魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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5.5.暗殺の赤

 そしてディゼムとホウセは、バクラヴァに案内されて宮殿へと向かうこととなった。

 ホウセが宮殿までの道のりを知っているとのことだが、バクラヴァは彼女にのらくらと説いた。

 

「まぁまぁ、ホウセさん。私の立場ってものも(おもんぱか)っていただいて。

 書記官長も仕事がありますから、飛んで行ったって待たされるだけですよ」

「そりゃそうだけど……」

 

 機嫌の悪そうに歩くホウセを伴い、ディゼムはバクラヴァの案内に従った。

 着装は解除しているので、黒い鎧が単独で彼の後ろを歩いている状態だ。

 彼らが進んでいるのは、民家や商店の連なる、鉤の手状に曲がりくねった道路だった。

 ある程度進めば右に屈折し、更に進めば左に屈折する。

 道に舗装はなく、穏やかな風に応じて土埃がわずかに舞った。

 インヘリトでも未舗装路は少なくないが、王都を中心に石材を用いた舗装が広がっている。

 また外燃機関を用いた自動車が実用化されているため、こうした屈折を繰り返す主要道はない。

 道を行く住民たちは、ディゼムたちに興味は引かれつつも、できるだけ目を向けないよう気を付けている――そんな印象だった。

 そんな景色を見ていた彼の耳に、プルイナの音声が届く。

 

『ディゼム、ホウセ。この音声はあなたたちにだけ届くよう加工しているので、聞こえないふりをしながら聞いてください。

 間違っても返事をしないように』

「…………!」

 

 おう、と言いそうになるのを我慢して、ディゼムは続きを聞いた。

 

『見て分かるかも知れませんが、トラルタの生活水準はインヘリトに比べて高いとは言えません。

 アウソニアより多少豊かかどうか、と言ったところでしょう。

 先ほどの戦闘のどさくさに紛れて射出しておいたドローンに、この世界全体を偵察させていますが……

 この島も海に囲まれた孤島のようです。

 面積はインヘリト王国のおよそ1/300、人口は推定で10万人前後。

 インヘリトよりも限界に近い恐れがあります。

 つまり、社会が崩壊する危険がある。

 自然環境に特段の脅威はないようなので、危惧すべきはまず、内乱でしょうか。

 あの青い鎧は、そうした事態に備えたものとも考えられますね。

 書記官長と呼ばれる人物との交渉は本機が受け持つつもりですが、そのことは頭に入れておいてください。

 重ねて言いますが、返事はしないように』

「…………」

 

 街並みを見れば、ディゼムにも彼女の説明は理解できた。

 道に舗装がないのは、技術や資源、あるいは労働力が足りないためだろう。

 道行く人々も、マフほどではないが、幾ばくかの活気を欠く印象だった。

 また、先ほどから彼らは鉤の手状に角ばって蛇行した街路を歩いているが、これは地上兵力が少しでも攻め込みにくくなることを企図した都市設計であると思われた。

 敵とは悪魔のことだろうが、プルイナの指摘する通り、内乱を起こした人間が相手でも、ある程度の効果は見込めよう。

 

(書記官長っていう婆さんは、そんな、内乱が起きるような政治をやってるってのか……?)

 

 先日はインヘリトでもクーデター未遂があったが、これは外世界に出ることを良しとしない王弟と海軍が中心となって起こした示威行動に近いものだった。

 一方で、トラルタは実際にそうした動きを国内に察知し、実力で抑止するつもりなのだと思える。

 

(国を安定させるなら、必要な行為ってのもあるんだろうけどな……)

 

 終わってみれば茶番に近かったクーデターを鎮圧した――鎧の力で、だ――ディゼムとしては、そうした状況を知るにあたって、少々心苦しい所があった。

 インヘリトがトラルタと国交を結んで支援ができれば、それが良いのだろうか。

 

(ホウセの話じゃ、ネッキーとかっていう先住民を追いやってるって話だったな。

 まぁ、俺なんぞが口を挟むことじゃねぇのかも知れねぇけど)

