魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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5.8.凍魔の覚醒

 トラルタ南部の鉱山では、魔術塗料に使える鉱石が採掘できた。

 150年前に人間がやってくるよりも前から、ネッキーたちが細々と露頭から塗料の原料を採取していたのだ。

 だが人間たちがやってきて数年もすると、そこは採掘のために山ごと削り取る大規模な採石場と化した。

 採掘こそ魔術が用いられていたが、コストの問題で鉱石の運搬・選別や精製加工は人力であり、多くのトラルタ人たちが、労役を課されてそこで働いていた。

 だが、トラルタ時間の午後三時半、採石現場で発見があった。

 魔術で崩れた岩盤の向こうから、巨大な卵らしき楕円球状の物体が発見されたのだ。

 魔術でも傷一つつかなかったそれを、人々は何とか掘り出し、取り出した。

 しかし、運搬中にその楕円球状の物体は白く輝き始め、同時に周囲の気温が急激に低下し始めた。

 前史や経緯はともかく、プルイナの放ったドローンが観測していたのは、そのような状況だった。

 黒い鎧で現地に先行したディゼムとプルイナは、そこで見た。

 衣服をまとった人間の女に近い形態の何かが、周囲へと強烈な冷気を放っているのを。

 その低温によって大気中の水分が凝結して浮遊し、太陽光を反射してキラキラと輝いていた。

 

「ん……?」

 

 ディゼムはそこで気づいて、黒い鎧に尋ねる。

 

「プルイナ、あの太陽は何だ? よく考えたら、ここは隔離されているはずの異空間の中だろ」

『不明です。しかし外の世界と同様の挙動をしているため、暫定的に、あれを基準に方位を示していました。

 ですが今はそれよりも、あの動体です。冷気はあそこから放射されているようです』

 

 プルイナが投影像を拡大すると、ディゼムにもそれが見えた。

 

「……何か、魔王に似てる気がするな。

 悪魔なのか? 色は違うが……」

 

 金色に輝く女神といった様子だった魔王に対し、あちらは白銀に煌めいているが、印象は似通っているように思われた。

 それに接近しつつ、プルイナが説明を続ける。

 

『最初にドローンが観測した物体は大きな卵型をしていましたが、それを破壊して、内部から現れたのがあの、魔王に似た何者かです』

「……まさかあの金ぴか女みてぇに、襲い掛かってくんのかな」

『実際に、魔王と近い存在なのかも知れません。

 本機はあれを、(とう)()と命名します。

 周囲で動けなくなっている要救助者を助けたいところですが、数が多すぎて搬送している間に死者が出る恐れがあります。

 彼らの救助は後続の青騎士たちに任せて、我々は凍魔をここから、人気のない場所まで移動させましょう』

「それがいいか……!」

 

 黒い鎧は煌めき漂うダイヤモンドダストをスラスターで吹き散らしながら、凍魔に更に高速で接近した。

 

「そこから立ち退きやがれッ!!」

 

 そして両掌を向け、

 

「バインド・シルク・イントゥメスッ!」

 

 黒い鎧の掌の多目的射出孔から膨れ上がった粘着繊維の塊が、凍魔を包み込む。

 粘着繊維は通気性に優れる――つまり冷気を遮断しにくいが、ここまで塊になればそれなりの断熱性を持つようになる。

 

「どうだ、布団の中も悪くねぇだろ!」

 

 ディゼムはそこから垂直に二十メートルほども跳躍し、スラスターを噴かせた。

 長く伸びた粘着繊維で黒い鎧と繋がった凍魔は、その勢いで空中へと吊り上げられる。

 極大の冷気を封じて、更に人々から遠ざけたことになる。

 

『このまま海に投棄しましょう』

「よっしゃ!」

 

 黒い鎧は粘着繊維で包んだ凍魔を空中で吊り下げたまま、水平飛行を始めた。

 鉱山からさらに南下すれば、そこは海だ。

 が。

 

「キィァァァァァ――――ッ!!!」

 

 悲鳴のような声が聞こえたかと思うと、粘着繊維越しにも冷気が広がってきた。

 

『警報、凍魔による吸熱量が推定で10メガジュール毎秒を超えています。

 凍魔を包む繊維が、凍結して砕けます!』

「げ、じゃあ包み直して――」

 

