魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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5.4.紺碧の戦士

「異邦人――お前たちに、外の世界へ出ることを禁じる」

 

 そう言い放つ青い全身鎧たちを見て、ディゼムはホウセに尋ねた。

 

「おいホウセ、この青い鎧って……!」

 

 彼女も初めて見るらしく、驚いている。

 

「あたしのをパクったみたいな……

 エシアさん、あたしに内緒でこんなの作ってたんだ……!」

 

 二人は青い鎧たちに対して身構え、ホウセも呪文を唱えて真紅の鎧に身を包む。

 それを抗戦の姿勢と解釈したか、青い鎧の一人が再び告げた。

 

「我々は書記官長の直属部隊、青騎士。トラルタの守護者だ。

 抵抗せず指示に従え、異邦人」

 

 ディゼムが、反抗するようにうめく。

 

「仲間に連絡するために、五分ばかり外に出てぇだけだ。まずいのか?」

 

 青い鎧――青騎士は答えて、

 

「出る瞬間を悪魔に見られたらどうする?

 悪魔に逆を辿って入って来られない保証があるのか?

 今まではそちらのホウセに出入りを許してきたが、我々が訓練を終えたからにはそうはいかない」

「ついさっき、周りをしっかり確認してから来た。

 外に悪魔はいねぇよ!」

「危険はゼロではない。武装を解除して我々の指示に――」

 

 と、その時、真紅の稲妻が走った。

 

「――!!」

 

 ホウセが、青騎士たちを突破しようと試みたのだ。

 だが、彼女の電光石火の早足を、彼らは連携して阻む。

 

「止まれ!」

「くっ――」

 

 ホウセの手足を掴んで拘束しようとする、青い全身鎧たち。

 それらを体捌きで回避し、切り抜けようとする真紅の全身鎧。

 

「バインド・シルク!」

 

 ディゼムはそこに、粘着繊維弾を連射して援護する。

 しかし青騎士たちは回避、あるいは左腕に装着していた小型の盾を変形させてこれを防御した。

 

「抵抗、するな!」

 

 青騎士の一人はそううめいて、彼に向かって呪文を唱える。

 

「落ちよ!」

「っ!」

 

 それは恐らく、ディゼムと黒い鎧に対して放たれた魔術だった。

 

「…………?」

 

 だが、何かが起こった様子はない。

 飛び跳ねて後退したディゼムは訝りつつも、反撃に転じる。

 黒い鎧に接近してくる青騎士は、二人。

 

「野郎っ!」

 

 スラスター推力を急上昇させて爆発的に突進し、黒い鎧は青騎士の一人に体当たり同然に掴みかかった。

 そして、

 

「バインド・シルク――イントゥメス!」

 

 相手を掴んだ両掌の多目的射出孔から、膨大な量の白い粘着繊維が噴出する。

 

「む!?」

 

 掴みかかられた青騎士は膨れ上がった粘着繊維に絡め取られ、移動に失敗して転倒。

 一方、黒い鎧は掌からの分泌物を水に切り替えてこれを分解、脱出している。

 そこに残るのは、粘着繊維にまみれて動きの取れなくなった青騎士の一人だ。

 ディゼムがもう一方の青騎士の振り回す槍――こちらは魔術の品ではないようだが、念のためだ――を回避すると、プルイナが彼を補助して他の敵の位置を表示する。

 ホウセもまた、二人の青騎士を相手に一対二の状態になっているようだった。

 

『ホウセを援護してください!』

「わかってる!」

 

 彼が残ったもう一方の青騎士に前蹴りを放つと、相手はそれを後退して回避。

 だがディゼムはそのまま、ふくらはぎのスラスターから高熱の爆風を見舞って青騎士の体勢を崩す。

 そしてその反動を利用してホウセの援護に向かうと、彼女は真紅の槍で抗戦している最中だった。

 

「落ちよ!」

「く――!」

 

 敵が放ったらしき目に見えない魔術を、ホウセが大きく動いて回避する。

 

(何だ、俺に使ったのと同じ魔術――?)

 

 再び、青騎士がホウセに向かって呪文を唱える。

 

「落ちよ!」

 

 すると、彼女の鎧の左腕の部分が解けたように崩れ、真紅の布切れとなって翻った。

 プルイナが、分析する。

 

『魔術のようです。魔術紋様で形成された物体を、変質させる作用があるのかも知れません』

「マジかよ……!」

 

 その推測が正しいとすれば、魔術による生成物ではない黒い鎧に通じなかったのも道理と言える。

 ただ、ホウセが防戦に徹しているように見えるのは、気のせいではあるまい。

 恐らくは、相手が人間ゆえに手加減をして戦ってもいるのだ。

 でなければ、高威力の魔術で反撃しない理由がない。

 ディゼムは再び、ホウセの援護に加わった。

 

「オラッ! バインド・シルク・イントゥメスッ!」

 

 彼はホウセを襲っていた青騎士の一方に横合いから組み付いて、再び至近距離から粘着繊維弾を放った。

 あっという間に繊維まみれになって転倒する、二人目の青騎士。

 ディゼムは残る二人を視界に捉え、同様に無力化しようと試みる。

 が。

 

『警報、更に接近物!』

 

 プルイナの警告と同時、関の方向から更に四人の青騎士が駆けてきた。

 その四人全員がディゼムに向かって手を掲げ、

 

「眠れッ!」

「っ!?」

 

 そこから魔術が放射されるが、彼の目には見えない。

 呪文から催眠の魔術だと判断し、ディゼムは意識を固めた。

 

(魔術抵抗――!)