 

 問題は、書記官長を始めとした高位者たちの態度がどうであるか、だ。

 これも、実際に会ってみなければ分からないこともあるだろう。

 そう思いつつ行く手を見上げると、煉瓦造りらしき大きな建物が近づいてきた。

 遠方から見た際にはそれより大きな建築はなかったので、恐らくは、あれが宮殿か。

 それは、どこか威圧的に見えた。

 

***

 

 宮殿にある応接室は、広く作られていた。

 椅子、応接机、陳列棚。陳列棚の中には、皿や細工といった装飾品が並んでいた。

 それぞれの調度は古いが、しっかりとした作りだとわかる。

 それは来客を寛がせようとしているのだとも、緊張させようとしているのだとも感じられた。

 ディゼムとホウセは椅子に腰かけながら、来るという書記官長を待っていた。

 

(書記官長エシア……うちの婆ちゃんよか怖えぇのかな)

 

 ホウセの話では、中肉中背、威厳のある白髪の老女、とのことだ。

 厳しい政治を行っている、とも聞いている。

 重税? 厳罰? あるいは密告の推奨などだろうか。

 そんな相手に対し、プルイナは交渉すると言っている。果たして、うまく行くものなのか。

 ディゼムにそうした手管や経験などが無いのは、間違いないが。

 そこに、扉が開いて誰かが入って来る。

 

「失礼しますよ、書記官長をお連れしました」

 

 まず姿を見せたのは、バクラヴァだった。

 そして、彼の後ろから、白髪を後ろで編んだ老女が歩いてくる。

 

(あの婆さんが……?)

 

 ホウセから聞いていた印象が、そのまま当てはまりそうだった。

 さほど上背があるわけでも、肉付きが良いわけでもないが、威厳を感じる立ち振る舞い。

 それなりの老齢でありつつ背筋はしっかりと伸びており、二人の青騎士を伴い、しっかりとした視線によどみない足取りで歩いてくる。

 動きやすそうではあるが、きめの細かい布地を用いた異国情緒の衣服をまとっている。恐らくは礼服なのだろう。

 その有様は、迂闊(うかつ)に触れれば指を切る刃物、という印象をディゼムに与えた。

 彼女が、エシアなのだろう。

 ディゼムはやや緊張しながら立ち上がり、そちらに向き直った。

 老女も立ち止まって彼らの方を向き、加齢を重ねた声で告げる。

 

「ようこそトラルタへ、初めまして。

 不肖、私が書記官長として当地を預かる、エシア・ルーティスだ」

「あ、初めまして、お目通りいただきありがとうございます。

 インヘリト王国の、ディゼム・タティです」

「ホウセです、ご無沙汰してました」

 

 ディゼムはぎこちなく一礼しながら応じ、ホウセも小さくお辞儀をする。

 そこに続いてプルイナが、黒い鎧から名乗った。

 

『本機はこの黒い鎧を制御している、プルイナと申します』

「……自分で動く鎧とは聞いていたが、話すとはね」

 

 エシアは頷き、着席を促した。

 

「お掛けなさい」

 

 ディゼムとホウセが着席すると、エシアはディゼムの後ろに佇む黒い鎧を見やりつつ、自身も腰かけた。

 警護らしい二人の青騎士はエシアの後ろ、左右に立つ。

 一方バクラヴァは飄々とした様子で、

 

「では、ごゆるりと。いま係の者がお茶をお持ちしますので」

 

 と、応接広間から去っていく。

 そして、エシアが両手を組んで言った。

 

「まずは、良い贈り物に感謝する。親書も確認した」

『いかがでしょうか?』

 

 プルイナが尋ねると、エシアは答えて言った。

 

「その理念に共鳴する。

 悪魔を追い払って地上を取り戻す……素晴らしい考えだ」

『お返事は半年後までに頂きたい、とのことです。

 それまで我々は、ここから退去したいと考えております』

 

 だが、書記官長は即答する。

 