 だが、凍魔の動きの方が早かった。

 粘着繊維の繭の中から、白銀の突出物が高速で突き出し、黒い鎧に絡みついた。

 

「ッ!?」

 

 そして凍魔を包んでいた粘着繊維は砕ける。

 解放された()()はディゼムを冷たい目で見つめながら、二人を繋ぐ自分の髪を、爆発的に短縮した。

 

『防御!』

 

 髪を引き寄せて急速に接近してきた凍魔は、両腕で防御する黒い鎧に、しがみつくように密着する。

 

「く!?」

 

 引きはがそうと試みるディゼムに、プルイナが警告する。

 

『警報! 本機の防寒機能を上回る速度で熱が奪われています!』

「いったん離れるぞ!」

 

 ディゼムは凍魔をパワーアシスト全開で蹴り飛ばし、推力を切って低木の密生する小高い丘に着地した。

 黒い鎧の外装は強力無比であり、断熱性も極めて高い。

 にもかかわらず、そこを通じて忍び寄ってきた冷気を肌に感じ、ディゼムは字句通り寒気を覚えた。

 

(鎧の中でこれなら、本体はどんだけ冷てぇんだ……!?)

 

 一方で凍魔は岸に近い所に着地しており、やはり冷たい目で彼らを見つめている。

 余りに強烈な冷気に、その周辺の岸辺に打ち寄せる海水が、急速に凍り始めていた。

 海風も、早くもダイヤモンドダストを生じて煌めいている。

 ディゼムは警戒しつつ、プルイナに問う。

 

「ていうか、そもそも何なんだアイツ。

 鉱山から出てきた卵から生まれた? ってのは分かったが、やっぱ悪魔なのか」

『詳細を分析するには、体組織のサンプルが欲しい所です』

「……取らせてくれって頼むか?」

『遠慮しておきます。対象は有害です。

 まずは対象による熱エネルギーの吸収――冷気の放射を停止することが先決でしょう』

「どうやってだ。繊維は凍らされちまう。

 火事が不安だが、燃やしてみるか?」

『対象に移動の兆候、警戒してください』

「っ!!」

 

 凍魔は、脚で地面を蹴って突進してきた。

 そして再び髪を伸ばし、ディゼムと黒い鎧を絡め取ろうとする。

 

「させるかッ!!」

 

 黒い鎧が前方に掲げた掌から、爆発性の液体が投射された。

 高速で殺到する凍魔の髪に触れたそれは、彼女のもたらす恐るべき低温にも負けず、衝撃に反応して爆発する。

 ドド、と広がる爆轟。飛散する土砂と、低木の破片。

 ディゼムはその反動を利用して後退し、脚部スラスターを作動させて素早く反転、爆圧で放射状に広がった凍魔の髪を引っ掴んだ。

 そして、振り回す。

 

「うぉらッ!!」

 

 打ち寄せる海水に侵食されて尖った岩石に向って凍魔を旋回させ、叩きつける。

 

「キァァァァァッ!!」

 

 凍魔も負けじと叫びつつ、髪を絡みつけてくるが、ディゼムは今度は凍魔を、海に向かって叩き付けた。

 海水や泥が激しく噴き上がり、凍魔自身の発するその低温によって、付着した海水が凍結して彼女を包み込み始める――筈だった。

 が、一向にその様子はない。

 

『体表温度、推定マイナス200℃――本来なら即座に氷漬けになってもおかしくないのですが』

 

 プルイナも、困惑しているようだった。

 その髪からも恐るべき低温が伝わってきていたが、しかし、その前に決着をつける。

 そのつもりで、ディゼムは叫んだ。

 

「ならこのままッ、ブチ砕くッ!」

「キァァァァァッ!!!」

 

 すると凍魔は、急に重量を増した。

 

「うぉっ!?」

 

 振り回しと叩き付けにブレーキがかかり、ディゼムは一瞬動揺した。

 

『対象の質量が急増――』

「う――!?」

 

