魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る 作:kadochika
保護セルを持ち上げて北へと飛んでいく、白い鎧。
それを見送りつつ、ディゼムは岩を削り出したような、小さな城の内部へと入っていった。
短い廊下を渡った先の部屋に、巨大な宝玉が設置された部屋があった。
「ここが、さっきまで姫様がいじってた部屋だな」
『そうです。危険は考えられますが、この巨大な石を破壊することで、障壁の解除を試みます』
「よし、やるぞ」
ディゼムが右手を構えて、
『緊急防御!』
急にプルイナが黒い鎧の姿勢を変更して、防御態勢を取らせた。
何だ、とディゼムが訝る間もなく、小さな城が激しく揺れる。
気づけば部屋は半壊し、そこには真紅の鎧が倒れていた。
魔王の攻撃か。
「お、おい、ホウセ……!?」
彼女を助け起こそうと、駆け寄る前に、気づく。
やや離れたところ、空中に魔王がたたずんでいた。
「逃さんぞ」
「何――!?」
魔王は金色の髪を勢いよく伸ばし、黒い鎧と真紅の鎧を掴み上げ、反対側へと投げ飛ばす。
そしてディゼムたちに向かって呪文を唱え、火球の群れを解き放った。
「火の群れよ、覆い尽くせ!」
「クロス、なんたら!」
黒い鎧の側頭部から照射されたレーザーが火球を迎撃するが、落としきれずに着弾を許す。
無数の火球が炸裂し、膨大な熱と衝撃波を撒き散らした。
「クソ、あの金ピカ魔王、壁の仕掛けを守るつもりかよ!」
火球を回避しつつ、黒い鎧の中でディゼムはうめいた。
損傷が蓄積している鎧で直撃を受けるのは避けたい。
ホウセが、通信越しにつぶやく。
「さっきは勢いで引き受けちゃったけど、どうしようか……!」
「試してなかったけど、お前の魔術で壊せねえのか、あの壁」
「魔王の攻撃をしのぎながらあれこれ試す? 魔王をどうにかするほうが早いよ」
『簡素ですが、作戦の提案があります』
二人は、プルイナからの提案を聞いた。
魔王はその動きに気づいて、怪しみつつも呪文を唱える。
「何を話している……?
火の渦よ、飲み込め!」
火炎の竜巻がほとばしり、ディゼムたちに襲いかかる。
プルイナの作戦を聞いた、黒い鎧が飛び出した。
「よし、それで行く!」
『シールド・フルイド、行使!』
磁性気体を装甲の表面にまとわりつかせ、黒い鎧は炎の熱を緩和する。
機体を突進させ、ディゼムは炎の渦を突破した。
破砕弾の射程距離まで接近し、魔王に対して連射する。
しかし、魔王ワーウヤードはそれを避けることすらしなかった。
高性能炸薬で形成された弾頭が着弾しても、傷一つつかない。
魔王の衣も、肌も、髪も。
「そんな豆鉄砲が、効くものか!」
魔王はせせら笑うと、再び魔術の火球を多数発射した。
ディゼムはそれを回避しつつ、うめいた。
「効くまでやるんだよ!」
だが、魔王の生み出す火球の数には際限がない。
魔王ワーウヤードが、ささやく。
「忌々しい黒い鎧の戦士よ。お前の狙いは見えているぞ?」
轟音の中でもその声は、何故かよく聞こえた。
「もはやお前の飛び道具に、余を討つ力はない。
ならせめて、組み打ちに持ち込まねばな?」
「テメェみてえなヤバすぎる女に触る趣味はねえ!」
ディゼムは軽口を叩きつつ、なおも撃つ。
彼は隙あらば障壁の発生装置を狙うが、魔王は巧みに火球を放ち、それを妨害してきた。
時折弾が外れ、地面に当たる。
魔王は、せせら笑った。
「お前たちの動きも見抜いている。
余の動きを止めて、お前の背後の赤い鎧の、槍の投げ打ちで仕留めようという魂胆もな!」
「――そうかい!」
『今です』
プルイナの合図と共に、そこかしこで白い繊維の花が咲いた。
魔王は足元から爆発した粘着繊維に絡め取られ、足を止める。
「な――」
「ホウセッ!!」
「たぁあッ――!!!」
合図とともに真紅の鎧が、全身の装甲を膨張させて、最大威力の投擲を放つ。
超音速に達した真紅の槍が、魔王の心臓を狙って打ち出された。
しかし、
「こざかしい!」
魔王はそれを、あっさりと短距離転移でかわした。
粘着繊維も、これには効果がない。
「当たると思ったか? 馬鹿め――」
身体一つ分の距離だけを転移した彼女が嘲笑しながら振り向くと、そこには――
――真紅の槍が、魔王の背後にあった障壁の発生源、巨大な深緑の宝玉を、深々と貫いていた。
「あっ」
魔宝が大爆発を起こし、魔王もろとも小さな岩の城を吹き飛ばす。
同時に、マフの街を覆っていた不可視の障壁も消滅した。
上空に滞留していた熱と煙が開放されて強烈な上昇気流となり、気圧の下がったマフの街に周囲から風が吹き込む。
障壁を発生させていた岩の城から立ち上っていた噴煙もそれによって、吹き流された。
「…………」
岩の城の跡には、瓦礫だけが残っていた。
ディゼムは黒い鎧に、状況を尋ねた。
「プルイナ。この距離であの魔王の死体があるかどうか、分かるか?」
『それらしきものは観測できません。
魔王、あるいは魔王の“影”の能力は未知数です。長距離の転移も可能なのかも知れません』
「……やったのか、逃げられたのかは分からねえか」
『不明です。ですが、あのひっきりなしの攻撃が止んだところから見て、安全と見てよいでしょう。
