えるが、これは悪魔の魔術による建築なのだろう。

 ファリーハは、周囲に散らばった悪魔の死体を避けつつ、入り口に向かった。

 

『ファリーハ、悪魔たちが接近している。

 我々はディゼムたちと共にここを防衛する』

 

 エクレルはそう言うと、白い鎧の左前腕の装甲を展開した。

 

『ハード・カッター、展開』

 

 その中から伸びた柄を引き抜くと、それは短剣だった。

 白い鎧が、それをファリーハに手渡す。

 

『武器に使えそうなものがこれしかないが……

 この建物の破壊か無効化、あるいは支配。お前に任せる』

「やってみます……!」

 

 彼女は短剣を受け取り、握りしめた。

 短剣を渡した白い鎧は、空中へ跳躍する。

 接近する悪魔たちを迎撃しにかかったのだろう。

 

「……!」

 

 正面扉は開いていた。

 エクレルによれば、中に悪魔はいない。

 彼女は城の中へと入りこみ、障壁の発生源か操作装置を探しに向かった。

 本当にそんな物がある、という確証はない。

 だが、

 

(魔王が言っていた……「家畜を逃さない仕組みがある」って)

 

 ファリーハは、それを信じて奥へと進んだ。

 自分の手に負える仕掛けになっていることを、祈りつつ。

 

***

 

 魔王――本人なのか、“影”なのかは分からない。

 ホウセはそれを引き受けて、相手取っていた。

 瑞々しく艷やかな声で、魔王が呪文を唱える。

 

「炎よ、飲み込めぃッ!!」

 

 声に応じて出現した、直径五メートルはあろうかという火柱。

 マフの街を焼き払いながら進むそれを、ホウセは横に跳んで回避しつつ、

 

「冷たく、凍てつけッ!」

 

 魔術による冷線(れいせん)を魔王の“影”へと照射した。

 冷線は魔王の“影”を直撃し、更にその周囲の地面までもをがちがちに凍結させる。

 だが、金色の化身は一言、

 

「寒いわ!」

 

 と叫び、自身の体表に張り付いていた氷を吹き飛ばし、活動を再開した。

 魔王の“影”は、何やらホウセを(なじ)ってきた。

 

「お前、そんな色の鎧を着ているならもっとそれっぽい魔術を使わんか!

 火柱よ、薙ぎ払え!」

 

 呪文とともに生み出された火炎の竜巻が、再び彼女へと高速で突進してくる。

 やはり回避するが、恐るべき高熱が、鎧越しにホウセの肌を炙った。

 彼女が魔王の“影”の攻撃を回避すればするほど、火は広がっていく。

 ホウセは憤った。

 人間を飼うための街だったとはいえ、マフは、彼女の故郷なのだ。

 

(それを無人にしても、好き放題やってくれちゃって……!)

 

 実際に姿かたちを見るのは、初めてのことだった。

 魔王、ワーウヤード。

 燃えるような金色をした、女神のごとき美女。

 輝く衣と、揺れ踊る金髪の下から覗く尻尾。

 ディゼムやアケウ、鎧たちの証言と一致する。

 まぶしいほどにきらめく敵へと、ホウセは再び反撃した。

 魔術を念じ、呪文を唱える。

 

「激しく、打て!」

 

 発生した衝撃波が、跳躍した魔王を直撃した。

 だがワーウヤードは怯まず、なおも魔術を行使する。

 

「どうした? それで本気か!」

 

 輝く美貌が、嘲笑に歪む。

 呪文が魔術を作動させて、魔王を中心に、無数の火球が出現する。

 それは鋭利な直線軌道で、ホウセを襲う。

 

「ぐうぅぅぅッ!」

 

 爆圧に吹き飛ばされつつ、跳躍を繰り返して直撃を回避する。

 自ら発生させた無数の爆轟を飛び越える、魔王。

 そのまま真紅の鎧へと掴みかかり、押し潰そうとする。

 勢いを殺しきれない。

 ホウセは輝く魔王に押されるまま、多数の家屋を貫通した。

 その間も、金色の髪束の群れが、真紅の装甲を舐め回す。

 

「っ!」

 

 一撃で破壊されるほどではないが、針で粘土を引っ掻いたような、浅からぬ損傷が蓄積していく。

 本人なのか“影”なのかはわからないが、“影”だとしたら、恐るべきことだ。

 根拠はないが、魔王の本体は、これより強力だと見ておいた方がいいだろう。

 

「このッ!」

 

 ホウセは戦慄しながらも槍を大きく振るって、黄金の髪を弾き返す。

 勢いが止まり、彼女はワーウヤードを押し返した。

 そのまま髪束を弾き返すと、真紅の鎧の腕の装甲が膨張し、膂力(りょりょく)を込めた。

 

「てぇいッ!」

 