 同時、強力な放電現象が黒い鎧を貫く。

 凍魔の放った、電撃の魔術だ。

 鎧の絶縁が勝ったために内部のディゼムは無事だったが、ガガ、と激しい爆音が鎧越しに耳を打っていた。

 それも一発ではなく、無数に。

 放電によって生じた激しい閃光が、日の傾き始めた海岸を照らす。

 

「プルイナ、大丈夫か!」

『行動に――支障――あり――』

 

 音声が不明瞭だ。

 内部のディゼムにも、普段はほとんど感じることの無い鎧の重さがのしかかってきていた。

 パワーアシストにも支障が出ているのだ。

 魔術の雷。

 黒い鎧の駆動機能に不具合が生じるほどの威力が、今もなお彼らを襲っている。

 そして、同時に襲い来る極度の低温。

 

『このまま――では――危険――』

「プルイナ!」

 

 ディゼムは後退しようとするが、パワーアシストの減退した状態では思うように手足が動かない。

 スラスターも反応が弱く、凍魔の絡めてきた髪を引きはがせなかった。

 更なるマイナスの熱が黒い鎧を苛み、それによって低下した電気抵抗が、魔術による電撃の威力をいや増していた。

 

(こいつは……やべぇ!?)

 

 彼が死の危険を感じた、その時のことだ。

 浮遊感と共に、黒い鎧が不意に、弾けた。

 

「ッ――!?」

 

 すると兜から足先まで、黒い鎧の装甲の全てがディゼムから分離し、凍魔へと殺到していくではないか。

 彼を庇うように、凍魔から発せられる電撃の魔術を引き受けながら。

 そして――黒い鎧は、今度は凍魔を包み込んだ。

 

「――――!?!?!?」

 

 ディゼムはそれを見て、混乱した。

 頭部からつま先までを黒い鎧に覆われ、凍魔が動きを鈍らせている。

 兜からはみ出した長い銀色の髪も、今はばさばさとのたうつばかりだ。

 彼の首元の通信機から、プルイナの声が聞こえた。

 

『ディゼム、聞こえますか?』

「あ、あぁ! 聞こえる!」

 

 彼女は相棒であるディゼムに、言い聞かせるように続ける。

 

『今は――他に手が――ありませ――

 本機は――あなたから――一時離れ――強制着装によてっ――凍魔の動きと――熱吸収とを阻害――』

「えっ……俺はどうすりゃ……!?」

 

 付近に残留する凄まじい寒気に凍えつつ戸惑うディゼムに、彼女は優しく語りかける。

 

『あなたに――後を託します――

 ホウセと――トラルタの人々と――力と知恵とを――重ねて――

 あなたなら――きっといい――方法が――』

 

 プルイナがそこまで言うと、黒い鎧は一気に凍結し、深い霜に覆われてしまった。

 

「プルイナ……おい、プルイナッ!!?」

 

 ディゼムは信じがたい気持ちで呼びかけるが、もはや返答はない。

 凍魔を包み込んだ黒い鎧と、更にそれを包む霜は、大気中の水分や潮風を吸い込んで見る間に大きくなっていく。

 山の向こうに日が落ちて、海岸が暗闇に包まれようとしていた。

 刺すような冷気が、服の上から肌を苛む。

 

「嘘だろ……!?」

 

 ディゼムの言葉はただ、白い湯気となって広がるばかりだった。

 

***

 

 ディゼムはプルイナの奪還を断念し、その場から離脱しようと試みた。

 凍えながら海岸線を辿って北上していたところを飛来したホウセに発見され、彼は救助された。

 聞くところによれば、六人の青騎士たちは途中で撤退したらしい。

 恐らくは、ディゼムとレブルの戦闘で宮殿の通信室が破壊されたためだろう。

 そこで彼女はプルイナから南東の海岸で戦闘中との連絡を受けてそこに向かい、ディゼムを発見したのだった。

 彼は空を飛ぶホウセに空中から真紅の帯で吊るされつつ、経緯を話した。

 書記官長エシアとその息子のレブルとの間に、休戦が成立する見込みがあること。

 鉱山から出現した凍魔のこと。

 プルイナが凍魔を封印し、ディゼムに後を託したこと。

 それらを聞いたホウセは、深まりつつある夕闇に呟いた。

 

「……そっか。それでプルイナ、返事がなかったんだ……」

 

