魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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4.16.解放の後日

 日も沈みかけた時刻。

 

「……本当に良かったのかな」

 

 官舎の部屋で、アケウがつぶやいた。

 

「何がだよ」

 

 ベッドに腰掛けながら、ディゼムが尋ねる。

 アケウは開いていた魔術書を閉じて、ディゼムの方を見た。

 

「マフの人たち……いきなり外国に送られて、困るのも確かだろうなって」

 

 財産どころか手荷物さえ持たず、あらゆる人間が、着の身着のまま、同意のない状態で転移をさせられた。

 家畜として扱われていたマフの人々に、財産と呼べるものが持たされていたかどうかは議論の余地があるが、そうした疑問もないわけではない。

 

「……しょうがねえよ。多分、あれが俺らにやれた最善だと思う」

 

 ディゼムはそう答えて、ベッドに上体を倒した。

 ――マフから脱出した後、彼らは全員、一度インヘリトに戻っていた。

 悪魔に見つかりにくいと見立てた場所に小さな基地を仮設し、そこから魔術紋様で帰還したのだ。

 使用後に残ってしまう魔術紋様の痕跡は、簡単なロボットを設置して抹消させた。

 それから二日が経ち、鎧の損傷は完全に修復されていた。

 部屋の隅にたたずむ黒い鎧から、プルイナが発言する。

 

『ホウセが言っていましたね、昔マフに死病が流行り、悪魔がそうしたことについてのケアを行わなかったと。

 ならば、当地の人々の扱いは家畜未満であったと言わざるを得ません。

 インヘリトの資源の限界という観点を除けば、我々は人道上、完全に正しいことを実行したと考えます』

『そうだぞ、アケウ。もっと胸を張れ。何よりファリーハが決めたことだ』

「そうやってすぐに殿下のお名前を使うのはやめてくれ」

 

 エクレルが王女の名を出すと、アケウはうんざりした様子で椅子を立った。

 そこに、扉を叩く音がした。

 

「男子たち、いる―?」

 

 ホウセの声だった。

 

「どうぞ。ディゼムもいるよ」

「回れっ」

 

 アケウが返事をすると、扉の向こうで、彼女は呪文を唱えた。

 魔術でかちりとノブが回ると、扉が開く。

 ディゼムは現れた彼女の姿を見て、思わず声を上げた。

 

「え、何だよその荷物」

 

 ホウセは、両手に複数の紙袋をぶら下げ、抱えてていた。

 扉を魔術で開けたのは、完全に手が塞がっているためだったらしい。

 彼女は楽しげに微笑んで、言った。

 

「マフの解放記念のお祝いをしようと思ってさ。

 二人とも、お腹すいたでしょ? 私のおごり」

 

 紙袋の中身は、屋台などで売っている食事だった。

 パンに果物、串焼き、焼き魚、金型焼き、炙り肉――

 そうしたものを手当たり次第に買い集めてきたらしい。

 ディゼムたちはそれを見て、彼女の手から荷物をテーブルにおろし始めた。

 

「ちと多すぎじゃ――いやお前なら大丈夫か」

「言ってくれればお金くらい出したのに……僕もディゼムも買い物なら付き合ったよ?」

 

 アケウが彼女の手から荷物を受け取りつつ、ぼやく。

 

「最初はファリーハと行こうとしたんだけど、忙しいからわたくし抜きでやってーって断られちゃって」

「そりゃそうだろ……姫様な上に、魔術省のお偉いさんなんだから、そりゃ忙しい――あれ、ていうかお前、金はどうした?

 俺が前に渡した金なんて全然足りねぇはず――」

「ファリーハに借りちゃった」

 

 尋ねると、ホウセは肩をすくめる。

 紙袋の中身を取り出して、ディゼムはうめいた。

 

「それじゃお前のおごりじゃなくて、姫様のおごりじゃねーか。

 て、酒も買ったのかよ! どんだけ渡したんだ姫様!」

「何よー」

 

 口を尖らせる彼女の年齢を、アケウが案じる。

 

「飲めるの? ホウセ」

「飲めますーぅ」

「お前いくつだよ? 俺とアケウは二十だけど」

「実は知らないんだよね。十年くらい前にエリカレスと別れた時は、確か十歳か十一歳ってことにしてたはずだけど……

 マフじゃ悪魔も人間も、人間の正確な年齢なんて把握する気がなかったから……

 誕生日も、エリカレスと会った日ってことにしてる」

 

 ディゼムの質問に答えるホウセは、実にあっさりとしていた。

 

「……マジかよ」

 

 人間を資源としていながら、悪魔がどれだけそれに無関心だったのかが分かる。

 エリカレスを除けば、だが。

 ディゼムは、黒い鎧に尋ねた。

 

「おいプルイナ、ホウセの正確な齢、わからねえ?」

『データが不足しています。本来なら、彼女の出身地であるマフの住民の生体統計記録が欲しいところです。

 もしくは、ホウセのバイオマーカーが採取できればいいのですが』

「えっ、何て?」

『少しだけ、血を取らせてください』

 

 プルイナの返答に、ホウセは少し、たじろいだ。

 

「…………どうやるの」

『この鎧の手首の部分だけを、あなたの手に嵌めてください。痛みや出血などの無いよう、ごく微量の血液だけを採取します』

「……」

 

 迷いつつも、彼女は黒い鎧の左手首を手に取って、外した。

 思い切って嵌めてみると、暖かく、柔らかい感触だ。

 採血針が神経を避けて血管だけに突き刺さり、サンプルを採取する。

 プルイナが、ホウセに告げた。

 

