魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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1.6.鎧の仮想敵

 異世界の鎧が国民に披露されてから二日後、先日決定していた合同演習が開始された。

 魔術省の召喚した二領の全身鎧と、陸軍の部隊による模擬戦闘だ。

 場所は、王都から南西にある廃銀山と、そこに利運説する廃墟となった鉱山街。

 高低差のある山岳部分と、民家の残った市街地部分が揃っている。

 山岳戦と市街戦が同時に演習できるという理由で、閉山となり人が住まなくなった後、陸軍が管理するようになった一帯だ。

 異世界の鎧たちの実際の戦闘力を測るには、中々の好適地と言える。

 ディゼムとアケウは、そこからやや離れた地点で互いの鎧を着装し、待機していた。

 事前の打ち合わせでは、彼らが悪魔役をやることになっている。

 

「二体の悪魔が、鉱山街を襲った。陸軍が市民を守りつつこれを迎撃し、撃破する」

 

 快く引き受けるというにはやや抵抗のある設定だったが、軍隊に文句をつけてそこが変わるわけでもない。

 プルイナが、鎧の中のディゼムに尋ねた。

 

『ディゼム。悪魔というものは、あの魔王の“影”のような形態の種族だと認識してよいのですか?』

「わからねえ。150年前のことだから、俺が実物を見たのはあれが初めてだ。

 俺以外のやつもそうだろうけど……おとぎ話なんかだと、火を吐く豚だったり、七本首の竜だったりしたけどな」

『書籍などの資料はありますか?』

「俺は持ってねえけど……図書館にならあるんじゃねえのか。歴史の本とかだろ」

『どの程度の戦闘力を有しているのか判れば、演習に役立てられると思ったのですが……

 現状では仕方がありませんね。X(エックス)T(ティー)I(アイ)A(エー)S(エス)-6(シックス)として戦闘を行いましょう』

「何かよくわからんが、任せた」

 

 黒い鎧と白い鎧は通信で繋がっており、それを聞いたアケウが反応する。

 

「ディゼム、緊張してない?」

「いや別に……」

「僕は意外と緊張してる……がんばろう」

「ん、あぁ」

 

 互いの顔は見えないが、相変わらず声がはっきりと聞こえる。

 ディゼムは鎧の性能を、改めて意識した。

 

(便利だな……全身くまなくびっしり鎧を着てるってのに、そんなのがねぇみてぇに声が聞こえるってのは)

 

 そこで、彼らの背後にいた陸軍の兵士が開始を伝えてきた。

 

「時間です。このまま侵攻して、目標を破壊してください」

「っし」

「了解!」

 

 黒い鎧と白い鎧は、砂利の流失した古い廃道を進み、廃鉱山の町を目指して模擬侵略を開始した。

 背中の推進装置を起動し、小さな爆音を立てて飛翔する。

 飛行中、アケウが通信で話しかけてくる。

 

「じゃあ予定通りに。僕が先行して陸軍の目を引きつける。ディゼムは見つからないように目標を探す」

「おう」

「陸軍は僕しかいないことに気づいて、すぐに僕を足止めして、君を探そうとするはずだ。気をつけて」

「わかってる!」

 

 ディゼムは高度を落とすと、民家の影に隠れて街に侵入した。

 

「!」

 

 偶然か、角から歩いてきた歩哨らしき二人の兵士に出くわした。

 黒い鎧は即座に反応し、かざした手の先から弾丸を発射した。

 

『キル・マーカー、行使』

 

 ぱぱ、と、のけぞった兵士たちの服に黄色い粉末塗料の花が咲いた。

 戦闘不能判定だ。

 

『ディゼム、この先にも部隊がいます。彼らは電子通信装備こそ持っていないものの、特殊な印刷物を使用して遠隔通話ができるようです。

 それを使用される前に、各個に撃破していきます。走ってください』

「あぁもう、わかったよ!」

『視界の右上に、こちらで探知できた兵士たちの位置を表示します』

「至れり尽くせりって感じだな……」

 