ドローンの観測を見るに、悪魔たちも攻撃をやめて、南へと移動を始めました』
「そうか……一応、勝ったってことでいいのか?」
『魔王の討伐が成功したかどうかは不明ですが、家畜化されていたマフの住人を全員避難させ、さらには有力な悪魔を複数殺害しました。
この場は、勝利と判断できます』
「……この場は、か」
「おつかれ!」
真紅の鎧をまとったままのホウセが、黒い鎧の肩を叩く。
「あぁ……お疲れ。言われてみると本当に疲れたな……」
『本来であればマフの火災を消火してからトラルタに向かいたいところですが……
またいつ悪魔の軍勢がやってくるかもわかりません。
急いでここを離脱しましょう。
鎧の操作は本機がやりますので、あなたは休んでいてください』
「あ、いーなーそういうの」
プルイナの提案を、ホウセが羨む。
『本機がおんぶしていきましょう。構いませんよ』
「いやそれは……遠慮しとく……」
掛け合いが終わると、黒い鎧と真紅の鎧は離陸した。
連絡を取り合い、ファリーハを連れている白い鎧と合流する。
付近の悪魔たちは、マフから一時的に撤退しつつあるようだった。
一行はそれを見逃さず、転移の魔術紋様を急いで作成し――残された紋様の跡を隠滅するための清掃ロボットも忘れずに残置する――、インヘリト王国へと帰還するのだった。
***
遠く離れた地、花咲く山々に囲まれた、魔王の居城。
その中心に位置する大典の間の、玉座の中で。
金色の魔王は、いまだ産まれ出ぬまま、夢を見ていた。
またしても、影が敗れた。
おのれ、にっくき異世界の鎧。
次はより強い“影”を生み出して、今度こそばらばらに引き裂いてやる。
と、そこまで考えて、彼女は思い直した。
また“影”を出せば、玉座に供えられている“石”が減る。
“石”が減れば、ヌンハーが怒る。
まして、唯一の産地であるマフが失陥した直後だ。
絶対に、怒られる。
ヌンハーの怒号が、今にも聞こえるような気がする。
「魔王! ワーウヤード!!
怒りませんから、“影”をお出しください!!」
(……どうせ怒るに決まっておるわ……)
魔王は知らんぷりを決め込んで、しばらくの間は絶対に“影”を出さないことにした。
***
インヘリト王国。
人類最後の生息地――だったのは、つい二ヶ月ほど前までの話だ。
今ではアウソニアのように、悪魔による蹂躙を生き延びた国が他にも存在することが明らかとなり、インヘリトが孤独でなかったことが知れ渡った。
また伝承上の種族だったアールヴの実在が証明され、その上アールヴが千名ほどとはいえ人間を保護していたことが判明するなど、明るい知らせが続いた。
第二次救世主召喚の失敗などが間に挟まりはしたが、王女の提唱していた旧世界探査は、良い結果をもたらすものだと受け止められていた。
マフからの避難民たちは、そんな折、インヘリトへとやって来たことになる。
しかも、事前通告なしに突然、であった。
千人が半日ほどをかけて転移してきたアールヴィルの避難民を受け入れてすぐ、今度は二万人を優に超える数の人間が、突如として出現したのだ。
事情を知らされていなかった者がほとんどだった王国は、一時騒然となった。
判断を下したファリーハに説明が要求されるのは、当然のことだった。
「――口頭による報告は、以上です。詳細は、報告書として提出したいと思います」
転移の魔術紋様でインヘリト王国に一時帰還したファリーハは、会見の場でそう結んだ。
極めてセンセーショナルなその報告は、王国に大きなショックを与えた。
悪魔による、人間牧場。
許すまじ、悪魔。抗おう、人類。
大多数の国民にとっては、歴史上の存在だった悪魔。
それが今や実感こそ薄いものの、恐るべき、許されざる敵として、大きく存在感を増した。
逆に、マフの人々を救出したファリーハ王女と異世界の鎧に対する好感度は、以前より上がっていた。
旧世界奪還計画についての支持も、強まったと見ていいだろう。
ただ、それとは別に。
現在判明しているだけでも、アールヴィルとマフからの避難民の総数は、25697人。
新たな住民に対する処置の難しさは、関係機関を悩ませた。
インヘリト王国は既に総人口450万人を数え、住宅地はもはや限界状態だった。
大型集合住宅を増やす計画はあったが、土地の権利関係が複雑で、用地の確保が進んでいない。
ビョーザ回廊周辺のキャンプ地などは、完全に容量が不足しており、論外だった。
これらは、喫緊の課題と言えた。
衣食住の確保、戸籍の確認・整備――これらは国土省や保健福祉省に任せたいところだったが、それら省庁からは、魔術省やファリーハに対し、「これ以上面倒事を持ち込まないでくれ」と様々な働きかけがあった。
ファリーハも無論、理解していた。
旧世界からの領土奪還ができていない以上、インヘリトの他に、自由にできる安全な場所はないのだ。
(もし、この先の調査でマフのような土地があると判っても……その時は今回のようには行かない……)
憂鬱なことだったが、事実でもあった。
彼女は王女であり、魔術省の主席官だ。
まず何よりも、母国であるインヘリト王国の安寧にこそ、責任を持つ。
間借りした仕事場で報告書をしたためながら、彼女はため息をついた。