 ディゼムは悔しさに肩まで浸かりながら、口にする。

 

「俺がもうちっと、魔術師として何かできてりゃ……

 あいつが犠牲にならずに済んだかも知れねぇ」

「どうかな。明らかに怠けてたってわけじゃないなら、それが最善だったんだと思うよ」

 

 ホウセの言い方は彼を元気づけようとしているのだと思えて、ディゼムは陳謝した。

 

「……悪かったな」

「え、何が」

「今朝は母親のことで、俺、お前に……ほら、八つ当たりしちまっただろ」

「……謝るなとまでは言わないけどさ」

 

 ホウセは少し間を置いて、彼に訊ねた。

 

「何かそれって、プルイナが氷漬けになったことに罪悪感感じてて、それを解消しようとついでに謝ってる感じになってない?」

 

 意識していなかったが、それは図星を付いているように思われて、ディゼムは更に項垂れた。

 

「…………悪りぃ……そうかも知れねぇ……」

「もう、暗いなぁ……」

 

 じれったそうにうめきつつ、ホウセは声を強めて言う。

 

「プルイナに言われたんでしょ、あとは頼むって。

 だったら、少しでも元気を出してかないと。

 とりあえず、宮殿に行ってみよう?

 エシアさんとレブルが休戦できそうなら、トラルタの外に出てアケウたちを呼ぶことだってできるだろうし」

「あぁ……そうだな。悪りぃが、頼む」

「少しスピード上げるよ?」

「うぉ……」

 

 顔面に当たる風が強まって、ディゼムは思わずうめいた。

 だが、少しだけ、楽になった気がした。

 いや、励まされた分、働かなくてはなるまい。

 相棒たる彼にこそ、犠牲を買って出たプルイナを救い出す義務がある。

 ディゼムはホウセに見えないように拳を握り、決意を固めた。

 

***

 

 宮殿に着いたディゼムが最初にやったのは、エシアとの談判だった。

 元の世界に戻り、通信によってアケウとエクレルを呼ぶためだ。

 ヘルディンから合言葉を聞いた今なら、一人でも外に出ることが出来る。

 事情を話すと、エシアは難色を示しつつ、言った。

 

「食糧問題を解決するという機械は、白い鎧にも付いているのか?」

「そこはもちろん。着いたら真っ先に進呈しますんで」

「……ならば、いいだろう。関所に伝えるから、向かいたいなら向かえ。

 通行証は即席になるが、許せよ」

「恩に着ます」

「私も一応、着いて行きます。

 ちょっと心配なので……」

 

 ヘルディンが同行を申し出て、護衛のウシュタも着いてくることとなった。

 彼はそうして許可と同行者を得て、夜闇の中を蝋燭の明かりで進んだ。

 関所では疑念を抱いた青騎士たちに取り囲まれる一幕もあったが、エシアがしたためた通行証と、ヘルディンの口添えもあって通ることが出来た。

 そしていよいよ合言葉を唱え、元の世界へと出る――そのはずだったが。

 

「セディオ・セディアク!」

 

 “まんまる岩”の側で聞いた通りを唱えるものの、何も起こらない。

 

「え……」

 

 ヘルディンの表情を見ると、それは本来あり得ないことのようだった。

 

「私がやってみます……セディオ・セディアク!

 ……どうして……!?」

 

 同様に合言葉を唱えるも、彼女もまた、何も起きないことに驚愕していた。

 

「セディオ・セディアク!」

 

 ウシュタも試すが、

 

「……おっかしいなぁ。合言葉が使えなくなることなんてあるのか?

 しばらく使ってなかったせいか?