 そのまま市街を走って移動し、ディゼムは遭遇する端から、兵士たちにペイント弾を当てていった。

 この演習ではディゼムたちが自分の意志で鎧の全身を動かすことにも主眼が置かれており、ディゼムも今は、鎧のパワーアシストがあるとはいえ自身で手足を動かしていた。

 指先に力を込めることで、自分でもペイント弾を発射できた。

 また二人、撃破する。

 

「しかし、やたら当たるな……俺、射撃は得意じゃないんだが」

『こちらで補正しています。気にせず撃ってください』

「ありがてえんだが先に言えそういうのは!」

 

 アケウが引きつけているのだろう、周囲に敵はいない。

 プルイナが黒い鎧の中でアナウンスする。

 

『ディゼム、戦術的な提案です。この状況ならば、突撃して坑道内部に一気に侵入できます。

 市街地には屋内も含めて目標物らしきものがありませんので、そちらを探しましょう』

「もう探し終わったのかよ……じゃあ、行くか」

『あ』

 

 人間が思わずそう漏らすような調子で、プルイナが声を発した。

 ディゼムは不安になって尋ねる。

 

「何だ急に……」

『ごめんなさいディゼム。アケウとエクレルが、たった今目標を発見し、敵の前線ごと撃破しました』

「早えーよ!」

 

 視界の右端に、ペイント弾を浴びて黄色く染まった兵士たちと、人形の映像が映されていた。

 アケウとエクレルが見ている視界ということなのか、ディゼムは喚きつつも、驚嘆していた。 

 アケウの音声が、耳元に届く。

 

「ディゼム、聞こえるかい?」

「聞こえる」

「ごめん。連絡をする前に勝負がついちゃったみたいだ」

「別に責めちゃいねえっていうか……緊張してた割には手際良いなお前」

 

 どこからか赤い発煙弾が上がり、演習の終了が通知された。

 敵味方の役を問わず、鉱山街の広場に集まるという合図だ。

 その後、簡単な状況報告などを行い、実戦であればどのような結果だったかが確認された。

 そして更に、今度は攻守を交代して演習が行われたが、異世界の鎧の側が完全な防衛を達成し、やはり勝利することとなった。

 

***

 

 陸軍と異世界の鎧との演習を、ファリーハは遠方で見ていた。

 一昨日の展示会と今回の演習で、鎧の機動力や耐久性は申し分ないことが理解できる。

 ただ一方で、攻撃に関する能力は不明点が多かった。

 魔王の“影”を撃破した威力を、人間の兵士を相手に試すなどできるはずもないが。

 そのため翌日は、標的を用意しての火力測定を行う予定になっていた。

 魔術省の職員が多く参加しているほか、陸軍・海軍省の武官なども見学に来ている。

 試射は廃坑の入り口付近の、開けた場所で行われた。

 

『エクスプローシヴ・バレット、行使』

 

 黒い鎧の指先から発射された弾丸が、標的に命中した。

 標的は左から、ヒト型に切り抜いた木の板、一抱えほどの大きさの岩塊、人間大の厚手の鉄板と並んでいた。

 木の板は破砕され、破片の一部が炎上した。

 岩塊は砕かれ、鉄板は貫通、いずれも着弾と同時に弾頭が破裂することで、破壊の痕はさらに大きくなった。

 人間が直撃を受ければひとたまりもあるまい。

 

「ほぉ、速度はあるな」「威力は悪くないといったところですが」

 

 威力を目の当たりにした観覧席の武官や魔術官僚たちからは、頷くような弱い歓声が上がった。

 鎧たちの後ろで、ファリーハが解説する。

 先日の展示会同様、魔術紋様の作用で彼女の声は拡大されていた。

 

「小型の破砕弾を発射するものです。弾丸が当たった箇所には爆発が生じます。

 では続いて、連射、始め!」

 

 黒い鎧と白い鎧が両腕を掲げ、その十の指先から連続で、同じ弾丸が射出された。

 破砕弾は切り立った岩壁に着弾し、けたたましい爆音が上がる。

 着弾で破壊された岩石が、煙を上げながら大きく崩れた。

 

「おぉ……」「あれほど連射が効くとは」

 

 今度の反応は悪くない。

 ファリーハは続けて指示を出した。

 

「更に続いて、焼夷弾!」

『コンデンスト・プラズマ、行使』

 