 

 思念を固めて魔術に抵抗しつつ、咄嗟に両腕で頭部を庇う。

 しかし抵抗は失敗し、魔術の直撃を受けた彼の意識は、急速に失われる――かと思いきや。

 

『起きなさい!』

「ほぐぁっ!?」

 

 プルイナが鎧の内部で電気ショックを与えたことで、辛うじてディゼムは意識を繋いだ。

 黒い鎧は小さな音声で、相棒を叱咤した。

 

『ナイス。咄嗟に抵抗したおかげで、眠りが浅く済んだようです』

「うるせぇ!」

 

 相棒に毒づきつつ、左腕が無防備になったホウセを庇い、ディゼムは青騎士たちに向かって両の手のひらを掲げる。

 

「ホウセ、無理すんな!

 バインド・シルク!」

「吹き荒べ!」

 

 高速で飛翔する粘着繊維弾の群れだが、青騎士たちは魔術で突風を起こしてこれを防いだ。

 強風の余波に煽られながら、ホウセがうめく。

 

「ごめん、よく分かんないことに巻き込んじゃって……!」

「お前が悪いわけじゃねぇだろ!」

 

 ホウセの鎧の左腕部分は、彼女が普段身に着けているマフラーのようになって、その左肩の付近から垂れ下がっていた。

 鎧に戻すことはできないようだ――少なくとも、今すぐには。

 青騎士の一人が、彼らに槍を向けながら告げる。

 

「異邦人たちよ、武装を解除して投降しろ。殺すなとは言われていないが……

 殺せとも言われていない」

「ふざけんなっ!」

 

 そう憤ったのは、ホウセだ。

 槍の石突で地面を叩きながら、叫ぶように口にする。

 

「今までは好きに出入りさせてくれたじゃん!?

 あたしの鎧パクってそんなん作って、それであたしをどうにかできると思ったから!?

 それでこんな真似してくるわけ!?」

「紋様技師たちからは、開発には苦心したと聞いているがな」

 

 恐らくはリーダーなのか、先ほどから発言を代表しているらしき青騎士の一人が言った。

 

「お前に対する抑止力が実用段階に達したために出国を阻んでいるというのは、その通りだ」

「あたしたちが勝てば、出ていいわけね……!?」

 

 両腕――左腕は生身のままだ――で真紅の槍を構え、息巻くホウセ。

 しかしそこに、横合いから声がかかった。

 

「まぁまぁ、ホウセさん。お気持ちは分かりますがね?」

 

 帽子を被り、(あごひげ)を生やした中年の男が、関の方からすたすたと歩いてくる。

 にらみ合う全身鎧たちの、戦いの余波を恐れていない。

 というより、自分が被害に合わないことを確信しているかのような足取りだ。

 ディゼムは、ホウセに尋ねた。

 

「……知り合いか?」

「おっと、申し遅れました」

 

 彼女が答えるより、男が先んじる。

 

「私、書記官長の使いでバクラヴァと申します。

 連絡を受けて、宮殿からすっ飛んで参りました」

「何の用……」

 

 その男、バクラヴァがホウセとどういった間柄なのかは、彼女の声音である程度察せられた。

 バクラヴァはそれを気にした様子もなく、自身の鬚を撫でながら続ける。

 

「それよりも、まずはそちらのご用を詳しく伺いたいかなと。

 確か、我らが書記官長にお会いしたいということでしたよね?」

「……俺はディゼム・タティ。

 目的はまぁ、そうなんスけど……」

 

 ディゼムが名乗りつつ言葉に迷っていると、書記官長の使者は肩を竦めて言った。

 

「書記官長は、会っても良い、とのことです。

 ひとまず、会って交渉なさってみては?

 あなた方を外に出したくないというのは、書記官長の意向ですので」

 

 兜の中で、ディゼムは声を小さく相棒に尋ねる。

 

「……どうする、プルイナ。

 俺は……まぁここで奴さんらを殺すようなことになるよか穏便だとは思うんだが……」

『本機はそれで問題ありません。あなたの判断を尊重します』

「……ホウセはどうだ?」

 

 尋ねると、彼女は不機嫌そうに答えた。

 

「あたしは、このままだと負けたみたいでイヤ」

『どうしますか? 全力を出して、あの青騎士と名乗る人々を全員殺しますか?』

「そこまでしたいわけじゃないけどさ!」

 

 ホウセも、理屈では分かっていることだろう。

 殺意を否定する彼女を、プルイナは説得し続けた。

 

『悪魔相手のように、殺して蹴散らすのも難しくはないでしょう。

 ですが、そうでないならここは一度、忍耐すべき局面に思えます。

 あなたの気持ちも尊重したいところですが』

「…………」

 

 彼女が真紅の槍の穂先を下ろさずにいると、その時。

 

「変異、解除」「解除」「解除」

 

 青騎士たちが呪文を唱え、自らを守っていた青い全身鎧を解除したのだ。

 姿を現した男たちは、しかしそれでも、深く鮮やかな青色をした衣服を全身にまとっていたが。

 ディゼムが粘着繊維まみれにした二人については、鎧の着装は解除されているものの、繊維が服にへばりついたままで動けないようだ。

 

(……ホウセみてぇにマフラーにしなくてもいいのか)

 

 ディゼムは一瞬、そんなことに気を取られていたが、これはつまり、彼らが先に矛を収めたということだろう。

 さすがにホウセも、生身の人間相手に真紅の槍を振り回したりはするまい。

 

「ぐぬぬ……」

 

 数秒ほど唸っていたが、彼女も着装を解除する。

 それを見て、ディゼムもプルイナに呼びかけた。

 

「俺らも離れた方がいいか」

『そうですね』

 

 黒い鎧がディゼムから分離して、その背後で人型に再構成される。

 

「…………」

 

 そこで彼は周囲からの視線に気づき、その意図を察した。

 

「あ、この鎧は布みたいにはできないんで……すんません」

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