魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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4.14.障壁の爆縮

 魔術で強化した短剣で、扉の施錠を叩き切る。

 そこでファリーハが発見したのは、魔術の装置のある部屋だった。

 

「これが……?」

 

 部屋の中央には、ツタに覆われたような巨大な深緑色の宝玉が設置されている。

 低い唸り声を上げながら、それは光り輝き、振動していた。

 そしてそれを取り巻くように置かれた、操作盤と思しい機械らしきもの。

 ボタンやレバーに見える箇所もあり、そこには文字が書かれていた。

 ただし、悪魔の文字のようだ。ファリーハには読めない。

 翻訳の魔術は、文字にまでは作用しない。

 助けになりそうな鎧たちは外で戦っている。

 ドローンたちは障壁の外で滞空中だ。

 迷っている時間はない。

 ファリーハは装置に近づき、首元の通信機から連絡を入れた。

 

「エクレル、プルイナ。障壁の操作装置らしき場所にたどり着きました。

 残念ながら操作方法はわかりません。

 破壊していいものかどうかも見当がつかないので、まずは操作だけに留めます。

 順番に操作していきますので、障壁が消えたら教えて下さい」

『了解だ』『分かりました』

「では、始めます!」

 

 彼女は意を決して、ボタンを押した。

 

「一番右上の、目立つボタンを押しました」

『……変化はないようだ』

『ホウセと魔王との戦闘で、火災が発生しています。

 そこから立ち上った煙が、障壁の上部に滞留したままです』

「では、次のボタンを」

 

 宣言して、その真下のボタンを押す。

 

『変化はない』『同じく』

「次!」『……変化なしだ』『同様です』

「――!」『――』『――』

 

 そして、何度か空振りを続けた、その次の操作で。

 

「ならば、このレバー!」

 

 力を込めて、彼女はそれを引き下ろした。

 彼女には知る由もなかったが、それは、障壁の展開範囲を操作する部品だった。

 操作の結果、マフの街を取り囲んでいた障壁が、()()()()

 物質が通過できない、不可視の半球。

 それが急激に内側へと縮んだら、どうなるか?

 障壁のすぐ内側に存在していた土壌や建築物は、不可視の力場に圧縮されて、内側へと猛烈な勢いでめくれ上がり、吹き飛んだ。

 激しい地鳴りが、狭くなったマフに響き渡る。

 振動はファリーハのいる操作室にまで、激しく襲いかかってきた。

 そして障壁の内部の空気が圧縮されて、気温・気圧が急上昇する。

 それによって、ファリーハは鋭い痛みを覚えて耳を押さえた。

 

「くぅっ……!?」

 

 これ以上気圧が急激に上昇していた場合、彼女の鼓膜は破れていたかもしれない。

 局地的な大災害、といっていいだろうか。

 北で悪魔たちと戦っていたディゼムと黒い鎧は、収縮した障壁の直撃を受けていた。

 悪魔や地盤もろとも吹き飛びながら、ディゼムが狼狽する。

 

「なんじゃこりゃあ!?」 

 

 黒い鎧の気密はかろうじて保たれていたため、内部のディゼムには気圧の上昇の影響はなかったが、既に損傷が広がっていた鎧に更なるダメージが加わった。

 プルイナが、通信で街の中心近くにいるファリーハに問い合わせる。

 

『ファリーハ、障壁が収縮――いえ、爆縮しました。

 気圧が急上昇しています。そちらは大丈夫ですか?

 この音声が聞こえていますか?』

 

 痛みを堪えつつ、ファリーハは返信した。

 

「き、聞こえます……すみません……! 今、戻します……!」

『レバーでしたね? じわじわと、ゆっくり、元の位置まで戻してください。

 急に戻すと、恐らく障壁が拡大することで急激な減圧が生じ、あなたとホウセが危険です』

「わ、わかりました……! いたた……」

 

 彼女は言われた通り、ゆっくりとレバーを上に戻し始めた。

 プルイナが、尋ねる。

 

『ファリーハ、操作方法は解明できそうですか?』

「残念ですが、まだ……」

 

 返答に対し、彼女は次に、警告した。

 

『これ以上は危険です。火災で付近の酸素濃度が低下しています。

 回収するので、そこから外に出て保護セルに入ってください』

「い、いえ、まだ行け……はぁ……はぁ……!」

 

 いつのまにか、ファリーハの呼吸は荒くなっていた。

 言われてみれば確かに、空気が薄くなっていると感じる。

 

『いけません。集中力も低下してきているはずです。

 ディゼムとアケウは我々が守っていますが、あなたはそうは行きません。

 早く外へ出てください』

「く……情けない……!」

『酸素欠乏症は気合や根性でどうにかなるものではありません。

 まだ間に合います。慌てずに』

 

 ファリーハは頭痛をこらえながら、操作室を出た。

 ツタのようなものに覆われた巨大な宝玉が、その後ろで輝き続けていた。

 

***

 

 街の中心部に向かって吹き飛ばされたホウセを追って、魔王が跳躍する。

 

「逃げるか? それもいいだろうがな……!」

 

 彼女はなおも火炎や爆発の魔術を用いて、攻撃を続けてきた。

 ホウセはそれらを避け、あるいは槍で弾いて防ぎながら、魔王を迎え撃とうとした。

 だが、魔王はホウセを翻弄するように魔術を撃ち続け、彼女を寄せ付けない。

 じりじりと、後退を余儀なくされていく。

 