 またも鎧たちの指先から、何かが発射される。

 それは今度は崩れ落ちた岩塊の山に命中し、巨大な火炎が燃え上がった。

 炎は消えず、眩しく燃え続ける。

 

「着弾が早い」「火勢も十分にあるな」

 

 微弱ではあるが、熱気がここまで伝わってくるほどだ。

 ファリーハは解説を続けた。

 

「目標を効率良く焼き払うための流体焼夷弾です。この火は水では消えないので、相応の消火剤を使う必要があります。消火!」

『アンチ・インセンディアリ、行使』

 

 黒い鎧と白い鎧の指先から白いしぶきが噴射され、離れたところで燃え盛っていた炎を鎮火した。

 

「更に続いて、熱線!」

『クロスレンジ・レーザー、行使』

 

 今度は何の前触れもなく、更に遠くに設置されていた標的が炎上した。

 

「おぉ……」「ふむ」

「不可視の熱線で、比較的近距離の対象を攻撃します。主に迎撃に使用するものです」

 

 観衆の反応は、期待よりは小さかった。

 確かに、陸海軍の魔術師の熟練者の中には、この規模の破壊力の魔術を扱えるものもいる。

 速射性は鎧が勝っているはずだが、異世界から召喚した救世主が見せる威力としては、いささか迫力に欠けるきらいは否めない。

 彼女は白い鎧に近づき、耳打ちするようにささやいた。

 

「エクレル、やはり既存の魔術からさほど逸脱しない威力の武器では、特に武官や魔術師たちに強い印象を与えられないようです。

 予定外ですが、ここはいっそ、魔王の“影”を倒したというあの武器を使ってみてください」

 

 彼女はエクレルの宿っている白い鎧に話しかけている。

 ただし、内部のアケウにとって、その視線はそのまま自分へも向けられているように感じられるものだった。

 

(あ、で、殿下が近い……!?)

 

 装甲一枚――実際には15の層で形成されているので、正確な表現ではない――を隔てたすぐそこに、生身の王女がいる。

 外界の状況は、鎧の高性能なセンサーを介して、内部のアケウにもしっかりと見えていた。

 内部のアケウの動揺をよそに、エクレルが音量を絞ってファリーハに答える。

 

『ガンマ・ガンはここで使用するには危険すぎる。放射化した――有毒な粉塵が飛散する恐れがある』

「遠くに向かって撃てば何とかなりませんか?」

 

 ファリーハは更に白い鎧に近づき、その肩に手をかけた。

 

『駄目だ。敵もいない、緊急性もない状況では使用できない。

 我々の太陽系でも演習での実射はしない武装なんだぞ』

「く、こんなにお願いしても……!?」

 

 白い鎧の兜を両手で挟み込むようにして、懇願するファリーハ。

 アケウの混乱は頂点に達した。

 

(あっ、ちょっと、殿下……!?)

 

 だが、エクレルは冷淡だった。

 

『駄目だ。それより、他の武装を見せるぞ。

 あとはもう、細かなバリエーションを除けば地味な補助兵装ばかりだがな』

「……仕方ありませんね」

 

 白い鎧にすがりついていたファリーハが、ふいと離れる。

 

(…………!)

 

 内部のアケウは複雑な心境ながら、安堵した。

 

「この場で使えないのは仕方ないとして、あれは魔王や魔王軍と戦う際の切り札になりえるものです。

 どのような使い勝手のものなのかは把握しておきたいし……

 可能であれば後ほど、インヘリトの魔術師にも使えるように教えていただきたいのです」

 

 黒い鎧が、やはり音量を絞って回答した。

 

『ファリーハ。誤解を生んで申し訳ないのですが、我々は魔術という技術を使用しません。

 我々から魔術師に説明できるのは原理だけで、おそらく使えるようにはならないでしょう』

「え、魔術ではない?」

 

 意外そうなファリーハに、横からエクレルが告げる。

 

『少なくとも、我々は魔術だとは思っていない。

 原理の説明はしてもいいが、その代わり、お前たちの魔術についても知識を提供してもらうぞ。

 我々にできるとは思えないが、敵が使ってくるなら話は別だからな』

「構いません。今は悪魔に対抗できる強い武器が必要です。ただ……」

 