 セディオ・セディアク!」

 

 やはり言葉は虚空に響くばかりで、何も起こる様子がない。

 ディゼムも何度か同じように合言葉を唱えてみたが、同じだった。

 よく知っているはずのネッキーまでもが合言葉を間違えているとは、考えにくい。

 

「何故か分からんが、だったらホウセの槍が直るのを待つしかねぇか……」

 

 ヘルディンたちと共に落胆しながら宮殿に戻ると、またも悪い知らせが待っていた。

 宮殿付属の工房にいたホウセが、視線を合わせづらそうにして言う。

 

「槍を直すのは、すぐには無理。今原図に戻して修復してるんだけど……」

「何がまずいんだ? 塗料なら書記官長さんが分けてくれてるんだろ」

「今日関所で青騎士たちと戦った時に、呪文を受けたでしょ。

 あれで、原図の紋様自体が変形しちゃっててさ……

 変形箇所を削り落として修正しないといけない箇所があるんだけど、これがちょっとどころじゃなくて。

 トラルタの紋様技師たちにも手伝ってもらってるけど、休まずやっても丸一日ってところかな……

 あと当然だけど、修理中だから真紅の鎧は使えない」

 

 それを聞いて、ディゼムは小さく、天を仰いだ。

 

「マジかよ……いや、寝たり食ったりはしろよ、ちゃんと。

 俺も手伝うから」

「うん」

 

 黒い鎧だけでなく、真紅の鎧も使用不能。

 凍魔を何とかしなければならない時に、これは痛手だった。

 

***

 

 その後、ディゼムはホウセやヘルディンたちと共に呼び出され、会議に出席した。

 時刻は深夜だが、急を要する事態だ。

 

「これより、インヘリト王国使節団を招いての臨時会議を開催する。

 進行は私、エシア・ルーティスが行う」

 

 簡単に開会を宣言したエシアが、状況を説明した。

 

「早速だが、議題は黒い鎧の命名したという、凍魔とやらについてだ。

 偵察した青騎士たちの報告では、あれを中心に、凍結している領域が目に見えて広がり続けているという。

 南東の海岸を中心に放射状に寒風が広がって、住民の訴えも増えている。

 率直に言って、ゆゆしき事態かと思う」

「ディゼム。俺もお前を追って南東の海岸に行って、遠目にだがあれを見た。

 あれは一体、何だと思う」

 

 彼女の隣に着席したレブルが、訊ねる。

 ディゼムは少し迷いつつ、答えた。

 

「俺やプルイナの見立てで良ければ、いま地上を支配してる――魔王っていう悪魔の親玉に似通った所があった。

 魔王ってのは金ぴかで、死ぬほど強い悪魔だ。

 俺はそいつと何度か戦ったけど……あの凍魔は魔王と、何か関係があるのかもな。姉妹とか」

「悪魔の親玉の、姉妹……ですか?」

 

 それを聞いたヘルディンが、怪訝そうな顔をする。

 

「私はネッキーたちに親しんでいますが、このトラルタに悪魔がいるという話は聞いたことがありません。

 我々人間も、それを知っていたから、150年前にここに移り住んだわけですし。

 長老のキシュタなら、何か知っているかも知れませんが……」

「長老さんはどうしてる?」

 

 ディゼムが問うと、彼女は答えて、

 

「私が出てきた時には、まだ意識はありませんでした。

 戻って確認しないと」

 

 それを聞いて、祖母のエシアが孫娘に諭すように告げる。

 

「この際、ネッキーの意見も聞きたいところだが……あの空飛ぶ船で戻るにせよ、夜が明けてからにしなさい。

 青騎士たちの報告では動いていないようだが、あれがどこかに移動しないとも言い切れない」

 

 レブルが、それを聞いて思い至ったように口にした。

 

「そう言えば、あれが伝説通りの悪魔なら、人間を石に変えて食べるということだな。

 だが、鉱山では犠牲者は出ていないようだ。運が良かったということか?」

 

 それは論理的な思考だと思えて、ディゼムは戸惑いつつ答える。

 

「それも分からねぇ……言われてみりゃあその通りだ。

 皮膚の欠片の一つも剥いで、プルイナが分析してくれりゃあ、何か分かったのかも知れねぇけど……

 今はいねぇ。俺たちだけで、あの凍魔をどうにかしねぇと」

「既に学者たちに記録を調べさせているが……あまり期待はするな」

 

 そう告げるエシアが、彼女なりに事態を打開するために考えていることが分かる。

 ディゼムも考えて――彼なりの方法を思い浮かべた。

 そして、告げる。

 

「……書記官長さん、俺の考えた凍魔を倒す段取り、この場で話したいんスけど」

 

 老女は小さく眉根を寄せつつ、言った。

 

「……言ってみなさい」

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