『採取が終了しました』

「痛くない……」

『もう外して大丈夫ですよ』

「……ごめんね?」

 

 ホウセは装着した黒い鎧の手首を外しながら、プルイナに謝った。

 

「その、この前は……得体の知れないものだなんて言って……ごめんなさい」

 

 そういえば彼女はアウソニアで、鎧たちに対してそのようなことを言っていたか。

 黒い鎧に、左手首が再び戻る。

 プルイナはホウセに対して、暖かな声音で答えた。

 

『そう言ってもらえると、本機としても嬉しく思います』

『で、どうなんだ? ホウセの推定年齢』

 

 それまで黙っていた白い鎧から、エクレルが尋ねる。

 プルイナはそれに答えて、

 

『ホウセ、あなたは推定で22歳です。誤差は±1年ほど』

「じゃあ、21~23歳……!? 俺より年上……!?」

 

 それを聞き、動揺するディゼム。

 ホウセが、彼に半眼で尋ねる。

 

「何。あたしのほうが歳上だったら文句ある?」

「だってどう見てもお前……上背とか態度とか性格とか……」

「誰がどっからどう見ても子供だって」

 

 言葉に詰まるディゼムの脛を、ホウセが蹴った。

 

「痛ってぇ! そういうとこがガキだっつんだよ!?」

「うっさいうっさい」

「蹴るな!? 祝うんじゃなかったのかよ!」

 

 言い合い、わめき合う二人。

 アケウは呆れながらも、紙袋から取り出した料理を皿に並べ始めた。

 

***

 

 夜。

 ファリーハは、保健福祉省の報告書に目を通していた。

 内容は、マフから転移してきた人々の、人口構成について。

 性別は、男が二割、女が八割。

 更に妊婦が五千人以上いた。

 年齢構成で特筆するべきは、男女ともに五十代以上がほとんどいないことだ。

 人々やホウセの証言を加味すると、これは、魔力源となる適性を重視した「繁殖」や「品種改良」が行われていたことを意味する。

 良質な“石”や“魔宝”に加工しうる人間を繁殖用として「系統」を維持し、150年にわたって「繁殖」させ続けていたということだ。

 人間は一部を除き、加工して使用、あるいは魔王へと献上された。

 数少ない救いとしては、人間が家畜を無為に虐げるわけではないのと同様に、悪魔もさほど積極的に人間に危害を加えた様子はないらしい点が挙げられる。

 特に妊婦の扱いは、それなりに丁重だったらしい。

 無論、死病の流行に対しては何もできず、誰であれ役割が果たせなくなったと判断されれば、資源化されていったのだが。

 厄介なこととして、マフの人々の価値観は150年の間にそうした社会構造へと順応しつつあった。

 これから教育や啓蒙活動などを通してそれを是正していきたいところだが、それをするにも現代のインヘリト式の教育を提供しなければならないというのが、悔やまれた。

 本来ならば、マフの人々がそこへと連れてこられる前の、それぞれの国の文化というものがあったことだろう。

 それを尊重したいところではあったが、しかし、150年前にほぼ失われたそれらを復活させるというのも、現実的ではなかった。

 彼らは、これからはインヘリトの一員として生きていくことになるだろう。

 

(……ままならないこと、ばかりだけど)

 

 敵は悪魔だ。

 何もかもが思い通りになど、なるはずがない。

 しかしそれでも、得るものはあった。

 

「正しいことだったと、思いたいですね……」

 

 ファリーハは気晴らしに窓を開け、仕事場のベランダに出る。

 リボンを解くと、春の夜風に銀髪が揺れた。

 

***

 

 翌日、所用だと言って出ていたディゼムが戻ってくるなり、ホウセにこう言った。

 

「エリカレスの墓を作ろうぜ」

「え、墓?」

「インヘリトに作るわけにゃ行かねえかもしれんけど、工房はどっちも潰されちまったし。どこか静かなところに建ててやりてえ」

「……そっか、お墓か」

 

 彼は何故、そのようなことを言い出したのか。

 ホウセはディゼムのいないところで、アケウに尋ねた。

 すると彼は答えて、

 

「ディゼム、今日は何の用かは言わずに外出してたよね。あれは小さい頃に亡くなった、お父さんのお墓参りに行ってたんだ」

「……そうなんだ」

 

 それを聞いて、ホウセは官舎の自室に、墓ではないが、小さな祭壇を置くことにした。

 プルイナとエクレルが設計し、自己複製プリンターで製造した、小さくも美しい装飾を施されたものだった。

 そこに彼女は小さな石碑と、遺品として残った鋼鉄のナイフを置いた。

 ナイフは、何とファリーハが趣味だというナイフ作りの一環で、歪んで欠けた刀身を摺り直し、柄や鞘などを新調してくれた。

 ホウセはインヘリトにいる時は、祭壇に向かって祈り、香を焚いた。

 ディゼムたちも、祈ってくれた。

 ちなみに、小さな石碑には、こう刻まれている。

 

 あなたは師であり、父であった。

 その生を終えた後の、安らぎを祈る。

 その意志を継ぎ、ここにそれを刻む。

 弟子であり、娘であるホウセによって。

 ありがとう、エリカレス。




 お疲れさまです。これにて第四章終了です。
 マフを解放し、次に向かう人類の生存地は異空間の中にあるという。
 使節として先行したディゼムとホウセは、そこで三つの勢力の争いに巻き込まれてしまう。
 そして更に、地の底からの脅威が迫る――次章『凍魔、覚醒』。
 感想・評価、お待ちしてます。
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