 少し間を置いてから、ファリーハは声量を下げて口にした。

 

「他の人々に対しては、あれは魔術だということにしておいてください。

 その方が、あなた方について魔術省の管轄だと主張しやすいので……」

『何やら政治的な話になってきたな……まぁ、仕方ないか』

『わかりました。陸海軍などを交えて無用な混乱を招くよりは、その方が良いでしょう』

 

 彼女たちは、火力測定を再開した。

 だが、黒い鎧と白い鎧はその最中、独自に秘密の通信を行っていた。

 ファリーハや護衛の魔術師たちだけでなく、着装者であるディゼムとアケウにも聞こえない、無音のやりとりだった。

 

『プルイナ、どうする。この世界の人類を、あの悪魔とかいう種族から防衛するなら、技術供与をするべきだと思うが』

『もし我々の手に負えないほど強大であるなら、インヘリト王国の兵器と組織の強化は必要でしょうが……

 魔王とやらの軍勢がこの島にやってくるまでに、それをする時間があるかどうか。

 魔王や悪魔といった存在があまりに未知数なのが問題ですね。

 やるにしても、どの程度の技術を供与すればいいのか不明です』

『結局、あの魔王の“影”とやらだけではサンプルが不足しているからな。

 やはり“旧世界”とやらに出て調査してみないことには、何とも言えまい』

『魔王の侵攻の時期は不明ですから、何にせよ旧世界の探査を早めるよう働きかけることを提案します』

『そうだな。同意する』

『では以上、通信終了』

 

 そこで秘密の通信を終えて、プルイナはファリーハに尋ねた。

 

『ファリーハ、悪魔に対して有効な手段が必要ならば、やはり我々は悪魔のことを知らなければなりません。

 これが終了したら、情報交換のための時間を設けてください』

 

 そこに、エクレルが続けて告げる。

 

『我々は魔術や悪魔に関する情報を、お前たちは我々の兵器の原理についての知識を手に入れる。それで問題ないな』

「ええ、そうしましょう」

『それと、旧世界の探査というものだが……どのくらい計画を早められる?』

「精一杯急いではいるのですが――」

 

 二領の鎧と王女とのやり取りを鎧の内部で聞きながら、ディゼムは胸中でうめいた。

 

(何か俺ら、蚊帳の外って感じだな……まぁ、異世界からの戦士とお姫さまとの高度な話に割って入る余地なんてねえんだろうけど)

『ディゼム』

 

 話しかけてきたプルイナに、ディゼムはぶっきらぼうに応えた。

 

「何だよ」

『なにか不満か、悩み事はありませんか?』

「ねえよ」

『本機はあなたの体を包み込むようにしているため、あなたの精神面の浮き沈みもある程度わかってしまいます。

 心の中を読めるわけではありませんが、話せることなら話してみてください』

「……いいよ別に。何か、自分が話からハブられてるような気がしたってだけだ」

『話し相手になりましょうか』

「何を話せってんだお前……別に俺は身の上話を聞いて欲しいわけじゃねえ」

『着装者のメンタルケアも本機の使命の一つです。気が変わったら遠慮なく話してくださいね』

「…………」

 

 ことさら優しげに言われ、ディゼムはしばし沈黙した。

 視線をどこに逸らせばいいか分からず、彼は目を閉じて告げる。

 

「気遣い自体は助かる。ありがとうな」

『どういたしまして』

 

 会話を打ち切ると、火力測定の集まりも終了する話向きのようだった。

 ディゼムは馬車に戻り、鎧を脱ぎたい気持ちを我慢しながら発車を待った。

 そこに、馬車の扉を開けて、ファリーハが飛び込んでくる。

 外では着装者の名を公然とは呼ばないことになっているため、彼女は小声で伝えてきた。

 

「プルイナ、ディゼム、予定が変わりました。これから我々は、ビョーザ回廊に向かいます」

『先日開削した、あの魔術紋様の跡があった洞窟ですね?』

「そうです」

 

 ファリーハは一拍ほど置いて、うめくように口にした。

 

「あそこが、何者かに爆破されました。啓開(けいかい)作業を手伝ってください」

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