「それはできない。

 バクラヴァや青騎士から聞いているかもしれないが、悪魔に出入り口の秘密が露見する恐れがある」

「あたしは出入りさせてくれたじゃん!」

 

 机に身を乗り出す、ホウセ。

 エシアは眉一つ動かさず、告げた。

 

「お前さんの武力が我々に対して卓越していたために、止むを得ず見逃していたにすぎん。

 青騎士の配備が進んだ今、お前さんたちを返すわけには行かない」

 

 ホウセは口を尖らせて、

 

「あたしたちが力づくで帰るって言ったら?」

「その時は我が国の全力で、それを阻むまでだ。

 青騎士たちも、お前さんのことは知らん仲ではないから手心を加えたようだが……

 もはやお前さんの鎧を頂戴する必要もない。

 私が命ずれば、今度は彼らも手加減なしでお前さんがたを葬るぞ」

『戦闘をご希望ですか、書記官長閣下』

 

 再び、プルイナが黒い鎧から声を発する。

 エシアは答えて、

 

「可能な限りは避けたいとも。だが、不可避と判じたら迷いはしない」

『書記官長閣下。本機もインヘリトも同様に、それは望むところではありません。

 しかしかといって、貴国に頤使(いし)されるつもりもない。

 インヘリトとトラルタは対等であるべきです。

 そして、対等に接すれば利益があるということを示しましょう』

「何だね、利益とは」

『ここまでの道すがらに見てきましたが、貴国の情勢には苦況が垣間見えます。

 そこで我々は貴国に、自ら増え、土から食料を作り出す装置を提供します。実演指導も付けて』

「……それで、私がお前さんたちの出国を許すと?」

『百聞は一見に如かず。実物を見てからでも遅くはありません』

「…………」

 

 その提案にエシアが答えるその前に、ドドド、と窓の外から大きな爆音が数度、連続して響いた。

 

「曲者!」

「!?」

 

 窓の外から聞こえてきたその声に、エシアの背後にいた青騎士の一人が跳ねるように反応、窓際へと駆ける。

 するとその窓の周辺が、轟音と共に炸裂した。

 爆ぜる壁、吹き飛ばされる青騎士、そしてその爆発に紛れて、赤い影が走った。

 赤い影は、エシアの側に控えつつ身構えていたもう一人の青騎士を吹き飛ばし、書記官長の背後から手刀を突き振り下ろした。

 その一撃は、しかし、黒い鎧の緊急着装を果たしていたディゼムによって阻止される。

 

「――ッ!!」

 

 彼は赤い影――いや、赤い全身鎧を着こんだ何者かの手首を掴み取り、書記官長の頭蓋が叩き割られるのを防いでいた。

 エシアは、多少驚いたようではあるが、身じろぎせずに座ったままだ。

 動けなかった、というわけではないように思えた。

 座席の背後から彼女を襲う赤い全身鎧と、正面からそれを防ぐ黒い全身鎧に挟まれて、迂闊には動けまいが。

 ディゼムは、赤い侵入者――無論、ホウセではない――に問う。

 

「誰だてめぇ……何しにきやがった!」

 

 赤い全身鎧から、くぐもった声が聞こえた。

 男の声だ。

 

「……そちらこそ、なぜ邪魔をする」

「さすがに、座ったまんまの婆さんの頭を後ろから叩き割るような真似は、見過ごせねぇからな」

 

 手首を掴んだままディゼムが答えると、彼は更に続けた。

 

「彼女が生きている限り、トラルタに良い未来はない。

 政治的にそれを解決していく余裕もない。

 ホウセから聞いていないのか?」

「もしかして、レブル……!?」

 

 応接椅子から立ち上がっていたホウセが、相手の名らしきを呼ぶ。

 赤い全身鎧の男は、手に込めていた力を抜いて、ディゼムに呼びかけた。

 

「書記官長ではなく我々に手を貸してくれないか、異邦人。礼はする」

「こんな真似しながらそう言われて、ホイホイ受けると思ってんのか!」

 

 ディゼムが拒否すると、赤い全身鎧の右腕が膨張し、凄まじい上向きの力が黒い鎧に加わった。

 