「さっきまでの威勢はどうした?」

 

 嘲笑うように言い放ちながら、魔王は姿を消した。

 短距離転移だ。

 そこから繰り出される黄金の剣を、かろうじて防いだ。

 遠くからいたぶるようにしていたかと思えば、無造作に距離を詰めてくる。

 

「く……!」

「それとも、まだ本気ではないか?」

 

 今度は黄金の髪の乱舞が、再びホウセを襲った。

 それを、待っていた。

 

「そこ!」

 

 ホウセは真紅の槍を黄金の髪の嵐へと突っ込み、

 

「荒く、尖れ!」

「む!?」

 

 呪文に応じて槍の穂先が変形し、無数の棘となる。

 棘は魔王の髪へと絡まり、ホウセはそのまま槍の柄を思い切り振り回した。

 

「せいッ!!」

 

 そして大地へと叩きつける――直前に、

 

「空よ、移せ!」

 

 魔王の姿が消えた。

 やはり、短距離転移。

 ホウセは慌てず、周囲を見回した。

 真紅の鎧が、胸のざわめきという形で魔王の位置を教えてくれる。

 

「火球よ、焼き尽くせ!」

 

 真紅の鎧が魔王の気配を捉えたのと同時、魔術が飛んでくる。

 飛び退き、魔力を噴射して、大量の火球を回避した。

 魔王ワーウヤードは空中にいた。彼女も飛べるのだ。

 

「それ、どうした! 守るだけでは街が灰になる一方だぞ! はははは!」

 

 再び哄笑する、金色の美女。

 ホウセは火球の嵐を回避するので手一杯だ。

 しかし、同時刻。

 ファリーハの操作で、マフを覆っていた障壁が、爆発的に収縮した。

 

「ははは――ぐは!!」

 

 爆縮した障壁に背後から衝突し、魔王が街の中心部に向かって吹き飛ぶ。

 

「っ!?」

 

 魔王だけでなく、ホウセも障壁に衝突した。

 同様に吹き飛ばされるが、正面から、また魔王が一瞬早く衝突したのを見ていた分、防御が間に合った。

 ホウセは素早く真紅の鎧から魔力を噴射して姿勢を立て直し、魔王を追う。

 すると、魔王は中央付近で戦っている黒い鎧たちに気づいたか、飛ぶ速度を上げた。

 

(ヤバい、あっちにはファリーハたちが……!)

 

 黒い鎧から、プルイナの通信が入る。

 

『ホウセ、そちらの状況はどうですか? 耳は痛くありませんか?』

「特に何ともない! ただ魔王が、そっちに行きそう! 何とか抑える!」

 

 ホウセはやや焦りつつ、鎧から更に魔力を噴射した。

 

***

 

 ディゼムと黒い鎧はマフの障壁の中心に向かって飛んでいた。

 プルイナが、着装者に提起する。

 

『ディゼム、ファリーハが保護セルに収容されて離脱したら、我々が制御装置と思しき施設を破壊しましょう』

「壁の消し方は姫様でも判らなかったか」

『仕方ありません。本機の推測ですが、破壊すると爆発する可能性も有り得ます。

 白い鎧は損傷が大きいので、我々が処置します』

「分かった、それで行く。ホウセは?」

『問題ないそうですが……通信越しの呼吸音とドローンからの観測を見るに、魔王を抑えきるのは難しいようです』

「壁を作る仕掛けをぶっ壊したら、そっちの救援に向かう。いいよな?」

『賛成します』

 

 ディゼムたちはそのまま、ファリーハのいる中心近くへと飛んだ。

 

***

 

 その近辺で悪魔と戦闘していたアケウと白い鎧は、無事だった。

 鎧の損傷は大きかったが、最低限の気密と生命維持は保っている状態だ。

 そのため、アケウは急激な気圧上昇と酸素濃度の低下から守られていた。

 彼は王女を案じ、白い鎧に尋ねる。

 

「殿下は大丈夫なのか、エクレル!?」

『やや危険な状態だが、今ここを離れるわけにはいかん。

 それより、ディゼムとプルイナがこちらの援護に向かっている。

 ファリーハが戻るまで、近づく敵を叩くぞ』

「わかった。ホウセは?」

「そっちは俺らに任せてくれ!」

 

 アケウが尋ねたのと同時、そこに黒い鎧が到着した。

 

「ディゼム!」

 

 ファリーハも、岩の城の中から息を切らせつつ姿を現した。

 

「お、お待たせしました……!」

「殿下!」

 

 接近する悪魔の群れに破砕弾を撃ち込みながら、アケウは彼女を案じた。

 ファリーハは黒い鎧の助けを借りて、よろよろと保護セルに入る。

 

「アケウ。姫様を運んで、こっから離れてくれ。

 俺たちはこれから、見えない壁を出してる仕掛けをぶっ壊す」

『爆発の恐れがあります。ファリーハを頼みます』

「了解だ……!」

 

 白い鎧はスラスターを噴かせて後退し、保護セルへと取り付いた。

 上部に生えた取っ手を掴み、一気に空中へと飛び上がる。

 

『東側から魔王が、ホウセを抜いて徐々に接近している。我々はやや手薄な北に行く』

「わかった」

 

 エクレルの指示する方向に従い、アケウは白い鎧の推力を上げた。

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