 だが切り返す槍を、魔王はどこからか剣を取り出して防御する。

 切り結ぶ、真紅の槍と黄金の剣。

 衝撃で破片や土砂が舞い上がり、土煙となった。

 魔王の魔術で炎上した家屋からの上昇気流が、土煙を更に高くへと舞い上げる。

 だが、マフの街は物体を通さない障壁で覆われている。

 黒煙と微粒子が、半球状のドーム上部に滞留しつつあった。

 

***

 

 旅の途中、ホウセは師に、尋ねたことがあった。

 

「ねえエリカレス。どうして悪魔は、マフで人間を飼ってるの?」

「…………」

 

 当時、およそにして十歳、といったところか。

 彼女が発した疑問はエリカレスを、少しの間黙らせた。

 彼は、重々しく口を開く。

 

「……人間を、簡単に言えば、食料にするためだ」

「食べちゃうの?」

「……基本的には、食肉として使うことはない。

 俺を見ても分かると思うが、悪魔は肉を食べない」

「野菜も食べないよね」

「そうだ。水と空気と、空気の中のわずかな魔力があれば生きていける……

 だが、悪魔はある日気づいた。人間を“石”に変えられることに」

「石?」

「……君の手の平の中にも収まるような、ほんのりと虹色に光る、小さな石だ。

 悪魔は――俺も含めて、人間をそうしたものに変える力を持っている」

「ふーん……それを食べるの?」

「飲み込む者もいるし、肌身離さず身につける者もいる。

 いずれにせよ、悪魔はそこから強い魔力を得る。魔力を得て、強くなる」

「悪魔はそれが、いっぱい欲しいってこと?」

「……俺を除いては、そうだな。石はいずれ、魔力を使い果たして消えてしまうから、次が欲しくなる」

「エリカレス以外は、強くなりたいってこと?」

「そうだ」

「何で?」

「今の君に話して理解できるかどうか分からないが……魔王に釣り合う相手になるためだ。

 魔王という悪魔の親玉がいて、彼女は人間でいえば女。そしてそれ以外の、全ての悪魔は男ということになる。

 平たくいえば全ての悪魔は、その魔王と結婚して、次の世代の全ての悪魔の父親になりたいと願っているんだ。

 魔王の気を引くために、石を献上することもある」

「何か……すごいんだね」

 

 思い出してみれば、当時の彼女は恋心すらよく分からない年頃だった。

 そんなホウセに、エリカレスはよく人間を理解していたためか、かなり平易に、噛み砕いて説明してくれていたようだ。

 彼は更に、言葉を重ねる。

 

「そこで悪魔たちには、魔王と結婚するならば、自分はより強い悪魔でなくてはならない、という心理が働く。

 悪魔たちは、多かれ少なかれ、自分がより強い悪魔になりたいという欲求を持っている。

 だから強くなるために、石を欲しがる。石にするための人間を狩る。だが狩りすぎて、滅ぼしかけてしまった」

「それで、マフを作ったってこと?」

「そうだ」

「でも、エリカレスだけは違うんだよね」

「俺のような変わり者も、たまにはいる」

「そうだね――」

 

 そんな会話を、ふと、ホウセは思い出していた。

 

***

 

 複雑ではあった。

 彼女は、たまたま、エリカレスという悪魔に巡り合った。

 エリカレスも、たまたま、人間を使った魔宝を作るという行為に()んでいたところだった。

 もし、ホウセがエリカレスの元に預けられていなかったら?

 預けられたとしても彼がまだ、人間で魔宝を作ることに疑問を抱いていなかったら?

 エリカレスと別れた後、彼女は一人で人間の世界を巡るようになったが、そうした()()()を考えない日は無かった。

 自分は偶然、死を免れた。

 死病にも冒されず、“石”になることもなく。

 そしてエリカレスに救われ、マフから逃げた。

 二度と戻ることはないと思っていた、忌むべき故郷。

 しかし彼女は再び、そこを訪れることになった。

 エリカレスの遺していたものを発見し、マフの人間を解放することにも成功した。

 そこまで都合よく、運命がホウセに味方したのだ。

 運命ということは、決まっていたということ。

 決まっていたということは、やらなければならない使命でもある、ということだ。

 ならば今もまた、目の前の魔王――あるいはその“影”――を打ち破り、マフを脱出してもみせる。

 意気込みは強かったが、しかし相手も強力だった。

 

「どうした、赤い鎧の戦士!」

 

 黄金の剣の一撃で、槍を弾かれる。

 隙が生じ、そこを突かれた。

 

「っ!!」

 

 魔王は尻尾でホウセの左脚を掴み、障壁に向かって凄まじい勢いで投げつける。

 魔力を噴射して制動をかけるが、足りない。

 

「あ――」

 

 真紅の鎧は不可視の障壁に、激しく衝突し、跳ね返された。

 障壁の弾力で、大きく反対方向へと弾き飛ばされるホウセ。

 そこに追い打ちのように無数の火球を放ち、魔王の“影”は哄笑した。

 

「ははははは! だいぶ飛んだな!」

 

 ホウセは魔力を放出してそれを回避したが、周囲への着弾までは防げない。

 火の海が、またも広がっていく。

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