「うっ!?」

 

 下手に対抗して至近距離にいるエシアを巻き込んではまずいと判断し、ディゼムは相手の手首から手を離した。

 すると赤い全身鎧は飛び退いて、

 

「穿てッ!」

「ダメっ!!」

 

 座ったままのエシアに対して背後から放たれた魔力弾を、今度は真紅の鎧を身に纏ったホウセが防いだ。

 しかし、

 

「惑え!」

 

 赤い全身鎧を中心に、霧のような気体が爆発的に立ち込める。

 

『視覚を切り替えます』

 

 そう言って、プルイナがディゼムの視界を、赤外線メインに変更した。

 するとディゼムの目に、自分が破壊して作った侵入口へと戻っていく、赤い全身鎧――赤外線映像なので、見た目には赤くなかったが――が映った。

 

「逃がすかッ!」「待ってよ!」

 

 黒い鎧と共にディゼムが飛び出すと、ホウセもその後を追う。

 侵入者を追って宮殿を出て、市街地へと出る。

 三階建て以上の建物がほとんどないので見晴らしが良く、赤い全身鎧が屋根伝いに跳躍して街路に飛び込むのも見えた。

 そして、その行く手には。

 

(あれは……!?)

 

 行き止まりの路地裏。

 赤い全身鎧の跳躍力を以てすれば、行く手を塞ぐ民家の屋根を飛び越えるのは容易いはずだ。

 が。

 赤い全身鎧がその壁に立てかけてある材木を払いのけると、そこには垂直の壁に魔術紋様が描かれていた。

 プルイナが、相棒にアドバイスする。

 

『民家を破壊せず、紋様を損傷させるオプション!』

「キル・マーカー!」

 

 黒い鎧の掌に設けられた多目的射出孔から、ペイント弾が発射された。

 魔術塗料を仕込んだもので、相手の準備した魔術紋様に余計な部分を描き足し、機能不全にする目的だ。

 しかし、

 

「吹け!」

 

 赤い全身鎧は呪文で突風を起こし、これを防いだ。

 民家を破壊し得ない威力で放たれたペイント弾は、あっさりと吹き散らされてしまう。

 そしてディゼムが追いつく前に、赤い全身鎧は懐から取り出したブラシで、魔術紋様に最後の一角を書き加える。

 

(間に合わねぇ――!?)

 

 と、思った――その時のことだ。

 

『接近警報!』

「は!?」

「でりゃぁあああああいッ!!」

「っ!?」

 

 一瞬、認識が混乱する。

 追いついてきたホウセが、ディゼムに対して背後から体当たりをかけたのだ。

 猛烈な速度で、赤い全身鎧と魔術紋様に向かって転倒する、ディゼムとホウセ。

 その向こうの民家を貫通する速度が出ていたが、しかし幸い、魔術紋様の発動が間に合った。

 そしてディゼムはホウセ、そして赤い全身鎧と共に、何処かへと転移してしまっていた。

 吹き飛んできた時の運動エネルギーを、保存したまま。

 つまり、魔術紋様によって空間を転移した途端、彼らは再び騒がしく、転移先でもごろごろと転倒することとなるのだった。

 

「ぐぉお……」「んぎぇえ……」

 

 それぞれの鎧のおかげで痛みこそないものの、岩壁に激突して、二人は思わずうめく。

 そこは、洞窟――いや、坑道か何かだと思われた。

 荒く削られた石の壁には照明の魔術紋様が描かれて、周囲を照らしている。

 全く別の場所へと転移してしまったらしい。

 ディゼムは黒い鎧を着装したまま立ち上がり、ホウセに手を貸して立ち上がらせた。

 そして、額を抑えて俯いている――二人を巻き込んで転移したのはさすがに予想外らしい――赤い全身鎧に、声を掛ける。

 

「……レブル、っつったな?」

「…………そうだ」

「お前の話も、一応は聞いてやる。

 トラルタの事情ってのに、興味が無いわけじゃねぇからな」

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